2016.09. 8
クレームの用語について、原文に基づく誤訳訂正を求めました。裁判所は、実質上変更となるとした審決を維持しました。
(3) 本件公報に接した当業者の認識について
ア 前記(2)イのとおり,本件訂正前の明細書には,燐酸を示す化学式として,
ホスホン酸の化学式が6か所にわたり記載されているというのであるから,「スルホ
ン酸,燐酸及びカルボン酸からなる群」に含まれない「オクタデシルホスホン酸」
が作用成分として記載されていることとも相まって,本件公報に接した当業者は,
「燐酸」又は「リン酸」という記載か,ホスホン酸の化学式及び「オクタデシルホ
スホン酸」という記載のいずれかが誤っており,請求項1の「燐酸」という記載に
は「ホスホン酸」の誤訳である可能性があることを認識するものということができ\nる。
イ しかし,更に進んで,本件公報に接した当業者であれば,請求項1の「燐
酸」という記載が「ホスホン酸」の誤訳であることに気付いて,請求項1の「燐酸」
という記載を「ホスホン酸」の趣旨に理解することが当然であるといえるかを検討
すると,前記(1)イのとおり,請求項1の「燐酸」という記載は,それ自体明瞭であ
り,技術的見地を踏まえても,「ホスホン酸」の誤訳であることを窺わせるような不
自然な点は見当たらないし,前記(2)アのとおり,本件訂正前の明細書において,「燐
酸」又は「リン酸」という記載は11か所にものぼる上,請求項1の第2の処理溶
液の作用成分を形成するアニオン界面活性剤としてスルホン酸,カルボン酸と並ん
で「燐酸」を選択し,その最適な実施形態を確認するための4つの比較実験におい
て,燐酸や燐酸基が使用されたことが一貫して記載されている。
そうすると,化学式の記載が万国共通であり,その転記の誤りはあり得ても誤訳
が生じる可能性はないことを考慮しても,本件公報に接した当業者であれば,請求\n項1の「燐酸」という記載が「ホスホン酸」の誤訳であることに気付いて,請求項
1の「燐酸」という記載を「ホスホン酸」の趣旨に理解することが当然であるとい
うことはできない。
以上によれば,本件訂正事項(燐酸→ホスホン酸)を訂正することは,本件公報
に記載された特許請求の範囲の表示を信頼する当業者その他不特定多数の一般第三\n者の利益を害することになるものであって,実質上特許請求の範囲を変更するもの
であり,126条6項により許されない。
◆判決本文