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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

職務発明

令和5(ネ)10090 職務発明対価相当請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

職務発明訴訟において、1審(大阪地裁)は、約400万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明2の共同発明者ではないといういうものです。

特許法2条1項は、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想 の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち、技 術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考え れば、その技術内容は、当該技術が属する技術分野における当業者が反復実施して 目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして 構成されていなければならないものと解するのが相当であるから(最高裁昭和52\n年10月13日第一小法廷判決(昭和49年(行ツ)第107号)民集31巻6号 805頁)、発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した 者、すなわち、当業者が当該技術的思想を実施することができる程度にまで具体的 ・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。\nそして、ある者が発明者であるというためには、必ずしも発明に至る全ての過程に 一人で関与することを要するものではなく、当該過程に共同で関与することでも足 りるというべきであるが、当該者が共同発明者であるというためには、課題を解決 するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的 に寄与したことを要するものと解される。この場合において、発明の特徴的部分と は、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち従来技術にはみられない部分、\nすなわち、当該発明に特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解するの が相当である。以上を踏まえ、以下、本件について検討する。
(ア) 原告が本件発明2に係る発明者(又は共同発明者)であるというためには、 前記アのとおり、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、本件 各部分の完成に創作的に寄与することを要するところ、当該着想は、具体的な発明 の完成に向けられたものである以上、単に課題を抽象的に想起するだけでは足りず、 課題及びその解決のための手段又は方法を具体的に認識することを要するものと解 するのが相当である。
・・・
(エ) 検討
a 前記(ウ)のうち、市場調査等に基づいて本件OD錠化を提案するなどした原 告の行為は、その内容に照らし、新製剤の企画や方向性に関する提案であり、経営 判断に資するものではあっても、課題及びその解決のための手段又は方法に関する 具体的提案ではないから、構成3)(塩酸アンブロキソールを含む制御放出微粒子等\nの混合物を配合し、かつ、制御放出微粒子等の平均粒子径を300μm以下とする との構成を満たした上で、OD錠が従来のカプセル剤の溶出規格に合致する溶出特\n性(シグモイド型溶出)を示すように、制御放出微粒子等及びこれらを配合したO D錠の各成分や構造を設定したこと)又は構\成4)(同様の構成を満たした上で、錠\n剤を製造する過程の加圧圧縮操作に対し割れにくいプロテクト層を形成したこと) のいずれに対する関与であるとも認めることはできない(なお、認定事実2による と、本件OD錠化は、塩酸アンブロキソールに係る医薬品の開発に関し、平成19\n年当時に知られていた手法の一つであり、特段新規の開発方針ではなかったという べきである。)。
b また、前記(ウ)のうち、本件OD錠化に関して瀬踏み実験を行った原告の行 為についてみるに、当該瀬踏み実験は、「徐放顆粒の粒子径を200μm以下とし て溶出実験を行ったところ、既存のカプセル剤の溶出に近い徐放顆粒が得られた」 というものにすぎず、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合したOD 錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえない\nから、当該瀬踏み実験の実施をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の 過程において創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該瀬踏 み実験の内容に照らし、当該瀬踏み実験を行った原告の行為が本件各部分に対する 関与であると認めることはできない。
c さらに、前記(ウ)のうち、「今後、徐放顆粒に他の原料を混合して打錠し、 錠剤化した場合に溶出に変化が生じるかを検討する」などと発言した原告の行為も、 その発言の内容に照らし、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合した OD錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえ\nないから、当該発言をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の過程にお いて創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該発言の内容に 照らし、当該発言を行った原告の行為が本件各部分に対する関与であると認めるこ とはできない。
d なお、本件発明2に係る特許出願をすることを考えている旨の発言をした原 告の行為(前記(ウ)f)及び当該特許出願をするよう提案した原告の行為(認定事 実2エ(オ))が本件各部分に対する原告の関与であると認められないことは明らかで あるし、当該特許出願に係る明細書の案を作成した原告の行為(認定事実2エ(オ)) についても、当該行為のみをもって直ちに、本件各部分に対する原告の関与があっ たものと認めることはできない。
e その他、原告が本件チームの行う試験・実験に関与していたことを認めるに 足りる主張立証はなく、原告が本件各部分に対して関与をしたものと認めるに足り る的確な証拠はない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10018  職務発明の対価請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

職務発明の報奨金請求事件です。1審と同様「特許による独占的、排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない」と判断されました。

「(4) 本件発明A2の自己実施による独占の利益の有無及び額についての検討
ア 被控訴人においては、平成13年頃、CODEX5%ルールの認可や、東南ア ジアの経済発展等に伴い、国際的なCBEの需要増加が見込まれる一方、国内製造 拠点の生産能力が限界に達しているとの現状認識のもと、米国に所在する子会社で\nあるFVOにおいて、EE技術を利用してヒマワリ油からSOSパーツを製造する 設備を有する工場を新設し、被控訴人グループ内での安定供給を図る方策を立案し ていたが、当初、当該工場における油脂分別方法としては、溶剤分別法を用いること を想定していた。しかるところ、控訴人を含むNTメンバーが主導となって、本件各 発明を含む改良された乾式分別法によると、SOSパーツの品質は溶剤分別法によ るものと比して大差なく、現にパイロットレベルの試作品においては同等以上とな っていること、分別収率や生産量等の生産効率も溶剤分別法との間にさほどの差は ないこと、コスト面においては設備費及び比例・加工費ともに大幅な削減が可能で\nあること等が報告された。そこで、被控訴人は、平成14年9月頃、本件乾式分別法 を採用した(本件発明A2を実施する)本件設備を備えた本件工場を米国にてFV Oに新設、稼働させる旨を意思決定し、平成15年に着工が始まり、平成16年4月 頃から稼働が始まったものである。(前記(3)イ(ア)〜(カ)) ところが、本件設備及び本件工場に係る設備投資については、●●●●●●●● ●であったのに対し、●(省略)●を要することとなった。しかも、本件工場は、稼 働当初、稼働能力や生産効率に課題を抱えていたほか、品質低下も指摘されており、\nその原因として●●●●●●●●●●●●ことが指摘された。このため、FVOは、 平成18年頃から、品質を確保するため、●(省略)●こととし(ただし、平成27 年以降は、●●●●●●●●●●●●●●こととしたが、これが、品質の改良や生産 効率の改善によるものであるかは不明である。)、また、更に●●●●●●●●を負 担して本件増設工事を行うことを余儀なくされたものである。(前記(3)イ(キ)〜(コ )、ウ(ア)c)
イ FVOパーツ品の品質についてみると、●●●●●●●●●●●●●を予定\nしていたところ、本件増設工事が完了した平成19年3月頃には同程度と報告され ていることや(前記(3)イ(サ))、現実にFVOがFVOパーツ品を被控訴人グループ ●(省略)●世界CBE市場における被控訴人のシェア獲得にも寄与していると認 められること(前記(3)ウ(イ)e、エ)に照らすと、FVOパーツ品が、そもそも販売 に耐えないほど低品質のものであったということはできない。他方で、FVOパー ツ品やFVO品が、溶剤分別法により製造されたSOSパーツやこれらを原料とし たCBEとの比較において、品質面で上回っていることを認めるに足りる証拠もな い。そうすると、本件発明A2を実施したことにより、被控訴人がその実施品である FVOパーツ品やFVO品について、品質面で優位に立ったということはできない。
ウ 次に、本件発明A2を実施したことによりFVOが得た利益についてみると、 そもそも、本件乾式分別法を採用したFVOの●(省略)●は、直ちに分別方法によ る利益の相違を示すものではないが、その算出に際してその時々の相場と過去の実 績等が考慮され、変動費に相当する見込み額として位置付けられるものであり、分 別方法の差異による採算性を考慮する際の参考にすることは妨げられないというべ きである。
さらに進んで、FVO、FOJ及びFOSにおけるSOSパーツの加工費及び比 例費の各試算を比較すると、●(省略)●るのに対し、●(省略)●、大きな差が発 生しているのに、原料コストや収率等を考慮して試算された比例費では、●(省略) ●相対化されている(前記(3)ウ(イ)b)。しかも、この数値は、約9年間にわたり実 際には支払われていた●●●●●●●●●●●●を考慮していない上、FVOの現 実の収率よりも高い収率である●●●を収率として試算されたものであり、実数値 によると更に差は小さくなるものである。 このことに加え、前記アのとおり、被控訴人内部では、当初、本件乾式分別法を採 用することにより設備費においても大幅なコスト削減が見込まれるとの認識(溶剤 分別法による場合の投資試算額●●●●●に対し、●●●●●の投資試算額と見込 まれていた。)の下で、本件施設及び本件工場の新設に踏み切ったものの、現実には これに●●●●●●●●●を要し、加えて、本件設備につき、稼働能力、生産効率、\n品質低下等の課題が指摘されたことから、更に●●●●●●●●●を要する本件増 設工事まで余儀なくされたこと等も併せて考慮すると、FVOが本件乾式分別法を 採用したことによる効果として、当初予定していた溶剤分別法による以上に利益率\nを向上させることができたとか、現実に利益を上げることができたとは認められな い。
エ さらに、本件特許権A2を含む特許権に基づく禁止権の効果により他社を排 除することができたかについてみると、競合他社であったIOFは平成23年に、 LCは平成27年に、それぞれシア脂からSOSパーツを分別できる工場をガーナ に新設し、稼働させたが、いずれの工場においても溶剤分別法が用いられており、本 件各発明に関連する特許による禁止の効力が及ばない地域においても、競合他社は、 いまだ溶剤分別法を採用している上、本件各特許権がいずれも消滅した現在におい ても、被控訴人又は競合他社が、本件乾式分別法を採用した施設若しくは工場を新 設、稼働し、又はその準備をした等の事実は認められないのであって(前記(3)オ)、 控訴人が主張するように、溶剤分別法が危険を伴い、時に重大な事故を引き起こし 得るものであるとしても、被控訴人又は新不二製油が、本件特許権A2を含む特許 権に基づく禁止権の効果により、競合他社による本件乾式分別法の採用を排除し、 これにより使用者として有する通常実施権に基づく実施によって得られる利益を超 えた利益を得たと認めることは困難である。
なお、本件施設の稼働後、CBE市場における被控訴人のシェアが増加したのは、 被控訴人が、規制緩和や経済動向をみて国際的なCBEの需要増加を見込み、FV Oを拠点に生産施設を新設し、これが現実に稼働したことに伴う結果とみられ、本 件乾式分別法を採用したことにより特にシェアを拡大できたことをうかがわせる事 情はないというべきである。 オ 以上を総合すると、被控訴人が、本件特許権A2につき有する通常実施権に 基づいて本件発明A2を実施して得られる利益の額を超えて、特許による独占的、 排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない。したがって、被 控訴人につき、本件発明A2による独占の利益は認められない。

◆判決本文

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◆平成30年(ワ)866

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令和5(ネ)10069  職務発明対価請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

職務発明に基づく対価を請求しましたが、原審(東京地裁)は時効により消滅していると判断しました。知財高裁も同じです。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 前記第2の3(1)の主張について
控訴人は、本件就業規則60条(3)は職務発明に関する規定であると解すべ きであり、このような規定に基づいて平成24年6月末にクオカードが交付 されている以上、この時点をもって消滅時効の起算点とすべきであると主張 する。
しかし、本件就業規則60条は、「表彰」に関する規定であると明示され、\nその表彰事由は職務発明に関するものだけでなく業務上の功績と認められる\n事情が広範に表彰の対象とされており、表\彰として経済的利益を供与すると 決められていることはなく、表彰の内容や時期についても同条その他本件就\n業規則において定められていないことからすれば、同条(3)が職務発明の対価 に関する規定であると解することができないのは、補正の上で引用した原判 決「事実及び理由」第3の1(1)ウの説示のとおりであり、被控訴人が本件発 明に基づく利益を得たこと及び被控訴人が控訴人に対して金銭的価値を有す るプリペイドカードの一つであるクオカードを支給したことをもって、同条 (3)を職務発明の対価に関する規定であると解することはできない。
勤務規則等において職務発明に係る対価の支払に関する規定が存在する 場合でも、支払時期の定めがなければ、職務発明について特許を受ける権利 を使用者に承継させた従業者は、権利の承継の時点から使用者に対して職務 発明対価請求権を行使することができるから、原則として同時点が消滅時効 の起算点となる。勤務規則等において支払時期の定めがあるときに、上記支 払請求権の消滅時効の起算点が当該支払時期となるのは、同支払時期までは 権利行使について法律上の障害があり、上記支払請求権を行使することがで きないことによる(補正後の原判決第3の1(1)ア)。これらの事情からすれば、 本件において控訴人の被控訴人に対する相当の対価の支払請求権の消滅時効 が特許を受ける権利の承継の時点から進行すると解することが、発明者に対 するインセンティブを与えるために職務発明対価請求に関する規定を定めた 使用者に比べ、発明者に対するインセンティブを与えない使用者である被控 訴人に対して消滅時効の起算点に関して手厚い保護を与える結果となって不 当であるとはいえない。
被控訴人において、本件就業規則60条に基づく表彰を毎年6月末に行う\n運用又は慣行があったとして、そのことは、同条(3)の規定が職務発明に係る 対価の支払に関する規定であると解する根拠とはならない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 前記第2の3(2)の主張について
控訴人は、本件において「権利を行使することができる時」(民法166条 1項)とは、控訴人が被控訴人を退職した時点、あるいは、どんなに早くて も、本件同意書の有効性について検討するのに必要な合理的な検討時間であ る捺印後6か月経過後であるから、本件では消滅時効は完成していないと主 張する。 しかし、「権利を行使することができる」とは、その権利の行使につき法律 上の障害がないこととともに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待の できるものであることをも必要とすると解されるが(補正の上で引用した原 判決「事実及び理由」第3の1(1)ウ)、権利行使について事実上の障害がある 場合に常に「権利を行使することができる時」に当たらないことにはならな い。
控訴人が被控訴人の従業員であったことをもって直ちに退職前に職務発 明対価請求権の行使が現実に期待できなかったとはいえない。控訴人の陳述 書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が会 社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるが、客観的裏付け がなくこの陳述を採用することはできないことは、補正の上で引用した原判 決「事実及び理由」第3の1(3)の説示のとおりである。したがって、控訴人が主張する内容を考慮しても、控訴人が被控訴人を退職するまで、被控訴人に対して職務発明対価請求権を行使することが現実に期待できなかったと解することはできない。 また、本件同意書の有効性について検討する必要があるために、本件同意 書に控訴人が捺印した後6か月が経過するまで、職務発明対価請求権の行使 が現実に期待できなかったと解すべき根拠となる事情は認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 前記第2の3(3)の主張について
控訴人は、被控訴人の控訴人に対するクオカードの交付は、職務発明対価 の支払債務の一部承認であり、消滅時効が中断すると主張する。 しかし、本件就業規則60条が表彰制度について定めた規定であり、クオ\nカードはこの規定に基づき交付されたものであること、及び、このクオカー ドの交付に先立って控訴人が被控訴人に本件同意書を提出しており、控訴人 及び被控訴人のいずれも、控訴人が職務発明対価請求権を放棄したと認識し ていたのであり、その状況の下でクオカードの交付がされたことからすれば、 クオカードの交付を職務発明の対価の支払であると認めることはできず、職 務発明対価の支払債務の一部承認であると解することもできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 前記第2の3(4)の主張について
控訴人は、被控訴人が消滅時効の完成を主張することは権利濫用に当たる と主張する。
しかし、本件同意書の作成に当たり、控訴人が、被控訴人の代表者又は従\n業員から、同意書の作成を強制された事実が認められないこと、控訴人の陳 述書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が 会社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるものの、この陳 述内容について客観的な裏付けはなく、上記陳述の内容を採用することはで きないことは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3)の説 示のとおりであり、被控訴人が従業員である控訴人が在職中に使用者に対し て自由な意思表示をすることが不可能\である等の状況を利用し、被控訴人が 控訴人に対して在職中に本件同意書に捺印させたとは認められない。 控訴人が、被控訴人の従業員であることにより、心理的・精神的に職務発 明対価請求権の行使が困難であると感じていたとしても、そのことをもって、 被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用であるとはいえない。 まして、控訴人は、被控訴人を退職した後に被控訴人に対して内容証明郵 便により本件各発明に係る相当の対価の支払を求めており、この支払請求は 被控訴人の令和3年5月14日付け回答書により拒絶されたが(前提事実(6))、 控訴人が上記回答書を受領した時点では、遅くとも控訴人が本件各発明に係 る特許を受ける権利を被控訴人に承継したと認められる平成23年9月13 日から10年を経過していなかったから、控訴人の被控訴人に対する職務発 明対価請求権の消滅時効が完成していたとは認められない。それにもかかわ らず、控訴人は、令和4年6月1日まで本件訴訟を提起しなかった(当裁判 所に顕著な事実)。上記内容証明郵便は弁護士(本件の控訴人訴訟代理人弁護 士)が控訴人の代理人として送付しており(甲3の1)、控訴人が、上記内容 証明郵便の送付の時点までに、被控訴人に対する職務発明対価請求に関して 弁護士に相談していたと認められるのであって、これらの事情によれば、控 訴人が、弁護士にも相談した上で、自らの判断で、前記回答書の送付から約 1年後に本件訴訟を提起したものと認められる。控訴人は、陳述書(甲15) において、本件同意書が無効であるといえるのか自信をもてず、弁護士費用 を払って訴訟を提起することを躊躇していたため、令和4年6月まで訴訟を 提起することができなかったと陳述するが、仮にこの陳述どおりであったと しても、そのことをもって、被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用に当 たるとはいえない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆令和4(ワ)13408

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