職務発明の対価として約230万円の請求が認められました。
3 争点2(本件各発明に対する被告の貢献度)について
特許法35条4項は,従業者等と使用者等の利害を調整する趣旨の規定であり,
同項の「使用者等が貢献した程度」を判断するに当たっては,使用者等が「その発明
がされるについて」貢献した事情のほか,特許の取得・維持●(省略)●に要した労
力や費用等を,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した一切の事情
として考慮し得るものと解するのが相当である。
そこで,検討すると, とおり,被告が,本件各発明に先立
ち,●(省略)●同イ認定のとおり,平成5年には,MらによるHIPEの重合物の
研究を行わせ,その中では,同ウ認定のとおり,平成8年以降の研究開発において用
いられたものと類似する組成の吸水性スポンジを作製するなどするとともに,HIP
Eを連続で重合することや二段階で重合することを開示する131号特許を出願す
るに至っていること,(2)同ウ認定のとおり,平成8年には,M,N及び原告にHIP
Eの研究を指示して平成5年当時よりもより性能の高いFAMの作製を行っており,\n●(省略)●などしていたこと,(3)同エ認定のとおり,●(省略)●平成9年10月
にはFAMプロジェクトを立ち上げ,多数の研究員を研究開発に充てるとともに,同
(6)認定のとおり,FAMの研究に必要な機器や設備の調達を含めた開発費用を提供し,
また,特許の取得及び維持の費用を支出し 認定のとおり,●(省
略)●本件各発明についての被告の貢献に係る事情であるといえる。
これに対し,本件各発明の発明者らは,被告の費用負担の下,被告に雇用された後
に得た知識経験に基づき,FAMプロジェクト内で知見を共有しつつ,発明に至った
にとどまる。
そうすると,本件各発明が原告ら共同発明者の努力及び創意工夫によって創作され
たことは確かであるが,他方で,共同発明者らは,被告による費用負担の下,被告入
社後に得た知識経験に基づき,FAMプロジェクトでの職務を通じて,本件各発明を
完成させるに至ったとみることができる。また,●(省略)●被告が●(省略)●そ
のための研究開発を行っていたのみならず,●(省略)●本件各発明の共同発明者の
みならず,その他の部署に属する多数の従業員の協力によるものであるということが
できる。
以上の事情を総合考慮すると,本件各発明により被告が受けるべき利益につい
て,被告の貢献度は高く,その貢献度は95%と認めるのが相当である。
原告の主張について
ア 原告は,(1)被告が平成5年に研究開発していたHIPEの重合物は,FAMと
は異なるものであり,しかも,被告は,平成6年2月に同研究開発を中断しているこ
と,(2)原告が,平成8年4月から自発的にFAMに関する研究開発を開始してこれを
主導し,同年6月5日,上記の被告の研究開発における原料とは異なるスチレン系の
原料を用いて初めてW/O比が45倍以上のFAMの作製に成功し,実質的な発明者
が原告である2件の特許出願につながっており,かつ上記の成果が,●(省略)●検
討を加速させたのであり,原告の貢献なしに平成9年10月以降のFAMの研究はな
し得ないものであって,Mは管理者,Nは補助者として関与したにすぎないこと,(3)
FAMプロジェクト立ち上げ後も原告のみがFAMの研究を行っていたこと,(4)原告
が,●(省略)●FAM製造に必要な特殊な攪拌用の羽根の情報を引き出してこれを
特注し,あるいは●(省略)●ほか,平成9年10月以降の被告におけるFAMの研
究に必要な種々の機器・設備の選定,導入等の研究環境の整備も行ったことなどの事
情を指摘して被告の貢献度は50%を超えるものではない旨主張する。
イ しかしながら,次のとおり,原告の指摘する事情は認めることができないか,
左右し得ず,原告の主張を採用することはできない。
原告の指摘する(1)の事情について
確かに131号特許に開示されたHIPE重合物の組成は,平成8年4月以降の研
究開発の対象の組成とは異なるが,前記 のとおり,被告が平成5年当時に得た知
見にも本件各発明に関連するものがある以上,同年当時に行われた研究成果は,その
後の研究開発の基礎となり,本件各発明にも寄与していると推認され,本件各発明に
対する被告の貢献に当たるというべきである。
原告の指摘する(2)の事情について
原告は,FAMの研究開発を自発的に行うこととしたきっかけの一つとして,平成
8年4月19日のミーティングで,Mから,●(省略)●HIPEの供給元を探して
いることを聞いたことを認めている(甲23)が,Mがミーティングで●(省略)●
対応をする旨の被告の決定がされていたとみるのが自然であるし,それ以降の被告内
のHIPEの研究状況を見ても, 原告がMの指示を受けて研究
を進めたり,原告のみならずM及びNも,自らHIPE重合物を作製したり,原告と
役割を分担したりするなどして研究を進めるなどし,研究成果を3名で共有するなど
もしているほか,これらの研究結果を踏まえてされた特許出願においても,発明者は
原告,M及びNの3名とされている。そうすると,平成8年4月以降に被告において
行われた研究は,被告の指示により上記3名が共同して行ったものというべきであり,
原告が自発的に行い,Mは管理者として,Nは補助者として関与した旨の原告の主張
は認めることができない。
原告の指摘する(3)の事情について
前記1 ないし 認定したとおり,FAMプロジェクト開
始後は,参加した研究員がそれぞれ役割を分担して研究を行い,定期的にミーティン
グを行って知見を共有しながら研究を進めていたものということができるから,原告
のみがFAMの研究を行っていた旨の主張は認めることができない。
原告の指摘する(4)の事情について
原告が●(省略)●FAM製造に必要な特殊な攪拌用の羽根の情報を引き出してこ
れを特注したり,あるいは●(省略)●が実現したり,原告が,このような情報を得
たことがあったとしても,Mと●(省略)●が話題とされていること(乙26)にも
照らせば,他の被告の従業員も関与する中で,被告の従業員の一員の立場で行われた
ものとみるのが自然であり,そうすると,そのことをもって直ちに原告の本件各発明
に対する貢献度が大きいといえるものではない。また,原告が導入すべき機器や設備
を提案していたとしても,最終的にその機器や設備の導入を決定し,その資金を提供
したのは被告である以上,上記の提案の存在をもって,原告の本件各発明に対する貢
献の度合いに大きな影響を与える事情であるとはいえない。
被告の主張について
被告は,●(省略)●全社を挙げてFAMの研究開発を進めたこと,●(省略)●
被告の対応が大きく寄与していることなどを主張して,被告の貢献度は99%を下ら
ない旨主張するが,被告の指摘する上記事情が被告の貢献として認められることは前
のとは認められず,被告の主張を採用することはできない。
・・・・
5 相当の対価の額
以上を前提に相当の対価の額を計算すると次のとおりとなる(いずれも1円未
満の端数は切り捨て。)。
ア 144号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0.
05×1/4=●(省略)●円)
イ 642号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0.
05×1/9=●(省略)●円)
ウ 811号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0.
05×2/5=●(省略)●円)
係る国内
出願及び国内特許登録について,同アの規定に従った出願補償金及び登録補償金の支
払をしている 国内特許に係る発明に係る相当の対価からこれらを控除
する必要がある。そして,同規定の定めに従えば,原告についての支払額は次のとお
りと認められる(1円未満の端数があるものはいずれも切り捨て。)。
ア 144号発明 ●(省略)●円
出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×2×1/5=●(省略)●円)
(乙114の1,2,乙129)
登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円)
イ 642号発明 ●(省略)●円
出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/6=●(省略)●円)(乙
120の1,乙130)
登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●万円×1/9=●(省略)●円)
ウ 811号発明 ●(省略)●円
出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円)(乙
124,131)
登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円)
国内特許に関し 相当の対価
となる。
ア 144号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●円=●(省略)
●円)
イ 642号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●円=●(省略)
●円)
ウ 811号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●=●(省略)
●円)
以上によれば,相当の対価の額は合計226万4061円である。
ア 144号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×3=●
(省略)●円)
イ 642号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×5=●
(省略)●円)
ウ 811号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×2=●
(省略)●円)
エ アないしウの合計 226万4061円
◆判決本文
2019.08. 2
大学と企業の共同研究の結果生まれた特許について、大学の研究者が、企業に対して職務発明の対価を請求しました。知財高裁(2部)は、1審と同じく、大学に対する職務発明であると判断しました。
前記(1)のとおり,サントリーがA教授と控訴人に対し,研究期間を平
成15年8月1日から同年12月31日までとして委託した研究については,同年
12月8日に被控訴人に対してその報告書が提出されている(甲2)ところ,その
研究の内容は,健常な日本人成人52名を対象に行った日本版「アーバンス」神経
心理テストを紹介し,同テストが加齢に伴う高次脳機能障害の簡便かつ正確な評価\nに有用であるというものであって,本件発明の内容とは異なる。これに対し,同時
期に,サントリーが控訴人に対して,上記研究とは別の内容の研究を委託したこと
を認めるに足りる証拠はない。そして,1)控訴人は,平成15年当時,金沢大学の
助教授として,記憶障害や注意・集中力障害などの高次脳機能障害に関する基礎的\nかつ臨床的研究を行っていたこと,2)後記のとおり,控訴人は,南ヶ丘病院の患者
に対するアラビタ投与の前後における認知機能の比較試験について,兼業許可を受\nけていたとは認められないことに照らすと,上記比較試験に係る研究は,金沢大学
における控訴人の職務であるというべきである。したがって,本件発明は,サント
リーが控訴人に対して委託した研究に基づくものではなく,控訴人の金沢大学にお
ける職務に属するものというべきである。
イ 前記(1)のとおり,金沢大学とサントリーは,平成16年12月27日,
本件共同研究契約を締結したものと認められる。そして,前記(1)のとおり,本件
共同研究契約書では,研究目的及び内容を「アラキドン酸含有油脂の高次脳機能に\n及ぼす影響を検討する」としているのであるから,本件共同研究契約書の記載と本
件発明の内容とは一致するというべきである。また,本件共同研究契約書では,控
訴人の研究分担を「神経機能の測定」としているが,研究目的及び内容についての\n上記の記載に照らすと,「神経機能の測定」とは,本件発明の効果の検証のために\n被験者に対して認知機能の比較試験を行うことを意味するものと理解することがで\nきる。そうすると,本件発明は,本件共同研究の対象とされたものと認められる。
なお,本件共同研究契約書には,研究実施場所として金沢大学のみを記載し,南
ヶ丘病院は記載されていないが,本件共同研究において,研究の場所を金沢大学に
限定しなければならない理由はなく,本件共同研究契約書も,研究の場所を金沢大
学に限定する趣旨で上記の実施場所の記載をしたものとは認められない。
したがって,本件共同研究を南ヶ丘病院で行うことは禁止されておらず,南ヶ丘
病院で本件発明のための研究を行えば,同研究は,金沢大学における控訴人の職務
に属するものというべきである。
この点,控訴人は,平成16年2月,金沢大学に対して南ヶ丘病院での兼業許可
申請を行い,金沢大学からその許可を得ていると主張する。\nしかし,前記(1)のとおり,控訴人が主張する兼業許可申請に係る申\請書(甲2
3)には,兼業先である南ヶ丘病院で行う職務として,脳神経外科外来及び入院患
者の診療と記載されており,同記載を前提に兼業許可がされているのであるから,
南ヶ丘病院で患者に対するアラビタ投与の前後における認知機能の比較試験を行う\nことについてまで兼業の許可がされているわけではない。
ウ 前記(1)のとおり,金沢大学の職務発明取扱規程においては,●●●●・・・
●●●●●●●●●,控訴人は,金沢大学知的財産本部長に対し,本件発明の発明届出書を提出し,これを受けて,金沢大学知的財産本部長は,控訴人に対し,本件発明を職務発明であると認定した旨の職務発明認定結果通知書を発送し,控訴人は,上記発明届出書に,共同発明の場合に添付する共同研究契約書として本件共同研究契約書の写しを添付し
た。前記アのとおり,本件発明は,控訴人の金沢大学における職務に属する発明であることから,控訴人は,金沢大学に対して,本件発明について,上記職務発明の届出をしたものと認められる。
エ 以上のとおり,控訴人が,金沢大学の職務として本件発明をしたことは
明らかであって,本件発明のうちの控訴人の持分に係る部分を,サントリーを「使
用者等」とした職務発明と認めることはできない。
オ 控訴人は,本件発明のための研究は,本件共同研究契約が締結される前
に事実上終了しており,また,本件原出願は,本件共同研究契約を締結してから半
年程度でされているが,本件発明は,半年程度で完成するものではないと主張する。
しかし,既に認定したとおり,南ヶ丘病院の患者に対するアラビタ投与の前後に
おける認知機能の比較試験に係る研究は,金沢大学における控訴人の職務であって,\nその研究の成果を利用して本件発明が完成し,本件原出願がされたのであるから,
本件発明のための研究が,本件共同研究契約締結前にかなりの程度行われており,
本件原出願は,本件共同研究契約を締結してから半年程度でされているとしても,
本件発明は金沢大学の職務発明であるとの認定を何ら左右するものではない。
カ 控訴人は,甲18契約に係る契約書には,本件発明のための研究内容に
沿った記載があるから,甲18契約を締結することによって,本件発明のための研
究が,サントリーと金沢大学との間で締結された共同研究契約に含まれるものにし
ようとしたという趣旨の主張をするが,甲18によると,甲18契約は,本件共同
研究の研究期間後の平成18年4月19日に締結され,それ以降の研究を対象とし
ていることが認められるから,控訴人の上記主張は理由がない。
キ 控訴人は,原審における本人尋問において,本件発明の発明届出書に本
件共同研究契約書を添付したのは,金沢大学からそのようにするよう言われ,また,
金沢大学の学長からのプレッシャーにより,本件共同研究契約書を添付することを
断れなかったからであり,本件発明が本件共同研究によって発明されたものとは認
識していなかった旨供述する(13,30頁)。
しかし,本件発明が本件共同研究によってされたものではないにもかかわらず,
上記のような理由から,本件共同研究契約書を本件発明の発明届出書に添付するこ
とは考え難いというべきである。
控訴人は,金沢大学の学長からプレッシャーをかけられたと供述するが,そのプ
レッシャーの内容やプレッシャーがかかる理由が不明であり,また,本件共同研究
契約書の添付について,金沢大学側と交渉をしたこともうかがわれず,控訴人の上
記供述は不自然である。
したがって,控訴人の上記供述は信用することができない。
(3) 控訴人の主位的請求は,本件発明のうちの控訴人の持分に係る部分がサン
トリーを「使用者等」とする職務発明であることを前提とするところ,前記(2)の
とおり,同部分はサントリーを「使用者等」とする職務発明ではないから,その余
の点(争点2,3)について判断するまでもなく,控訴人の主位的請求は理由がな
い。
2 争点4,5(予備的請求1の成否及び額)について\n
(1) 控訴人は,本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分をサントリー
に譲渡したかについて,以下検討する。
ア 前記1(2)のとおり,控訴人は,金沢大学における控訴人の職務として
本件発明をしたところ,前記1(1)のとおり,控訴人は,金沢大学知的財産本部長
に対し,本件発明の発明届出書を提出し,これを受けて,金沢大学知的財産本部長
は,本件発明のうちの控訴人の持分に係る部分を職務発明と認定した上で,控訴人
に対し,本件発明を職務発明であると認定した旨の職務発明認定結果通知書を発送
しているのであるから,本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分は,金沢
大学に承継されたものと認められる。そして,このことは,前記1(1)で判示した
とおり,本件共同研究契約において,同契約の成果である発明に係る特許を受ける
権利のうち控訴人の持分は金沢大学が承継する旨記載されていることにも沿うもの
ということができる。
なお,特許を受ける権利が共有に係るときは,同権利を譲渡するには,他の共有
者の同意が必要である(特許法33条3項)としても,前記1(1)で判示した本件
共同研究契約における共同研究による発明の取扱いに関する定めからすると,Bは,
本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分を金沢大学に承継させることにつ
いて同意しているものと推認できるし,実際にも,乙10証書及び甲24証書に
よって,Bが上記の同意をしていることが確認されている。
控訴人も,乙11証書を作成して,本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の
持分を金沢大学に承継させたことを確認している。
一方,前記1(2)のとおり,本件発明は,本件共同研究の対象であるところ,前
記1(1)で判示した本件共同研究契約における共同研究による発明の取扱いに関す
る定めからすると,サントリーが控訴人から本件共同研究の対象である本件発明に
係る特許を受ける権利の控訴人の持分の譲渡を受けることは予定されておらず,控\n訴人とサントリーとの間で,本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分をサ
ントリーに譲渡することを内容とする契約が締結されたことを認めるに足りる証拠
はないし,サントリーが本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分を譲り受
ける動機その他の事情も認められない。
したがって,本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人の持分がサントリーに譲
渡されたと認めることはできない。
イ これに対し,控訴人は,乙10証書を根拠に,本件発明に係る特許を受
ける権利の控訴人の持分がサントリーに譲渡されたと主張する。
しかし,前記1(1)で判示した経緯からすると,乙10証書(乙10,42)及
びこれと同内容の甲24証書(甲24,乙41)は,控訴人とBが本件発明に係る
特許を受ける権利のそれぞれの持分を,控訴人は金沢大学に,Bはサントリーに譲
渡するとともに,控訴人はBの譲渡について,Bは控訴人の譲渡についてそれぞれ
同意したことを確認する趣旨で作成されたものと認められる。なお,控訴人は,ま
ず,控訴人が甲24の書式を作成し,これに控訴人及びBが署名した甲24証書を
控訴人が保管し,控訴人は,そのコピーをBに交付し,その後,サントリーにおい
て,同コピーを基に乙10の書式を作成し,これに控訴人及びBが署名して乙10
証書が作成された旨主張するが,本件訴訟において控訴人が提出した甲24は写し
であり,その原本は被控訴人が乙41として提出していることから,控訴人は,甲
24証書の原本を保管していないものと認められ,したがって,控訴人の上記主張
は事実と異なることは明らかである。
◆判決本文
2019.02. 7
職務発明の対価請求について、請求が棄却されました。
本件発明は,前述のとおり,塩素化塩化ビニル系樹脂の洗浄方法について,
装置の小型化や使用水量の削減といった生産性の向上を図ろうとするものであると
ころ,原告らがこれについて特許を受ける権利を被告に承継したことによる相当の
対価を検討するに当たっては,前記イで述べたような,被告において単にこれを実施し得ることによる利益を考えるのではなく,本件発明が特許として登録され,そ
の禁止的効力によって,競業者は本件発明を実施することができなくなり,被告が
競争上優位な立場に立つことによって得られる利益をもって,算定の基礎とすべき
ことになる。
そして,既に検討したとおり,本件特許の登録後,競業者は,本件発明を実施す
ることはできないが,公知濾過方式については実施することができるのであるから,
両者にコストや生産性の面で差があり,競業者が本件発明を実施できないことによ
って被告が競争上優位な立場に立つのであれば,これによって得られる利益を,相
当の対価算定の基礎とすることができる。
エ 原告らの主張,立証について
原告らは,公知濾過方式は実用化されておらず,競業者は,本件発明が実施
できなければデカンタ方式によることを余儀なくされるとして,デカンタ方式から
本件洗浄方式に切り替えたことによるコストの削減が,被告の排他的利益の内容で
あると主張する。
しかしながら,公知濾過方式が実用化されていることは既に検討したとおりであ
るし,本件発明の排他的利益を検討するに当たっては,前述のとおり,本件発明と
構成として共通する面の多い公知濾過方式と対比するのが相当であるから,原告ら\nの主張は失当である。
また,原告らは,前記ウで述べたような形での,公知濾過方式と対比する形での
本件発明による排他的利益については,予備的にも主張しない旨を明示している。\n以上によれば,特許法35条3項の相当の対価が存すると認めるに足りる主張,立証はないといわざるを得ない。
◆判決本文