2022.12. 9
令和3(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所
新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。
一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、
3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定
ライン5に沿った溝の記載はない。
そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」)
には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ
れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\
9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特
性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ
ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6.
9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な
(目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く
ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4
1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研
磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か
らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン
ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状
であることが、技術常識であったことが認められる。
以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること
により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す
るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと
認められる。
したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許
法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本
件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、
形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も
示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ
ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない
シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら
ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で
あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する
のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域
を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン
ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関
係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で
きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加
するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと
いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも
のではない。
◆判決本文
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2022.10.24
令和4(行ケ)10008 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年9月28日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、訂正請求が新規事項であるので認められないとした審決が維持されました。
ア 本件訂正により、請求項1には、端末装置から取得された第1患者識別
情報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された
場合に、1)端末装置から取得された看護師又は医師を識別するための第1
看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致すると判定した場合
に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち前記看護師又は前記
医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装置へ出力し、2)端末か
ら取得された医師を識別するための第1医師識別情報と、第2医師識別情
報とが一致すると判定した場合に、医師専用画面を端末に出力する、発明
特定事項を含むものとなり、2)が訂正事項1−1−3に関するものである。
そして、本件明細書の【0143】ないし【0161】(実施の形態4)
には、看護師又は医師が必要とする医療情報を含む表示画面を出力する構\
成に関する記載があり、この実施の形態4に関するフローチャート(図3
7、図38)についてみると、 端末装置から取得された第1患者識別情
報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された場
合に、端末装置に患者用画面を表示し(S21)(図11、図12)、 端
末装置から取得し出力されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が
取得し(S85)、このIDが看護師IDであると判定される(S87、8
8)と、看護師用専用画面(図20ないし22)が表示され、 看護師I
Dでなく(S87の「No」)、医師IDであると判定されると(S151)、
医師専用画面(図35、図36)が表示されるフローが開示されている。\n
この記載からすると、S87は看護師IDか否かを判定するステップであ
り、S151は医師IDであるか否かを判定するステップであるといえる。
こうしたS87、S151は、端末装置から取得された看護師又は医師を
識別するための第1看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致
すると判定した場合に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち
前記看護師又は前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装\n置へ出力する(前記1))ことに対応するもの、すなわち、第2判定部及び
第2出力部に関するものであり、さらに、医師を識別するための第1医師
識別情報を端末から取得して(第3取得部)、第3判定部及び第3出力部に
関するフローが続けて行われることは、記載も示唆もない。なお、本件明
細書の【0088】ないし【0125】(実施の形態2)は、看護師IDの
判定と看護師用専用画面を出力し表示するフローが記載されており、医師\nIDであると判定した場合に看護師専用画面を出力し表示してもよいと\nの記載があるものの(【0125】)、第2判定部及び第2出力部に続けて、
医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得部)、第3判定
部及び第3出力部に関するフローが続けて行われることに関するもので
はない。その他、本件明細書には、第2判定部及び第2出力部と、第3判
定部と第3出力部の両方を備え、また、1つのシステムで構成されること\nについての記載も示唆もないし、このような事項は、当業者にとって自明
であるともいえない。
そうすると、前記2)、すなわち、訂正事項1−1−3は、本件明細書又
は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係
において新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法134条の
2第9項が準用する同法126条5項の規定に反するものであり、訂正要
件を満たさないというべきである。
・・・
イ これに対し、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件訂正後の請
求項1は、本件明細書の【0066】ないし【0090】、図37及び図
38にそのまま開示されている旨主張するが、原告が指摘する【006
6】ないし【0087】は実施の形態1、すなわち、患者用バーコード
を読み取り、一致すると患者用画面を表示すること(構\成要件A1ない
しC1)に関する事項であり、訂正事項1−1−3に関するものではな
い。そして、実施の形態4に関する本件明細書の記載事項と図37及び
図38によれば、訂正事項1−1−3が新たな技術的事項を導入するも
のであることは、前記アのとおりである。
また、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件明細書の【014
3】の記載を挙げて、本件明細書の実施の形態4は、実施の形態2を取
り込んだものであり、実施の形態2の構成及び作用に加えて、【0147】\nないし【0149】の記載からすれば、本件明細書には、第3取得部及
び第3判定部に関する構成が開示されている旨主張する。\n
しかし、【0143】は、「実施の形態4は医師が患者の医療情報を確
認するための医師専用画面30を表示部35に表\示する実施の形態に関
する。以下、特に説明する構成、作用以外の構\成および作用は実施の形
態2と同等であり、簡潔のため記載を省略する。…」とあるが、前記ア
で指摘した実施の形態4に関するフロー図(図37、図38)からする
と、ここでいう記載の省略とは、前記アの (端末装置から取得し出力
されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が取得し(S85)、こ
のIDが看護師IDであると判定される(S87、88)と、看護師用
専用画面(図20ないし22)が表示されること)に関する説明(実施\nの形態2)を省略するものであり、【0146】ないし【0149】は、
端末装置から取得し出力されたIDが医師である場合に関する説明であ
って、第2判定部で端末から取得した識別情報が医師IDであると判定
し(第2判定部)、看護師専用画面が出力(第2出力部)された後、さら
に続けて、医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得
部)、第3判定部及び第3出力部に関するフローが続けて行われる構成を\n開示するものではない。したがって、前記アの説示に反する原告の主張はいずれも理由がない。
◆判決本文
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2022.10.17
令和3(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月23日 知的財産高等裁判所
1次審決では無効理由無しと判断され、知財高裁はこれを取り消し、差し戻しました(1次審取訴訟)さしもどった2次審決では特許権者が再度、訂正をして、審決は無効理由無しと判断しました。知財高裁は審決の判断を維持しました。
争点は新規事項か否かです。
本件訂正前の請求項1の記載によれば、本件発明1の「浸水防止
部屋」は、側壁及び隔壁に接すること、仕切板により形成されるこ
と、部屋の高さ方向にわたって形成されること、機関区域の部屋に
設けられること、側壁と隔壁との連結部を覆った空間であり空間に
面する側壁が損傷した場合浸水することなどが特定されている。し
かし、「専ら」又は「主に」浸水防止を企図した空間であるべきかは
明らかでない。なお、当業者の技術常識として、「空間」とは、「空
所」や「ボイド」とは異なり、必ずしも物体が存在しない場所には
限定されないと認められ、このことは「下層空間13の船尾側に推
進用エンジン14が配置されている」(段落【0026】)などの本
件明細書等の記載とも整合する。そのため、「空間」であることから、
直ちに「専ら」あるいは「主に」浸水防止を企図していることは導
けない。また、SOLAS条約(「千九百七十四年の海上における人\n命の安全のための国際条約」、甲23)によれば、浸水率の計算にお
いて、タンクは、0又は0.95のいずれか、より厳格な条件とな
る方の値(もともと水で満たされているため浸水が0である場合と、
もとは空であるため浸水が容積の95%に及ぶ場合のうち、復原性
を悪くする方の値)を用いて計算すべきとされており、タンクであ
ってもそれに面する側壁が損傷した場合浸水する場合があることを
前提としているから、「空間に面する側壁が損傷した場合浸水するこ
と」が、必ずしもタンクを排除するものとはいえない。
次に、本件明細書等によれば、本件発明の課題及び解決手段は、
前記のとおり、浸水防止部屋を設けて、側壁における隔壁の近傍が
損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、浸水防止部屋を
設けた部屋が浸水することがないようにすることで、浸水区画が過
大となることを防止し、設計の自由度を拡大することを目的とする
ものである。そうであるとすれば、「浸水防止部屋」は、それに面す
る側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」に浸水しな
いような水密構造となっていれば、浸水区画が過大となることを防\n止するという本件発明の目的にかなうのであって、タンク等の他の
機能を兼ねることが、そのような目的を阻害すると認めるに足りる\n証拠はない。かえって、甲17(実願昭49−19748号(実開
昭50−111892号)のマイクロフィルム)には、第1図及び
「本考案は、横置隔壁2の船側部両端に、船側外板1を一面とした
高さ方向に細長い浸水阻止用の区画7を備えているから、横隔壁数
を増加しなくても、船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画
7内に、または該区画7と隣接する1つの船内区画内にとどめるこ
とができ」(4頁下から7〜1行)との記載があり、本件発明の「浸
水防止部屋」の機能に類似する「空間7」を有する船舶の発明が開\n示されているところ、同文献には、「該区画7を小槽として利用する
こともできる。」(5頁7行)とも記載されているから、浸水防止を
目的とした区画を、小槽(タンク)として利用することは、公知で
あったと認められる。また、「浸水防止部屋」が他の機能を兼ねるこ\nとを許容する方が、設計の自由度が拡大し、その意味で本件発明の
目的に資するものである。
以上によれば、本件訂正前の請求項1の「浸水防止部屋」とは、
それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」
に浸水しないような水密の構造となっている部屋を意味すると解\nするのが相当である。そして、「浸水防止部屋」は、タンク等の他の
機能を備えることが許容されるものであると認められる。\n
b 「(ただし、タンクを除く。)」という記載の追加による新たな技術的
事項の導入の有無
前記aのとおり、「浸水防止部屋」は、タンクの機能を備えることが\n許容されるから、「浸水防止部屋」には、タンクの機能を兼ねるものと、\nタンクの機能を兼ねないものがあるものと認められる。本件明細書等\nには、浸水防止部屋としてタンクの機能を兼ねるもののみが記載され\nていると解すべき理由はないから、本件明細書等には、タンクの機能\nを兼ねる「浸水防止部屋」とともに、タンクの機能を兼ねない「浸水\n防止部屋」が記載されていると認められる。そして、タンクの機能を\n兼ねる「浸水防止部屋」を備える発明と、タンクの機能を兼ねない「浸\n水防止部屋」を備える発明は、いずれも本件明細書等に記載された発
明であったから、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1の「浸
水防止部屋」がタンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋(ただし、タ\nンクを除く。)」に訂正されて、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」\nを備える発明が除かれても、新たな技術的事項を導入しないことは明
らかである。
なお、本件訂正により、本件訂正後の発明が、側壁における隔壁の
近傍が損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、複数の部屋
に跨って浸水することはなく、船損傷時における複数の部屋への浸水
を防止することができると共に、複数の部屋の大型化を抑制して設計
の自由度を拡大することができるという本件発明の効果を奏すること
なく、新たな効果を奏する発明となると解すべき理由はない。そのた
め、本件訂正によって発明の作用効果が変わることによって新たな技
術的事項が導入されたと解する余地もない。
したがって、訂正事項1による「(ただし、タンクを除く。)」という
記載の追加は、当業者によって、特許請求の範囲、明細書又は図面の
全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係におい
て、新たな技術的事項を導入しないものであると認められるから、新
規事項追加(法134条の2第9項、法126条5項)に当たらない
というべきである。
c 原告の主張に対する判断
原告は、浸水防止部屋を、タンクを除くものに限定することによっ
て、「タンクと比べて、設置スペースを低減することができ、配置の自
由度を向上できるという有利な効果を奏」し、「更に、浸水防止部屋と
いう空間を設けることによって、タンクと比べて、損傷時復原性の計
算、二次浸水、環境汚染の観点からも有利な効果を奏する」という新
たな作用効果を奏するから、「(ただし、タンクを除く。)」という記載
の追加は、新たな技術事項を導入するものであると主張する。
しかし、原告が主張する上記の効果は、タンクの機能を兼ねる「浸\n水防止部屋」と比べた場合に、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部\n屋」が有する効果を述べたものにとどまる。前記のとおり、本件明細
書等には、もともと、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」ととも\nに、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が記載されていたもの\nと認められるから、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が何ら\nかの作用効果を有するとしても、それは、もともと本件明細書等に記
載されていた発明の一部が作用効果を有しているというにすぎず、そ
のことをもって、本件明細書等との関係で新たな技術的事項が付け加
えられたと解する余地はない。
◆判決本文
関連事件です。
令和3(行ケ)10150
◆判決本文
それぞれの1次審取訴訟です。
令和1(行ケ)10080
◆判決本文
令和1(行ケ)10079
◆判決本文
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2022.08.23
令和2(ワ)33027 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月25日 東京地方裁判所
特許侵害事件において、出願経過時の補正が新規事項であるとして、権利行使不能(104条の3)と判断されました。
上記(2)によれば、本件特許の出願当初の請求項においては、本件発明の構成\nとして「有料自動機の動作を検知するセンサー」が含まれており、当該「セン
サーの検知信号に基づいて前記有料自動機の動作状態」についての監視結果を
管理サーバへ送信することが規定されていた。ところが、本件補正により、「有
料自動機の動作を検知するセンサー」が本件特許の構成から除外されるととも\nに、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」によって生成
された「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」
を管理サーバに送信するという構成に変更されたことが認められる。このよう\nに、本件補正に補正された事項は、管理サーバに送信すべき情報が、有料自動
機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づくものに限られることはなく、
当該センサーの検知信号以外の情報に基づくものであっても、これに含まれる
というものと解するのが相当である。
これに対し、上記(2)の当初明細書等の記載内容によれば、有料自動機の動作
を検知するセンサーの検知信号以外の情報に基づき、有料自動機が運転中であ
るか否かを判定したり、当該結果を推測したりする方法については、何ら開示
されていないことが認められる。そして、当初明細書等の記載に接した当業者
において、出願時の技術常識に照らし、上記補正された事項が当初明細書等か
ら自明である事項であるものと認めることはできない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新
たな技術的事項を導入するものであると認めるのが相当であり、「願書に最初
に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」におい
てするものということはできない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に違反するものと認めら
れる。
これに対し、原告らは、本件特許の審査段階において、本件補正が新たな技
術的事項を導入するものと判断されておらず、本件異議申立ての審理において\nも訂正請求が認められているほか、当初明細書(【0038】)には、ICカ
ードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が接続されている前記ラン
ドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、出力するという技術内
容が記載されている旨主張する。
しかしながら、本件補正により補正された事項が当初明細書等に記載されて
おらず、これが自明である事項ということもできないことは、上記において説
示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、上記審査及び審理の経過
を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。また、原告らが指摘す
る上記当初明細書の内容は、上記(2)において認定したところによれば、電流セ
ンサーの検知信号に基づき有料自動機の動作状態を監視する構成のみを記載\nするものであり、センサーの検知信号によらずに動作状態を判定する構成を記\n載するものではないから、原告らの主張は、上記認定と異なる前提に立って主
張するものにすぎない。
◆判決本文
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>> 104条の3
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2022.02. 4
令和3(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年2月2日 知的財産高等裁判所
一部のクレームについて、新規事項であるので訂正要件を満たさないとした審決が維持されました。
以上の訂正前明細書の記載を全体的に総合して観察すると、訂正前
発明における「固定」には、摩擦力やチルト機構等を用い所定量以上の\n力を加えることによって状態の変更が可能な「半固定」と、ストッパ等\nを用い回動を停止させる「一時的に固定」の2種類が存在し、時に「半
固定」と「一時的に固定」とを混然と使用する箇所もないではないが、
これらを使い分けていることが理解できるし、これらが概念的に異なる
ものであることはその性質上も明らかである。このことを考慮して、訂正前発明1の構成をみてみると、2つの表\示板を約120度から約170度までの範囲内のいずれかの角度に「ストッパにより」「固定する」構成eの中間左右見開き固定手段は、「一時的\nに固定」する手段であり、2つの表示板を「摩擦力により」「保持する」\n構成Cの任意角度保持手段は「半固定」をする手段であることは明らか\nであり、両者は異なる固定手段を用いる別な手段であることが当然に理
解できる。したがって、構成eの中間左右見開き固定手段の構\成を基に
して、任意角度保持手段について「任意の角度」を約120度から約1
70度までの範囲内のいずれかの角度を意味するなどと限定して解釈
する根拠はないこととなり、任意角度保持手段の「任意の角度」は通常
の語義に従い、0度から360度の範囲が含まれると理解すべきもので
ある。
(オ) 以上からすると、訂正事項1−4は、訂正前発明に、2つの表示板を\n0度から最大見開き角度までの任意の角度とすることができ、最大見開
き角度が約180度を超えるものを包含するよう訂正するものとなる
ところ、このような構成は訂正前明細書には記載されていない。\nしたがって、訂正事項1−4は、訂正前の明細書の全ての記載を総合
することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事
項を導入しないものであるとはいえない。
イ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)イのとおり、1)「ユーザーの任意の角度」とは、
ユーザが装置の構造上の制約の下に自由意思により変化・回動させること\nができる角度である、2)180度を超えてから360度まで回動させても
2つの表示板の各画面を容易に見ることができず実用的な意味は全くな\nい、3)0度から360度まで回動させるためにはヒンジ部の1つの回転軸
を2つの表示板の厚さ寸法を合計した長さ以上の巨大な直径を有する回\n転軸としなければならないが、訂正前明細書【図2】からみると訂正前発
明の表示装置はそのような構\造を有していない旨主張する。
しかしながら、「あらかじめ定められた角度にユーザが任意に変化させ
られること」と「ユーザが任意の角度に変化させられること」とは、固定
方法を異にすれば両立する機能であるところ、どちらも角度の変化はユー\nザがその自由意思によりするものであるから、訂正前明細書にユーザが自
在に枠体を折り曲げられるとの記載等、角度の変化がユーザの自由意思に
よるとの記載があったからといって、「任意の角度」が前者に限定されると
する根拠にはならず、上記1)の主張は採用することができない。
また、引用文献1には第1のパネル12と第2のパネル14が背中合わ
せで並置され、片手で装置を運び、もう片方の手でデータを入力する状態
が記載されていることからしても(9頁32行ないし10頁13行目、図
3)、表示装置の2つの表\示板の回動角度を270度ないし360度の範
囲にまで設定可能にする使用方法も十\分に実用的なものといえるから、上
記2)の主張も採用することができない。
また、上記3)の主張は、単なる実施例に関する図面に基づく主張にすぎ
ず、訂正前発明は、ヒンジ軸の構造も、回転軸の直径も、表\示板の厚さも
何ら特定するものではないから、前提を欠くものとして失当である。
したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。その
ほか、原告はるる主張するが、いずれも、前記アの認定判断を左右しない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1−4は新規事項を追加する訂正で
ある。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和2(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月16日 知的財産高等裁判所
原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。
特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説
明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解
するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ
ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課
題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8
mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載
がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき
ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア
ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。
従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する
ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと
なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書
の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を
用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥
重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは
9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ
の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス
20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ
せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ
ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること
及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳
細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が
記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい
てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則
24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全
体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために
必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。
◆判決本文
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