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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

平成30(ワ)22338  特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件  民事訴訟 令和2年12月1日  東京地方裁判所

 特許を受ける権利ありと主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。

(1) 本件発明1及び本件発明11の特徴的部分について
ア 原告は,本件発明1及び本件発明11の特徴的部分の完成への関与につ いて,その大部分を担ったのは,原告代表者及びAiであると主張する。
イ 前記1(16)によれば,従前の技術的課題を解決する,本件発明1の特徴的 部分は,ラップネットにおいて従前,技術的課題であるとされていた作 業性,家畜の安全性を確保するために,ラップネットの経糸及び緯糸の いずれにもセルロース系繊維を用いたというものであると認められる。 この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項1に含まれるものであった。そ して,本件明細書の発明の実施の形態における,本件発明1のラップネ ットに関する経糸及び緯糸に使用する糸の種類や引張強度等の数値を含 めた記載は,先の出願2の明細書の記載とほぼ同様のものである。 これらによれば,本件発明1の特徴的部分は,平成25年7月22日ま でには完成されていた。
ウ 前記1(16)によれば,本件発明1のように,ラップネットの経糸及び緯糸 のいずれにもセルロース系繊維を用いると,特に緯糸に比べて強度が要求 される経糸が太くなり,それによって1本のロールに巻き取れるラップネ ットの長さが短くなるという課題があった。本件発明11は,その課題を 解決するため,本件発明1等のラップネットの製造方法において,巻上げ ローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振 り機構を適用したものであり,本件発明11の特徴的部分は,本件発明1\nから10に係るラップネットの製造方法において上記のようなあや振り機 構を適用した部分であると認められる。\n
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項6に含まれるものであった。そ して,本件明細書の実施の形態における,巻上げローラを回転軸方向に 所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を用いた場合\nの往復運動の振幅,その場合の巻き取ったラップトップの長さや直径の 数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載と同じものである。 これらによれば,本件発明11の特徴的部分は,平成25年7月22日 までには完成されていた。
(2) 本件発明1の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関与 について
ア 被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供して,緯糸に綿糸 を使用したラップネットの編布を依頼し,同年5月にタカキタ,原告,被告 の関係者が集まった場において,Biが全部を綿糸で製造した方が安全でな いかとの発言をして,その後,被告は,他の業者に対して依頼して製造して いた複数の種類の綿糸を原告に提供して,経糸及び緯糸に綿糸を使用するラ ップネットの編布を依頼し,原告は経糸にこれらの綿糸を使用してラップネ ットを試作した。 ここで,ラップネットの緯糸,経糸に綿糸を用いることについて,原告代 表者又はAiが着想して,これを被告に提案したと認めることはできない (前記1(19)ア,イ)。
イ 原告は,平成25年5月,被告から提供を受けた複数の種類の綿糸を経糸 及び緯糸に使用して,ラップネットの試作を行い,タカキタは,その試作品 の強度が十分であることを確認した。\nもっとも,経糸に使用した綿糸は,被告が平成25年3月頃からラップネ ットの経糸に使用することを想定して他社に依頼して製造していたものであ り,それを原告に提供したものであった。また,ラップネットの編組織は一 般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可 能であり(前記1(2)),原告は,従前から保有していたラッシェル編機を用 いて編布をした。
ウ 原告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項1に記載 された発明は,ラップネットにおける経糸及び緯糸がセルロース系繊維であ るというものであったところ,その明細書の実施例には,経糸,緯糸に用い る具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップ ネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当た りの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されていた。この強度等の数値は, 被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供され\nたものはなかった。 また,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成26年4月23 日に本件出願をしたところ,その明細書の実施例には,先の出願2とほぼ同 様の,経糸,緯糸に用いる具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェ ル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチ ェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されてい た。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算した\nもので,原告から提供されたものはなかった。また,上記の計算や本件明細 書の記載に当たり,原告から提供を受けた試験結果等が参考等されたことを 認めるに足りる証拠はない。
エ 前記アによれば,本件発明1の特徴的部分について,原告代表者又はAi が着想したと認めることはできない。また,前記イのとおり,原告が綿糸を 使用したラップネットの編布を行ったことは認められるものの,それは被告 が製造して原告に提供した綿糸を使用してされたものであって,ラップネッ トの編組織が一般的なものであり,上記編布において一般的な編布に必要な 技術以外の技術が用いられたことを認めるに足りる証拠はないことなどから すると,そのような編布をしたことのみをもって,原告代表者及びAiが直 ちに本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らせば, 原告が編布を行ったり,その後,その試作品の強度試験を行ったりしたこと があったとしても,原告代表者及びAiが,本件発明1の特徴的部分の完成 に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体 的に関与したとはいえず,原告代表者又はAiが本件発明1を発明したとい うことはできない。
オ 原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,本件開発契約を締結した (前記1(14))。しかし,本件開発契約において,有効期間は同年9月からと 定められているのに対し,本件発明1の特徴的部分が同年7月22日までに 完成されていたことから,そもそも,本件発明1は,本件開発契約に基づい て開発,発明されたものとはいえない。また,原告もその当事者である本件 開発契約においては,その有効期間前の被告の活動等として,被告が,平成 25年5月に綿ベールネットの編布を原告に依頼したこと,原告に複数の綿 糸を納入したこと,タカキタに綿ネットの試験巻きを依頼したことが特に記 載されており,「綿ベールネット」自体は被告が開発したことが前提とされ ていたともいえる。 また,被告が平成24年に原告に対しラップネットの編布を依頼した後, 被告及び原告は,共同で特許出願をしたり,畜産試験場を訪れたり,試作品 についての評価をタカキタで受けたり,どのような試作品を製造するかを確 認したり,補助金の交付の申請をしたりした(前記1(3),(5),(7)ないし(9))。 また,原告は,新たに編機を購入するなどした上でラップネットの製造につ いての開発を行った(同(15))。
しかし,上記各事実は,それ自体は本件発明1の特徴的部分の完成に直接 関係するとはいえないものであって,それらの事実をもって直ちに本件発明 1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現実に関与したと認めるに足 りるものではない。上記各事実は,前記アないしウに記載した事実に照らす と,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体的に関与し たとはいえないという上記認定を左右するものではない。
なお,被告が,ラップネットに関し,平成25年1月に原告と共同で別件 出願1をしたことや,同年12月に原告及びタカキタと本件開発契約を締結 したことについて,被告代表者は,別件出願1は,原告からラップネットを\n量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工等も原 告において行った上で編布をしたい旨の申出を受けたことから,経編機の改\n良における原告の役割を期待して,共同で行うこととしたものであり,また, 本件開発契約は,被告において綿製ラップネットの基本的な開発が完了した 段階で量産化や生産効率化を図るに当たり,原告及びタカキタにおいて積極 的な役割を果たすことが期待されたことから締結したものである等と陳述す る(乙34)。この説明は,原告が平成26年1月頃から新しく購入したラ ッシェル編機を用いてラップネットの製造を行う(前記1(15))など,ラップ ネットの量産化,生産効率化における役割を果たしたことや,原告と被告は 被告が原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行うよう になっていて(同(18)),ラップネットの生産効率化等は被告の利益でもあっ たことなどを含めた前記認定に係る事実経過にも矛盾せず,相応の合理性が あるものである。
カ 以上によれば,本件発明1について,原告代表者及びAiが発明者である ことを認めるに足りず,同人らが本件発明1に係る特許を受ける権利を有し ていたとはいえない。
(3) 本件発明11の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関 与について
ア 原告代表者,Ai及び被告代表者は,平成25年5月31日,タカキタ\nにおいてラップネットの試作品の評価を受け,以後の予定として,巻取り\nの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することが確認された (前記1(8))。 ここで,原告代表者又はAiが,綿糸を用いるラップネットの編布におい てあや振りの技術を適用することを着想し,被告に提案したとは認められな い(前記1(19)エ)。
イ 原告は,平成25年6月以降,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で 往復運動させるのではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置すると いう方法により,あや振りを施すことを試みていた(前記1(10))。なお,そ れ以前,原告は,巻上げローラを左右に往復運動させる方法を試みたが,所 望の結果が得られず,また,上記方法について,被告にその機械の動作等を 見せたことはなく(同(2)),同動作等に関する情報を被告に対して提供した ことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 巻取りに際してあや振りをすること自体は,繊維業界において広く用いら れている基本的な技術であり,被告が昭和60年頃に導入した整経機にもあ や振り機構が備わっており,被告代表\者は,従前からあや振りの技術を認識 し,日常的に用いていた。 被告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項6に記載 された発明は,経糸及び緯糸がセルロース系繊維からなるラップネットの製 造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる というものであった。そして,明細書の実施例には,巻上げローラを回転軸 方向に往復運動させる振幅の数値や,1本のロールに巻き取ったラップネッ トの長さ,その直径の数値が記載されているところ,この数値等は被告代表\n者が知識と経験に基づいて計算したものであり,原告から提供されたもので はなかった。そして,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成2 6年4月23日に本件出願をしたところ,本件明細書の実施例には,あや振 りに関して,先の出願2の実施例と同じ記載がされていて,この数値等は被 告代表者が知識と経験に基づき計算したものであった。上記の計算や本件明\n細書の記載に当たり,原告から提供を受けた何らかの情報が参考等されたこ とを認めるに足りる証拠はない。
エ 上記アによれば,本件発明11の特徴的部分について,原告代表者又はA\niが着想したと認めることはできない。また,原告が巻上げローラの前にあ や振り装置を設置するという方法によりあや振りを施すことを試みていたこ とは認められるが,本件発明11は,巻上げローラを回転軸方向に所定の振 幅で往復運動させるというものである。そして,前記ウのとおりの明細書の 記載やその記載に至る経緯に照らしても,原告代表者やAiが本件発明11 の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明11の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現 実に関与したとはいえない以上,原告代表者又はAiが本件発明11を発明 したということはできない。
オ 原告は,ラップネットの試作を行い,平成25年6月以降は,巻上げロー ラの前にあや振り装置を設置する方法によりあや振りを施すことを試みるよ うになり(前記1(10)),平成30年7月には,ネット生地を鎖編組織の間隔 の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながら巻き取ることなどの構成を有\nする製造方法についての特許出願をする(同(18))など,ラップネットの製造 においてあや振りに関する開発を行っていたことはうかがえる。しかし,上 記各事実は,その内容及び時期から,平成25年7月22日までに完成され ていた,本件発明1等のラップネットの製造方法において巻上げローラを回 転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用\nするという,本件発明11の特徴的部分の完成に対し,原告代表者及びAi が具体的に関与したことの根拠となるものではない。
(4) 以上によれば,原告代表者又はAiが本件発明1及び本件発明11を発明し, ひいては本件各発明の大部分を担ったとの原告の主張には理由がない。 なお,本件各発明のうち,本件発明1及び本件発明11以外の発明について, その特徴的部分の完成に対する,原告代表者又はAiの具体的な関与を認める に足りる証拠もない。原告の主張中には,本件各発明の中には本件開発契約の 期間中の発明がある旨述べる部分もあるが,その期間中にされた発明であるこ とによって,直ちに特定の発明の特徴的部分の完成に原告代表者及びAiが具 体的に寄与したと認められることになるものではない(本件開発契約でも発明 に係る権利は発明をした当事者に帰属することが定められていた。)。 したがって,原告代表者及びAiが被告代表者と共同で本件各発明をしたと\nは認めるに足りない。

◆判決本文

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平成29(ワ)27378  特許権持分一部移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月21日  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、東京地裁は、「訴えの利益無し、発明者ではない」と判断sました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。被告Yは本庶教授なのでしょう。

 原告は,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有すると主張す る。しかし,確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し, かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について 判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切な場合に認められ ると解されるところ,本件発明の発明者であることの確認請求は,原告が本件 発明の発明者にあるという事実関係についての確認を求めるものにすぎず,給 付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから, 原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益があるということは できない。 したがって,本件訴えのうち,原告が本件発明の発明者であることの確認を 求める部分は確認の利益を欠き,不適法である。
・・・
上記(2)ないし(4)によれば,1)本件発明の技術的思想を着想したのは,被 告Y及びZ教授であり,2)抗PD−L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教 授及びW助手であり,3)本件発明を構成する個々の実験の設計及び構\築をし たのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の 実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限ら れたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったと\nいうことはできない。 したがって,原告を本件発明の発明者であると認めることはできない。
(6) 原告の主張について
ア 発明者の認定基準について
(ア) 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争い がないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験 を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主 張する。 しかし,前記判示のとおり,発明者と認められるためには,当該特許 請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着 想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に, 発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとして も,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者という ことができないと解すべきである。 原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD−L1抗体の作 製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構\築に対する貢献もごく 限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば, 原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきであ る。
(イ) また,原告は,特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,こ れを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性 が推認されるべきであると主張するが,研究の補助者が特許発明に係る 情報を記載した各種文書を作成・保管することもあり得ることに照らす と,特許発明に関する文書の作成・保管主体をもって直ちに発明者であ ると推認することはできない。

◆判決本文

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