職務発明の対価請求を求めた事件です。この事件は使用者等のみが実施しており、第三者にライセンスをしていない場合の対価額に関する判断です。
裁判所は、「本件のように,被告が,本件考案を自ら実施するのみで,第三者に実施の許諾をしていない事案においては,考案を独占的に実施する権利を有することによって受ける利益の額は,被告が第三者に対し,本件考案の実施を許諾したと仮定した場合に得ることができる実施料相当額を基準として算定するのが相当である。・・・第三者が本件考案を使用したと仮定した場合に見込まれる売上額については,被告が現実に使用した実績を除いて,他に参考とすべき適切な証拠は存在しない。弁論の全趣旨によれば,被告が調査業務を受注するに当たって,特異な営業活動をしていたとの事実を認めることはできないので,第三者が本件考案を実施したと仮定した場合の売上額は,被告が本件考案を使用した売上額とほぼ同額であると推定することができる。以上の観点を考慮すれば,第三者が実施した場合の仮定的な売上額を800万円と認定するのが相当である。・・・CADAPシステムの内容,本件考案の内容,CADAP.JRの被害予測システム全体との密接な関係や位置づけ等一切の事情を考慮すると,実施料率は,本件考案を使用した業務による売上額に対する5パーセント(CADAPを使用した調査業務による売上額に対するおおむね1.5パーセント)と認めるのが相当である。」と判断しました。
◆H15.11.26 東京地裁 平成13(ワ)20929 実用新案権 民事訴訟事件
永久磁石の材料を発明した元従業者が、発明の対価の支払いを求めていた裁判で、東京地裁は、約1100万円を対価として認定しました。
判決理由の中で、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として、まず、「職務発明について使用者等は無償の通常実施権を取得するのであるから,「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいうものである。そして,従業者等から特許を受ける権利を承継してこれにつき特許を受けた使用者が,この特許発明を第三者に有償で実施許諾し,実施料を得た場合は,その実施料は,職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益にほかならないというべきである。」として、合計1億2324万8637円を認定しました。
そして、「使用者等が貢献した程度」については、その発明がされるについての貢献度のほか,その発明を出願し権利化するについての貢献度,実施料を受ける原因となった実施契約を締結するについての貢献度,その他諸般の事情が含まれるものと解するのが相当である。」として、前記利益を受けるについて貢献した程度としては,全体の約90パーセントと認めました。
◆H15. 8.29 東京地裁 平成14(ワ)16635 特許権 民事訴訟事件
職務発明をめぐる争いについて最高裁は、「勤務規則などに報償などの規定があっても、特許法が定める『相当な対価』に満たない場合は不足額を請求できる」として、高裁判断を維持する判断を下しました。今後は、相当の対価の決定でいろいろな判断基準が示される可能性がありますね。
◆平成15年04月22日 第三小法廷判決 平成13年(受)第1256号 補償金請求事件