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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

平成28(ワ)8468  特許権移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年11月9日  大阪地方裁判所

 特許権の移転請求が認められませんでした。理由は、「原告発明と本件発明とは,解決しようとしている抽象的な課題は共通していても,その課題の生ずる具体的な原因の捉え方が異なっており,そのために,具体的な課題の捉え方や,課題解決の方向性や主たる手段も異なる」というものです。
 (1) 特許法74条1項の特許権の移転請求制度は,真の発明者又は共同発明者 がした発明について,他人が冒認又は共同出願違反により特許出願して特許権を取得した場合に,当該特許権又はその持分権を真の発明者又は共同発明者に取り戻さ せる趣旨によるものである。したがって,同項に基づく移転登録請求をする者は, 相手方の特許権に係る特許発明について,自己が真の発明者又は共同発明者である ことを主張立証する責任がある。ところで,異なる者が独立に同一内容の発明をし た場合には,それぞれの者が,それぞれがした発明について特許を受ける権利を個 別に有することになる。このことを考慮すると,相手方の特許権に係る特許発明に ついて,自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証するためには,単 に自己が当該特許発明と同一内容の発明をしたことを主張立証するだけでは足りず, 当該特許発明は自己が単独又は共同で発明したもので,相手方が発明したものでな いことを主張立証する必要があり,これを裏返せば,相手方の当該特許発明に係る 特許出願は自己のした発明に基づいてされたものであることを主張立証する必要が あると解するのが相当である。そして,このように解することは,特許法74条1 項が,当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者であることと並ん で,特許が123条1項2号に規定する要件に違反するときのうちその特許が38 条の規定に違反してされたこと(すなわち,特許を受ける権利が共有に係るときの 共同出願違反)又は同項6号に規定する要件に該当するとき(すなわち,その特許 がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたこと) を積極的要件として定める法文の体裁にも沿うものである。
(2) そこで,まず本件特許発明1の内容等について検討する。
・・・・
ウ 以上のことを踏まえると,本件特許発明1は,便座昇降機を不要とする 課題を解決するために,使用時に便座を上昇させるのではなく,予め便座と便器の\n間に嵩上げ部を設けて便座の位置自体を高くしておき,その嵩上げ部にくり抜き部 を形成し,そこから拭き取りアームを挿入して臀部を拭き取るようにすることによ\nって,使用時の便座昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そし て,このような課題解決方法に照らせば,本件特許発明1は,便座昇降機が必要と されていた理由を,便座の位置が低く,便座と便器の間に拭き取りアームを挿入す る隙間がない点に求め,便座の位置を高くして,便器との隙間を生み出すことによ って,課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当であり,そのために, 次に述べる原告第1出願の明細書の記載に見られるような便座と便器の間の隙間を 小さくしたり,拭き取りアームの厚さを薄くしたりすることについて特段の記載は されていない。 そして,以上の本件特許発明1について,本件優先権出願の明細書及び図面には, 本件基礎出願の明細書図面と同一の内容が記載されていると認められる。 (3) 以上を踏まえ,本件特許発明1の発明者について検討する。原告は,平成 24年9月初旬に完成したという原告第1発明と本件特許発明1は同一の発明であ り,原告第1発明について特許を受けるために原告第1出願を行ったと主張し,こ れに沿う陳述をしていることから,まず,原告第1出願に係る発明について検討す る。
・・・
そして,上記の原告の発明に係る臀部拭き取り装置では,紙を取り付けることが\nできる紙つかみヘッド(3)が本件特許発明1の「拭き取りアーム」に該当し,紙 つかみヘッドを移動させる4軸型可動型装置が本件特許発明1の「拭き取りアーム 駆動部」に該当すると認められる。 他方,本件特許明細書によれば,本件特許発明1の「嵩上げ部」は,便器と便座 との間に設けられ,便座全体を上げて便器との間に間隙を設ける部材を意味すると 解され,補高便座のほか複数の支柱状の器具も想定されているところ,原告第1出 願に係る装置は,「水洗式洗浄型便座と便器の間において使用する」(【0009】) もので,その図2の左側面図及び正面図によれば,便座の下部に薄いガイド板ない し保護ガイド(6)が設けられ,「実際の取り付けは,標準でついている便座の1c mのゴム足を除去して,取り付けるため便座の高さは2cmの高くなるだけ」(【0 010】)であるから,少なくともガイド板ないし保護ガイドの部分においては図示 されない便器と便座の間に3cmの隙間が設けられることになる。しかし,それだ けでは便座全体がどのように上げられるのかが明らかでないから,原告第1出願に 係る明細書や図面において「嵩上げ部」に該当する部材が記載されていると認める ことは困難である。 もっとも,原告第1出願に係る発明においては,便座全体を3cm持ち上げるこ とを想定していると解するのが合理的であるから,原告においては,ガイド板ない し保護ガイド単体又はそれと組み合わせて何らかの形で便座全体を上げることを想 定していた可能性があり,その場合には,その構\造が「嵩上げ部」に該当し,ガイ ド板ないし保護ガイド内の紙つかみヘッドの移動空間が「嵩上げ部に設けられたく り抜き部分」に該当する可能性もあり得るところである。\nそうすると,原告は,原告第1出願がされた平成24年9月25日の時点で,原 告第1出願に係る発明により,本件特許発明1を完成させていた可能性があるとい\nうべきである。
ウ もっとも,原告第1出願に係る発明は,同時に,臀部拭き取り装置にあ\nるトイレットペーパーの紙つかみヘッドを限りなく薄くし,3cm程の隙間でも, 容易に臀部の下に差し入れることができるようにすることにより,トイレ使用者が\n一般のトイレの使用時と変わることのない着座位置となるようにして,便座昇降機 の除去を可能としたものとされている。また,併せて,トイレットペーパーを掴ん\nだ紙つかみヘッドを臀部のふき取り位置あたりで80度ほど回転させることで,臀\ 部にフィットさせるものとされている。 以上のことを踏まえると,原告第1出願に係る発明は,ヘッドを限りなく薄くし て,ヘッドを臀部の下に差し入れるのに要する隙間を少なくするとともに,ヘッド\nを回転させることでヘッドが薄くても臀部にフィットするようにし,使用時の便座\n昇降機による便座の上昇を不要としたものと認められる。そして,このような課題 解決方法に照らせば,原告第1出願に係る発明は,便座昇降機が必要とされていた 理由を,ヘッドの形状やその動作の仕方に求め,それらを工夫することによって, 課題を解決しようとしたものであると認めるのが相当である。そうすると,原告第 1出願に係る発明と本件特許発明1とは,解決しようとしている抽象的な課題は共 通していても,その課題の生ずる具体的な原因の捉え方が異なっており,そのため に,具体的な課題の捉え方や,課題解決の方向性や主たる手段も異なることになっ たと認められる。
(4) そこで次に,原告が原告第1出願に係る発明により本件特許発明1を完成 させていた可能性があることに鑑み,被告が,原告第1出願に係る発明に基づいて,\n本件特許に係る特許出願をしたと認められるかについて検討する。この点について, 被告は,被告代表者が本件特許発明1を完成したと主張し,被告代表\者はこれに沿 う陳述をしている。
ア 前記1での認定事実によれば,被告代表者は,平成24年9月25日午\n前中に,P4と打合せをしている。この打合せの内容を直接に示す証拠はないが, 同日の午後1時に被告代表者がP4に「先ほどは有難うございました。参考までに,\nかさ上げ便座部品の記載されたカタログを送付させて頂きます。」として,補高便座 のカタログを送信していることからすると,被告代表者は,同日午前の打合せにお\nいて,補高便座を用いた発明の説明をしたと推認される。また,翌26日の午後4 時48分にP4が被告代表者にアームがどこから出てくるのか明確にしたいとのメ\nールを送信しており,前日のカタログの送信から本メールまでの間に被告代表者と\nP4が打合せをしたことは何らうかがわれないことからすると,本メールは,前日 25日午前の打合せの際に,被告代表者が補高便座からアームが出る構\造の臀部拭\nき取り装置の発明を説明したのに対して,P4が質問をしたものであると推認され る。そして,本メールの直後の同日午後5時07分に被告代表者がP4に「補高な\nのでその一部を切り取るか,構造によっては中をくりぬいて,最大6センチメート\nルのすき間でアームを出入りさせたらと,考えています。」と返信していることから すると,被告代表者は,同月25日午前にP4に対して補高便座からアームが出る\n構造を説明した時点で,既に補高便座を「かさ上げ便座部品」として利用し,補高\n便座を切り取り,又はくり抜いてアームを出すことで便座昇降機を利用しない臀部\n拭き取り装置の着想を得て,本件特許発明1を完成していたと推認するのが相当で あり,このことは,被告代表者の陳述(乙24)は以上の経緯と整合的である。\nイ この点について,原告は,被告代表者が,同月25日午後6時の原告か\nらのメールを受け取るまでは,本件特許発明1の着想を得ていなかったと主張する。 しかし,前記の被告代表者とP4のやりとりの流れからすると,被告代表\者が当 初にP4に補高便座のカタログを送信したことが,臀部拭き取り装置の開発と関係\nのないものであったとは考え難いから,被告代表者は,同日午前にP4と打合せを\nした時点で,便座をかさ上げしてアームを通すものとして補高便座に着目していた と認めるのが相当であり,そうである以上,前記のとおり,同日午前の時点で被告 代表者は本件特許発明1の着想を得ていたと推認するのが相当である。\n

◆判決本文

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平成27(行ケ)10252  審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成29年3月27日  知的財産高等裁判所(3部)

 冒認でないとした審決が維持されました。
 本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法 123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許 出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継 した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担する ものと解するのが相当である。 もっとも,そのような解釈を採ることが,全ての事案において,特許権者 が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならない ことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人 が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推 認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特 許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事 情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなもの かによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求 人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付 けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程 度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける 事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特 許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くさ れたと判断されることはないものと考えられる。 以上を踏まえ,本件における取消事由1(発明者の認定の誤り)の成否を 判断するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件発明の発 明者であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まず は,冒認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(本件では,被告 ではなく,Mが本件発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し, かつ,これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,その結果を踏まえて, 被告が発明者であると認めることができるか否かを検討することとする。
ア 原告の主張立証について
甲45図面等及び甲21図面について原告は,平成19年5月を作成日とする甲45図面等及び平成21年8月を作成日とする甲21図面を証拠として提出し,これらの証拠は,Mが,水系の取締役に就任する平成21年10月以前に,本件発明の実施に用いられる浄化槽用コンクリート製品に係る図面を作成していたこと,ひいては,本件発明を着想し,具体化していたことを示すものである旨を主張する。 しかしながら,これらの図面に示されているのは,浄化槽用コンクリ ート枠体を構成する高さ方向に4段に分割された長方形のコンクリート\n枠体の三面図及びベースコンクリートの平面図並びにそれらの寸法等で あり,当該コンクリート枠体の構築方法等を示すような記載はない。他\n本件発明の特徴的部分は,高さ方向に複 数段に分割して製作しておいたコンクリート板を用い,構成CないしI\nの各工程に従って浄化槽保護用コンクリート体の構築を行うこと,すな\nわち浄化槽保護用コンクリート体の具体的な構築方法にあるのであり,\nこの点については,上記各図面から直接読み取れるものではない。 してみると,仮に,Mが,水系の取締役に就任する以前の時期に甲4 5図面等及び甲21図面を作成した事実が認められるとしても,そのこ とは,その当時のMが,浄化槽用コンクリート枠体を高さ方向に4段に 分割して構成するというアイデア,すなわち,浄化槽保護用コンクリー\nト体の具体的な構築方法に係る本件発明の着想の背景となり得るアイデ\nアを有していたことをうかがわせる事実にすぎず,これによって,その 当時のMが,本件発明の上記特徴的部分に係る着想を得ていたことが裏 付けられるということはできない。
その他の主張立証について
そのほかに,原告は,Mが本件発明の発明者であることを示す事情と して,1)M及び原告が中心となって,本件発明の実施に用いられるコン クリート製品の製造に向けた準備を進めたこと,2)本件出願のための戸 島弁理士との打ち合わせにおいて,Mが本件発明についての説明を行っ たことを挙げる。 そこで検討するに,まず,上記1) Mが主体となって,有明コンクリートへの浄化槽用コンクリート枠体の製造の発注を行うなどし,その際,有明コンクリートがMを設計者とする甲21図面に基づいて当該コンクリート枠体の図面(甲22図面)を作成す るなどした経過を指すものであるところ,これらの経過は,本件発明の 完成を前提として,これに用いられる製品の販売等に係る事業を具体化 していく経過として把握すべきものであり,その中で,Mが主体的に活 動していることが,その前提となる本件発明を着想,具体化した者がM であることを直ちに示すものとはいえない。むしろ,その当時(平成2 2年4月ころ)のMは,水系の取締役を務め,被告と協同して水系の事 業を進めるべき立場にあったのであるから,仮に本件発明が被告によっ てされたものであるとしても,それを事業化するための活動にMが主体 的に関与することは格別不自然なこととはいえない。したがって,上記 1)の点は,必ずしもMが本件発明の発明者であることを裏付ける事情と いえるものではない。 また,上記2)の点については,そもそも戸島弁理士に対する本件発明 の説明を行った者がMであることを認めるに足りる証拠がない(被告は, 当該説明を行った者は被告である旨を主張し,戸島弁理士も被告の主張 に沿う供述(丙1)をするのであり,これらを覆して原告の主張を認め るだけの証拠はない。)。 したがって,上記1)及び2)の事情によって,Mが本件発明の発明者で あることが裏付けられるとはいえない。

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平成27(行ケ)10230  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月25日  知的財産高等裁判所

 冒認出願の立証責任は出願人側にあるとしつつも、立証の程度は、冒認を主張する側の主張によって変わると判断しました。
 本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法1 23条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願 がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者 によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解 するのが相当である。 もっとも,そのような解釈を採ることが,すべての事案において,特許権者 が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないこ とを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発 明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させ る上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の 行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及 び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左 右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わ せる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提 出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なも ので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し, その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌 ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはない ものと考えられる。 以上を踏まえ,本件における取消事由(発明者の認定の誤り)の有無を判断 するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件各発明の発明者 であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まずは,冒 認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(すなわち,被告ではなく, 原告が本件各発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し,かつ, これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,次いで,被告が原告の主張立 証を凌ぎ,被告が発明者であることを認定し得るだけの主張立証をしているか 否かを検討することとする。
・・・
以上によれば,原告の上記2)の主張のうち,原告が,平成22年1 1月3日ころまでに,本件発明1の方法の実施に用いられる本件機器 を完成させたこと,ひいては,本件発明1を完成させたことについて は,客観性のある証拠等によって裏付けられているということができ る。 しかしながら,前記a(a)で述べたとおり,本件機器は本件発明2の 方法に用いられるものとはいえないから,原告が本件機器を完成させ たからといって,本件発明2の方法を着想し,完成させたことが認め られるものではなく,他にこれをうかがわせる証拠もない。したがっ て,原告の上記2)の主張のうち,本件発明2に係る部分は,その裏付 けを欠くものというほかない(そもそも,原告は,原告が本件発明2 の方法を着想し,具体化したことを示す具体的な事情を主張していな い。)。 ウ 小括
以上の検討によれば,原告は,本件発明1(及び本件発明3のうち,本 件発明1の方法に係る部分)については,原告がその発明者であることを 示す具体的な事情(すなわち,冒認を疑わせる具体的な事情)を主張し, かつ,これを裏付ける証拠を提出しているものといえる。 他方,原告は,本件発明2(及び本件発明3のうち,本件発明2の方法 に係る部分)については,原告がその発明者であることを示す具体的な事 情を主張しておらず,これを裏付ける証拠も提出していない。そして,原 告が,本件発明1に関しては発明者であることを示す事情を具体的に説明 している(それが可能であった)にもかかわらず,本件発明2については,\nそのような事情を一切説明していないことは,原告が本件発明2を発明し たことを積極的に疑わせる事情であるといわざるを得ない。
 本件発明2について
 前記(1)ウで述べたとおり、原告は、本件発明2について原告がその発明者であることを示す具体的な事情を主張しておらず,これを認めるに足 りる証拠も提出していないから,本件発明1の場合とは異なり,被告が行 うべき発明者性の主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるものという べきである。 しかるところ,被告は,本件発明2の方法を着想し,完成させた経緯に ついて,平成22年10月から11月ころに,Bの自宅において,透明 な熱収縮チューブ,針金,ライター及びノズル管を用いて,噴出量の調 整が可能なノズル管の弁構\\造を作り出した旨を主張し,Bも「誓約書」 と題する書面(甲42)において,被告が,平成22年10月から11 月ころにB方を訪れた際に,「宇都宮北道路を運転している途中で,ノ ズルの製法を思いついた」旨を述べ,B方にあった熱収縮チューブ,針 金,ライターと被告が持参していたノズル管を用いてノズル管の弁構造を作り出し,さらに作ったノズル管を用いて野外での噴出実験を行った\n旨を述べ,被告の上記主張に沿う供述をしている。 そして,Bの上記供述は,その内容が具体的で,他の証拠と整合しな い内容が含まれるものでもなく,その信用性を積極的に疑うべき事情は ないから,被告側の関係者による供述証拠としてその証拠価値に限界があ ることを考慮しても,被告の上記主張を裏付ける一応の証拠として評価し 得るものといえる。また,本件発明2は,ノズル管内に弁構造を作るとい\nう点においては本件発明1と基本的発想を同じくしているということがで きるから,たとえ被告が本件発明1を発明していないとしても,原告らと 同様にノズルの改良に取り組み,相応の問題意識を持っていた被告が,原 告から本件発明1の説明を受け,これに触発されて本件発明2の着想を得 るということは十分にあり得る事柄であるということができる。\nしてみると,被告は,被告が本件発明2の方法を着想しこれを具体化し たことについて,その具体的な事情を主張し,これを裏付ける一応の証拠 も提出しているものといえるから,少なくとも上記で述べた程度を満たす だけの主張立証をしているものということができる。
・・・
以上の検討を総合すれば,本件各発明のうち,本件発明2については,そ の発明者が被告であると認めることができるが,本件発明1及び3について は,その発明者が被告であると認めることはできない。 してみると,本件各発明の発明者をいずれも被告であると認定し,本件各 発明に係る特許は,発明者でない者の特許出願に対してされたものとはいえ ないとした本件審決の判断のうち,本件発明1及び3に係る部分は誤りであ り,他方,本件発明2に係る部分は誤りとはいえない。

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