2023.11.28
令和4(行ケ)10112 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年10月30日 知的財産高等裁判所
争点となった無効理由の1つが新規事項か否かです。知財高裁は審決と同じく、新規事項ではないと判断しました。
特許法17条の2第3項は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に
添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなけ
ればならない旨規定するところ、ここでいう「最初に添付した明細書、特許請求の
範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又
は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものとい
うべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初にお
ける発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保し\nようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事
項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正
は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するもの
に当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563
号同20年5月30日特別部判決参照)。
・・・
上記(3)のとおり、本件補正前の「前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前
記管理サーバへ送信する」こと(以下「監視して送信」という。)は、本件補正後の
「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を出力」す
ること(以下「情報を出力」という。)に対応し、両者はともに当初明細書等に記載
された事項である。
ここで、監視のためには監視対象の情報を取得する必要があり、情報を出力する
ためには出力したい情報に関するデータの入力が必要なことは自明のことであるか
ら、上記「監視して送信」及び「情報を出力」のいずれの処理においても、その前
提として、ランドリー装置の動作に関係する何らかの信号を検知すること自体は当
然に行われることであり、当初明細書等において自明の前提であるといえる。そし
て、この自明の前提は、検知する信号の種類(電流値、コイン信号等)や監視の具
体的な方法(計測値に基づく判断か、推測か等)を問わないものであり、本件補正
の前後で何ら変わることのないものであるといえる。
そうすると、本件補正前の請求項1の記載は、上記自明の前提を「前記有料自動
機の動作を検知するセンサーとを含み、」及び「前記センサーの検知信号に基づいて」
との事項によって更に特定したものであり、補正事項1において当該事項を削除す
ることで、センサーの検知信号以外の情報に基づくものが含まれることになったと
しても、上記自明の前提に照らせば、当初明細書等に記載された事項であって、新
たな技術的事項を導入するものとはいえない。またこの点は、上記自明の前提の具
体的な態様が「電流センサー」から他の手段に変わったとしても、「監視して送信」
や「情報を出力」する処理が行われる限り、本件発明1の課題(各設置場所を巡回
することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制\n御システムを提供する(甲2の【0005】))は解決され、効果に顕著な差が生じ
ることがないことからも裏付けられる。
したがって、補正事項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと
いえる。
そして、本件補正の内容に照らすと、上記検討した補正事項1及び2のほかにお
いても、当初明細書等に記載した範囲を超えるものはないと認められる。
(5) 原告主張について
原告は、1)当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載\nされており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構\成
は単なる例示ではない、2)本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制
御部10内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とは
いえない、3)補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報
から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。
上記1)の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自\n明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」
又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという
課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得な
いということはなく、「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が
入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例\n示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることに\nはならない。
上記2)の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部10内にある
回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例
示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したもの
ではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右する
ものではない。
◆判決本文
関連事件です(当事者が同じ)。
◆令和5(行ケ)10040
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。
当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前
記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の
強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ
ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに
ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の
ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興
味を増大させることにある。
そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、
攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが
本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第
2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー
ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細
書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態
としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ
て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合
計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、
「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的
意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付
加的な事項にすぎないと認められる。
そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃
力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技
術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内
においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反
するものではないというべきである。
したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正
により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第
2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に
は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の
主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ
ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ
ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間
に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御
力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ
ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。
対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ
ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが
想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力
等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、
攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解
することは十分に可能\である。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的
に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告
の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照
らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ
ラメータが想定されるものと認められる。
しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定
するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ
の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として
選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明
の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ
うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され
る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない
としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな
技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを
有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2
次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。
しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する
ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の
合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第
3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ
とができない。
◆判決本文
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2023.03.24
令和4(行ケ)10030 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月9日 知的財産高等裁判所
異議申立の決定が取り消されました。審判部は、審判は補正は新規事項追加であると判断しました。知財高裁は、新規事項ではないと判断し、これを取り消しました。\n
訂正事項2は、請求項1を引用する請求項4を新たな独立項である請求
項15とし、かつ、「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く。)」との
事項を追加するものである。
訂正前の請求項1においては、「積層体」について、「少なくとも2層を
有する積層体」と特定しているのにすぎないのであるから、ここにいう積
層体には、「第1の層」、「第2の層」及びその他の任意の層からなる積層
体が含まれることになるところ、「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に
設けられたガスバリア性塗布膜」も層を形成するものである以上、この任
意の層に該当するといえる。したがって、訂正前の請求項1における積層
体は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸
着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」からなる積層体(以下「積層体
A」という。)を含んでいたものである。
そうすると、訂正事項2は、「積層体A」を含む訂正前の請求項1におけ
る積層体から積層体Aを除くものといえ、このように積層体を特定したこ
とにより、訂正前の請求項4に係る発明の技術的発明が狭まることになる
のであるから、訂正事項2が特許法120条の5第2項ただし書1号に規
定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、「積層体」から、
「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」
内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当す\nる「積層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにそ
の上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となってい
るから、「積層体」の範囲自体を減縮していない旨主張する。しかし、本件
発明は、「第1の層」及び「第2の層」で完結した積層体を特定事項とする
ものではなく、特許を受けようとする発明を、「第1の層」及び「第2の層」
を有する全ての積層体とするいわゆるオープンクレームに該当するもので
あるから、権利範囲に含まれる具体的層構成を特定するに当たり、積層体\nの内外を形式的に区別しても意味がない(「第1の層」及び「第2の層」の
外部の層も全て、本件発明における積層体の構成要素となる。)。そして、\n前記アのとおり、訂正事項2における「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜
が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」
の具体的な内容は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着
膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」を備えた積層体であ
るから、結局、積層体Aと区別できないものである。したがって、訂正事項
2は訂正前の積層体から積層体Aを除く訂正であり、「積層体」の範囲を減
縮していることになる。
また、被告は、本件訂正事項2のような「除くクレーム」とする訂正は、
第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利\n益を及ぼす蓋然性が高いものというべきである旨主張する。しかし、被告
主張のような懸念が仮にあったとしても、それは、訂正後の請求項につき、
明確性要件やサポート要件等の適合性を巡って検討されるべき問題という
べきであるから、いずれにしても、本件事案において、この点をもって直ち
に訂正を認めない理由とすることは相当でない。
ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的と
するものに当たらないとした本件取消決定の判断には誤りがある。
また、訂正事項3ないし9が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに
当たらないとした本件取消決定の判断にも誤りがある。
(2) 新規事項の追加の有無について
ア 仮に、本件において、異議手続で審理・判断されていない新規事項の追加
の有無について審理・判断することができるとしても、訂正事項2は、新規
事項を追加するものとは認められない。
すなわち、訂正が、当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合
することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項
を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した
事項の範囲内において」するものと解すべきところ、訂正事項2によって
「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリ
ア性塗布膜が設けられてなるもの」を除外することにより、新たな技術的
事項が導入されるわけではなく、新規事項が追加されるものではない。
本件発明の課題は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニ
ュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を
提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された
積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積
層体を提供すること(【0008】)であるが、上記除外によってこの技術
的課題に何らかの影響が及ぶものではない。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、本件発明の課題
に、引用文献の課題解決手段である「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が
設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を追加することで新たな
技術的事項を追加し、その追加した事項を前提に、それを除くとするので
あるから、新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。
しかし、訂正事項2による除外がされて残った技術的事項には、本件訂
正前と比較して何ら新しい技術的要素はないから、被告の主張は採用でき
ない。
◆判決本文
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2023.02.17
令和4(行ケ)10028 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月23日 知的財産高等裁判所
分割出願について、親出願に開示があったが争われました。知財高裁は多少の用語の変更(帯状→「長尺状」)は新たな技術的事項を追加するものでないと判断しました。
本件においては、本件特許出願の明細書及び図面の記載が、親出願、子出
願、孫出願の当初の明細書及び図面の記載、並びに子出願及び孫出願の分割
時の明細書及び図面の記載に対して新たな技術的事項を追加したものではな
いということについて、当事者間に争いはない(本件審決第6の1(2)〔本件
審決25頁〕)。そこで、本件特許出願により請求項1に追加された「着脱可
能に」、「透光カバー」という事項、請求項2に追加された「弾性部材」とい\nう事項、請求項1に追加された「長尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」及
び「長尺状の底板部」における「長尺状」という事項につき、親出願の当初
明細書等に対して新たな技術的事項を追加するものであるか否かについて判
断する。
(3) 本件特許の請求項1に記載の「着脱可能に」との事項について\n
ア 新規事項の追加の有無
(ア) まず、親出願の当初明細書等に開示されていた課題について検討する
と、親出願の当初明細書等には、【発明が解決しようとする課題】に、「室
内がスマートであるとの印象を与えうるLED照明装置を提供する」
(段落【0010】)という課題が記載されており、また、【背景技術】
に関しては、「LED照明装置Xからの光は輝度むらを生じやす」く、「こ
の輝度むらが顕著であると」、「個々のLEDチップ92が視認できてし
まう場合があ」り、「見る者が見栄えがよくないと感じてしまう」(段落
【0004】)という課題が示され、第9実施形態に関して、「光のムラ
を抑える」(段落【0151】〜【0155】)という課題が開示されて
いる。
しかし、親出願の当初明細書等には、多数の実施形態(第1ないし第
24実施形態)が開示されており、そこで開示されている課題は、上記
の課題に限られるものではない。すなわち、親出願の当初明細書等には、
第1実施形態に関する「このようにLEDユニット2を容易に取り付け
ることができる。」(段落【0044】)、「このように、LED照明装置A
1は、マウント1からLEDユニット2を容易に取り外すことができ
る。」(段落【0046】)という記載、第7実施形態に関する「このよう
に、LED照明装置A7は、ウイング部120からLEDユニット2を
容易に取り外すことができる。」(段落【0131】)という記載、第11
実施形態に関する「したがって、LED照明装置A11では、適切な時
期にLEDユニット2を交換可能となっており、常時見栄えのよい照明\nを提供することができる。」(段落【0177】)という記載、第12実施
形態に関する「このため、LED照明装置A12では、LEDユニット
2の交換を容易にかつ速やかに行うことが可能となっている。」(段落\n【0186】)という記載、第23実施形態に関する「また、解除レバー
161を用いれば、比較的接近して並列に配置された2つのLEDユニ
ット21を個別に容易に取り外すことができる。」(段落【0261】)と
いう記載があり、これらの記載に鑑みれば、親出願の当初明細書等には、
「LEDユニットを交換可能とする」ことが発明の課題として記載され\nていると認められる。
(イ) 前記(ア)のとおり、親出願の当初明細書等には、「LEDユニットを交
換可能とする」という課題が記載されており、この課題は、LEDユニ\nットが「着脱可能に」取り付けられていれば解決可能\なものであって、
着脱可能とする構\成について、特定の構成を採用しなければならないと\nする特別の要請があるとは認められず、具体的な構成まで特定しなけれ\nば解決できないということはなく、当業者であれば、技術常識に照らし、
着脱可能とする適宜の方法を選択して解決することができるものと認め\nられる。
そして、親出願の当初明細書等の段落【0025】、【0026】、【0
044】及び【0046】並びに図2、図10及び図11等には、LE
Dユニット2をマウント1の凹部10aにホルダ11の可撓部11bの
弾性変形を用いて取り付け、取り外すことが記載されており、段落【0
250】及び【0251】並びに図103、図104及び図106には、
LEDユニット2をマウント1の凹部に、ワイヤホルダ161を介して
取り付け、取り外す構成が記載されている。そうすると、親出願の当初\n明細書等は、ホルダ11の可撓部11bの弾性変形を用いて取り付け、
取り外す構成と、LEDユニット2をマウント1の凹部10aにワイヤ\nホルダ161を介して取り付け、取り外す構成という複数の態様を開示\nしているということができ、これらの複数の取り付け、取り外す構成を\n包含する発明特定事項について、「着脱可能に」と特定することは、親出\n願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技
術的事項であるといえ、親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲
内であるものといえるから、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。
・・・・
親出願の当初明細書等の段落【0030】には基板31が帯状である
ことが記載され、段落【0034】にはカバー4が帯状であることが記
載されている。帯状とは、「ある幅をもって長くのびているさま。」(広辞
苑第6版、甲10)、「帯のようなほそながい形・状態。」(大辞林第4版)
を意味するから、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそ
ながい形であることが記載されていると認められる。
他方、「長尺」とは、「長さがあること。長いこと。」(大辞林第4版)
を意味するから、「長尺状」とは、長さがある状態であること、長い状
態であることを意味するものと認められる。しかるところ、上記のとお
り、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそながい形であ
ること(帯状)が記載されているから、基板及びカバーは、また、長さ
がある状態であり、長い状態である(長尺状)ともいうことができる。
そのため、親出願の当初明細書等には、長尺状の基板、長尺状の透光カ
バー(前記(4)のとおり、「透光カバー」は、親出願の当初明細書等に記
載された技術的事項の範囲内にあるものと認められる。)が記載されて
いたものと認められる。したがって、本件特許の請求項1に記載の「長
尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」における「長尺状」との事項は、
親出願の当初明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内にあるもの
と認められ、新規事項を追加するものとは認められない。
◆判決本文
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