2022.12.24
令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月4日 知的財産高等裁判所
知財高裁(1部)は、訂正要件違反として、無効理由無しとした審決を取り消しました。
原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前
の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と
訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の
発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に
対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充
填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法
134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、
2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激
を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避
組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して
いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、
実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特
許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、
かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す
る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺
激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請
求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正
するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本
件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ
の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係
る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本
発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位
置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定
の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい
害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ
れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00
06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ
る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30
cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径
r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて
いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定
の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他
の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に
限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r
30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ
れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径
が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい
上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺
激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製
品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以
上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する
方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製
品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成
分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴
射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘
膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に
よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている
にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r
30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実
施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘
膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴
射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した
噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較
から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ
ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異
なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう
調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ
た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細
書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の
「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組
成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお
ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子
径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5
0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5
0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」
との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ
とについての記載も示唆もない。
そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低
減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項
は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂
正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと
認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許
法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは
できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正
前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激
という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌
避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を
噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌
避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激
を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途
又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許
請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許
請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。
しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの
であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。
◆判決本文
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2022.12. 9
令和3(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所
新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。
一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、
3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定
ライン5に沿った溝の記載はない。
そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」)
には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ
れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\
9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特
性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ
ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6.
9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な
(目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く
ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4
1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研
磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か
らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン
ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状
であることが、技術常識であったことが認められる。
以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること
により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す
るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと
認められる。
したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許
法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本
件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、
形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も
示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ
ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない
シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら
ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で
あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する
のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域
を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン
ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関
係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で
きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加
するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと
いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも
のではない。
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2022.11. 8
令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月4日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、作用を追加する訂正事項がもともとの構成によって奏される作用効果を記載したにすぎないので、減縮には該当しないと判断し、審決を取り消しました。\n
(1) 訂正の目的の判断の誤りについて
ア 「特許請求の範囲の減縮」の目的の有無について
原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前
の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と
訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の
発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に
対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充
填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法
134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、
2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激
を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避
組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して
いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、
実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特
許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、
かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す
る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺
激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請
求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正
するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本
件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ
の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係
る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本
発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位
置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定
の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい
害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ
れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00
06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ
る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30
cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径
r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて
いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定
の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他
の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に
限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r
30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ
れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径
が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい
上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺
激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製
品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以
上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する
方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製
品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成
分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴
射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘
膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に
よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている
にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r
30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実
施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘
膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴
射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した
噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較
から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ
ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異
なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう
調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ
た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細
書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の
「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組
成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお
ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子
径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5
0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5
0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」
との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ
とについての記載も示唆もない。
そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低
減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項
は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂
正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと
認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許
法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは
できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正
前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激
という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌
避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を
噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌
避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激
を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途
又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許
請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許
請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。
しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの
であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。
(2) 小括
以上のとおり、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法1
34条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認められないから、そ
の余の点について判断するまでもなく、本件訂正は同号に適合しない。
そうすると、本件審決には、本件訂正の訂正要件の判断に誤りがあり、こ
の判断の誤りは、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明
の要旨認定の誤りに帰するから、本件審決は取り消されるべきものである。
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2022.10.26
令和3(行ケ)10144 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年10月17日 知的財産高等裁判所
無効審判にて訂正をしましたが、無効と判断されました。知財高裁は訂正要件(減縮)、サポート要件違反の無効理由ありとして、審決を維持しました。
訂正されたクレームは下記です。
媒体面上に形成され、且つデータ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって、
前記ドットパターンは、縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し、
前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように、前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と、該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて、該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置されたことを特徴とするドットパターン。\n
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、前記第2の2(1)のとおり、本件発明1の「縦横方向に等
間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを
前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの
方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成を、本\n件訂正発明1の「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子
点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°の2
倍である90°ずつずらした前記縦横方向のうちいずれかの方向に、どの
程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成に訂正するものであ\nる。
本件訂正前の上記構成は、任意の45°間隔による8方向をドットの配\n置に利用できる方向として、情報の内容を表現するものである一方、本件\n訂正後の上記構成は、縦横の4方向をドットの配置に利用できる方向とし\nて、情報の内容を表現するものであるから、情報の内容を定義する情報ド\nットの種類やデータの表現方法を異にするものであり、端的に、両者は異\nなる構成というべきものであって、包含ないしは上位下位概念の関係には\n立たない。したがって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし
書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項1の訂正に伴い、特許請求の範
囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、対応する本件明細書【00
09】の記載を訂正事項1と同様の内容で訂正するものであるところ、前
記アのとおり、請求項1に係る訂正事項1が認められない以上は、訂正事
項2は、その訂正に係る請求項について訂正をしないものと帰すから、訂
正事項2も訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項、126条
4項参照)。
ウ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、1)訂正事項1は、8方向のう
ちの「いずれかの方向」とする選択肢についてこれを4方向にする制限
を直列的に付加するものである、2)「いずれかの方向に、どの程度ずら
すか」というのは、ずらす方向の数を意味しており、このずらすことの
できる各方向の選択肢の数を減らす択一的要素の削除であって、「特許請
求の範囲の減縮」に当たる旨主張する。
しかしながら、原告が自らも前記第3の1(1)ア にて主張するように、
本件発明1の「いずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内
容を定義し」との構成は、1つの単一な構\成としてデータ内容を定義し
ているのであって、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」とされ
る全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該格子点
を基準として定義し得る情報を特定するものであるから、ドットがずら
されていない方向も、ドットがずれていないという意味で当該情報の定
義に用いられているのであって、ドットがずらされている方向のみが情
報の定義に利用されているというものではない。この点、原告は、「縦横
方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情
報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のう
ちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」
との記載の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」を、ずらす方向の
数を規定するものである旨主張する。しかしながら、「方向の数」との趣
旨を「どの程度」との文言で表現したとするのは文言解釈として不自然\nであって、「等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、
どの程度ずらすか」とは、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」
とされる全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該
格子点を基準として定義し得る情報を特定する際に、ドットをずらすの
は等距離で45°ずつずらした各方向のうちどの方向にするのか、ずら
されるドットは等心円上に配置されることになるが、この等心円の半径
をどの程度にするのかによってデータ内容を定義する趣旨であると理解
するのが自然である。また、本件明細書(本件訂正後)にも、1)「デー
タは、図103に示すように、ドット605を格子領域内の中心点から
どの程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。
同図では、中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義
することによって単一の格子領域で8通り、すなわち3ビットのデータ
を表現できるようになっている。」(【0191】の前半)、2)「なお、さ
らに中心点から距離を変更した点をさらに8個定義すれば16通り、す
なわち4ビットのデータを表現できる。」(【0191】の後半)との記載\nがある(本件訂正前にも、別紙記載のとおり、「格子領域」とある部分の
一部が「格子ブロック」となっているほかは同旨の記載がある。)のであ
るから、特許請求の範囲の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」は、
これらの記載に対応するものと解するのが自然であるし、上記1)及び2)
のどちらも中心点からの距離についての記載であって、「どの程度ずらす
か」が方向の数をいうものでないことは明らかである。
そうすると、それぞれの各方向を取り出してそれぞれに独立した意味
があるというものではなく、8方向全部が一体となり、中心点からの距
離と相まって、データ内容の定義に用いられているのであるから、8方
向を4方向に変更することは、ある格子ドットについて用いることので
きる方向の数に制限が付されたとか、あるいは、ある格子ドットについ
て選択できる選択肢の数を制限したとかという単純なものではなく、端
的に、異なる情報定義体系を採用したことを意味するものというべきで
ある。以上によれば、訂正事項1を発明特定事項の直列的付加又は択一的要
素の削除であるとすることができないから、「特許請求の範囲の減縮」と
解する余地はない。したがって、原告の上記主張を採用することはでき
ない。
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、数値による限定は、数値によ
って限定される範囲が小さくなるほど対象が具体的になるから、8方向
から4方向への限定は、下位概念化である旨主張するが、前記 におい
て説示したところによれば、本件発明において量的な大小で包含関係又
は上位下位概念の関係を論じることが適切でないことは明らかであるか
ら、その主張を採用することはできない。
なお、本件審決には、「(逆に、4個しか定義できない構成を8個定義\nできる構成に変更する場合であれば、そのための構\成を付加し、上位概
念から下位概念に限定したといえる余地もある。)」(6頁)旨の説示がみ
られるが、単なる傍論にすぎないから、その説示の当否が前記判断を左
右するものではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、その他の点について検討するまでもなく、本
件訂正は訂正要件を満たさないものであるから、これを認めなかった本件
審決の判断には誤りがない。
(2) 取消事由について
前記(1)のとおり、本件訂正を認めなかった本件審決の判断には誤りはない
ところ、原告は、本件訂正が認められなかった場合の本件審決の誤りを主張
するものではないから、本件訂正が認められた場合についての予備的請求の\n当否について判断するまでもなく、取消事由は理由がないことになる。
(3) サポート要件の充足について
ア 原告の予備的主張中には、前記第3の1 アのとおり、本件発明がサポ
ート要件を充足する旨の記載があり、その趣旨や内容は判然としないもの
ではあるものの、これは、本件訂正を認めず、その上で本件発明がサポー
ト要件を充足しないとした本件審決の判断の誤りを主張する趣旨と善解
する余地もないではないから、念のために、同主張についての判断を示す。
前記2(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、図5ドットパターンと図1
05ドットパターンについての記載がある。原告は、本件発明1のドット
パターンは縦横4方向の図5ドットパターンに斜め4方向を付け加えた
設計上の微差でしかないドットパターンであるか、あるいは、8方向にド
ットをずらす本件発明1のドットパターンの一例として図5ドットパタ
ーンを位置付けることができるとして、本件発明1のドットパターンが図
5ドットパターンに基づくものである旨主張するので、以下、これを前提
に、本件発明1がサポート要件を充足するか検討する。
前記(1)アのとおり、縦横4方向をドットの配置に利用できる方向として
情報の内容を表現する図5ドットパターンの構\成と、任意の45°間隔に
よる8方向をドットの配置に利用できる方向として情報の内容を表現す\nる本件発明1の構成は、情報の内容を定義する情報ドットの種類やデータ\nの表現方法を異にするものであるから、両者の差異が微差であるというこ\nとはできない。また、同ウ のとおり、本件発明1の構成は、8方向全部\nが一体となり、中心点からの距離と相まって、データ内容の定義に用いら
れているのであり、縦横4方向の図5ドットパターンの構成とは異なる情\n報定義体系を採用するものであるから、図5ドットパターンを本件発明1
のドットパターンの一例として位置付けることもできない。以上からする
と、図5ドットパターンに基づき、本件発明1のドットパターンが発明の
詳細な説明に記載されたものということはできないから、本件発明1はサ
ポート要件に適合しない。したがって、本件発明1の構成を全て含む本件\n発明2及び3もサポート要件を充足しない。
イ これに対して、原告は、前記第3の1(3)アのとおり、るる主張するとこ
ろ、前示のとおり、いずれの点もその趣旨、内容は判然としないが、本件
訂正が認められるべきものであることを前提にする主張が採用できない
ことは明らかであるし、本件明細書の記載が本件発明をサポートする内容
を含むものとは認められないことも前記アのとおりである。したがって、
この点に係る原告の主張はいずれも当を得ないものというほかない。
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2022.08.18
令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。
前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が
弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ
ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か
ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。
そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子
機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め
られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、
前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広
げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ
る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル
14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、
又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、
もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ
ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技
術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’
において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1
6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の
中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。
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2022.07.14
令和3(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年6月22日 知的財産高等裁判所
訂正請求により無効理由なしとした審決に対する審決取消訴訟です。
知財高裁も審決の判断を維持しました。一つの争点が「前記加工対象物はシリコンウェハである」と記載されているのを、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正するのが訂正要件を満たすかです。
ア 訂正前の請求項1の記載は、「加工対象物」である「シリコンウェハ」に
ついて、その文言上、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿
った溝が形成されているシリコンウェハ」を概念的には含むものであった
のに対し、訂正事項1により、そのようなシリコンウェハを除く形で限定
されるものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものといえる。
別の観点からいえば、訂正前の請求項1の記載は、その文言上、「レーザ
加工装置」の構成として、切断予\定ラインに沿った溝が存在するシリコン
ウェハを切断し得る性能を有するが、そのような溝が存在しないシリコン\nウェハを切断し得る性能を有するとは限らない「レーザ加工装置」(溝必須\n装置)を概念的には含むものであったのに対し、訂正事項1により、そのよ
うな装置を除く形で請求項1に係る発明のレーザ加工装置を特定したので
あるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともい
える。
イ 原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1における「シリコン単
結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコ
ンウェハ」については、加工対象物がシリコン単結晶構造の場合において、\n「シリコン単結晶構造部分」や溝の位置、どのような溝が形成されていな\nいのかが特定されておらず不明確であるから、訂正後の特許請求の範囲が
不明確であると主張するが、そのような具体的な事項まで特定されなけれ
ば、訂正事項1が減縮か否かを判断できないほどに不明確であるとは考え
られない。
また、原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1によって、請求
項1の装置について、溝が形成されていないシリコンウェハを切断するこ
とが用途になるとしても、レーザ加工装置の構成がそのような特定の構\成
に限られるものではないから、発明の構成を限定するものではないとか、\nいわゆるサブコンビネーション発明の理論によれば訂正の前後で発明の要
旨の認定は変わらない旨主張する。しかし、アに説示したとおり、訂正事項
1により概念上請求項1に係る発明が限定されることは明らかであり、特
許法134条の2第1項の「特許請求の範囲の減縮」への該当性を判断す
るに当たっては、これで足りると解するのが相当である。また、本件発明を
サブコンビネーション発明と解するかはさて措くとして、本件における上
記該当性を判断するに当たって、サブコンビネーション発明のクレーム解
釈や特許要件の考え方を直接参考にする必要性があるとは認め難いし、い
ずれにしても本件においては、訂正事項1に係る事項は、加工対象物のみ
を特定する事項にとどまらず、レーザ加工装置自体についてもその構造、\n機能を特定する意味を有するものと解するべきであるから(本件訂正前は、\n溝必須装置のように溝が形成されているシリコンウェハを切断する構造を\n有すれば、これをもって特許要件を満たし得たのに対し、本件訂正後はこ
のような構造を有するのでは足りず、溝が形成されていないシリコンウェ\nハを切断する構造を有することが必要とされることになる。)、原告の主張\nするところは、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮であることを否定する
に足りるものではない。
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2022.06. 6
令和3(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年5月19日 知的財産高等裁判所
審決では、無効審判に対して、特許権者は訂正をしました。かかる訂正は発明の範囲が実質上減縮されないとして、訂正請求は拒絶されました。ただ、無効審判は進歩性違反無しと判断されました。裁判所は進歩性違反なしとした審決を維持しました。
構成要件を追加して、実質上減縮していないというのは興味深いですが、裁判所では争点とはなっていません。\n
「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成されたR部」→
「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された,スプーンへの食物移載力転換機構としてのR部」に訂正しても,実質的に発明の範囲が減縮されるものではない。\n
次に、本件発明1の特許請求の範囲の請求項1には、本件発明1の「R
部」は、「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角
が半径略5〜15mmとなるよう形成された」構成を有することが規定さ\nれている。本件明細書には、「R部」に関し、本件発明1の実施形態とし
て、「竹製食器100には、各収容部の立ち上がりと底面との取り合い部、
一つの立ち上がり部とこれに隣接する立ち上がり部との間の取り合い部、
に各々略10mm程度の半径によるRを設けてある。具体的に、たとえば
第4の収容部23において、底面部40と立ち上がり部33との取り合い
部に、図3に示されるような半径略10mmの曲線断面が図3の紙面と直
交する方向に延伸されて形成されている。また、平面においても、たとえ
ば、立ち上がり70と立ち上がり13との間の取り合い部には、図1に示
されるような半径略10mmの曲線断面が図1の紙面と直交する方向に
延伸されて形成されている。」(【0030】)との記載があり、別紙1のと
おり、図1及び3には、「R部」が図示されている。
そこで、「R部」に関する甲4の記載について検討するに、甲4文章部分
中の「φ23×H2.1(plate)」との記載から、甲4記載の「こども用
食器」は、直径(φ)23cm、高さ(H)2.1cmであることを理解
できるが、他方で、甲4の記載事項全体をみても、上記直径及び高さ以外
の寸法についての記載はない。
また、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真(別紙2参照)のアングル、
解像度等に照らすと、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真から、被写体で
ある「こども用食器」の「R部」を形成する「立面と底面とのなす角」の
角度や「半径」の寸法についてまで認識することは困難である。
以上を総合すると、甲4に接した当業者において、甲4から、甲4記載
の「こども用食器」の「R部」は、「前記窪み部において穿削されて得ら
れる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された」
構成を有することが開示されているものと認識することはできないとい\nうべきである。
・・・
原告は、1)甲4全体写真について説明した甲76の5枚目の左側の画像記
載のとおり、A(こども用食器の外径):B(こども用食器の竹の集成材から
なる所定の厚みのある部分の内側の径):C(こども用食器の二層目の竹材平
板の内側の径)の比率は、100:94.8:88.3である、2)この比率
と甲4記載の実寸から、A´(Aの実寸)は230mm、B´(Bの実寸)
は218mm、C´(Cの実寸)は203mm、D´(こども用食器の竹の
集成材からなる所定の厚みのある部分の幅の実寸)は6mm、E´(こども
用食器を真上から見たときの二層目の竹材平板の幅の実寸)は7.5mmと
算出される、3)甲76の5枚目中欄の「Rごとの見え方の違い」の表によれ\nば、E´が7.5mmである場合、その見え方は、R10の場合の見え方に
該当するから、甲4記載の「こども用食器」の立面と底面とのなす角は、半
径略10mm弱となるよう形成されたR部になるとして、甲4には、甲4記
載の「こども用食器」は、「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となる
よう形成されたR部」の構成を有することの開示がある旨主張する。\nしかしながら、甲76は、原告従業員が作成した書面(作成日2021年
10月25日)であり、そもそも本件出願前に頒布された刊行物に当たらな
いこと、甲4には、「こども用食器」の直径(φ)及び高さ(H)以外の寸
法についての記載はなく(前記(2)イ)、甲76記載のAないしCの比率やA
´ないしE´の寸法の記載もないこと、甲4には、甲76の5枚目中欄の「R
ごとの見え方の違い」の表の記載はないことに照らすと、甲4に接した当業\n者において、甲4から、上記1)ないし3)の事項を認識し、又は理解すること
はできないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができ
ない。
◆判決本文
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