共同発明者として持ち分の移転登録を求めましたが、1審と同様に、請求は棄却されました。
イ 本件発明11の完成時期について
本件発明11に係る請求項11の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、
柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜10に記載のラップネットを連続して編成するラップネット
の製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラッ\nプネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げ\nローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とす
るラップネットの製造方法。」であるのに対し、本件出願の優先権主張の基
礎となる先の出願2の請求項6の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、
柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜5に記載のラップネットを連続して編成するラップネットの
製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラップ\nネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げロ\nーラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とする
ラップネットの製造方法。」であり、先の出願2の請求項6の記載は、本件
特許の請求項11の記載と同内容である。
加えて、本件明細書の【0042】ないし【0044】、【0083】及
び【0094】の記載は、先の出願2の明細書の【0032】ないし【0
034】、【0070】及び【0081】の記載と同内容であることからす
ると、先の出願2の請求項6に係る発明の技術的思想は、本件発明11の
技術的思想と同一であることが認められる。
そして、先の出願2の明細書の上記記載中には、巻上げローラを回転軸
方向に往復運動させる振幅の数値、1本のロールに巻き取ったラップネッ
トの長さ、その直径の数値、発明の効果等の記載があり、かかる記載によ
って、本件発明11の技術的思想は、先の出願2の請求項6に係る発明の
技術的思想において、既に具体化しているものと認められる。
そうすると、本件発明11は、遅くとも、先の出願2がされた平成25
年7月22日には完成していたものと認められる。
ウ 本件発明11に係る控訴人代表者及び甲の共同発明者性について\n
(ア) 前記1(1)の認定事実によれば、控訴人代表者、甲及び被控訴人代表\
者は、平成25年5月31日、タカキタにおいて、控訴人が作成したラ
ップネットの試作品について評価を受け、同日、控訴人、被控訴人及び
タカキタは、以後の予定として、同年6月中旬をめどに、ラップネット\nの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様で試作品を製造することを確認
したこと、控訴人は、同月以降、巻上げローラの前に綾振り装置を設置
する方法によって綾振りを施すことを試みていたことが認められる。
しかるところ、ラップネットの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様
でラップネットの試作品を製造することが確認された同年5月31日ま
でに、控訴人代表者及び甲が、ラップネットの製造に当たり、綾振りの\n技術を適用することを着想して、被控訴人代表者に提案等をしたことを\n認めるに足りる証拠がないことは、前記1(2)エのとおりである。
また、先の出願2の出願日である同年7月22日までに、控訴人が被
控訴人に対し、控訴人が行っていたとする綾振りの方法に関する情報を
提供したことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取機
構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させる構成について、控訴人代表\者及び
甲が着想したものであると認めることはできない。
・・・
控訴人は、1)本件明細書記載の本件発明11の経編機を用いたラップネ
ットの編立技術(【0026】、【0040】、【0064】、【0066】、【0
071】、【0076】、【0089】、【0094】、【0106】、【0111】、【0147】、【0149】、【0158】、【0167】)について、控訴人及
び被控訴人が共同でした別件出願1の明細書(甲19の2)にも、同様の
内容の記載がある(【0012】、【0020】、【0028】、【0056】、
【0058】、【0059】、【0067】)ことからすれば、本件発明11の
製造方法は、別件出願1の出願時に開発されたラップネットの製造技術が
応用されたものであり、控訴人代表者及び甲は、別件出願1の出願日前に\n本件発明11の編立技術を着想し、その後のラップネットの試作、改良を
繰り返すことで、その着想を具体化し、上記編立技術の完成に深く関与し
たといえること、2)本件発明11における綾振り技術の課題に関しても、
上記経編機を利用したラップネットの製造において素材に綿糸を使用す
ることで新たに発見した課題であり、その解決手段である巻上げローラを
左右に振る方法も経編機の編立部分と一体不可分の解決手段であること、
3)控訴人による綾振り装置の具体的な開発経過( 巻上げローラを左右に
動かしながら巻上げする方式(偏芯平カムを上下に動かして使用)を採用
し、平成25年5月31日のサンプル(約200m〜250m)を試作す
る、 巻上げローラを左右に動かしながら巻上げする方式(偏芯ドラムカ
ムを使用)を採用し、同年6月21日の試験用サンプル(1000m)を
試作する、 同年7月6日以降、生地を左右に動かしながら巻上げする方
式(偏芯平カムは(ア)を再利用)を採用し、サンプルを試作する)によれば、
控訴人代表者及び甲は、本件発明11の特徴的部分を着想し、その具体化\nに創作的に関与した旨主張する。
しかしながら、1)については、控訴人が指摘する別件出願1の明細書の
記載は、いずれも、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取
機構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させることに関係するものではないから、
上記記載と共通する記載が本件明細書にあるとしても、このことから、控
訴人代表者及び甲が本件発明11の技術的思想の具体化に創作的に関与\nしたものと認めることはできない。
また、2)及び3)については、前記ウ(イ)の説示に照らすと、控訴人が、
本件発明11が完成した同年7月22日までに、ラップネットの試作品の
作成において、控訴人が巻上げローラの綾振りを採用していたことを認め
ることはできない。
◆判決本文
冒認発明を理由に移転請求をしました。裁判所は共同発明であるとして移転請求を認めました。
ア 特徴的部分1)について
前記各認定によれば、被告は、少なくとも平成29年8月10日頃までは、魚の
神経抜き及び血抜きにあたってはあえて少し血を残す方が良く、魚の熟成等の観点
からは血の回りだけでなく神経絞めに意味があると考えており、このような考えに
基づき、脳髄や神経を抜くことで血抜きをするという発想を持っていたことがうか
がわれる。また、被告は、この頃、「明石浦漁港のやり方」すなわち背骨上側に沿う
脊髄神経に針金を通し神経を破壊する方法に加えて水圧を使うことを提案している
ことに鑑みると、尾部を切断することやそれによって血液弓門を露出させ、血液弓
門から水圧を掛けて血抜きをすることは、必ずしも想到していなかったものと推察
される。他方、原告は、早く確実に作業することが可能なことや骨全体まで完全に血抜きをすることを重視し、神経抜きはすればよいがしなくてもよく、血を回さな\nいための神経抜きであると考えていた。原告は、当時実施していた方法はエラに水
圧を掛けて血抜きをするものであったが、この方法では鬱血を広げてしまうという
欠点があるとしていたところ、足踏み式試作品を見て、水が噴出されるノズルの先
端部分の形状をより細くすれば十分に加圧することが可能\\となり、「全て切った尾
びれの付け根から処理でき」る、すなわち、尾部を切断して血液弓門を露出させ、
そこに先端を細くしたノズルを刺して水圧を掛け、神経抜きと血抜きを行う方法を
着想したことがうかがわれる。
その後の原告と被告とのやり取りは、原告が着想した上記方法を念頭に、ノズル
の形状や流量調節器具に関する具体的検討を進めたものと理解される。
したがって、本件各発明の特徴的部分1)は、被告が製作した足踏み式試作品に接
したことを契機とするものの、長年の水産会社勤務、とりわけ魚の生き締めに関す
る実地での経験等を背景とした原告の着想及び具体化に基づくものといってよい。
したがって、本件各発明の特徴的部分1)の完成については、被告のみならず原告も
創作的に寄与したものというべきである。
イ 特徴的部分2)について
前記各認定によれば、本件各発明の特徴的部分2)に関する原告と被告とのやり取
りは、以下のような経過をたどったものと理解される。
すなわち、被告は、原告とのやり取りを開始した平成29年7月11日までには
既にノズルの先端の形状がテーパ状である足踏み式試作品を試作していたが、同月
12日には、ノズルの形状が針状のエアダスターにつき、十分に用途を果たすこと、\nエアガンでないと極細ノズルが付けられないこと、魚によっては極細ノズルは要ら
ないかもしれないが、特に血管の方までやるなら極細ノズルは必要と考えることな
どの意見を述べた。また、原告は、同年8月1日、被告に対し、足踏み式試作品に
ついて、先端部分をもっと細くすることができるかを尋ね、被告が簡単にできる旨
を回答すると、それであれば神経まで潰せるし、逆から骨の血も抜ける、全て切っ
た尾ヒレの付け根から処理できるとの考えを示した。さらに、同日、原告は、針状
試作品について、これを用いれば簡単に後ろから処理できる、水圧で神経が出せる
なら、スーパーでも使えるなどと感想を述べた。その後の同年9月の間のやり取り
においても、原告と被告は、ノズルの形状については針状の極細ノズルとすること
を念頭に検討を進めていたことがうかがわれる。
もっとも、原告は、針状試作品では魚が暴れた際等にノズルが変形等してしまう\nなどの不具合があると結論付け、同年11月1日、被告に対し、ノズルの形状をテー
パ状にすることを提案した。これに対し、被告は、当初、テーパ状とすると製造に
あたって精密さが求められ、コストが掛かることなどを指摘し、消極的な態度を示
したが、原告が製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡単である旨の回答
を得たこともあって、ノズルの形状をテーパ状とすることも検討することとした。
しかるに、原告は、その後、ノズルの形状をテーパ状とするだけでは十分ではな\nく、せめて先端の1cm程度を針状にして魚の骨の中で固定することが必要であると
し、当該針状の部位からそのままテーパ状の部位につながるノズルの形状を提案し
た。これに対し、被告は、スプレー式に噴出するテーパ状のノズルであっても、圧
力の逃げ場がないように神経弓門や血液弓門に刺すなどすることができるのではな
いか、との意見を述べたが、原告は、これに否定的な態度を示した。
このような経緯を経て、本件各発明は、あらゆる大きさの魚に対応するための血
液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノ\nズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(特徴的部分2))をその特徴的部分の
1つとするものとして完成するに至ったものといえる。このことに鑑みると、特徴
的部分2)につき、最終的には被告の考えに基づき発明として完成したものの、課題
を解決するための着想及びその具体化の過程においては、被告のみならず原告も創
作的に寄与したものというべきである。
ウ したがって、原告と被告は、共に本件各発明の特徴的部分1)及び2)の完成に
創作的に寄与したものといえ、原告と被告は、本件各発明の共同発明者と認められ
る。これに反する原告の主張は採用できない。
エ 被告の主張について
被告は、原告の助言を受ける前に既に本件各発明を完成させていた旨を主張し、
これに沿う供述等をする。
しかし、着想としてであれ被告が原告とのやり取りとかかわりなく単独で本件各
発明を完成させていたことをうかがわせる検討メモその他の客観的な資料は見当た
らない。その点を措くとしても、前記認定に係る本件各発明に至る経緯を見る限り、
被告は、とりわけ本件各発明の特徴的部分2)について、原告の意見を踏まえて方針
を変更したことがうかがわれる。この方針変更は、特徴的部分2)に関わるものであ
る以上、単に本件各発明を商品化する上で必要となったという程度にとどまるもの
とはいえない。また、本件各発明を商品化した商品の販売促進につき原告の協力を
得るという被告の意図の存在は、前記認定に係る本件各発明に至る経緯からもうか
がわれるものの、本件各発明の構成を具体的に示すなどして原告との議論を誘導す\nるなどした形跡はうかがわれず、むしろ上記のとおり原告の意見を踏まえて方針変
更をしたことなどを踏まえると、そのような意図のみに基づくものとまでは認めら
れない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
(5) 小括
以上より、本件特許は、特許法38条に違反してされたものであるから、同法1
23条1項2号所定の要件に該当すると共に、原告は本件特許に係る発明である本
件各発明について特許を受ける権利を有する者であることから、原告は、特許権者
である被告に対し、同法74条1項に基づき、その持分の移転請求権を有する。
2 本件出願の不法行為該当性等(争点2)について
不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、
訴訟追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容
された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、
不法行為と相当因果関係に立つものというべきである(最高裁昭和44年2月27
日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。
しかし、本件において、原告は、冒認出願又は共同出願違反による損害として、
本件訴訟追行に要した弁護士費用以外の損害の主張をしていないことから、弁護士
費用以外の損害を認めることはできない。そうである以上、原告が、冒認出願等の
被害者として、本件出願により生じた損害につき本件訴えを提起することを余儀な
くされたとは認められない。そうすると、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用
は、冒認出願等と相当因果関係のある損害とはいえない。
したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成立は認め
られない。これに反する原告の主張は採用できない。
◆判決本文
2022.01. 5
原告が、共同発明者か否かかが争われました。1審、控訴審とも発明者ではないと判断しました。
控訴人は,1)平成22年6月24日,3本スリットフィンの風上側
のスリットをなくすことにより座屈強度の向上を図ることができること
を着想し,同日,Eに対し,フラットフィンの強度計算をFにしてもら
うように指示し,その後,2本スリットフィンの座屈強度計算もFにし
てもらうように指示したこと,2)その結果,2本スリットフィンの座屈
強度は当初フィンの2.5倍で,フラットフィンとほぼ同一であったが,
Eは,2本スリットでは伝熱性能が低下するとして,3本のスリットを\n風下側に押し込めることを提案し,控訴人はこれを承諾したこと,3)そ
の後,控訴人及びEによる試験を経て,同年7月下旬頃,本件発明が完
成したことを主張する(本判決による補正後の原判決4頁21行目から
5頁20行目まで)。
(イ) そこで,前記(ア)の控訴人の主張について検討する。
控訴人は,控訴人メール1において,Eに対し,フラットフィンの座
屈強度の解析を指示し,Eは,Eメールにより,●(省略)●を報告し
た。しかし,それらの●(省略)●に記載されていたものであり(前記
(3)ケ(イ)),このうち●(省略)●に提出されたものであり(前記キ),E
らが住環研において●(省略)●を示すものであった。
また,控訴人は,Eメールに対して返信した控訴人メール2において,
●(省略)●と記述したが,これは,Eメールに示された●●を見て,
控訴人がその時に,●(省略)●と認識したというにとどまるものと認
められ,それをもって,控訴人が,Eらに先んじて,当初フィンを2本
スリットフィンに変えることを着想したとはいえない。
さらに,控訴人がEに対して2本スリットフィンの座屈強度計算を指
示したことを認めるに足りる証拠はなく,Eが3本のスリットを風下側
に押し込めることを提案し,控訴人がこれを承諾したこと,その後,控
訴人及びEによる試験を経て,平成22年7月下旬頃,本件発明が完成
したことなどの控訴人の主張に係る事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると,仮に,伝熱性能を確保しつつ座屈強度を向上させるため\nに2本スリットフィンとすることが本件発明の特徴的部分に係る着想で
あるとしても,控訴人がそれを着想したとは認められず,控訴人は,本
件発明の発明者とは認められない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)5059