2020.12.10
令和1(行ケ)10117 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年12月3日 知的財産高等裁判所
異議申立において取り消し審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は補正が新規事項であるとの判断が間違いというものです。\n
1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
本件決定が,本件訂正は新規事項の追加に当たるとする理由は,本件明細書
等においては,駐車装置の利用者(以下「確認者」という。)が乗降室内の安
全等を確認する位置(訂正後請求項1の「安全確認実施位置」)及びその近傍
に位置する安全確認終了入力手段は,原則として乗降室内にあるものとされ,
例外的に,確認者がカメラとモニタを介して安全確認を行う場合にのみ,乗降
室外とすることができるものとされているにもかかわらず,訂正後請求項1に
おいては,確認者が直接の目視によって安全確認を行う場合にも,安全確認実
施位置と安全確認終了入力手段を乗降室外とする(以下,これを「乗降室外目
視構成」という。)ことができることとなり,この点において,本件明細書等\nには記載のない事項を導入することになるというものであり,本訴における被
告の主張もこれと同旨である。
ところで,訂正後請求項1の構成Bは,「前記車両の運転席側の領域の安全\nを人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の
反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置
され,人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と,」と定めるの
みであって,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段の位置を乗降室の内と
するか外とするかについては何ら定めていないから,乗降室外目視構成も含み\n得ることは明らかである。
そこで,本件明細書等の記載を検討してみると,たしかに,確認者が目視で
安全確認を行う場合に関する実施例1,2,4においては,安全確認終了入力
手段は乗降室内に設けるものとされ,確認者がカメラとモニタによって安全確
認を行う実施例3においてのみ,安全確認終了入力手段を乗降室の内,外に複
数設けてもよいと記載されている(【0090】)のであって,乗降室外目視
構成を前提とした実施例の記載はない。しかしながら,これらはあくまでも実\n施例の記載であるから,一般的にいえば,発明の構成を実施例記載の構\成に限
定するものとはいえないし,本件明細書等全体を見ても,発明の構成を,実施\n例1〜4記載の構成に限定する旨を定めたと解し得るような記載は存在しない。\n他方,発明の目的・意義という観点から検討すると,安全確認実施位置や安
全確認終了入力手段は,乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば,安全確
認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり,その位
置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は,このような解釈は,
本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという
趣旨の主張をするが,この解釈は,本件明細書等全体を考慮することによって
導き得るものである。)。
この点につき,被告は,乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認するこ
とは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから,本件明\n細書等において,乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をす\nる。しかしながら,乗降室に壁のない駐車装置や,壁が透明のパネル等によっ
て構成されている駐車装置等であれば,乗降室の外からでも自由に安全確認が\nできるはずであるし(その1つの例が,別紙2の駐車装置である。なお,被告
は,本発明は,「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であるこ
とや,本件明細書等の図1の記載から,乗降室の外から乗降室内を目視するこ
とはできないと主張するが,「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって\n構成されていなければならない理由はないし,上記図1は,実施例1の構\成を
示したものにすぎず,駐車装置の構成が図1の構\成に限定されるものではな
い。),仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構\成されている場合
でも,出入口付近の適切な位置に立てば(したがって,そのような位置やその
近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば),乗降室
外からであっても,目視により乗降室内の安全確認が可能であることは,甲1\n9の報告書が示すとおりであり,いずれにせよ被告の主張は失当である。また,
仮に被告の主張が,訂正後請求項1は,安全確認実施位置や安全確認終了入力
手段が,目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものである\nという意味において,本件明細書等に記載のない事項を導入するものであると
いうものであるとしても,「安全確認実施位置」とは,安全確認の実施が可能\nな位置を指すのであって,およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むもの\nではないと解されるから,やはり,その主張は失当である。
◆判決本文
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2020.11.21
令和1(行ケ)10165 特許権 行政訴訟 令和2年11月5日 知的財産高等裁判所
補正が新規事項か否か争われました。知財高裁(3部)は、新規事項であるとした審決を取り消しました。クレームに追加した「透光性を有する」との記載について、明細書に明示的な記載がありませんでしたが、裁判所は自明事項である認めました。
2 本件補正の適否について
(1) 前記第2の2のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲については,本件
出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と記載
されていたものが,本件補正後には「通気性及び通水性が確保され且つ透光
性を有する不織布又は織布からなるカバー体」へと記載が変更されたもので
あり,本件カバー体につき,「通水性」及び「透光性」を有する旨の記載が追
加されたものといえる。
そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性
を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事
項に対応する明示的な記載は存しない。
そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書
等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出るこ
とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分
野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき
事情は存しない。
そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光
を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,上記1のとおり,本件カバー体は織布又は不織布から構成されると\nころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識につい
て検討する。
証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時
点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生\n地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して
生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料
を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られ
ていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シート
の遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用
する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮
光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくく
する方法が採られたりしていたことが認められる。
このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性
能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した\nりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織
布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要
があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特
別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということ\nもまた,技術常識であったとみるのが相当である。
そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能\をいう
(「JISハンドブック 31 繊維」(乙8))から,遮光性能を有しないと\nいうことは,入射する光を遮らずに透過させること,すなわち上記(2)の意味
における「透光性」を有することを意味することとなる。
以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与す\nるための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を
有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する
技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件
当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。
上記(3)によれば,本件出願時における当業者は,織布又は不織布について
遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は\n不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。
そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構\n成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能\を付与するた
めの特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件
カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー
体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構\成する材料がそのまま露出し,
通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0
036】)が存するところである。
このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバ
ー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,\n特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は\n採られていないと理解するのが通常であるというべきである。
そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性
を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透
光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項
であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ
とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入す
るものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたも
のといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。
◆判決本文
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2020.03.24
令和1(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月17日 知的財産高等裁判所
審決は、補正が新規事項であるとして、補正却下をしました。裁判所は、かかる処分については否定したものの、補正却下後の発明が独立特許要件を満たしていないので、結論は妥当として審決が維持されました。また、補正も新規事項と判断されています。判決分がコピペできないので、OCR変換しましたので、誤記があります。
本件審決は,本件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】が新たな技術
的事項を導入するものであることを理由に,本件補正は,本件当初明細書に記載さi
れた事項の範囲内においてするものとはいえないと判断した。
しかし,本件補正は,特許請求の範囲についてのみするものであり(乙18),本
件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】 に係る補正は,本件第1 補正に
おいてなされたものであって,本件補正においてされたものではない。本件補正が
新規事項を追加するものであるか否かは,本件当初明細書の配載に基づいてなされ
るべきものであり,本件審決が,新たな技術的事項を導入するものであることを理
由に本件補正を却下したことには,誤りがあるというべきである。
もっとも,本件補正発明1が,特許出願の際独立して特許を受けることができる
ものでない場合には,本件補正は部められないので,以下,独立特許要件について
検討する。
・・・
引用例1には,先端部32は,支持構造体42内に埋め込まれ,支持構造体42
は,超伝導単層金属タイプカーボンナノチュープ、44に対する排熱装置及び超高真
空密閉体としても働き,超伝導単層金属タイプカーボンナノチューブ44は,電場
放出引出し電極として及び微小超高真空室としても機能することの開示があり(【0054】図2).放出先端部は,微小超高真空室にまって固まれていることが示唆
されている。
かかる記載によれば,引用発明1において,放出先端部の近傍に熱を加えられる
部位を具備しないようにすることは,当業者が容易に想到できることである。
よって,相違点2は,引用発明1から容易に想到することができるものである。
エ原告の主張について
原告は,引用発明1は,先端のだんだん半径の小さくなる先端の大きさとS/N
比値とを問題としており,略閉じサイズである移動部が続く構成である本件補正発\n明1とは異なる旨主張する。
しかし,本件補正後の請求項1は,略同じサイズで粒子移動部が続く旨を特定し
ていないため,粒子移動部が略同じサイズで続かない構成を含むものである。\nまた,本件補正発明1の粒子移動部に相当する引用発明1の放出先端部32は,
rO. 3ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲の,比較的小さい直径を有
する」とともにチューブ形状である(乙21 【0053】)から,放出先端部は,そ
のいかなる断面もナノサイズであると解される。
よって,原告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件補正発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができ
たものではない。
よって,本件審決が本件補正を却下したことは,結論において相当である。
・・・
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に「ナノオーダの構造物」と\nしか記載のなかった本願発明の素子について,極めて高純度で無欠陥の超周期を含
む結晶性の良い金属材質の三次元系のワイヤ形状であることを特定した上,ナノワ
イヤ形状の断面上での金属電子の量子状態を決定するに当たっては,一定の前提を
置いた運動方程式,角運動量保存則, B0nrの量子論を用いること等の説明を加
えている。
その上で,電気伝導を持つ使用ナノワイヤ内の熱による誤差が少ない伝導電子が
擬一次元的パリステック(弾道的)運動するためには,式(20) を満たし,ナノワ
イヤの直径がおよそ30nni以下の太さとなることが条件であり,また,ナノオー
ダの構造物を絶縁体で被覆すれば,その断面空間内にある粒子流の許されるエネル\nギー状態は量子力学で決まる最低エネルギー準位近くでは断面中心部での存在確率
が大きく断面の周囲での構成原子・分子による乱れの影響が少ないとして,ナノオ\nーダの構造物の断面積の大きさを特定したり,絶縁体で被覆するなどの技術的事項\nを追加している。
そうすると,本件第1補正に係る事項は,本件当初明細書には記載がなく,本件
当初明細書の記載から自明でもないことは明らかである。
よってa 本件第1補正は,本件当初明細書等のすべての記載を総合することによ
り導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであっ
て,新規事項に該当するというべきである。
(5) 原告の主張について
原告は,本件第1補正について,既知である科学的なことを書き加えたものであ
る,新しいことを追加したが,それは説明を加えたものである,ナノワイヤと書い
てなかったが,より広い意味のナノオーダの構造物について記載しており,ただ例\n示しただけである,例えば,材質については,電流を流すときに金属材料であると
いうことを記載したにすぎないなどと主張する。
しかし,公知のものや本願発明についての説明であっても,出願時の明細書に記
載されているに等しいといえるものでなければ新規事項であるところ,ナノオーダ
の構造物の具体的な物質,形状,寸法等がそのようなものとはいえないことは,前\n記のとおりである。よって,原告の主張は理由がない。
(6) 小括
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に記載された事項の範囲内にお
いてするものとはいえない。
◆判決本文
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2020.02. 6
平成31(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月29日 知的財産高等裁判所
マネースクエアHDの特許権について、訂正を認めないとの審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。被告は外為オンラインです。
(2) 訂正事項1−1ないし1−3の特許法126条5項の要件の適合性の判
断の誤りについて
原告は,本件審決が,本件訂正のうち,本件訂正前の請求項1の記載を本
件訂正後の請求項1に訂正する訂正事項1−1(請求項1の記載を引用する
請求項2,請求項2の記載を引用する請求項3ないし5,及び請求項1ない
し5の記載を引用する請求項7も同様に訂正),本件訂正前の請求項2の記
載を本件訂正後の請求項2に訂正する訂正事項1−2(請求項2の記載を引
用する請求項3ないし5,及び請求項2ないし5の記載を引用する請求項7
も同様に訂正)及び本件訂正前の請求項6の記載を本件訂正後の請求項6に
訂正する訂正事項1−3は,本件訂正前の「売買取引開始時に,成行注文を
行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との事項
について,当該事項が「前記注文情報生成手段」によるものであり,「該成
行注文を決済するための指値注文」だけでなく,「前記成行注文を決済する
ための逆指値注文」についても有効とするとの事項を追加したものであるが,
当該訂正事項については,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の
範囲内においてしたものとはいえず,新規事項を追加するものであるから,
本件訂正は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定
に適合しないと判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断
する。
・・・
以上によれば,本件明細書には,「本発明」の「一の実施形態」とし
て,「注文情報生成手段」である「注文情報生成部16」が,「第一の
注文情報群」の生成をする際に,「第一の注文情報群」に含まれる「第
一注文」及び「第二注文」についてそれぞれ有効及び無効の設定を行い,
「約定情報生成手段」である「約定情報生成部14」が「第一の注文情
報群」に含まれる「第一注文51a」に基づく「成行注文」の約定処理
を行った時点で,その「成行注文」を決済するための「第二注文」(指
値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理を
行うことの開示があることが認められる。
そうすると,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文情報生
成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一の注
文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項の
開示があるものと認められる。
また,「本発明」の上記実施形態においては,「注文情報生成手段」
(「注文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」に含まれる「第
一注文51a」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値注
文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,「約
定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)によって行われ,「注文
情報生成手段」(「注文情報生成部16」)が行うものではないが,本
件明細書には,「上記実施形態は本発明の例示であり,本発明が上記実
施の形態に限定されることを意味するものではないことは,いうまでも
ない。」(【0076】)との記載があることに照らすと,「本発明」
は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値
注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,
「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに
限定されないことを理解できる。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1)には,・・・
上記記載によれば,訂正事項1−1により,本件訂正前の「売買取引開
始時に,成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文
を有効とし」との事項について,「該成行注文を決済するための指値注文」
だけでなく,「前記成行注文を決済するための逆指値注文」についても有
効とするとの事項を追加したものであり,本件訂正発明1においては,「注
文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該
成行注文を決済するための指値注文および前記成行注文を決済するための
逆指値注文を有効とし」とする処理を行うことを理解できる。
しかるところ,前記ア認定のとおり,(1)本件訂正前の請求項1には,「注
文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該
成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との処理を行うことの記
載があり,本件明細書の【0009】には,本件訂正前の請求項1と同内
容の記載があること,(2)本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文
情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一
の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項
の開示があること,(3)本件明細書に記載された「本発明」の「一の実施形
態」では,「第一の注文情報群」に含まれる「第一注文51a」の「成行
注文」を決済するための「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を
「無効」から「有効」に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定
情報生成部14」)によって行われ,「注文情報生成手段」(「注文情報
生成部16」)が行うものではないが,本件明細書の【0076】の記載
に照らすと,「本発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するため
の「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」
に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が
行う形態のものに限定されないことを理解できることからすると,本件訂
正後の請求項1の「前記注文情報生成手段」は「売買取引開始時に,成行
注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文および前記成
行注文を決済するための逆指値注文を有効とし」との構成は,本件出願の\n願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面すべての記載事項を総合
することにより導かれる技術的事項の関係において,新たな技術的事項を
導入するものではないものと認められるから,訂正事項1−1は,本件出
願の願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてしたもの
であって,新規事項の追加に当たらないものと認められる。
したがって,訂正事項1−1は特許法126条5項の要件に適合するも
のと認められる。同様に,訂正事項1−2及び1−3は同項の要件に適合
するものと認められる。
ウ これに対し,被告は,・・・
訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新たな技術的事項を導入する
ものであるから,新規事項の追加に当たる旨主張する。
しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件訂正前の請求項1の記載
から,本件発明1においては,「注文情報生成手段」が主体となって「売
買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するため
の指値注文を有効とし」との処理を行うことを理解できるものであり,ま
た,本件訂正前の請求項1に「注文情報生成手段」が上記処理を行うこと
の記載があるかどうかの問題とその記載があることを前提とした場合にサ
ポート要件に違反することになるかどうかの問題とは,別異の問題である
から,上記(1)の点は採用することができない。
また,前記イ認定のとおり,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注
文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第
一の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事
項の開示があること及び本件明細書の【0076】の記載に照らすと,「本
発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指
値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,
「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに限
定されないことを理解できるから,上記(2)の点は採用することができない。
したがって,訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付
した明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新規事項の追
加に当たるとの被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上のとおり,訂正事項1−1ないし1−3は特許法126条5項の要件
に適合するものと認められるから,訂正事項1−1ないし1−3が同項に適
合しないことを理由に本件訂正は認められないとした本件審決の判断は誤り
である。かかる判断の誤りは,無効理由の存否の審理の対象となる発明の要
旨の認定の誤りに帰することになるから,審決の結論に影響を及ぼすもので
ある。
◆判決本文
本件の対象特許とは、下記の侵害事件の対象特許です。
◆平成29(ネ)10027
◆平成27(ワ)4461
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