2013.09.13
平成24(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月10日 知的財産高等裁判所
新規事項であるとした審決が取り消されました。
(3) 【0030】の記載事項
本件発明6の構成である「非防爆エリア」について,前記のとおり,当初明細書の【0030】に,「また,舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」と記載されている。ここに記載された利点は,文理上,舵取機室の副次的な効果として述べられている。しかし,当該記載に接した当業者は,この効果は舵取機室に限定されるものではなく,舵取機室とは別次元の「非防爆エリア」の一般的な効果として理解するというべきである。その理由は,以下のとおりである。まず,「非防爆エリア」の意味およびその具体的な場所が当業者の技術常識であることは,上述したとおりである。「非防爆エリア」は,「電気機器の構\造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域」を意味するから,「非防爆エリア」であれば,そこに配置される電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮する必要がないことは当然で,その結果として,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」があることも明白である。すなわち,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」は,「非防爆エリア」の裏返しであって,「非防爆エリア」が備える当然の効果を述べているものである。そうすると,当初明細書の趣旨が全体として舵取機室に主眼を置かれており,【0030】の記載が操舵機室の効果を文理上述べているとしても,【0030】の記載に接した当業者は,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」が舵取機室特有の効果であると理解することはなく,舵取機室には限定されない,より広義の「非防爆エリア」に着目した効果であると即座に理解するものと認めることができる。そして,かかる理解の下,「非防爆エリア」についても,舵取機室とはほとんど無関係な単独の構\成として理解するというというべきである。よって,【0030】の記載から,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設する構成によって,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむ」という効果を奏する,ひとまとまりの技術的思想を読み取ることができ,本件発明6の「非防爆エリア」は,【0030】において実質的に記載されているというべきである。「非防爆エリア」の構\成について特許法17条の2第3項の要件を満たさないとすることはできない。
(4) 【0025】との関係
当初明細書の趣旨は,全体として,バラスト水処理装置を舵取機室に配設することに主眼を置いており,特に,【0025】には,舵取機室の優位性が機関室(「非防爆エリア」の一つ)との対比において述べられている。当初明細書で全体として述べられている,バラスト水処理装置を舵取機室に配設するという技術的思想は,【0023】に記載されているように,舵取機室固有の特性,すなわち,操舵機室は,プロペラ及び舵の直上に位置しており,振動の問題があるため,通常機器類の設置に適さない場所(空間)として残されていることに着目したものである。これに対して,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は,【0030】に記載されているように,「非防爆エリア」が「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」を有することに着目したものである。したがって,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は,バラスト水処理装置を舵取機室に配設する技術的思想と着目点の次元が異なっている。バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は当初明細書の【0030】によってサポートされている以上,当初明細書において,舵取機室に関する特有の技術的思想が開示されているとしても,そして,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設することに関連する記載が【0030】においてだけであるとしても,「非防爆エリア」に関する本件発明6が特許法17条の2第3項の規定を満たすことについての判断を左右するものではない。また,バラスト水処理装置を舵取機室に配設することと,これを「非防爆エリア」に配設することとは,次元を異にする技術的思想であるから,前者の優位性を後者との関係で述べた【0025】の記載が存在するとしても,後者を無視することはできない。そして,両者が別次元の技術的思想である以上,「非防爆エリア」が舵取機室以外の場所(機関室を含む)を包含するとしても,そのことをもって,新たな技術事項を導入したものとすることはできない。
◆判決本文
◆関連事件です。平成24(行ケ)10424
関連カテゴリー
>> 補正・訂正
>> 新規事項
>> 新たな技術的事項の導入
▲ go to TOP
2013.08.13
平成24(行ケ)10307 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月08日 知的財産高等裁判所
審決は、第1のアンテナからの無線信号を第1の無線周波数復調器で復調するステップが「最初に」実行される際に,必ず「ダイバーシチ」が「オフ」状態になっていて「第2のプロセッサ422」(第2の無線周波数復調器)が無効化された状態になっているということは,新規事項であると判断しました。これに対して、裁判所は、新規事項ではないと判断しました。最終的には進歩性なしとして拒絶審決が維持されました。
2 取消事由1(新規事項の追加禁止の要件に係る判断の誤り)について
前記1のとおり,補正発明は,ダイバーシチ処理がなくても十分な性能\が与えられるような場合においても常にダイバーシチ処理を行うことは,電力消費の観点から移動局の動作時間が短縮するという課題があったので,必要な場合にのみダイバーシチ処理を行うようにしたものである。そうすると,移動局の動作を開始させた当初,ダイバーシチ処理の必要性が不明な状態において,ダイバーシチ処理を行わせるように,第2の無線周波数復調器を有効化するとは考え難い。また,段落【0032】には,「最初のステップ510において,無線周波数信号が第1のアンテナ410で受信される。2番目のステップ512において,この無線周波数信号は処理のため第1のRFプロセッサ420へ入力される。…ステップ520でベースバンドプロセッサ430がダイバーシチをオンすべきか否かを判定する。」との記載があり,また,【図5】のフローチャートにおいても,動作開始当初の地点を示す上方の矢印の始点が,ステップ510の「第1のアンテナでRF信号を受信」するところから始まっているところ,これらのことに,段落【0040】において「ダイバーシチが不要な場合,第2のRFプロセッサ422は使用されない。」,段落【0019】に「ダイバーシチを用いることによる性能向上がダイバーシチを用いることによる電力消費を上回る場合を判断でき,後者の状況においてのみダイバーシチ処理へ切り替える」と明記されていることを考慮すると,動作開始時において,ダイバーシチがオンであることを前提として第1のアンテナでの受信及び第1のRFプロセッサへの入力と第2のアンテナでの受信及び第2のRFプロセッサへの入力とが,同時並行的あるいは順次行われるとは解しがたく,動作開始当初はダイバーシチがオフ(第2の無線周波数復調器が無効)とされていると理解するのが自然である。このように考えた場合,【図5】のフローチャートは,動作開始当初,ステップ512で受信したRF信号を第1のRFプロセッサ(第1の無線周波数復調器)で処理し,ステップ514においてダイバーシチはオンではないこととなるから,そのままステップ517に進んで,第1のRFプロセッサ(第1の無線周波数復調器)からの処理信号を復調することとなり,ステップ520において初めて,ダイバーシチが必要か否かを判定し,必要でなければ,当初の流れを継続(すなわち,【図5】の左側欄のサイクル〈ステップ510,512,514,517,520,521〉を継続)し,ステップ520においてダイバーシチが必要であると判定された場合にのみ,第2のアンテナにおけるRF信号受信から復調・合成処理に至るステップ515,516,518に進むものと理解でき,上記に示した明細書の他の記載とも整合的である。そうすると,本件補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,新規事項が追加されたものとはいえない。本件補正を新規事項の追加に当たるとした審決の判断は誤りである。
もっとも,審決は,本件補正却下の理由として補正発明が独立特許要件(特許法29条2項)を満たしていないことも挙げているから,進んで,本件補正が平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項,126条4項に違反するか否かについて検討する。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 補正・訂正
>> 新規事項
>> 新たな技術的事項の導入
▲ go to TOP
2013.05.15
平成20(ワ)38602 特許権 民事訴訟 平成25年04月19日 東京地方裁判所
特許権侵害事件です。審査中に行った補正が特許後に要旨変更と認定され、出願日が繰り下がり、特許無効と判断されました。
旧特許法41条の規定中,「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,上記明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。そして,そのような「自明である技術的事項」には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含むと解するのが相当である。これを本件においてみるに,前記のとおり,本件発明は,「交換システム」が備える「第2の手段」において,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する」構\成(本件構成)を有するものである。そして,前記(1)のとおり,本件発明の要旨の認定に関しては,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」にいう「交換システムから送信される」,「交換システムで受信される」,「交換システムが送信する」の各文言は,交換システムの出入口における送受信の制御のみならず,交換システムの内部における送受信の制御という動作をも含んでいると解されるものの,その文言解釈上,第一義的には,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」と解釈される。これに対し,本件当初発明にはこのような記載はもともと存せず,本件構\成のうち上記解釈される部分は本件補正によって新たに追加された構成である。・・・したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書等には,本件構\成のうち,交換システムの出口から送信する時刻を制御する技術的事項については何ら記載されておらず,また,本件当初明細書の記載から自明である技術的事項であるということできない。以上によると,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められないから,本件補正は,旧特許法41条所定の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということはできず,要旨変更に該当するものというほかない。
・・・・
これを本件についてみるに,前記3のとおり,本件当初明細書等の発明の詳細な説明と,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は,その技術内容に係る記載において異なるものではなく,したがって,本件発明における構成要件F2(本件構\成)のうち,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」と解釈される部分は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載のない事項であり,入トラヒックを交換システムの出口が送信する時刻を制御する技術的事項につき,出願当時の技術常識からみても,当業者がそれを正確に理解でき,かつ過度の試行錯誤を経ることなく発明を再現することができるだけの記載があるとはいえないから,本件発明は,平成6年法律第116号附則6条でなお従前の例によるとされる特許法36条4項の実施可能要件を満たしておらず,本件発明1及び2に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 補正・訂正
>> 新規事項
>> 要旨変更
>> 104条の3
▲ go to TOP
2013.04.15
平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が、サポート要件違反ありとして取り消されました。
被告は,本件明細書には液体調味料に対するACE阻害ペプチドの配合量について,「血圧降下作用及び風味の点から液体調味料中0.5〜20%,更に1〜10%,特に2〜5%が好ましい。」との具体的な数値の記載があり(【0030】),これがACE阻害ペプチドを配合した場合に風味変化が改善されることを確認した結果に基づくものであると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記1オに記載のとおり,本件発明1ないし5及び9に利用可能なACE阻害ペプチドは,乳,穀物又は魚肉等の食品原料由来のものであり,かつ,その種類も多岐にわたるところ,これらの多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドの風味が共通し,かつ,加熱処理によって同等の風味変化を生じ,あるいは生じないという技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。しかも,ACE阻害ペプチドの配合量の数値に関する上記記載も,概括的なものであるから,仮にこれがACE阻害ペプチドを配合した場合の風味変化の改善を確認した結果に基づくものであるとしても,上記多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドのいずれについて風味がどの程度改善されたのかを明らかにするものとは到底いえない。したがって,上記配合量の数値の記載があるからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを液体調味料に混合して加熱処理した場合に,風味変化の改善という本件発明の課題を解決できると認識することはできず,サポート要件を満たすことになるものではない。\n
・・・・
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> サポート要件
>> 実施可能要件
>> 補正・訂正
>> 新規事項
▲ go to TOP
2013.04. 3
平成24(行ケ)10162 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性違反および新規事項であると無効主張しましたが、無効でないとした審決が維持されました。
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るために調査された「視聴率」及び「録画率」を番組表\に記載する旨,及び番組表に記載されるものとして,これらは「例示」であって,これら以外に「番組を視聴した平均人数など」が記載されるように構\成してもよい旨が明示されている。したがって,【0079】に記載された「平均人数など」が,視聴率及び録画率と併記されるか又は単独で記載されるかにかかわらず,「視聴率」及び「録画率」のみならず,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るための情報を記載し得ることは,当初明細書等に記載されていると認められる。そして,「どの程度行われているのか」を「多少を把握可能\な」と表現すること,及び番組表\に記載される情報を「指標」と表現することは,普通に行われているところであって,このように表\現することによって何らかの技術的な意義が追加されるものではないから,「視聴者数の多少を把握可能な」「指標」及び「録画予\約数の多少を把握可能な」「指標」という表\現が用いられたことによって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項が導入されたものでもない。したがって,補正事項1,2について,いずれも新規事項ということはできず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできないとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2,3は理由がない。
・・・・
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,番組表の提供を受けた利用者が番組表\を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという課題について,利用者側端末20から番組表の要求を受けた調査者側装置10が視聴率及び録画率が記載された番組表\を作成して利用者側端末20に送信し,この番組表を受信した利用者側端末20において視聴率及び録画率が記載された番組表\を表示することによって解決することが記載されている。以上を踏まえれば,「前記利用者装置によって表\示される番組表上の番組に対応づけられて表\示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予\約指標とを送信する指標送信手段」(補正事項7)は,当初明細書等に記載された課題に対応するものとして当初明細書等に記載された解決手段を特定する記載であって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
◆判決本文
◆関連事件はこちらです。平成24(行ケ)10163
◆関連事件はこちらです。平成24(行ケ)10155
◆関連事件はこちらです。平成24(行ケ)10154
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 補正・訂正
>> 新規事項
>> コンピュータ関連発明
▲ go to TOP
2013.04. 3
平成24(行ケ)10152 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月14日 知的財産高等裁判所
訂正を認めた審決が、新規事項であるとして、取り消されました。
本件訂正発明2は,本件発明2に,「搬送経路の上方において前記搬送経路の一方側から他方側へ伸長するアーム」に係る本件構成を付加するものである。これに対し,本件発明7は,「搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をまたいで伸長し」と規定しているところ,「またがる」とは,「一方から他方へかかる。わたる。」ことを意味する語句(甲9)であるから,本件発明7は,本件明細書の【図1】のように,搬送装置のガイドレールが設置された一方側から搬送経路上方を通り,ガイドレールが設置されていない他方側に測定ユニットを懸下するものである。そうすると,本件発明7とは異なり,「またいで」という語句が用いられていない本件訂正発明2は,本件明細書の特許請求の範囲請求項7(本件発明7)及び第1の実施の形態(【0020】〜【0049】【図1】〜【図5】)に記載されている,搬送経路の一方側近傍に搬送経路に沿ってガイドレールが設けられ,搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路をまたいで伸長し,搬送経路の他方側に測定ユニットを懸下する可動アームがガイドレールに沿って移動する構\成(別紙図面目録記載3の本件明細書【図1】参照)のみならず,搬送経路のいずれか一方側に搬送経路に直交する方向(容器ラック長手方向)に沿って設置されたガイドレールと,搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路の上方において伸長する可動アームとが設けられ,搬送経路に直交する方向(直交方向)に並ぶ複数の容器を順次測定するために,測定ユニットを搬送経路に直交する方向に移動させる構成(別紙図面目録記載7の本件参考図D参照。以下「本件参考図Dの構\成」という。)をも含むものということができる。被告も,当該構成が本件訂正発明2に含まれると主張するものである。
ウ 被告は,本件発明2に本件構成を付加する訂正に係る訂正原因について,本件明細書における特許請求の範囲請求項7並びに【0016】【0027】及び【図1】ないし【図5】であるとする。前記1(2),(3)及び(4)アによれば,本件発明2は,従来,容器を並べた容器ラックを搬送するラック搬送装置において,容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送する方式(長手方向搬送方式)の搬送経路に沿って容器に貼付されたラベルを読み取るラベル読取器が固定して配置され,容器の識別コードが読み取られていたところ,一方向にしか進められない搬送機構\を利用して容器ラックを移動させていた従来技術では後戻り搬送ができず,ラベル読取りミスが生じた際にリトライが不可能であるという課題を解決するために,容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構\と,容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットと,搬送経路上の容器ラックの長手方向に沿って,各容器ごとに測定を順次行わせつつ測定ユニットを移動させる移動機構とを備えることにより,搬送経路の所定の測定位置に位置決めされた容器ラックに保持された各容器の測定を行うようにした発明である。
本件発明2は,ラベル読取りミスが生じた際のリトライを可能とするために,搬送経路上の容器ラックの長手方向に沿って,各容器ごとに測定を順次行わせつつ測定ユニットを移動させる移動機構\を備えるものであって,搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路の上方において伸長する可動アームの構成を有するものではない。また,本件発明2の課題は,複数の容器が搬送方向に並んだ状態で容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニットが搬送経路の長手方向に沿って移動することを前提とするものであるから,測定ユニットが搬送経路に直交する方向に移動することは想定されていないというべきである。エ 前記1(4)イによれば,本件発明7は,測定ユニットを搬送経路の一方側近傍に配置し,搬送経路に沿って移動させる際,測定ユニット近傍である搬送経路の一方側に測定ユニットの移動機構を設けることが望まれるが,装置の設計上の制約等で搬送経路の一方側近傍に測定ユニットを移動させる移動機構\を固定して設けることができない場合にも測定ユニットの配置を変更することなく測定を行うことができるように,搬送経路の一方側近傍に,搬送経路に沿ってガイドレールを設け,さらに,測定ユニットを支持(保持)するとともに,測定ユニットを移動させるため,搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路をまたいで伸長し,搬送経路の他方側に測定ユニットを懸下する可動アームがガイドレールに沿って移動するようにした発明である。
また,本件発明7は,装置の設計上の制約等で,測定ユニット近傍である搬送経路の一方側近傍に測定ユニットを移動させる移動機構を固定して設ける本件発明2のような構\成が採用できないという上記課題を解決することを前提とする発明であるから,本件発明2と同様に,複数の容器が搬送方向に並んだ状態で容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニットが搬送経路に沿って移動することを前提とするものであって,測定ユニットが搬送経路に直交する方向に移動することは想定されていないというべきである。さらに,本件発明7のガイドレールは,測定ユニットを移動させるための移動機構を構\成する部材であって,搬送経路に沿って設けられるものである。したがって,本件発明7は,本件参考図Dの構成を有するものではない。オ 前記ウ及びエのとおり,測定ユニットが搬送経路に直交する方向に移動すること,そのような測定ユニットを支持(保持)して搬送経路に直交する方向に移動する可動アームを設置すること,搬送経路に直交する方向に沿ってガイドレールを設けることは,本件明細書における特許請求の範囲請求項7並びに【0016】【0027】及び【図1】ないし【図5】に開示されているものではなく,その他,本件明細書には,上記各構成に係る記載はない。したがって,本件参考図Dの構\成に係る測定ユニットの移動方向,可動アーム及びガイドレールの設置方向は,出願の当初から想定されていたものということはできず,測定ユニットが搬送経路に沿って移動することを前提とする本件発明に係る本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であるということはできない。
カ この点について,被告は,本件訂正発明2では可動アームの長さ(到達点)が非本質的なものであること及び「またいで」いない可動アームも当業者に自明であることから,本件訂正発明2において「またいで」という事項が規定されていないとしても,新規事項の追加には該当しないと主張する。しかしながら,前記のとおり,本件訂正の訂正原因とされる本件発明7における可動アームは課題解決手段として設けられた構成であり,課題を解決するためには測定ユニットを搬送経路の他方側に懸下することが必要である以上,本件訂正発明2について,可動アームの長さ(到達点)が非本質的なものということはでない。また,被告は,本件明細書には,短手方向搬送方式及び長手方向搬送方式が開示されており,第1の実施形態においては長手方向搬送方式を前提とした課題及び解決手段が具体的に記載され,当業者にとって,短手方向搬送方式においても同じ課題が生じること及び同じ解決手段を適用できることは自明であるから,短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合,可動アームを搬送経路の他方側まで伸長させなくても全ての容器について測定を行い得るから,搬送経路を「またいで」伸長する必要はないし,短手方向搬送方式では可動アームを案内するガイドレールが直交方向に沿って設けられるのは当然であると主張する。しかしながら,前記のとおり,本件発明は,複数の容器が搬送方向に並んだ状態で容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニットが搬送経路に沿って移動すること(長手方向搬送方式)を前提とするものであり,本件明細書には,短手方向搬送方式(搬送方向に直交する方向に容器が並んだ状態で搬送する方式)を示唆する旨の記載もないから,測定ユニットを支持(保持)して搬送経路に直交する方向に移動する可動アームが本件明細書に記載されているということはできない。本件明細書の【図1】は,投入搬送経路では短手方向搬送方式が用いられているが,投入搬送経路とメイン搬送経路とが接続する位置に定められた測定位置において,メイン搬送経路上に位置決めされた容器に対して測定を行うものであって,投入搬送経路の途中で測定を行う旨の記載はないから,測定自体は長手方向搬送方式を前提とするものである。そうすると,短手方向搬送方式を採用し,可動アームが搬送経路に直交する方向に移動する構\成は,本件明細書に記載されているということができない以上,可動アームを搬送経路の他方側まで伸長させる必要がないということはできないし,可動アームを案内するガイドレールが直交方向に沿って設けられるのが当然であるということもできない。
さらに,被告は,新規事項の追加に該当するか否かは,技術的思想としての本件訂正発明2が本件明細書に記載されているか否かの観点から検討されるべきであって,短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合の具体例が本件明細書において明示されているか否かは問題とはならないと主張する。しかしながら,本件明細書には短手方向搬送方式自体が記載されておらず,当該方式及び当該方式を採用した場合の課題が本件明細書の全ての記載を総合することによっても導くことができない以上,被告の当該主張はその前提自体を欠くものというほかない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 補正・訂正
>> 新規事項
▲ go to TOP