ソニーのFeliCa関連の発明について、職務発明に基づく報奨金として約3000万円が認められました。新聞で報道はあったのですが、判決アップまでに2ヶ月くらいかかっていました。伏せ字の部分がかなりありました。
前記前提事実・・によれば,1)本件実施発明が平成8年5月から平成
13年3月までの間に発明の報告がされたこと,2)被告がFN社を設立し,
対象実施権を含む知的財産権のライセンス事業その他のFeliCa関連事
業を行わせていることが明らかである。
(3)ア 使用者が特許を受ける権利を承継して特許が登録された場合に,使用者
が発明の実施等によって利益を受けたことによって相当の対価を算定する
場合には,「使用者等が貢献した程度」(旧法35条4項)として,発明が
されるについての使用者の貢献度のほか,実施品の売上げを得たことに対
する使用者の貢献度等の諸事情を総合的に考慮して,相当の対価を算定す
ることが相当というべきである。
イ 上記(1)及び(2)の事実関係に加え,前記前提事実(3)及び前記3(2)エ(ア)のと
おりの本件実施発明の内容及び意義によれば,本件実施発明は,被告入社
前からコンピュータ等について知見を有していた原告が,その知見を活用
し努力及び創意工夫をすることにより着想した面がある。
もっとも,被告においては昭和60年代から無線ICタグの開発がされ
て,A発明がされ,その後もAが率いる無線ICタグの研究チームで研究
が続けられていて,原告も同チームに属していた。上記の着想の背景には,
原告が,被告による費用負担の下で,被告入社後にOSやコンピュータの
開発を行って知識経験を獲得し,また,被告における無線ICタグの開発
チームに所属して,その開発チームによる技術的蓄積に触れていたことが
あったともいえる。そして,被告として製品を納入することを検討してい
た案件において,発注者から細かな仕様が要求されたところ,本件実施発
明は,それらの要求に応じる製品の開発の過程において着想され,具体化
されたという面もある。
その後,被告製品が鉄道事業者等に多数納入されることとなるが,製品
化に当たっては,新たに各種の開発が必要であったのであり,被告におい
ては,相当数の被告の従業員がその開発を行った。また,継続的なシステ
ムにも関わり得るという被告製品の性質上,被告製品の導入に当たっては
一般的に発注者がその供給等についての継続性や大量の製品の供給可能性等を重視する場合も多いといえるが,その際には企業としての被告の実績,\n規模等が影響したことが推認できる。その他,被告とJR東日本等との契
約に基づく共同開発その他の過程を経て,被告製品が開発されて被告製品
が多数納入される環境が構築され,また,FN社やビットワレット株式会社の設立及びその後の事業の運用により電子マネーその他の鉄道の改札以\n外の用途が確立し,カードの利便性が高められて被告製品の販売数が向上
したということができる。被告においては,相当額の投資を行い,こうし
た需要や顧客の要望に応え得る被告製品の生産体制の確立も行われた。加
えて,FeliCaのシステムは,暗号方式の変更等の改良が継続的に加
えられるなど,被告が継続的に技術的な改良等を行い,被告製品の売上げ
が維持されている面もある。これらのことは,発明者以外の被告の従業員
等の関与があって初めて実現し得ることである。
ウ 被告の貢献度に関し,原告は,開発チームの一員として又はFeliC
a事業部長として上記発注者や担当者らとの交渉や被告製品の活用方法の
提案等を行っていたこと,被告が原告の提案を受け入れなかったために本
来得られる利益を得られなかったことなどを主張する。
しかし,職務発明の発明者の行動のうち,営業面,販売面における行動
は,発明者しか行うことができない行動であれば格別,基本的には発明者
もその一員である従業員としての貢献として考慮されるものといえる。そ
の他,原告は,A発明が被告製品において実施されていない上に特許の無
効理由を有するなどとも主張するが,少なくとも上記に述べた理由により,
本件実施発明がされるまでの間における被告の研究等の活動は,使用者の
貢献として考慮されるといえる。
なお,証拠(乙184)によれば,原告は,平成11年に41歳で統括
部長に,平成13年に事業部長に,平成14年にFeliCa開発・技術
部門の部門長に就任し,平成15年4月から平成17年7月の退職時まで
情報技術研究所の統括部長の地位にあり,また,上記各就任時の原告の年
齢は上記各地位の平均年齢よりも若く,特に部門長に就任した際は5歳以
上若かったと認められ,従業員等としての貢献に対しても相応の待遇を受
け,給与及び退職金についても高い処遇を受けていたといえる。
●省略●
(4) 以上の事情その他本件に現れた全事情を総合考慮すると,本件実施発明の
実施に係る相当の対価の算定に当たっての被告の貢献度は大きなものであり,
その割合は95%と認めるのが相当である。
◆判決本文