2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.10. 6
令和5(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許料納付後、設定登録されてからした分割出願の却下処分について、不服申し立てを行いましたが、1審の東京地裁は却下処分は妥当と判断しました。知財高裁も同様です。
経過としては、7月7日特許査定謄本送達、同月20日特許料納付、同月29日設定登録、同月8月5日分割出願です。時期としては、分割出願日が設定登録の後となってます。査定謄本の送達日から30日以内(特44条1項2号)という要件は満たしていると争いましたが、設定登録後は「特許出願人」ではないと判断されました。
法解釈的には裁判所の解釈は正しいです。ただ、条文の規定も、ユーザフレンドリーからすると、同2号に「ただし、設定登録後は除く」と確認的に明記しておけば、このような問題は生じないと感じました。
特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、
分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法4
4条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すも
のである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるも
のであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出
願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。な
お、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権
者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」
の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指す
ことは明らかである。
また、控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は
法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項
2号が、特許料納付期限(法108条1項)と平仄を合わせる形で、特許査
定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限
内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」た
る地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特\n許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択
肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予\期間を付与
したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願
が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾
するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。
また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有
権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照
らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 取消事由2について
控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和4(行ウ)382
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2023.03.29
令和4(行ウ)382 特許分割出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月23日 東京地方裁判所
特許権の登録後の分割出願の可否について争いましたが、認められませんでした。料金納付後9日で登録されていました。
法 44 条 1 項柱書きは、特許出願人は、一の特許出願中に二以上の発明が
含まれている場合、その特許出願の一部を新たな出願(分割出願)とするこ
とができる旨規定する。ここで、「特許出願人」及び「特許出願」とされて
いることに鑑みると、同項の規定は分割出願のもととなる特許出願が特許庁
に係属していることを前提とするものと理解される。他方、同項は、分割出
願の時期的要件につき、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面
について補正をすることができる時又は期間内にするとき」(1 号)や「拒
絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があった日から三月以内にするとき」
(3 号)と定めるほか、「特許をすべき旨の査定…の謄本の送達があった日
から三十日以内にするとき」(2 号)と定めているところ、上記のとおり、
法 44 条 1 項はもととなる特許出願が特許庁に係属していることを前提とす
るものと理解されることを踏まえると、特許査定の謄本の送達があった日か
ら 30 日以内であっても、特許権の設定登録がされればその特許出願は特許
庁に係属しなくなる以上、これをもとに分割出願をすることはできないと解
される。
本件については、前提事実(1)のとおり、本件特許査定の謄本が原告に送
達されたのは令和 2 年 7 月 7 日であるから、原告は、同日から 30 日以内で
ある同年 8 月 日に本件親出願をもとの特許出願とする分割出願(本件出願)
をしたといえる。しかし、本件出願に先立つ令和 2 年 7 月 29 日に本件設定
登録がされたことにより、本件親出願は特許庁に係属しないものとなったこ
とから、それ以降は本件親出願をもとの特許出願として分割出願をすること
はできなくなっていたものである。
したがって、本件出願は、法 44 条 1 項所定の分割可能期間を経過した後\nにされたものであり、同項所定の要件を満たさないものと認められる。
以上のとおり、本件出願は、法 44 条 1 項所定の要件を満たさない不適法
なものであり、その補正をすることができないものといえるから、同法 18
条の 2 第 1 項本文に基づいて本件出願を却下した本件却下処分は適法と認め
られる。
(2) 原告の主張について
ア 取消事由 1 について
原告は,法 44 条 1 項の定める分割出願について、特許査定謄本の送達
の日から 30 日以内であっても特許権の設定登録がされた後はすることが
できないとの解釈は,明文の規定のない被告による解釈にすぎず,十分な\n合理性を有しないなどと主張する。
しかし,「二以上の発明を包含する特許出願の一部」(法 44 条 1 項柱
書き)のうちの「特許出願」及び「特許出願人」(前同)が、特許庁に係
属している特許出願及び同出願における特許出願人をそれぞれ意味するも
のであることは文理上明らかである。
また、法 46 条の 2 第 1 項は実用新案制度に特有の事情を考慮して設け
られたものであることなどに鑑みると、同条項の存在は、分割出願の時期
的要件に係る解釈に結び付くものでは必ずしもない。
◆判決本文
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2023.02.17
令和4(行ケ)10028 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月23日 知的財産高等裁判所
分割出願について、親出願に開示があったが争われました。知財高裁は多少の用語の変更(帯状→「長尺状」)は新たな技術的事項を追加するものでないと判断しました。
本件においては、本件特許出願の明細書及び図面の記載が、親出願、子出
願、孫出願の当初の明細書及び図面の記載、並びに子出願及び孫出願の分割
時の明細書及び図面の記載に対して新たな技術的事項を追加したものではな
いということについて、当事者間に争いはない(本件審決第6の1(2)〔本件
審決25頁〕)。そこで、本件特許出願により請求項1に追加された「着脱可
能に」、「透光カバー」という事項、請求項2に追加された「弾性部材」とい\nう事項、請求項1に追加された「長尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」及
び「長尺状の底板部」における「長尺状」という事項につき、親出願の当初
明細書等に対して新たな技術的事項を追加するものであるか否かについて判
断する。
(3) 本件特許の請求項1に記載の「着脱可能に」との事項について\n
ア 新規事項の追加の有無
(ア) まず、親出願の当初明細書等に開示されていた課題について検討する
と、親出願の当初明細書等には、【発明が解決しようとする課題】に、「室
内がスマートであるとの印象を与えうるLED照明装置を提供する」
(段落【0010】)という課題が記載されており、また、【背景技術】
に関しては、「LED照明装置Xからの光は輝度むらを生じやす」く、「こ
の輝度むらが顕著であると」、「個々のLEDチップ92が視認できてし
まう場合があ」り、「見る者が見栄えがよくないと感じてしまう」(段落
【0004】)という課題が示され、第9実施形態に関して、「光のムラ
を抑える」(段落【0151】〜【0155】)という課題が開示されて
いる。
しかし、親出願の当初明細書等には、多数の実施形態(第1ないし第
24実施形態)が開示されており、そこで開示されている課題は、上記
の課題に限られるものではない。すなわち、親出願の当初明細書等には、
第1実施形態に関する「このようにLEDユニット2を容易に取り付け
ることができる。」(段落【0044】)、「このように、LED照明装置A
1は、マウント1からLEDユニット2を容易に取り外すことができ
る。」(段落【0046】)という記載、第7実施形態に関する「このよう
に、LED照明装置A7は、ウイング部120からLEDユニット2を
容易に取り外すことができる。」(段落【0131】)という記載、第11
実施形態に関する「したがって、LED照明装置A11では、適切な時
期にLEDユニット2を交換可能となっており、常時見栄えのよい照明\nを提供することができる。」(段落【0177】)という記載、第12実施
形態に関する「このため、LED照明装置A12では、LEDユニット
2の交換を容易にかつ速やかに行うことが可能となっている。」(段落\n【0186】)という記載、第23実施形態に関する「また、解除レバー
161を用いれば、比較的接近して並列に配置された2つのLEDユニ
ット21を個別に容易に取り外すことができる。」(段落【0261】)と
いう記載があり、これらの記載に鑑みれば、親出願の当初明細書等には、
「LEDユニットを交換可能とする」ことが発明の課題として記載され\nていると認められる。
(イ) 前記(ア)のとおり、親出願の当初明細書等には、「LEDユニットを交
換可能とする」という課題が記載されており、この課題は、LEDユニ\nットが「着脱可能に」取り付けられていれば解決可能\なものであって、
着脱可能とする構\成について、特定の構成を採用しなければならないと\nする特別の要請があるとは認められず、具体的な構成まで特定しなけれ\nば解決できないということはなく、当業者であれば、技術常識に照らし、
着脱可能とする適宜の方法を選択して解決することができるものと認め\nられる。
そして、親出願の当初明細書等の段落【0025】、【0026】、【0
044】及び【0046】並びに図2、図10及び図11等には、LE
Dユニット2をマウント1の凹部10aにホルダ11の可撓部11bの
弾性変形を用いて取り付け、取り外すことが記載されており、段落【0
250】及び【0251】並びに図103、図104及び図106には、
LEDユニット2をマウント1の凹部に、ワイヤホルダ161を介して
取り付け、取り外す構成が記載されている。そうすると、親出願の当初\n明細書等は、ホルダ11の可撓部11bの弾性変形を用いて取り付け、
取り外す構成と、LEDユニット2をマウント1の凹部10aにワイヤ\nホルダ161を介して取り付け、取り外す構成という複数の態様を開示\nしているということができ、これらの複数の取り付け、取り外す構成を\n包含する発明特定事項について、「着脱可能に」と特定することは、親出\n願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技
術的事項であるといえ、親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲
内であるものといえるから、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。
・・・・
親出願の当初明細書等の段落【0030】には基板31が帯状である
ことが記載され、段落【0034】にはカバー4が帯状であることが記
載されている。帯状とは、「ある幅をもって長くのびているさま。」(広辞
苑第6版、甲10)、「帯のようなほそながい形・状態。」(大辞林第4版)
を意味するから、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそ
ながい形であることが記載されていると認められる。
他方、「長尺」とは、「長さがあること。長いこと。」(大辞林第4版)
を意味するから、「長尺状」とは、長さがある状態であること、長い状
態であることを意味するものと認められる。しかるところ、上記のとお
り、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそながい形であ
ること(帯状)が記載されているから、基板及びカバーは、また、長さ
がある状態であり、長い状態である(長尺状)ともいうことができる。
そのため、親出願の当初明細書等には、長尺状の基板、長尺状の透光カ
バー(前記(4)のとおり、「透光カバー」は、親出願の当初明細書等に記
載された技術的事項の範囲内にあるものと認められる。)が記載されて
いたものと認められる。したがって、本件特許の請求項1に記載の「長
尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」における「長尺状」との事項は、
親出願の当初明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内にあるもの
と認められ、新規事項を追加するものとは認められない。
◆判決本文
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2023.01.25
令和4(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性なしと判断されました。本人出願・本人訴訟です。多くの分割出願があります。
【請求項1】は以下です
コンピュータによって実行される方法であって、
サービスの要求を受けるステップと、
前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、
前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、
25 前記認証情報が物品から取得される情報であり、
前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、方法。
上記記載によれば、引用発明においては、利用者が、自分が所持する携
帯電話機1に店舗ID、暗証番号、決裁(決済)方法、商品の購入金額を
入力し、QR決裁証明鍵発行要求として認証サーバ41に送信し、QR決
裁証明鍵発行要求を受信した認証サーバ41は、店舗及び利用者の認証処
理を行い、認証が認められる場合、決済方法の情報を含むQR決裁証明鍵
を生成し、これを携帯電話機1に送信し、その後、利用者が店舗において
購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装
置21は、携帯電話機1の表示部11に表\\示されたQR決裁証明鍵120
1を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標
識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取
結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み
取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決
裁承認要求として認証サーバ41に送信し、認証サーバ41が、携帯電話
製造番号及び携帯電話番号が正当か否かを利用者情報DB44の登録内
容と照合して調べ、この結果、いずれか一方の番号が未登録のものである
か、登録された番号と異なる場合には、不正利用であるものと判断し不正
利用情報データベースに登録した後、不正利用メッセージを店舗端末22
及び携帯電話機1に送信し、一方、携帯電話製造番号及び携帯電話番号の
両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明
鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のもので
あると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末2
2に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が
行われていることを理解できる。
しかるところ、前記アのとおり、引用発明において、認証サーバ41が
「決済承認要求」(引用例1記載の「決裁承認要求」。以下同じ。)を受け付
けることは、本願発明の「サービスの要求を受けるステップ」に相当する
ものである。そして、認証サーバ41は、決裁承認要求を受け付けると、
決裁承認要求に含まれる携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正
当であることを利用者情報DB44の登録内容と照合して確認し、かつ、
QR決裁証明鍵が自ら発行した正規のものであると認めた場合、決裁承認
要求に係る決裁承認を店舗端末22に返信していることからすれば、認証
サーバ41が、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話機1の携帯
電話製造番号及び携帯電話番号と紐づけて自らが発行したQR決裁証明
鍵の情報を管理し、店舗端末22から送信された決裁承認要求に含まれる
携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵の情報が上記情報と
一致する場合には、決裁承認の処理を行い、そうでない場合には、決裁承
認の処理を行わない制御を行うための情報を有していることは自明であ
り、また、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話製造番号及び携
帯電話番号が携帯電話機1から取得されたことも自明である。
そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認
証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか
否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1
から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に
基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に
相当するものと認められる。
以上によれば、引用例1に接した当業者は、引用発明において、かかる
制御を行うための情報を有しているものと理解するから、相違点1に係る
本願発明の構成(「(QR決裁承認要求に係る)前記要求を処理するために指示情報を使用するステップ」の構\成)及び相違点2に係る本願発明の構\n成(「前記指示情報が認証情報に基づいて設定された指示情報」であるとの
構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。\n
◆判決本文
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2023.01. 3
令和3(行ケ)10132 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年9月7日 知的財産高等裁判所
親出願における「抜きかしめ等」との記載から他の固定方法についての開示があったのかが争われまし。知財高裁は、分割要件違反なしとした審決を維持しました。
(1) 最初の親出願の出願時における積層された回転子の固定方法に関する技術常
識について
ア 前記2(1)〜(8)の各イの甲20、22、27、28、乙3〜6の各記載事項
を踏まえると、最初の親出願の出願日である平成17年1月12日当時の技術常識
として、磁石が挿入される回転子積層鉄心における積層の固定方法は、かしめを用
いるものに限られておらず、溶接や接着も選択肢として存在していたことが認めら
れる。なお、本件全証拠をもってしても、上記技術常識について、それが本件特許
の実際の出願日である平成23年7月4日までの間に変更されたものとも認められ
ない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、甲20の段落【0015】等における「抜きかしめ等」という記載
は、「かしめ」以外の固定方法を含むという趣旨ではなく、「抜きかしめ」以外の「か
しめ」による固定方法を含むという趣旨であると主張するが、同段落の文言や、甲
20に係る発明の出願日である平成12年7月13日より前に公開されていた前記
2(1)〜(3)の甲22並びに乙3及び5の記載事項に照らし、上記「抜きかしめ等」
という記載を原告の主張するように限定的に解することは相当でない。
また、原告は、甲22について、永久磁石片の挿入後に回転子3を樹脂21を収
納した容器20内に浸漬していることを指摘して、甲22に開示された技術を最初
の親出願の明細書等に記載されている発明に適用することはできないと主張する
が、上記主張は、前記アの技術常識の認定を妨げるものではない。
さらに、原告が甲27及び28について主張する点も、同じく前記アの技術常識
の認定を妨げるものではない。
(イ) 原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固
定手段としては、かしめが技術常識となっていたと主張するが、原告がその根拠と
する証拠(甲64〜69)を含め、本件全証拠をもってしても、最初の親出願の出
願当時、上記固定手段として、かしめが広く一般的に用いられていたという事情を
超えて、かしめ以外の溶接や接着といった固定方法がもはや選択肢となっていなか
ったといった事情までは認められないから、原告の上記主張は、前記アの技術常識
の認定を左右するものではない。
上記に関し、原告は、積層鉄心を溶接すると溶接部で短絡することで渦電流が発
生し、効率が低下することが技術常識であり、接着にも問題があったから、溶接や
接着による固定方法は実用化されていなかった旨を主張する。しかし、溶接により
溶接部で短絡することを踏まえた上で、なお溶接が選択肢として検討されていたこ
とは、甲27の段落【0068】(前記2(5))、乙6の段落【0031】(同(6))及び乙4の段落【0007】(同(7))の記載からも認められるところであり、接着につい
ても選択肢として検討されていたことは、甲22(同(2))及び乙3(同(3))のとお
りである。さらに、そもそも、仮に、実用化にまで至っていなかったとしても、そ
のことをもって、直ちに技術としての選択肢から除外されるものでもない。
(ウ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの技術常識の認定を左右するもので
はない。
(2) 最初の親出願の明細書等に記載された発明について
ア 前記1(1)の最初の親出願の明細書等の記載を踏まえると、次のとおり(な
お、便宜のため、最初の親出願の明細書等及び原出願の明細書等の記載の共通部分
を基礎として検討する。)、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていた
ものと認められる。
(ア) 少なくとも、段落【0005】、【0012】、【0014】及び【0017】
から、最初の親出願の明細書等には、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の
複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固
定する回転子積層鉄心の製造方法」に係る発明であることが記載されていると認め
られる。
(イ) 少なくとも、段落【0004】、【0011】〜【0013】及び【0017】
〜【0019】並びに図1及び図2から、最初の親出願の明細書等には、「前記回転
子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数
の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及
び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上
下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行うことを特徴とする」発明が記載さ
れていると認められる。
(ウ) そして、最初の親出願の明細書等に、他に前記(ア)及び(イ)の認定を左右する
ような記載はない。
(エ) したがって、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていたものと
認められる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、最初の親出願の明細書等について、発明が解決しようとする課題、
課題を解決するための手段、発明の効果及び実施形態に係る明細書の記載からする
と、あくまで、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る技術的事項が導かれるのであっ\nて、特に、発明が解決しようとする課題に照らし、かしめ以外の固定手段を用いる
ことは同明細書等には記載されておらず、明細書の段落【0018】に、かしめ部
あり構成を前提とした逃げ空間あり構\成を必須とする旨の記載があることも考慮す
ると、同明細書等に記載された発明は、逃げ空間あり構成を必須とするものである\nなどと主張する。しかし、最初の親出願の明細書中、発明が解決しようとする課題等において、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る事項が特に取り上げられて深く検討されているとしても、そのことから直ちに、最初の親出願の明細書等に記載された発明が上記構\
成を含むものに限定されるものではない。
前記(1)アのとおり、最初の親出願の出願当時、固定手段として溶接や接着も選択
肢として存在していたことが認められるのであるから、同明細書等における記載も
それを前提に理解すべきものである。そして、前記ア(ア)及び(イ)のように最初の親
出願の明細書に記載されていたといえる本件発明に係る構成や、当該構\成における
複数の樹脂ポットとそのそれぞれに対応するプランジャとを備えた上板部材及び下
板部材による回転子積層鉄心の上下からの押圧並びに樹脂ポット内の樹脂を磁石挿
入孔へ注入しての永久磁石の樹脂封止といった機序自体が、かしめ部あり構成であ\nるか、かしめ部なし構成であるかによって影響を受けるものともみられない。そう\nすると、最初の親出願の明細書等には、1)本件発明を含む発明が記載された上で、
2)かしめ部あり構成の場合に当該発明を用いる際の問題点等について、逃げ空間あ\nり構成などが更に記載されているというべきであって、上記2)の記載の存在によっ
て上記1)の記載が存在しないものとはいえないところである。
(イ) 上記に関し、原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層され
た鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたことから、最初の親出
願の明細書等の記載について固定手段を特定の手段に限定するものではないとはい
えない旨を主張するが、原告が主張する上記技術常識が認められないことは、前記
(1)イのとおりである。
(ウ) また、原告は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.
5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は
通常想定しないなどと主張するところ、かしめ積層された回転子積層鉄心の鉄心片
の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下い
ずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことをもって、同板厚が0.5mmを
超える全てにおいて、直ちに、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの
面から少しの範囲で突出するとはいえないと理解できるものではないとしても、本
件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片につ
いて、板厚0.5mm以下のものが用られる場合が多かったという事情を超えて、
板厚0.5mm超のものが選択肢となっていなかったといった事情は認められない。
この点、板厚0.5mm超のものを用いる例があったことは、乙5の記載(前記2
(1))やその他の証拠(乙7〜10、17、18)からも認められるところである。
さらに、最初の親出願の明細書の段落【0004】には、「この特許文献1記載の
技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心
片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上
下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」と記載されており、「鉄心片の板
厚が0.5mm以下の薄いもの」が全体の中から特に取り上げられた例であること
が明記され、それ以外の場合(鉄心片の板厚が0.5mmを超えるもの)の存在が
示唆されているから、仮に、通常は板厚0.5mm以下のものを想定している当業
者においても、同段落の記載に接した場合には板厚0.5mm超のものを選択肢と
して考慮し得るといえる。
したがって、原告の上記主張も、前記アの認定を左右するものではない。
(エ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの認定を左右するものではない。
(3) 原出願の明細書等に記載された発明について
前記1(2)のとおり、原出願の明細書等には、前記(2)ア(ア)及び(イ)で指摘した各
段落の記載がある。そして、同明細書等に、他に同(ア)及び(イ)の認定を左右するよ
うな記載はない。
したがって、本件発明は、原出願の明細書等に記載されていたものと認められる。
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