知財高裁3部は、特許権侵害について、特許無効と判断した1審判断を維持し、請求棄却しました。侵害事件と並行して、無効審判が請求されており、特許庁は審理の結果、無効予告をしました。特許権者は訂正をしましたが、訂正要件を満たしていないとして、最終的に無効と判断されました。これに対して、特許権者は、審取を提起しました。\n原審(侵害訴訟)でも、訂正要件を満たしていないと判断されてます。
訂正前の「…前記第1の位相から調節できるように固定された第1
の量だけ転位させた第2の位相を有する第3のクロック信号…」の記載
によれば,「第2の位相」の「第1の位相」からの変位量(転位の量)
は,第3のクロックが調節されたとしても,第1のクロックが同じ量
だけ調節されれば,変位量に変化がなく,このような調節も「固定」
に含まれると解される。
これに対し,訂正後の「…第2の位相の前記第1の値をもつ第1の位
相を基準とした変位量は,第1の位相が前記第1の値をもっている状態
において第3のクロック信号の調整がなされるまでの間,固定された第
1の量であり,前記変位量は,第3のクロック信号が調節されたときは
調節される…」との記載によれば,変位量は,第1のクロックの調節に
よらず専ら第3のクロックの調節により調節され,第3のクロック信号
が調節されれば,仮に第1のクロックが同じ量だけ調節されたとしても
変化するように,「固定」の技術的意味を変更するものと理解される。
(エ) 以上より,訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
に当たらないとともに,不明瞭な記載の釈明又は誤記の訂正を目的と
する訂正であるということもできない。
また,訂正事項2が,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当
該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものでな
いことは明らかである。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成25(ワ)33706
◆対応の無効事件はこちらです。平成28(行ケ)10111
使用態様を特定した製剤に限定する訂正が、訂正要件違反と判断されました。
訂正事項5は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項
1に「針状又は糸状の形状を有すると共に」とあるのを「針状又は糸状の形
状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に」に訂正する,という
ものであり,これを請求項の記載全体でみると,「…尖った先端部を備えた
針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧
されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「…尖った
先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持さ
れると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に
挿入される,経皮吸収製剤」に訂正するものである。
ここで,「経皮吸収製剤」にかかる「前記先端部が皮膚に接触した状態で
押圧されることにより皮膚に挿入される」との文言は,経皮吸収製剤の使用
態様を特定するものと解されるから,その直前に挿入された「シート状支持
体の片面に保持されると共に」の文言も,前記文言と併せて経皮吸収製剤の
使用態様を特定するものと解することが可能である。すなわち,訂正事項5\nは,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の片面に保持される」という使
用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かかる使用態様を採る経皮吸収製
剤に限定したものといえる。
ところで,本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件
訂正発明も「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であること
が必要であり,そのためには,訂正事項5によって限定される「シート状支
持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物と
して技術的に明確であること,言い換えれば,「シート状支持体の片面に保
持される」との使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等によ\nり経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要である。
しかしながら,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様によ
っても,シート状支持体の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形\n状や構造(特にシート状支持体に保持される部分の形状や構\造)も変わり得
ることは自明であるし,かかる使用態様によるか否かによって,経皮吸収製
剤自体の組成や物性が決まるという関係にあるとも認められない。
したがって,上記の「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様
は,必ずしも,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製\n剤自体を特定するものとはいえず,訂正事項5によって限定される「シート
状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という
物として技術的に明確であるとはいえない(なお,「シート状支持体の片面
に保持される」との用途にどのような技術的意義があるのかは不明確といわ
ざるを得ないから,本件訂正発明をいわゆる「用途発明」に当たるものとし
て理解することも困難である。)。
そうすると,訂正事項5による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項5は,特許請求の範囲
の減縮を目的とするものとは認められない。
なお,仮に,「シート状支持体の片面に保持されると共に」の文言が経皮
吸収製剤の使用態様を特定するものではなく,「尖った先端部を備えた針状
又は糸状の形状を有し」との文言と同様に経皮吸収製剤の構成を特定するも\nのであるとすれば,本件訂正発明は,「シート状支持体の片面に保持された
状態にある経皮吸収製剤」になり,構成としては「片面に経皮吸収製剤を保\n持した状態にあるシート状支持体」と同一になるから,訂正事項5は,本件
訂正前の請求項1の「経皮吸収製剤」という物の発明を,「経皮吸収製剤保
持シート」という物の発明に変更するものであり,実質上特許請求の範囲を
変更するものとして許されないというべきである(特許法134条の2第9
項,126条6項)。
・・・
被告は,訂正事項5は,請求項1の経皮吸収製剤に対して,本件明細書中
に記載され,請求項19においても記載されているシート状支持体の構成を\n追加したものであり,両者の構成及び関係は本件明細書の記載上明確である\nから,物としての態様(構成)が明確でないとの批判も当たらないし,特許\n法上,物の発明において使途の構成を規定してはいけないというような制限\nはなく,本件訂正発明が飽くまで経皮吸収製剤の発明であって,経皮吸収製
剤保持シートの発明でないことは,訂正後の請求項1の文言から明らかであ
る,などと主張する。
しかしながら,訂正事項5は,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の
片面に保持される」という使用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かか
る使用態様を採る経皮吸収製剤に限定したものとみるべきであり,「経皮吸
収製剤」自体の構成を更に限定するものとみるのは相当でないこと,そして,\n訂正事項5が,使用態様の限定であるとしても,かかる限定によって,経皮
吸収製剤自体の形状,構造,組成,物性等が決まるという関係にあるとは認\nめられず,本件訂正後の経皮吸収製剤も技術的に明確であるといえないこと
は,いずれも前記のとおりである。
◆判決本文