冒認(発明者認定) ┃ 2024年 ┃ 2023年 ┃ 2022年 ┃ 2021年 ┃ 2020年 ┃ 2019年 ┃ 2018年 ┃ 2017年 ┃ 2016年 ┃ 2015年 ┃ 2013年 ┃ 2011年 ┃ 2010年 ┃ 2009年 ┃ 2008年 ┃ 2007年 ┃ 2006年 ┃ 2005年 ┃ 2002年┃
2023.10.11
◆本件特許
原告らは、本件特許から遅れて、10ヶ月後、自ら別の出願していました。
◆原告ら特許
エ 被告は,Fが原告Aに対して,本件攪拌混合機ないし本件角堀掘削ヘッドに
ついて特許出願したい旨を伝えたところ,原告Aが「うちはいいから,会社で出し
て。」と述べた,また,原告Aは,平成25年12月21日,被告従業員らに対し,
本件特許出願の発明者について「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述
べたなどと主張し,被告従業員らの各陳述書(乙30ないし32)があるほか,証
人Fも証人尋問において同旨の証言をする。
しかし,前者(原告Aが「うちはいいから,会社で出して。」と述べたとの事実)
については,それがいつ,どのような場面において原告Aからされた発言であるか
が主張上も,証人Fの証言上も明確でないから,同事実を認定するには至らない。
後者(原告Aが「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述べたとの事実)
については,Fは,証人尋問において,「A社長と相談したら,自分じゃなくて若
い者にしてもらったらいいかなというふうに聞いた」,「ありがとうございますと
言われたような気がします。」,「島根に来られたときなんで,ちょっとはっきり,
日付までおぼえてないですけれども。」などと証言するにとどまり,原告Aがいか
なる文脈で,どのような趣旨で発言したのかについて明確に証言しないから,発言
した日時,場所等はもとより,原告Aが,本件各発明について,被告による本件特
許出願に際し,自らを発明者として記載せず,原告Bを発明者として記載すること
を了承する趣旨で上記のような発言をしたとまで認定することは困難である。
(3) 本件各発明の発明者について
ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうか
ら(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想
の創作行為に現実に関与することを要する。
そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する
者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具
体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行\nツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参
照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得な
かった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求め\nられる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記
載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎
付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的,
客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると\nいうべきである。
イ 本件発明1について
本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成\nするためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向
に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横
掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ
設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明
である。
本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0
006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する
課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置におい
て,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要
があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従
来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメン\nトミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼
を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたと
の構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構\築できるとの作用効果を生じ,
上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分というこ\nとができる。
しかるところ,前記認定事実((1)エ,なお(2)イも参照。)によれば,被告は,平
成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベース
マシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場
に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2
号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなど
を用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成として\nはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同
日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼と
から構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと\n認められる。
なお,この点に関連して,原告らは,被告が原告らに製造を依頼したのは,「水
平方向に地盤を広範囲に連続攪拌する機能を備えた地盤改良装置」であって,角柱\n杭を形成することは予定されておらず,原告らが平成25年8月10日に行った試\n掘により覚知したと主張する。前記認定事実((1)エ,オ,ク)によれば,被告は,
浅層ないし中層の地盤改良装置を原告らの参考とさせ,原告らに交付した注文書に
は「浅層改良機」との記載があり,また,平成26年に至ってから本格的に本件角
堀掘削ヘッドを深層まで杭を打ち込むことが可能な2号機において稼動させること\nを前提とした種々の発注等を行っていることなどが認められるから,被告は,当初,
角堀掘削ヘッドを浅層ないし中層の地盤改良用途を中心に用いることを構想してい\nた可能性が相応に認められる。しかし,浅層ないし中層の地盤改良であっても,杭\nを並べて打つことにより広範囲を改良する工法は一般的に行われているから(本件
明細書の段落【0007】の記載や,甲第45号証にもかかる工法をうかがわせる
記載がある。),被告が当初有していた着想が,角柱杭を形成することを予定して\nいなかったということはできない。
もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考\n資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパ
ンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供した
との事実は何ら認められないところ,前記認定事実((1)エ,オ)のとおり,原告ら
は,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本
件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また\n製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもって
も半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整
等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告ら
にした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復し\nて実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできな
い。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当
業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献を\nしたものと認めるのが相当である。
したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程におい
て,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから,
その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。
ウ 本件発明2ないし同4について
本件発明2は,本件発明1に「該横掘削翼は,該先端掘削翼より根本側で,且つ
該先端掘削翼近傍に設けたものである」との発明特定事項を加え,本件発明3は,
本件発明1又は同2に「全横掘削翼の回転面と直角の攪拌面積が,該先端掘削翼が
掘削する面積の1/6以上である」との発明特定事項を加え,本件発明4は,本件
発明1ないし同3に「全横掘削翼は2つである」との発明特定事項を加えた発明で
ある。これらの発明の特徴的部分は,前記イに述べた本件発明1の特徴的部分のほ
か,上記発明特定事項にあるものと認められる。
そして,前記イに認定説示したところによれば,これらの特徴的部分の各着想か
ら具体化に至る過程においては,被告従業員ら及び原告らが相応に創作的な貢献を
したというべきであるから,本件発明2ないし同4の発明者も,被告従業員ら及び
原告らの5名である。
エ 共同発明者各自の貢献度について
これまで認定説示してきたとおり,本件各発明は,被告従業員ら及び原告らの共
同発明と認められるところ,各自の貢献度については,前記認定事実に認定したと
おりの本件各発明に至る経緯を総合し,本件各発明の特徴的部分に係る着想と,そ
の具体化の各過程の価値を等価なものとして,被告従業員らが2分の1,原告らが
2分の1として,さらに,被告従業員ら側内部における各人の貢献度,原告ら側内
部における各人の貢献度も,それぞれ等価なものと認めるのが相当である(なお,
仮に,本件各発明との関係で原告Bを原告Aの単なる補助者とみる余地があるとし
ても,弁論の全趣旨によれば,原告らは本件各発明についての特許を受ける権利の
共有持分につき,各2分の1とする旨合意したことが認められるから,上記認定が
判断左右されるものではない。)。
したがって,本件各発明についての共同発明者間の各貢献度は,原告A及び原告
Bが各4分の1,F,D及びEが各6分の1ということになる。なお,前記1の認
定事実によれば,被告従業員らは,本件特許出願に先立ち,本件各発明についての
特許を受ける権利の共有持分を,少なくとも黙示的に,被告に承継させたものと認
められるが,原告らが本件各発明についての特許を受ける権利の共有持分を被告に
承継させたと認めることは困難であり,ほかに被告が原告らから本件各発明につい
ての特許を受ける権利の共有持分を承継したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 争点2の結論
以上によれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,本件各発明について特許を受け
る権利の各4分の1の共有持分を有しているものと認められる一方,被告は,本件
各発明について特許を受ける権利の各2分の1の共有持分を有しているものと認め
られる。
2 争点2(発明者名誉権の侵害により原告Aが受けた損害の額)について
上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実
(第2,2(3))のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者と
して原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に
関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認める
ことが困難であることは,前記(2)エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記
載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。
被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人
格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより\n原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。
そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明
者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を\n訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日\nであること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基
にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成
28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として
記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料
30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。