拒絶審決が取り消されました。補正要件(減縮に該当しない)および独立特許要件を満たすと判断されました。
当裁判所は、本件補正は本願発明の特許請求の範囲を減縮するものであって、
かつ、本件補正発明が明確でないということはできないと考える。したがって、
本件補正が特許請求の範囲を減縮するものではなく、仮に減縮するものだとし
ても独立特許要件を満たしていないという理由で本件補正を却下した本件審決
は誤りであり、取消事由1が認められるので、その余の取消事由について判断
するまでもなく、本件審決は取り消すべきものと判断する。
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ア 本件補正に係る補正事項のうち、「決済以外の用途において適用可能な\n情報処理端末であって、」(補正事項1)の追加は、本件補正発明の情
報処理端末を、決済用媒体と非決済用媒体の双方を処理の対象とするも
の(以下「決済・非決済共用端末」という。)及び非決済用媒体のみを
処理の対象とするもの(以下「非決済専用端末」という。)に限定する
もの、すなわち決済専用の端末を本件補正発明の技術的範囲から除外す
るものであり、これは特許請求の範囲の減縮に当たると認められる。
また、「前記接触型の読み取り部及び前記非接触型の読み取り部は、決
済に関する情報の入力がなされていない前記情報記憶媒体から読み取り
対象の情報を読み取り可能であり、」(補正事項3)の追加は、読み取\nり部の機能として、「決済に関する情報の入力がなされていない前記情\n報記憶媒体」を読み取り可能であることを限定するものであり、特許請\n求の範囲の減縮に当たると認められる。
原告は、上記の補正により決済用媒体を処理の対象としていないことを
特定していると主張するが、これらの補正事項は、それぞれ「決済以外
の用途において適用可能」、非決済用媒体から「読み取り対象の情報を\n読み取り可能」であることを特定するにとどまり、決済用媒体を対象に\n含む決済・非決済共用端末を除外しているとは解されないから、同主張
を採用することはできない。
イ その上で、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」
を削除する補正事項4についてみると、文言上は、「前記接触型の読み取
り部及び前記非接触型の読み取り部のそれぞれを」「情報記憶媒体から情
報を読み取り可能な待ち受け状態に維持」する態様(以下「本件態様」と\nいう。)を限定していた事項を削除するものであるから、「『決済に関す
る情報の入力』の有無が本件態様に関係する情報処理端末」は、本願発明
の範囲には含まれていなかったが、本件補正発明の範囲には含まれること
になったと解釈する余地がある。
しかし、本願発明は、決済に関する情報(金額情報、支払方法、決済に
使用されるカードブランドの情報など)をユーザが入力してから決済に使
用されるカードの読み取り操作を促す処理及び表示を行うという従来技術\nの構成では、決済以外の用途への適用が難しいという課題を解決するため、\n決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、接触型・非接\n触型の別を問わず、情報記憶媒体から短時間で必要な情報を読み取り可能\nな情報処理端末を提供するものであり(【0004】〜【0007】)、
この点は、本件補正発明においても同様である。
そして、「決済に関する情報の入力の有無が本件態様に関係する情報
処理端末」としては、「決済に関する情報の入力」によって初めて本件
態様になるような情報処理端末が考えられるが、このような情報処理端
末を利用するためには、常に「決済に関する情報」の入力が要求される
ことになるから、本願発明及び本件補正発明の趣旨目的に反するもので
あるのみならず、例えば、マイナンバーカードのような非決済用媒体を
処理対象とする場合には、「決済に関する情報」そのものがないのであ
るから、「決済に関する情報の入力」がない限り待ち受け状態とならな
いとすると、いつまでも本件態様となることができず、非決済用媒体を
読み取ることができない。そのような端末は「決済以外の用途において
適用可能な情報処理端末」とはいえない。\n逆に「決済に関する情報の入力」により本件態様が終了するような情報
処理端末も一応考えられるが、このような端末は、当該入力後は読み取り
可能ではなくなり、決済・非決済共用端末の場合において、決済に関する\n情報を入力すると決済目的で情報処理端末を利用することができなくなる、
いい換えると、決済処理を行わないのに決済に関する情報を入力する手段
を設けるという、およそ不合理なものとなる。
補正事項4を含む本件補正後の発明が、これらの「決済に関する情報
の入力の有無が本件態様に関係する情報処理端末」をその技術的範囲に
含むと解することは、合理的な解釈とはいい難い。
むしろ、本願発明及び本件補正発明の技術的範囲の内容について、本
願明細書の内容を考慮して解釈するならば、本件補正の前後を通じ、本
件態様となるために「決済に関する情報の入力」が不要であることに変
わりはなく、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」
との文言は、決済以外の用途において適用可能であることを特定してい\nたにすぎないものと解するのが相当であるから、補正事項4により、本
件補正発明に本願発明に含まれていなかった事項が含まれることにはな
らない。
ウ 補正事項1及び3が特許請求の範囲の減縮に当たることは前記のとおり
であり、補正事項4が新たな事項を追加するものではない以上、結局、本
件補正は、全体として特許請求の範囲を減縮するものに当たる。これに反
する被告の主張は、以上述べた理由により、採用することができない。
したがって、補正事項4を含む本件補正は特許法17条の2第5項2
号に規定する「特許請求の範囲を減縮」する場合に該当するから、同号
の補正要件を満たしていないとする本件審決の判断には、誤りがある。
(2) 独立特許要件(本件補正発明の明確性)について
進んで、本件補正が独立特許要件(特許法17条の2第6項、同法126
条7項)としての同法36条6項2号(明確性)の要件を充足するかどうか
について検討する。
前記のとおり、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報\n処理端末であって、」との記載は、非決済専用端末のみならず決済・非決済
共用端末を含むものと解される。このことは、本願明細書において、発明の課題及び効果は「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末」の提供であるとされた上で(【0005】、【0007】)、最初の実施例として決済・非決済共用端末の例が記\n載されていること(【0011】以下)及びほかの実施例として非決済専用
端末の例が記載されていること(【0072】)を参酌すれば、さらに明ら
かであり、少なくとも、本件補正後の特許請求の範囲の記載が第三者の利益
を不当に害すほどに不明確ということはできない。
これに反する被告の主張は、以上述べた理由により、いずれも採用するこ
とができない。したがって、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、」との記載は明確であり、本件補正発明は明確でないから\n特許法123条1項4号、同法36条6項2号の要件を欠き、独立特許要件
(同法17条の2第6項、126条7項)を満たしていないとする本件審決
の判断には、誤りがある。
◆判決本文