2019.07. 2
1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。
特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と
する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが
できる旨を規定する。
ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的
思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許
発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め
なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」
とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」
といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発
明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想
を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当
である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし,
1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動
画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。
これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月
30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ
れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年
2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が
付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する
方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され
ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ
いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年
ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して
本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経
緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告
らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた
ことが認められる。
そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2)
認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関
与する行為に当たるものと認められる。
したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ
たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133)
であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加
工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F
CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認
められる。
そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島
工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC
M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと,
これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し
て,英国子会社に移管されたことが認められる。
したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間,
福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋
状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと
が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを
設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから
平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し
てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を
実施していたことが認められる。
上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告
らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利
を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると,
1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ
ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し,
当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代
表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに
対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点),
5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線
材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張
していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理
士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ
ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している
点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説
明がされていない。
しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張
に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D
iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H
部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005
年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4
3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」
との記載部分がある。
しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定
することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告
代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の
とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯
を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する
からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。
(ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。
しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス
プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており
(前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ
ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2
(5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材
料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造
方法等について知識を有していたものと認められる。
そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造
状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場
では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ
ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至
ったものと推認することができる。
そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の
線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ
ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般
的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告
代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原
告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2))
を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認
めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前
の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許
法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指
摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので
あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1
審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ
とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事
実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば
容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと
認められる。
そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的
に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な
行為に当たるものと認められる。
705/088705
◆判決本文
一次判決の拘束力について「新証拠に基づく判断は拘束されない」と争いましたが、知財高裁は、新たな証拠による新たな主張をするこは、取消判決の拘束力に反するとして、これを認めませんでした。争点は、発明者は誰か?という点です。一次判決では請求項1,3の発明者は、本件被告であると判断されていました。一次判決と本件で原告被告が入れ替わってますのでややこしいです。
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確
定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい
て更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法
の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ
り,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出
されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取
消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがっ
て,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ
判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り
返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべ
きではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。
このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文の
よって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従って
された再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定
した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決
の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
2 これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定
したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告で
あると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及
び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は,
一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告
であると認めることはできないものと判断した。
したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次
審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は,
当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないという
べきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,平成4年最高裁判決は,「拘束力は,判決主文が導き出されるの
に必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているから,一次判決の
拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消
すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事
実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事
実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件
発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反
する本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要
な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者として
は,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがっ
て,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに
基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって
許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度
の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には
裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違
法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。
そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象と
なっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123
条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものである
にもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し,
本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次
判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の
主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次
判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が
許されないことは明らかである。
(2)ア もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定
の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消さ
れるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する
余地がある。
そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述
(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者
尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に
該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立
証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由
がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみ
ても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
イ すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり,
被告が主張した,1)平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流
量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内に
ゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行\nった,2)その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11
月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決\nに係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音
反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としてい
ることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,「…誰もやってない時に
プライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。」との原告の
発言に対し,被告が「…プライヤーで潰した針金?」,「…あれが,これ
と何が違うんですか。」,「…あれ持って行った時にはすでに僕は…」と
発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続にお
ける被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりと
りの直後に「あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃ
ないですか。」と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物
を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると,
原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は
原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,「そのゲートのそれをやるという,
アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるとい
うアイディア。全部,私じゃん」との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発
明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえ
ると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがう
かがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ
自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者\nであることを認めたとまで認定することは困難である。このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。
ウ 次に,原告は,一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書(甲
76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いず
れも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張する
にとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを
認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びA
が提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張する
が,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたもの
であることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲5
5は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。
(3) さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において
提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。
◆判決本文
一次判決はこちらです。
◆平成27(行ケ)10230
冒認による特許の移転登録を求めましたが、知財高裁は1審と同様に、これを棄却しました。
2 本件各発明の内容は前記1のとおりであるが,本件各発明が控訴人の従業員
によって発明されたと認めることができるかについて,以下検討する。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と控訴人発明とを対比する。
(ア) 本件発明1と対応する控訴人発明は,別紙「控訴人発明と本件特許権
1との構成要件の対比」の対比表\の「控訴人の発明内容」欄記載の発明であるとこ
ろ,同記載によると,控訴人発明が共通構成1を具備していないことは明らかであ\nる。
すなわち,共通構成1の構\成は,別紙「控訴人発明と本件特許権1との構成要件\nの対比」の対比表の「請求項の内容」欄のうち,「請求項1」の上から3番目及び\n4番目の欄,「請求項2」の欄,「請求項3,請求項4」の欄,「請求項3」の欄、
「請求項5」の欄、「請求項6」の欄,「請求項7」の上から2番目の欄,「請求項
8」の欄,「請求項9」の上から3番目の欄,「請求項10」の欄,「請求項11」
の上から2番目の欄,「請求項12」の欄,「請求項13」の上から2番目の欄に記
載されているが,同構成に対応する「控訴人の発明内容」欄に記載された構\成は,
共通構成1の「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の変化に応じて,複数の,前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記携帯端末装置に提供する」\nこと(「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の送信に応じて,複数の,
前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記情報処理装置から受信する」こと)
と同一でないことは明らかである。また,上記対比表の「控訴人の発明内容」欄の\nその他の欄の記載に係る構成中に,共通構\成1と同一の構成が存在すると認めるこ\nともできない。
(イ) 控訴人は,控訴人発明は,起動情報として,1)画像情報,2)位置情報
及び3)識別情報を用いている旨主張する。
しかし,共通構成1は,起動情報として,上記の三つの情報を含むというだけで\nはなく,これらの三つの情報の順の変化に応じて,複数のコンテンツを提供すると
いう構成であるから,控訴人の上記主張を踏まえて控訴人発明の構\成を特定したと
しても,控訴人発明の構成は,共通構\成1と同一であるとはいえない。
イ 前記アのとおり,控訴人発明の構成は,本件発明1の構\成と異なるので
あるから,その余の点を検討するまでもなく,本件発明1は,控訴人の従業員に
よって発明されたと認めることはできない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)7906