職務発明の報奨金額が増額されました
「一審原告らの本訴請求は,前記のとおり,特許法旧35条3,4項に基づき(ただし,海外特許についてはその類推適用),本件各発明の譲渡対価としての「相当額」の支払等を求めるものであるが,そのうち,まず使用者たる一審被告が自らその発明を実施した分(自己実施分)について検討する。イ 特許法旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として許容されると解する。そして使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくとも当然に当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,自己実施の場合は,通常実施権(法定通常実施権)の行使による利益を超えたものより得た利益と解すべきである。したがって,ここでいう「独占的実施による利益」ないし「独占の利益」とは,一般的には,特許権者が他社に実施許諾をせずに当該特許発明を独占的に実施している場合(自己実施の場合)における,他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が挙げた利益,すなわち,他社に対する禁止権の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,売上げの差額を「超過売上げ」という。)を得たことに基づく利益(法定通常実施権による減額後のもの)が,これに相当するものということができる。また,特許権者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もしている場合において,当該特許発明の自己実施分について,実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことにより超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては,事案により異なるものということができる。すなわち,i)特許権者は特許法旧35条1項により,自己実施分については当然に無償で当該特許発明を実施することができ(法定通常実施権),それを超える実施分についてのみ「超過売上げを得たことに基づく利益」を算定することができるのであり,通常は50〜60%程度の減額をすべきであること,ii)当該特許発明が他社においてどの程度実施されているか,当該特許発明の代替技術又は競合技術としてどのようなものがあり,それらが実施されているか,iii)特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針を採用しているか,などの事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである。」
◆平成19(ネ)10056 不当利得返還等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年06月25日 知的財産高等裁判所
地裁判決はこちらです
◆平成17(ワ)11007
2009.03. 9
職務発明に基づく補償金について、知財高裁は、地裁の3350万円から6960万円へ増額しました。判決文が300頁を超えるので、目次が付いてます。
「ところで,旧35条3項及び4項は,その「対価」という文言や上記の規定の趣旨,対価の額を定めるに当たっては「発明により使用者等が受けるべき利益の額」を考慮すべきとされていること等に照らすと,職務発明の独占的な実施に係る権利が有する価値のうち従業者等に属するものを金銭として請求することを認めるものであって,それを認めることが従業者等のインセンティブとなり,発明を奨励し産業の発展に寄与するということになるものの,そのようなインセンティブという側面のみから上記各項を解釈することはできない。職務発明の独占的な実施に係る権利が有する価値のうち従業者等に属するものを金銭に評価して請求するという,「対価」としての側面を無視することはできない。そうすると,その額は従業者等に対するインセンティブとなるもので足りるということはできず,その旨の一審被告の主張を採用することはできない。一審被告は,旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が極めて高額になる場合は,「使用者が貢献した程度」は通常よりも高いものとなり得るのであり,「利益の額」が低額になる場合には,「使用者が貢献した程度」は,通常よりもやや低くなり得ると主張する。しかし,旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が高額であるか低額であるかによって,一概に「使用者が貢献した程度」が高いとか低いということはできないものと考えられる。発明自体が非常に価値があるために「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が高額になることがある。これに対し,発明自体はそれほど価値がなくとも,使用者の営業努力等によって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が高額になることもある。また,発明自体は価値があるものであっても,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は低額にとどまることがある。これに対し,発明自体それほど価値がなく,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」も低額にとどまるということもある。これらの場合のうち,発明自体に非常に価値があるときは,従業者等の貢献の程度が高いということがあり得るが,そのような場合は,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が高額であるからといって,従業者等の貢献の程度を低く見てもよいということにはならない。これに対し,発明自体がそれほど価値がなくとも,使用者の営業努力等によって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が高額になる場合は,「使用者が貢献した程度」を高く見ることになる。「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が低額にとどまる場合についても,同様に,発明自体に価値がある場合には,従業者等の貢献の程度が高いということがあり得る反面,発明自体にそれほど価値がない場合などには,「使用者が貢献した程度」が高いということもあり得る。したがって,一審被告の上記主張を採用することはできない。」
◆平成19(ネ)10021 補償金請求控訴事件 特許権民事訴訟 平成21年02月26日 知的財産高等裁判所