分割要件違反無しとした審決が維持されました。
原々出願の当初明細書(【0058】)には,n型GaN基板の裏面を機械研磨したことにより裏面近傍に集中して発生した結晶欠陥(転位を含む)領域を約0.5μmの厚みで除去した場合(試料3)と,その倍の約1.0μmの厚みで除去した場合(試料4)とを比較し,試料4の方が転位密度が3桁も低くなり,その結果,試料4の方がより低いコンタクト抵抗が得られたことが記載されている。このような記載に接した当業者であれば,上記【0058】において,試料4が試料3に比べて転位密度がより低くなり,コンタクト抵抗がより低くなったという結果は,試料4の方が機械研磨によって生じた転位を含む領域が比較的厚く除去された,すなわち,転位そのものがより多く除去されたことによってもたらされたものであると認識するのであって,除去手段をエッチングとするか他の手段とするかによってかかる効果が左右されるものであると認識するものではない。したがって,原々出願の当初明細書【0058】の「研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去」する手段としては,特定の方法(エッチング)に限定されるものでないことは,原々出願の当初明細書の記載から,当業者にとって自明であったといえる。
(3) 原告は,原々出願の当初明細書(【0058】)の記載は特定のガス種を用いて反応性イオンエッチングを行った結果を記載しているだけであり,条件を変えたエッチングやエッチング以外にまで拡大した「除去手段」を用いたときに同様の効果が得られることが自明であるとはいえない旨主張する。確かに,原々出願の当初明細書(【0058】)には,特定のガス種(Cl2ガス)を用いたRIE法でGaN基板の裏面を除去した結果しか記載されていないものの,前記(1)ウ〜カの各記載のとおり,原々出願の当初明細書に記載された発明におけるn型GaN基板裏面のエッチングは,Cl2を用いたRIE法に限定されるものでないことは明らかである。また,上記【0058】の「約0.5μmの厚み分の除去では,機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域を十分に除去することができなかったためであると考えられる。」との記載からすると,機械研磨により発生した結晶欠陥(転位)を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域を十\分に除去すれば,転位密度が十分に低減し,その結果,第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が下がることは,当業者であれば理解することができるものである。そうすると,原々出願の当初明細書には,研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する手段について,特定の方法(エッチング)に限定されない除去手段が記載されているということは,当業者にとって自明な事項であるといえる。\n
◆判決本文
◆こちらは関連事件です。平成24(行ケ)10302
特許査定後の分割が、H18年改正が適用されない分割出願について適用されるのかについて争われました。知財高裁は「適用されない」と地裁の判断を維持しました。
当裁判所も,本件原出願から分割出願をすることができるのは,時期的制限を緩和した平成18年改正法によるのではなく,平成14年改正法によるべきであって,本件原出願についての特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に限られ,当該送達後になされた分割出願である本件出願は時期的制限を徒過した不適法なものであるから,本件出願を却下した本件却下処分に違法はなく,控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。2 平成18年改正法は,従前,特許出願の一部を新たな特許出願とする分割出願ができる時期につき,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に制限されていたのを,旧44条1項の改正により,特許査定謄本の送達後30日以内の期間にも可能となるよう時期的制限を緩和した。本件出願は,本件原出願の一部を新たな出願とする分割出願であるから,本件出願が,分割をすることができる時期的制限内に行われたか否かが本件の争点である。すなわち,平成22年にされた本件原出願からの分割出願に新44条1項が適用されるならば,控訴人による本件出願は分割出願の時期的制限内に行われたものとして適法となり,新44条1項が適用されないならば,分割出願の時期的制限を徒過したものとして,不適法となるという関係にある。3 平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置として,「第2条の規定による改正後の特許法第17条の2,第17条の3,第36条の2,第41条,第44条,第46条の2,第49条から第50条の2まで,第53条,第159条及び第163条の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の例による。」旨を規定する。新しい法令を制定し,あるいは既存の法令を改廃する場合において,旧法秩序から新しい法秩序に移行する際には,社会生活に混乱を招いたり,不公平な適用となったりすることのないよう,一定の期間,既存の法律関係を認め,円滑に新しい法秩序に移行すべく,改正の趣旨や社会生活や法的安定性に与える影響等,種々の事情を勘案の上,経過規定が定められる。したがって,経過規定の解釈に当たっては,当該改正法の立法趣旨及び経過措置の置かれた趣旨を十分に斟酌する必要がある。一方で,その解釈には法的安定性が要求され,その適用についても明確性が求められることはいうまでもない。そこで,検討するに,平成18年改正法の主たる改正点は,技術的特徴が異なる別発明への補正の禁止(特許法17条の2第4項,41条,49条ないし50条の2,53条,159条,163条),分割制度の濫用防止(特許法17条の2,50条の2,53条),分割の時期的制限の緩和(特許法44条1項,5項,6項),外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長(特許法17条の3,36条の2,44条2項,46条の2)であったところ,平成18年改正法附則3条1項は,これらの各条文の適用に当たり,審査の着手時期等によって適用される制限や基準が区々となり,手続継続中に基準が変更されて審査実務や出願人等が混乱することのないよう,各種手続の基礎となり,その時期が明確である「特許出願」を基準として,「この法律の施行後にした特許出願」に新法を適用することとしたものと解される。そして,上記改正後の特許法44条1項は,「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。…」と規定し,原出願の「特許出願人」が,原出願の「特許出願の一部を…新たな特許出願」とできる時期的制限や実体的要件を定めたものであるから,この規定が規律しているのは原出願である特許出願の分割についてであることが明らかである。そうすると,平成18年改正法附則3条1項にいう「この法律の施行後にする特許出願」とは,「新たな特許出願」を指すものではなく,新44条1項が規律の対象としている原出願を指しているものと考えるのが自然である。また,もとの特許出願の審査において既に拒絶理由通知がなされた発明をそのままの内容で再度分割するなどして,権利化時期を先延ばしにすることや,別の審査官により異なる判断がなされることを期待して同じ発明を繰り返し分割出願するといった分割制度の濫用への懸念に配慮して,同改正法は,出願人の利益を図って分割出願の時期的要件を緩和する一方で,分割制度の濫用防止のための方策を同時に改正していることから,分割の時期的要件の緩和と濫用防止策は同時に適用の移行がされることが望ましいのであり,特許法17条の2,44条,50条の2,53条について上記の経過措置を一律に制定した趣旨はこの点にある。なお,平成18年改正法に先立つ平成14年改正法附則3条1項が,「新特許法・・・の規定は,・・・施行日・・・以後にする特許出願(施行日以後にする特許出願であって,特許法第44条第2項・・・の規定により施行日前にしたものとみなされるもの・・・を含む。)について適用し,施行日前にした特許出願(施行日前の特許出願の分割等に係る特許出願を除く。)については,なお従前の例による。」と規定しているのに対し,平成18年改正法附則3条1項には,平成14年のときのように,「この法律の施行後にする特許出願」に「施行日以降にする特許出願であって,特許法44条第2項…の規定により施行日前にしたものとみなされるもの…を含む。」旨の記載はない。両者の改正附則を比較すれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にした特許出願」に,新44条1項にいう「新たな出願」である分割出願が含まれるものでないことが明らかである。以上からすれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にする特許出願」とは,新44条1項にいう「新たな特許出願」ではなく,「二以上の発明を包含する特許出願」(44条1項),すなわち,分割のもととなる原出願を指すものと解すべきである。
4 本件においては,本件原出願からの分割出願が適法な時期的制限内になされたか否かが問題となるところ,平成22年にされた本件原出願自体は平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)以降になされているものの,本件原出願は平成12年にされた本件原々出願からの分割出願である。そして,控訴人は,本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり,本件原出願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前提としているところ,本件原々出願が,平成12年2月15日にしたものとみなされる国際出願であり,平成18年改正法の施行前にした出願であるから,本件原出願は本件原々出願のこの出願の時にしたものとみなされる。したがって,本件出願は,平成18年改正法の施行後にする「特許出願」からの分割ではないので,結局,本件出願について同改正法は適用されないことになる。本件原出願の出願日が遡及するか否かについて,控訴人は,分割出願の実体的要件の有無如何によって,改正後の手続規定の適用の有無が決まるのでは,著しく手続の安定を欠き,出願人に不利益を負わせる等と主張する。しかし,本件は,子出願と孫出願がともに平成18年改正後にされた特殊な事例であり,本件出願(孫出願)は,子出願(本件原出願)が親出願(本件原々出願)からの分割出願として実体的に適法であることを前提にしている。平成18年改正法附則の上記解釈によれば,子出願である原出願には平成18年改正による新44条の時期的な制限緩和の適用はないのであるが(原出願についてはこの解釈に沿って同改正前の期間制限に従って原々出願からの分割がされている。),原々出願からの分割についての実体的要件が具備している結果として,原出願の出願日が原々出願の出願日に遡ってしたものとみなされたことになるにすぎない。本件出願はその原出願についての実体的に見て有利な効果を踏まえてのものであるが,そのような法適用のよってきたる効果から逆に推して,政策的に分割出願の時期的制限を緩和した平成18年改正に関する附則3条1項に関する前記解釈に疑義が生じることはないというべきである。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成24年(ワ)第4766号
親出願に開示がないとして分割出願の出願日が遡及せず、無効と判断された審決が維持されました。
原告は,第1明細書の図13及び14に記載のプライマーが本件発明のOPの要件を満たしていると主張する。確かに,第1明細書の図13(i)には,3′末端側からから領域c′d′bac′を有するプライマーと,3′末端側から領域g′h′feg′を有するプライマーとが,両者の5′末端同士で結合した2つの3′末端を有するプライマーが記載されており,図13(ii)は,このプライマーが,5′末端側から領域aないしhを有する鋳型核酸にアニールした図が記載されている。そして,図13(iii)では,相補鎖合成が進行した図が示され,図13(iv)では,伸長した鎖が鋳型から分離された図が示されている。しかしながら,分離された鎖を示す図13(iv)には,領域f′e′しか示されておらず,それに引き続くべき領域d′以下が記載されていないことに照らすと,これらの図において,上記プライマーのうち領域g′h′からの伸長は,これらの領域が合成された後に鋳型の領域eに対する相補鎖(領域e′)が合成された時点で停止しており,当該プライマーからの別の伸長鎖を鋳型から分離させているものとは認められない。むしろ,図13(iv)は,プライマーに由来する核酸の相補鎖合成が図13(iii)に示された状態で停止したことが記載されており,かつ,この核酸については,図13(v)ないし(vii)にステムループ構造からの自己複製をすることが記載されているから,当業者は,図13(iii)に示された状態から,更に相補鎖合成が進行することを想定できない。したがって,図13には,先の工程で合成された相補鎖を鋳型から分離するという機能を有するOPが記載されているものとは認められない。図14についても,相補鎖合成が途中で停止しており,図13の場合と同様に,OPが記載されているということはできない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。\n
ウ 原告は,第1明細書の図1及び3の増幅反応ではTPがOPと同じ役割を果たしているので,第1明細書にはOPが記載されていると主張する。しかしながら,第1明細書に記載された発明では,前記(4)イに記載のとおり,第1プライマーは,先に合成された相補鎖を1本鎖にするという役割を果たしている(工程(v)ものの,そこで使用される第1プライマー(TP)は,5′末端側に,第2のセグメントとして鋳型核酸の領域と同一の領域Cを有するものであり,そのため,当該第1プライマーを起点として合成された相補鎖は,その5′末端側にある領域C及びC′が自己ハイブリダイゼーションを生じ,二次構造(ステムループ構\\造)を形成するものである。このように,第1明細書に記載された第1プライマー(TP)は,OPとしての役割を果たすほかにも,5′末端に鋳型核酸の領域と同一の領域Cを有するため,二次構造(ステムループ構\\造)を形成するという役割も果たすものであり,後者の役割は,先に合成された相補鎖を1本鎖にするというOPとは,その構造も機能\\も異なるものである。したがって,第1プライマー(TP)は,OPとしての機能のみを有するものではなく,むしろ,二次構\\造(ステムループ構造)を形成することでその後の増幅反応の工程に影響を与えるものであるから,第1プライマーの記載があるからといって,直ちに第1明細書にOPが記載されているということはできない。\n
◆判決本文