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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実質上拡張変更

令和1(行ケ)10074  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月23日  知的財産高等裁判所

 訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個 数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順 方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の 前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂 正するものである。 そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての 発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手 方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請 求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違 反する旨主張する。 そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED 基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基 板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載 した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを 理解できる。 一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」 の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定 して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基 板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差 が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED 基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果 を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数 を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大 きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用 性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件 訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」 という。)の技術的意義があると認められる。 また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に 小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板 を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど を意味するものであることを理解できるものといえる。 そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED 基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。 むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する 記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが 可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び 本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は 個数が単数のものに限定されないと解される。 イ 訂正の適否について 本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件 訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列 させてある」ことを特定するものである。 そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列 させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記 載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。 また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は, 訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認 められる。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた 甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直 列させるものであるといえる。 しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1 枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな い(前記(1))。 また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1 1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告 製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4) として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚 のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎 に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の 原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載 されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。 さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために, LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識 であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場 合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを 認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板 (LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED 毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識 していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直 列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と 直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変 更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして, 同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻 害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に 甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。

◆判決本文

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