2024.06. 9
令和5(ネ)10096 損害賠償請求控訴事件 その他 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁も原審と同じく、共同発明ではないと判断されました。
原審(東地判令和4年(ワ)10717)はアップされていません。
控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、本件準備契約6条は、ステルスダイ
シング技術に関する本成果については、控訴人と被控訴人の共有とする旨を
定めたものである旨を主張する。
しかし、本件準備契約6条の解釈については、補正の上で引用した原判決
第3の1(2)のとおりである。
控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の1(1)イの控訴人による修正申\n入れにより、ステルスダイシング技術に関する「本成果」は、控訴人と被控
訴人の共有とする旨定める本件準備契約6条1項(2)に移されて本件準備契約
の締結に至ったものであるから、ステルスダイシング技術に関する「本成果」
も、控訴人と被控訴人の共有となる旨主張する。
しかし、ステルスダイシング技術に関する「本成果」についても控訴人と
被控訴人の共有とする旨の合意の下に、本件準備契約が締結されたと認める
に足りる的確な証拠はない上、補正の上で引用した原判決第3の1(2)アのと
おり、本件準備契約6条1項(1)及び(2)は、いずれも同条柱書に記載された「本
成果」の帰属等について定めるものであるところ、同項(2)は、もともとSD
エンジンに「関しない本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めてい
たものであるから、同項(2)にステルスダイシング技術に関する定めを移すこ
とが、直ちに「ステルスダイシング技術に関する本成果」を控訴人と被控訴
人の共有とする旨定めるに至ったことを意味するものともいえない。「ステル
スダイシング技術」は、被控訴人が作成した契約書の第1ドラフト(甲22)
においても、「乙(判決注:被控訴人)が基本特許を有するレーザを用いたダ
イシング技術」と定義されており、本件準備契約作成時点において被控訴人
に帰属する固有の技術であったのであるから、これが控訴人と被控訴人の共
有になることはないというべきである。
したがって、控訴人と被控訴人の共同開発に至る経緯を考慮しても、上記
解釈を左右するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができ
ない。
(2) 控訴人は、前記第2の3(2)、(3)及び(4)アのとおり、SDエンジンに関する
本成果とは、発明・考案等の課題解決のため必須の構成全部を、SDエンジ\nンが備えるものをいうと解すべきと主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(3)のとおり、本件準備契約の
目的、趣旨や文理等に鑑みると、「SDエンジンに関する本成果」とは、発明
の特徴的部分がSDエンジンに関する発明等(本成果)をいうものと解され
る。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(ア)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」
に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの
と解したとしても、本件発明1は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主
張し、それに沿う証拠として甲51、52を提出する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)のとおり、本件発明1は、
いずれも発明の特徴的部分がSDエンジンに関するものとして、その成果は
被控訴人に属するものというべきであるところ、控訴人が当審において提出
する甲51、甲52はいずれもCPUボードないしコンピュータソフトウェ\nア設計に係る証拠であり、本件発明1の内容は補正の上で引用した原判決第
2の1(3)及び同第3の1(4)ア(ア)のとおりであって、本件発明1は、レーザ加
工方法の手順をレーザ加工装置のコンピュータに実行させるためのコンピュ
ータソフトウェアに係る発明ではない。そうすると、上記の控訴人の主張及\nびこれに係る証拠は、本件発明1の特徴的部分ないし発明特定事項である特許請求の範囲の記載と関係しないものである。
その点を措いても、本件試作機は、●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」(平
成14年10月2日付け打合議事録。甲26)とされていることから、本件
試作機においては、それまでレーザエンジン側で行っていたことを装置本体
側のCPU162で行えるようにしたものであるところ、控訴人のCPU1
62に係る主張は、レーザ加工装置の制御を行うCPUの所在場所をいうも
のにすぎず、そのプログラムの前提となる本件発明1の前記特徴に係るもの
ではない上、本件準備契約1条(3)の「SDエンジン」の定義には、キーコン
ポーネント部及びソフトウェア設計も含まれているのであるから、CPU1\n62の所在場所及びそのソフトウェアとしての機能\をもって、本件発明1を
控訴人と被控訴人の共有とすべき根拠とすることはできないというべきであ
る。
また、控訴人は、本件発明1は、X軸上のステージの動作とその制御を発
明の特徴的部分に含み、加工対象物の端部というステージのX軸上の特定の
位置においてレンズのZ軸上の所定の動作を行うものであり、これはSDエ
ンジンに関する発明に該当しない旨も主張する。
しかし、805特許に係る明細書(甲48)は補正の上で引用した原判決
別紙3のとおりであるところ、その明細書の段落【0045】、【0058】
及び【0075】の記載によれば(記載内容は原判決別紙3参照)、805特
許において、既にZ軸ステージをZ軸方向に移動させることにより、加工対
象物(シリコンウェハ)の内部にレーザ光の集光点を合わせることができ、
X軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集光点を切断予定ラ\nインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成することが示されているから、これと本件発明1
の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(3)及び第3の1(4)ア)とを対比
すると、805特許に示されたX軸ステージの移動に係る制御と特段異なる
内容は示されておらず、本件発明1の内容にはX軸ステージの移動に係る制
御に関して805特許に示されたX軸ステージの動作を超える新規の技術的
事項は何ら示されていない上、控訴人の主張するX軸上の特定の位置の検出
それ自体は、X軸ステージの制御を意味するものでもないから、これをもっ
て、X軸ステージの制御に本件発明1の特徴的部分があるとはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(イ)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」
に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの
と解したとしても、本件発明2は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主
張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)イのとおり、本件発明2は、
いずれも発明の特徴的部分が「SDエンジン」に関するものとして、その成
果は被控訴人に属するものというべきである。
本件発明2に係るパルスピッチは、レーザ光の繰り返し周波数及びX軸な
いしY軸ステージの移動速度との関係により決まるものであるところ(本件
明細書2の段落【0015】及び【0057】)、前記(3)のとおり、805特
許において、既にX軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集
光点を切断予定ラインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予\定
ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されており、これ
と本件発明2の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(4)及び第3の1(4)
イ)とを対比すると、805特許に示されたX軸ステージやY軸ステージの
移動に係る制御と特段異なる内容は示されておらず、本件発明2の内容には
X軸ステージやY軸ステージの移動に係る制御に関して805特許に示され
たX軸ステージやY軸ステージの動作を超える新規の技術的事項は何ら示さ
れていない。そうすると、X軸ステージ及びY軸ステージの制御に本件発明
2の特徴的部分があるとはいえない。
また、控訴人の提出に係る証拠において、パルスピッチが明記されている
ものは、甲38(「浜松ホトニクス殿・出張報告―14」と題する文書)に、\n「改質層ピッチ」として本件発明2の数値範囲内である●●●●μmとの記
載があるのみであり、その甲38においても、パルスピッチが記載されてい
る箇所は、「hpk SDL_100V での最新(〜7/11)の加工状況」における「現在の
最適条件」の欄であって、パルスピッチに関し控訴人が知見を得たことを示
すものとはいえないところ、乙12ないし14、16及び18には、例えば
乙12(平成15年6月13日被控訴人作成の「スケジュール」と題する書
面)に、「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
などとあり、乙13(平成15年6月13日被控訴人作成の実験資料)には、
パルスピッチごとに改質領域の形成状況が示された実験結果があるように、
被控訴人において、パルスピッチ及び微小空洞に着目して実験を繰り返し、
最適なパルスピッチ等につき検証を行っていたことが認められる。そうする
と、こうしたパルスピッチの最適化に関し、控訴人に具体的な貢献があった
と認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主張はその前提を欠くものというべきである。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2024.05.16
令和5(行ウ)5001 出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月16日 東京地方裁判所
発明者をAIと記載した国際特許出願の国内書面が却下されました。出願人はこれを不服として裁判所に不服申し立てを行いましたが、東京地裁(40部)は、AIは発明者になれないとの判断を維持しました。最後に付言があります。
1 我が国における「発明者」という概念
知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、
意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明
がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、\n商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘\n密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。
上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により
生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法
は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、
自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。
そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2\n号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人
の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければな\nらない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然
人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の
前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発
生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明に
ついて特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格
を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利
の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当で
ある。
他方、特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合には、AI
発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソ\フトウェアに関する権
利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管
理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべ
きかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。のみならず、特許
法29条2項は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者(以下「当業者」という。)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に
発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については
特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、\n今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困\n難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIに
も適用するのは相当ではない。さらに、AIの自律的創作能力と、自然人の創作\n能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社\n会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期\n間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。\nこのような観点からすれば、AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会
経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねるこ\nととし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組み
の在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方と
みるのが相当である。グローバルな観点からみても、発明概念に係る各国の法制
度及び具体的規定の相違はあるものの、各国の特許法にいう「発明者」に直ちに
AIが含まれると解するに慎重な国が多いことは、当審提出に係る証拠及び弁論
の全趣旨によれば、明らかである。
これらの事情を総合考慮すれば、特許法に規定する「発明者」は、自然人に限
られるものと解するのが相当である。
したがって、特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、原告が発明
者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して、発明者の\n氏名を記載しなかったことにつき、原処分庁が同条の5第2項3号に基づき補正
を命じた上、同条の5第3項の規定に基づき本件処分をしたことは、適法である
と認めるのが相当である。
2 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、我が国の特許法には諸外国のように特許を受ける権利の主体を発明
者に限定するような規定がなく、特許法の制定時にAI発明が想定されていな
かったことは、AI発明の保護を否定する理由にはならない旨主張する。しか
しながら、自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI
発明に係る発明者等を定めるのは困難であることは、前記において説示したと
おりである。この点につき、原告は、民法205条が準用する同法189条の
規定により定められる旨主張するものの、同条によっても、果実を取得できる
者を特定するのは格別、果実を生じさせる特許権そのものの発明主体を直ちに
特定することはできないというべきである。その他に、原告の主張は、AI発
明をめぐる実務上の懸念など十分傾聴に値するところがあるものの、前記にお\nいて説示したところを踏まえると、立法論であれば格別、特許法の解釈適用と
しては、その域を超えるものというほかない。
(2) 原告は、AI発明を保護しないという解釈はTRIPS協定27条1項に違
反する旨主張する。しかしながら、同項は、「特許の対象」を規律の内容とす
るものであり、「権利の主体」につき、加盟国に対し、加盟国の国内特許法に
いう「発明者」にAIを含めるよう義務付けるものとまでいえず、また、原告
主張に係る欧州特許庁の見解も、特許法に関する判断の国際調和という観点か
ら一つの見解を示すものとして十分参考にはなるものの、属地主義の原則に照\nらし、我が国の特許法の解釈を直ちに左右するものとはいえず、本件に適切で
はない。
(3) 原告は、知的財産基本法2条1項は「その他」と「その他の」の用法を混同
しており、「発明」が「人間の創造的活動により生み出されるもの」に包含さ
れると規定するものではない旨主張する。しかしながら、特許法がAI発明を
想定していなかったことは、原告も認めるとおりであり、知的財産基本法2条
1項も、立法経緯に照らし、文言どおり、AI発明を想定していなかったもの
と解するのが相当である。そして、当時想定していなかったAI発明について
は、現行特許法の解釈のみでは、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏ま\nえた的確な結論を導き得ない派生的問題が多数生じることは、前記において繰
り返し説示したとおりである。
・・・
その他に、原告提出に係る準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、前記に
おいて説示したところを踏まえると、いずれも前記判断を左右するに至らない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
なお、被告は、当裁判所の審理計画の定め(第2回弁論準備手続調書参照)に
かかわらず、原告主張に係るAI発明をめぐる実務上の懸念に対し、具体的な反
論反証(令和5年11月6日提出予定の被告の再々反論、再々反証をいう。上記\n手続調書参照)をあえて行っていないものの、特許法にいう「発明者」が自然人
に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものでは
なく、原告の主張内容及び弁論の全趣旨に鑑みると、まずは我が国で立法論とし
てAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発
明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、
最後に改めて付言する。
◆判決本文
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2024.04.17
令和5(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。
(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし
て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→
「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」
→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる
かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から
はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織
りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので
あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか
ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業
者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの
が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された
「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生
機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性
繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程
の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」
に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発
明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか
ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により
前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ
ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを
熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外
されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。
オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし
ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて
いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1
の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が
あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加
されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書
の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに
限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を
していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ
ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの
ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成
18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の
存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は
ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6
2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す
る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、
熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知
であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術
的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発
明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。
被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい
なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新
栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発
明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程
を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲
2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に
記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な
お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、
「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲
2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前
に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む
ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら
れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた
ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。
したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1
文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29
条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ
ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権
利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特
許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張
する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発
明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を
有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必
要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので
あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう
ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双
方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ
れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの
となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完
成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成
した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする
と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成
21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、
これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが
作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を
指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛
シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和
40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と
して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛
シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと
は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン
付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前
に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ
ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下
させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し
て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具
体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし
てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会
社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け
ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、
脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が
設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい
ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合
すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発
明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。
なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある
から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発
明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布
から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、
本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発
明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ
イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ
とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06
4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被
告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする
前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ
セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ
た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、
同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染
色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま
れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月
22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ
ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて
提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要
性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者
であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ
るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、
遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色
が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ
ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット
を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ
いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる
こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ
ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた
ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と
して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した
というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本
件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ
ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13
5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい
うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要
である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃
から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に
増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪
営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く
とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと
がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け
メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと
から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら
すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工
程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ
るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用
いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が
できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる
ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ
ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性
剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を
用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A
の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない
別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで
試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して
いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに
ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不
明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で
あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること
ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、
いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本
件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが
平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆
すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか
ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効
理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲
16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲
110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。
よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には
誤りがある。
◆判決本文
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2023.10.11
平成27(ワ)25780等 特許権を受ける権利を有することの確認等請求,真の発明者ではない旨の宣誓手続請求反訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年1月22日 東京地方裁判所
随分前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
納入業者がした発明について、納入先が特許出願をしました。発明者には当該納入業者は記載されていませんでした。東京地裁29部は、原告らは共同発明者であると認定しました。また人格的利益を侵害の慰謝料として33万円を認めました。
◆本件特許
原告らは、本件特許から遅れて、10ヶ月後、自ら別の出願していました。
◆原告ら特許
エ 被告は,Fが原告Aに対して,本件攪拌混合機ないし本件角堀掘削ヘッドに
ついて特許出願したい旨を伝えたところ,原告Aが「うちはいいから,会社で出し
て。」と述べた,また,原告Aは,平成25年12月21日,被告従業員らに対し,
本件特許出願の発明者について「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述
べたなどと主張し,被告従業員らの各陳述書(乙30ないし32)があるほか,証
人Fも証人尋問において同旨の証言をする。
しかし,前者(原告Aが「うちはいいから,会社で出して。」と述べたとの事実)
については,それがいつ,どのような場面において原告Aからされた発言であるか
が主張上も,証人Fの証言上も明確でないから,同事実を認定するには至らない。
後者(原告Aが「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述べたとの事実)
については,Fは,証人尋問において,「A社長と相談したら,自分じゃなくて若
い者にしてもらったらいいかなというふうに聞いた」,「ありがとうございますと
言われたような気がします。」,「島根に来られたときなんで,ちょっとはっきり,
日付までおぼえてないですけれども。」などと証言するにとどまり,原告Aがいか
なる文脈で,どのような趣旨で発言したのかについて明確に証言しないから,発言
した日時,場所等はもとより,原告Aが,本件各発明について,被告による本件特
許出願に際し,自らを発明者として記載せず,原告Bを発明者として記載すること
を了承する趣旨で上記のような発言をしたとまで認定することは困難である。
(3) 本件各発明の発明者について
ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうか
ら(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想
の創作行為に現実に関与することを要する。
そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する
者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具
体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行\nツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参
照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得な
かった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求め\nられる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記
載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎
付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的,
客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると\nいうべきである。
イ 本件発明1について
本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成\nするためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向
に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横
掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ
設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明
である。
本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0
006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する
課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置におい
て,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要
があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従
来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメン\nトミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼
を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたと
の構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構\築できるとの作用効果を生じ,
上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分というこ\nとができる。
しかるところ,前記認定事実((1)エ,なお(2)イも参照。)によれば,被告は,平
成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベース
マシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場
に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2
号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなど
を用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成として\nはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同
日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼と
から構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと\n認められる。
なお,この点に関連して,原告らは,被告が原告らに製造を依頼したのは,「水
平方向に地盤を広範囲に連続攪拌する機能を備えた地盤改良装置」であって,角柱\n杭を形成することは予定されておらず,原告らが平成25年8月10日に行った試\n掘により覚知したと主張する。前記認定事実((1)エ,オ,ク)によれば,被告は,
浅層ないし中層の地盤改良装置を原告らの参考とさせ,原告らに交付した注文書に
は「浅層改良機」との記載があり,また,平成26年に至ってから本格的に本件角
堀掘削ヘッドを深層まで杭を打ち込むことが可能な2号機において稼動させること\nを前提とした種々の発注等を行っていることなどが認められるから,被告は,当初,
角堀掘削ヘッドを浅層ないし中層の地盤改良用途を中心に用いることを構想してい\nた可能性が相応に認められる。しかし,浅層ないし中層の地盤改良であっても,杭\nを並べて打つことにより広範囲を改良する工法は一般的に行われているから(本件
明細書の段落【0007】の記載や,甲第45号証にもかかる工法をうかがわせる
記載がある。),被告が当初有していた着想が,角柱杭を形成することを予定して\nいなかったということはできない。
もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考\n資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパ
ンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供した
との事実は何ら認められないところ,前記認定事実((1)エ,オ)のとおり,原告ら
は,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本
件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また\n製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもって
も半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整
等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告ら
にした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復し\nて実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできな
い。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当
業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献を\nしたものと認めるのが相当である。
したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程におい
て,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから,
その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。
ウ 本件発明2ないし同4について
本件発明2は,本件発明1に「該横掘削翼は,該先端掘削翼より根本側で,且つ
該先端掘削翼近傍に設けたものである」との発明特定事項を加え,本件発明3は,
本件発明1又は同2に「全横掘削翼の回転面と直角の攪拌面積が,該先端掘削翼が
掘削する面積の1/6以上である」との発明特定事項を加え,本件発明4は,本件
発明1ないし同3に「全横掘削翼は2つである」との発明特定事項を加えた発明で
ある。これらの発明の特徴的部分は,前記イに述べた本件発明1の特徴的部分のほ
か,上記発明特定事項にあるものと認められる。
そして,前記イに認定説示したところによれば,これらの特徴的部分の各着想か
ら具体化に至る過程においては,被告従業員ら及び原告らが相応に創作的な貢献を
したというべきであるから,本件発明2ないし同4の発明者も,被告従業員ら及び
原告らの5名である。
エ 共同発明者各自の貢献度について
これまで認定説示してきたとおり,本件各発明は,被告従業員ら及び原告らの共
同発明と認められるところ,各自の貢献度については,前記認定事実に認定したと
おりの本件各発明に至る経緯を総合し,本件各発明の特徴的部分に係る着想と,そ
の具体化の各過程の価値を等価なものとして,被告従業員らが2分の1,原告らが
2分の1として,さらに,被告従業員ら側内部における各人の貢献度,原告ら側内
部における各人の貢献度も,それぞれ等価なものと認めるのが相当である(なお,
仮に,本件各発明との関係で原告Bを原告Aの単なる補助者とみる余地があるとし
ても,弁論の全趣旨によれば,原告らは本件各発明についての特許を受ける権利の
共有持分につき,各2分の1とする旨合意したことが認められるから,上記認定が
判断左右されるものではない。)。
したがって,本件各発明についての共同発明者間の各貢献度は,原告A及び原告
Bが各4分の1,F,D及びEが各6分の1ということになる。なお,前記1の認
定事実によれば,被告従業員らは,本件特許出願に先立ち,本件各発明についての
特許を受ける権利の共有持分を,少なくとも黙示的に,被告に承継させたものと認
められるが,原告らが本件各発明についての特許を受ける権利の共有持分を被告に
承継させたと認めることは困難であり,ほかに被告が原告らから本件各発明につい
ての特許を受ける権利の共有持分を承継したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 争点2の結論
以上によれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,本件各発明について特許を受け
る権利の各4分の1の共有持分を有しているものと認められる一方,被告は,本件
各発明について特許を受ける権利の各2分の1の共有持分を有しているものと認め
られる。
2 争点2(発明者名誉権の侵害により原告Aが受けた損害の額)について
上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実
(第2,2(3))のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者と
して原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に
関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認める
ことが困難であることは,前記(2)エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記
載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。
被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人
格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより\n原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。
そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明
者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を\n訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日\nであること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基
にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成
28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として
記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料
30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。
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2022.08.18
令和2(ネ)10069 特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
共同発明者として持ち分の移転登録を求めましたが、1審と同様に、請求は棄却されました。
イ 本件発明11の完成時期について
本件発明11に係る請求項11の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、
柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜10に記載のラップネットを連続して編成するラップネット
の製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラッ\nプネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げ\nローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とす
るラップネットの製造方法。」であるのに対し、本件出願の優先権主張の基
礎となる先の出願2の請求項6の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、
柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜5に記載のラップネットを連続して編成するラップネットの
製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラップ\nネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げロ\nーラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とする
ラップネットの製造方法。」であり、先の出願2の請求項6の記載は、本件
特許の請求項11の記載と同内容である。
加えて、本件明細書の【0042】ないし【0044】、【0083】及
び【0094】の記載は、先の出願2の明細書の【0032】ないし【0
034】、【0070】及び【0081】の記載と同内容であることからす
ると、先の出願2の請求項6に係る発明の技術的思想は、本件発明11の
技術的思想と同一であることが認められる。
そして、先の出願2の明細書の上記記載中には、巻上げローラを回転軸
方向に往復運動させる振幅の数値、1本のロールに巻き取ったラップネッ
トの長さ、その直径の数値、発明の効果等の記載があり、かかる記載によ
って、本件発明11の技術的思想は、先の出願2の請求項6に係る発明の
技術的思想において、既に具体化しているものと認められる。
そうすると、本件発明11は、遅くとも、先の出願2がされた平成25
年7月22日には完成していたものと認められる。
ウ 本件発明11に係る控訴人代表者及び甲の共同発明者性について\n
(ア) 前記1(1)の認定事実によれば、控訴人代表者、甲及び被控訴人代表\
者は、平成25年5月31日、タカキタにおいて、控訴人が作成したラ
ップネットの試作品について評価を受け、同日、控訴人、被控訴人及び
タカキタは、以後の予定として、同年6月中旬をめどに、ラップネット\nの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様で試作品を製造することを確認
したこと、控訴人は、同月以降、巻上げローラの前に綾振り装置を設置
する方法によって綾振りを施すことを試みていたことが認められる。
しかるところ、ラップネットの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様
でラップネットの試作品を製造することが確認された同年5月31日ま
でに、控訴人代表者及び甲が、ラップネットの製造に当たり、綾振りの\n技術を適用することを着想して、被控訴人代表者に提案等をしたことを\n認めるに足りる証拠がないことは、前記1(2)エのとおりである。
また、先の出願2の出願日である同年7月22日までに、控訴人が被
控訴人に対し、控訴人が行っていたとする綾振りの方法に関する情報を
提供したことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取機
構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させる構成について、控訴人代表\者及び
甲が着想したものであると認めることはできない。
・・・
控訴人は、1)本件明細書記載の本件発明11の経編機を用いたラップネ
ットの編立技術(【0026】、【0040】、【0064】、【0066】、【0
071】、【0076】、【0089】、【0094】、【0106】、【0111】、【0147】、【0149】、【0158】、【0167】)について、控訴人及
び被控訴人が共同でした別件出願1の明細書(甲19の2)にも、同様の
内容の記載がある(【0012】、【0020】、【0028】、【0056】、
【0058】、【0059】、【0067】)ことからすれば、本件発明11の
製造方法は、別件出願1の出願時に開発されたラップネットの製造技術が
応用されたものであり、控訴人代表者及び甲は、別件出願1の出願日前に\n本件発明11の編立技術を着想し、その後のラップネットの試作、改良を
繰り返すことで、その着想を具体化し、上記編立技術の完成に深く関与し
たといえること、2)本件発明11における綾振り技術の課題に関しても、
上記経編機を利用したラップネットの製造において素材に綿糸を使用す
ることで新たに発見した課題であり、その解決手段である巻上げローラを
左右に振る方法も経編機の編立部分と一体不可分の解決手段であること、
3)控訴人による綾振り装置の具体的な開発経過( 巻上げローラを左右に
動かしながら巻上げする方式(偏芯平カムを上下に動かして使用)を採用
し、平成25年5月31日のサンプル(約200m〜250m)を試作す
る、 巻上げローラを左右に動かしながら巻上げする方式(偏芯ドラムカ
ムを使用)を採用し、同年6月21日の試験用サンプル(1000m)を
試作する、 同年7月6日以降、生地を左右に動かしながら巻上げする方
式(偏芯平カムは(ア)を再利用)を採用し、サンプルを試作する)によれば、
控訴人代表者及び甲は、本件発明11の特徴的部分を着想し、その具体化\nに創作的に関与した旨主張する。
しかしながら、1)については、控訴人が指摘する別件出願1の明細書の
記載は、いずれも、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取
機構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させることに関係するものではないから、
上記記載と共通する記載が本件明細書にあるとしても、このことから、控
訴人代表者及び甲が本件発明11の技術的思想の具体化に創作的に関与\nしたものと認めることはできない。
また、2)及び3)については、前記ウ(イ)の説示に照らすと、控訴人が、
本件発明11が完成した同年7月22日までに、ラップネットの試作品の
作成において、控訴人が巻上げローラの綾振りを採用していたことを認め
ることはできない。
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2022.03.15
令和2(ワ)7486 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月28日 大阪地方裁判所
冒認発明を理由に移転請求をしました。裁判所は共同発明であるとして移転請求を認めました。
ア 特徴的部分1)について
前記各認定によれば、被告は、少なくとも平成29年8月10日頃までは、魚の
神経抜き及び血抜きにあたってはあえて少し血を残す方が良く、魚の熟成等の観点
からは血の回りだけでなく神経絞めに意味があると考えており、このような考えに
基づき、脳髄や神経を抜くことで血抜きをするという発想を持っていたことがうか
がわれる。また、被告は、この頃、「明石浦漁港のやり方」すなわち背骨上側に沿う
脊髄神経に針金を通し神経を破壊する方法に加えて水圧を使うことを提案している
ことに鑑みると、尾部を切断することやそれによって血液弓門を露出させ、血液弓
門から水圧を掛けて血抜きをすることは、必ずしも想到していなかったものと推察
される。他方、原告は、早く確実に作業することが可能なことや骨全体まで完全に血抜きをすることを重視し、神経抜きはすればよいがしなくてもよく、血を回さな\nいための神経抜きであると考えていた。原告は、当時実施していた方法はエラに水
圧を掛けて血抜きをするものであったが、この方法では鬱血を広げてしまうという
欠点があるとしていたところ、足踏み式試作品を見て、水が噴出されるノズルの先
端部分の形状をより細くすれば十分に加圧することが可能\\となり、「全て切った尾
びれの付け根から処理でき」る、すなわち、尾部を切断して血液弓門を露出させ、
そこに先端を細くしたノズルを刺して水圧を掛け、神経抜きと血抜きを行う方法を
着想したことがうかがわれる。
その後の原告と被告とのやり取りは、原告が着想した上記方法を念頭に、ノズル
の形状や流量調節器具に関する具体的検討を進めたものと理解される。
したがって、本件各発明の特徴的部分1)は、被告が製作した足踏み式試作品に接
したことを契機とするものの、長年の水産会社勤務、とりわけ魚の生き締めに関す
る実地での経験等を背景とした原告の着想及び具体化に基づくものといってよい。
したがって、本件各発明の特徴的部分1)の完成については、被告のみならず原告も
創作的に寄与したものというべきである。
イ 特徴的部分2)について
前記各認定によれば、本件各発明の特徴的部分2)に関する原告と被告とのやり取
りは、以下のような経過をたどったものと理解される。
すなわち、被告は、原告とのやり取りを開始した平成29年7月11日までには
既にノズルの先端の形状がテーパ状である足踏み式試作品を試作していたが、同月
12日には、ノズルの形状が針状のエアダスターにつき、十分に用途を果たすこと、\nエアガンでないと極細ノズルが付けられないこと、魚によっては極細ノズルは要ら
ないかもしれないが、特に血管の方までやるなら極細ノズルは必要と考えることな
どの意見を述べた。また、原告は、同年8月1日、被告に対し、足踏み式試作品に
ついて、先端部分をもっと細くすることができるかを尋ね、被告が簡単にできる旨
を回答すると、それであれば神経まで潰せるし、逆から骨の血も抜ける、全て切っ
た尾ヒレの付け根から処理できるとの考えを示した。さらに、同日、原告は、針状
試作品について、これを用いれば簡単に後ろから処理できる、水圧で神経が出せる
なら、スーパーでも使えるなどと感想を述べた。その後の同年9月の間のやり取り
においても、原告と被告は、ノズルの形状については針状の極細ノズルとすること
を念頭に検討を進めていたことがうかがわれる。
もっとも、原告は、針状試作品では魚が暴れた際等にノズルが変形等してしまう\nなどの不具合があると結論付け、同年11月1日、被告に対し、ノズルの形状をテー
パ状にすることを提案した。これに対し、被告は、当初、テーパ状とすると製造に
あたって精密さが求められ、コストが掛かることなどを指摘し、消極的な態度を示
したが、原告が製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡単である旨の回答
を得たこともあって、ノズルの形状をテーパ状とすることも検討することとした。
しかるに、原告は、その後、ノズルの形状をテーパ状とするだけでは十分ではな\nく、せめて先端の1cm程度を針状にして魚の骨の中で固定することが必要であると
し、当該針状の部位からそのままテーパ状の部位につながるノズルの形状を提案し
た。これに対し、被告は、スプレー式に噴出するテーパ状のノズルであっても、圧
力の逃げ場がないように神経弓門や血液弓門に刺すなどすることができるのではな
いか、との意見を述べたが、原告は、これに否定的な態度を示した。
このような経緯を経て、本件各発明は、あらゆる大きさの魚に対応するための血
液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノ\nズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(特徴的部分2))をその特徴的部分の
1つとするものとして完成するに至ったものといえる。このことに鑑みると、特徴
的部分2)につき、最終的には被告の考えに基づき発明として完成したものの、課題
を解決するための着想及びその具体化の過程においては、被告のみならず原告も創
作的に寄与したものというべきである。
ウ したがって、原告と被告は、共に本件各発明の特徴的部分1)及び2)の完成に
創作的に寄与したものといえ、原告と被告は、本件各発明の共同発明者と認められ
る。これに反する原告の主張は採用できない。
エ 被告の主張について
被告は、原告の助言を受ける前に既に本件各発明を完成させていた旨を主張し、
これに沿う供述等をする。
しかし、着想としてであれ被告が原告とのやり取りとかかわりなく単独で本件各
発明を完成させていたことをうかがわせる検討メモその他の客観的な資料は見当た
らない。その点を措くとしても、前記認定に係る本件各発明に至る経緯を見る限り、
被告は、とりわけ本件各発明の特徴的部分2)について、原告の意見を踏まえて方針
を変更したことがうかがわれる。この方針変更は、特徴的部分2)に関わるものであ
る以上、単に本件各発明を商品化する上で必要となったという程度にとどまるもの
とはいえない。また、本件各発明を商品化した商品の販売促進につき原告の協力を
得るという被告の意図の存在は、前記認定に係る本件各発明に至る経緯からもうか
がわれるものの、本件各発明の構成を具体的に示すなどして原告との議論を誘導す\nるなどした形跡はうかがわれず、むしろ上記のとおり原告の意見を踏まえて方針変
更をしたことなどを踏まえると、そのような意図のみに基づくものとまでは認めら
れない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
(5) 小括
以上より、本件特許は、特許法38条に違反してされたものであるから、同法1
23条1項2号所定の要件に該当すると共に、原告は本件特許に係る発明である本
件各発明について特許を受ける権利を有する者であることから、原告は、特許権者
である被告に対し、同法74条1項に基づき、その持分の移転請求権を有する。
2 本件出願の不法行為該当性等(争点2)について
不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、
訴訟追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容
された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、
不法行為と相当因果関係に立つものというべきである(最高裁昭和44年2月27
日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。
しかし、本件において、原告は、冒認出願又は共同出願違反による損害として、
本件訴訟追行に要した弁護士費用以外の損害の主張をしていないことから、弁護士
費用以外の損害を認めることはできない。そうである以上、原告が、冒認出願等の
被害者として、本件出願により生じた損害につき本件訴えを提起することを余儀な
くされたとは認められない。そうすると、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用
は、冒認出願等と相当因果関係のある損害とはいえない。
したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成立は認め
られない。これに反する原告の主張は採用できない。
◆判決本文
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2022.01. 5
令和3(ネ)10057 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月17日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
原告が、共同発明者か否かかが争われました。1審、控訴審とも発明者ではないと判断しました。
控訴人は,1)平成22年6月24日,3本スリットフィンの風上側
のスリットをなくすことにより座屈強度の向上を図ることができること
を着想し,同日,Eに対し,フラットフィンの強度計算をFにしてもら
うように指示し,その後,2本スリットフィンの座屈強度計算もFにし
てもらうように指示したこと,2)その結果,2本スリットフィンの座屈
強度は当初フィンの2.5倍で,フラットフィンとほぼ同一であったが,
Eは,2本スリットでは伝熱性能が低下するとして,3本のスリットを\n風下側に押し込めることを提案し,控訴人はこれを承諾したこと,3)そ
の後,控訴人及びEによる試験を経て,同年7月下旬頃,本件発明が完
成したことを主張する(本判決による補正後の原判決4頁21行目から
5頁20行目まで)。
(イ) そこで,前記(ア)の控訴人の主張について検討する。
控訴人は,控訴人メール1において,Eに対し,フラットフィンの座
屈強度の解析を指示し,Eは,Eメールにより,●(省略)●を報告し
た。しかし,それらの●(省略)●に記載されていたものであり(前記
(3)ケ(イ)),このうち●(省略)●に提出されたものであり(前記キ),E
らが住環研において●(省略)●を示すものであった。
また,控訴人は,Eメールに対して返信した控訴人メール2において,
●(省略)●と記述したが,これは,Eメールに示された●●を見て,
控訴人がその時に,●(省略)●と認識したというにとどまるものと認
められ,それをもって,控訴人が,Eらに先んじて,当初フィンを2本
スリットフィンに変えることを着想したとはいえない。
さらに,控訴人がEに対して2本スリットフィンの座屈強度計算を指
示したことを認めるに足りる証拠はなく,Eが3本のスリットを風下側
に押し込めることを提案し,控訴人がこれを承諾したこと,その後,控
訴人及びEによる試験を経て,平成22年7月下旬頃,本件発明が完成
したことなどの控訴人の主張に係る事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると,仮に,伝熱性能を確保しつつ座屈強度を向上させるため\nに2本スリットフィンとすることが本件発明の特徴的部分に係る着想で
あるとしても,控訴人がそれを着想したとは認められず,控訴人は,本
件発明の発明者とは認められない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)5059
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2021.03.26
令和2(ネ)10052 特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年3月17日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。
控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相
互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な
いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的
思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的
となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1
分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し
た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導
教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を
構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い,
特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示
を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程
度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著
者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具
体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると
いうべきである旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相
互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」
ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月
3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論
文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌
研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根
拠として挙げる。
しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ
ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の
負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト
卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ
かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応
答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー
タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記
記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使
用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願
人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年
(平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US
/23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を
介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して,
免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を
治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・
からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに
抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害
することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ
とはできない。
したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD−
1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の
賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ
とはできない。
そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD−
1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成
物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた
らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ
るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化
することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前
記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前
記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら
の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと
認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない
が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術
的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは
できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める
ことはできない。
したがって,控訴人の前記主張は理由がない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成29(ワ)27378
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2020.12.22
平成30(ワ)22338 特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件 民事訴訟 令和2年12月1日 東京地方裁判所
特許を受ける権利ありと主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。
(1) 本件発明1及び本件発明11の特徴的部分について
ア 原告は,本件発明1及び本件発明11の特徴的部分の完成への関与につ
いて,その大部分を担ったのは,原告代表者及びAiであると主張する。
イ 前記1(16)によれば,従前の技術的課題を解決する,本件発明1の特徴的
部分は,ラップネットにおいて従前,技術的課題であるとされていた作
業性,家畜の安全性を確保するために,ラップネットの経糸及び緯糸の
いずれにもセルロース系繊維を用いたというものであると認められる。
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2
(平成25年7月22日出願)の請求項1に含まれるものであった。そ
して,本件明細書の発明の実施の形態における,本件発明1のラップネ
ットに関する経糸及び緯糸に使用する糸の種類や引張強度等の数値を含
めた記載は,先の出願2の明細書の記載とほぼ同様のものである。
これらによれば,本件発明1の特徴的部分は,平成25年7月22日ま
でには完成されていた。
ウ 前記1(16)によれば,本件発明1のように,ラップネットの経糸及び緯糸
のいずれにもセルロース系繊維を用いると,特に緯糸に比べて強度が要求
される経糸が太くなり,それによって1本のロールに巻き取れるラップネ
ットの長さが短くなるという課題があった。本件発明11は,その課題を
解決するため,本件発明1等のラップネットの製造方法において,巻上げ
ローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振
り機構を適用したものであり,本件発明11の特徴的部分は,本件発明1\nから10に係るラップネットの製造方法において上記のようなあや振り機
構を適用した部分であると認められる。\n
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2
(平成25年7月22日出願)の請求項6に含まれるものであった。そ
して,本件明細書の実施の形態における,巻上げローラを回転軸方向に
所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を用いた場合\nの往復運動の振幅,その場合の巻き取ったラップトップの長さや直径の
数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載と同じものである。
これらによれば,本件発明11の特徴的部分は,平成25年7月22日
までには完成されていた。
(2) 本件発明1の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関与
について
ア 被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供して,緯糸に綿糸
を使用したラップネットの編布を依頼し,同年5月にタカキタ,原告,被告
の関係者が集まった場において,Biが全部を綿糸で製造した方が安全でな
いかとの発言をして,その後,被告は,他の業者に対して依頼して製造して
いた複数の種類の綿糸を原告に提供して,経糸及び緯糸に綿糸を使用するラ
ップネットの編布を依頼し,原告は経糸にこれらの綿糸を使用してラップネ
ットを試作した。
ここで,ラップネットの緯糸,経糸に綿糸を用いることについて,原告代
表者又はAiが着想して,これを被告に提案したと認めることはできない
(前記1(19)ア,イ)。
イ 原告は,平成25年5月,被告から提供を受けた複数の種類の綿糸を経糸
及び緯糸に使用して,ラップネットの試作を行い,タカキタは,その試作品
の強度が十分であることを確認した。\nもっとも,経糸に使用した綿糸は,被告が平成25年3月頃からラップネ
ットの経糸に使用することを想定して他社に依頼して製造していたものであ
り,それを原告に提供したものであった。また,ラップネットの編組織は一
般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可
能であり(前記1(2)),原告は,従前から保有していたラッシェル編機を用
いて編布をした。
ウ 原告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項1に記載
された発明は,ラップネットにおける経糸及び緯糸がセルロース系繊維であ
るというものであったところ,その明細書の実施例には,経糸,緯糸に用い
る具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップ
ネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当た
りの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されていた。この強度等の数値は,
被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供され\nたものはなかった。
また,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成26年4月23
日に本件出願をしたところ,その明細書の実施例には,先の出願2とほぼ同
様の,経糸,緯糸に用いる具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェ
ル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチ
ェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されてい
た。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算した\nもので,原告から提供されたものはなかった。また,上記の計算や本件明細
書の記載に当たり,原告から提供を受けた試験結果等が参考等されたことを
認めるに足りる証拠はない。
エ 前記アによれば,本件発明1の特徴的部分について,原告代表者又はAi
が着想したと認めることはできない。また,前記イのとおり,原告が綿糸を
使用したラップネットの編布を行ったことは認められるものの,それは被告
が製造して原告に提供した綿糸を使用してされたものであって,ラップネッ
トの編組織が一般的なものであり,上記編布において一般的な編布に必要な
技術以外の技術が用いられたことを認めるに足りる証拠はないことなどから
すると,そのような編布をしたことのみをもって,原告代表者及びAiが直
ちに本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。
そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らせば,
原告が編布を行ったり,その後,その試作品の強度試験を行ったりしたこと
があったとしても,原告代表者及びAiが,本件発明1の特徴的部分の完成
に現実に関与したと認めるには足りない。
したがって,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体
的に関与したとはいえず,原告代表者又はAiが本件発明1を発明したとい
うことはできない。
オ 原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,本件開発契約を締結した
(前記1(14))。しかし,本件開発契約において,有効期間は同年9月からと
定められているのに対し,本件発明1の特徴的部分が同年7月22日までに
完成されていたことから,そもそも,本件発明1は,本件開発契約に基づい
て開発,発明されたものとはいえない。また,原告もその当事者である本件
開発契約においては,その有効期間前の被告の活動等として,被告が,平成
25年5月に綿ベールネットの編布を原告に依頼したこと,原告に複数の綿
糸を納入したこと,タカキタに綿ネットの試験巻きを依頼したことが特に記
載されており,「綿ベールネット」自体は被告が開発したことが前提とされ
ていたともいえる。
また,被告が平成24年に原告に対しラップネットの編布を依頼した後,
被告及び原告は,共同で特許出願をしたり,畜産試験場を訪れたり,試作品
についての評価をタカキタで受けたり,どのような試作品を製造するかを確
認したり,補助金の交付の申請をしたりした(前記1(3),(5),(7)ないし(9))。
また,原告は,新たに編機を購入するなどした上でラップネットの製造につ
いての開発を行った(同(15))。
しかし,上記各事実は,それ自体は本件発明1の特徴的部分の完成に直接
関係するとはいえないものであって,それらの事実をもって直ちに本件発明
1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現実に関与したと認めるに足
りるものではない。上記各事実は,前記アないしウに記載した事実に照らす
と,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体的に関与し
たとはいえないという上記認定を左右するものではない。
なお,被告が,ラップネットに関し,平成25年1月に原告と共同で別件
出願1をしたことや,同年12月に原告及びタカキタと本件開発契約を締結
したことについて,被告代表者は,別件出願1は,原告からラップネットを\n量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工等も原
告において行った上で編布をしたい旨の申出を受けたことから,経編機の改\n良における原告の役割を期待して,共同で行うこととしたものであり,また,
本件開発契約は,被告において綿製ラップネットの基本的な開発が完了した
段階で量産化や生産効率化を図るに当たり,原告及びタカキタにおいて積極
的な役割を果たすことが期待されたことから締結したものである等と陳述す
る(乙34)。この説明は,原告が平成26年1月頃から新しく購入したラ
ッシェル編機を用いてラップネットの製造を行う(前記1(15))など,ラップ
ネットの量産化,生産効率化における役割を果たしたことや,原告と被告は
被告が原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行うよう
になっていて(同(18)),ラップネットの生産効率化等は被告の利益でもあっ
たことなどを含めた前記認定に係る事実経過にも矛盾せず,相応の合理性が
あるものである。
カ 以上によれば,本件発明1について,原告代表者及びAiが発明者である
ことを認めるに足りず,同人らが本件発明1に係る特許を受ける権利を有し
ていたとはいえない。
(3) 本件発明11の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関
与について
ア 原告代表者,Ai及び被告代表者は,平成25年5月31日,タカキタ\nにおいてラップネットの試作品の評価を受け,以後の予定として,巻取り\nの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することが確認された
(前記1(8))。
ここで,原告代表者又はAiが,綿糸を用いるラップネットの編布におい
てあや振りの技術を適用することを着想し,被告に提案したとは認められな
い(前記1(19)エ)。
イ 原告は,平成25年6月以降,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で
往復運動させるのではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置すると
いう方法により,あや振りを施すことを試みていた(前記1(10))。なお,そ
れ以前,原告は,巻上げローラを左右に往復運動させる方法を試みたが,所
望の結果が得られず,また,上記方法について,被告にその機械の動作等を
見せたことはなく(同(2)),同動作等に関する情報を被告に対して提供した
ことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 巻取りに際してあや振りをすること自体は,繊維業界において広く用いら
れている基本的な技術であり,被告が昭和60年頃に導入した整経機にもあ
や振り機構が備わっており,被告代表\者は,従前からあや振りの技術を認識
し,日常的に用いていた。
被告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項6に記載
された発明は,経糸及び緯糸がセルロース系繊維からなるラップネットの製
造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる
というものであった。そして,明細書の実施例には,巻上げローラを回転軸
方向に往復運動させる振幅の数値や,1本のロールに巻き取ったラップネッ
トの長さ,その直径の数値が記載されているところ,この数値等は被告代表\n者が知識と経験に基づいて計算したものであり,原告から提供されたもので
はなかった。そして,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成2
6年4月23日に本件出願をしたところ,本件明細書の実施例には,あや振
りに関して,先の出願2の実施例と同じ記載がされていて,この数値等は被
告代表者が知識と経験に基づき計算したものであった。上記の計算や本件明\n細書の記載に当たり,原告から提供を受けた何らかの情報が参考等されたこ
とを認めるに足りる証拠はない。
エ 上記アによれば,本件発明11の特徴的部分について,原告代表者又はA\niが着想したと認めることはできない。また,原告が巻上げローラの前にあ
や振り装置を設置するという方法によりあや振りを施すことを試みていたこ
とは認められるが,本件発明11は,巻上げローラを回転軸方向に所定の振
幅で往復運動させるというものである。そして,前記ウのとおりの明細書の
記載やその記載に至る経緯に照らしても,原告代表者やAiが本件発明11
の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。
したがって,本件発明11の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現
実に関与したとはいえない以上,原告代表者又はAiが本件発明11を発明
したということはできない。
オ 原告は,ラップネットの試作を行い,平成25年6月以降は,巻上げロー
ラの前にあや振り装置を設置する方法によりあや振りを施すことを試みるよ
うになり(前記1(10)),平成30年7月には,ネット生地を鎖編組織の間隔
の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながら巻き取ることなどの構成を有\nする製造方法についての特許出願をする(同(18))など,ラップネットの製造
においてあや振りに関する開発を行っていたことはうかがえる。しかし,上
記各事実は,その内容及び時期から,平成25年7月22日までに完成され
ていた,本件発明1等のラップネットの製造方法において巻上げローラを回
転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用\nするという,本件発明11の特徴的部分の完成に対し,原告代表者及びAi
が具体的に関与したことの根拠となるものではない。
(4) 以上によれば,原告代表者又はAiが本件発明1及び本件発明11を発明し,
ひいては本件各発明の大部分を担ったとの原告の主張には理由がない。
なお,本件各発明のうち,本件発明1及び本件発明11以外の発明について,
その特徴的部分の完成に対する,原告代表者又はAiの具体的な関与を認める
に足りる証拠もない。原告の主張中には,本件各発明の中には本件開発契約の
期間中の発明がある旨述べる部分もあるが,その期間中にされた発明であるこ
とによって,直ちに特定の発明の特徴的部分の完成に原告代表者及びAiが具
体的に寄与したと認められることになるものではない(本件開発契約でも発明
に係る権利は発明をした当事者に帰属することが定められていた。)。
したがって,原告代表者及びAiが被告代表者と共同で本件各発明をしたと\nは認めるに足りない。
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2020.09.11
平成29(ワ)27378 特許権持分一部移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月21日 東京地方裁判所
「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、東京地裁は、「訴えの利益無し、発明者ではない」と判断sました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。被告Yは本庶教授なのでしょう。
原告は,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有すると主張す
る。しかし,確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し,
かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について
判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切な場合に認められ
ると解されるところ,本件発明の発明者であることの確認請求は,原告が本件
発明の発明者にあるという事実関係についての確認を求めるものにすぎず,給
付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから,
原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益があるということは
できない。
したがって,本件訴えのうち,原告が本件発明の発明者であることの確認を
求める部分は確認の利益を欠き,不適法である。
・・・
上記(2)ないし(4)によれば,1)本件発明の技術的思想を着想したのは,被
告Y及びZ教授であり,2)抗PD−L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教
授及びW助手であり,3)本件発明を構成する個々の実験の設計及び構\築をし
たのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の
実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限ら
れたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったと\nいうことはできない。
したがって,原告を本件発明の発明者であると認めることはできない。
(6) 原告の主張について
ア 発明者の認定基準について
(ア) 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争い
がないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験
を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主
張する。
しかし,前記判示のとおり,発明者と認められるためには,当該特許
請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着
想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に,
発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとして
も,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者という
ことができないと解すべきである。
原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD−L1抗体の作
製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構\築に対する貢献もごく
限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば,
原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきであ
る。
(イ) また,原告は,特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,こ
れを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性
が推認されるべきであると主張するが,研究の補助者が特許発明に係る
情報を記載した各種文書を作成・保管することもあり得ることに照らす
と,特許発明に関する文書の作成・保管主体をもって直ちに発明者であ
ると推認することはできない。
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2019.07. 2
平成30(ネ)10024 特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。
特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と
する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが
できる旨を規定する。
ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的
思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許
発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め
なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」
とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」
といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発
明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想
を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当
である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし,
1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動
画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。
これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月
30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ
れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年
2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が
付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する
方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され
ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ
いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年
ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して
本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経
緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告
らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた
ことが認められる。
そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2)
認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関
与する行為に当たるものと認められる。
したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ
たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133)
であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加
工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F
CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認
められる。
そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島
工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC
M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと,
これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し
て,英国子会社に移管されたことが認められる。
したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間,
福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋
状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと
が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを
設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから
平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し
てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を
実施していたことが認められる。
上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告
らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利
を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると,
1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ
ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し,
当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代
表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに
対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点),
5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線
材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張
していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理
士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ
ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している
点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説
明がされていない。
しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張
に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D
iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H
部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005
年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4
3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」
との記載部分がある。
しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定
することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告
代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の
とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯
を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する
からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。
(ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。
しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス
プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており
(前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ
ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2
(5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材
料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造
方法等について知識を有していたものと認められる。
そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造
状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場
では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ
ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至
ったものと推認することができる。
そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の
線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ
ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般
的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告
代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原
告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2))
を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認
めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前
の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許
法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指
摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので
あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1
審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ
とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事
実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば
容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと
認められる。
そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的
に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な
行為に当たるものと認められる。
705/088705
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2019.03.14
平成30(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年3月6日 知的財産高等裁判所
一次判決の拘束力について「新証拠に基づく判断は拘束されない」と争いましたが、知財高裁は、新たな証拠による新たな主張をするこは、取消判決の拘束力に反するとして、これを認めませんでした。争点は、発明者は誰か?という点です。一次判決では請求項1,3の発明者は、本件被告であると判断されていました。一次判決と本件で原告被告が入れ替わってますのでややこしいです。
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確
定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい
て更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法
の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ
り,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出
されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取
消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがっ
て,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ
判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り
返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべ
きではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。
このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文の
よって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従って
された再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定
した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決
の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
2 これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定
したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告で
あると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及
び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は,
一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告
であると認めることはできないものと判断した。
したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次
審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は,
当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないという
べきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,平成4年最高裁判決は,「拘束力は,判決主文が導き出されるの
に必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているから,一次判決の
拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消
すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事
実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事
実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件
発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反
する本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要
な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者として
は,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがっ
て,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに
基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって
許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度
の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には
裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違
法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。
そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象と
なっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123
条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものである
にもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し,
本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次
判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の
主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次
判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が
許されないことは明らかである。
(2)ア もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定
の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消さ
れるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する
余地がある。
そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述
(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者
尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に
該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立
証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由
がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみ
ても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
イ すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり,
被告が主張した,1)平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流
量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内に
ゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行\nった,2)その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11
月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決\nに係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音
反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としてい
ることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,「…誰もやってない時に
プライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。」との原告の
発言に対し,被告が「…プライヤーで潰した針金?」,「…あれが,これ
と何が違うんですか。」,「…あれ持って行った時にはすでに僕は…」と
発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続にお
ける被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりと
りの直後に「あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃ
ないですか。」と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物
を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると,
原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は
原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,「そのゲートのそれをやるという,
アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるとい
うアイディア。全部,私じゃん」との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発
明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえ
ると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがう
かがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ
自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者\nであることを認めたとまで認定することは困難である。このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。
ウ 次に,原告は,一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書(甲
76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いず
れも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張する
にとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを
認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びA
が提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張する
が,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたもの
であることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲5
5は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。
(3) さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において
提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。
◆判決本文
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◆平成27(行ケ)10230
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2019.02.28
平成30(ネ)10046 承継参加申立控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年2月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
冒認による特許の移転登録を求めましたが、知財高裁は1審と同様に、これを棄却しました。
2 本件各発明の内容は前記1のとおりであるが,本件各発明が控訴人の従業員
によって発明されたと認めることができるかについて,以下検討する。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と控訴人発明とを対比する。
(ア) 本件発明1と対応する控訴人発明は,別紙「控訴人発明と本件特許権
1との構成要件の対比」の対比表\の「控訴人の発明内容」欄記載の発明であるとこ
ろ,同記載によると,控訴人発明が共通構成1を具備していないことは明らかであ\nる。
すなわち,共通構成1の構\成は,別紙「控訴人発明と本件特許権1との構成要件\nの対比」の対比表の「請求項の内容」欄のうち,「請求項1」の上から3番目及び\n4番目の欄,「請求項2」の欄,「請求項3,請求項4」の欄,「請求項3」の欄、
「請求項5」の欄、「請求項6」の欄,「請求項7」の上から2番目の欄,「請求項
8」の欄,「請求項9」の上から3番目の欄,「請求項10」の欄,「請求項11」
の上から2番目の欄,「請求項12」の欄,「請求項13」の上から2番目の欄に記
載されているが,同構成に対応する「控訴人の発明内容」欄に記載された構\成は,
共通構成1の「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の変化に応じて,複数の,前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記携帯端末装置に提供する」\nこと(「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の送信に応じて,複数の,
前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記情報処理装置から受信する」こと)
と同一でないことは明らかである。また,上記対比表の「控訴人の発明内容」欄の\nその他の欄の記載に係る構成中に,共通構\成1と同一の構成が存在すると認めるこ\nともできない。
(イ) 控訴人は,控訴人発明は,起動情報として,1)画像情報,2)位置情報
及び3)識別情報を用いている旨主張する。
しかし,共通構成1は,起動情報として,上記の三つの情報を含むというだけで\nはなく,これらの三つの情報の順の変化に応じて,複数のコンテンツを提供すると
いう構成であるから,控訴人の上記主張を踏まえて控訴人発明の構\成を特定したと
しても,控訴人発明の構成は,共通構\成1と同一であるとはいえない。
イ 前記アのとおり,控訴人発明の構成は,本件発明1の構\成と異なるので
あるから,その余の点を検討するまでもなく,本件発明1は,控訴人の従業員に
よって発明されたと認めることはできない。
◆判決本文
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◆平成30(ワ)7906
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2018.11.13
平成29(ワ)10038 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年10月25日 東京地方裁判所(47部)
冒認を理由に、発明者に特許権を移転せよとの判断がなされました。
前記(1)アないしウ及びオの認定事実によれば,原告代表者は,顧客である被\n告代表者から自動洗髪機の開発依頼を受け,先行特許の調査等を経て,エアバ\nッグを利用する方法を着想するに至り,それを踏まえて本件特許発明の構成が\n全て開示されている全体構想計画案等を自ら作成したものであるから,本件特\n許発明の発明者に当たるというべきである。
他方,被告代表者については,前記(1)イ,エないしカの認定事実からすれば,
自動洗髪機の開発につき原告代表者に依頼し,本件特許発明につき特許出願す\nる段取りを整えたり,事業計画を策定して公的補助を受ける準備をしたりした
ことは認められるが,本件特許発明の完成に当たり,発明者と評価するに足る
だけの貢献をした具体的事実は認められない。
これに対し,被告は,かねてから人間の手に近い感覚で頭皮のマッサージが
できる自動洗髪装置の開発を志向していた被告代表者が,平成26年2月頃,\n被告手動洗髪用具の指状の突起部と同様の形状の突起部を有する装置で,被洗
髪者の頭を覆い,エアバッグ(袋状体)の振動を利用して頭皮をマッサージし
ながら洗う機械を着想し,乙第2号証の図面を作成し,その後の同年3月7日
の打合せで,上記技術内容を被告代表者に対し説明して,具体的に機械の設計\nを依頼したものであって,この時点で本件特許発明は既に完成していたのであ
るから,本件特許発明の発明者は被告代表者であって,原告代表\者ではない旨
を主張し,これに沿う証拠としては,被告代表者の陳述書(乙20)及び本人\n尋問における供述(以下,併せて「被告代表者の供述等」という。)がある。\n
しかしながら,被告代表者の供述等については,乙第2号証の図面につき本\n件特許発明の構成が開示されているとは認め難く,他に上記打合せの時点で本\n件特許発明を被告代表者が完成させていたと認めるに足りる客観的な裏付け\nがないこと,前記(1)サで認定したとおり,乙第3号証に係る被告の主張等が大
きく変遷等していること(被告は当初,原告代表者が作成した全体構\想計画案
は被告代表者が作成した乙第3号証をほぼなぞっただけのものである旨主張\nしていたのに,原告から矛盾点の指摘を受けるや主張を変遷させ,被告代表者\n本人尋問においても,上記の当初の主張内容を訴訟代理人に説明していないな
どと不合理な供述をしていること),被告代表者の供述等は,本件特許発明を\n着想するに至った経緯について曖昧かつ抽象的な内容に終始していること等
を併せ考慮すれば,その信用性は低いものといわざるを得ない。また,本件特
許発明の発明者が被告代表者であったと認めるに足りる他の証拠も見当たら\nない。そこで,被告の前記主張は採用できない。
さらに,被告は,前記(1)カで認定したとおり,原告代表者がAから電子メー\nルに添付された出願関係書類の案の送付を受けた際,被告代表者が発明者とな\nっていること等につき何ら異議を述べず,本件訴訟に至るまで自らが発明者で
あるとの主張を一切してこなかった点を指摘するが,前記(1)アで認定した原告
の業態からすれば,前記(1)カで認定したとおり,原告が開発した機械を製造す
ることにより経済的利益を得られる限り,特許の取得等についてはこだわらな
いという方針をとることも不合理ではないことからすれば,上記の点から直ち
に被告代表者が本件特許発明の発明者ないしは共同発明者であったと推認す\nることはできず,原告代表者が本件特許発明の発明者であったという前記認定\nを左右するものではない。以上のとおり,本件特許発明の発明者は原告代表者であって,被告代表\者ではない。そうすると,原告代表者が本件特許発明の特許を受ける権利を有する一方,被告は本件特許発明の特許を受ける権利を有さないから,被告による出願は冒\n認出願であって特許法123条1項6号に該当する。したがって,原告代表者\nから特許を受ける権利を承継した原告は,被告に対し,特許法74条1項に基
づく特許権移転登録手続請求権を有する。
◆判決本文
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2018.08.10
平成30(ネ)10019 特許を受ける権利帰属確認本訴請求控訴事件,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年8月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許を受ける権利の帰属確認を求めましたが、知財高裁(4部)は、1審と同じく請求を棄却しました。
前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,1)一審原告は,Aと知り合う前
から本件技術の研究を行っていたが,一審原告自身にはその研究開発を進
めていく資金がなかったため,Aと知り合って以降に,Aに上記事情を説
明し,Aが代表社員を務める一審被告と協力して,携帯電話端末等の民生\n用の技術として本件技術の研究開発を進めていくこととし,その研究成果
である本件発明について本件出願に至っていること,2)本件出願に当たっ
ては,一審被告が本件特許事務所に対して出願手続を委任し,本件出願に
係る願書の「特許出願人」欄には一審被告の名称が記載されており,しか
も,特許出願料,本件特許事務所に対する手数料等の本件出願に必要な費
用は,一審被告が負担していること,3)一審原告は,一審被告の担当者と
して,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたって,本件特許
事務所が作成した願書案の内容を確認してコメントを付したり,本件特許
事務所からの質問に回答するなどし,最終の願書案についても,Aに代わ
って確認し,その願書案のとおりの内容で出願することを了承し,その願
書案中の1枚目の願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に
は一審被告の名称が記載されていたことが認められる。
上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願
人」欄に一審被告の名称が記載されていたことが認められる。
上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願
人」欄に一審被告の名称が記載されていること及び本件出願に必要な費用
は全て一審被告が負担していることを十分に認識し,本件出願について特\n許査定がされた場合には,特許出願人である一審被告が特許権を取得する
ことを理解していたものと認められる。
加えて,一審原告と一審被告との間で本件発明についての特許を受ける
権利の譲渡の対価額について具体的な交渉がされたことはうかがわれな
いものの,他方で,一審原告が一審被告に対して無償で上記特許を受ける
権利を譲渡すべき事情も認められないこと,その他本件出願に至る経緯等
(前記(2))に鑑みると,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出
願時までに,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一
審被告に相当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認める
のが,当事者の合理的意思に合致するというべきである。
イ これに対し,一審原告は,1)願書案についての一審原告の確認対象は,
請求項の技術的な記載事項に限定されており,その他の記載は十分に確認\nしていないし,また,一審原告においては,特許出願手続や願書案の記載
方法について全く知識を有していなかったため,願書案の「特許出願人」
欄に記載される者が本件出願に係る特許を受ける権利を有している者を
も意味する記載であると認識することは,極めて困難であったこと,2)一
審原告は,本件発明についての特許を受ける権利の対価の支払を受けてお
らず,一審原告が無償で上記特許を受ける権利を一審被告に譲渡すべき理
由もないことからすると,一審原告が一審被告に対して本件発明について
の特許を受ける権利を黙示に譲渡した事実はない旨主張する。
しかしながら,上記1)の点については,前記ア認定のとおり,一審原告
は,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたり,願書案の内容
を確認し,最終の願書案についても,Aに代わって確認し,その願書案の
とおりの内容で出願することを了承しているところ,願書案中の1枚目の
願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に一審被告の名称が
記載されていたのであるから,一審原告が願書案の確認を行うに際し,そ
の記載に気付かないはずはないし,また,特許出願について特許査定がさ
れた場合には,願書に「特許出願人」と記載された者が特許権を取得する
ことは,特許出願手続や願書の記載方法について知識がなくても当然に理
解できる事柄である。
また,上記2)の点については,一審原告と一審被告間の本件発明につい
ての特許を受ける権利の黙示の譲渡の合意は,無償ではなく,一審被告が
相当な対価を支払うことを内容とするものであり,仮に一審原告が一審被
告から上記譲渡の対価の支払を未だ受けていないとしても,そのことは上
記合意の成立を妨げるべき事情となるものではない。
したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出願時まで
に,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一審被告に相
当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認められるから,上記
合意により,上記特許を受ける権利は一審被告に移転したものと認められる。
したがって,一審原告の特許を受ける権利の帰属確認請求は,理由がない。
◆判決本文
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2018.03.15
平成27(ワ)31774等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 平成30年3月2日 東京地方裁判所(40部)
冒認者が真の発明者に対して権利行使したことが不法行為に該当するとして550万円の損害賠償が認められました。
まず,原告代表者自身の陳述書(甲11)によれば,原告代表\者は普
通高校を卒業後,本件特許の出願当時まで螺旋状コイルインサートの販
売事業に従事した経験を有するのみであって,螺旋状コイルインサート
の設計や製造に関わった経験はないものと認められ,螺旋状コイルイン
サートに関して原告代表者を発明者とする特許出願や原告が執筆した論\n文等も存在しない(乙25の1及び2,乙26)。
また,原告代表者自身,本人尋問において,タングレス螺旋状コイル\nインサートの技術については「素人なので一切知らない」旨の供述をし
ているとおり(原告代表者〔本人調書8頁〕。以下,同様に本人調書の\n該当頁を併記する。),原告代表者がタングレス螺旋状コイルインサー\nトに関して専門的な知識を有していたことはうかがわれない。
さらに,前記(2)イのとおり,原告は,平成11年当時,被告の製造す
る製品の販売会社にすぎず,螺旋状コイルインサートの製造設備や実験
設備を有していたとは認められない。
したがって,そもそも,原告代表者に本件発明を着想し,これを具体\n化するだけの知識,経験及び環境が備わっていたといえるのか,疑問が
ある。
イ 発明の動機について
原告は,原告代表者が被告の製造するタングレス螺旋状コイルインサ\nートについてどうしたら生産性を上げられるか考え悩んでいたことが本
件発明の動機であると主張する。
しかし,原告代表者の供述によれば,被告の製造するタングレス螺旋\n状コイルインサートの生産性が低いという認識を持ったのは,被告の営
業担当者と飲食を共にしたときに聞いたというのみであり,原告代表者\nは,上記営業担当者の氏名は供述せず,そのような話を聞いた際の具体
的な状況についても明らかにしない。
しかも,原告代表者は,生産効率の低さを聞いたのは本件特許の出願\n後だと思うとも供述し(原告代表者〔16,17頁〕),また,生産効\n率の低さを聞いていたとしながらも,これを改善する方策を検討するに
当たり,被告にどのような問題があって,実際にどのように生産してい
たかという点を「調べてない」と供述している(原告代表者〔20\n頁〕)。
以上のとおり,本件発明の動機に関する原告代表者の供述は抽象的で\n不自然な点が多く,被告のタングレス螺旋状コイルインサートの生産性
の向上が本件発明の動機であったと認めることはできない。
・・・・
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において
提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである
上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのこと
を知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度
の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるもの
と解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月
26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,最高裁平成7年(オ)第16
0号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁参照)。
本件においてこれをみるに,原告の本訴請求は理由がないところ,前記2
(5)に説示したとおり,原告代表者は福島工場において本件発明を知得した\n上,本件特許を出願したものといわざるを得ないのであって,原告による本
件特許の出願は冒認出願であったというべきである。
そして,本件特許の出願をD弁理士に依頼したのは原告代表者自身であり,\n被告の福島工場を訪れたのも原告代表者自身であって,本件特許の出願につ\nいては原告代表者が主体的に関わったものと認められることなどによれば,\n原告代表者が記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをして本件特許出願に\n及んだということもできない。
加えて,原告が本訴提起前に被告から本件特許の出願が冒認出願であると
の指摘を受けながらあえて本訴提起に及んだと認められることは,前記2
(2)シ(イ)及び(ウ)記載のとおりである。
そうすると,本訴請求において原告の主張した権利又は法律関係が事実的,
法律的根拠を欠くものであることはもちろん,原告が,そのことを知りなが
ら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴え
を提起したというべきであるから,本訴の提起は裁判制度の趣旨目的に照ら
して著しく相当性を欠くものと認められるといわざるを得ない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告による本訴の
提起は被告に対する違法な行為というべきである。
(2) 被告の損害発生の有無及びその額
ア 本訴の防御のための弁護士・弁理士費用その他の費用
証拠(乙58〜68,101〜107,122〜125,134〜1
37,142〜143,152〜154(いずれも枝番を含む。))によれば,被告は,本訴事件に応訴するため,弁護士との間で訴訟代理の委任契約を締結するとともに,特許業務法人との間で補佐人の委任契約を締結し,相当額の報酬額を負担したほか,郵送料,謄写費用その他各種手続費用を負担したことが認められるところ,本訴の事案の内容,訴額,審理の経過及び期間,立証の難易度その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,このうち原告の不法行為と相当因果関係のある費用は500万円と認めるのが相当である。
イ 反訴のための弁護士費用
反訴の事案の内容,経過,認容額その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,反訴提起のための弁護士費用のうち50万円を原告に負担させるのが相当である。
◆判決本文
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2017.11.17
平成28(ワ)8468 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年11月9日 大阪地方裁判所
特許権の移転請求が認められませんでした。理由は、「原告発明と本件発明とは,解決しようとしている抽象的な課題は共通していても,その課題の生ずる具体的な原因の捉え方が異なっており,そのために,具体的な課題の捉え方や,課題解決の方向性や主たる手段も異なる」というものです。
(1) 特許法74条1項の特許権の移転請求制度は,真の発明者又は共同発明者
がした発明について,他人が冒認又は共同出願違反により特許出願して特許権を取得した場合に,当該特許権又はその持分権を真の発明者又は共同発明者に取り戻さ
せる趣旨によるものである。したがって,同項に基づく移転登録請求をする者は,
相手方の特許権に係る特許発明について,自己が真の発明者又は共同発明者である
ことを主張立証する責任がある。ところで,異なる者が独立に同一内容の発明をし
た場合には,それぞれの者が,それぞれがした発明について特許を受ける権利を個
別に有することになる。このことを考慮すると,相手方の特許権に係る特許発明に
ついて,自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証するためには,単
に自己が当該特許発明と同一内容の発明をしたことを主張立証するだけでは足りず,
当該特許発明は自己が単独又は共同で発明したもので,相手方が発明したものでな
いことを主張立証する必要があり,これを裏返せば,相手方の当該特許発明に係る
特許出願は自己のした発明に基づいてされたものであることを主張立証する必要が
あると解するのが相当である。そして,このように解することは,特許法74条1
項が,当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者であることと並ん
で,特許が123条1項2号に規定する要件に違反するときのうちその特許が38
条の規定に違反してされたこと(すなわち,特許を受ける権利が共有に係るときの
共同出願違反)又は同項6号に規定する要件に該当するとき(すなわち,その特許
がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたこと)
を積極的要件として定める法文の体裁にも沿うものである。
(2) そこで,まず本件特許発明1の内容等について検討する。
・・・・
ウ 以上のことを踏まえると,本件特許発明1は,便座昇降機を不要とする
課題を解決するために,使用時に便座を上昇させるのではなく,予め便座と便器の\n間に嵩上げ部を設けて便座の位置自体を高くしておき,その嵩上げ部にくり抜き部
を形成し,そこから拭き取りアームを挿入して臀部を拭き取るようにすることによ\nって,使用時の便座昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そし
て,このような課題解決方法に照らせば,本件特許発明1は,便座昇降機が必要と
されていた理由を,便座の位置が低く,便座と便器の間に拭き取りアームを挿入す
る隙間がない点に求め,便座の位置を高くして,便器との隙間を生み出すことによ
って,課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当であり,そのために,
次に述べる原告第1出願の明細書の記載に見られるような便座と便器の間の隙間を
小さくしたり,拭き取りアームの厚さを薄くしたりすることについて特段の記載は
されていない。
そして,以上の本件特許発明1について,本件優先権出願の明細書及び図面には,
本件基礎出願の明細書図面と同一の内容が記載されていると認められる。
(3) 以上を踏まえ,本件特許発明1の発明者について検討する。原告は,平成
24年9月初旬に完成したという原告第1発明と本件特許発明1は同一の発明であ
り,原告第1発明について特許を受けるために原告第1出願を行ったと主張し,こ
れに沿う陳述をしていることから,まず,原告第1出願に係る発明について検討す
る。
・・・
そして,上記の原告の発明に係る臀部拭き取り装置では,紙を取り付けることが\nできる紙つかみヘッド(3)が本件特許発明1の「拭き取りアーム」に該当し,紙
つかみヘッドを移動させる4軸型可動型装置が本件特許発明1の「拭き取りアーム
駆動部」に該当すると認められる。
他方,本件特許明細書によれば,本件特許発明1の「嵩上げ部」は,便器と便座
との間に設けられ,便座全体を上げて便器との間に間隙を設ける部材を意味すると
解され,補高便座のほか複数の支柱状の器具も想定されているところ,原告第1出
願に係る装置は,「水洗式洗浄型便座と便器の間において使用する」(【0009】)
もので,その図2の左側面図及び正面図によれば,便座の下部に薄いガイド板ない
し保護ガイド(6)が設けられ,「実際の取り付けは,標準でついている便座の1c
mのゴム足を除去して,取り付けるため便座の高さは2cmの高くなるだけ」(【0
010】)であるから,少なくともガイド板ないし保護ガイドの部分においては図示
されない便器と便座の間に3cmの隙間が設けられることになる。しかし,それだ
けでは便座全体がどのように上げられるのかが明らかでないから,原告第1出願に
係る明細書や図面において「嵩上げ部」に該当する部材が記載されていると認める
ことは困難である。
もっとも,原告第1出願に係る発明においては,便座全体を3cm持ち上げるこ
とを想定していると解するのが合理的であるから,原告においては,ガイド板ない
し保護ガイド単体又はそれと組み合わせて何らかの形で便座全体を上げることを想
定していた可能性があり,その場合には,その構\造が「嵩上げ部」に該当し,ガイ
ド板ないし保護ガイド内の紙つかみヘッドの移動空間が「嵩上げ部に設けられたく
り抜き部分」に該当する可能性もあり得るところである。\nそうすると,原告は,原告第1出願がされた平成24年9月25日の時点で,原
告第1出願に係る発明により,本件特許発明1を完成させていた可能性があるとい\nうべきである。
ウ もっとも,原告第1出願に係る発明は,同時に,臀部拭き取り装置にあ\nるトイレットペーパーの紙つかみヘッドを限りなく薄くし,3cm程の隙間でも,
容易に臀部の下に差し入れることができるようにすることにより,トイレ使用者が\n一般のトイレの使用時と変わることのない着座位置となるようにして,便座昇降機
の除去を可能としたものとされている。また,併せて,トイレットペーパーを掴ん\nだ紙つかみヘッドを臀部のふき取り位置あたりで80度ほど回転させることで,臀\
部にフィットさせるものとされている。
以上のことを踏まえると,原告第1出願に係る発明は,ヘッドを限りなく薄くし
て,ヘッドを臀部の下に差し入れるのに要する隙間を少なくするとともに,ヘッド\nを回転させることでヘッドが薄くても臀部にフィットするようにし,使用時の便座\n昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そして,このような課題
解決方法に照らせば,原告第1出願に係る発明は,便座昇降機が必要とされていた
理由を,ヘッドの形状やその動作の仕方に求め,それらを工夫することによって,
課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当である。そうすると,原告第
1出願に係る発明と本件特許発明1とは,解決しようとしている抽象的な課題は共
通していても,その課題の生ずる具体的な原因の捉え方が異なっており,そのため
に,具体的な課題の捉え方や,課題解決の方向性や主たる手段も異なることになっ
たと認められる。
(4) そこで次に,原告が原告第1出願に係る発明により本件特許発明1を完成
させていた可能性があることに鑑み,被告が,原告第1出願に係る発明に基づいて,\n本件特許に係る特許出願をしたと認められるかについて検討する。この点について,
被告は,被告代表者が本件特許発明1を完成したと主張し,被告代表\者はこれに沿
う陳述をしている。
ア 前記1での認定事実によれば,被告代表者は,平成24年9月25日午\n前中に,P4と打合せをしている。この打合せの内容を直接に示す証拠はないが,
同日の午後1時に被告代表者がP4に「先ほどは有難うございました。参考までに,\nかさ上げ便座部品の記載されたカタログを送付させて頂きます。」として,補高便座
のカタログを送信していることからすると,被告代表者は,同日午前の打合せにお\nいて,補高便座を用いた発明の説明をしたと推認される。また,翌26日の午後4
時48分にP4が被告代表者にアームがどこから出てくるのか明確にしたいとのメ\nールを送信しており,前日のカタログの送信から本メールまでの間に被告代表者と\nP4が打合せをしたことは何らうかがわれないことからすると,本メールは,前日
25日午前の打合せの際に,被告代表者が補高便座からアームが出る構\造の臀部拭\nき取り装置の発明を説明したのに対して,P4が質問をしたものであると推認され
る。そして,本メールの直後の同日午後5時07分に被告代表者がP4に「補高な\nのでその一部を切り取るか,構造によっては中をくりぬいて,最大6センチメート\nルのすき間でアームを出入りさせたらと,考えています。」と返信していることから
すると,被告代表者は,同月25日午前にP4に対して補高便座からアームが出る\n構造を説明した時点で,既に補高便座を「かさ上げ便座部品」として利用し,補高\n便座を切り取り,又はくり抜いてアームを出すことで便座昇降機を利用しない臀部\n拭き取り装置の着想を得て,本件特許発明1を完成していたと推認するのが相当で
あり,このことは,被告代表者の陳述(乙24)は以上の経緯と整合的である。\nイ この点について,原告は,被告代表者が,同月25日午後6時の原告か\nらのメールを受け取るまでは,本件特許発明1の着想を得ていなかったと主張する。
しかし,前記の被告代表者とP4のやりとりの流れからすると,被告代表\者が当
初にP4に補高便座のカタログを送信したことが,臀部拭き取り装置の開発と関係\nのないものであったとは考え難いから,被告代表者は,同日午前にP4と打合せを\nした時点で,便座をかさ上げしてアームを通すものとして補高便座に着目していた
と認めるのが相当であり,そうである以上,前記のとおり,同日午前の時点で被告
代表者は本件特許発明1の着想を得ていたと推認するのが相当である。\n
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2017.03.31
平成27(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年3月27日 知的財産高等裁判所(3部)
冒認でないとした審決が維持されました。
本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法
123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許
出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継
した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担する
ものと解するのが相当である。
もっとも,そのような解釈を採ることが,全ての事案において,特許権者
が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならない
ことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人
が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推
認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特
許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事
情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなもの
かによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求
人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付
けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程
度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける
事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特
許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くさ
れたと判断されることはないものと考えられる。
以上を踏まえ,本件における取消事由1(発明者の認定の誤り)の成否を
判断するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件発明の発
明者であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まず
は,冒認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(本件では,被告
ではなく,Mが本件発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し,
かつ,これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,その結果を踏まえて,
被告が発明者であると認めることができるか否かを検討することとする。
ア 原告の主張立証について
甲45図面等及び甲21図面について原告は,平成19年5月を作成日とする甲45図面等及び平成21年8月を作成日とする甲21図面を証拠として提出し,これらの証拠は,Mが,水系の取締役に就任する平成21年10月以前に,本件発明の実施に用いられる浄化槽用コンクリート製品に係る図面を作成していたこと,ひいては,本件発明を着想し,具体化していたことを示すものである旨を主張する。
しかしながら,これらの図面に示されているのは,浄化槽用コンクリ
ート枠体を構成する高さ方向に4段に分割された長方形のコンクリート\n枠体の三面図及びベースコンクリートの平面図並びにそれらの寸法等で
あり,当該コンクリート枠体の構築方法等を示すような記載はない。他\n本件発明の特徴的部分は,高さ方向に複
数段に分割して製作しておいたコンクリート板を用い,構成CないしI\nの各工程に従って浄化槽保護用コンクリート体の構築を行うこと,すな\nわち浄化槽保護用コンクリート体の具体的な構築方法にあるのであり,\nこの点については,上記各図面から直接読み取れるものではない。
してみると,仮に,Mが,水系の取締役に就任する以前の時期に甲4
5図面等及び甲21図面を作成した事実が認められるとしても,そのこ
とは,その当時のMが,浄化槽用コンクリート枠体を高さ方向に4段に
分割して構成するというアイデア,すなわち,浄化槽保護用コンクリー\nト体の具体的な構築方法に係る本件発明の着想の背景となり得るアイデ\nアを有していたことをうかがわせる事実にすぎず,これによって,その
当時のMが,本件発明の上記特徴的部分に係る着想を得ていたことが裏
付けられるということはできない。
その他の主張立証について
そのほかに,原告は,Mが本件発明の発明者であることを示す事情と
して,1)M及び原告が中心となって,本件発明の実施に用いられるコン
クリート製品の製造に向けた準備を進めたこと,2)本件出願のための戸
島弁理士との打ち合わせにおいて,Mが本件発明についての説明を行っ
たことを挙げる。
そこで検討するに,まず,上記1) Mが主体となって,有明コンクリートへの浄化槽用コンクリート枠体の製造の発注を行うなどし,その際,有明コンクリートがMを設計者とする甲21図面に基づいて当該コンクリート枠体の図面(甲22図面)を作成す
るなどした経過を指すものであるところ,これらの経過は,本件発明の
完成を前提として,これに用いられる製品の販売等に係る事業を具体化
していく経過として把握すべきものであり,その中で,Mが主体的に活
動していることが,その前提となる本件発明を着想,具体化した者がM
であることを直ちに示すものとはいえない。むしろ,その当時(平成2
2年4月ころ)のMは,水系の取締役を務め,被告と協同して水系の事
業を進めるべき立場にあったのであるから,仮に本件発明が被告によっ
てされたものであるとしても,それを事業化するための活動にMが主体
的に関与することは格別不自然なこととはいえない。したがって,上記
1)の点は,必ずしもMが本件発明の発明者であることを裏付ける事情と
いえるものではない。
また,上記2)の点については,そもそも戸島弁理士に対する本件発明
の説明を行った者がMであることを認めるに足りる証拠がない(被告は,
当該説明を行った者は被告である旨を主張し,戸島弁理士も被告の主張
に沿う供述(丙1)をするのであり,これらを覆して原告の主張を認め
るだけの証拠はない。)。
したがって,上記1)及び2)の事情によって,Mが本件発明の発明者で
あることが裏付けられるとはいえない。
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2017.02. 8
平成27(行ケ)10230 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年1月25日 知的財産高等裁判所
冒認出願の立証責任は出願人側にあるとしつつも、立証の程度は、冒認を主張する側の主張によって変わると判断しました。
本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法1
23条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願
がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者
によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解
するのが相当である。
もっとも,そのような解釈を採ることが,すべての事案において,特許権者
が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないこ
とを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発
明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させ
る上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の
行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及
び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左
右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わ
せる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提
出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なも
ので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し,
その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌
ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはない
ものと考えられる。
以上を踏まえ,本件における取消事由(発明者の認定の誤り)の有無を判断
するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件各発明の発明者
であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まずは,冒
認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(すなわち,被告ではなく,
原告が本件各発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し,かつ,
これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,次いで,被告が原告の主張立
証を凌ぎ,被告が発明者であることを認定し得るだけの主張立証をしているか
否かを検討することとする。
・・・
以上によれば,原告の上記2)の主張のうち,原告が,平成22年1
1月3日ころまでに,本件発明1の方法の実施に用いられる本件機器
を完成させたこと,ひいては,本件発明1を完成させたことについて
は,客観性のある証拠等によって裏付けられているということができ
る。
しかしながら,前記a(a)で述べたとおり,本件機器は本件発明2の
方法に用いられるものとはいえないから,原告が本件機器を完成させ
たからといって,本件発明2の方法を着想し,完成させたことが認め
られるものではなく,他にこれをうかがわせる証拠もない。したがっ
て,原告の上記2)の主張のうち,本件発明2に係る部分は,その裏付
けを欠くものというほかない(そもそも,原告は,原告が本件発明2
の方法を着想し,具体化したことを示す具体的な事情を主張していな
い。)。
ウ 小括
以上の検討によれば,原告は,本件発明1(及び本件発明3のうち,本
件発明1の方法に係る部分)については,原告がその発明者であることを
示す具体的な事情(すなわち,冒認を疑わせる具体的な事情)を主張し,
かつ,これを裏付ける証拠を提出しているものといえる。
他方,原告は,本件発明2(及び本件発明3のうち,本件発明2の方法
に係る部分)については,原告がその発明者であることを示す具体的な事
情を主張しておらず,これを裏付ける証拠も提出していない。そして,原
告が,本件発明1に関しては発明者であることを示す事情を具体的に説明
している(それが可能であった)にもかかわらず,本件発明2については,\nそのような事情を一切説明していないことは,原告が本件発明2を発明し
たことを積極的に疑わせる事情であるといわざるを得ない。
本件発明2について
前記(1)ウで述べたとおり、原告は、本件発明2について原告がその発明者であることを示す具体的な事情を主張しておらず,これを認めるに足
りる証拠も提出していないから,本件発明1の場合とは異なり,被告が行
うべき発明者性の主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるものという
べきである。
しかるところ,被告は,本件発明2の方法を着想し,完成させた経緯に
ついて,平成22年10月から11月ころに,Bの自宅において,透明
な熱収縮チューブ,針金,ライター及びノズル管を用いて,噴出量の調
整が可能なノズル管の弁構\\造を作り出した旨を主張し,Bも「誓約書」
と題する書面(甲42)において,被告が,平成22年10月から11
月ころにB方を訪れた際に,「宇都宮北道路を運転している途中で,ノ
ズルの製法を思いついた」旨を述べ,B方にあった熱収縮チューブ,針
金,ライターと被告が持参していたノズル管を用いてノズル管の弁構造を作り出し,さらに作ったノズル管を用いて野外での噴出実験を行った\n旨を述べ,被告の上記主張に沿う供述をしている。
そして,Bの上記供述は,その内容が具体的で,他の証拠と整合しな
い内容が含まれるものでもなく,その信用性を積極的に疑うべき事情は
ないから,被告側の関係者による供述証拠としてその証拠価値に限界があ
ることを考慮しても,被告の上記主張を裏付ける一応の証拠として評価し
得るものといえる。また,本件発明2は,ノズル管内に弁構造を作るとい\nう点においては本件発明1と基本的発想を同じくしているということがで
きるから,たとえ被告が本件発明1を発明していないとしても,原告らと
同様にノズルの改良に取り組み,相応の問題意識を持っていた被告が,原
告から本件発明1の説明を受け,これに触発されて本件発明2の着想を得
るということは十分にあり得る事柄であるということができる。\nしてみると,被告は,被告が本件発明2の方法を着想しこれを具体化し
たことについて,その具体的な事情を主張し,これを裏付ける一応の証拠
も提出しているものといえるから,少なくとも上記で述べた程度を満たす
だけの主張立証をしているものということができる。
・・・
以上の検討を総合すれば,本件各発明のうち,本件発明2については,そ
の発明者が被告であると認めることができるが,本件発明1及び3について
は,その発明者が被告であると認めることはできない。
してみると,本件各発明の発明者をいずれも被告であると認定し,本件各
発明に係る特許は,発明者でない者の特許出願に対してされたものとはいえ
ないとした本件審決の判断のうち,本件発明1及び3に係る部分は誤りであ
り,他方,本件発明2に係る部分は誤りとはいえない。
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2016.11.22
平成25(ワ)34182 特許を受ける権利確認等請求事件 特許権 平成28年10月24日 東京地方裁判所
着想から完成に至る過程への実質的関与していないとして、共同発明者の一人ではないと判断されました。
特許を受ける権利は,原始的には,発明をした者(発明者)に帰属するところ,
特許出願された発明の発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,そ
の具体的な技術手段を完成させた者をいう。ある技術手段を着想し,完成させるた
めの全過程に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その
過程に複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に
技術的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの者
も発明者(共同発明者)となる。ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲
に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。なぜなら,特許権は,従来の技術\nでは解決することのできなかった課題を,新規かつ進歩性を備えた構成により解決することに成功した発明に対して付与されるものであり(特許法29条参照),特許\n法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課
題の解決を実現するための,従来技術には見られない特有の技術的思想に基づく解
決手段を,具体的構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された発明の構\成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分の完成に寄与した者でなければ,同保護に値する実質的な価値を創造した者とはいい難い
からである(知財高裁平成18年(行ケ)第10048号同19年7月30日判決
参照)。
(2) 原告従業員Aiの情報(知見)について
原告は,原告従業員Aiが本件知見1)ないし4)を有しており,これらを被告従業
員等に提供したことから,同人が本件各発明の共同発明者の一人である旨主張する。
しかし,以下に詳述するとおり,これらの知見は,公知技術にすぎないか,具体
的な技術的裏付けを伴わない単なる願望ないし要望にすぎず,本件各発明の特徴的
部分の着想から完成に至る過程への実質的関与と評価し得るものでないから,同人
が本件各発明の共同発明者の一人であることを根拠付ける理由とはならない。
(3) 本件発明1について
ア 本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係について
本件明細書1の段落【0004】及び【0008】の記載によれば,本件発明1
は,α−GGよりも優れた保湿性を発揮する材料が求められていたこと,α−GG
の従来の製造方法は,手間や時間がかかるなど大量生産に適さず,コストが高くな
るという問題があったことに鑑みて,発明されたものであり,α−GG単独の場合
よりも保湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供するこ
とを目的としたものであって,本件発明1によれば,α−GG単独の場合よりも保
湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供できるとされて
いる。
他方,前記1の認定事実のほか,特表2005−532311号公報(乙4)に\nよれば,本件出願1がされた平成22年5月10日より前である平成17年10月
27日の時点において,GGを化学合成法によって製造することができること,化
学合成法によるGGの製造の際,グルコースとグリセリンとを酸性触媒を用いて反
応させること,GGを化学合成法により製造した場合,反応物中にグリセリンが残
留すること,GG組成物を保湿剤として用いることについては,いずれも公知であ
ったと認められる。
イ 本件発明1−1について
(ア) 本件発明1−1の特徴的部分について
本件出願1の願書に添付した特許請求の範囲(平成25年12月24日付け手続
補正書〔乙1〕による補正後のもの)の請求項1の記載によれば,本件発明1−1
は,1)α−GGとβ−GGとを45〜75:15〜25の質量比で含むこと(以下
「構成1)」という。),2)当該糖組成物中に含まれる全糖の合計量に対するα−GG
の割合が58.4〜65.3質量%で,β−GGの割合が21.6〜24.5質量%
であること(以下「構成2)」という。)を発明特定事項とするものである。
そして,上記アで説示した本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係に
照らすと,本件発明1−1は,糖組成物の一種であるGG組成物を保湿剤とするに
当たり,構成1)及び構成2)をともに充足するところの,α−GGとβ−GGの混合
物からなるGG組成物を用いることによって,α−GG単独の場合よりも保湿性の
向上を図ったことを特徴とするものというべきである(本件明細書1の段落【00
08】,【実施例】〔【0031】以下〕)。
そうすると,本件発明1−1は,構成1)及び2)が同発明特有の課題解決手段を基
礎付ける部分であって,これらの構成が同発明の特徴的部分に当たり,同発明のそ\nの余の発明特定事項は,同発明の特徴的部分とは認めらない。
もっとも,糖組成物中のα−GGとβ−GGの量的関係が構成2)を充足する場合,
当然に構成1)を充足することになるから,本件発明1−1の特徴的部分を画定する
のは,結局,構成2)であるということになる。
(イ) 本件発明1−1の発明者について
上記(ア)の本件発明1−1の特徴的部分を前提とし,原告従業員Aiが,当該特徴
的部分における技術手段を着想し,かつ,特徴的部分の完成に至る過程に技術的関
与した者といえるかについて検討する。
そもそも,化学合成法によりGG組成物を製造することや化学合成法により得ら
れるGG組成物について,原告従業員Aiが何らかの新規かつ具体的な知見を有し
ていたことを裏付ける的確な証拠はない。
むしろ,前記1(1)で認定したとおり,原告が被告に化学合成法によるGG組成物
の製造を依頼したのは,原告は,酵素法によりGG組成物を試作していたものの,
コスト面での難点があり,他方で,原告が自ら化学合成法によってGG組成物を製
造することは困難であったため,他社に化学合成法によりGG組成物を低価格で大
量生産することを委託することとし,候補とした2社から被告を選択したという経
緯があることからすると,原告従業員Aiは,化学合成法によりGG組成物を製造
することについて,新規かつ具体的な知見を有していたものではなく,したがって,
化学合成法により得られるGG組成物についても,新規かつ具体的な知見を有して
いたものではなかったと推認するのが合理的である。
そして,本件明細書1の記載によれば,本件発明1−1における構成2)の数値範
囲は,実施例1ないし3により導き出されたものであることが認められるところ,
前記1の認定事実によれば,これらの実施例は,いずれも被告従業員Aiiを中心と
する被告従業員等が実験的に導出し,その効果を確認したものであって,この過程
に原告従業員Aiが実質的に関与したとみることはできない。
そうすると,本件発明1−1の発明者ないし共同発明者と評価され得る者は,被
告従業員Aiiを中心とする被告従業員等のみであって,原告従業員Aiが同発明の
共同発明者の一人であると認めることはできない。
(ウ) この点,原告は,原告従業員Aiがα−GGとβ−GGを一定比率で含有す
る組成物からなる保湿剤を着想したとか,被告従業員等に示したHPLCチャート
から導き出されたα−GGとβ−GGとの比率が本件発明1−1の構成1)の数値範
囲に含まれていることなどを理由として,原告従業員Aiが本件発明1−1の共同
発明者の一人である旨主張する。
しかし,そもそも,本件発明1−1は,α−GGとβ−GGを含んでなる組成物
のHPLCによる分析方法や,α−GGとβ−GGとをHPLCにより分離する方
法に関する発明ではない。
上記の点をひとまず措くとしても,HPLCチャートのうち,平成20年5月8
日に被告従業員等に示されたもの(甲29の2)は,α−GGとβ−GGのピーク
が分離されているとはいえず,この時点で,原告従業員Aiの技術的関与があった
とは認められない。
他方,平成21年5月1日に被告従業員等に示された甲30のHPLC分析結果
では,各ピークの裾野はつながっているものの,α−GGとβ−GGのピーク自体
は区別できるが,HPLCの条件及び結果は,本件明細書1記載の実施例について
のHPLCとは異なるものである。また,そのα−GGとβ−GGの比率が示され
た分析結果(甲31のHPLC分析結果)は,本件訴訟において初めて被告に示さ
れたもので,甲30のHPLC分析結果とともに示していないこと,その後,同年
11月13日の時点においても,原告従業員Aiは,被告従業員Aivに対し,α−
GGとβ−GGのHPLCによる分離確認方法を問い合わせていること(乙18)
からみても,上記の原告従業員Aiの知見や原告による分析結果(甲30,31)
により,原告従業員Aiが本件発明1−1の特徴的部分について技術的な関与をし
たものとは認めがたい。
もともと,被告従業員Aiiは,原告からGG製造の委託を受けた平成20年5月
8日の時点においても,GG自体は製造したことはなかったものの,類似の物質の
化学合成法によると,α−GGとβ−GGの比率については,概ね7:3になるで
あろうということを,それまでの被告における知見や経験から予想していたもので\nあるし,実際に,その後の平成21年12月7日の打合せにおいて,「GCI見解と
して,液クロでは判断し難い。NMRで確認した結果,α:β=65:35となる。」
とし,α−GGとβ−GGの比率については,概ね当初の予想どおりの結果をNM\nRで確認しているのである。
原告は,この時点でも,被告従業員等がHPLCによる分析は難しい旨を発言し
ていることから,被告にHPLC分析を行う技術力はなく,原告のHPLCによる
分析結果が本件発明1−1に寄与した旨も主張するが,そもそも,HPLCによっ
て分析するという分析方法を単に示唆したというだけでは,本件発明1−1につい
て,共同発明者の一人とみることができるような技術的関与があったとはいえない
ことは明らかであるし,上記のとおり,原告におけるHPLCによる分析も十分な\n結果とはいえない。
そうすると,被告従業員等において,上記経緯を踏まえ,その後も実験,分析を
繰り返した結果,本件出願1に至る平成22年5月10日までの間に,本件明細書
1に記載の実施例に掲げられたHPLC分析の条件及びその結果を見出し,出願に
至ったものと認めるのが相当である。そして,仮に,その際,原告のHPLCによ
る分析を参考にしたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の
策定や具体的な条件や結果を獲得する過程に原告従業員Aiが具体的かつ実効的な
貢献をしたものとは評価し難い。したがって,本件発明1−1の構成1)及び構成2)
について,原告従業員Aiが技術的に寄与したものとは認められない。
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2015.12. 5
平成27(ネ)10075 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
冒認であるとして無効とした原審の認定について、知財高裁はこれを維持しました。被控訴人はアップルです。
発明者とは,当該発明の特徴的部分,すなわち,特許請求の範囲に記載
された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分の完成に創作的に\n寄与した者であると解すべきところ,本件発明において,従来技術には見
られない部分は構成要件Eのみであり,構\成要件FないしHの構成は本件\n出願前の公知技術にすぎないから(後記イないしエ参照),本件発明の特
徴的部分は,構成要件Eの構\成のみである。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成25(ワ)14849
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2015.11.15
平成25(ワ)32394 特許を受ける権利帰属確認請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年10月30日 東京地方裁判所
コンサルタントが共同発明者かが争われました。裁判所は原告の提案は本件発明とは無関係であるとして発明者ではないと認定しました。
本件発明1−1の特徴的部分は,「補酵素Qを母豚に投与することを特徴とする,豚の分娩成績の改善または出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法」という特許請求の範囲に記載された構成のすべてであり,とりわけ,従来技術には見られない当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける要素は,1)補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことのほか,2)これにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことにあることは,前記のとおりである。
b まず,1)補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことにつき,原告が創作的に寄与したといえるかについて検討する。
原告は,平成21年1月から同年2月にかけて,被告に対し,ウサギ実験1及び同2に関するデータを紹介するなどして,母豚を対象に補酵素Q10を含有する飼料を投与し,新生児の健康改善(死亡率低減)効果を検証する試験の実施を提案している。被告は,前年(平成20年)には,家畜に対する補酵素Q10を含有した飼料の展開可能性を広範囲にわたって具体的に検討していたが,日本国内における豚の生産性向上については,同年12月期の営業会議(飼料分野)において,これまでの実績や試験計画の進展等を考慮して,優先順位として劣るものと評価されており,平成22年(2010年)上期に展開することが予\定されていたところ,原告による提案を契機に,豚の生産性向上に係る被告内部での検討が高まったこと,また,それまでなかなか実現に至らなかった農場等での豚の評価試験の実施について,原告の存在が梃子となって説得力を増し,おおやファームでの評価試験の実施や,ひいては本件各発明の完成に至った部分があることは否定できないというべきである。
しかしながら,前記アにおいて認定したところによれば,母豚を対象に補酵素Q10を投与することにより繁殖成績の改善や生産性向上等の効果を期待できることは,原告による被告への提案に先立ち,既に被告において検討されており,ここにいう繁殖成績の改善や生産性向上には,新生児の死亡率の低減も含まれているものと認められるほか,「補酵素Q10の投与により胎児の抗酸化能が向上する効果が見込まれるところ,豚の新生児の死亡率が高い原因として抗酸化能\が低いことによる酸化ストレス障害が挙げられ,補酵素Q10の投与により抗酸化能を高めることで,死亡率低減効果が期待できること,母豚に補酵素Q10を投与すれば,胎盤又は母乳を通じて胎児又は新生児へ到達するため,新生児の死亡率の低減へつながるのではないか」との効果発生機序についての原告の仮説も,原告が被告に同提案をした時点で,母豚の妊娠初期と妊娠後期に母豚にかかる酸化ストレスが高いこと,補酵素Q10が胎児に抗酸化効果をもたらすこと,補酵素Q10が哺乳動物において母体から胎児に移行すること,補酵素Q10が,ビタミンEに比して,生体内の酸化ストレスを低減する効果を有することがいずれも公然と知られていたことからすれば,原告の提案自体が,従来技術に見られない格別に創作的な技術的思想であると評価することは困難である。\n前記のとおり,必ずしも被告において優先順位が高くなかった豚の生産性向上に関する評価試験の実現を促進したことは,原告による貢献というべきではあるが,どちらかといえば事業上の戦略や計画を推進・実現していく過程への貢献であって,従来技術には見られない課題解決手段(技術的思想)を創作していく過程への貢献とはいえない。
したがって,1)補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことについて,原告が創作的に寄与したとはいえない。
c 次に,原告が,2)これ(補酵素Qを母豚に投与すること)により現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことについて,原告が創作的に寄与したといえるかについて検討する。
前記アのとおり,本件明細書1及び同2には,おおやファームでの評価試験の結果が,実施例1及び同2として記載されており,同結果は,産子数の向上,白子・黒子率の低下,子豚の哺乳開始数と離乳頭数の増加,増体重など,要するに分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性の向上に属する成果と認められることからすれば,少なくとも,おおやファームでの評価試験の実施及びその結果が,本件発明1−1の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構成することは明らかである。したがって,原告が,おおやファームでの評価試験の実施につき,その内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたといえるのであれば,本件発明1−1の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者と認める余地がある。
そこで検討するに,原告は,おおやファームでの評価試験の実施について,補酵素Q10の投与量及び投与時期を絞ることが望ましいこと,試験期間を8か月とすること,試験期間中の一定時期に,飼料を全面的に切り替えること,評価項目として出産数,死産数,離乳数のほか,母乳の分析及び飼料中の補酵素Q10の分析を行うことなどを提案し,結果として,これらの多くは,おおやファームでの評価試験の試験計画の概要と大筋において一致しているといえる。
しかしながら,前記アのとおり,当時,豚の繁殖成績を向上させるためには繁殖豚のステージに合わせた飼料管理を要し,妊娠の各ステージにおいて必要とされる栄養上・管理上のポイントが異なることは公知の事実であったこと,被告は,補酵素Q10を含有する飼料の価格政策について,生産性の向上に関連するキーポイントとしては,価格を落とさず,その範囲で可能な配合量で得られる最大限の生産性追求にあると指摘していたことなどからすれば,評価試験の実施において,補酵素Qの投与量及び投与時期を限定してその効果を確認することは当然に検討されるべきことであるし,対照区を限定できないと指摘されたおおやファームにおいて評価試験を行うためには,試験期間中の一定時期に飼料を全面的に切り替えることも,有力な選択肢として当然に検討されるべき事項である。出産数,死産数,離乳数は,豚の分娩成績と出生後の成長・生産性を評価する項目として当然に選択されるべきである。したがって,仮に,原告がこれらの点について被告やおおやファームに先立って提案していたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたとは評価し難い。\nまた,母乳中や飼料中に存する補酵素Q10の含有量を分析することは,それ自体が分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性の向上に属する成果ではなく,試験結果と補酵素Q10との関連性を基礎付けるための補助的な評価項目というべきであるから,原告がこの点を発案していたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたものとは評価し難い。
試験期間を8か月に設定した点については,既に認定したとおり,原告が,試験の終了時期と本件契約の期間満了時期を近接させることにより,同契約の更新に係る交渉が容易になるとの考えから提案したものであり,格別の技術的意義を有するものとは認め難いから,この点も評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたものとは評価し難い。
したがって,2)補酵素Qを母豚に投与することにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことについても,原告が創作的に寄与したとはいえない。
d 以上によれば,原告は,本件発明1−1の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえないから,本件発明1−1を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(イ) 原告が本件発明1−1の発明者又は共同発明者と認定できない以上,本件発明1−1の構成に加えて,更に発明特定事項を付加した本件発明1−2ないし本件発明1−10を単独で発明した者であるとも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(ウ) 本件発明1−11の特徴的部分は,「補酵素Qを20ppm以上含有する母豚用飼料」との特許請求の範囲に記載された構成のすべてであるが,その理由は,本件明細書1の記載からして,本件発明1−11は,豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を現実に挙げ得る母豚用飼料中の補酵素Qの含有量を明らかにしたものと認められるという点にある。そして,本件明細書1の記載によれば,かかる効果を現実に挙げうる補酵素Qの含有量は,おおやファームでの評価試験及び全畜連での評価試験によって明らかにされたものと認められる。したがって,おおやファームでの評価試験,全畜連での評価試験の実施及びこれらの試験の各結果が,本件発明1−11の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構\成することが明らかである。
しかしながら,原告が,おおやファームでの評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたといえないことは前記のとおりであるし,全畜連は,被告が独自に開拓した試験実施先であって,その評価試験の概要の策定に原告が関与したことを認めるに足りる的確な証拠もないから,原告は,本件発明1−11の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえず,本件発明1−11を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(エ) 前記のとおり,本件発明2は,本件発明1との重複を回避し,差別化するために,その方法,投与期間,補酵素Qの含有量を限定したものと認められる。そして,本件発明1の明細書(本件明細書1)に記載がなく,本件発明2の明細書(本件明細書2)に記載されている部分は,ロッセ農場での評価試験の結果を実施例5及び同6として記載した部分であるから,ロッセ農場での評価試験の実施及びその結果が,本件発明2の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構成することが明らかである。\nしかるところ,ロッセ農場は,被告が独自に開拓した試験実施先であって,その評価試験の概要の策定に原告が関与したことを認めるに足りる的確な証拠もない(ロッセ農場での評価試験において,7,8回まで妊娠した場合の給餌効果を確認することが検討された点については,原告の提案が反映されている可能性があるが,本件明細書2の記載をもっても,同提案が本件発明2の特徴的部分の完成に寄与したかは判然としないというほかなく,同提案のみをもって,原告がロッセ農場の評価試験の実施に創作的に寄与したとは認め難い。)から,原告は,本件発明2の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえず,本件発明2を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(オ) したがって,原告は,本件各発明のいずれについても,当該発明を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
◆判決本文
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2015.06.29
平成26(行ケ)10206 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月24日 知的財産高等裁判所
珍しい無効理由です。特38条(共同出願要件違反)を理由に無効とした審決が維持されました。
原告は,仮に,本件設計図を見た後に,Aが放出孔や薬剤袋との位置関係が
課題解決原理であると着想し,具体化したとしても,本件発明の課題解決原理を着
想したのはAのみということになるから,本件発明の発明者はAであると主張する。
確かに,Bが本件設計図において放出孔を外袋の上方に定めたのは,上方に設け
た方が衣服に直接かかる二酸化塩素が少なくなり,衣服が漂白されるおそれが少な
くなると考えたからであり(前記2(6)),Bは,CL−40の内袋の量について特
段CL−30の内袋の量から変更する必要があると考えていたものではなく(弁論
の全趣旨),本件設計図作成の際に外袋に薬剤袋を封入した試作品を作成したことも,
外袋の放出孔と薬剤袋の厚み方向の位置関係について特段検討したことがあるとも
認められない。また,審判での証言内容をみても,Bが,本件設計図を送信した当
時,外袋と内袋との間に隙間を設け,放出孔を同隙間部分に設けることの技術的意
義について十分に理解していたとは認められない。\nしかし,CL−40はCL−30の改良品という位置づけであるから,CL−4
0の外袋には不織布入りの薬剤袋(内袋)を封入して完成品とすることは当事者の
間で当然の前提となっていたものである。そして,前記のとおり,当時のCL−3
0の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gというCL−40の薬剤袋の規定
分包薬剤量(7g)よりも少ないものであり,本件設計図の外袋を試作し,CL−
30の薬剤袋と同様の薬剤袋を当該外袋に入れさえすれば,製品の下部においては
薬剤の重みと厚みのため内袋と外袋は接しているが,上部においては内袋と外袋の
間に隙間ができ,その部分に放出孔が位置するという発明特定事項hの構成を備え\nた製品となるのである。なお,被告も,本件設計図の作成に先立ち,平成23年3
月7日及び同月22日にはサンプルとしてCL−30をエンブロイから購入してお
り(甲39,75),当時の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gであったと
ころ,Bは,CL−40においてCL−30と異なる内袋を使用する必要があると
の認識をもっていたものではないから,試作品を作成しなくとも,本件設計図の外
袋にCL−30の内袋を封入すれば,上部においては内袋と外袋の間に隙間ができ,
その部分に放出孔が位置するということは当然に推測できたものといえる。
そうすると,完成したCL−40の試作品の外袋と薬剤袋との間に隙間があり,
その隙間に放出孔が位置するという構成(発明特定事項h)となることに着目し,\n同構成により二酸化塩素の除放を可能\とするという技術的意義自体に気が付き,本
件発明1を完成させたのがAであるとしても,それはBの創作した外袋により生じ
た発明特定事項hの構成についての技術的意義を発見したものであり,Aが単独で\n本件発明1の「創作」をしたものとはいえない。そして,Bは,前記のとおり別な
技術的理由に基づき,上記の外袋に構成に想到したとしても,少なくともそのよう\nな構成を具体化する上ではBの着想し,具体化した放出孔の位置が貢献したことに\nなるから,原告の上記主張は,Bが本件発明の共同発明者であることを否定する理
由とはならないというべきである。
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2015.04.22
平成25(ネ)10100 特許を受ける権利確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成27年3月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁は、発明者の認定について、地裁の判断を取り消しました。
前記(1)の認定事実(以下,単に「認定事実」という。)によれば,本件着想及びその具体化に関するAの関与について,概要,次のとおりの事実を認めることができる。
すなわち,1)Aは,平成21年2月ころ,本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分であるビニル基導入・放射線照射の着想を得て,放射線には,人工骨の母材であるコラーゲンを劣化させ,強度を低下させる効果もあるが,高密度化したコラーゲン人工骨であれば,放射線による母材劣化の効果は限定的であろうと予想し,新しい研究テーマとして取り組む価値があるものと考えたこと(認定事実ウ),2)Aは,Bら本件共同研究の研究担当者も参加した平成21年6月2日の本件コラーゲン会議において本件着想を発表し,控訴人,被控訴人及び北大の役割分担を含む研究実施体制案を提案したが,本件共同研究第1期の研究内容としては,Aの提案は採用されなかったこと(同オ),3)Aは,本件着想をまず控訴人におけるポリ乳酸の研究において使おうと考え,平成21年度における控訴人の単独研究のテーマとして提案し,採用され,研究を進めた結果,遅くとも平成22年3月ころまでに,ビニル基を導入したリン酸カルシウムとポリ乳酸の複合体にγ線25kGyを照射して行った3点曲げ試験の結果,γ線を照射したものは,曲げ弾性率が
高いこと,すなわち,歪みにくいという強度特性の効果が認められるという知見を得たこと(同カ,ク),4)そこで,Aは,コラーゲン人工骨においても同様に機械的強度が高められるであろうと予想し,同年4月23日,本件共同研究第2期の研究内容として,本件着想をコラーゲン人工骨において具体化することを被控訴人の研究担当者らに提案し,採用され,放射線照射量の最適値を得るための実験をすることになったこと(同ケ),5)Aは,Bから,本件共同研究は,Bの研究室の学生Sの卒論研究を兼ねるため,積極的に指導しながら実験者として使ってほしいとの依頼を受け,Sに対し,本件共同研究に従事するために必要な基礎的な知識を教え,利用する放射線については,高分子の架橋は25kGy以上が普通であること,架橋反応は線量でほぼ決まり,線量率効果はそれほど大きくないことなどを説明した上,放射線照射量の最適値を得るために必要な作業や実験をSに手伝わせることにしたこと(同コ),6)Sは,平成22年10月17日,AとCに対し,ビニル基を導入したリン酸カルシウム/コラーゲン複合体に50kGyのγ線を照射すると,ビニル基を導入していないものに比べて著しく強度が向上した旨の報告をしたこと(同サ),7)Sは,実験条件をめぐってA及びCと意見交換をしながら実験を進めたこと(同シ),8)Sは,平成23年1月11日,AとCに対し,電子線を用いることで母材の劣化効果が抑えられたが,それ以上に界面強化効果が現れなかったこと,また,50kGy以上の照射は母材劣化が著しく強度が低下したことについて報告をし,意見交換をしたこと(同ス),その後,AとCが中心となって,共同発明を前提とした特許出願の準備が進められたこと(同スないしソ),以上の事実が認められる。\nそして,これらの事実に照らしてみれば,本件着想はAによるものであり,その具体化に当たっても,Aは,Cと共に,Sに対し,個別,具体的に指導をし,作業や実験に当たらせていたものであり,その結果,遅くとも平成23年2月初めころまでには,本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分が具体的・客観的なものとして構成され,完成に至ったものと認められる。\n
◆判決本文
◆原審はこちら。平成24(ワ)32450
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2013.04.12
平成24(行ケ)10280 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月28日 知的財産高等裁判所
裁判所は、本件発明が何でそれがどの段階で完成しているか検討して、原告の発明者Bの単独発明と認定しました。
原告は,本件において, B が発明者であることの主張立証責任は,特許権者である被告にあり,原告は,冒認を疑わせる具体的な事情の内容を十分に主張立証していると主張する。なるほど,冒認又は共同出願違反を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,形式的には,特許権者が負担すると解すべきであるとしても,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であること」は,先に特許出願されたという事実により,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。本件においては, B は,遅くとも B メールを作成した平成15年11月14日には,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想である甲6発明を実質的に知得していたものと認められるから,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想を知得した上で先に被告が特許出願したことにより,被告が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であることは,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。この点に関し,原告は,本件添付ファイルに記載された発明が本件発明であり,本件添付ファイルに記載された発明は A が着想したものであることをもって, Aが本件発明の発明者である旨を主張するものであるところ,本件添付ファイルに本件発明が記載されているとはいえないことは,前記3のとおりであるから,原告のかかる主張立証が有効な反証といえるものでないことは明らかであるし,他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。よって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,本件発明においては,トリガ信号にIDを含めるという着想さえで
きれば,それを具体化することは当業者にとっては自明であったとして,トリガ信号にIDを含めるという着想を行った A が本件発明の発明者又は共同発明者の1人に当たると主張する。しかし,発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうから(特許法2条1項),真の発明者又は共同発明者といえるためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要である。これを本件についてみると,前記3(1)のとおり,本件添付ファイルには,受信機に送られる「各トリガのID情報」が,「TAG」(IDタグ)に対する信号である「トリガ信号」と同じものを意味する旨の記載やこれを示唆する記載があるとはいえず,したがって,本件添付ファイルには「トリガ信号にIDを含める」ことが記載されているとはいえない。よって,原告の上記主張は,前提において理由がないものである。
さらに,前記1(2)のとおり,本件発明は,トリガ信号発信器が,それぞれ異なる特性を有するトリガ信号を出力するとともに,トリガ信号を受信したIDタグが,受信したトリガ信号を特定する情報とともにID番号を出力することにより,IDタグが,どのトリガ信号発信位置をどのように通過したかを知ることができるものである。すなわち,本件発明は,「トリガ信号にIDを含める」とともに,それを受信したIDタグが,(リアルタイムで)トリガ信号のID情報と,IDタグ自身のID番号を出力することにより,IDタグの現在位置(すなわちトリガ信号が発信されている場所)の把握を可能にするものであり,「トリガ信号にIDを含める」ことのみが,本件発明における課題を解決するための具体的な着想ということはできないから, A が本件発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえない。なお,前記2(1)のとおり,乙5には,IDタグを起動するためのトリガ信号にブース番号を載せることによりトリガ信号の特性を入場者管理装置(トリガ発信器)ごとに異ならせる構成が開示され,トリガ信号にIDを含めることが記載されており,また,乙6にも,「トリガ信号にブース番号と時刻をのせて発信させ,ID固有番号タグはそれを受信してメモリーに記憶させる」など,トリガ信号にIDを含めることが記載されていることに照らすと,トリガ信号にIDを含めることは,被告の先行技術というべきものである。よって,原告の上記主張は,いずれにせよ,採用することができない。\n
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2013.03.24
平成24(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所
共同発明か否かが争われました。裁判所は共同発明でないとした審決を維持しました。
ある特許発明の共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である。特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。したがって,本件においては,審判請求人である原告が,自らが共同発明者であること,すなわち,本件発明1〜6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて,主張立証責任を負担するものというべきである。\n
・・・・
イ 本件発明1〜3は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構\成することにより,二重瞼を形成するために従来技術において必要とされた細かい作業や慣れを不要とし,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡が残したりすることなく,簡単にきれいで自然な二重瞼を安全に形成できるというものであるから,本件発明1〜3の上記特徴的部分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構\成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼\り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要するものと解するのが相当である。
(3)本件発明4〜6の特徴的部分の完成を基礎付ける事情
ア前記(1)によれば,本件発明4の特徴的部分は,本件発明1又は2の「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点であると認められる。本件発明5は,本件発明4の破断部を,剥離シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成したものにすぎず,本件発明6は,本件発明4又は5の剥離シートがシリコンペーパー又はシリコンを施したフィルムであるものにすぎず,いずれも,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特段の技術的意義を有するものではない。したがって,本件発明5及び6には,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はない。イ本件発明4〜6は,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼\付した」構成とすることにより,テープ状部材に把持部や離型紙を設けなくてもテープ状部材の粘着材が指や他の物品に付着することがなく,また,当該二重瞼形成用テープを使用する際には,当該二重瞼形成用テープを左右両側に引っ張るだけでテープ状部材が延びた状態で露出することから,本件発明1〜3に係る二重瞼形成用テープよりもさらに使いやすいという点に技術的意義があるものであるから,本件発明4〜6の上記特徴的部分が完成したといえるためには,この技術的意義を確認したこと,すなわち,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼\付した」構成とした二重瞼形成用テープを引っ張った時には,その長さ方向への引っ張り力に対して,テープ状部材が二重瞼形成のために必要かつ十\分な程度の長さに至るまで延びたままの状態(切れない程度の強度を有している状態)において,剥離シートが破断部において容易に破断しテープ状部材から剥離して,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することを確認したことを要するものと解するのが相当である。
3 本件発明1〜3に係る原告の共同発明者性について
(1)原告の供述の信用性について
原告は,本件発明1〜3の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを基礎付ける事実として,本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであると主張し,原告の供述はこれに沿う。すなわち,原告は,原告本人尋問において,要旨次のとおり供述している。「原告と被告は,平成12年の春頃,プレオ社の玄関の応接室のところで,両面テープ(3M社製#1522)をアイメイク関係で二重瞼に使えるのではないかという話をした。その時点では既に,原告,被告及びAの3人でプレオ社を辞めて新しい会社を作ることが決まっており,もし商品ができた場合は,新会社で商品にしようということを約束していたので,それ以上の話はしていないし,実際に両面テープを瞼に当てるなどの実験はしていない。その後,原告と被告は,この両面テープをどういう商品にするかについて,喫茶店で何回か打合せをしたことがあり,被告の車の中で1回話をしたことがある。被告の車の中で話をした際には,両面テープをどういう商品にするかという話はしておらず,また,両面テープのサンプルも見ていない。被告の車の中で話したことは,新しい会社をどういう会社にするかということである。」しかし,原告の上記供述は,容易く信用することができない。その理由は次のとおりである。
ア本件発明1に係る商品の開発意図について
上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では既に,新たに開発する商品を新会社の商品とすることが決まっていた旨を述べている。しかし,原告は,甲1(審判において提出された原告の陳述書)では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープはプレオ社の新商品として開発する予定であった旨を述べている。すなわち,甲1には,要旨以下の記載がある。「詳しい時期は忘れたが,平成12年頃,被告が何かの拍子に両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切って引っ張ったところ,両面テープが長く伸びた。長く伸びた両面テープを見て,被告から「何か新しい化粧品雑貨等に使えないか」という話が出たので,原告と被告とで話を続けているうちに,「二重瞼形成用素材として使えないか」ということになった。当時,プレオ社では,二重瞼を形成するための「液状のり」を取り扱っていたが,二重瞼を作るのに面倒で手間がかかり,売れ行きも良くなく,新商品を開発できないかと二人で話をしていたこともあり,その両面テープで瞼を貼\り付け,二重瞼形成用素材にできないかという話になった。その後も二人でいろいろ話をして,3M社製の両面テープ素材を前提とした二重瞼形成用テープをシリコンシートで挟み込み,伸ばしやすいようにシリコンゴムに切れ目を入れるなどの発明の基本的な骨格ができあがった。もっとも,その後プレオ社の業績が悪くなり,両面テープの開発が具体的に進展することはなかった。平成12年夏頃,プレオ社から原告に対し,会社の業績も悪いことから退職して27もらえないかという話があった。これを聞いた被告とAが原告に同調し,3人でプレオ社を辞めて新たに事業を立ち上げようということになった。平成12年9月の新会社設立当初は,お金を稼ぐことで手いっぱいであったため,「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発にすぐに着手することはできなかったが,原告は,近い将来新会社で製造販売することを考えていた。「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発について具体的な協議を始めたのは,平成13年1月に至ってからである。」甲1の上記記載によれば,原告が本件発明1の着想を得たとする時点(原告本人尋問によれば,平成12年の春頃)では,原告と被告は,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを,売上げ不調のプレオ社の従来商品に代わる新商品としようという話をしたということになる。これに対して,原告本人尋問では,上記のとおり,平成12年の春頃には既に新会社設立の話が決まっており,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の商品とすることは既定の事実であったというのである。原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想に係る商品をプレオ社のために開発するか新会社のために開発するかという開発意図について,供述が変遷し,相互に矛盾するということは,極めて不自然である。イ新会社の商品とすることが話し合われたか否かについて上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の商品とすることは既に決まっていた旨を述べている。しかし,原告は,甲39(本訴において提出された原告の陳述書)では,平成12年の春頃に原告と被告が上記の話をした正にその際に,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社28の商品として開発することを決めた旨を述べている。すなわち,甲39には,要旨以下の記載がある。「具体的な時期は覚えていないが,平成11年の末頃,原告は,プレオ社の社長から退職勧奨を受け,被告とAに相談した結果,3人でプレオ社を辞めようという話になったが,すぐに辞める必要はない,退職金のこともあるから3人で組合を作って交渉しようという話になった。その後,具体的な時期は覚えていないが,平成12年になってから,3人でプレオ社を退職して新会社を作ろうという話になった。最終的には,平成12年夏頃,プレオ社からの退職が具体化した。具体的な時期は覚えていないが,平成12年の春頃,被告が原告の机のところに(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。),はさみで短冊状に切った両面テープ(3M社の#1522)を持ってやってきた。被告は,短冊状に切った両面テープを原告に見せながら,「このテープは引っ張ると伸びるけど,何か新しい商品に使えないだろうか。」という話をしてきた。被告は,「アイメイク品として何かに使えないか」といった話もしていた。その際に,いろいろな話をしている中で,原告と被告のどちらからともなく「両面テープを瞼に貼り付ければ,二重瞼を作るものに使えるのでは?」「二重瞼テープにしよう」ということになった。退職問題が進展している最中のことだったので,「このアイデアはプレオ社には内緒にしておこう」「新会社の商品としよう。」ということになった。」原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話の際に,その着想に係る商品を新会社の商品として開発することを決めたのか,それとも既に決めていたのかという点について供述が変遷し,一貫しないということは,不自然である。
ウ 平成12年春頃の話をしたとする場所について
上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年の春頃に原告と被告が両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話した場所は,プレオ社の玄関の方と述べているのに対し,甲39では,原告の机のところ(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。)と述べている。原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1〜3の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話をした場所について,供述が一貫しないというのは不自然である。以上のとおり,原告が平成12年の春頃本件発明1の着想を得たとする原告本人尋問における原告の供述は,重要な点において,それ以前に作成された原告の陳述書(甲1,39)の記載内容から変遷しており,一貫しないものであるから,その供述を容易く信用することはできない。したがって,原告の上記主張(本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細かく短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであるとの主張)は理由がなく,他に,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2)原告の供述を前提としても原告が本件発明1〜の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえないこと
仮に,原告と被告が平成12年の春頃両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実があったとしても,原告の供述によれば,その際には,二重瞼形成用テープにしようという話をしただけで,それ以上の話はしておらず,また,実際に両面テープを二重瞼に当てるなどの実験はしていないというのである。また,その後原告は被告と喫茶店で何回か打合せをした旨供べているものの,打合せの具体的な内容については何ら言及されていない上,被告の車の中で1回話をしたことがあるが,そこでも両面テープをどのような商品にするかについての話はしていないというのである。そうすると,原告の供述を前提としても,本件発明1の着想に係る原告の関与としては,平成12年の春頃,原告と被告との間において,伸縮性のあるテープが二重瞼形成用に使えるのではないかといった極めて漠然とした話がされたという程度のものすぎず,この程度の関与は,仮にあったとしても,単なる思いつきのレベルを超えるものではなく,これをもって,本件発明1の特徴的部分が完成したものと認めることはできない。すなわち,前記2(2)のとおり,本件発明1〜3の特徴的部分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構\成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼\り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要し,このような確認をすることなく,単に,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」を二重瞼形成用テープとして使用することを着想しただけでは足りないというべきである。これを原告の供述に係る原告の関与についてみると,原告は両面テープを二重瞼に当てるなどの実験もしていないというのであるから,原告が,実際に,両面テープによって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認していないことは明らかである。したがって,原告の供述を前提としても,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえない。
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2011.11. 1
平成22(ワ)2863 特許を受ける権利の確認等請求事件 平成23年10月28日 東京地方裁判所
冒認を理由に一部の請求項についての特許を受ける権利の帰属の確認を求めました。裁判所は、一部の請求項についても訴えの利益は認められるとしましたが、発明者でないとして請求を棄却しました。
以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。
・・・・
このことからみて,本件発明2−1及び2−3の特徴的部分は,「前記巻戻機の下流側に配されて前記コイル材から巻き戻された前記マグネシウム合金シートを所定温度に加熱する加熱炉」にあるといえる。(イ) 前記のとおり,かかる特徴的部分は,本件発明2−1及び2−3と本件圧延技術の相違点でもあり,本件仕様書に記載された本件圧延設備と本件発明2−1及び2−3に係る圧延設備とでは,巻取機の下流側に配置された加熱炉を有するか否かの点において明らかに構成が異なっているから,本件仕様書の交付のみでは,原告から被告大野ロールに対し,前記本件発明2−1及び2−3の特徴的部分について開示があったということはできないし,ほかに,原告から被告大野ロールに対し,上記特徴的部分について開示があったことを認めるに足りる証拠はない。\n
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2010.12. 6
平成21(ワ)297 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月18日 大阪地方裁判所
特許を受ける権利の移転が認めれるかが争われました。裁判所は承継自体が認められないとしましたが、念のため検討するとして、特許法はそのような手続きを予定していないと判断しました。
原告の被告に対する本件各特1 許権についての移転登録請求は,主張に係る各発明者から,原告あるいは旧デーロスにその特許を受ける権利を承継した事実が認めらず,したがって上記各請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないことは上記1で認定判断したとおりであるが,仮に原告が,本件発明1ないし3について,各発明者から特許を受ける権利を承継した事実が認められたとしても,本件の事実関係のもとでは,その請求をそもそも認める余地はないので,以下において念のためその点について判断を示すこととする。(2) すなわち特許を受ける権利を有する者は,特許法の規定に従って,特許出願をして特許登録を受けることにより,特許権者となることができる。特許を受ける権利は,発明と同時に発生し,発明者に原始的に帰属する。この権利は移転することができるから,特許を受けられるのは,発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)に限られる(特許法29条1項柱書,33条1項)。そして,特許法は,発明者等でない者による特許出願(以下「冒認出願」という。)については拒絶査定すべきこと(同法49条7号),冒認出願に基づいて特許登録がされた場合には特許が無効とされること(特許法123条1項6号)をそれぞれ規定するとともに,発明者等の救済として,冒認出願を先願から除外する規定(29条の2括弧書き,39条6項)及び新規性喪失の例外とする規定(30条2項)を設け,一定の条件の下で発明者等が特許出願することにより特許を受けられる場合があることを規定しているが,これはいずれも冒認出願による特許の無効を前提に,発明者等に別途に特許を受ける方法を残しているにすぎないものである。以上からすると特許法の規定は,冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には,当然には,発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解される。\n
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2010.12. 1
平成21(行ケ)10379 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月30日 知的財産高等裁判所
冒認の主張について、発明者側にあるとの判決もありましたが、この事件では「個別具体的に判断される」として、立証不充分と判断されました。また、偽造ないし変造した証拠や虚偽の陳述ないし証言がされることのないよう,十分に留意・・」と当事者および代理人に対しても付言がなされています。
当裁判所は,123条6号所定の「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について,原告において,立証を尽くしたとはいえないから,本件特許は,無効とすべきものであると判断する。その理由は,以下のとおりである。1 冒認出願に係る事実の主張立証責任ないし主張立証の程度について特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」旨,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」旨,及び34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」旨を,それぞれ規定し,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定する。同規定に照らすならば,特許出願に当たり,同要件に該当する事実が存在する旨の主張,立証は,出願人において負担すると解するのが合理的である。このことは,36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることとも整合する。ところで,123条1項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)を,特許無効事由の一つとして挙げている。同規定によれば,「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実が存在することの主張,立証は,無効審判請求人が負担すると解する余地もないわけではない。しかし,このような規定振りは,同条の立法技術的な理由に由来するものであることに照らすならば,無効事由の一つを規定した123条1項6号が,29条1項における主張立証責任の原則を変更したものと解することは妥当でない。したがって,123条1項6号を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,少なくとも形式的には,特許権者が負担すると解すべきである。もっとも,123条1項6号を理由とする特許無効審判における主張立証責任の分配について,上記のように解したとしても,そのことは,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」との事実を,特許権者において,すべての過程を個別的,具体的に主張立証しない限り立証が成功しないことを意味するものではなく,むしろ,特段の事情のない限り,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」ことは,先に出願されたことによって,事実上の推定が働くことが少なくないというべきである。無効審判請求において,特許権者が,正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度,具体的に主張立証すべきかは,無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるといえる。以上のとおり,正当な者によって特許出願がされたか否かは,発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か,発明が専門的な技術,知識,経験を有することを前提とするか否か,実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か,発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか,発明者と主張する者が複数存在する場合に,その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか等,事案ごとの個別的な事情を総合考慮して,認定すべきである。・・・以上によれば,原告の主張,すなわち,「Cが,本件発明1のうち二つの分離片を備えたC第1発明,C第2発明を発明し,原告が,Cから,これらの特許を受ける権利を譲り受けたものであり,また,原告が,C第1発明,C第2発明をもとに,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明した」との主張は,極めて不自然であり,採用の限りでない。そうすると,本件において,特許権者である原告は,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について,合理的な立証を尽くしたとはいえない。したがって,本件特許は,123条1項6号に該当し,無効とすべきものであり,同旨の審決の判断に誤りはない。(なお,仮に被告代表者が原告と共同発明者であるとすれば,原告単独による本件特許の特許出願は,38条の規定に違反するものとして123条1項2号の無効理由を有することになるが,いずれの無効理由に該当するかはさておいて,少なくとも,原告がCの発明の特許を受ける権利を譲り受け,また自ら発明した,との原告の上記主張事実について,立証を尽くしたものとはいえない。)。
5 付言
本件無効審判において,双方から提出された証拠中には,改変されたことが明らかな証拠や,立証事実との関係が吟味されていない証拠が,少なからず存在する。例えば,被告から提出されたセイチョウ工業作成の2005年(平成17年)2月7日付け納品書(甲6)には,セイチョウ工業の住所として,「宮城県大崎市・・・」と記載されていた。しかし,セイチョウ工業作成の同年11月30日付け請求書(甲17)には,セイチョウ工業の住所として「宮城県古川市・・・」と記載されており,甲79の1,2によれば,宮城県において,古川市が周辺の町と正式に合併して大崎市となった日は,平成18年(2006年)3月31日であることが認められることに照らすならば,2005年(平成17年)2月7日付け納品書(甲6)の日付については,改変された疑いを免れない。当事者及びその代理人は,審判手続及び訴訟手続において,偽造ないし変造した証拠や虚偽の陳述ないし証言がされることのないよう,十分に留意して,正当な証拠に基づいて,適正な判断を求めることが要請される。\n
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2010.08.11
平成21(ワ)184 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年07月09日 東京地方裁判所
着想やその具体化の過程へ関与していないとして、発明者でないと判断されました。
発明者とは,発明(自然法則1 を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの〔特許法2条1項〕)を完成させるための精神的作業を行った者をいい,また,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照)から,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構\成する創作活動に関与した者を指すというべきである。そのため,当該発明について,例えば,管理者として,部下の研究者に対して一般的管理をした者,一般的な助言・指導を与えた者,補助者として,研究者の指示に従い,単にデータを取りまとめた者若しくは実験を行った者又は発明が完成した後に関与した者等は,発明者には当たらない。また,発明者となるためには,1人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,一般的・連続的な協力関係の下に,それぞれが重要な貢献をなすことを要するというべきである。以上の観点から,本願発明の内容及び原告の関与の程度を総合考慮して,原告が本願発明の特許請求の範囲の請求項1及び2の発明(以下「本願発明1及び2」という。)の発明者に当たるか否かについて,検討する(本願発明の特徴的部分が特許請求の範囲の請求項1及び2の発明部分にあることは当事者間に争いがない。)。・・・・したがって,原告は,本願発明1及び2の特徴的部分について着想した者ではなく,また,上記(3)キで認定したように,原告が本願発明に関するSi抽出実験を開始したのは,本願発明が完成した●(省略)●より後の●(省略)●であるから,原告は,着想やその具体化の過程へ関与しているということはできず,本願発明の発明者と認めることはできない。なお,原告は,本願発明の完成の過程において,●(省略)●ことにより,本願発明の特徴的部分につき創造的・主体的に貢献したと主張するが,原告が主張する対策は,いずれも本願発明が完成したと認められる●(省略)●以後の同年●(省略)●に実施された実験におけるものである上,いずれも実験方法や実験器具に関することで本願発明1及び2の特徴的部分とは直接関係のないことであるから(上記(2)イ,で認定したように,反応容器の形態は本願発明の必須の条件ではない。),原告主張の上記事実は前記判断を左右するものではない。
◆判決本文
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2010.06.12
平成21(行ケ)10213 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年04月27日 知的財産高等裁判所
新規事項なし、冒認違反無しとした審決が維持されました。
本件発明は,「有精卵の生死およびその発育状態を,非破壊にて,検査員の判断基準により近く,かつ,確実に判定することを目的としている」(本件明細書【0004】)ものであり,甲10の2の「7.謝辞」欄に,「本研究をすすめるにあたり,評価サンプルや実験場所をご提供頂き,また,目視検査の内容についてご指導を頂きました(財)阪大微生物病研究会観音寺研究所殿の皆様に厚くお礼を申し上げます。」との記載があることに照らすと,甲10の2の記載によって,E及びFが本件発明の発明者でないということはできず,むしろ,微研に所属していたE及びFも本件発明に関与したことが推認される。(2) そして,前記第2,1(2)のとおり,本件特許の願書の発明者の氏名,住所又は居所を変更する手続補正に伴って,被告から,E及びF作成名義の,「本願発明は同人らとA,B,C及びD6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書,及びA,B,C及びD作成名義の,「本願発明は同人らとE及びF6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書が提出されていることからすると(これらの宣誓書の存在及び内容は,審決第4,5.(2)においても認定されている。甲12の3),本件発明の発明者は,A,B,C,D,E及びFの6名であり,これらの発明者から被告に本件特許の特許を受ける権利が承継されたものと推認される。(3) そうすると,審判において,本件特許の特許権者である被告は,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について主張立証責任を尽くしていたものと認められ,本件特許は冒認出願に対してされたものではないとの審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2010.05. 7
平成21(行ケ)10213 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年04月27日 知的財産高等裁判所
新規事項でない&冒認出願ではないとした審決が維持されました。
,本件当初明細書の【0029】には,「一次判定は,4画像の総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する。」と記載されているところ,「兼合い」とは,「かねあうこと。つりあい。均衡。標準。」(広辞苑第4版(岩波書店))を意味するから,「総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する」とは,総血管長と検査領域総面積とのつりあいがとれているかどうか,又は総血管長と検査領域総面積との均衡がとれているかどうかによって正常卵を判定するという意味と解釈し得る。そして,総血管長と検査領域総面積の「つりあい」又は「均衡」とは,総血管長と検査領域総面積のバランスを意味し,総血管長と検査領域総面積のバランスとは,総血管長と検査領域総面積の「割合」を意味することといえる。そうすると,本件当初明細書には,「前記検査領域面積に占める総血管長の割合」に基づいて正常卵を判定することが記載されていたということができる。ウ したがって,本件発明2に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。・・・・冒認出願による無効事由の成否に関し,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負うと解すべきである。そこで,特許権者である被告がその主張立証責任を尽くしたかについて検討する。ア原告は,「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(甲9の1),「設備見積仕様書」(甲21),「検卵機開発経過報告書」(甲24の2)によれば,本件発明の発明者が原告であることは明らかであると主張する。そして,甲9の1,甲21,甲24の2によれば,平成13年9月15日,株式会社T 種鶏孵化場(以下「T 種鶏孵化場」という。)の代表取締役である原告が,熊本アイディーエムの代表\取締役であるGと検卵機の開発について打合せをし,熊本アイディーエムに検卵機の試作品や設計図の作成を依頼し,その後の交渉を経て,平成14年10月8日,熊本アイディーエムがT 種鶏孵化場に対して設備見積仕様書(甲21)を提出したことが認められる。しかし,上記の書証によっても,原告らが開発していた検卵の方法や検卵機が本件発明に該当するものかどうか明らかではなく,本件発明の発明者が原告であるとは認められない。イまた,原告は,D,C,A及びB作成名義の「有精卵の検査手法」と題する書面(甲10の2)の「6.まとめ」欄及び「7.謝辞」欄の記載から,E及びFは本件発明の発明者ではないと主張する。しかし,本件発明は,「有精卵の生死およびその発育状態を,非破壊にて,検査員の判断基準により近く,かつ,確実に判定することを目的としている」(本件明細書【0004】)ものであり,甲10の2の「7.謝辞」欄に,「本研究をすすめるにあたり,評価サンプルや実験場所をご提供頂き,また,目視検査の内容についてご指導を頂きました(財)阪大微生物病研究会観音寺研究所殿の皆様に厚くお礼を申し上げます。」との記載があることに照らすと,甲10の2の記載によって,E及びFが本件発明の発明者でないということはできず,むしろ,微研に所属していたE及びFも本件発明に関与したことが推認される。そして,前記第2,1 のとおり,本件特許の願書の発明者の氏名,住所又は居所を変更する手続補正に伴って,被告から,E及びF作成名義の,「本願発明は同人らとA,B,C及びD6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書,及びA,B,C及びD作成名義の,「本願発明は同人らとE及びF6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書が提出されていることからすると(これらの宣誓書の存在及び内容は,審決第4,5. においても認定されている。甲12の3),本件発明の発明者は,A,B,C,D,E及びFの6名であり,これらの発明者から被告に本件特許の特許を受ける権利が承継されたものと推認される。そうすると,審判において,本件特許の特許権者である被告は,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について主張立証責任を尽くしていたものと認められ,本件特許は冒認出願に対してされたものではないとの審決の判断に誤りはない。
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2010.02.19
平成21(ワ)1652 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月18日 大阪地方裁判所
一部の共同研究者が出願した行為について、不法行為に基づく損害賠償が認められました。
被告各出願に係る明細書に,本件作業の結果が記載されているが,原告らは,被告らが,原告らに無断でこれを盗用したと主張する。しかしながら,前記1(1),(2)のとおり,本件作業は,本件共同研究の中で,その目的達成に向けて,これに携わるメンバーが分担して行った作業のひとつであるところ,通常,共同研究においては,各人の担当した作業に係る個々の研究成果は,原則として,共同研究チーム全体の研究成果であり,共有になると考えるのが相当である。そして,本件において,本件作業の結果を,例外的に原告会社や原告P1個人に単独で帰属する研究成果とすることが相当であるような事情は窺われない。したがって,本件共同研究チームのメンバーである被告P2及び同P3が,本件共同研究に係る特許出願に関し,本件作業の結果を利用すること自体を,盗用であって不法行為としての違法性を有する行為であるとはいえない。前記イ,ウからすれば,本件マウス抗体は,被告出願1に係る発明そのもの,あるいは被告出願2に係る発明の出発点であって,特許請求の範囲の記載から認められる技術的思想の実現に不可欠なものといえるから,本件マウス抗体を取得することは,被告各出願に係る発明の創作行為部分に該当すると認められる。そして,本件マウス抗体は,原告P1が本件作業の中で取得したものであり,同作業においては,本件共同研究における抗体作製の責任者として携わっていることや,最初のキメラ化,ヒト化候補の選択は,公知技術を利用したとはいえ,一定程度の原告P1の裁量が介在していることが窺えること,抗体の絞り込みにはP3法の貢献が大きかったとはいえ,それだけで,最終的な選択を行ったわけではなく,原告P1を含めた共同研究の参加者の意見を集約して選択が行われたことなどの事情(甲7の1〜4,甲8の1〜4,乙8,弁論の全趣旨)も併せ考えると,原告P1は,被告各出願に係る発明の発明者の1人であると認められる。・・・また,P4は,原告P1について,「抗体の作製を担当しているという話しは聞いたが,その立場についてはよく分からなかった,本件共同研究の中心的な立場の方ではなかったという認識であった。」旨供述するが(乙8),この供述をもって,原告P1を単なるテクニシャンであると認定することはできない。むしろ,一方で,原告P1は,開発会議に出席し,重要な意思決定や方針決定に参加し,原告出願にあたり,被告P3らとともに,明細書原稿の送付を受け,意見を求められたりしていたことが認められる(甲10〜12,21,甲23の1〜3,甲24,甲25の1・2,乙8)。これらの情報のやりとりは,原告会社においていろいろな調整役を果たしていたと考えられるP11が送付しているが,その対象者は,原告P1とP4以外には,本件共同研究の中心的メンバーである被告P3,P6に加え,原告会社代表者であるP7,原告会社取締役のP12(記録上明らか),特殊免役研究所の代表\者で,当時,原告会社の代表者に就任が予\定されていたP8(甲21)であった。さらに,原告出願にあたり送付された上記明細書原稿に願書原稿が添付されており,原告P1とP4の氏名が発明者として記載されていたが,そのことについて,これらの資料の送付を受けた共同研究者のメンバーの誰かが異議を述べたような事情は窺えない。これらの事情を総合すると,原告P1は,本件共同研究において,抗体作製に関する責任者として,主体的に関与していたと認めることができる。
◆判決本文
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2009.07. 1
◆平成20(行ケ)10429 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月29日 知的財産高等裁判所
冒認であることの立証責任は、出願人にあるとして、特許が無効と判断されました。
「特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」と,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」と,34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」と,それぞれ規定していることから明らかなとおり,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定している。このような,いわゆる「発明者主義」を採用する特許制度の下においては,特許出願に当たって,出願人は,この要件を満たしていることを,自ら主張立証する責めを負うものである。このことは,36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることによっても,裏付けられる。ところで,123条1項は特許無効審判を請求できる場合を列挙しており,同項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)と規定する。同規定を形式的にみると,「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実につき,無効審判請求人において,主張立証責任を負担すると読む余地がないわけではないが,このような規定振りは,あくまでも同条の立法技術的な理由に由来するものであって,同規定から,29条1項等所定の発明者主義の原則を,変更したものと解することは妥当でない。したがって,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担すると解すべきである。もっとも,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任を,特許権者が負担すると解したとしても,そのような解釈は,すべての事案において,特許権者において,発明の経緯等を個別的,具体的に主張立証しなければならないことを意味するものではない(むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認する重要な間接事実である。)。特許権者の行うべき主張,立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって大きく左右される。仮に無効審判請求人が,冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付け証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りる。これに対して,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し,その裏付け証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないといえる。そして,冒認を疑わせる具体的な事情の内容は,発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か,発明が専門的な技術,知識,経験を有することを前提とするか否か,実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か,発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか,発明者と主張する者が複数存在する場合に,その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか等,事案ごとの個別的な事情により異なるものと解される。」
◆平成20(行ケ)10429 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月29日 知的財産高等裁判所
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2008.10. 1
◆平成19(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月30日 知的財産高等裁判所
共同出願違反(38条)を理由に無効とした審決を維持しました。
「発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構\成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより,発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。上記の観点から,「本件各発明の内容」及び「本件各発明に関与した者の関与の程度」を総合考慮して,被告の従業者であるMが本件各発明の共同発明者の一人に該当するか否かを考察する。・・・・以上認定した事実によれば,本多エレクトロンは本件ウエーハエッジ検査装置の開発を行なったが,その過程で,被告に対して,平成12年9月末ころに上記装置の共同開発を,同年10月20日にはノッチ部の検査手法の検討を,それぞれ依頼したこと,これに対して,被告の担当者であるMは,本多エレクトロンに検討結果を報告し,同年12月11日に本件発明1が含まれる仕様書(甲11)をいったん作成,提供したが,その後も仕様変更を行なう等して実験を継続し,その結果仕様変更前の構\成が相当であるとの認識を持ち,平成13年3月26日に本件各発明が記載された仕様書(甲26)を作成して,これを本多エレクトロンに宛てて提示したものであり,本件発明1は,この時点又はそれ以降に完成したというべきである。以上の経緯及び後記(2)における認定判断に照らすならば,本件発明1の発明者にMが含まれることは明らかである。そして,本件発明2ないし35は,いずれも本件発明1を含むものであるから,結局,本件各発明の発明者にMが含まれることも明らかである。」
◆平成19(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月30日 知的財産高等裁判所
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2008.05.30
◆平成19(ネ)10037 損害賠償請求控訴事件 特許権民事訴訟 平成20年05月29日 知的財産高等裁判所
発明者の認定について争われました。知財高裁は、「原告が発明者である」とした認定を取り消しました。
「しかし,化学分野においては,ある特異な現象が確認されたとしても,そのことのみによって直ちに,当該技術的思想を当業者が実施できる程度に具体的・客観的なものとして利用できることを意味するものではないというべきであり,その再現性,効果の確認等の解明が必要な場合が生ずることに鑑みると,たとえ第3報告書記載の本件多孔化技術が,本件請求項1,2を含むものであったとしても,第3報告書において多孔性現象が確認された段階では,いまだ,当業者が実施できる程度の具体性,客観性をもった技術的思想を確認できる程度に至ったというべきではない。したがって,原告が,Mによる,第3報告書における本件多孔化技術の確認に対して,何らかの寄与・貢献があったからといって,そのことが,直ちに,原告が発明者であると認定する根拠となるものではない。(3) 本願発明の発明者前記1及び2(2)で認定した事実によると,本願発明は,Mが,白金坩堝を使用して750℃まで加熱した際に多孔性現象を発見したことが端緒となったこと,Mは,前記多孔性現象の効果及び有用性などを確認し,検証するために,被告の指導を受けながら,水熱ホットプレスをする条件等を変え,実験を重ねて,有用性に関する条件を見いだし,その結果に基づいて,本件修士論文を作成したことが明らかである。本願発明と前記1で認定した本件修士論文の内容とを対比すると,本件修士論文には本願発明のすべての請求項について,その技術的思想の特徴的部分が含まれているので,遅くともMが本件修士論文を作成した時点において,当業者が反復実施して技術効果を挙げることができる程度に具体的・客観的な構成を得たものということができ,本願発明が完成したものということができる。原告は,Mは原告の研究を補助したにすぎず,本願発明に係る実験を遂行するだけの能\力はなかったと主張し,原告の陳述書(甲20,29,30)にも同旨の記載がある。しかし,前記認定のMの経歴,すなわち,来日前のコロンビアでの講師及び研究員,来日後の研究生及び研修生としての経歴からみて,ガラス,セラミックス等の無機化学だけでなく,有機化学を含む化学全般の専門知識と実験経験を有しており,十分な研究能\力を有していると認められる。そしてたとえ,研究を開始した時点において,水熱分野についての知識は乏しかったとしても,自ら水熱分野の専門知識を取得することは困難ではないといえる。したがって,Mの当時の地位を理由に同人が本願発明の発明者ではないということはできない。なお,Mは当時,自らの修士論文の作成作業と平行して本件実験を行なっていたものであるが,前記1で認定したとおり,修士論文の作成作業はほとんど進んでおらず,被告に相談の上,その課題を変更したものであるから,本件実験に相当の時間と労力を費やしていたことは容易に推認できるところであり,上記をもってMが発明者でないことを何ら基礎付けるものとはいえない。」
◆平成19(ネ)10037 損害賠償請求控訴事件 特許権民事訴訟 平成20年05月29日 知的財産高等裁判所
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2008.02.12
◆平成18(行ケ)10369 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月07日 知的財産高等裁判所
共同発明の発明者1名が欠落した出願であるので、「本件特許を無効とすべきものとすることができない」とした審決を取り消しました。
「本件特許発明は,既存の機器を利用しているのであって,開発の中心は各機器の接続関連のハード面と全体の機能を制御するソ\フト面の開発にあり,この中心的な開発作業を行ったのが【CC】であったから,【CC】が本件特許発明の共同開発者であることは明らかである。被告の主張は,単なる着想が発明に当たるという独自の見解を前提とするものであり,失当である。」
◆平成18(行ケ)10369 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月07日 知的財産高等裁判所
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2007.07.27
◆平成19(ワ)1623 実用新案権確認反訴請求事件 実用新案権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所
実用新案登録を受ける権利の共有者が、単独名義で登録したと主張して,共有持分を2分の1とする共有持分権移転登録手続を請求しました。裁判所は、これを認めませんでした。
「実用新案法は,考案者がその考案について実用新案登録を受ける権利を有するとし(法3条1項柱書),また,冒認出願は先願としては認めず(法7条6項),冒認出願者に対して実用新案登録がされた場合,その冒認出願は無効理由となる(法37条1項5号)と規定している。また,法は,考案者が冒認出願者に対して実用新案権の移転登録手続請求権を有する旨の規定をおいていない。そして,実用新案権は,出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として,実用新案権の設定登録により発生するものであり(法14条1項),たとえ考案者であったとしても,自己の名義で実用新案登録の出願をしその登録を得なければ,実用新案権を取得することはない。このような法の構造にかんがみれば,法は,実用新案権の登録が冒認出願によるものである場合,実用新案登録出願をしていない考案者に対し実用新案登録をすることを認める結果となること,すなわち,考案者から冒認出願者に対する実用新案権の移転登録手続請求をすることを認めているものではないと解される。」
◆平成19(ワ)1623 実用新案権確認反訴請求事件 実用新案権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所
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>> 特許庁手続
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2007.04.10
◆平成17(ワ)8359等 損害賠償請求事件 その他民事訴訟 平成19年03月23日 東京地方裁判所
共同発明者として記載されなかったことを理由に、不法行為に基づく損害賠償請求と、発明者名誉権の侵害に基づく慰謝料が請求された事件です。裁判所は、前者については認めず、後者については、学会発表による名誉も考慮して、計100万円の損害を認定しました。
「発明者は,発明完成と同時に,特許を受ける権利を取得するとともに,人格権としての発明者名誉権を取得するものと解される。また,上記?A及び?Bのとおり,願書及び公開特許公報に発明者の氏名等を掲載すべきとされていることは,発明者名誉権を具体化した規定であると解されること,出願に係る発明につきたとえ特許がされても,後に無効審判請求等によって無効とされる可能性があることを考慮すると,特許要件ないし無効理由の有無によって発明者名誉権の保護の有無を決することは,同権利の保護を不安定なものにするものというべきことなどを考えると,いまだ登録されず,出願手続が特許庁に係属中のものであっても,又は当該出願に係る発明が特許要件を満たさない可能\性があるとしても,発明者名誉権の法的保護は及ぶと解すべきである。これに反する被告の主張は,採用することができない。」
◆平成17(ワ)8359等 損害賠償請求事件 その他民事訴訟 平成19年03月23日 東京地方裁判所
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2006.01.26
◆H18. 1.19 知財高裁 平成17(行ケ)10193 特許権 行政訴訟事件
冒認を理由とする無効審決が争われました。事情は複雑ですが、知財高裁が、冒認を理由とする無効については特許権者に立証責任があると判断しました。
「当該特許が特許法29条1項の規定に違反してされたという無効事由(特許法123条1項2号)を例にとれば,特許法29条1項の規定に照らし,同項柱書の発明の完成を含めた産業利用可能性につき特許権者が主張立証責任を負担し,同項各号の該当性,すなわち公知,公用,文献公知につき無効審判請求人が主張立証責任を負担することとなる。また,当該特許が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたという無効事由(特許法123条1項4号)については,特許法36条4項1号の規定に照らせば,願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載したものであることを特許権者において主張立証しなければならない。そして,特許法123条1項6号の規定する無効事由については,上記(1)に判示した理由により,特許出願が当該特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことを,特許権者において主張立証しなければならないものというべきである。」
◆H18. 1.19 知財高裁 平成17(行ケ)10193 特許権 行政訴訟事件
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2005.03.16
◆H17. 3.10 東京地裁 平成16(ワ)11289 特許権 民事訴訟事件
冒認出願を理由に権利行使不能と判断されました。
「上記アにおいて認定した事実を前提とすると,原告Aは,被告に対し,第1回打合せ時において,小型マンホールでの使用のため装置の大きさを小さくすること,表示パネルを分離して遠隔操作で本体を操作すること,管内での固定方法を検討して欲しいと要望しただけであり,その後,被告において,以前に被告が製造販売していたパイプレーザは電源を外部に求めていたこと,被告の製品である「TP−L2」の小型化に際し,電池収納部を取り外して小型化した経験があったことなどから,被告が既に製造販売していた製品「TP−L3」の電源部を照射機構\部分から別体化する方法で小型化することに想到したものである。また,前記(1)に認定の事実関係に照らせば,本件特許発明1の本質ともいうべき構成は,本件特許権の出願経過にかんがみると,「レーザ照射機構\から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能とした」点にあるということができるところ,この点に関しては,原告Aが,第1回打合せ時に提案したものとはいえず,被告従業員が発明者というべきである。そうすると,本件特許発明1は,特許法123条1項6号の「発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してなされたもの」というべきで,無効理由を有することが明らかである。」
◆H17. 3.10 東京地裁 平成16(ワ)11289 特許権 民事訴訟事件
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2002.08.30
◆H14. 8.27 東京地裁 平成13(ワ)7196 特許権 民事訴訟事件
化関係の発明者の認定について判断がなされました。他の分野でも参考になるかもしれません
「仮に本件発明に何らかの特許性を認め得るとすれば,それは,「本発明において,結晶セルロースは,‥‥‥60重量%以上用いることが特に好ましい。」(本件明細書段落【0012】)という点,すなわち,「結晶セルロースの含有量が60重量%以上であることを特徴とする」(特許請求の範囲【請求項2】)という点にあるというべきである。しかるに,この点は,原告が着想したものではない(原告自身も,本人尋問において,結晶セルロース(アビセル)を多量に使用する点はBからサジェスチョンがあったこと,結晶セルロースが多いと細粒収率が劇的に向上するという報告をBから受けていたことを述べている〔原告本人尋問調書59頁〕。)。賦形剤として,このように多量の結晶セルロースを用いるという着想は,深江工業での実験において,賦形剤である結晶セルロース(アビセル)を,69重量%という従来例に比して格段に多量に処方した場合に,真球度の高い細粒核を高収率で造粒できたことによって,得られたものと認められるが,前記認定のとおり,同実験において,結晶セルロース(アビセル)を69%用いたこと,アジテーター及びチョッパーの回転速度を前記認定のように設定したことは,いずれも深江工業の専門技術者であるEの発案に基づくものであった。これらの事情に照らせば,本件発明について,もっとも大きな寄与をしたのはEであって,本件発明については,Eの発明又はEとBの両名による共同発明ということはできても,原告が共同発明者の1人として関与したということはできない。」
◆H14. 8.27 東京地裁 平成13(ワ)7196 特許権 民事訴訟事件
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