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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和6(ワ)70106  特許使用料請求事件 令和6年11月15日  東京地方裁判所

 専用実施権者である原告が、通常実施権者である被告に対して実施料の支払いを求めました。原告は特許2の専用実施権者ですが、被告に対して特許1〜3の通常実施権を設定していました。被告は、特許1、3の通常実施権の設定義務があり、契約解除の申し出をしました。裁判所は被告の主張を認め、義務を果たしていないので請求棄却としました。

1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、 契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許\n諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契 約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。 しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許 諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常 実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、 本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、 証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技 術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社\nと日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被 告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの\nの、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。 したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、1)本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要 な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、 2)本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保 全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告 には債務不履行がないと主張する。 しかしながら、上記1)については、本件全証拠によっても、本件各特許権は いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の 主張はその前提を欠くものである。
また、上記2)についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権 について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実 (2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在 を否定することはできないというべきである。 そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、 前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面 到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履 行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付 して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期 間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意 思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている\nから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという べきである。

◆判決本文

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令和6(ラ)10003  閲覧等の制限申立却下決定に対する即時抗告申\立事件 令和6年9月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟にて口外禁止条項を含む和解が成立しました。侵害事件の被告は、本件和解条項および提出済みの準備書面及び書証の一部につき、民訴法92条1項2号に基づく閲覧等の制限の申立てをしました。1審は、準備書面及び書証については、その一部について閲覧制限を認めませんでした。侵害事件の被告は、知財高裁に抗告しました。知財高裁は、全体として営業秘密に該当するとして、準備書面及び書証について閲覧制限を認めました。原審の判決はアップされていません。

抗告人は、和解条項は一体不可分に結びついて初めて意味を持つものであり、 本件和解条項においてもその全体について営業秘密性を判断すべきであると主 張するので、この点を踏まえつつ、営業秘密が認められるための要件(不正競 争防止法2条6項所定の1)秘密管理性、2)有用性、3)非公知性)の充足の有無 につき、以下順次検討する。
(1) 秘密管理性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項について、抗告人が定める秘 密管理規程上の「秘」情報と位置づけ、抗告人の代表取締役及び常勤監査役\n並びに抗告人の法務部門に属する者のみがアクセスすることができるように 制限を付し、これらの者が第三者に開示又は漏洩することを禁止して、一体 的に管理していることが認められる。 本件和解条項の一部につき、これと異なる扱いがされているような事情は 一切うかがわれず、以上によれば、抗告人は、本件和解条項の全部を、一体 不可分の秘密として管理しているものと認められる。
(2) 有用性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項を含む特許等紛争の和解条項 については、いかなる相手といかなる条件で和解の合意をするかという事業 方針に関わる有用な情報であるとの認識の下、和解条項全体として、上記(1) のような管理を行っていることが認められる。特に特許訴訟の帰趨は、知財 戦略に大きな影響を及ぼしたり、レピュテーションリスクにつながりかねな い機微が含まれる場合もあること、そうした影響を考慮しつつ、経営体とし ての和解に係る最終的な判断をするためには、和解条項全体を通じて検討す る必要があることを考えれば、抗告人の上記認識及び取扱いは首肯できるも のである。 以上によれば、本件和解条項は、その全体が、事業活動に有用な営業上の 情報に当たるものといえる。
(3) 非公知性について
本件和解条項は、いわゆる口外禁止条項を含むものであるところ、本件の 閲覧等制限等の申立ては、和解成立日から約1か月後に申\し立てられており その間に本件和解条項の閲覧等がされた事実は記録上確認できない。以上の 事実関係の下で、本件和解条項の全部又は一部が基本事件の当事者以外の者 に公然と知られるに至ったとは考えられない。よって、本件和解条項は、そ の全体につき、非公知性の要件を満たすと認められる。 基本事件原告は、和解条項に口外禁止条項があったとしても第三者からの 記録の閲覧申請は拒否することができない以上、非公知性を獲得することは\nあり得ないとの意見を述べるが、和解成立後速やかに閲覧等制限の申立てが\nされ、現に閲覧等が行われた事実も認められない本件において、上記意見は 採用できない。
(4) 以上によれば、本件和解条項は、その全体が不可分なものとして、営業秘 密に当たるというべきである。
2 裁判の公開原則との関係について
基本事件原告の意見は、民事訴訟法91条が憲法82条の裁判の公開原則に 由来するものであることを強調しているので、この点に関する当裁判所の考え を示しておく。 まず、憲法82条1項が裁判の公開を求めているのは、裁判の「対審」と「判 決」であるところ、「対審」とは、民事訴訟における口頭弁論手続及び刑事訴訟 における公判手続を指し、本件和解の手続が行われた弁論準備手続が当然に含 まれるわけではないし、訴訟上の和解が「判決」と異なり、公開の法廷で言い 渡すような性質のものでないことはいうまでもない。 そもそも、民事訴訟においては、私的自治の原則の反映として、訴訟物たる 権利関係を当事者に委ねる処分権主義が採用されており、当事者の自律的解決 を尊重することが求められている。本件の基本事件において、基本事件原告と 基本事件被告(抗告人)は、公開の要請が働く判決の手続ではなく、訴訟上の和解という非公開の手続による終局的な解決を選択するとともに、口外禁止条 項を合意し、本件和解条項に係る情報の流出、漏洩を防止しようとしているの である。それにもかかわらず、民事訴訟法91条1項の手続によって、和解条 項が第三者に閲覧されてしまうとすれば、上記のような和解を決断した当事者 の意図・期待に反する結果となることは明らかである。このような場合に、和 解条項の全部につき閲覧等制限決定をすることは、民事訴訟の基本原則である 処分権主義、当事者の自律的解決尊重の要請に沿うものであって、裁判の公開 の原則と何ら抵触するものではない。

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令和4(ワ)11921  特許権侵害に基づく差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年7月11日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。原告による同意があったと判断され、差止、損害賠償請求権を有しないと判断されました。

ア 前提事実及び前記認定に係る経緯を併せ考慮すれば、本件に関する一連の経緯については、以下のように要約し得る。
すなわち、原告は、平成 21 年 1 月の本件三社契約締結後間もない時期からリタッ グ、被告その他会員企業から、原告が供給する製品の品質及び安定供給に関する問 題点等を繰り返し指摘されたものの、これを解消し得ず、むしろ平成 23 年 3 月の東日本大震災の発生や平成 24 年 6 月の原告による民事再生手続開始申立てを受けて、\nより具体的な対応を強く求められるようになった。具体的には、遅くとも平成 24 年 7 月面談において、リタッグが、原告に対し、ヤマウ及び被告を委託先とする OEM 製造による二次蓋の供給を強く求め、原告もこれに応じ、原告はヤマウとの協議を 開始し、リタッグは、被告に対する委託を検討するようになった。しかし、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は価格面の問題等から契約締結には至らず、原 告自身、平成 年 月会議において、複数社による二次蓋の製造の必要性を認める 発言や、製造に伴う責任と関連付けてその場合の許諾料に関する自己の意見を述べ、 被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のものと理解し得る発言をした。これ を受けて、リタッグは、本件三社契約 18 条に基づく措置として、被告との間でリタッグ許諾契約を締結し、被告は、これに基づき、被告製品の製造販売を開始した。 他方、この頃、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は具体的に進展していな い状況にあった。このような状況の中で、リタッグは、原告に対し、引き続き原告 による二次蓋の安定的な供給等につき強い懸念を示し、他方、原告は、被告による 被告製品の製造販売を問題視する姿勢を示すようになっていた。ところが、令和 3 年 2 月に原告が二次蓋を製造していた中国工場の閉鎖を関係取引先に通知するとい う事態を受け、令和 3 年 3 月会議が開催されることとなった。この際、原告は、被 告による被告製品の製造販売という事情をもって、原告中国工場の閉鎖の一因と示 唆しつつも、同事情を閉鎖により取引先に対する商品の供給に支障が生じないこと を示すものと位置付けて会員企業に説明し、さらに、原告としても、その後の二次 蓋の供給は被告による被告製品の製造販売に依存せざるを得ないとの考えを明示的 に示した。また、同会議において、原告は、被告による被告製品の製造販売と本件 各特許権との関係につき、被告による本件各特許権の侵害の問題ではなく、原告と リタッグとの契約(原告・リタッグ基本契約)に関する問題であるとの認識を示し た。
イ こうした一連の経緯を踏まえると、原告は、遅くとも令和 3 年 3 月会議において、リタッグに対し、同社と被告とのリタッグ許諾契約につき、その契約締結時 に遡って同意をしたものとみるのが相当である。 なお、リタッグ許諾契約締結の契機となったとみられるのは、平成 年 月会議 での原告の発言であるが、当時リタッグ許諾契約は未だ締結されておらず、また、 その契約内容に即した検討等がされたといった事情も見当たらないことなどを踏まえると、この時点では、原告は、リタッグが被告に対し二次蓋の OEM 製造を委託 するという方向性の確認ないし承認をしたにとどまるものとみられる。
(2) 原告の主張について
これに対し、原告は、リタッグ許諾契約に係るリタッグに対する同意又は被告製 品の製造販売に係る被告に対する本件各特許権の許諾のいずれも行っていない旨を主張する。
しかし、原告は、令和 3 年 3 月会議の時点で約 年の長きにわたり、リタッグ、 被告その他会員企業から本件工法に係る二次蓋の品質や安定供給に関する問題を指 摘され続けたにもかかわらず、会員企業の納得を十分に得られる対応を実現できな\nいまま、民事再生手続開始申立てや二次蓋の製造を行っていた中国工場の閉鎖に追\nい込まれた状況にあった。このため、原告は、同会議において、本件三社契約(及 び被告以外の会員企業との同様の契約)に基づく二次蓋の供給に係る原告の責任を 免れ、又は軽減するには、当時既に約 年の実績のあるリタッグ許諾契約に基づく 被告による被告製品の製造販売を承認するほかに方法がない立場に置かれていたも のと推察される。また、被告による被告製品の製造販売につき、本件各特許権の侵 害の問題ではなく、原告・リタッグ基本契約に関する問題であるとする発言も、同 契約ではリタッグが自ら製造し、又は第三者に製造させることを想定していないと みられること(20条等)を踏まえると、合理的であり首肯し得る問題意識と考えら れる。

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令和3(ワ)18031等 特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。

ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。 原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明 の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記 載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の 発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信 し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ 以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本 件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記 載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求 項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、 作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲 を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特 定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を 特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記 要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理 を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、 上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認 めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特 許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。

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令和4(ワ)19222  特許権移転登録手続請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月17日  東京地方裁判所

 民法94条2項(善意の第三者に対する虚偽表示の無効主張)の類推適用が\n特許の移転登録手続にも適用可能とは判断されましたが、要件を充足しないと判断されました。\n

(1) 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法9 4条2項類推適用の可否について
被告は、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が 類推適用されることにより、原告は本件発明について特許を受ける権利を有 していることを主張することができないと主張する。 これに対し、原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれ ば、特許を受ける権利を有する者が同法74条1項に基づく移転登録手続請 求を行った場合において、冒認者からの譲受人等の関係で民法94条2項を 類推適用することはできないと主張する。
この点について、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当すると きには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許 権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許 法74条1項)、その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該 当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をし ているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をして いる発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権 を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。
他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の 外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与又は承認があ る場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められ る場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意 無過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないと主張する ことができないとする理論構成である。\n
このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰 責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認める ものであり、他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真 の権利者の帰責性と第三者の善意又は善意無過失とを要件として、当該権利 者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該 第三者への権利主張を許さないとするものであって、両者の要件及び効果は 異なっている。 そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有する と規定するのみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であ ることはうかがわれず、また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項 が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当 たらない。
以上によれば、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合 においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用す ることは可能であると解される。\n
(2) 本件における民法94条2項類推適用の要件充足性について
・・・・
以上のように、そもそも、Aが本件譲渡契約1)を締結し、Bが本件特 許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告 自身の内部事情や行為にその一因があるといえる上、原告の真の代表者\nとされるDが、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽 の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておら ず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める 判決が確定してからも、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡される までの約半年の間、Bに対して何らの措置もとっていないのである。 このような事情からすれば、原告には、虚偽の外観作出について、自 ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置し た場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるというべきである。 これに対し、原告は、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存 在を認める判決が確定してからの行動について、嘱託登記が完了したの が同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後、Bが更に本件特許 権を譲渡することは考え難かったことからすれば、F弁護士に対して資 料の引渡しを求めていた原告(D)の対応に何ら問題はないと主張する。
しかしながら、同年8月5日の段階で、本件譲渡契約1)の締結から既 に約6年が経過していたこと、Bは、Dと面識はなく、Aと協力関係に あったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認 める判決が確定した段階で、Bに対して特許権移転登録手続請求等の法 的な措置を速やかにとる必要性は高かったものといえる。 また、前記 k及びlのとおり、F弁護士は、本件損害賠償請求訴訟 において、その訴えを却下する判決が確定した後も、Dからの資料の引 渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにお いて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け\nたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、こ のようなF弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議 の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士がDの資料の引渡 請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。
以上の事情に加え、原告としては、F弁護士に対して資料の引渡しを 求めつつ、それと並行してBに対して特許権移転登録手続請求等を行う ことも可能であったといえることからすると、令和3年8月5日に本件\n各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの原告(D)の対 応に何ら問題はなかったという原告の主張は採用できないというべきで ある。
さらに、原告は、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代 理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力する ことはあり得ないから、仮にDがBやその代理人弁理士に働きかけたと しても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によって は逆効果となる可能性すらあるとも主張する。\n
しかしながら、そもそも、B自身が原告を不正に乗っ取った当事者で あることを認めるに足りる証拠はない上、DがBに対して接触した事実 がない以上、Dからの働きかけに対してBがどのような態度に出るのか については、それを示す兆候もなく、虚偽の外観を取り除くことにつな がらないとか、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理が ある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で 争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、Dとし ては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき 状況にあったものといえる。

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令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。

(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公 然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実 施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課 題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、 本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500 0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値 の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に 利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明 に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難 いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目 的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分 子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合 し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn) が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。 しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用 発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA 🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が 世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、 一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量 平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、 「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー) 重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M. W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。 また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について 記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1 991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用 途開発・販売開始」等の記載がある。 しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含 有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について 記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然 実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを 動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又 は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、 当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの 重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件 明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係 る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意 義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間 に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に 入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\ 水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、 当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー 等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を 含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重 合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が 「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00 0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0 052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平 均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、 「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5, 000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」 若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子 量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。 そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1 5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する 機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的 意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、 その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子 量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和3(ワ)4920大阪地裁

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令和5(ネ)10103  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 実質的に前訴の蒸し返しであり、本件訴訟は信義則に反すると判断されました。控訴人(1審原告)の本人訴訟です。

前記認定のとおり、原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告\nに対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主\n張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、 前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する 旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえ ず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告 の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告 棄却決定及び上告不受理決定により確定した。
しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表\者であったAの 原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構\成したものに すぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、 Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況 に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、 前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟 において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な 判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する 旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠 を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざ るを得ない。
また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求 と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわ らず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部 勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。 その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反 し許されないものと解するのが相当である。

◆判決本文

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令和5(ネ)10058  特許権移転登録抹消登録請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権を譲渡した事実はないのに、本件特許権の移転登録手続の抹消登録手続を求めましたが、1審、控訴審とも、請求を棄却しました。

前記認定事実に基づき、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないこと を知り、又は知ることができたかについて、以下検討する。 本件特許権の譲渡が会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」 として、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった被控訴人におい て取締役会決議を経る必要があったことについては当事者間に争いがな い。
前記認定事実によれば、令和2年10月5日頃に、Dは、Aに対し、本 件特許権の譲渡につき取締役会議事録の提出を要求しているところ(乙1 1)、Dの供述によれば、同日、Aから「Bも了解しているし、社内手続も 大丈夫です」との説明を受けた(原審における控訴人代表者Dの陳述記載\n書面3頁)とするが、仮にDの上記供述が事実であったとしても、Dは、 そもそも本件特許権の譲渡について取締役会の決議が必要であると十分\nに認識していたのであるから、Aの上記説明だけを聞いてそれをうのみに したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十\分 可能であったし、議事録の提出が得られないのであれば、B本人に確認す\nることも容易であったというべきである。にもかかわらず、そのような行 動に出ることはなく、本来、特許権譲渡の移転登録手続を急がなければな らない事情は何ら存しないのに、Aとの間で本件特許権の譲渡の話に及ん だ翌日には、弁理士に譲渡証書の作成を依頼し、その二日後にはAに対し 本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印を押印させ、その翌日には本件移\n転登録申請手続に及ぶというように、移転登録申\請を早急に進めたことは 極めて不自然というほかない。
この点に関して、控訴人は、被控訴人において適時適切に取締役会議事 録を作成していたかは疑わしいから、Dにおいて、本件特許権の移転登録 手続を経る前に取締役会議事録の提出を求めることは現実的ではなかった し、移転登録手続を急いだ理由は、「早急な解決を図りたい」というAの意 向を受けてそれが妥当だと考えたからにすぎないなどと主張する。 しかし、取締役会議事録が作成されていないとの疑念を抱いていたので あれば、なおさらのこと、本件特許権の譲渡につき取締役会の承認があっ たかどうかをA以外の被控訴人の取締役などに確認しなければならないは ずであるし、ましてや、控訴人はB以外の被控訴人の取締役は名目的な存 在にすぎないと主張するのであるから、Bが本件特許権の譲渡を承認して いない限り、取締役会の承認は得られないと認識していたはずであるから、 B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決 を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認すること\nなく、被控訴人の取締役会の承認が必要な本件特許権の移転登録手続を上 記のような異常な速さで実現しなければならない理由にはならないという べきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
また、本件特許権が被控訴人にとって重要な財産であることは控訴人も 認めるところであり、前記イ(イ)ないし(エ)に照らせば、控訴人は、被控訴 人が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたと認 識していたとするものである。これらの事情に照らすと、控訴人において、 被控訴人が競合他社である控訴人に対し本件特許権を無償で譲渡するこ とはないと考えるのが通常である。仮に、Bが控訴人に対して競業避止義 務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販\n売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権 の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の 上記義務違反の責めを負う理由はないし、仮に被控訴人として上記Bの義 務違反に責任を感じ、謝罪の意味で何らかの対応をとるべきと認識したと しても、たとえ謝罪の意味であったとしても本件特許権を無償で譲渡しな ければならない必然性はないというべきであるから、Aにおいてこれを理 由として本件特許権を控訴人に譲渡するとDに話したのであれば、Dとし てはまずはそれが真実なのかを確認するのが当然といえ、D自身もそう思 ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。 そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検 索して確認していた控訴人においても、当然に認識していたものというべ きである。
この点に関して控訴人は、被控訴人の実質的な経営者はBであり、被控 訴人の株主や取締役の構成に照らしても、被控訴人の行為はBの行為と同\n視できるから、被控訴人が上記義務違反の責任を負うなどと主張する。 しかしながら、本件全証拠を精査しても、被控訴人の法人格を否認して、 被控訴人の行為をBの行為と同視することを認めるに足りる証拠は存しな いというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 加えて、そのような本件特許権の譲渡について、契約当事者双方が署名 し押印する譲渡契約書が作成されていないのは、会社間の契約として著し く不自然であるし、それを措くとしても、本件譲渡証書の作成に当たり、 Aが被控訴人代表者印を改印したこと自体も極めて不自然というべきであ\nる。なぜなら、当時、改印前被控訴人代表者印はBが保管していたのであ\nるから、もし、Dが、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫で す」との説明を受けたというのが事実であるならば、本件譲渡証書の押印 に当たり、AがBから改印前被控訴人代表者印を借りるなどして押印すれ\nばよく、特許庁に本件譲渡証書を提出する前日にわざわざ代表者印を改印\nしなければならない必要性は何ら認められないからである。
以上の事実を総合考慮すると、上記のような極めて不自然な本件特許権 の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役 会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に\n進めた控訴人代表者のDは、本件特許権の譲渡がAの単独行為であって、\nBの承諾なしにされたこと、すなわち、取締役会決議が存しないことを知 っていた(悪意)ものと認めるのが相当である。
以上によれば、控訴人は、本件特許権の控訴人への譲渡につき、被控訴 人の取締役会決議を経ていないことについて悪意であったと認められる から、本件特許権の譲渡は民法93条1項ただし書に準拠して無効となる と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆東京地裁令和3(ワ)8940

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令和5(行ケ)10046  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。

以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成 物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での 洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、 本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。 他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」 の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原 告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜 10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体 積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」 とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到 できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が 「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、 どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。 すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡 便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが 可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク 質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果 を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負 担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00 65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1 6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液 であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク 質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比 較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、 クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで (【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007 3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明 において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」 量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。 以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚 れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。

◆判決本文

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令和5(ネ)10041  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月16日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 本件商品の輸入が本件特許権を侵害すると主張して税関に輸入差止の申立てをしたことが不法行為に該当するとして、約4000万円の損害賠償請求がなされました。知財高裁は1審と同じく、無効理由がないとして請求を棄却しました。

原告は、甲7公報に記載されたバー10が独立した運動器具の発明である といえるかに関し、1)甲7公報記載の発明は、従来技術であるバーベル装置(バー 部分と重り部分からなるもの)における問題(バーが長いことによってバランスを とることが困難であるとの問題)を解消するため、バー部分を短く改良した三頭筋 運動器具であるところ、バーベル装置においては、重りを着けずにバー部分のみで 運動を行うことが想定されているのであるから、バーベル装置を改良した甲7公報 記載の発明においても、バー10単独での使用が可能である、2)甲7公報には、発 明の目的及び別の目的に係る記載があるところ、前者の記載にある「中央に位置す る重り支持セクションを有する」との文言が後者の記載からあえて削除されている から、甲7公報記載の発明は、重り支持プラットフォーム及び重りを備えない状態 で使用することを当然の前提にしている、3)甲7公報記載の発明は、バー10を単 独で使用することによっても一定の作用効果を奏する、4)バー10は、三頭筋運動 において非常に重要な役割を果たしているとして、甲7公報記載の発明においては、 バー10を独立して捉えることが可能であり、それ自体が独立した運動器具の発明\nであると主張する。
そこで検討するに、1)甲7公報には、「比較的長いバーを有しバランスをとるこ とが困難であるなどの従来のバーベル装置が有していた問題を解消するため、本件 各発明は、両側にあるハンドルを備える中央の重り支持セクションを有し、各ハン ドルが複数の握持位置を有する」旨の記載があるが、補正して引用した原判決第4 の1(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、従来のバーベル装置が重り を着けない状態で使用されることがあるとしても、そのことは、甲7公報記載の発 明においても、バー10のみの状態(重りのみならず支持クランプ組立体をも取り 外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるものではない。
また、2)甲7公報には、「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクション を有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング装置 を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側にある ハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティ ング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to endの手 の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフテ\nィング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価であり、 高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、説明 した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することである。」 との記載があるが、これらの記載は、甲7公報記載の発明の目的について述べるも のであり、その具体的な構成について詳述するものではなく、補正して引用した原\n判決第4の1(2)イ(オ)のとおりの甲7公報記載の発明の具体的な構成に係る記載に\nも照らすと、「本発明の別の目的」及び「本発明の全体的な目的」に係る各記載中 に「本発明の目的」に係る記載中の「中央に位置する重り支持セクションを有する …ウエイトリフティング装置」などの記載がないことをもって、甲7公報記載の発 明において、バー10のみの状態での使用が想定されているということはできない。 さらに、3)前記1)において説示したのと同様、補正して引用した原判決第4の1
(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、重りを取り外した状態で使用す ることによっても甲7公報記載の発明の効果を奏する場合があるとしても、そのこ とは、甲7公報記載の発明において、バー10のみの状態(重りのみならず支持ク ランプ組立体をも取り外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるも のではない。なお、4)甲7公報記載の発明においてバー10が重要な役割を果たしているとしても、そのことは、原告の主張を直ちに根拠付けるものではない。以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は、相違点1)に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、リング状\nの器具をトレーニング器具として用いることは慣用技術であるから、リング状のバ ー10をトレーニング器具とすることは、単にスポーツ器具用部品であるバー10 に慣用技術を適用するだけのことであり、当業者にとって極めて容易な事柄である と主張する。しかしながら、これまで説示したとおり、本件においては、バー10のみ(甲7発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重 り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であ るから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断(相違点 1)に係るもの)に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取 り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)における バー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可\n分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であ るとみることはできない(なお、原告の主張も、リング状の器具として、甲8公報 記載のトレーニング用器具、甲9公報記載の体育器具のほか、ラタンリング、ピラ ティスリング、ヨガリング、フープ等を念頭に置いている。)。 以上によると、原告が慣用技術であると主張する技術の適用により当業者が相違 点1)に係る本件各発明の構成に容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和4(ワ)3847

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平成27(ネ)10069  売買代金請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
部品メーカが完成品メーカに対してした特許保証条項について、どのような義務があったのかが争われました。1審では、そもそも特許権侵害ではなかったのだから、払ったライセンス料相当額の損害との間に相当因果関係が認められないと判断しました。知財高裁は、侵害判断については同様ですが、相当因果関係ありとして、一定の範囲の損害賠償を認めました。ただ、過失相殺7割としました。

確かに,前記1のとおり,本件口頭弁論終結時においても,本件チップセットが 本件各特許権を侵害するものであると認めるに足りる証拠がない以上,結果的に見 れば,本件ライセンス契約が締結された時点において,控訴人がWi−LAN社と の間でライセンス契約を締結し,ライセンス料として2億円を支払う必要性があっ たということはできない。
イ しかし,以下の事情を総合すれば,被控訴人による本件基本契約18条2項 違反と,控訴人のライセンス料相当額の損害との間には,相当因果関係を認めるこ とができる。
(ア) 控訴人は,Wi−LAN社から本件各特許のライセンスの申出を受けたこ\nとから,被控訴人に対し協力を依頼した平成22年12月9日以後,継続して,被 控訴人又はイカノス社に対して,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否 かについての回答を求めていたところ(前記2(1)ア,ウ,エ,サ),イカノス社か らは,平成23年3月22日には,コネクサント社等が詳細な技術分析の結果とし て,Wi−LAN社とライセンス契約を締結していることから,Wi−LAN社の 主張が妥当なものである可能性が高く,イカノス社において,多くの時間とリソ\ー スを費やして技術的分析を行うことは望んでおらず,コネクサント社製のチップ セットに比べてイカノス社製のチップセットの供給量は少ないことから,控訴人と Wi−LAN社とのライセンス契約が最良の解決であると考えていることが述べら れ(前記2(1)セ),同年8月には,技術分析の結果(乙20)に基づき,別件特許 については,これらの技術を使用していないとの報告がされたものの,本件特許1, 2,4,6及び9については,これらの特許がDSLAMに関連する特許であり, イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技術とは無関係であるとの報告がされ\nたのみで,これらの技術を使用しているのか否かについての報告がなく,本件特許 3,5,7及び8については何らの報告もなく,かえって,Wi−LAN社に対し て支払うロイヤルティを3社で分担することが提案され(前記2(1)ト),同年10 月には,イカノス社の技術は,コネクサント社の技術と基本的に同じであって,コ ネクサント社が取得したライセンスでカバーされていない技術が残っているのか疑 問があり,Wi−LAN社の主張が妥当である部分については,掘り下げるつもり はないことが述べられ(前記2(1)ヌ),同年11月には,再度の技術分析の結果(乙 21)に基づき,別件特許については,これらの技術を使用していないとの報告が されたものの,本件各特許については,DSLAM送信機の請求項である,CPE の請求項と思われる,DSLAMの実装に固有の要素であり,CPEの実装には見 られない要素であるなどと,本件各特許の請求項についての簡単な報告がされたの みで,本件チップセットが本件各特許発明を充足しているのか否かについての報告 がされていない(前記2(1)ノ)。チップ・ベンダーであるイカノス社が,本件チッ プセットが本件各特許権を侵害するか否かについての調査依頼に対して,上記のよ うな対応をしたことから,控訴人は,同年12月には,ADSL Annex.C については明らかに本件各特許権を侵害するもので,技術的にこれが非侵害である ことを立証することはできない旨の認識を有するに至ったものである(前記2(1) ハ)。
(イ) また,同年4月には,被控訴人,控訴人及びイカノス社の間において,W i−LAN社とのライセンス契約締結に当たっては,ライセンス料,算定根拠等の 観点からの検討が必要であることが確認された。その際,控訴人からイカノス社に 対してロイヤルティ率の提示を要請し,イカノス社は,本件各特許のような特許権 に対する標準的な料率に関する情報を準備し,提示する旨述べたものの(前記2(1) タ,チ),同年7月13日には,合理的なロイヤルティ率については,具体的な数 字を提示することは困難であるとして,提示することができなかった(前記2(1) ツ,テ)。次に,イカノス社は,コネクサント社製のチップセットに適用されるロ イヤルティ率に基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めるよう努力して 結果を報告する旨述べたものの,これについても新たな情報を発見することができ なかったと報告するにとどまり(前記2(1)テ),結局,被控訴人又はイカノス社か ら,控訴人に対し,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかった。
(ウ) そして,控訴人は,同年2月24日,Wi−LAN社に対し,チップ・ベ ンダーの一社であるコネクサント社がWi−LAN社との間でライセンス契約を締 結しているのであれば,ライセンス交渉の前提が変わるとしてその確認をしたい旨 通知したところ,同年3月1日には,Wi−LAN社から,コネクサント社にライ センス済みのものは控訴人とのライセンス交渉の対象外であること,控訴人に対す るライセンス料の提案額480万USドルは既に大幅に減額したものであって,コ ネクサント社とのライセンス契約の事実が影響するものではない旨の回答を受けた (前記2(1)コ)。さらに,控訴人は,同年3月13日,Wi−LAN社に対し,控 訴人のイカノス社からの購入数量に見合ったライセンス条件の再提示を求めたとこ ろ,同月23日には,Wi−LAN社から,コネクサント社に対するライセンス済 みの製品があることについては控訴人に対するライセンス料の提示において大幅減 額をした際に織り込み済みであること,控訴人が妥当であると考える数字を提案さ れたい旨の回答を受けた(前記2(1)ス,ソ)。控訴人は,同年4月頃に,Wi−L\nAN社に対し,コネクサント社とイカノス社から購入した各製品の数量を開示し(後 者は前者に比べて非常に小さい。),これらの数値を検討して新たな提案をするよ う求めたところ,その後,Wi−LAN社からは請求額を430万USドルに引き 下げる旨の回答を受け(前記2(1)タ,チ),さらに,同年7月ないし8月頃に,W i−LAN社に対し,ロイヤルティはチップセット数量に基づいて算出されるべき であり,現実的ロイヤルティ額は,例えば11万USドルから12万USドルの範 囲内にあるべきことを主張したところ,同年10月6日には,Wi−LAN社から, 控訴人とWi−LAN社の本件紛争の解決に対する見解には大きな隔たりがあると して,早期の解決をする場合にはどの程度の金額の提示が可能かを2週間以内に連\n絡するよう,Wi−LAN社は,控訴人からの提案を受け取った時点で,現在提示 している早期ライセンスのオファーを取り下げるか否かを決定し,2週間以内に回 答がない場合には,自動的に早期ライセンス交渉は終了することなどの回答を受け た(前記2(1)ナ)。さらに,控訴人は,同月7日には,Wi−LAN社に対し,W i−LAN社の要求する300万ないし400万USドルのロイヤルティは非ライ センス製品であるイカノス社からの控訴人の実際の購入量が小さいため適切でない 旨を説明したところ,同年12月には,Wi−LAN社からの提示額は290万U Sドルまで減額され(前記2(1)ハ),その後,本件ライセンス契約締結時には2億 円に減額されている。 このように,控訴人は,イカノス社からの購入数量は,コネクサント社からの購 入数量と比較して非常に小さいことから,イカノス社からの実際の購入数量に応じ てライセンス料も大幅に減額すべきであることを継続して主張していたが,Wi− LAN社からは,控訴人に対するライセンス料の提示に当たり考慮済みであるとさ れ,Wi−LAN社による提示額も漸減していたとはいえ,被控訴人及びイカノス 社からは,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかったことから,こ れ以上は,減額交渉の材料が他に見当たらない状況であった。
(エ) 他方において,控訴人は,平成22年12月27日,Wi−LAN社から, 1)早期ライセンス,2)交渉された又は遅延したライセンス及び3)訴訟後のライセン スの3段階のライセンシングがあることを示され,平成23年3月15日までにラ イセンス契約を締結しない限り,早期ライセンスのオファーは撤回され,その後, 交渉された又は遅延したライセンス(第2ラウンド)(早期ライセンスが拒否され た場合又は遅延作戦が行われた場合,オファーは撤回され,ポートフォリオ全体に つき詳細な違反調査が行われ,ロイヤルティ率が著しく増加し,条件及び賠償金の 過去分について柔軟な対応を行いにくくなる。),さらには,訴訟後のライセンス (訴訟終了後,全ての既存のオファーは撤回され,交渉は振出しに戻り,ライセン スのオファーは裁判所により課された料率等でされ,全額賠償,増額賠償等の全て の費用を含み,裁判所により課された料率と係争中の条件を変更する柔軟性はほと んどない。)に進む可能性がある旨の申\出を受けた(前記2(1)イ)。控訴人は,同 年3月13日には,Wi−LAN社に対して,期限の猶予を求めたが(前記2(1) ス),同年10月6日には,Wi−LAN社から,控訴人とWi−LAN社の見解 には大きな隔たりがあり,早期解決のための金額提示が2週間以内になければ早期 ライセンス交渉は終了し,その後,特許権者としてのあらゆるオプションを留保す る旨の通知を受ける(前記2(1)ニ)などして,平成22年12月27日のライセン ス交渉以来,継続して,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに 移行する可能性を告げられていた。そして,Wi−LAN社は,自らは保有する特\n許を実施しないNPE(Non Practicing Entity)として, それまで大手企業等を相手に差止請求を含めた多数の訴訟を提起し,結果としてラ イセンス料を得るなどの実績を有していたことから(甲8,9,乙2,5),早期 ライセンス交渉が決裂すれば,差止請求訴訟が提起される可能性があり,もし侵害\nの事実が認定された場合には,設計変更等を行うに当たっての損害額は2億円をは るかに超える可能性があった(前記2(1)ヘ)。
(オ) 以上のとおり,前記(ア)のとおりのチップ・ベンダーであるイカノス社に よる技術分析への対応等に照らせば,控訴人が,本件チップセットは,ADSL A nnex.Cに準拠し,Annex.Cに用いるものとしてFRAND宣言がされ ている本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考えたこともある程度\nやむを得ないところであって,前記(イ)のとおり,被控訴人又はイカノス社からラ イセンス料の算定に関する情報も提供されないことから,前記(ウ)のとおり,これ 以上,減額交渉の材料がない状況の下で,他方,前記(エ)のとおり,Wi−LAN 社からは,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに移行する可能\n性を継続して告げられるなどして,差止請求訴訟を提起されるリスクを負っており, 侵害が認定された場合に被る損害は2億円をはるかに超えることが予想されたこと\nを総合的に鑑みれば,平成24年2月23日の時点において,控訴人が,本件ライ センス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払うことも,社会通念上やむを得な いところであり,不相当な行為ということはできないのであって,被控訴人による 本件基本契約18条2項違反と,控訴人のライセンス料2億円相当額の損害との間 には,相当因果関係を認めることができる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成24(ワ)21128

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平成27(ワ)25780等  特許権を受ける権利を有することの確認等請求,真の発明者ではない旨の宣誓手続請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月22日  東京地方裁判所

随分前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
納入業者がした発明について、納入先が特許出願をしました。発明者には当該納入業者は記載されていませんでした。東京地裁29部は、原告らは共同発明者であると認定しました。また人格的利益を侵害の慰謝料として33万円を認めました。

◆本件特許
原告らは、本件特許から遅れて、10ヶ月後、自ら別の出願していました。

◆原告ら特許

エ 被告は,Fが原告Aに対して,本件攪拌混合機ないし本件角堀掘削ヘッドに ついて特許出願したい旨を伝えたところ,原告Aが「うちはいいから,会社で出し て。」と述べた,また,原告Aは,平成25年12月21日,被告従業員らに対し, 本件特許出願の発明者について「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述 べたなどと主張し,被告従業員らの各陳述書(乙30ないし32)があるほか,証 人Fも証人尋問において同旨の証言をする。 しかし,前者(原告Aが「うちはいいから,会社で出して。」と述べたとの事実) については,それがいつ,どのような場面において原告Aからされた発言であるか が主張上も,証人Fの証言上も明確でないから,同事実を認定するには至らない。 後者(原告Aが「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述べたとの事実) については,Fは,証人尋問において,「A社長と相談したら,自分じゃなくて若 い者にしてもらったらいいかなというふうに聞いた」,「ありがとうございますと 言われたような気がします。」,「島根に来られたときなんで,ちょっとはっきり, 日付までおぼえてないですけれども。」などと証言するにとどまり,原告Aがいか なる文脈で,どのような趣旨で発言したのかについて明確に証言しないから,発言 した日時,場所等はもとより,原告Aが,本件各発明について,被告による本件特 許出願に際し,自らを発明者として記載せず,原告Bを発明者として記載すること を了承する趣旨で上記のような発言をしたとまで認定することは困難である。
(3) 本件各発明の発明者について
ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうか ら(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想 の創作行為に現実に関与することを要する。 そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する 者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具 体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行\nツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参 照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得な かった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求め\nられる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記 載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎 付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的, 客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると\nいうべきである。
イ 本件発明1について
本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成\nするためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向 に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横 掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ 設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明 である。 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0 006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する 課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置におい て,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要 があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従 来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメン\nトミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼 を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたと の構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構\築できるとの作用効果を生じ, 上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分というこ\nとができる。
しかるところ,前記認定事実((1)エ,なお(2)イも参照。)によれば,被告は,平 成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベース マシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場 に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2 号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなど を用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成として\nはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同 日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼と から構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと\n認められる。
なお,この点に関連して,原告らは,被告が原告らに製造を依頼したのは,「水 平方向に地盤を広範囲に連続攪拌する機能を備えた地盤改良装置」であって,角柱\n杭を形成することは予定されておらず,原告らが平成25年8月10日に行った試\n掘により覚知したと主張する。前記認定事実((1)エ,オ,ク)によれば,被告は, 浅層ないし中層の地盤改良装置を原告らの参考とさせ,原告らに交付した注文書に は「浅層改良機」との記載があり,また,平成26年に至ってから本格的に本件角 堀掘削ヘッドを深層まで杭を打ち込むことが可能な2号機において稼動させること\nを前提とした種々の発注等を行っていることなどが認められるから,被告は,当初, 角堀掘削ヘッドを浅層ないし中層の地盤改良用途を中心に用いることを構想してい\nた可能性が相応に認められる。しかし,浅層ないし中層の地盤改良であっても,杭\nを並べて打つことにより広範囲を改良する工法は一般的に行われているから(本件 明細書の段落【0007】の記載や,甲第45号証にもかかる工法をうかがわせる 記載がある。),被告が当初有していた着想が,角柱杭を形成することを予定して\nいなかったということはできない。
もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考\n資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパ ンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供した との事実は何ら認められないところ,前記認定事実((1)エ,オ)のとおり,原告ら は,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本 件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また\n製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもって も半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整 等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告ら にした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復し\nて実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできな い。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当 業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献を\nしたものと認めるのが相当である。 したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程におい て,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから, その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。
ウ 本件発明2ないし同4について
本件発明2は,本件発明1に「該横掘削翼は,該先端掘削翼より根本側で,且つ 該先端掘削翼近傍に設けたものである」との発明特定事項を加え,本件発明3は, 本件発明1又は同2に「全横掘削翼の回転面と直角の攪拌面積が,該先端掘削翼が 掘削する面積の1/6以上である」との発明特定事項を加え,本件発明4は,本件 発明1ないし同3に「全横掘削翼は2つである」との発明特定事項を加えた発明で ある。これらの発明の特徴的部分は,前記イに述べた本件発明1の特徴的部分のほ か,上記発明特定事項にあるものと認められる。 そして,前記イに認定説示したところによれば,これらの特徴的部分の各着想か ら具体化に至る過程においては,被告従業員ら及び原告らが相応に創作的な貢献を したというべきであるから,本件発明2ないし同4の発明者も,被告従業員ら及び 原告らの5名である。
エ 共同発明者各自の貢献度について
これまで認定説示してきたとおり,本件各発明は,被告従業員ら及び原告らの共 同発明と認められるところ,各自の貢献度については,前記認定事実に認定したと おりの本件各発明に至る経緯を総合し,本件各発明の特徴的部分に係る着想と,そ の具体化の各過程の価値を等価なものとして,被告従業員らが2分の1,原告らが 2分の1として,さらに,被告従業員ら側内部における各人の貢献度,原告ら側内 部における各人の貢献度も,それぞれ等価なものと認めるのが相当である(なお, 仮に,本件各発明との関係で原告Bを原告Aの単なる補助者とみる余地があるとし ても,弁論の全趣旨によれば,原告らは本件各発明についての特許を受ける権利の 共有持分につき,各2分の1とする旨合意したことが認められるから,上記認定が 判断左右されるものではない。)。
したがって,本件各発明についての共同発明者間の各貢献度は,原告A及び原告 Bが各4分の1,F,D及びEが各6分の1ということになる。なお,前記1の認 定事実によれば,被告従業員らは,本件特許出願に先立ち,本件各発明についての 特許を受ける権利の共有持分を,少なくとも黙示的に,被告に承継させたものと認 められるが,原告らが本件各発明についての特許を受ける権利の共有持分を被告に 承継させたと認めることは困難であり,ほかに被告が原告らから本件各発明につい ての特許を受ける権利の共有持分を承継したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 争点2の結論
以上によれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,本件各発明について特許を受け る権利の各4分の1の共有持分を有しているものと認められる一方,被告は,本件 各発明について特許を受ける権利の各2分の1の共有持分を有しているものと認め られる。
2 争点2(発明者名誉権の侵害により原告Aが受けた損害の額)について
上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実 (第2,2(3))のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者と して原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に 関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認める ことが困難であることは,前記(2)エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記 載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。 被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人 格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより\n原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。 そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明 者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を\n訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日\nであること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基 にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成 28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として 記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料 30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10023  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年10月3日  知的財産高等裁判所

特許異議申立で取消審決がなされましたが、特許権者は知財高裁に取消訴訟を提起しました。知財高裁は、請求項の「内接」の意義を定義した上、審決を維持しました。出願人は「ドクター中松」で、本人訴訟です。
本件特許はこれです。多数の分割出願があります。

◆本件特許

(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガード\nとして兼用」の意義を明らかにしておく。
(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に 接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり (甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。\n
本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用 プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4 枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたもので ある」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示さ れ、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後 の主翼24と接するように示されている。 同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプ ロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細 書の【0012】〜【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれ ば、図7〜9に係る第4〜6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複 数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。\nもっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、 プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」 とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。\n
(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範 囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロ ペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能\は、複数の翼の間 に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内 接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4〜6実施例(図7〜9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能\するものと解される。
(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7〜9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構\成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。

◆判決本文

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令和3(ワ)11286等  損害賠償請求事件(第1事件)、債務不存在確認請求事件(第2事件)  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  大阪地方裁判所

 特許製品の未購入行為について争われました。争点は、購入契約自体が錯誤により無効か否かでした。裁判所は錯誤による契約無効を認めず本件補償条項にもとづいて、約1億7千万円の支払いを認めました。

(1) 腸内のpH値及び本件物質の効能に関する要素の錯誤について\n
ア 甲1契約、乙3契約の内容
前記前提事実及び認定事実、乙1によると、●(省略)●であるところ、 本件特許Aの特許請求の範囲請求項1は、「結晶子径が1nm以上100n m以下のシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体を含み、且つ水 素発生能を有する経口固形製剤。」というものであり、本件特許発明Bは本\n件製品のいわゆる用途発明である(なお、本件特許発明Aに係る明細書にお いては、pH7以上の領域において、シリコン微細粒子が水素を発生させる ことが記載されている。)。
そして、具体的な用途や製品は、●(省略)●
イ 甲2契約、乙4契約の内容
●(省略)●契約当事者に明らかにされている。
ウ 検討
前記ア、イのとおりの契約内容に照らすと、被告の主張に係る腸内のpH 値や本件物質の効能、生体内での作用機序等は、何ら契約書上明記されてお\nらず、また契約交渉過程において規範として形成されたとも言えないのであ って、そもそも契約の内容となっていないと言わざるを得ない。すなわち、前記前提事実のとおりの本件各特許発明の内容及び上記認定事実に係る甲1契約等に至る過程によれば、被告は、平成30年3月に、第2事件被告代表者から、生体内で水素を発生させてヒドロキシルラジカルを除去するシリコン製剤の研究につき説明を受け、これを用いたペット用及び人用サプリメントの商品化の検討を始め、原告ら(第2事件被告代表\者)から 提供を受けたサンプルを自ら動物への投与等を行ってその効能に関する被\n告なりの具体的検証を実施し、その結果甲1契約を締結するに至ったもので あるが、その過程を通じ、第2事件被告代表者は、乙9資料(マウスによる\n動物実験の結果)の内容をベースに、シリコン製剤が体内で水素を発生させ てヒドロキシルラジカルを除去し、各種疾病に対する効能が確認されたこと\nから、動物や人にもその効果が期待されると説明していたにとどまり、乙9 資料の内容を超えて、効能・効果それ自体を保証したことがないことはもと\nより、腸内環境として想定すべきpH値の妥当性が問題となったり(なお、 本件特許Aの明細書においては、pH7以上で水素発生能を発揮することが\n示唆されていることは前記のとおり。)、前記被告による具体的検証の内容が 問題となったりしたことはないのであって、本件製剤の用途が基本的に健康 食品(サプリメント)であることや本件物質の性能を生かした製品化を行う\nのは被告であることも考慮すると、被告主張の腸内のpH値や本件物質の効 能に関してそもそも誤信があったとはいえないし、仮に何等かの思い違いが\nあったとしても、その実質は、専ら被告の希望的観測との齟齬をいうものに すぎず、甲1契約等の締結にあたって、被告に要素又は契約の効力に影響を 及ぼす動機の錯誤があったとは認められない。
(2) 海外販売に関する要素の錯誤について
ア 前記第2の2(3)(前提事実)のとおり、●(省略)●と規定され、文言上、 明確に国内における通常実施権に関する契約であることが明記されている。 この点については、被告の契約交渉担当であったP1すらも、契約書どおり 国内の通常実施権に関する合意であるとの認識であったと供述する(P1証 人)。 また、甲1契約締結に至る過程では、専ら国内市場における予測需要につ\nいて検討がされており、海外市場における予測需要を具体的に検討した事情\nは見当たらない。 以上に加えて、被告が甲1契約の締結後に初めて具体的な海外販売に向け た行動を講じていること、またその過程で第2事件被告代表者から甲1契約\nにおいて海外販売を承諾していないとの説明があった上でそれについて特 段契約当時の認識との齟齬を表明していないことをも考慮すると、被告自身\nも甲1契約が海外販売を前提としていたと認識していたとは認められず、被 告主張の海外販売に関する錯誤があったと認めることはできない。
イ これに対し、被告は、第2事件被告代表者が、甲1契約締結前に被告によ\nる海外販売を容認する発言をしており、国内販売のみならず海外販売を前提 とすると合計100トンのシリコン製剤を消化することができると判断し たからこそ、合計100トンを最低計画購入量とする原告らの提案に応じた とか、甲1契約締結後に第2事件被告代表者が海外販売を支持する発言をし\nていたことなどをもって、甲1契約において、シリコン製剤を用いた製品の 海外販売が前提となっていたなどと主張する。
しかしながら、第2事件被告代表者が甲1契約前に海外販売を容認する発\n言をしたことを認めるに足りる証拠はなく、また仮にそのような発言や、甲 1契約後に海外販売を支持する発言があったとしても、前記の甲1契約の文 言から認められる実施権の範囲が左右されるとも解されない。被告の主張は、 採用の限りでない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10046  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
 損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
 なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。

ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発 明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否 かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末 装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の 発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3 項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい うものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介 して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう ものと解される。 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行 為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に 該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、 その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び 当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに 作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判 決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、 ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その 後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動 画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、 その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信 用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、 それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、 受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用 したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の 全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り 出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作 り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを 製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに 尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係 がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2 がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴 人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第 三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、 そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31 1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの 生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各 タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」 との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に 該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に 対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての 構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受 信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を 備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末 が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2 の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必 要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、 ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに 被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ とを理由に「生産」に該当しないということはできない。 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、 移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が 当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷 判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580 号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参 照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され る。 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末 がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国 に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信 することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、 新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在 するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、 我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に 「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る 特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を 生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許 権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り 出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当 である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的 態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが 送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、 国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム 1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観 念することができる。 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利 用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内 で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特 許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の 効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外 (国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当 しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発 明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要 件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」 に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、 カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小 法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に 関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法 2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2) の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特 許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意 味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行 われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」 に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」 に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する ことができない。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を 「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、 前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画 を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被 控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2 のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末 に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り 出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、 動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、 これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、 被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、 自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生 産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、 前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所 望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに 格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従 って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの 取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴 人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行 われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、 ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」 と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上 記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2 が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設 置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操 作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、 被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的 に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末 に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について 控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月 17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被 告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り 上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●● ●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日 までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●● ●●●●●●円を下らないと主張する。 しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、 上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める に足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3 で提供された被告各サービスの割合 前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム 1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものである。 しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、 被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は● ●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語 でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存 在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、 本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって 提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって● ●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、 ●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●● ●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額 は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、 ●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被 控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界 利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。 このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」 された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、 ●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算 定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし 3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に 対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税 の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得 た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限 界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額 と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売 上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、 9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割 合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、 被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自 体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発 明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動 画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上 記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各 発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える 部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額 との間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の ●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝 国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の 在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」 の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均 値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ 料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20 04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値 「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ) のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3 による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●● ●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(● ●●●●●●●●●●円×0.02)となる。 これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項 に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な 前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本 件の控訴人の損害額と認められる。

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令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号

知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。  なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n

ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に 属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有 機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」 被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及 びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、 ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信 用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応 じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産 1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項 1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効 力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において も、上記原則が妥当するものと解される。 本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国 と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生 産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と なる。 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵 害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格 に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該 システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保 護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条 3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国 に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ 端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信 (送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在 するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の 機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の 向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利 用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影 響を及ぼし得るものである。 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生 産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国 の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許 法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の 原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場 合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許 回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍 があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判 例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5 80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響 が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵 害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」 に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、 構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その 成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該 国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2 条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特 許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則 の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動 的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、 被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生 産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。

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令和3(ワ)8940 特許権移転登録抹消登録請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月12日  東京地方裁判所

 被告は、実印が押印された譲渡証により、特許庁に対して移転手続きをしました、裁判所は、本件特許権を無償譲渡することはないと考えるのが通常なので、被告には、取締役会決議等の社内決裁手続の確認義務があったとして、原告の移転登録の抹消を認めました。

(1) 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を 認定することができる。
ア Aは、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、平成28年7月11\n日、被告との間で、委託期間を2年間とする本件販売業務委託契約を締結 し、被告装置の販売業務を遂行していたが、被告装置を販売する上で、A に、被告における役員の肩書を付与する必要があるとの理由から、平成2 9年11月30日、被告の取締役に就任した。
イ Aは、令和元年10月31日、本件特許に係る発明の開発並びに同発明 を実施して製品を製造及び販売するため、原告を設立して取締役に就任し、 遅くとも令和2年9月1日までには、被告に辞任届を提出して被告の取締 役を辞任した(甲16、25、26、乙4)。
ウ Aは、令和2年4月17日、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする 特許出願をし(特願2020―73937)、同年7月20日、本件特許権\nの設定登録を受けた。
エ 被告の取締役であるEは、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、 複数の第三者から、Aが被告製品とは異なる有機廃棄物処理装置を販売し ようとしているとの情報を得て、原告の代表取締役であるCに対し、事実\n関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。
オ Cは、令和2年10月5日頃、被告の代表取締役であるDに電話をし、\n原告の代表取締役として、Aが原告に本件特許権を取得させて被告製品の\n競合品である原告製品を第三者に販売しようとしたことについて謝罪し、 事態を収拾するため、本件特許権を譲渡したい旨申し入れた。Dは、同申\ 入れを受け入れることとし、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は 取れているんでしょうね?」と尋ねたところ、Cは、「Aも了解しているし、 社内手続も大丈夫だ。」と述べた。しかし、実際には、原告の取締役会にお いて本件特許権譲渡の承認決議はされていなかった。(乙11、被告本人、 弁論の全趣旨)
カ 被告は、令和2年10月8日頃、弁理士に本件譲渡証書の原案を作成さ せて、これをCに交付し、Cは、Cの記名の横に改印後原告代表者印によ\nり押印し、本件譲渡証書を作成した(甲5、7、8、乙11)。
キ 被告は、令和2年10月9日、特許権移転登録申請書に本件譲渡証書を\n添付した上で、本件特許権の移転登録を被告単独で申請し、本件特許権の\n移転登録手続をした。なお、同手続がされた時点において、原告は、取締 役会設置会社であった。
(2) 前記認定事実に基づき、被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、 又は知ることができたかについて、以下検討する。 ア 前記(1)エによれば、Dは、本件特許権の譲渡時までには、Aが、原告を 設立して原告に本件特許権を取得させ、被告製品と競合する有機物廃棄処 理装置を販売しようとしていたことについて、認識していたものと認めら れる。そして、本件特許権が原告にとって重要な財産であることは被告も認め るところであり、前記(1)イないしエに照らせば、被告は、原告が本件特許 権を実施することにより収益を得ようと企図していたことについても認識 していたものと認められる。これらの事情に照らすと、被告において、原 告が競合他社である被告に対し本件特許権を無償で譲渡することはないと 考えるのが通常であるといえる。それにもかかわらず、前記(1)オのとおり、 Dは、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょう ね?」と尋ね、Cが「Aも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べ たことのみをもって、承認決議が存在すると考え、本件特許権の移転登録 手続を経たというのである。
このような本件特許権の譲渡の経緯に照らすと、Dにおいて、本件特許 権の移転登録手続を経る前に、Cに対し、原告の承認決議があったことを 裏付ける取締役会議事録を提出させるか、又は、原告の実質的経営者であ るAに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを 確認しておけば、本件特許権の譲渡につき、原告の取締役会による承認決 議がされていないことを認識できたというべきである。そして、本件特許 権の移転登録手続を経ることが、被告にとって急を要するものであったと はうかがわれないこと、また、Aが被告の取締役であり、被告とAは既知 の関係にあったこと(前記(1)ア)に照らすと、本件特許権の移転登録手続 を経る前に、上記の確認をとることは容易であったといえる。したがって、Dは、少なくとも本件特許権譲渡について原告の取締役会における承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、本件においては、民法93条ただし書の規定を類推して、原告はCによる本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である。
イ 被告は、本件特許権の譲渡は、Aが被告に対し、競業避止義務違反及び本件販売業務委託契約違反となる行為を行ったことから、それに対する謝罪の意味でされたものであるなどと主張して、被告が原告の当時の代表取締役であったCが述べたことを信じたのは正当である旨主張する。しかし、前記アのとおり、原告が被告に本件特許権を無償で譲渡することを承諾することは通常考え難い上、仮に、Aが被告に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表\取締役として本件販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は原告であり、原告がA又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないというべきである。したがって、そのような事実は、被告が承認決議の不存在を認識していなかったことを正当化し得るものではない。

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

◆判決本文

当事者が同じ関連事件です。

◆令和4(行ケ)10022

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令和4(ワ)3847  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  大阪地方裁判所

本件特許には無効原因があるにもかかわらず、被告が税関に輸入禁止の申立てを行った行為が不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償が請求されました。大阪地裁は「理由無し」と判断しました。税関で、特許権に基づく輸入禁止認定がなされる例があるんですね。該当特許は、形状がユニークなトレーニング機器です。無効審判も理由無しと判断されています。

◆該当特許

原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出し、別紙「主張一覧表」の「無効理由1」の「原告の主張」欄記載の構\成a〜gを有するとして、これを引用発明(甲7発明)とし、本件各発明は甲7発明の構成を全て備える、本件各発明の構\成要件Fが甲7発明の構成fと相違するとしても、バー10を用いてトレーニングすることは可能\であるから相違点は軽微である旨主張する。しかし、甲7公報の記載から、バー10のみを分離して独立の運動器具としての発明と理解することは相当でない。すなわち、前記(2)イ認定のとおり、甲7 公報には、従来のバーベル機材およびダンベル機材において、比較的長いバーを 有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装置は本格的 なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点や、三頭筋を 働かせるのに使用されるほとんどの器具が手のひらを上に向けることを必要とす るが、このようなタイプのハンド・ポジションは、特に重い重りを持ち上げなが ら肘を内側で維持することを困難にするとの欠点があったこと、甲7公報記載の 発明は、三頭筋をエクササイズするためのウエイトリフティング装置を提供する ことにより従来技術の短所を解消するものであり、バランスをとることの問題を 有意に低減する中央に位置する重りプレート固定手段を有し、複数のハンド・ポ ジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を開示すること、装置は、バー・ハンドル組立体および支持クランプ組立体である2つの主要構\成要素を有すること、重り支持プラットフォーム26および解除可能なクランプ手段28が支持クランプ組立体を形成し、バー10が、中央に位置する重り支持プラットフォーム26に固定されること、プラットフォーム26をバー10に取り付けることが、\n好適には、故障を引き起こす可能性を排除するために、溶接によって達成されること、重り又は重りプレート40をプラットフォーム26上で位置決めするのに直立ポスト38が使用され、クランプ部材28がポスト38の周りで固定的に留\nめられ、それにより重りをプラットフォーム26上に固着することが記載される。 これらの記載からすると、甲7公報記載の発明において、重り支持プラットフォー ム26を含む支持クランプ組立体はバー10とともに装置の主要構成要素であり、バー10は溶接等の方法によりプラットフォーム26に固定され、バー10は重り支持プラットフォーム26等と物理的に一体であることが前提となっていると\nいえる。また、甲7公報記載の発明は、従来のバーベル機材等における、比較的 長いバーを有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装 置は本格的なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点を 解消するため、バランスをとることの問題を有意に低減する中央に位置する重り プレート固定手段を有し、複数のハンド・ポジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を提供するものであり、バー10は支持クランプ組立体と一体となって作用効果を奏するといえる。そして、バー10のみが独立してウエイトリフティ\nング・エクササイズにおける運動器具としての作用効果を発揮することは、甲7 公報には記載も示唆もされていない。
以上によれば、三頭筋運動器具の発明に関する甲7公報の記載から、その部材 の一つにすぎないバー10のみを抽出して独立の運動器具としての引用発明(甲 7発明)と理解することはできず、本件各発明の構成要件Fと甲7発明の構\成f は明らかに相違する。
・・・
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出した甲7発明を主引用発明と して、公知技術(甲8、9)を適用することにより、本件各発明は、当業者が容 易に発明することができる旨主張する。 しかし、前記(3)アのとおり、甲7公報の記載から、部材の一つにすぎないバー 10のみを分離して独立の運動器具の発明と理解することは相当でなく、トレー ニング器具の発明である本件各発明とは技術的内容・性質の異なる甲7発明を主 引用発明として、本件各発明が進歩性を欠如する旨の原告の主張は認められない。
イ 前記(3)ウのとおり、被告は、本件各発明と甲7発明(被告)を対比する と、少なくとも、相違点1)及び2)が相違する旨主張するところ、原告は、被告主 張の相違点を前提としても、相違点に係る本件各発明の構成は、公知技術(甲8、9)から容易想到である旨主張するので、以下、検討する。
ウ 容易想到性の検討
(ア) 相違点1)(本件各発明は、重り支持部分を備えないのに対し、甲7発明 (被告)は、重り支持部分を備える点)について
前記(3)アのとおり、甲7公報記載の発明は、ウエイトリフティング装置とし て、バー10に重り支持部分(重り支持プラットフォーム26、クランプ部材2 8、直立ポスト38)を固定し、重り又は重りプレート40を重り支持プラット フォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー 10は、重り支持プラットフォーム26等により形成される支持クランプ組立体 と物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運 動器具としての作用効果を発揮することは、甲7公報に記載も示唆もされていな いから、甲7公報に接した当業者に、甲7公報記載の発明から重り支持部分を取 り外す動機付けがあるとは考え難い。したがって、相違点1)に係る本件各発明の 構成は甲7発明(被告)から容易想到であるとはいえない。
これに対し、原告は、甲7公報の明細書に溶接前の単独のバー10が記載され ていること、甲7発明(被告)は重りのついた状態でも本件各発明と同様の作用 効果を奏すること、バー10の状態でも一定の三頭筋エクササイズの効果は得ら れるところ、よりエクササイズの幅を広げる目的で甲7発明(被告)から重り支 持部分を取り外す動機付けはあることを根拠として、甲7発明(被告)から重り 支持部分を取り外すことは容易想到である旨主張する。しかし、前示のとおり、 甲7公報には、バー10が単独で運動器具としての作用効果を奏することは何ら 開示されていない。仮に甲7発明(被告)が本件各発明と同様の作用効果を奏す るとして、甲7発明(被告)は、ウエイトリフティング装置として、バー10に 固定された重り支持部分を構成する重り支持プラットフォーム26に重り又は重りプレート40を固着して使用することを前提とした発明であるから、よりエクササイズの幅を広げる目的で重りを取り外して使用する可能\性はあるとしても、重り支持部分全体を取り外す動機付けがあるとはいえない。したがって、原告の主張は採用できない。
・・・
以上より、原告が主張する無効理由1〜3はいずれも認められず、本件各発明 について無効原因があるとはいえない。したがって、被告が本件特許権に基づい て行った本件申立てが違法なものであるとは認められず、本件申\立てについて、 不法行為は成立しない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10009  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、異議申立の特許取り消し決定について、判断を誤っているとして取り消しました。

本件決定は、相違点1に関し、1)甲2技術的事項に接した当業者であれば、 「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1 発明において、「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識 するといえる、2)甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ ーディスク16a」と、「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ とで、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14 に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、「複数本数の容器弁付 き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当 業者であれば普通に予測し得たことである、3)本件明細書の【0025】の 記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一 の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意 味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器 弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が 重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の 開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想 到し得たことである、4)甲7及び8の記載事項からみて、「複数の消火ガス容 器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設 備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の 容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開 弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったといえる、5)甲2技術的事項に接 した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた 「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定 事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨\n判断した。 しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。
ア 1)及び2)について
・・・
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器 弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異\nなること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋 の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲 1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用 することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用 いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって、本件決定の1)及び2)の判断は誤りである。
イ 3)について
本件決定の2)の判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の 開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」 とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容 器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の 容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る 本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと\n解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不 十分である。\n
ウ 4)について
仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス 容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消 火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の 容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容 器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備 の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。
エ まとめ
以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基 づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを\n容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異 なる本件決定の判断は誤りである。

◆判決本文

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令和4(ワ)1848  特許権移転登録手続  特許権  民事訴訟 令和5年2月6日  大阪地方裁判所

 在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有しているとして、移転登録を求めましたが、裁判所はこれを認めませんでした。

原告は、訴状とともに提出した令和4年3月4日付証拠説明書において、甲 12規程の作成年月日を平成26年1月1日としていたこと、被告は、令和4 年8月9日付準備書面において、甲12規程の存在を否認し、その根拠として、 甲12規程に用いられる「取得」「相当の利益」との文言は、平成27年7月に 公布され、平成28年4月1日に施行された特許法等の一部を改正する法律 (平成27年法律第55号)で初めて採用されたものであって、平成26年1 月1日時点でこのような文言が使われた規程が存したのは極めて不自然であ ると指摘したこと、原告は、平成4年9月20日付け原告第1準備書面におい て、前記第3「2」【原告の主張】のとおり主張したこと、はいずれも当裁判所 に顕著である。
(2) 本件において、甲12規程は、原告が本件各発明に係る特許を受ける権利 を原始取得する根拠として不可欠のものであって、訴え提起の段階で、甲12 規程が適用されるかどうかについては、その制定過程及び本件各発明の完成時 期や被告代表者の退職時期との関係で慎重に検討されるはずのものである。し\nかも、この経緯は、専ら原告の領域内の事情であり、かかる検討を阻むものは ない。 しかるところ、原告は、当初甲12規程の作成日時を平成26年1月1日と 特定したにもかかわらず、被告から文言の不自然さを指摘されるや、その制定 日は平成30年9月3日であって、平成26年1月1日にさかのぼって適用さ れると主張したものであって、このように主張が変遷した経緯自体、被告代表\n者が原告に在職中に甲12規程が制定されたことを疑わしめるに十分である。\nまた、そのように作成されたのであれば、甲12規程は、制定日を明らかにし た上、同規程の適用を定めた10条は「さかのぼって適用する」と表現するの\nが自然と思われるが、同条にはそのような遡及適用の趣旨は記載されていない し、制定日も書かれていない。遡及の限度が平成26年1月1日である根拠も 何ら示されていない。
加えて、甲12規程が、被告代表者の原告退職時期に近接した平成30年9\n月3日に真実制定されたというのであれば、原告と被告代表者間で当然に退職\n時に本件各発明に係る特許を受ける権利の帰属について協議ないし確認がさ れるものと考えられる。しかし、原告は、被告代表者が原告を退職した後本件\n各発明について特許出願がされたことを知った後も、本件各特許権に係る発明 の実施品と思料されるボックス容器に関する大王製紙、原告、被告の取引に継 続して関与していたことを自認しているのであって、かかる協議や確認がされ たこともうかがえないどころか、被告が権利者であることを前提とした行動を とっているものというべきである。
(3) その他原告の提出する証拠等も、前記認定の経緯に照らすと採用の限りで なく、結局、平成30年9月3日当時を含め、被告代表者が原告に在職する期\n間中に、甲12規程が適法に制定されたと認めるに足りる証拠はないといわざ るをえない。
2 前記1によると、争点1に関わらず、原告が甲12規程により本件各発明に係 る特許を受ける権利を取得したとは認められない。本件各発明に適用される就業 規則(乙1)によっても、原告が特許を受ける権利を承継したとは認められない し、また当該承継の事実を被告に対抗できない(特許法34条1項)。 なお、原告は、当裁判所が口頭弁論を終結する予定の期日として指定した令和\n4年12月16日の期日の直前に、同年11月29日付け準備書面により本件各 発明を原始取得させる旨の黙示の合意が存した旨の主張をした。同主張はそもそ も時機に遅れた攻撃防御方法というべきであるが、前判示のとおり、本件各発明 において適用されるべき就業規則(乙1)が存するところ、かかる明示の合意の ほかに、原告主張の従業員が原告名義の特許出願に異を唱えなかった等の事情か ら特許を受ける権利の移転等に関する黙示の合意が成立する余地はないという べきであって、原告の主張は、それ自体失当である

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令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。

(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』 であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本 件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途 (「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗 鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、 その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した 発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公 知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ れる。 そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗 鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である 橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前 腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性 である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の 「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全 身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、 エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果 は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海 綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識 するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業 者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生 じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他 の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の 骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨 粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効 果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内 に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何 らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用 に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技 術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作 用に関して上記の相違があると把握することはできない。 そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与 する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作 用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部 骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。 そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の 用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用 途と客観的に区別することができる旨主張する。 しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体 的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部 骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の 用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、 動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強 力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増 加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加 させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目 としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行 中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨 強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位 と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技 術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑 制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1 文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前 腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制 するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨 粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患 者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、 従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕 部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、 既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制 が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較 薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、 非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール 投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、 エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1. 07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定 及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投 与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、 すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが 判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記 載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知 られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、 エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する 点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬 剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に 求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n

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◆令和2(ワ)13326

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令和3(ワ)1390 特許権侵害差止請求権等不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月30日  東京地方裁判所

 後発医薬品メーカが、特許権者である先発メーカに対して損害賠償不存在訴訟を提起しましたが、訴えの利益無しとして却下されました。

本件において、原告は、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」等とする 「抗悪性腫瘍剤ハラヴェン静注1mg<エリブリンメシル酸塩製剤>」であ る被告医薬品の後発医薬品として、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」 とする「エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」」という販売名の原告 医薬品(別紙物件目録)の製造販売についての承認の申請をし、現在、原告\n医薬品の製造販売を予定して、製造販売についての承認の申\請及びGMP適 合性検査の申請のための原告医薬品の製造を行っている(前記第2の1(5)ア、 ウ)。
もっとも、二課長通知等は、後発医薬品(既に製造販売についての承 認を与えられている医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が\n同一性を有すると認められる医薬品)の製造販売について、先発医薬品の有 効成分に特許が存在する場合や先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存\n在する場合に、厚生労働大臣の承認はしない方針であるとし(前記第2の2 (4)ウ)、また、後発医薬品の薬価基準への収載についても、特許係争のおそ れがあると思われる品目の収載を希望する場合は、事前に特許権者である先 発医薬品製造販売業者と調整を行い、将来も含めて医薬品の安定供給が可能\nと思われる品目についてのみ収載手続をとる方針であるとしている(同エ)。 また、被告エーザイRDが特許権者である本件各特許が存在する。本件各特 許権を有する。原告は、これらによれば、本件において、被告医薬品の後発 医薬品である原告医薬品の製造販売について厚生労働大臣の承認がされるこ とはないと主張する(前記第2の2(1)(原告の主張))。
これらの状況と本件各証拠によっては、近い将来において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ、更に原告医薬品の薬価基準への収載がされる蓋 然性が高いことを認めるには足りない。原告が、医薬品医療機器等法等の定 め等(同1(1)、(4)ア、イ、カ)を前提として医薬品等の製造、販売等を目的 とする会社であり、上記法規等の定めに則った事業活動をすると推認される ことなどを考慮すると、近い将来において、原告が、製造販売についての承 認の申請及びGMP適合性検査の申\請のための原告医薬品の製造を除き、原 告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。
(3) 被告らは、原告が現に行っている製造販売についての承認の申請及びGM\nP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造については、本件各特許権に\n基づく主張をしておらず、今後、本件各特許権に基づく主張をする意思もな いとし、現在、本件各特許権は侵害されていないから、被告らに損害は生じ ていないと主張する(前記第2の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(2)
(被告らの主張))。
したがって、承認の申請等のための原告医薬品の製造に関して、被告エー\nザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に 対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存 在しないことについて、現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利 又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。
(4) 被告らは、原告が、現在、承認の申請等のための製造(前記(3))を除き原 告医薬品の製造販売をしておらず、そもそも製造販売に必要な厚生労働大臣 の承認を受けていないことから、本件各特許権の侵害もそのおそれもないと して、現在、原告に対し本件各特許権に基づく主張をしていない(前記第2 の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(3)(被告らの主張))。 被告らは、令和3年5月に、原告から原告医薬品の製造販売について本件 各特許権を行使しないことの確認をするよう求める旨の通知を受け、原告に 対し本件各特許権を行使する可能性がある旨の本件回答をした(前記第2の\n1(5)ア)。もっとも、原告と被告らの間にはそれ以前に何らのやり取りもな く、被告らにおいて、原告が原告医薬品の製造販売をした場合に本件各特許 権に基づく権利行使をしないと直ちに確約することはできなかったことから、 上記のような回答をしたものと認められ(乙3)、本件回答をもって、被告 らが、現在の本件各特許権による差止請求権や不法行為による損害賠償請求 権の不存在を争っているとは認められない。
また、原告は、現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働 大臣の承認を条件とする本件各特許権による差止請求権等が発生し得るから、 被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権等の不存在 確認請求には訴えの利益がある旨も主張する。しかし、原告医薬品の将来に おける製造販売について、被告エーザイRDの現在の本件各特許権による差 止請求権は、本件各特許権の侵害又は侵害のおそれを理由として発生し得る ものであり、被告らの本件各特許権の侵害を理由とする現在の不法行為によ る損害賠償請求権は、本件各特許権の侵害及び損害の発生等を理由として発 生し得るものである。そして、上記に記載した本件における状況に照らせば、 現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ れば上記差止請求権等の権利を取得し得るという地位を被告らが有している と認めるに足りず、上記差止請求権等は、原告が原告医薬品の製造販売につ いての厚生労働大臣の承認を受けることを条件として発生しているものとは 解されない。
これらのことを考慮すると、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許 権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由と する不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて、現に、当事 者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存 在しているとは認めるに足りない。 なお、仮に、二課長通知等によれば本件各特許が存在するために原告医薬 品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされることがないとしても、 そのことによって、原告と被告らとの間に前記各請求権の存否に係る法律上 の紛争が存在することになるものとは解されない。
(5) 以上によれば、原告の被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権によ る差止請求権の不存在確認請求及び被告らに対する本件各特許権の侵害を理 由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求について、現に、原告の法 律的地位に危険又は不安が存在するとは認められず、これらの各訴えに、即 時確定の利益があるとは認められない。

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平成30(ネ)10077  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。

我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2 に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。 もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。 そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。 また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。

◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n 今回侵害となった特許4734471 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja 1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja

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令和2(ワ)13326  特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n

ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文 献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 (構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな る。 イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活 で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕 部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、 骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療 することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、 すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折 が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた と認められる(前記2(1)イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折 を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨 粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新 たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、 乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、 そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作 用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、 一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標 になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者 に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用 途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認 められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で 起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想 定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常 識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類 が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与 されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途 は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑 制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書 で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部 の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著 ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学 上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折 抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性 もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好 とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活 で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効 であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を 前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大 腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕 部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠 如しているといえる。

◆判決本文

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令和2(ネ)10057 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ICチップのメモリの書換えを技術的に困難にする措置をプリンターカートリッジに採用することが、独禁法が禁ずる行為に該当するのかが争われました。1審は、独禁法違反(権利濫用)としましたが、知財高裁は、独禁法違反ではなく、約470万円の損害賠償を認めました。

 被控訴人らは,控訴人の本件請求は,控訴人が,原告電子部品(ICチップ) のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必 要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取 り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(IC チップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイク ル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思によ り妨げ,そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を 潜脱し,また,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表\n示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で, 純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,リサイクル事業者である被 控訴人らの取引を不当に妨害しているから,公正な競争を阻害するものであり, 競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6 号,一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると,控訴人が,被控訴人 らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠 償請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない旨主張するので, 以下において判断する。
(2) 被控訴人ら主張の本件書換制限措置による競争上の不利益について
被控訴人らは,1)トナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無\nを製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格 が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品と同等ではな\nい「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない,2)ICチップを 書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」と\nなりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少な くなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーが\nなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくな\nるという不便をユーザーが被ることになり,その結果,リサイクル事業者に 大きな不利益を与えるものである,3)残量表示がされず,「?」が表\示され る製品がユーザーに受け入れられないことは,被控訴人らの実施した聴き取 り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされな\nいことは,官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1 ないし4)ことからも明らかであり,このことは,本件アンケート調査(乙 70)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる,4) 本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイク ルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があり, 実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困\n難である,5)したがって,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控 訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものである旨主張するので,以 下において判断する。
・・・
以上のとおり,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された 純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナー を再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品\nが装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表\示され,残量表\n示がされず,予告表\示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プ リンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる 印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正\n品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすもので\nはないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示\nに「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表\示がされるので, 再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,\nユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,\nユーザーは,残量表示がされないことについて予\備のトナーをあらかじめ用 意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大き いものとはいえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品\nとの上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも\n存在するものと認められる。また,前記認定のとおり,残量表示がされるこ\nとが公的入札の条件であるとはいえない。
一方,リサイクル事業者においては,残量表示がされないことについてユ\nーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため残量表示\nがされないが,印刷はできることを表示することによって対応できること,\n電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属 さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各 特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能\であり,●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からすると, 原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置に よるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。 次に,控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品 に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質 等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量\n表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除した\nいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略とし て,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプ リンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載され た原告電子部品を選択した旨を述べていること(甲75,76),その理由に は,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回 避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人\nが本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品 に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品 のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることは できない。
上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制 限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相 応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使 がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは 認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び 必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品 を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成 立を妨げたものと認めることはできない。 以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人 が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請 求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触す るものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」 を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないか ら,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)40337

上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。
そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

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令和3(ネ)10072  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁1部は、共同侵害あり、無効理由なしとした1審判断を維持しました。

 前記(1)の認定事実によれば、1)控訴人アンカー及び控訴人ジョウズは、 いずれも中国法人の中国アンカー社を中核企業とする国際的な企業グル ープ「Ankerグループ」の日本法人であり、控訴人ジョウズの全株 式は、中国アンカー社の完全子会社である POWER MOBILE LIFE、 LLC が 保有していること、2)控訴人ジョウズの設立当時(平成30年2月28 日)の代表取締役は、控訴人アンカーの代表\取締役と同一人(A)であ ったこと、3)控訴人ジョウズの本店所在地のオフィスの利用契約は、控 訴人アンカーが契約し、同年4月16日、控訴人ジョウズに契約上の地 位が譲渡されたものであり、かつ、利用契約上の利用者はA1名のみで あること、4)令和元年9月時点の控訴人ジョウズの従業員数は2名であ り、そのうちの1名のBは、平成30年4月から平成31年4月末まで 控訴人アンカーに在籍し、令和元年5月から控訴人ジョウズに在籍して いたこと、5)控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、控訴人ジョウズ設立 日の翌日の平成30年3月1日付けで、控訴人ジョウズが控訴人アンカ ーに対し、控訴人ジョウズの喫煙具製品の開発補助業務及びそれに付随 する一切の業務、喫煙具製品のマーケティング及びそれに付随する一切 の業務、会計事務及び経営管理に関する一切の業務、その他控訴人ジョ ウズと控訴人アンカーの協議の上決定された業務の全部又は一部を委託 する旨の本件業務委託契約を締結したこと、6)被告製品は、同年6月以 降、控訴人ジョウズのウェブサイトで販売が開始され、同年11月当時 には、アマゾンサイト及び楽天市場のサイトで、控訴人ジョウズを販売 者として販売されており、また、被告製品の輸入手続は、控訴人ジョウ ズを輸入者として行われたこと(乙14、37)、7)アマゾンサイトでは、 被告商品について、「米国・日本・欧州のEC市場において、スマートフ ォン・タブレット関連製品でトップクラスの販売実績を誇る『Anke r』のサポートのもと、精密かつ均一な温度管理と・・・最適な加熱環境を 作り出し、たばこ本来の香りと味を忠実に再現」などと紹介され(甲4 の1、5の1)、また、Ankerグループのオフィシャルストアの海外 のウェブサイトでは、被告製品が「Anker Jouz 20」など として販売されていたこと(甲14)、8)被告製品1及び2の記者発表に\n関する同年6月20日付け記事等(甲13の1ないし4)には、「Ank erグループが技術的にサポートしたことから、アンカー・ジャパンの A社長がジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと掲載され、\n被告製品3の記者発表に関する2019年(平成31年)4月9日付け\n記事(甲32)には、当時控訴人アンカーの従業員であったBが「ジョ ウズ・ジャパン株式会社事業戦略本部マネジャー」との肩書きでプレゼ ンテーションを行ったことが掲載されたことが認められる。
上記認定の控訴人ジョウズと控訴人アンカーの人的及び物的な結合関 係(1)ないし4))、控訴人ジョウズの控訴人アンカーに対する本件業務委 託契約に基づく委託業務の範囲が控訴人ジョウズの業務全般にわたって いること(5))、被告製品の広告宣伝の態様(7)、8))その他前記(1)認定 の諸事情を総合考慮すると、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告 製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから、被 告製品の販売及びその輸入手続が控訴人ジョウズ名義で行われていたこ と(6))を勘案しても、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、平成30 年6月以降、共同して被告製品の販売等を行っていたものと認めるのが 相当である。
そして、被告製品は、被告方法の使用に用いる物であって、本件発明 1による「課題の解決に不可欠なもの」に該当することは、前記のとお りであるところ、控訴人らは、遅くとも、本件仮処分命令の送達により、 本件発明1が特許発明であること及び被告製品が方法の発明である本件 発明1の実施に用いられることを知ったものと認められるから、控訴人 らによる被告製品の上記販売等の行為は、本件発明2に係る本件特許権 の侵害(直接侵害)に該当するとともに、本件発明1に係る本件特許権 の間接侵害(特許法101条5号)に該当するものと認められる。 したがって、控訴人らについて本件特許権侵害の共同不法行為が成立 するものと認められる。
・・・
そこで検討するに、本件業務委託契約書には、控訴人ジョウズは控訴人 アンカーに対し業務委託料として毎月100万円に消費税相当額を加算 した額を支払う旨の条項(5条1項)があり、同条項によれば、控訴人ア ンカーの業務委託料は固定額であるといえるが、一方で、前記(2)認定のと おり、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊 密な一体関係があるものと認められるから、控訴人アンカーの業務委託料 が固定額であるからといって、控訴人アンカーが被告製品の販売等に関す る業務を一切行っていないということはできない。

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令和1(ワ)25152  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  東京地方裁判所

 ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。 なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。

2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された 国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同 14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止 め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日 本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律 関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷 判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末 に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権 を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、 権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠 償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。 そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3 が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版) の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」 があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討 する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年 7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12 年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに 限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当 たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ れぞれ相当する。 また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日 本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。 そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存 在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該 当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降 の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に 存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在 するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告 FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外 の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大 部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国 内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、 被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該 当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止 権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲 を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。 また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか 否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1 Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、 日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち 「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記 ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国 内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現 されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成 要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提 供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存 在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで ある。 さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用 可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、 被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全 証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以 降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責 任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本 国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな い。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明 1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」 を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被 告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。

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令和2(ネ)10059  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟__全文__ 令和4年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、アルギニンは,その後の発酵処理工程で初めて混合されるものであるから技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁は、属すると判断しました。1審判決後に訂正審判がなされ、これが確定しています。控訴人は訂正発明のみについての判断を求めました。争点は104条の推定規定の出願日が優先権基礎出願日が適用されるのか、推定が覆滅されるか等です。

 以上によると,基礎出願A,Bの上記記載に接した当業者は,上記本件優先日当 時の技術常識とを考え併せ,「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類を含む原料」を発酵 原料とした場合でも,ラクトコッカス20-92株のようなエクオール及びオルニ チンの産生能力を有する微生物によって,発酵原料中の「ダイゼイン類」がアルギ\nニンと共に代謝されるようにすることにより,発酵物の乾燥重量1g当たり,8m g以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用い られる粉末状の発酵物を生成することが可能であると認識することができたという\nべきであるから,本件訂正発明を基礎出願A,Bから読み取ることができるものと 認められる。 したがって,本件訂正発明は,少なくとも基礎出願A,Bに記載されていたか, 記載されていたに等しい発明であると認められ,本件訂正発明は,基礎出願A,B に基づく優先権主張の効果を享受できるというべきである。 そうすると,本件特許は,特許法104条の規定の適用については,本件優先日 である平成19年6月13日に出願されたものとみなされるから,本件訂正発明生 産物が同条の特許出願前に日本国内において「公然知られた物でない」か否かを検 討するに当たり,本件優先日以降に公開された乙B3(国際公開第2007/06 6655号。国際公開日2007(平成19)年6月14日)を考慮することはで きない。
ウ 「公然知られた物でない」に当たるか
その物が特許法104条の「公然知られた」物に当たるといえるには,基準時に おいて,少なくとも当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られた 事実が存することを有するというべきところ,本件訂正発明生産物が,本件優先日 当時に公知であった乙B16,乙B24に記載されていたとはいえず,また,乙B 16又は乙B24から本件訂正発明を容易に想到することができないことは後記3 (4),(6)のとおりである。そうすると,本件優先日時点において,乙B16又は乙 B24に触れた当業者が本件訂正発明生産物を製造する手がかりが得られたという ことはできない。 また,被控訴人らは,本件訂正発明生産物は,乙B16の「実施例1」の「乾燥 重量1g当たり,1mg−3mgのエクオールが生成」している発酵物「992m g」に栄養強化添加物である「97.48%」の純度のオルニチン(乙B67の国 際公開公報(WO2006/051940))を「8mg」加えたものであるにすぎ ないから,「公然知られた物」であると主張するが,前記アのとおり,本件訂正発明 生産物は,「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物であって,前記発 酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール が生成され,食品素材として用いられる物」であるから,乙B16に乙B67を組 み合わせたとしても,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び 1mg以上のエクオールが生成された」物に当たらないから,上記被控訴人らの主 張は採用できない。
なお,被控訴人らは,本件発明による生産物について,乙B4により公然知られ た物に当たる旨の主張をしていたので念のため検討するに,乙B4に本件訂正発明 が記載されていたとはいえず,また,乙B4から本件訂正発明を容易に想到できた ものではないことは後記3(3)のとおりであり,乙B4によっても当業者が本件訂 正発明生産物を製造する手がかりが得られたということはできない。 したがって,本件訂正発明生産物は,本件優先日当時,「公然知られた物でない」 といえる。
エ 被控訴人方法の構成について\n
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が原判決別紙「被告方法目録」記載の被 控訴人方法であることについて自白が成立しているから,特許法104条の推定は 働かないと主張する。そして,令和元年6月7日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,当事者双方が,被控訴人方法の構成について原判決別紙「被告方法目録」\n記載のとおりである旨陳述している(当裁判所に顕著)。 原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴人方法と,当審で控訴人 が主張する被控訴人方法とでは,前者における「α3 前記酵素処理工程を経て得 られたダイゼインを含む処理液と,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,」との構成部\n分を,後者では「α3−1 前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを,アル ギニンを含むその他の成分と混合して培地とした上,これを滅菌処理して滅菌済培 地とし,」と「α3−2 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●を同滅菌済培地に植菌して発酵処理をし,」との構成に変更するというものであ\nるところ,同α3−1及びα3−2の内容は,α3の内容を更に具体化・詳細化し ようとするものであり,また,控訴人は,原判決における本件訂正発明に係るクレ ーム解釈に基づく場合の構成としてα3−1及びα3−2とすべきと主張している\nものであるから,まずは,原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴 人方法(α1〜6によるものであって,α3をα3−1及びα3−2に変更しない もの)の構成について検討を進めることとする。\n
オ 推定の覆滅について
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が被控訴人方法であり,これが本件訂正 発明の方法とは異なるから,本件訂正発明の方法を使用していないとの主張立証を しているものと解されるから,以下,被控訴人方法(まずは,α1〜6によるもの であって,α3をα3−1及びα3−2に変更しないもの)が本件訂正発明の方法 とは異なるものであるか検討する。
・・・
c 原判決は,構成α3の「アルギニンを含む培養液」は,本件発明の構\成要件 A−2,A−3の「アルギニンを含む発酵原料」に当たらず,被控訴人方法は本件 発明のA−2,A−3を充足しないと判断したが,本件訂正発明においても,構成\n要件B’−1に「アルギニンを含む発酵原料」とあるので,α3の「アルギニンを 含む培養液」が構成要件B’−1の「アルギニンを含む発酵原料」に当たるか検討\nする。 構成要件B’−1は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と\nいうものであるが,これは,構成要件A’においてダイゼイン類にアルギニンを添\n加したものを指すと解するのが自然である。そして,上記bのとおり,被控訴人方 法の構成α3においては,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養\n液を,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と共に混合して発 酵処理をしているところ,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養 液の混合物を,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能\力を有する微生物」であ る●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●で「発酵処理」してい るから,上記混合物は発酵原料に当たるというべきである。そうすると,同混合物 は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」に当たるから,被控訴人 らの主張する被控訴人方法を前提としても,被控訴人原料の生産方法は,本件訂正 発明の構成要件B’−1を充足し,構\成要件B’−1の発酵原料を微生物で発酵処 理することを内容とする構成要件B’−2も充足する。\n
この点,原判決は,本件発明について,アルギニンは,発酵処理をする前の発酵 原料の調製をする段階において発酵原料に含まれているものであり,構成α3の「ダ\nイゼインを含む処理液」が発酵原料に当たり,「アルギニンを含む培養液」は発酵原 料ではなく,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分に当たるものと解した上で, 被控訴人方法は発酵処理段階においてアルギニンが初めて現れるから本件発明の構\n成要件を充足しないと判断した。
しかしながら,本件特許請求の範囲及び本件明細書をみても,ダイゼイン類にア ルギニンを添加した後に微生物を加えることと,ダイゼイン類とアルギニンと微生 物を同時に混合することとの間に何らかの差異があることをうかがわせる記載はな い。また,本件明細書をみると,【0091】に「発酵原料(発酵に供される原料)」 との記載があるものの,【0093】には「ダイゼイン類を含む発酵原料としては, ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」と発酵原料に特段の制限 がないものとされており,そのほかには発酵原料を定義付ける記載はない。前記1 (2)のとおり,本件訂正発明においてオルニチン産生能力及びエクオール産生能\力 を有する微生物による発酵に供されるのは,「ダイゼイン類」と「アルギニン」であ り,ダイゼイン類にアルギニンが添加されたのちに微生物が添加されたとしても, ダイゼイン類に,アルギニンと微生物が同時に添加されたとしても,アルギニンが 発酵に供されることに変わりがない。そうすると,被控訴人方法におけるアルギニ ンが,発酵原料ではないというべき理由がない。
原判決は,本件明細書の【0033】の「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は, 発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される」との記載及び【0036】の「大豆 胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促 進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の 窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無 機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産 生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を\n使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得 られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの 添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,ア ルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。」と発酵原料となる大豆胚軸には, 必要に応じて,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分を添加してもよいと記載さ れていることから,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分は,発酵原料とは別の 成分として扱われていると認定したが,ダイゼイン類を含む「大豆胚軸」が発酵原 料に当たることと,ダイゼイン類を含む処理液とアルギニンを含む培養液のいずれ もが発酵原料に当たると考えることは何ら矛盾するものではない。また,【0036】 の記載も,大豆胚軸にアルギニンを添加したものを発酵原料とみなすことと矛盾す るものではない。したがって,原判決の判断には誤りがあるというほかない。 そうすると,α3の「アルギニンを含む培養液」は,構成要件B’−1の「アル\nギニンを含む発酵原料」に当たると認めるのが相当であるから,被控訴人方法が構\n成要件A’,B’−1,B’−2を充足しないことが立証されているとはいえない。
・・・
(ウ) 以上のとおり,被控訴人原料の生産に本件訂正発明の方法を使用していない ことが立証されているとはいえないから,特許法104条の推定が覆滅されたと認 めることはできない。

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令和3(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月30日  知的財産高等裁判所

 延長登録拒絶審決が維持されました。争点は 本件発明における「緩衝剤の量」です。

 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったた めに特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とする ものであるから,本件医薬品の製造販売が,本件各発明の実施に当たらないのであ れば,本件処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることがで きなかったということはできない。 ところで,本件処分は,オキサリプラチンを有効成分とする「エルプラット点滴 静注液50mg」(本件医薬品)に係る本件処分に係る医薬品製造販売承認事項一部 変更承認申請当時(平成26年10月3日。甲2・参考資料7参照)の法14条9\n項に規定する医薬品の製造販売についての承認である。原告は,本件医薬品はオキ サリプラチンと注射用水からなり,本件医薬品中でオキサリプラチンが水と反応し て遊離したシュウ酸を緩衝剤とする旨主張している。 そこで,以下,本件医薬品の製造販売行為が,本件各発明の実施に当たるか検討 する。
3 本件各発明の「緩衝剤の量」について
(1) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1(2)のとおりであり,本 件発明1〜9及び15〜17については,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の 緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体である\n水,を包含する「安定オキサリプラチン溶液組成物」に係るものであり,本件発明 10は,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのア ルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体,を包含する水性溶液である「オキサリ\nプラチン溶液組成物」に関して,緩衝剤を溶液に付加することを含む安定化方法に 係る発明,本件発明11〜14は,本件発明1〜9のいずれかの組成物についての 担体(水)と緩衝剤を混合することを含む製造方法に係る発明である。
(2) 原告は本件審決における「緩衝剤の量」の認定に誤りがあると主張するので 検討するに,上記(1)の特許請求の範囲の記載からすると,「緩衝剤」は,溶液に添 加したり,混合することを前提とするものと解するのが自然である。また,上記の 通り,本件発明1〜9及び15〜17が,オキサリプラチン,緩衝剤及び担体を含 む溶液組成物に係るものであるところ,オキサリプラチンを水に溶解させたときに 生じるシュウ酸を緩衝剤と称し,オキサリプラチンや水とは別個の要素として把握 するのは不自然である。さらに,「緩衝剤」の「剤」は,「各種の薬を調合すること。 また,その薬」(広辞苑〔第6版〕)を意味するから,この一般的な意義に従うと, 「緩衝剤」は,「緩衝作用を有する薬」を意味すると解される。そうすると,特許請 求の範囲の記載からは,本件各発明における「緩衝剤」に,オキサリプラチンから 遊離したシュウ酸は含まれないと解するのが相当である。
(3) 次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して 解釈するものとされる(特許法70条2項)ので,本件明細書(甲1)の記載をみ ると,前記1(1)のとおり,「緩衝剤という用語」について,「オキサリプラチン溶液 を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンお よびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあら ゆる酸性または塩基性剤を意味する。」(【0022】)として,これを定義付ける記 載があり,上記の「剤」の一般的意義に照らしても,「緩衝剤」について,「緩衝作 用を有する薬」を意味するものと理解することは,本件明細書の記載にも整合する。 なお,原告は,本件において,本件明細書の記載を考慮すべきではない旨主張し ているが,特許法70条2項は一般的に特許発明の技術的範囲を定める場面に適用 され,特許侵害訴訟における充足性を検討する場面にのみ適用されるものではない から,原告の上記主張は採用できない。また,原告は,オキサリプラチンから遊離 したシュウ酸が緩衝剤としての役割を果たすと主張するが,同主張は本件特許の特 許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に整合していないし,一般に,有効成分 である化合物が水溶液中で分解した場合に,当該分解物を「緩衝剤」と称するとい うような技術常識があると認めるべき証拠もない。
(4) そして,前記1(2)のとおり,本件各発明が,オキサリプラチンと水からなる 従来技術よりも安定したオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする ものであることに加え,本件明細書には,緩衝剤としてシュウ酸が二水和物として 付加される実施例1〜17が記載され,オキサリプラチン及び水のみからなる実施 例18は従来技術である比較例とされていることなどの本件明細書のその余の記載 を考慮しても,「緩衝剤」にオキサリプラチンから遊離したシュウ酸を含むと認める ことはできない。そうすると,「緩衝剤の量」に,オキサリプラチンから遊離したシ ュウ酸の量を含めるべきであるという原告の主張を採用することはできず,本件発 明1の「緩衝剤の量」について,「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサ リプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶 液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は, 当該『緩衝剤の量』に含まれない」とする本件審決の認定に誤りはない。
4 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かに ついて
(1) 証拠(甲9)によると,本件医薬品中のシュウ酸モル濃度は,製造直後にお いて5×10-5M,36箇月保存後において8×10-5Mであることが認められる ものの,前記3のとおり,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経 時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,本件各発明における「緩衝剤の量」 に含まれないから,本件医薬品のシュウ酸モル濃度から直ちに,本件医薬品が本件 各発明の「緩衝剤の量」の範囲の緩衝剤を含有するということはできない。そして, 証拠(甲3,10)によると,本件医薬品は,オキサリプラチンと注射用水のみを 成分とし,その他の添加物はないことが認められるから,本件各発明における「緩 衝剤」すなわち「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び 担体に添加,混合された緩衝剤」を含有しないというほかないから,本件医薬品は, 本件各発明における「緩衝剤の量」の範囲を満たす量の「緩衝剤」を含有しない。
(2) そうすると,本件医薬品を製造・販売することは,本件各発明の実施に当た らないから,本件医薬品には緩衝剤が外から添加されていないとして,特許発明の 実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとした本件審決の判 断に誤りはない。

◆判決本文

延長対象の特許が同じ事件です。

◆令和3(行ケ)10021

◆令和3(行ケ)10020

◆令和3(行ケ)10019

◆令和3(行ケ)10018

◆令和3(行ケ)10017

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令和2(ワ)3474  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月19日  大阪地方裁判所

 一部については消滅時効により消滅し、102条2項における覆滅は2割と認定され、約70万円の損害賠償が認められました。

ア 本件発明1〜3の効果
本件発明の効果は,センサ保持具の回動を保持するための機械的な連結構造がコンパクトになること(【0014】),接続器を引掛型配線器具に掛着する作業に際して引掛型配線器具の掛着面を視認しやすく,作業が容易になると共に,作業の安全性も向上すること(【0016】),本体カバーを天井面に密着させることが可能になり,美観に優れた取付状態が得られること(【0017】)である。 要するに,本件発明の作用効果は,1)センサの回動構造のコンパクト化,2)引掛型配線器具の掛着面の視認性の向上,3)本体カバーの天井面への密着にあるといえる。
イ 本件発明の貢献の程度等について
本件発明は,センサを用いてランプを自動的に点灯・消灯する天井取付タイプの照明器具に係る発明であるから,主として屋内のトイレ灯などとして使用されることが想定される。そして,本件発明の実施品である照明器具の需要者は,新築建物に照明器具を設置する総合住宅メーカー等の業者と既存の照明器具を交換しようとする個人が想定されるところ,前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。 もっとも,本件発明の効果1)については,センサを回動させることが前提となっているところ,屋内のトイレ灯等を想定すると,一度センサの検知範囲を確認して照明器具を設置してしまえば,後にセンサを回動させて検知範囲を変更する必要が生じることはそれほどないものと考えられるから,センサが取付後も回動可能であることの顧客誘引力は低いものと解される。また,本件発明の効果2)及び3)は,接続器等を引掛型配線器具に掛着した後,別体に形成された本体カバー及びセードを後付けすることによる効果であるため,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果ではなく,例えば,周知技術1によっても実現することができる。そうすると,効果2)及び3)については,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視できるものではない。 さらに,被告は,そのカタログ(乙14)において,被告製品1の特徴として,人感センサ付,クイック点灯,引掛シーリング取付式,本体可動式,点灯照度調節機能付,点灯保持時間調節機能\付などを挙げているものの,掛着面の視認性や本体カバーが後付けであることについては触れていない。 以上によれば,本件発明は,センサの回動構造がコンパクトであるという効果(効果1))によりこれを実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえるものの,その程度は限られているというべきである。また,効果2)及び3)に関しては,本件発明は,本体カバーが後付けであり,外観上の体裁が同程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 効果1)について
本件発明の効果1)は,センサが回動可能であることを前提として,構\造をコンパクトにするものであるが,センサを回動可能としたのは照明器具本体(本体カバー,セード等)により検知範囲が制約されることに対処したものであるから,本体がコンパクトであることによってセンサの検知範囲に制約がなく,センサを回動させる必要がない製品も,本件発明の効果1)と同様の効果を奏しているものといえ,被告製品の競合品に該当するといえる。
証拠(乙11の1〜6,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付シーリングライト製品のうち,乙11の1の型番 LBC56975,乙11の4の型番 OL 013 180,OL 013 120,乙11の5の型番 IG20026C,乙11の6の型番 LE-3837 については,センサ保持具が大きく,本体がコンパクトではないが,その余のセンサ付シーリングライト製品は,いずれも被告製品と同等以下のコンパクトな形状を有しているものと認められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏するものといえる。
(イ) 効果2)について
本件発明の効果2)は,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることを前提とするが,照明器具が一般的な引掛型配線器具に掛着する形式であるか,電気設備工事を要するものであるかは,照明器具を交換しようとする個人の需要者にとっては大きな違いである。また,総合住宅メーカー等の事業者においても,引掛型配線器具を設置するか否かや施工の際の視認性は相応に商品選択に影響があると考えられる。そうすると,各被告製品の競合品といえる前提として,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることが必要である。 証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28の被告指摘に係る製品は,いずれも引掛型配線器具に掛着する照明器具であり,被告製品と同等程度には掛着面が視認しやすく,効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
(ウ) 効果3)について
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付引掛シーリングライト製品のうち,乙21の1〜5の型番 IG20042C(以下「乙21製品」という。),乙23の1の型番 TGS-6119(以下「乙23の1製品」という。),乙23の2の型番 TZGS-6099(以下「乙23の2製品」という。),乙24の1の型番 SCL9NMS-HL(以下「乙24製品」という。),乙28の型番 TN-CLLS-L(以下「乙28製品」という。また,以上を併せて,「乙21製品等」という。)は,いずれも,本体カバーが天井面に密着した外観を有しており,効果3)を奏するものといえる。
(エ) その他
原告は,ランプ交換ができない LED 内蔵型照明器具は,ランプ交換を望む顧客の需要を満たすことができないので,競合品に当たらないと主張する。しかしながら,そのような需要者が存在するのか明らかではなく,そもそも,ランプ交換が可能であるか否かは本件発明の作用効果とは無関係である。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
(オ) 以上より,乙21製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有する製品として,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものとみるのが相当である。 また,証拠(乙21の1,乙22の1,乙23の1,2,乙24の1,乙28)によれば,乙21製品等の販売開始時期は,乙21製品が平成16年4月,乙23の1製品が平成20年6月,乙23の2製品が平成22年2月,乙24製品が平成29年10月,乙28製品が平成28年7月であることが認められる。原告は,乙21製品について,平成16年〜平成20年のカタログに掲載された製品であり,平成21年9月1日に生産を終了したと主張するが,一般的にカタログに掲載された製品は特段回収等がされない限り数年程度は流通していると考えられ,被告製品の競合品に当たらないとはいえない。
もっとも,原告製品,各被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトの市場におけるシェアは明らかではなく,原告において,平成27年当時の住宅用照明のうち直付け型の居室外用の照明器具市場における原告のシェアが●(省略)●%であったことを自認するにとどまる。被告は,照明器具市場全体の売上のシェアや住宅用照明市場におけるシェア,LED シーリングライト市場におけるシェアを主張するが,原告製品,被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトは,そのごく一部であって,他の多数の照明器具が含まれるシェアから被告製品の競合品のシェアを推認することは困難である。 これらの事情を総合的に考慮すると,センサ付引掛シーリングライトの市場において原告製品及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2項に基づく損害額の推定に係る覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,その程度は限定的と考えるのが相当である。
エ 推定覆滅の程度 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるにとどまるとすべきである。
・・・
ア 証拠(乙10の1〜3)によれば,平成22年10月21日から同年11月5日にかけて,大手家電量販店チェーンの3店舗において,原告製品と被告製品3及び4が隣り合った状態で陳列され販売されたことが認められる。 一般に店舗において商品の陳列場所等は商品の売上に影響を及ぼす重要な要素であって,原告においても,営業担当者等を通じて,当然に自社製品や競合他社製品が家電量販店においてどのように陳列・販売されているかを逐次把握していたものと考えられるから,遅くとも平成22年11月5日には,原告において,被告製品3及び4の存在を知ったものと認められる。 そして,原告製品と各被告製品は同種の用途の競合品であって,大手家電量販店チェーンにおいては概ね統一的な商品陳列を行っているものと考えられることからすれば,各被告製品は,家電量販店において基本的に原告製品と隣接して陳列されていたと考えられ,被告製品3及び4以外の各被告製品についても,その販売開始から間もなく,原告は,各被告製品の存在を知ったものと認められる。
イ 本件発明は,前記のとおり,効果1)〜3)を奏するものであり,これらの効果は外観上明らかであって,各被告製品の外観から,各被告製品が本件特許権の侵害品であることの疑いを持つことは十分に可能\である。 原告は,本件発明の構成要件 A〜D は,内部構造に係るものであるから,被告製品の外観からは判明しないと主張するが,被告製品の外観からして本体カバーに被覆された接続器やセンサ保持具が存在することは明らかであり,センサ保持具が天井面と略平行な面内で回動可能\に構成されていることは推測することができる。そして,証拠(乙10の1〜3)によれば,家電量販店の陳列棚において,天井を模した造作があり,引掛型配線器具が設けられ,各被告製品を現実に組み立て,取り付けることができるようになっていたものと認められ,原告において,各被告製品の取付状態を確認することもできたものと考えられる。また,証拠(甲5の1〜3,甲7,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,各被告製品を毎年発行する被告のカタログに掲載すると共に,各被告製品の仕様や構\造を記載した「施工・取扱説明書」をインターネット上等で公開していたことが認められ,カタログには引掛シーリングに取り付けるタイプであること,人感センサがあり,本体可動式であること等が記載され,施工・取扱説明書には,購入者又は工事店が各被告製品を取り付けることができるよう,各部を分解した構造図とセンサの可動範囲等が記載されているのであるから,被告はこれらの情報を秘匿せず,一般に公開していたのであって,原告は,各被告製品の存在を知り,その外観から本件特許権侵害の疑いを持った時点で,各被告製品の構\造等を容易に検討することができたといえる。
ウ 原告は,遅くとも平成22年11月5日までに被告製品3及び4の発売を知り,その余の各被告製品についても,発売後まもなくその事実を知ったものと認められ,各被告製品の構造等を知ることもできたのであるから,製品が競合する関係にある原告としては,その時点で,損害賠償請求をすることが可能\な程度に,損害及び加害者を知ったと認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和1(ワ)5444  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月28日  大阪地方裁判所

 知財高裁特別部で判断された「二酸化炭素含有粘性組成物事件」の原告は、侵害事件で勝訴しましたが、被告会社が破産したため、実質経営者である取締役に対して訴訟をしました。裁判所は、被告らに監視・監督義務があるとして1億円を超える損害賠償を認めました。

 法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場\n合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に 対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑 罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。 したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の 特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行 を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うと いうことができる。 他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効につい て厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許 庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判 断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。 このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといっ て,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施 行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵 害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続する ことが当然に許容されることにもならない。 自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役と\nしては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎 重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公 権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に 有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではない が,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきで あり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべ きこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべき こととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。
具体的には,1)非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を 停止し,あるいは製品の構造,構\成等を変更する,2)相手方との間で,非侵害又は 無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継 続する,3)暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ ば,その間の補償が得られるようにする,4)実施行為を継続しつつ,損害賠償相当 額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補 償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつか の方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経 営判断が適切であったかを検討すべきことになる。
・・・
(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに 対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日に これに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法に より計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債 務の弁済はなされていない。 被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目 的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の 申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。\n破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破 産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債 権の総額は1億6969万3683円とされた。
・・・
ウ 判断
前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを 総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならな い,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったと\nいうことはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケ ミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品 の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。 前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判 断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場 合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求め られ,前記(1)の1)ないし4)で述べたような方法をとることで,特許権侵害に及 び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるに\nも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販 売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品 の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償 相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケ ミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,\n被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産 手続開始の申立てを行ったものである。\n
以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特 段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取 締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事 情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。
(3) 被告P2の悪意重過失について
ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等\nの有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表\n取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。 被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず, 本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機 会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見 し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役として の善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。
イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな 紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易 であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公 権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,\n被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能\であったと解され る。 被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止で きなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務 に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったと いうことを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての 義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。
以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適 切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。
(4) 被告P3の悪意重過失について
ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1, 2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数 社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的で あったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受 け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売で きると聞いた。 被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額 であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することに した。
(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭 酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。 被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年1 1月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネ\nオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。
(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許 の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,ま た,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。 被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなか ったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各 特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山 特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから 心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告 と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告P3 は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。 被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領 した。
(エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告P1に説明を求めたと ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の 特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判 費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担する と言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本 件発明2−1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の 写しの交付を受けた。 被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告 製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先する\nことはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。 その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける 機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。
(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証 開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問 を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販 売を止めた。
(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223 万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告にお いて供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に 対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガス パックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立し た。
イ 判断
前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件 各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭 酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理 士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に 当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有して いて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権\nが優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をした というのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説 明に依拠してその判断を行ったことになる。 しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠\nがなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記 (2)で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵\n害を否定する理由とはなり得ない。
被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製 造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記 (1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権\n侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定 する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害\nし損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断 をすべき注意義務があったということができる。 この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品 14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の1)ないし4)で検 討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告 製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせた のであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なく とも重過失によると認めるのが相当である。
(5) 被告P4の悪意過失について
会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有\n無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締\n役の業務執行の監督を行うべきものである。 前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについ て被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であ った被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定 したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠は\nなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワール が被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告 P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべき であり,その過失の程度は重大というべきである。
4 原告の損害額(争点4)について
(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額
ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額
(ア) 証拠(甲45〜49,51〜57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製 品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推 移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認め られる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億08 29万1485円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護 士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミア の行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害 額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。 また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているか ら,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01 29万1485円であると認められる。
(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条 2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7 895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した 700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基 づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。 しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受け た損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告が ネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるか ら,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる 損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は異なるとし て,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。
イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額
(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドス キンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自\nら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワー ルの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223 万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11 月30日までの期間の利益額は896万8027円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある 弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,ク リアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推 定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。 また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから, 現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万626 5円であると認められる。
(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項 を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記 アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害 を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。 被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としてお り,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする 推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の 責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損 害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害 の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。
(2) 損害の発生について
被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売 しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワール の行為によって原告は損害を被っていないと主張する。 しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品 とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難である とか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があっ たとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったと しても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる 等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはな らない。
(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について
ア 被告P1について
前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお, ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当 該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネ オケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告 P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
イ 被告P2について
前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して 監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たると ころ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記(1)アの損害が被告P1 の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害 に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因 果関係があると認められる。
ウ 被告P3について
前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権 の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売 するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定 をしたものであり,この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるとこ ろ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損 害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
エ 被告P4について
前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任 して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前 記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重 過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損 害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリ アノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関 係があると認められる。 そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間 にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得 た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を 控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,こ の全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認め られる。

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令和2(ワ)3247等  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償を求めましたが、被告は提訴自体が不法行為は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、反訴請求しました。裁判所は被告の主張を認め、50万円の損害賠償を認めました。

 (1) 前提事実,争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 ア 被告は,原告退職後の平成22年9月から漏水探査等を目的とする事業を行 うようになったところ,平成23年頃実施の門川町上水道漏水調査委託業務の入札 に参加し,これを落札した。これについて,原告は,その後,門川町に対し,被告の 指名競争入札参加申請書及び被告が納品した漏水調査結果報告書等を求めて公文書\n公開請求を行った(甲15,16)。
イ 被告は,平成26年10月1日,原告から,平成23年4月26日付け「情 報窃盗に関する記述」と題する部分及び平成25年9月26日付け「情報窃盗及び 機密保持違反に関する刑事告訴に至る記述」と題する部分からなる書面(乙7)を 受領した。同書面のうち,前者の部分には,被告が,原告が「業務を通じ考案した 「エアー加圧工法」を実用新案特許出願中 平成2年6月 その工法さえも盗み出 した」との旨や,書類(結果報告書及び作業計画書等)の無断使用による著作権侵 害,原告の固定客や取引先の横取り等による原告の被害額が推定1500万円以上 に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載されている。後者の部分には,前者の 部分と同趣旨の記載のほか,「虚偽申請による不当なる資格取得」との記載があり,\n原告の被害額が推定3000万円以上に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載 されている。
ウ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,平成27年4月1日付け「質問書」 (乙9)を送付した。同書面には,同協会発行の有資格者認定名簿における被告の 記載に関する質問等が記載されている。
エ 原告は,同月6日,被告に対し,「「漏水調査技術者認定証等」に関する件」 と題する書面(乙8の1)を送付した。同書面には,被告につき,「不正に全国漏 水調査協会の民間資格者として,再登録を行っています。」,「貴殿が行った行為 は,「業務上横領」や「詐欺」に匹敵する許し難い行為だと思います。」,「まず貴\n殿が,「弊社の技術」を盗む目的を持って入社し弊社が長年の研究や試行錯誤の上 で開発した「エア加圧工法」と言う独自工法を盗み」などと記載されていると共に, 「期日までに,何らかのご連絡,若しくは,「漏水調査技術者証の返還」が,無き 場合は,「刑事告訴」及び「法的手段」を取りますので,ご了承下さい。」とも記載 されている。
オ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,同年5月6日付け「勧告書」(甲3 2,乙10)を送付した。同書面は,上記「質問書」に対する回答が得られていな いとして送付されたものであり,ここには,有資格者の調査技師の欄に被告が記載 されているが,その記載内容は虚偽である旨の指摘等が記載されている。また,同 書面(乙10)の余白には,「この書面を提出した事で,彼は責任を取り自から会 長職を辞職した!!」との原告代表者の手書きによる記載がある。\n
カ 原告は,同年6月11日,被告に対し,同日付け「通知書」(甲29,乙11 の1)を送付した。同書面には,「その盗んだ技術の中身には,長年研究開発した 「エア加圧工法」が含まれており,弊社が開発した技術を無断で利用して,平然と 営業利益を上げています。」などとして,原告の損害金総額1億円の支払を求める 旨等が記載されている。 これに対し,被告は,同年9月14日,原告に対し,同日付け「回答書」(甲9, 31,乙12の1)を送付した(同月15日に原告に到達。乙12の2)。同書面に は,「調査内容の「エア加圧工法」は他社企業でも行われている工法で,特許侵害 等の法を犯す工法ではありません」などと記載されていると共に,1億円の支払請 求については,内容が事実に反していることなどから応じられない旨が記載されて いる。
キ 被告は,平成31年2月7日頃,原告から,平成30年2月7日付け「最後 通告書」(乙13の1。なお,同書面の作成日付は,書面全体の記載の趣旨から, 「平成31年」の誤記と思われる。)を受領した(乙13の2)。同書面には,「貴 殿は,…私文書偽造詐欺行為を平然と行って置きながら,…全国漏水調査協会に私\n文書偽造の行為にあたる事を長年繰り返し申請をして,不正に漏水調査士の資格を\n取得しています。」,「弊社の「報告書書式や漏水調査カルテ書式等」を退職時に 何らかの形で持ち出しましたね。」,「「工具は持ち出して居ない」とは思います が,どの様な方法でエアを注入していますか?」,「漏水調査工法のエア加圧工法 は,弊社が開発したものです。…弊社は,昨年5月11日付で,エア加圧工法で, 「特許権」を取得しています。このままだと仕事を失う事になりますよ。速やかに, なんらかの行動を起して下さい。」,「弊社が取得した「エア加圧工法」は,…何人 たりとも勝手に利用して,使用が出来ないのです。それを犯して使用する場合は, 「知的財産権の侵害行為」となり,そこには,処罰の対象になります。…独自の工 法を考えださない限りは,特許権侵害行為になり,この仕事は,出来ません。」な どと記載されていると共に,改めて,総額1億円の技術使用料の支払を求める旨等 が記載されている。 なお,同書面には,被告の使用する工法が原告の「特許権」の侵害にあたると原 告が考える理由等に関する記載はない。
ク 原告は,本件の証拠として提出した令和2年8月22日付け「上申書(5)認否 事項についての反論」(甲21)において,「裁判を提訴するまで,被告の行って居 る工法につては,知る由は無かった。」としている。
ケ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,本訴の提起後である令和2年9月1 1日付けで,同協会の漏水調査技術資格認定者名簿における被告の記載に関して質 問をし,同月28日付けで回答を得たものの,これを不十分として,同年10月1\n日付け「公開質問書」(甲32)を送付して再度質問をし,同月16日付けで回答 を得た。
(2) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として 正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴 訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもので ある上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知 り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当 である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・ 民集42巻1号1頁参照)。 前記(1)認定のとおり,原告は,被告が原告を退職して独立開業した後,本訴の提 起に至るまでの間,被告が門川町の業務を落札したことを契機に,被告の事業活動 を問題視するようになり,被告の使用する工法が原告の「エア加圧工法」を無断で 使用するものであるなどとして,刑事告訴の可能性にも言及するなどしつつ,被告\nに対して直接非難する趣旨を含む書面を送付した。他方で,原告は,漏水調査協会 に対しても,有資格者名簿に被告が記載されていることにつき,質問の形式を取り ながら,これを問題視していることをうかがわせる内容の書面を送付した(しかも, 原告は,本訴提起後も改めてこのような行為に及んでいる。)。さらに,本件特許 権の設定登録後には,「エア加圧工法」につき特許権を取得したとの前提ではある ものの,被告の行為は特許権侵害にあたるとして,技術使用料の支払を重ねて求め たものである。 こうした経過を経て本件の本訴が提起されたことを踏まえると,本訴の提起も, 被告がその事業上実施する工法を原告が問題視して行った一連の行動の一環として 行われたものと理解される。
他方,原告と被告との一連のやり取りにおいて,原告は,被告から「特許侵害等 の法を犯す工法ではありません」などと反論されたこともあるにもかかわらず,被 告の使用する工法等が原告の特許権を侵害するものと考える理由に言及したことは なく,また,被告が使用する漏水探査方法の具体的内容やこれに使用する装置につ いて質問等をしたのも,平成30年2月7日付け「最後通告書」におけるものが初 めてである。加えて,本件における原告の主張立証活動,就中,原告自身が「裁判 を提訴するまで,被告の行って居る工法につては,知る由は無かった。」とし,実 際,被告が主張する被告装置の構成等を前提として主張立証を行っていることに鑑\nみると,原告は,本訴の提起に先立ち,被告の使用する漏水探査方法やこれに使用 する装置に関する調査等を自ら積極的には必ずしも行っていなかったことがうかが われる。 このような本訴の提起に至る経緯や訴訟の経過等に加え,前記のとおり,被告装 置につき本件各発明の技術的範囲に属さないことに照らすと,原告は,本訴で主張 する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることにつき,少なく とも通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,被告による事業展開を妨げる ことすなわち営業を妨害することを目的として,敢えて本訴を提起したものと見る のが相当である。 そうすると,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くものと認められるから,被告に対する不法行為を構成する。これに反す\nる原告の主張は採用できない。

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令和2(ワ)4332  特許権侵害行為差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で無効理由無し、技術的範囲に属するとの判断がなされました。被告らは共同関係にないと主張しましたが認められませんでした。

上記認定事実のとおり,被告ジョウズ及び被告アンカーは,いずれもAn kerグループに属する法人であり,被告ジョウズの設立時の代表者と被告\nアンカーの代表者は同一である上,被告ジョウズの令和元年9月時点での従\n業員数は2名であり,そのうちの1名であるZは令和元年5月に被告アンカ ーから被告ジョウズに移籍しているとの事実が認められる。また,被告ジョ ウズの本店所在地のオフィスの利用契約上の地位は被告アンカーから譲り受 けたものであるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があるということ ができる。
また,被告ジョウズは被告製品1及び2の販売に関する記者発表が行われ\nる約4か月前に設立されているが,その人的態勢は,代表者であるYのほか\n従業員が2名にすぎず,その2名についても,令和元年9月1日から同月3 0日までの1人当たりの勤務日数及び勤務時間は通常の事業活動をしている とは考え難いほど短い。また,被告ジョウズのオフィスはシェアオフィスで あり,平成30年10月時点において,同オフィスの入居するビル1階の受 付には被告ジョウズの表示はなかったことなどによれば,被告ジョウズが被\n告製品に関する実質的な事業活動を行っていたとは考え難い。 さらに,上記のとおり,楽天における被告製品の販売サイトにおける商品 の返送先住所は被告アンカーの所在地と同じビルであると認められるところ, 被告ジョウズが被告アンカーに対して返品された商品の取扱いを委託すると ともに,マーケティング業務などを委託していたことについては当事者間に 争いがない。被告らは,被告アンカーが受託したのは上記業務に限定される と主張するが,マーケティング業務も行いながら,商品については返品取扱 い業務のみを取り扱っていたとは考え難く,上記の被告ジョウズの物的・人 的態勢も考慮すると,被告アンカーは被告製品の販売等に関する業務を被告 ジョウズと共同して行っていたと推認することが相当である。
加えて,被告製品1及び2の記者発表に関する記事等には,「Anker\nグループが技術的にサポートしたことから,アンカー・ジャパンのY社長が ジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと記載されていること,\n被告製品3の記者発表は当時まだ被告アンカーの在籍していたZが行ってい\nること,被告商品に関するウェブページには,同製品がAnkerグループ ないし中国アンカー社のサポートを受けて作られたものである旨の説明がさ れていること,Ankerグループのオフィシャルストアの海外のウェブサ イトにおいて被告製品が「Anker Jouz 20」などとして販売さ れていることなどの事実によれば,被告製品に関する事業には,被告アンカ ーを含むAnkerグループや中国アンカー社が関与していることがうかが われる。 以上を総合すると,被告アンカーが被告ジョウズと共同して被告製品の販 売等をしていたと認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張について
ア これに対し,被告らは,被告製品に関する業務の委託先の一つにすぎず, 被告製品の返品及びマーケティング業務等の委託を受けていただけであ り,業務委託の対価も固定額であり,被告製品の販売実績によって金額が 左右されるものではないと主張する。
しかし,被告らからは,被告アンカーから被告ジョウズに宛てた業務委 託料の請求書や担当者名等が黒塗りされた請求書や電子メール等が提出 されているにとどまり,被告ジョウズと被告アンカーとの間の業務委託契 約書,被告製品に関する費用や利益の帰属を示す客観的な証拠,被告アン カーが行っていた業務の実態やこれに関与した者の氏名や具体的な役割 等を客観的かつ具体的に明らかにする証拠は提出されていない。 前記判示のとおり,被告ジョウズと被告アンカーの人的・物的関係や被 告ジョウズの実態などを考慮すると,被告アンカーは被告ジョウズから一 部の業務を受託していたにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を 同被告と共同して行っていたと推認することが相当であり,これを覆すに 足りる的確な証拠は存在しない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,被告ジョウズと被告アンカーには資本関係がなく,取扱製品 も異なる上,代表取締役自らが営業等を行っている会社は多数存在し,商\n品開発において他社と協力することも通常の事業活動にすぎないので,被 告らに相互に相手方の役割等を認識し,これを利用する意思はなかったと 主張する。
しかし,両社はいずれもAnkerグループに属する法人であり,被告 ジョウズの設立時の代表者と被告アンカーの代表\者は同一である上,被告 ジョウズは本店所在地のオフィスの利用契約上の地位を被告アンカーか ら譲り受けるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があることは前記 判示のとおりである。また,被告ジョウズの実態などを考慮すると,被告 アンカーが返品処理業務やマーケティングなど一部の業務を受託してい たにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を被告ジョウズと共同し て行っていたと評価し得ることも上記のとおりである。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば,被告アンカーは,被告ジョウズと共同して,被告製品の販 売,輸入及び販売の申出をしてきたと認められる。\n

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◆令和1(行ケ)10174

下記はアップされていません。 令和1年(ワ)20075特許権侵害差止請求事件

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令和1(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 見過ごしていましたのでアップします。米国仮出願から実施形態を変更して優先権出願をしました。無効審判が請求され、審決は新たな技術的事項の導入ではないとして優先権を認めました。知財高裁(3部)は、結論は同じですが、パリ条約4条Fの規定により優先権が認められると判断しました。
本件発明の器具は下記に動画があります。 https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI

 ・・・この点に関する原告の主張を正確に記載すると,本件発明は,1)ピンが 複数の溝を有する構成を含むこと,2)ピンバーとベースが一体成型になって いる構成を含むこと,3)ピンバーをベースの溝ではなく,ベース上の凸部に 嵌め込む方式の構成を含むこと,4)ピンに,溝ではなく,ピンを貫く間隙を 有する構成を含むこと,の4点において,本件米国仮出願にはない構\成を含 むからパリ優先権が否定され,その結果,甲1動画との関係で新規性,進歩 性を欠き,無効であるというものである。
しかしながら,本件発明が,その請求項の文言に照らし,原告が新たな構\n成であると主張する1)ないし4)の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮\n出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであると\nころ(この点は,原告も否定していないものと考えられる。),この構成は,\n1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,1)ないし4)の構成が\n補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような 場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優 先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由とし\nて,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすること はできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパ\nリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許 を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に 含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該\n構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必\n要があるというべきである。このように解することがパリ条約4条Fの文言 に沿うばかりではなく,このように解しないと,例えば,特許権者がAとい う構成の発明について外国出願をし,その後,その構\成を含む発明Bが公知 となった後に,わが国において,パリ優先権を主張し,構成Aと,前記外国\n出願には含まれないが,発明Bに対して新規性,進歩性が認められる構成C\nを合わせた構成A+Cという発明について特許出願をした場合,当該発明は,\n構成Aの部分は,発明Bよりも外国出願が先行しており,優先権も主張され\nており,かつ,構成Cは,発明Bに対し新規性,進歩性が認められるにも関\nわらず,前記外国出願に含まれない構成Cを含んでいることのみを理由とし\nて構成Aについての優先権までが否定され,特許出願が拒絶されるという結\n論にならざるを得ないが,そのような結論は,パリ条約4条Fが到底容認す るものではないと考えられるからである。
なお,1)ないし4)も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性,進歩性は,それぞれの構\成について,別個に問題とする必要がある。この観点から検討すると,甲1によれば,甲1動画に係るツールは,前記 3)の構成を有していることが認められる。そして,本件発明の請求項は,「\nベース上にサポートされた複数のピン」と定めているのみであって,前記3) の構成を含むことは明らかであるから,この点において,本件発明は,甲1\n動画との関係で新規性を欠くものといわなければならない。したがって,パ リ優先権が認められるかどうかを判断するため,さらに,構成3)が,本件米 国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断する必要がある。\n
これに対し,甲1動画に係るツールは,前記1),2),4)の構成を含むものとは認めら\nれないから,新規性が問題となる余地はなく,また,これらの構成が,甲1\n動画に係る発明に対して進歩性を欠くことを認めるに足りる主張立証はない。 そうであるとすると,これらの構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成で あるかどうかを判断するまでもなく,原告の主張は失当というべきである。
(3) そこでさらに,構成3)が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかど\nうかについて判断するに,たしかに,米国仮出願書類には,ベースに設けた 溝にピンバーを嵌め込む態様しか記載されていないが,これは実施例の記載 にすぎないし,米国仮出願書類全体を検討しても,ベースにピンバーを固定 する態様を,この実施例に係る構成に限定する旨が記載されていると理解す\nることはできない。そして,ベースに凹部を設け,その凹部にピンバーを嵌 め込む態様の構成(米国仮出願書類の実施例の記載)と,ベースに凸部を設\nけ,この凸部にピンバーを嵌め込む態様の構成(3)の構成)とは,まさに裏\n腹の関係にあるものであって,一方を想起すれば他方も当然に想起するのが 技術常識であるといえるから,たとえ明示的な記載がないとしても,ベース に凹部を設ける構成が記載されている以上,ベースに凸部を設ける構\成も, その記載の想定の内に含まれているというべきである。 そうすると,3)に係る構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成であると はいえないから,この点に関する原告の主張も失当ということになる。

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令和2(ネ)10048  職務発明対価等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 競馬ゲーム発明のうち、出願しなかった部分について、ノウハウに基づく報奨金(特35条)を求めました。知財高裁は1審と同じく否定しました。

 当裁判所も,原審と同様に,本件ノウハウに係る控訴人の被控訴人に対する 対価請求権が存するということはできないと判断する。 その理由は,次のとおりである。
(1) 本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されてい るものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施すること によって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に 基づく相当の対価を請求することはできないと解される。 そこで,以下,控訴人が主張する内容に基づき,本件ノウハウが特許性を 有する発明といえるか否かについて検討する。
(2) 原審及び当審における控訴人の主張によれば,控訴人が主張する本件ノ ウハウの特徴は,次のとおり理解することができる。
ア 完全確率抽選方式の下で,何らの工夫もせずに予想ゲームと馬主ゲーム\nとを組み合わせた競馬ゲームを設計すると,馬主ゲームにおいて購入する 馬の能力値によって馬ごとのメダル獲得の期待値に不公平が生じるため,\nプレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入するようになり,馬主ゲームの\nゲーム性が損なわれてしまう。他方で,各馬の能力値を同一にすることに\nよってこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損\nなわれてしまう。このように,上記のような競馬ゲームの設計においては, 馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さを解消して 公平性を確保しつつ,現実の競馬同様のゲーム性を持たせる工夫をする必 要があるという課題があった。
イ 本件ノウハウは,上記の課題を解決するために,1)プレイヤー馬につい て,能力値とは別に,一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と\n呼ばれる指標を導入した上で,2)馬主ゲームにおいて,レースに出走する ために消費する活力値(以下「消費活力値」という。)とレース結果に応じ て増加する活力値(以下「増加活力値」という。)の期待値とを等しくする ことにより,馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さ が生じないようにするものである。 また,消費活力値及び増加活力値の算出においては,3)同じレースに複 数のプレイヤー馬が出走する場合もあるところ,プレイヤー馬の能力値が\n当初は未確定であることから,各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値 及び能力値について,一旦暫定値を用いて計算し,必要に応じて数値を再\n調整する計算方法が採られている。 さらに,4)活力値は,メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり, プレイヤーに認識されない形で増減され,次回以降の競馬ゲームに影響を 与えるように導入されており,これにより,ゲーム性が醸成されている。 (以下,上記1)ないし4)の点を,順に「特徴1)」などという。) (3) 以下,控訴人が主張する本件ノウハウが特許性を有する発明といえるか 否かにつき,特徴1)ないし4)を基に検討する。
ア 特徴1)について
(ア) 予想ゲームのみの競馬ゲームを設計する場合であれば,各馬の能\力 値を定めた上で,能力値に応じた適切なオッズを定めることにより,公\n平性及びゲーム性を確保することができるといえるが,これにゲーム内 容が全く異なる馬主ゲームを組み合わせて新たな競馬ゲームを設計し ようとするのであれば,能力値とは別の指標を導入する必要が生じるこ\nとは,いわば必然のことであるといえる。
(イ) また,上記(2)アによれば,完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬\n主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合,馬主ゲームで購 入する馬の能力値に差があることが原因となって馬ごとのメダル獲得\nの期待値に不公平さが生じることにより,馬主ゲームのゲーム性が損な わる事態が生じ得るが,他方で,馬の能力値の差をなくすことによって\nこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損なわ\nれてしまうというのであるから,これらの問題を解決するためには,能\n力値を調整するのみでは足りず,能力値とは別の指標を導入する必要が\nあることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,特徴1)における活力値の導入は,完全確率抽選方式 の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計す\nる場合において,必然的に必要となる指標を導入したものにすぎないと いうべきである。
・・・・
オ 小括
以上検討したところによれば,本件ノウハウにおける活力値の導入につ いては,必然的に導入すべき指標を用いたものにすぎないというべきであ る上,活力値を用いた期待値の算出等についても,課題解決のために当然 に採られ得る手段であるか,又は通常よく採られる方法を超えるものでは ないというべきである。
(4) なお,控訴人は,本件ノウハウにおいては,ペイアウト率90%のメイン ゲームと同100%のサブゲームとが組み合わされ,ゲームセンターと顧客 との間の利害のバランスがとられている点が画期的であるとも主張する。 しかしながら,ペイアウト率をいくらに設定するかという問題は,それ自 体としては,技術の問題ではなく,取極めの問題にすぎないから,控訴人主 張の点は,本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。
(5) 以上検討したところによれば,本件ノウハウは,特許性を有する発明であ るとは認められず,これを実施することによって被控訴人に独占の利益が生 じたということはできないから,本件ノウハウが控訴人によって職務発明と して開発され,被告製品2において実施されたものであったとしても,控訴 人は,被控訴人に対し,本件ノウハウにつき,特許法35条3項に基づく相 当の対価を請求することはできない。

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令和2(行ケ)10063  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 存続期間延長登録拒絶査定にかかる審決取消訴訟で、裁判所は、延長を認めなかった審決を取り消しました。

 前記(1)で認定した事実関係をもとにして,本件発明の実施に本件処分を受ける ことが必要であったかどうかについて検討する。 ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要で あったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的 とするものであるから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか どうかは,このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らし て判断されるべきであり,その場合における本件処分の内容の認定についても,こ のような観点から実質的に判断されるべきであって,本件承認書の「有効成分」の 記載内容のみから形式的に判断すべきではない。このように解することは,最高裁 平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻 7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
イ 前記(1)エで認定した事実からすると,医薬品について,良好な物性と安 定性の観点からフリー体に酸等が付加されて,フリー体とは異なる化合物(付加塩) が医薬品とされる場合があること,そのような医薬品が人体に取り込まれたときに は,付加塩からフリー体が解離し,フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること,ナ ルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり,ナルフラフィ ンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは,本件医薬品の 製造販売の承認申請がされた平成28年3月31日までに,当業者に広く知られて\nいたものと認められる。
ウ 上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1) クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的た る効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,\nそのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
エ 前記(1)ア〜ウのとおり,本件承認書には,「有効成分」として「ナルフ ラフィン塩酸塩」と記載されており,本件添付文書にも「有効成分に関する理化学 的知見」として,「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され,その構造式や性状などが\n記載されているが,これは,賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から,実際に 医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく 記載であると解される。これに対し,本件添付文書の「有効成分・含量(1錠中)」 の欄に,「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」 と記載されており,本件インタビューフォームには,和名は「ナルフラフィン塩酸 塩」と記載されているものの,洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナル フラフィン」が併記されているし,「有効成分(活性成分)の含量」として カプ セル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2. 32μg)含有 OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィ ンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして,前記(1)アのとおり,本 件承認書における●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じ く,前記(1)イ,ウのとおり,本件添付文書や本件インタビューフォームにおける, 本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩 酸塩ではなく,ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
オ 以上のことを考え併せると,本件処分の対象となった本件医薬品の有効 成分は,本件承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するので はなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成\n分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合され ている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当 である。 したがって,「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し,「ナ ルフラフィン」は,本件医薬品の有効成分ではないと認定して,本件発明の実施に 本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断 は誤りであり,取消事由1は理由がある。
(3) 被告の主張について
被告は,原告が本件延長登録出願に当たって,本件医薬品の「有効成分」を「ナ ルフラフィン塩酸塩」と主張していたことや原告が作成した書類(甲83,88, 90)で有効成分をナルフラフィン塩酸塩としていたと主張する。 しかし,本件延長登録出願の経緯は,前記(1)ケ認定のとおりであって,この経緯 に照らして,原告が取消事由1の主張をすることや裁判所が同取消事由1に理由が あると判断することを妨げられる理由はなく,前記(2)の上記判断を左右するもの ではない。また,被告が主張する文書(甲83,88,90)は,本件医薬品の製 造販売の承認申請に向けて作成された文書であるところ、本件医薬品の有効成分は,\n本件医薬品の承認審査の経緯や内容等を踏まえると,実質的にはナルフラフィン塩 酸塩とナルフラフィンの双方と解するのが妥当であるから、本件承認書(甲4,9 6,148)の記載が前記(2)の認定判断を左右しないことと同様に,上記の文書も、 前記(2)の認定判断を左右するものではない。

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令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所

 特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。

 前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願 である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願 日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部 分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に は,本願の出願日が同年8月25日となる。 そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の 2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠 落部分を含まないようにすることはできないものと解される。 前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を 受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9 月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本 件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから, 本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発 表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正 前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者 の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明 となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ ると主張する。 しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補 充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また, 改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間 内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと 主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず, 上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25 年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部 分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点 で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日 が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許 法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則 38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで きる。 よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また, 特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書 とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。 しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり, このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出 した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許 法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に 係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法 184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする 場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出 するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提 出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答 して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の 認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告 は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的 な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当 たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応 答があったとみなされるべきであると主張する。 しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願 日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特 許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の 提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落 部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること によって左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

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令和2(ネ)10051  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。知財高裁(2部)も同様の判断をしました。

 (1)控訴人は,新薬の製造販売承認を得るための必要な試験は,平成11年最 判の射程外であるところ,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するかにつ いては特許権者の利益と第三者の利益を綿密に検討する必要があり,本件治験は, 同項の「試験又は研究」に該当しないと主張する。 しかし,新薬の製造販売承認を得るために必要な本件治験が,特許法69条1項 の「試験又は研究」に該当することは,原判決「事実及び理由」の第4の1(2)のと おりである。 控訴人は,新薬の製造販売承認のためにする試験と後発薬の製造販売承認のため の試験の内容が異なる旨主張するが,平成11年最判の趣旨が本件治験についても 該当することは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりであって,この ことは,製造販売承認のための試験の内容によって左右されるとは解されない。
(2) 控訴人は,特許権者ではない第三者が特許権の存続期間中に新薬の製造 販売承認を得た場合,当該第三者は,特許権の存続期間満了までは,当該新薬を製 造販売することができないから,その間,当該新薬の再審査期間中に製造販売でき ないという空白期間が生じると主張するが,実地医療での使用における安全性情報 の調査は,特許期間満了後に開始すればよいのであり,実地医療での使用における 安全性情報等の調査という目的が十分に果たされないというものではない。\n
(3) 控訴人は,特許権者でない第三者が特許発明について新薬としての治験 を行うことに特許権の効力が及ばないとすると,この第三者が特許権者に先行して 製造販売承認を得ることも可能になり,特許権者は,特許権の存続期間中であるに\nもかかわらず,事実上自らの特許発明に係る実施品について治験を実施することす らできなくなることとなるから,特許出願をするメリットがなくなり,発明の公開 というデメリットばかりが大きいことになるため,薬剤の発明者は,特許出願をた めらうことになり,医薬品産業の発達を著しく阻害することになり,特許法の目的 に反すると主張する。
しかし,特許法は,当該特許権の存続期間中に特許発明を独占的に実施し,それ により利益を得る機会を確保しているものであるが,特許権者が現実に利益を得る ことまでをも保障するものではないから,第三者が特許権者に先行して製造販売承 認を得たり,特許権者が,事実上,自らの特許発明の実施品について治験を実施す ることが難しくなることがあるとしても,これが特許法の趣旨に反すると認めるこ とはできず,控訴人の上記主張は,本件治験が特許法69条1項の試験に該当する との判断を左右するものではない。
(4) 控訴人は,再生医療等製品のうち特にバイオ医薬品については,通常の医 薬品とは異なる規制や制約があるのであり,その開発には,長期の開発期間を要す ることから,製造承認販売を得て販売されるタイミングが当該特許権の存続期間満 了間近とならざるを得ず,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨\n床試験)を実施することを許容すると,特許権者の不利益は甚大なものとなる旨主 張する。 しかし,この点についての控訴人の主張を採用することができないことは,原判 決の「事実及び理由」の第4の1(3)ウのとおりである。 また,控訴人は,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨床試\n験)を実施することを許容すると,革新的な医薬品の研究開発に悪影響を与えると か国内外において製薬業界に大きな混乱を与えると主張するが,控訴人の陳述書(甲 32)のみで,そのような事情を認めることはできず,他に,そのような事情を認 めるに足りる証拠はない。
(5) 控訴人は,新薬の承認申請のための治験を特許権の存続期間中に何らラ\nイセンスもなく実施可能ということにすると,諸外国の取扱いに反する旨主張する。\nしかし,我が国と諸外国では,法制度を異にしているから,我が国において諸外 国と同様の取扱いをしなければならないとはいえない。また,欧州においては,証 拠(甲41)及び弁論の全趣旨によると,欧州各国の中で,それぞれの国内法にお いて,医薬品の承認を得るための手続が特許権侵害とならないとする,いわゆるB olar条項の適用の範囲を定めており,フランス,イタリア,スペイン及び英国 は,同条項の適用を,後発医薬品の承認を得るための試験に限定していないことが 認められる。 控訴人は,Amgen が米国及び欧州で Massachusetts General Hospital の特許(本 件特許に対応する米国特許と欧州特許)についてライセンス契約を締結した上で TVEC の臨床試験を実施していることを主張するが,新薬に係る治験が特許権侵害に 該当しないとされていたとしても,新薬に係る治験を行うために特許権者とライセ ンス契約を締結することはあり得ることであるから,控訴人の上記主張から諸外国 の制度に関する認定をすることはできない。 控訴人は,陳述書(甲32)において,後発薬と異なり,新薬に係る治験につい ては,当該新薬に係る特許が存在している場合に,当該特許の所有者からライセン スを受けることなく当該治験を実施することが当該特許の侵害に該当するという考 え方が定着していると記載するが,諸外国の制度に関する上記認定によると,控訴 人の陳述書の上記記載を採用することはできない。 上記のとおり,新薬に係る治験が特許権侵害とならないとする国が複数存在する ことからすると,そうでない制度を有する国があるとしても,我が国において,本 件治験が特許法69条1項の「試験又は研究」に該当すると判断することが,諸外 国の制度と異なるものであるとはいえない。
(6) 控訴人は,本件治験は本件特許権の存続期間満了「前」の販売を目的とし たものであると主張する。 しかし,本件治験は,本件特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものであ るといえないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(3)イのとおりであって, 被控訴人が,本件特許権の存続期間満了日より前に T-VEC の承認を得られる可能性\nがあるかどうかやそのような可能性がある時点で本件治験を開始したかどうかによ\nって,この判断が左右されることはない。 控訴人は,原判決が判示する論理が認められるとすると,特許権の存続期間中に 行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると 認定されることはおよそないこととなるから,平成11年最判が目的要件を提示し た趣旨を完全に逸脱していると主張するが,原判決の判示する論理によったからと いって,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中 の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるとはいえな いことが明らかである。

◆判決本文

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◆平成31(ワ)1409

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令和2(ネ)10052  特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。

控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的 思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的 となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1 分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導 教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を 構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い, 特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示 を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程 度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著 者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具 体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると いうべきである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」 ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月 3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論 文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌 研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根 拠として挙げる。 しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の 負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト 卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応 答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記 記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使 用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願 人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年 (平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US /23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を 介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して, 免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を 治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・ からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに 抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害 することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ とはできない。 したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD− 1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の 賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ とはできない。 そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD− 1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成 物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化 することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前 記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前 記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと 認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術 的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める ことはできない。 したがって,控訴人の前記主張は理由がない。

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◆平成29(ワ)27378

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令和2(ネ)10047  特許実費等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 独占的権利(特許または専用実施権)については,特許の取得費用についても支払うとの契約があり,その一部について非独占的権利への変更通知をした場合に,その取得費用について支払う必要があるのかが争われました。知財高裁は1審と同じく,支払い義務ありと判断しました。

「(1)ア 特許実費の支払義務を負う対象となる権利の範囲について,本件契約 書5条1項は,「専用実施権又は独占的通常実施権を有している本件特許権等」と 規定していることから,控訴人は,専用実施権の設定登録がされた特許権について のみ,それらの特許実費を負担することになるのかが問題となる。
(ア) 出願中の特許について
本件契約書1条1号は,「本件特許権等」について,出願中の特許も含まれるも のと定義していること,本件契約書5条1項は,「当該特許権又は出願中の特許に 係る出願,登録及び維持に要する実費(以下「特許実費」という。)を負担する」 と規定していること,本件契約書5条2項は「2条3項に基づく非独占的通常実施 権への変更通知をしたときは,当該変更通知がなされた対象特許権及び/又は出願 中の特許については,前項の費用負担義務を免れるものとし」と規定していること からすると,本件契約書5条1項により控訴人が負担することになる特許実費には, 出願中の特許についての特許実費も含まれることは明らかである。 そして,出願中の特許については,専用実施権の設定や独占的通常実施権の許諾 はできないから,それが特許権の設定登録がされた後に本件契約上専用実施権や独 占的通常実施権の対象となるのであれば,特許実費の支払義務を負う対象となると いうべきである。なお,出願中の特許については,仮専用実施権の設定や仮通常実 施権の許諾をすることができる(特許法34条の2,34条の3)が,本件契約書 には,仮専用実施権の設定や独占的仮通常実施権の許諾がされたものに限り,控訴 人がその特許実費を負担する旨の規定はないから,控訴人がその特許実費を支払う 義務がある出願中の特許がこれらのものに限られると解することはできない。 したがって,出願中の特許についても,本件契約書2条3項に基づく非独占的通 常実施権への変更がされていないものであれば,控訴人がその特許実費を支払う義 務があるというべきである。
(イ) 特許権の設定登録がされた特許権について
本件契約書2条1項,2項は,本件特許権等につき,当初は,専用実施権の設定 合意をするが,本件契約締結日から3年経過したときに,その専用実施権が独占的 通常実施権に変更される旨規定しており,本件契約においては,専用実施権の設定 合意がされ,その設定登録がされていなくても,その専用実施権は,3年経過後に 独占的通常実施権に変更されるものとされているのであるから,本件特許権等のう ち特許権の設定登録がされた特許権については,「専用実施権又は独占的通常実施 権を有している本件特許権等」とは,本件契約書2条1項により専用実施権の設定 の合意がされた特許権及び本件契約書2条2項により同専用実施権が独占的通常実 施権に変更された特許権を意味し,控訴人は,そのような特許権であり,本件契約 書2条3項に基づく非独占的通常実施権への変更をしていないものであれば,専用 実施権の設定登録がされているかどうかにかかわらず,それらの特許実費を支払う 義務があるというべきである。
イ 次に,本件契約書1条1号において,「本件特許権等」が「本件製品を 技術的範囲に含む」ものと定義されていることから,その意味が問題となる。 本件契約書1条3号は,「本件製品」について,「(1)圧電型加速度センサ(L字 タイプ),(2)触覚センサ(薄型力覚センサ),(3)トルクセンサ,(4)マイクロ発電 機,及び(5)MEMSミラーを意味する。」と定めており,そこに控訴人が製造,販 売するあるいは製造,販売する予定の製品といった限定はないから,本件契約上,\n「本件製品」とは,これらの技術分野の製品一般を意味するものである。 したがって,「本件製品を技術的範囲に含む」とは,これらの技術分野を技術的 範囲に含むことを意味し,「本件特許権等」は,これらの技術分野に関する特許権 又は出願中の特許を意味すると解するのが相当である。
ウ そして,本件契約についての以上の解釈は,前記1(2)で認定した本件 契約締結に至る経緯,前記1(3)で認定した本件契約締結後の当事者のやり取りの 状況等及び前記1(5)アで認定した控訴人による本件契約に基づく特許実費の支払 状況とも矛盾なく整合するものであって,これ以外の解釈をすることはできない。
(2) 以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,本件製品(圧電型加速度セ ンサ(L字タイプ),触覚センサ(薄型力覚センサ),トルクセンサ,マイクロ発電 機,及びMEMSミラーの技術分野)に関する出願中の特許,専用実施権の設定の 合意がされた特許権及び同特許権から独占的通常実施権の許諾のある特許権に変更 された特許権のうち,上記の専用実施権又は独占的通常実施権が非独占的通常実施 権に変更されていないものについての特許実費を支払う義務を負うが,前記1(7) アのとおり,平成29年度第2半期における上記範囲の特許実費は,4512万6 043円である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)3197
被告は,本件変更通知以降は,被告が本件特許権等につき何らの専用実施権を 有しないことが明確となった以上,それ以降に発生した本件変更通知後特許実費につ いては,本件契約上,被告が負担すべきものと解釈されるべきではないし,仮にその ように解釈されたとしても,本件変更通知後特許実費の発生原因となった原告による 特許出願等が被告にとって必要性がなく,また,早期に行われる必要もないものであ ったことも踏まえると,原告の本件変更通知後特許実費の請求は権利の濫用に該当す る旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件契約上,原,被告間に本件特許権等について の専用実施権の設定合意が存在する間は,被告が本件特許権等の特許実費を負担すべ きであると解されるところ,前記1(6)のとおり,本件変更通知によって上記の合意 が解消されるのは平成30年3月31日である上に,本件変更通知の対象には本件特 許権等に含まれる出願中の特許は含まれておらず,前記(1)アの本件特許権等の文言の解釈を前提とすると,本件変更通知の対象とされたのは本件契約の対象となる本件特 許権等のうちの一部にとどまることとなるから,本件変更通知により被告が本件特許 権等につき何らの専用実施権を有しないことが明確になったともいえない。 また,証拠(甲2,43)及び弁論の全趣旨によれば,原告の請求に係る平成29 年度第2半期における特許実費のうち,原告において平成29年11月10日以前に 特許事務所に対して出願等の依頼をしたにもかかわらず,特許事務所からの実際の請 求が平成30年2月23日以降にされたにすぎないものも相当額含まれていること が認められるし,また,これに当たらないものに関し,原告において,同日以降に殊 更同年3月31日までに特許出願等の特許実費を発生させる行為をしたと認めるに 足りる証拠もないこと,本件契約上,被告における実施の必要性がないこと等を理由 として被告において特許実費の負担を免れることができる旨の定めも存在しないこ とに照らすと,原告の本件変更通知後特許実費の請求が権利の濫用に該当するともい えない。
エ 被告は,過去に原告の有する本件製品に関する特許権及び出願中の特許を対象 としてその特許実費全額を支払っていた点について,後に精算することを前提に仮払 したにすぎない旨主張する。 しかしながら,本件契約書上,支払対象とならない特許実費に関する仮払やその精 算に関する定めは存在しない上に,証拠(甲6〜15,24〜28)及び弁論の全趣 旨によれば,被告が,原告の特許実費の請求に応じてその支払をするに当たり,仮払 であることや後に精算する必要があることを示すことなく支払をしたことが認めら れるほか,前記1(7)カのとおり,Bは,過去の特許実費の支払につき,仮払という説 明ではなく,支払当時将来的に独占的な実施権を得られるであろうとの期待から自発 的に支払ったなどと説明していたのであって,他に被告が原告に対して仮払であるこ とや精算の必要性があることを支払の際に示していたことをうかがわせる証拠もな いことに照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

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平成31(ワ)1409  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月22日  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。

1 争点1(本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明 の実施」に当たるか)について
(1) 特許法69条1項は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」について 特許権の効力が及ばないと規定しているが,その趣旨は,特許法1条に規定さ れた「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発 達に寄与する」ためには,当該発明をした特許権者の利益を保護することが必 要である一方,特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にま で及ぼすと,かえって産業の発達を損なう結果となることから,産業政策上の 見地から,試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力が及ば ないこととし,もって,特許権者と一般公共の利益との調和を図ったものと解 される。
本件治験が同項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当た るかどうかは,特許法1条の目的,同法69条1項の上記立法趣旨,医薬品医 療機器等法上の目的及び規律,本件治験の目的・内容,治験に係る医薬品等の 性質,特許権の存続期間の延長制度との整合性なども考慮しつつ,保護すべき 特許権者の利益と一般公共の利益との調整を図るという観点から決すること が相当である。
(2) 前記第2の2(8)のとおり,平成11年最判は,後発医薬品について,第三 者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じく する後発医薬品を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法 (当時)14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明\nの技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して同申請書\nに添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にい う「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とは ならないと判示している。 本件治験の対象とされているT-VECは,前記第2の2(5)のとおり,外国の医 薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジング試験を行っている先発 医薬品であるが,以下のとおり,本件治験についても,平成11年最判の趣旨 が妥当するものと解される。
ア 平成11年最判は,後発医薬品が特許法69条1項にいう「試験又は研究 のためにする特許発明の実施」に当たる理由として,後発医薬品についても, 他の医薬品と同様,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の\n期間をかけて所定の試験を行うことを要し,その試験のためには,特許権者 の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し,使用する 必要がある点を指摘する。 本件治験は,外国の医薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジ ング試験を行うものであるが,証拠(乙15)によれば,ブリッジング試験 とは,外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施さ れる臨床試験であり,新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関す る臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるもので あって,同試験に当たり,一定の条件に適合する外国臨床データは医薬品の 製造等承認申請書に添付される資料として受け入れられるものの,日本人に\nおける当該医薬品の有効性及び安全性の評価を行うため,原則として,国内 で実施された臨床試験成績に関する資料を併せて提出することが必要であ ると認められる。
そして,本件治験は,T-VECの「日本人被験者における安全性及び有効性を 評価するための試験」(甲8の1・2頁「Official Title」欄)であり,修 正版WHO応答基準を用いたDRR(持続性奏効率)によって評価されるT-VECの 抗腫瘍活性が主要評価項目となっているものと認められる(甲8の1・4頁 「Primary Outcome Measures」欄の2)。このDRRとは,乙14の論文によれ ば,最初の12か月以内に開始する完全奏功(CR:腫瘍が完全に消失するこ と)及び部分奏功(PR:腫瘍が一定の割合以上小さくなること)が6か月連 続して継続した割合として定義されるものであるから,T-VECの製造販売の 承認申請には,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床 試験を行うことが必要となる。
そうすると,先発医薬品等に当たるT-VECについても,後発医薬品と同様, その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所\n定の試験を行うことを要し,その試験のためには,本件発明の技術的範囲に 属する医薬品等を生産し,使用する必要があるということができる。
イ 平成11年最判は,特許権存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する 化学物質ないし医薬品の生産等を行えないとすると,特許権の存続期間が終 了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果 となるが,この結果は,特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由に その発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるよう にするという特許制度の根幹に反するとしている。
T-VECについても,前記判示のとおり,その製造販売の承認を申請するた\nめには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので, 本件特許権の存続期間中に,本件発明の技術的範囲に属する医薬品の生産等 を行えないとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間, 本件発明を自由に利用し得ない結果となるが,この結果が特許制度の根幹に 反するものであることは,平成11年最判の判示するとおりである。
ウ 平成11年最判は,第三者が,特許権存続期間中に,薬事法(当時)に基 づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて,同期間終了後に譲渡\nする後発医薬品を生産し,又はその成分とするため特許発明に係る化学物質 を生産・使用することは,特許権を侵害するものとして許されないと判示す る。本件治験については,前記のとおり,医薬品医療機器等法の規定に基づい て第I)相臨床試験を行っているところであり,被告が,本件特許権の存続期 間中に,本件特許権の存続期間満了後の譲渡等を見据え,同法に基づく製造 販売承認のための試験に必要な範囲を超えてT-VECを生産等し,又はそのお それがあることをうかがわせる証拠は存在しない。
そうすると,特許権者である原告が本件特許権の存続期間中にその独占的 実施により利益を得る機会は確保されるのであって,それにもかかわらず, 本件特許権の存続期間中にT-VECの製造承認申請に必要な試験のための生産\n等をも排除し得るものと解すると,本件特許権の存続期間を相当期間延長す るのと同様の結果となるが,それは,平成11年最判も判示するとおり,特 許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものとい うべきである。
エ 以上のとおり,平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので, 本件治験は,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実 施」に当たる。

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平成27(ネ)10069  売買代金請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。米国でNPEと和解した控訴人(1審原告)が、被控訴人(1審被告)に対して、特許補償条項を根拠に、和解金の支払いを求めました。1審はこの請求を棄却しました。知財高裁は、7割の過失相殺をみとめたものの具体的な義務ありとして、約180万ドルの支払いを認めました。

(2) 本件基本契約18条2項に基づく義務
ア 本件基本契約は,控訴人と被控訴人との間の物品の売買取引に関する基本的 事項を定めるものであるところ,18条1項は「被控訴人は,控訴人に納入する物 品並びにその製造方法及び使用方法が,第三者の工業所有権,著作権,その他の権 利(総称して「知的財産権」という。)を侵害しないことを保証する。」旨,同条 2項は「被控訴人は,物品に関して知的財産権侵害を理由として第三者との間で紛 争が生じた場合,自己の費用と責任においてこれを解決し,または控訴人に協力し, 控訴人に一切迷惑をかけないものとする。万一控訴人に損害が生じた場合,被控訴 人はその損害を賠償する。」旨規定する。そして,本件基本契約には,他に知的財 産権侵害を理由とする第三者との間の紛争に対する解決手段・解決方法等について の具体的な定めがないことからすれば,同条2項は,同条1項により,被控訴人は, 控訴人に対し,その納品した物品に関しては第三者の知的財産権を侵害しないこと を保証することを前提としつつ,第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった 場合の,被控訴人がとるべき包括的な義務を規定したものと解するのが相当である。
イ この点,被控訴人は,本件基本契約18条2項は「自己の費用と責任におい てこれを解決」する債務と,「控訴人に協力し,控訴人に一切の迷惑をかけない」 債務を選択的に規定したものであり,選択権を有する被控訴人は,前者の債務を選 択したから,本件紛争の解決権は被控訴人に留保されていたものであると主張する。 しかし,本件紛争の解決権が被控訴人に留保されていたことを認めるに足りる証 拠はなく,同項の文言から被控訴人が選択権を有すると解することはできない。 ウ 一方,控訴人は,被控訴人が,本件基本契約18条2項に基づき,少なくと も1)第三者が保有する特許権を侵害しないこと,具体的には納入した物品が特許請 求の範囲記載の発明の技術的範囲に含まれないことや,当該特許が無効であること などの抗弁があることを明確にし,また,2)当該第三者から特許権の実施許諾を得 て,当該第三者に対してライセンス料を支払うなどして,当該第三者からの差止め 及び損害賠償請求により控訴人が被る不利益を回避する義務を負っていたと主張す る。 しかし,同項の文言のみから,直ちに被控訴人の負うべき具体的な義務が発生す るものと認めることはできず,上記のとおり,同項は,被控訴人がとるべき包括的 な義務を定めたものであって,被控訴人が負う具体的な義務の内容は,当該第三者 による侵害の主張の態様やその内容,控訴人との協議等の具体的事情により定まる ものと解するのが相当である。
(3) 本件基本契約18条2項に基づく被控訴人の具体的義務について
ア 前記のとおり,控訴人はWi−LAN社から,本件各特許権のライセンスの 申出を受けていたこと(前記前提事実等(8)及び前記(1)イ。なお,Wi−LAN社 のライセンスの申出が,本件チップセットあるいは本件製品を問題としていたのか,\n控訴人のサービスを問題としていたのかは,証拠上,明らかでない。),控訴人は, 被控訴人に対し協力を依頼した当初から,本件チップセットが本件各特許権を侵害 するか否かについての回答を求めていたこと(前記(1)ア),被控訴人,控訴人及び イカノス社の間において,ライセンス料,その算定根拠等の検討が必要であること が確認され,イカノス社において,必要な情報を提示する旨を回答していたこと(前 記(1)タ)に鑑みれば,被控訴人は,本件基本契約18条2項に基づく具体的な義務 として,1)控訴人においてWi−LAN社との間でライセンス契約を締結すること が必要か否かを判断するため,本件各特許の技術分析を行い,本件各特許の有効性, 本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を,裏付けと なる資料と共に提示し,また,2)控訴人においてWi−LAN社とライセンス契約 を締結する場合に備えて,合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を 収集,提供しなければならない義務を負っていたものと認めるのが相当である。
イ 控訴人は,この点について,被控訴人が自ら又はイカノス社をして,Wi− LAN社から特許権の実施許諾を得てライセンス料を支払うことにより,控訴人が 被る不利益を回避する義務をも負っていたと主張する。しかし,前記(1)で認定した 被控訴人と控訴人との間の交渉の経緯及び内容,並びに前記1説示のとおり,本件 ライセンス契約が締結される以前はおろか,現段階に至っても,本件チップセット が本件各特許権を侵害するか否かは明らかではないことに鑑みても,本件基本契約 18条2項に基づく具体的な義務として,被控訴人において,自ら又はイカノス社 をして,Wi−LAN社との間でライセンス契約を締結すべきであったとまで認め ることはできない。
(4) 被控訴人の義務違反について
ア 技術分析の結果を提供すべき義務について
(ア) イカノス社は,平成23年8月及び同年11月,控訴人に対し,技術分析 の結果を報告している。しかし,まず,同年8月の報告(乙20)の内容は,前記 (1)トで認定したとおり,別件特許については,これらの技術を使用していないとの 報告がされたものの,本件特許1,2,4,6及び9については,これらの特許が DSLAMに関連する特許であり,イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技\n術とは無関係であるとの報告がされたのみで,これらの技術を使用しているのか否 かについての報告がなく,本件特許3,5,7及び8については何らの報告もなかっ た。また,同年11月の報告(乙21)の内容も,前記(1)ノで認定したとおり,別 件特許については,これらの技術を使用していないとの報告がされたものの,本件 各特許については,DSLAM送信機の請求項である,CPEの請求項と思われる, DSLAMの実装に固有の要素であり,CPEの実装には見られない要素であるな どという程度の,簡単な意見を付したものにすぎず,およそ本件各特許の有効性や 充足性を判断できる程度の内容とはいえないものであった。そして,被控訴人自ら は,詳細な技術分析を行ったものとはいえないし,本件証拠上,上記イカノス社の 意見を客観的に裏付ける資料の存在も認めることはできない。
(イ) 被控訴人の主張について
a 被控訴人は,この点について,イカノス社において詳細な分析ができなかっ たのは,控訴人が部品表等の必要な資料を提供しなかったことが原因であると主張\nする。 確かに,イカノス社は,被控訴人を介して,控訴人に対し,控訴人の部品表等の\n資料の開示を求めていたものの(前記(1)ケ),本件各特許の有効性,本件チップセッ トが本件各特許権を侵害するか否か等を調査するに当たっての上記資料の必要性は 必ずしも明らかではない。そして,前記(1)ケのとおり,開示を求められた控訴人に おいても,上記資料の必要性に疑問を呈し,イカノス社に対してその意図を確認す るよう被控訴人に求めているところ,イカノス社から上記資料の必要性について回 答がされたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,単にイカノス社が上記 資料の開示を求めていたというだけでは,技術分析における上記資料の必要性を認 めることはできない。
b また,被控訴人は,平成23年10月12日の三者間協議において,Wi− LAN社が,本件チップセットではなく,控訴人の提供するシステムがAnnex. C関連の特許を侵害する旨の主張をしているとの報告がされ,本件チップセット以 外の部分が本件各特許権を侵害しているか否かを検討する必要が生じていたことを 受けて,イカノス社は,控訴人に対し,Wi−LAN社の特許が控訴人のサービス に関連するか否かについての控訴人の解析を共有することを求めたが,控訴人はこ れを拒否したのであって,このように,イカノス社において詳細な技術分析を行う 前提として,回路図等の資料が必要であった旨主張する。 しかし,イカノス社が,被控訴人を介して,控訴人に対し,控訴人の回路図等の 資料の開示を求めたのは,同年2月22日であり(前記(1)ケ),被控訴人から,W i−LAN社が,本件チップセットではなく,控訴人の提供するシステムがAnn ex.C関連の特許を侵害する旨の主張をしているとの報告がされた同年10月1 2日(前記(1)ヌ)よりも前であって,上記資料の開示を求めた時点においては,被 控訴人からは,本件各特許の有効性,本件チップセットが本件各特許権を侵害する か否か等を調査するに当たっての上記資料の必要性が何ら示されていない。そして, 控訴人が,被控訴人及びイカノス社との協議開始当初から,イカノス社に要請して いたのは,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否かについての技術分析 であって(前記(1)ウ),本件チップセット以外の控訴人の提供するシステムが本件 各特許権を侵害するか否かについての技術分析ではないのであるから,イカノス社 が,同年10月26日に,本件各特許が控訴人のサービスに関連するか否かについ ての控訴人の分析の共有を求めたのに対して,控訴人がこれを拒否しているからと いって(前記(1)ネ),本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否かについて のイカノス社による技術分析が不可能になるということはできない。\n
c さらに,被控訴人は,イカノス社製のDSLAM用チップセットが初めて控 訴人に納入されたのは平成23年12月以降のことであるから,イカノス社が技術 分析の結果を提示した同年7月ないし11月の時点において,本件各特許がDSL AMに関連するものであることが分かれば,本件チップセットが本件各特許権を侵 害するか否かに関する見解をそれ以上示す必要はなかった旨主張する。 しかし,イカノス社の報告(乙20,21)自体が客観的な資料により裏付けら れたものとはいえないことは,前記(ア)のとおりである。そして,前記前提事実等 (3)及び(5)のとおり,ADSLサービスにおいてはADSLモデム用及びDSLA M用のいずれのチップセットも使用されるところ,控訴人と被控訴人は,平成22 年12月から控訴人のADSLサービスに係るWi−LAN社との間の本件紛争に ついて協議を重ねていたこと(前記(1)ア),控訴人が,平成23年5月の時点で, 被控訴人に対してDSLAM用チップセットを発注していることに鑑みれば,被控 訴人及びイカノス社は,遅くとも,平成23年11月に行った技術分析結果の報告 の際には,本件DSLAM用チップセットに関してもその見解を示す必要があった ものと認めるのが相当である。
d 被控訴人は,この点について,控訴人作成に係る平成23年5月12日付け DSLAM用チップセットの注文書(甲2)に記載されているように,DSLAM 用チップセットについては,別途協議の上で対応するとして,本件基本契約18条 2項とは別の枠組みで解決されることが,控訴人及び被控訴人の間で合意されてい たのであるから,本件基本契約18条2項を根拠に,本件DSLAM用チップセッ トについても見解を示す義務を負うとすることはできない旨主張する。 確かに,控訴人作成に係る平成23年5月12日付けDSLAM用チップセット の注文書(甲2)の「その他の条件」欄には,「※本注文(Last Time B uy)に対する附帯条件」として,「4:注文日現在,Wi−LAN社と協議中の ライセンス費用は含まれていない。同費用が発生する場合は別途協議の上対応。」 と記載されている。しかし,同日の時点においては,控訴人及び被控訴人間で,W i−LAN社とのライセンス交渉に対する協議が継続しており,Wi−LAN社と の間でライセンス契約を締結してライセンス料を負担することとなった場合には, 本件基本契約18条2項に基づいて,被控訴人にも費用負担が生じ得ることとなる。 甲2の上記記載は,この点を明らかにするために,DSLAM用チップセットの販 売価格にはWi−LAN社と協議中のライセンス費用は含まれていないこと,同費 用が発生した場合には別途協議の上対応することを確認したものにすぎないという べきであって,上記DSLAM用チップセットの注文について,本件基本契約18 条2項の適用がないことを規定したものということはできない。
e 以上によれば,被控訴人の前記各主張は,いずれも採用することができない。
(ウ) 以上のとおりであるから,イカノス社において報告された技術分析の結果 は十分なものであるとはいえず,その他,本件証拠上,被控訴人又はイカノス社が,\n本件各特許の有効性や本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等につい ての見解を,裏付けとなる資料と共に提示したものと認めることはできないから, 被控訴人はこれを提供する義務を怠ったものというべきである。
イ ライセンス料の算定に関する情報を提供すべき義務について
(ア) 控訴人が,ライセンス料の算定に関する情報を必要としていたことは,前 記(1)タ,チ及びテで認定したとおりであるところ,これに対し,イカノス社は,本 件各特許に対する標準的な料率に関する情報を提示することを述べたものの,結局, 合理的なロイヤルティ率については,具体的な数字を提示することは困難であると して,提示することができず,次に,コネクサント社製のチップセットに適用され るロイヤルティ率に基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めようとした が,これについても新たな情報を発見することができなかったと報告するにとど まっている(前記(1)テ)。また,被控訴人自身は,ライセンス料の算定に関する情 報の提供をしていない。 そうすると,被控訴人又はイカノス社から,控訴人に対し,ライセンス料の算定 に関する情報が提供されたと認めることはできない。
(イ) これに対し,被控訴人は,本件各特許についてはITUにFRAND宣言 がされており,Wi−LAN社において,控訴人に対しライセンス料を算定するた めの情報を提供すべき義務があるから,Wi−LAN社から合理的なロイヤルティ の情報が得られれば,もはや被控訴人においてかかる情報を提供する必要はなかっ たし,被控訴人は,平成23年8月の時点で,合理的なロイヤルティが1000万 円程度であることを認識した上で,既にWi−LAN社に伝えているのであるから, 被控訴人においてライセンス料の算定根拠となる資料を提供する義務が生じること はない旨主張する。 しかし,被控訴人が,本件基本契約18条2項に基づき,上記情報を提供する義 務を負うことと,Wi−LAN社に上記情報を提供する義務があるか否かとは無関 係であるから,この点に関する被控訴人の主張は失当である上,Wi−LAN社か らかかる情報が提供されていない以上,被控訴人から情報を取得する必要があった ことは明らかである。そして,控訴人が,Wi−LAN社に対し,合理的なロイヤ ルティは例えば11万USドルから12万USドルの範囲内にあるべきことを主張 したこと(前記(1)ト)に対して,Wi−LAN社からは,本件紛争の解決に対する 見解には大きな隔たりがあるとして,早期解決をする場合にはどの程度の金額の提 示が可能かを2週間以内に連絡するよう,2週間以内に回答がない場合には自動的\nに早期ライセンス交渉は終了するなどと,更なる要請を受けるなどしていること(前 記(1)ナ)からすれば,控訴人には,被控訴人からの合理的なライセンス料の算定根 拠となる資料の提供が必要であったというべきである。 したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 被控訴人は,仮に,被控訴人にライセンス料を算定するための情報を提供 する義務があったとしても,継続的にコネクサント社やイカノス社へ情報提供を要 求していたから,この義務を果たしていたと主張する。
しかし,本件基本契約18条2項に基づく被控訴人の義務は,単なる努力義務で はない。また,控訴人は,本件訴訟において,ライセンス料の算定に関する資料と して,1)Wi−LAN社の提示した特許のロイヤルティ料率に関する実例,2)イカ ノス社が第三者と締結しているライセンス契約におけるロイヤルティ料率の実例, 3)Wi−LAN社が提示した特許と同様の特許権に関する標準的なロイヤルティ料 率を示す実例その他の資料を挙げているところ(これらがおよそ不合理なものとは いえない。),イカノス社が第三者と締結しているライセンス契約におけるライセ ンス料率の実例はイカノス社に回答を委ねるとしても,例えば,本件各特許のライ センス料に関する実例や,本件各特許と同様の特許権に関する標準的なライセンス 料率の資料などは,被控訴人において,自ら,又はコネクサント社及びイカノス社 以外の他社の協力を仰ぎ,資料の収集,調査等を行うことが不可能なものとはいえ\nないから,コネクサント社やイカノス社に対して継続的に情報提供を要求しただけ ではおよそ最善を尽くしたとはいえない。 被控訴人は,この点について,特許ライセンス契約においては守秘義務条項が設 けられており,特に対価や実施料率に関する事項については第三者に開示すること が許容されていないのが一般的であるから,他社の協力を仰いだとしても,資料の 収集を行うことは事実上不可能である旨主張する。しかし,被控訴人において,自\nら,又はコネクサント社及びイカノス社以外の他社の協力を仰いだ事実があること についての具体的な主張立証もない以上,合理的なライセンス料を算定するための 資料の提供義務を負う被控訴人として,およそ義務を果たしたものということはで きない。
(エ) 以上によれば,被控訴人は,控訴人においてWi−LAN社とライセンス 契約を締結する場合に備えて,合理的なライセンス料を算定するための資料を提供 すべき義務を怠ったものといえる。
ウ 小括 以上のとおり,被控訴人は,前記(3)アの1)及び2)の義務をいずれも怠ったもので あり,被控訴人には本件基本契約18条2項の違反がある。
3 争点3(相殺の成否)について
(1) 被控訴人による本件基本契約18条2項違反と控訴人がWi−LAN社に 支払ったライセンス料2億円相当額の損害との間の相当因果関係の成否 ア 控訴人は,平成24年2月23日,Wi−LAN社との間で,本件ライセン ス契約を締結し,同年3月16日,同社に対してライセンス料として2億円を支払っ た。
確かに,前記1のとおり,本件口頭弁論終結時においても,本件チップセットが 本件各特許権を侵害するものであると認めるに足りる証拠がない以上,結果的に見 れば,本件ライセンス契約が締結された時点において,控訴人がWi−LAN社と の間でライセンス契約を締結し,ライセンス料として2億円を支払う必要性があっ たということはできない。 イ しかし,以下の事情を総合すれば,被控訴人による本件基本契約18条2項 違反と,控訴人のライセンス料相当額の損害との間には,相当因果関係を認めるこ とができる。
・・・
(オ) そうすると,控訴人は,未だWi−LAN社による違反調査等が行われる 第2ラウンドに移行しておらず,直ちに差止請求を含む訴訟提起がされる危険性が あるとはいえない状況において,Wi−LAN社からは,本件チップセットが本件 各特許権を侵害していることについて,技術分析の結果等の客観的資料に基づく具 体的根拠が示されているわけではなく,控訴人において,本件チップセットの構成・\n動作と本件各特許発明の各構成要件を逐一吟味した資料等に基づいて,その充足性\nを検討することなく,イカノス社による技術分析への対応等から本件チップセット が本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考え,算定根拠が明らかで\nはないWi−LAN社のライセンス料の提示に対して,その内容を質すこともなく, また,本件ライセンス契約直前にされた被控訴人による制止を顧慮することなく, 本件ライセンス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払ったことになる。この点 については,拙速との評価を免れず,控訴人にも,損害の発生について,過失があ るといわざるを得ない。
イ そして,上記アにおいて説示した事情,前記(1)イ(ア)のとおり,本件ライセ ンス契約の対象には,本件各特許以外の特許が含まれていること,その他本件訴訟 に顕れた一切の事情及び弁論の全趣旨を勘案すれば,損害の発生に対する過失割合 は,控訴人が7割,被控訴人が3割と認めるのが相当である。 ウ したがって,控訴人の被控訴人に対する本件基本契約18条2項の債務不履 行に基づく損害賠償債権を自働債権とし,被控訴人の控訴人に対する本件各物品の 売買契約の代金債権を受働債権とする相殺の意思表示は,2億円の3割である60\n00万円の限度でその効力が生じるものというべきである。

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◆平成24年(ワ)第21128号

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平成29(ワ)27378  特許権持分一部移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月21日  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、東京地裁は、「訴えの利益無し、発明者ではない」と判断sました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。被告Yは本庶教授なのでしょう。

 原告は,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有すると主張す る。しかし,確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し, かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について 判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切な場合に認められ ると解されるところ,本件発明の発明者であることの確認請求は,原告が本件 発明の発明者にあるという事実関係についての確認を求めるものにすぎず,給 付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから, 原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益があるということは できない。 したがって,本件訴えのうち,原告が本件発明の発明者であることの確認を 求める部分は確認の利益を欠き,不適法である。
・・・
上記(2)ないし(4)によれば,1)本件発明の技術的思想を着想したのは,被 告Y及びZ教授であり,2)抗PD−L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教 授及びW助手であり,3)本件発明を構成する個々の実験の設計及び構\築をし たのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の 実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限ら れたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったと\nいうことはできない。 したがって,原告を本件発明の発明者であると認めることはできない。
(6) 原告の主張について
ア 発明者の認定基準について
(ア) 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争い がないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験 を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主 張する。 しかし,前記判示のとおり,発明者と認められるためには,当該特許 請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着 想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に, 発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとして も,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者という ことができないと解すべきである。 原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD−L1抗体の作 製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構\築に対する貢献もごく 限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば, 原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきであ る。
(イ) また,原告は,特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,こ れを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性 が推認されるべきであると主張するが,研究の補助者が特許発明に係る 情報を記載した各種文書を作成・保管することもあり得ることに照らす と,特許発明に関する文書の作成・保管主体をもって直ちに発明者であ ると推認することはできない。

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令和1(ネ)10058  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審の特許権侵害で約9000万の損害賠償が認められ、一部の被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。
 前記認定のとおり,本件地盤特許についてはecoリーフ の下請けであるはなみずきの担当者のFが,本件ナビ特許については リーフの担当者であるE又は代表取締役であるAが,被控訴人に対し,本件各特許権の共有持分を購入すれば,近日中に大幅に価値が上がり,\n高額なロイヤリティを受け取れるなどと虚偽の説明をして購入を勧誘 し,被控訴人から,本件各特許権の共有持分の購入代金名下に合計8 295万円を騙取したものと認められ,これらの行為は被控訴人に対 する不法行為を構成するものと認められる。加えて,(1)このように本件各特許権の持分を細分化して高額で譲渡 するという基本的枠組みは,控訴人X2,日本知財開発及びジンムの 関与がなければ成立し得ないものであるから,Fらが控訴人X2,日 本知財開発及びジンムと無関係に被控訴人に対する上記虚偽の説明を して勧誘を行ったものとは考えられないこと,(2)本件地盤特許譲受申込書(甲3)には,本件地盤特許の共有持分を1口60万円で譲渡す\nることが,本件ナビ特許の特許権譲受申込書(甲5)には,本件ナビ特許の共有持分を1口20万円で譲渡することが記載されているとこ\nろ,いずれの書面にも特許権者及び譲渡者として控訴人X2の氏名及 び日本知財開発の名称が記載されていること,(3)控訴人X2及び日本 知財開発が作成した別件侵害訴訟に関する報告書(甲22ないし24 の2)及び本件ナビ特許に関する報告書(甲27の1ないし3)の各 内容に照らすと,控訴人X2,日本知財開発及びジンムは,Fらが上 記虚偽の説明をして,被控訴人に本件各特許権の共有持分を購入させ たことを認識し,これに積極的に加担したものと認められる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,ecoリーフ,はなみずき,リーフ, 控訴人X2,日本知財開発及びジンムは,被控訴人から本件各特許権 の共有持分の購入代金名下に合計8295万円を騙取したことの全体 について,共同不法行為責任を負うものと認めるのが相当である。 したがって,控訴人らの前記主張は採用することができない。 イ 控訴人X3は,本件については何も知らず,控訴人X2は監督すべき 要注意の人物ではないから,控訴人X3が控訴人X2に対する強い監督 責任を問われるべきものではない旨主張する。 しかしながら,控訴人X3は,ジンムの取締役であり,代表取締役である控訴人X2の業務執行が適正に行われるよう監視すべき義務がある。\nしかるところ,控訴人X3作成の平成29年11月4日付け答弁書(原 審)には,5年前に,控訴人X2から,特許の一部を譲ってその代金が もらえると聞いていたが,訴外鹿島建設との裁判に負けた後は控訴人X 3への説明はなくなった旨の記載がある。上記記載によれば,控訴人X 3は控訴人X2が特許権の共有持分権を譲渡していることを認識してい たことが認められるから,控訴人X2の業務執行について監視を行うこ とが可能であったものと認められる。もっとも,上記答弁書中には,控訴人X3は控訴人X2と別居中である旨の記載があるが,別居が開始し\nた時期やその態様についての記載はないことに照らすと,上記記載から 直ちに控訴人X2の業務執行についての監視が困難であったものと認め ることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人X3は,控訴人X2及びジンムが関与した本件各 特許権の共有持分の不正な販売行為に関し,ジンムの取締役としての控 訴人X2に対する監視義務の履行を怠ったことについて重大な過失があ ったものと認められるから,被控訴人に対し,会社法429条1項に基 づく損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。 したがって,控訴人X3の上記主張は採用することができない。

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◆平成31(ワ)3277

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平成30(ワ)5189  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月19日  大阪地方裁判所

 特許権侵害事件です。争点はいろいろありますが、製造したのは共有者か?、また、101条5号の間接侵害が成立するか?について、大阪地裁(21部)は、いずれも否定しました。

 原告は,被告会社による共有特許権の侵害行為として,被告製品を製造販 売したことを主張し,被告会社が被告製品を販売したことは当事者間に争いがない ものの,被告らは被告会社が被告製品を製造したことを否認している。そして,被 告らは,むしろ,被告製品を製造したのは,共有特許の特許権者(共有者)である 被告P2であり,被告会社が販売したのは,被告P2が製造した製品であるとして, 共有特許権についての消尽の抗弁を主張するが,この点については,原告が否認し, 争っている(争点2)。そこで,事案に鑑み,被告製品が共有特許発明の技術的範 囲に属すると仮定して,争点2から判断する。 この点について,被告P2は,上記被告らの主張に沿う供述をしていることから, この供述の信用性について検討する。また,上述するとおり,原告は被告会社によ る被告製品の製造を特許権侵害行為として主張するところ,その事実が認められる かについても,ここで検討する。
・・・・
(ア) まず,原告は,被告会社の決算報告書(損益計算書)や法人事業概況 説明書(甲34,35,53,54)に不自然な点があると主張し,それと同旨の 供述をしているが,被告会社が被告製品を仕入れた旨の記載部分の信用性が認めら れることは,前記判示のとおりであり,これに反する原告の供述は採用できない。 また,原告は,甲39の被告製品の数量が658袋となっており,甲38記載の 526袋との差は被告会社が製造したものであるとも主張する。しかし,被告P2 は数え間違いによるものであると説明しているところ(乙24,被告P2供述), 被告会社が被告製品の原材料や製造装置等を用意していたことをうかがわせる証拠 がないことは前述のとおりであるし,被告会社が被告製品を製造したことをうかが わせる事実も認められない。したがって,数え間違いであるとの被告P2の説明は 否定し難く,上記事実から被告会社が被告製品を製造したと推認することはできな い。 そして,原告が被告会社の書類について指摘するその他の不自然な点については, 被告P2から裏付け証拠(乙3,16の1ないし16の3)を伴う形で説明がされ ており(乙24,被告P2供述),その説明を否定すべき事情は認められないし, その他に以上の判断を左右すべき証拠があるとはいえない。
(イ) 次に,原告は,被告会社が被告P2の一人会社であることなどを指摘 し,被告P2の行為は法人である被告会社の行為とみるのが自然であるなどと主張 する。しかし,被告P2は被告会社の代表取締役を務める一方で,「ケアシェルサ\nポート」という屋号で個人事業を営んでいるのであり,直ちに原告主張のように解 することはできない。むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は,個人の立場 で,解散会社から被告製品の原材料や製造装置を購入したり,従業員を雇用したり, 本件建物を賃借したりするなどしていると認められるから,これらの事実に照らせ ば,被告P2の行為を被告会社の行為と評価することはできず,これらの事実は被 告P2が個人の立場で被告製品を製造していたことを基礎付ける事実といえる。 この点に関し,原告は,甲52に被告会社が本件建物の6か月分の家賃として6 0万円を支払っていたと記載されていることを指摘し,被告製品を製造する本件建 物の家賃を被告会社が支出していたと主張するが,甲52の記載は誤記と認められ (乙23。なお,甲52には平成28年4月から9月までの家賃の支払が記載され ておらず,甲51の記載との連続性からすると,それ自体,不自然なことであるし, 乙19も踏まえると,誤記であるとの乙23の陳述は信用できる。),原告の上記 主張事実を認めることはできない。
(ウ) また,原告は,被告P2が被告製品の原材料等を被告会社の利益を使 って仕入れていたとして,被告製品の所有権を原始取得するのは被告会社である旨 主張する。しかし,被告会社が被告製品の原材料等を自ら仕入れていたことを認め るに足りる証拠はないし,被告らが取引基本契約を締結し,被告P2が被告会社に 被告製品を販売していたことをもって,原告主張のように評価することはできない。 むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は被告製品を被告会社に販売し,そこ から被告製品の製造に係る経費を回収していたと認めるのが相当である。したがっ て,被告製品の所有権は被告P2が製造することによって発生し,被告会社に販売 されることによって,被告会社がその所有権を取得したものと認められるから,原 告の上記主張は採用できない。なお,被告会社は被告P2が全株式を有する一人会 社であるから(被告P2供述,弁論の全趣旨),被告ら間の取引基本契約ないし売 買契約が民法108条本文や会社法356条1項により無効となることはないと解 される(最高裁昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1305頁参照)。
(エ) 原告は被告会社の従業員数に照らせば,被告会社が被告製品を製造し ていないのは不自然であることも主張するが,被告会社の従業員は,被告P2自身 を除けば,被告P2の妻と,女性1人で,同人らの勤務時間は少なく,被告会社は 「しおさい」の販売業務等も行っているから(乙24,被告P2供述),原告指摘 の点が特別不自然であるとはいえない。 それだけでなく,原告は,被告P2が自ら被告製品を販売せず,被告会社が販売 している点について不自然である旨指摘しているが,被告P2は,顧客が法人から 仕入れたいと要望することがある旨供述しており,この説明自体,不自然,不合理 なものとはいえない。
(オ) 以上より,原告の主張・供述を採用することはできず,原告供述によ って被告会社が被告製品を製造していたことを認めることはできないし,被告P2 の供述の信用性が否定されるともいえない。 エ 以上のことに加え,被告P2の主張・陳述は本件訴訟の提起以来一貫し ていたことも踏まえると,被告製品を自ら製造し,被告会社に販売していた旨の被 告P2の供述は全体として採用することができる。また,原告は被告会社が被告製 品を製造していたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はないから,この原告 の主張は採用できない。
(4) まとめ
共有特許権の共有者である被告P2(ケアシェルサポート)は,原告の同意を 得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有 特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には, 共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原 告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはでき ないものと解される。 なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあっ たが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受け て製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品について も共有特許権は消尽したと解される。 したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範\n囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵 害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。
2 争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5 号の間接侵害が成立するか)について
(1) 原告は,甲4特許発明が方法の発明であることを前提として,被告製品の 販売について甲4特許権に対する特許法101条5号の間接侵害が成立すると主張 する(なお,前記1で判示したとおり,被告会社が被告製品を製造したとは認めら れない。)。これに対し,被告らは,甲4特許発明は物の発明であるなどとして, 同号の間接侵害は成立しないと主張する。
(2) そこで原告の主張について検討すると,そもそも,物の発明と方法の発明 とは,明文上判然と区別され(特許法2条3項),与えられる特許権の効力も明確 に異なっているのであるから(例えば,同法101条,104条,175条2項), 物の発明と方法の発明とを同視することはできないし,物の発明に関する特許権に 方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして,当該発 明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した特許請求の範囲の記載に 基づいて判定すべきものである(同法70条1項参照)(最高裁判所平成11年7 月16日判決・民集53巻6号957頁参照)。 そこで,甲4特許の特許請求の範囲の請求項1を見ると,そこには機能的な表\現 がみられるものの,「…透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」 と明記されており,その文言上,物の発明について記載されたものであることが明 らかである。したがって,甲4特許発明は方法の発明ではなく,物の発明である。 なお,以上のことは,甲4特許の発明の名称が「透析機洗浄排水の中和処理用マ グネシウム系緩速溶解剤」とされていることや,甲4特許明細書の【0001】に 「本発明は個人用透析機排水の中和処理に利用される透析機洗浄排水の中和処理用 マグネシウム系緩速溶解剤に関する。」との記載があること(甲4)からも裏付け られる。また,原告は甲4特許の出願経過に照らし,方法の発明として特許査定さ れたと主張するが,その主張は前述した特許請求の範囲の記載に照らして採用でき ないし,原告は出願当初,マグネシウム系緩速溶解剤の製造方法に係る発明(これ は,物を生産する方法の発明と解される。)についても特許請求の範囲に含めてい たが(乙9),補正によりこれを削除し,さらに用途を限定したところ(乙12, 13),この経緯に照らせば,なおさら採用する余地はないというべきである。
(3) 以上より,甲4特許発明は物の発明であって,方法の発明ということは できないし,これに方法の発明と同様の効力を認める根拠も見出し難い。したがっ て,甲4特許発明が方法の発明であることを前提に特許法101条5号の間接侵害 が成立するとの原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。

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平成30(行ケ)10178  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月24日  知的財産高等裁判所

 インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n

 前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ 「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」, ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の 各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20 11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と の記載があること(画像4)が認められる。 上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分) に更新され,保存されたことが認められる。 したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27 日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公 衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は, 本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願 後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項 目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25 日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同 日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報 の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと (甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契 約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。 また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項 目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書 き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。

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平成31(ネ)10032  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所



 専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。1審は、実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。控訴されましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
 2 実施義務違反の有無について
(1) 被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)
ア 控訴人は,被告製品の製造工程には,稚魚をボイルした後に,粗熱をとって 冷ます工程が入っていることから,本件発明の製造工程に反し,そのことにより, 本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施がされていない旨主張す る。 しかしながら,本件において被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反して いると認めることはできない。 その理由は,後記イのとおり補正し,後記ウのとおり,当審における補充主張に 対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(原判決12頁 19行目から22頁20行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す る。
イ 原判決の補正 原判決22頁15行目及び20行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改め る。
ウ 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否に ついては,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイル した後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れる ことを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れること が許容されることにはならないと主張する。 そして,本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にする\nことを目的とするものであるのに,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は, その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく, 被告製品においてはイノシン酸による旨味成分の維持がされていないことからすれ ば,本件発明の製造工程に従って製造されていないと認めるべきであり,このこと は被控訴人の実施義務の違反を構成すると主張する。\nその上で,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量を示す証拠として,平成3 0年2月1日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第252―\1 号。甲18)及び平成30年3月8日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(2\n9産研分第286号。甲24)並びに被告製品の写真(甲21)を提出する。 しかしながら,甲21の被告製品の写真は,上記各成績表に係る試料となる検体\nを撮影したものであると説明されているものの,上記被告製品は,賞味期限を平成 28年11月19日とするものであり(甲21,24),試験の依頼日である平成3 0年3月5日までに1年3か月以上経過していた。上記被告製品が上記試験までの 間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えら れるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記 試験の結果によれば,イノシン酸の含有量の値が41と低く(甲18),被控訴人に おいて,粗熱を取ったしらすに対し冷凍と解凍を繰り返したときの試験結果(乙6 9)とイノシン酸の含有量の傾向が一致していることからすると,上記被告製品の 保存の状態も,同様に解凍と冷凍をしたものであったことがうかがわれる。 そうすると,上記の試験結果が被告製品の状態を的確に示すものといえるか否か については疑義があり,この疑義を払拭するに足りる的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)\n
ア 控訴人は,被控訴人が本件契約の締結後すぐには被告製品を製造しなかった ことや,その後に支払われた実施料が少額であったことをとらえて,被告製品の製 造販売が実施義務の履行として十分なものでなく,そのことにより,本件契約上専\n用実施権者に義務付けられた本件発明の実施がされていない旨主張する。 しかしながら,本件事実関係の下において,被告製品の製造販売が実施義務の履 行として十分なものでなかったと評価することはできない。\nその理由は,後記イのとおり補正するほかは,判断の基礎となる事実関係につい ては,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)(原判決22頁25行目から28頁1 8行目まで)に記載されたとおりであり,判断については,同第4の2(3)(原判決2 9頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す る。

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原審はこちらです。

◆平成29(ワ)1752

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平成31(ワ)3277  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月29日  大阪地方裁判所

 特許権も不動産のような価値を見いだせる時代になったともいえます。被告は、原告(個人)に対して、「大手建設会社に対して特許侵害訴訟を提起しており、勝訴すれば持分の価値が2,3倍になる」として、証券化した特許の持ち分を販売しました。かかる行為が、嘘を言って勧誘したとして、大阪地裁21部は、支払った額全額の損害+弁護士費用約9000万円の支払いを命じました。

 ア 前記1で認定したところによれば,1)被告P5,被告日本知財開発及び被告 ジンムは,本件各特許権を被告P5と被告日本知財開発の共有とし,これに被告ジ ンムの専用実施権を設定した上で,本件各特許権を細分化して譲渡するという枠組 みを考案したこと,2)この枠組みは,被告日本知財開発を管理委託機関とし,被告 日本知財開発より委託を受けたリーフ,被告ecoリーフあるいはさらにその下請 けであるはなみずきその他が顧客に案内し,代金等を収受するものであること,3) リーフらの担当者又は代表者であるP9,P10,被告P3らは,原告に対し,被\n告ら側が本件地盤特許侵害訴訟に勝訴することや,本件ナビ特許について大手企業 とロイヤリティについて契約したり,多額の対価を得て本件ナビ特許を売却したり することにより,本件各特許権の共有持分の価値が上がり,原告に莫大な利益が還 元されるかのような説明をし,これにより,原告が本件各特許権の持分を購入する に至ったこと,4)原告の前記購入後,被告日本知財開発は,被告P5が作成した報 告書を原告に送付したが,その内容は,前記3)に沿うものであったこと,以上の事 実が認められる。
イ 他方,前記1によれば,原告が前記購入した時点で,1)本件各特許権の残存 期間はごくわずかであったこと,2)被告P5及び被告日本知財開発が被告ジンムよ り専用実施権の対価を得ていたことは認められず,これ以外に,本件各特許権につ いて第三者からのライセンス料が得られるような具体的案件が進行中であった,あ るいは将来的に本件特許権の価値が上昇し,高額で転売し得る見込みがあったこと を示すような客観的証拠は何ら提出されていないこと,3)本件地盤特許については, 権利存続期間満了の直前にこれを無効とする審決があり,本件地盤特許侵害訴訟に ついては請求棄却となっているが,被告日本知財開発やリーフらの関係者が,これ を適切に原告に説明していたとは認められず,かえって,訴訟がうまくいっていな いことを理由に原告に本件地盤特許を本件ナビ特許に振り替えさせ,その際に,新 たに本件ナビ特許の持分を購入させたこと,4)本件で現れたどのような事情を考慮 しても,本件地盤特許の2万分の1の持分を60万円,本件ナビ特許の持分10万 分の1の持分を20万円と評価すべき理由は見出されないこと,5)実際に,被告P 5又は被告日本知財開発が,本件各特許権について,ライセンス収入や損害賠償な ど,持分の譲受人に対し配分可能な収入を得たと認めるべき証拠はなく,3口分の\n解約に伴う返戻金を除き,被告らから原告に金員が支払われた事実がないこと,6) 原告は,持分の転売が可能との説明を受けたが,原告の持分取得については,被告\n日本知財開発が作成した証書に記載されるにとどまり,特許原簿への登録がないた め,権利者としての保護はないこと,以上の点を指摘することができる。
ウ 以上ア及びイで述べたところを総合すると,原告が本件各特許権の持分の譲 渡を受けた際に,リーフ,被告ecoリーフ,はなみずきの担当者又は代表者であ\nるP9,P10,被告P3らがした前記⑴ア3)の説明は,客観的裏付けのない,原 告に金員を出させることのみを目的とした虚偽のものであったといわざるを得ない。 そして,本件各特許権の持分を細分化して高額で譲渡するという基本的枠組みは, 被告P5,被告日本知財開発,被告ジンムの関与がなければ成立し得ないものであ り,前記P9らは,被告日本知財開発らが定めた基本的枠組み,あるいは被告P5 が作成し被告日本知財開発が配布した報告書の内容に沿って案内をしたものと認め られるから,前記P9らが被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムと無関係に, 原告に案内,説明したと考える余地はなく,同被告らは,前記P9らが原告に前記 虚偽の説明をして本件各特許権の持分を取得させたことを認識していたものと認め ることができる。
(2) 共同不法行為の成立について
ア 前記1で認定したとおり,原告に対する本件各特許権の持分の譲渡は,4年 余りの間,13回にわたって行われたものであり,前半は本件地盤特許について, 書面上は被告ecoリーフを譲渡店とし,その下請けのはなみずきを介して行われ, 後半は本件ナビ特許について,書面上はリーフを譲渡店として行われたものである。 しかしながら,既に検討したとおり,本件地盤特許と本件ナビ特許の各持分の譲 渡は,いずれも被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムが設定した同様の枠組 みに従って行われており,また本件地盤特許侵害訴訟がうまくいかなくなるや,そ れを契機として本件ナビ特許の案内を行い,原告にその持分を取得させているので あるから,本件地盤特許の持分の譲渡も,本件ナビ特許の持分の譲渡も,全体とし て一連のものとして行われたというべきであり,被告P5,被告日本知財開発,被 告ジンム,リーフ,被告ecoリーフ及びはなみずきの責任を,本件地盤特許の持 分の譲渡と,本件ナビ特許の持分の譲渡とに分断して考えることはできない。 そして,前述のとおり,原告が被告ecoリーフの下請けであるはなみずきのP 9から本件地盤特許について虚偽の説明を受け,リーフの担当者であるP10又は 代表者である被告P3から,本件ナビ特許について虚偽の説明を受けたことにより,\n代金及び手数料を支払ったことが認められ,被告P5,被告日本知財開発及び被告 ジンムはこれを認識していたと認められるのであるから,被告ecoリーフ,はな みずき,リーフ,被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムは,原告が,虚偽の 説明により,本件各特許権の持分代金及び手数料の名目で金員を詐取されたことの 全体について,共同不法行為責任を負うというべきである。
イ また,本件各特許権の持分譲渡受申込要項(甲3,26)には,権利金の支\n払は保証するものではない旨の記載があり,リーフが書証として提出するチェック シート(乙4の1)には,原告により,平成27年1月22日に本件ナビ特許の持 分を譲り受けた際に,権利金は現在未確定である旨の説明を受けたこと,説明中に 断定的な収入例,又は誇大表現で収入例を強調されていないこと等のチェック欄に\nつき,いずれも「はい」の欄に丸が付けられている。 しかしながら,このような形式的記載によって,前記検討した上記被告らの不法 行為責任は,左右されるものではない。

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平成29(ワ)12529  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月16日  大阪地方裁判所

 専用実施権の侵害が否定されました。争点は、チャック爪の交換が新たな生産に該当するかですが、そもそも、被告はかかる交換行為があったことが立証されていないと判断されました。

 原告は,被告が本件発明の構成部材である本件機械のチャック爪を少なく\nとも20回修理交換したとして,その行為は本件特許の実施品の生産行為に該当す ると主張している。 そして,原告は被告に対して平成27年2月20日頃,チャック爪を2個販売し, 被告はその数年後,これを使用して本件機械のチャック爪を交換したことを認めて いるが,原告はこの交換が本件特許の専用実施権の侵害に当たるとは主張していな いから,原告の損害賠償請求や差止請求との関係では,被告がこれ以外に本件機械 のチャック爪を交換したかどうかが問題となる。
(2) そこで,原告の主張する事実が認められるかを検討すると,まず原告の主 張を直接裏付ける証拠があるわけではない。 また,そもそも本件機械のチャック爪は,原告が図面を作成した上で,鉄工所に 委託して製造しているもので,汎用品ではない(原告代表者供述)から,被告が原\n告からチャック爪を購入せず,また原告に依頼せずにチャック爪を交換するために は,被告がチャック爪を自作するか,原告以外の第三者に製造を委託するなどして チャック爪を調達してくる必要がある。しかし,原告以外の者が本件機械のチャッ ク爪を製造していたことを認めるに足りる証拠はないから,そのような証拠状況の 下で,被告が,原告から購入したチャック爪を使用した交換以外にチャック爪を交 換したと推認することはできない。 さらに,原告はチャック爪は少なくとも7000mの掘削を施工するごとに修理 交換する必要があるという前提で,被告が本件機械を使用して合計13万2800 mの掘削を行ったと主張しているが,被告はこれを否認している。原告が主張する 修理交換の頻度については,客観的かつ具体的な裏付けがあるわけではないし,こ れを措くとしても,原告において被告が本件機械を使用して施工した杭引抜き工事 が多数あることを具体的に主張立証しているわけではないから,被告が平成27年 2月20日頃に購入したチャック爪を使用した交換以外に,本件機械のチャック爪 の交換を必要とする状況があったことの立証もされていない。
以上の事実を総合すると,被告が,原告から購入したチャック爪を使用した交換 以外に本件機械のチャック爪を交換していた事実を推認することはできず,その他 に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。 なお,原告が指摘するように,被告取締役は,本件機械の平爪よりもさらに先に 設置されている爪を頻繁に交換したことを認めているが,その爪はチャック爪より も先端側に設置されていて,掘削作業により摩耗し得るものであって,チャック爪 の外側にはガードフレームやガード板が設置されていることを踏まえると,上記の チャック爪とは別の爪を頻繁に交換していることから,直ちに原告主張の事実が推 認されるとまでいうことはできない。
(3) そうすると,争点2について判断するまでもなく,被告において原告が有 する本件特許の専用実施権を侵害する行為をしたとは認められない。したがって, 原告による損害賠償請求及び差止請求には理由がないことになる。
・・・・
2 争点4(原告と被告は,被告が本件機械を使用する杭引抜き工事を受注した ときに使用料を支払う旨の本件使用料合意をしたか)について
(1) 原告は,被告との間で,被告が本件機械を使用する杭引抜き工事を受注し たときは,工事代金額の5%(消費税別)を使用料として支払う旨の本件使用料合 意が成立したと主張し,原告代表者はこれに沿う供述をしている。そこで,以下,\nこの供述の信用性について検討する。
ア まず,被告は原告から本件機械を代金420万円(消費税込)で購入し て本件機械の所有権を取得し,本件機械を自由に使用収益することができる立場に あるから,被告が本件機械を購入したにもかかわらず,これを使用する都度,原告 に対し使用料を負担することは,直ちに経済合理性があるものとはいえず,特段の 合意としての本件使用料合意が,明確に立証されなければならない。 この点につき,原告代表者は,被告との間の合意の前提として,本件特許の特許\n権者との間で,本件機械を使用して杭引抜き工事を施工した場合には,特許使用料 を支払う旨合意しており,現にこれを支払っていたなどと供述している。しかし, 原告と本件特許の特許権者との間の合意の存在を直接裏付ける証拠は何ら提出され ていない。 そして,原告の主張立証によっても,被告が原告主張の合意をすることが経済的 に合理的といえる程の事情は明らかとなっていないといわざるを得ない。
イ また,本件売買契約に際しては,注文書と注文請書が作成され,これに は「ケーシングを販売するにあたり,類似品作成はご遠慮願います。」とか「ケー シングの販売後,修理不可能になった場合は,スクラップ処理願います。」とか「ケ\nーシングは(株)大枝建機工業様以外の使用はご遠慮願います。」との記載がされ ている(甲3,乙4)一方で,原告主張の使用料に関することは何ら明記されてい ない。それだけでなく,注文書や注文請書には,被告が本件機械を使用する杭引抜 き工事を受注したことを原告に対して報告しなければならないということさえ記載 されていない。 上記注文書と注文請書は,その性質上,それらが相手に交付され,その内容が一 致していれば,契約当事者における合意内容になると考えられる。そうすると,上 記認定の注文書等の記載内容は原告と被告の合意内容になるが,そこには原告主張 の使用料に関する記載はなく,そのことは,原告と被告との間でそのような合意が されなかったことを強くうかがわせるものといわざるを得ず,原告代表者の供述と\nは必ずしも整合しない。原告代表者は,業界では契約書や合意書等の書面を作成し\nないのが通例であるとか,書面で契約書を交わすというのが知識としてなかったな どと供述しているが,上記注文書等には上述した別の合意の内容が記載されている ことに照らし,採用できない。
ウ さらに,原告代表者の供述は,本件機械の販売後の原告の行動と必ずし\nも整合しない。すなわち,原告は被告に対して4件の杭引抜き工事を発注し,各工 事では本件機械が使用されたところ,原告は被告が本件機械を使用したことを当然 に認識し得たのであるから,本件使用料合意が成立していたのであれば,これに基 づく使用料を請求するか,原告が被告に対してその工事の代金を支払う際に,使用 料相当額を相殺処理するなどして精算することは容易であった。しかし,原告は各 工事の代金を支払う際に,いずれも使用料の精算をすることなく工事代金の全額を 支払うのみならず,未払の使用料がある旨を被告に指摘した事実も認められないの であって,これらの事情は,原告代表者の供述と必ずしも整合しないといわざるを\n得ない。 この点に関し,原告代表者は,事務員が被告への工事代金の支払に当たり,使用\n料を差し引くのを漏らしていた旨供述しているが,原告による工事代金の支払はそ の請求時期(平成28年6月20日ないし平成29年4月20日)に近接した時期 に3回に分けて行われたと推認され,毎回処理を漏らしていたとするには疑問があ るし,その時期は,後記エで検討する他の業者への使用料支払請求の時期(平成2 8年8月22日。甲8,9)とほぼ同じ時期であることに照らせば,原告代表者の\n上記供述を直ちに採用することはできない。
エ 原告は,原告からケーシングを購入した他の業者が,それを使用した工 事を受注した際に,工事代金から使用料を控除することによって,使用料を支払っ たことを主張している(甲8ないし10)。しかし,これは被告とは別の業者の話 にすぎず,このような事実があったとしても,直ちに被告との間で本件使用料合意 が成立したと推認することはできない。そして,上記ウのとおり,被告は原告から, 使用料を控除されることなく工事代金全額の支払を受けるなど,異なる事実関係が 認められるから,上記事実から,被告との間に本件使用料合意が成立したと推認す ることは困難である。 なお,原告代表者は,本件売買契約の後に,被告取締役が被告において使用料を\n支払う義務があることを認めていた旨を供述するが,被告取締役はこれを否定して おり,原告代表者の上記供述以外にこれに沿う証拠は何ら提出されていないから,\n上記のような事実を認めることもできない。
オ 以上のように,原告代表者の供述は,本件売買契約に際して作成された\n注文書等の記載内容や原告自身の行動と必ずしも整合しないから,これによって本 件使用料合意の成立を認めることはできないというべきである。
(2) 本件においては,他に本件使用料合意の成立を認めるに足りる証拠は提出 されていないから,この点についての原告の主張を認めることはできず,本件使用 料合意に基づく使用料の請求は理由がない。

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平成30(ネ)10024  特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。

 特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが できる旨を規定する。 ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的 思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許 発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」 とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」 といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発 明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想 を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当 である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし, 1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動 画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。 これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月 30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年 2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が 付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する 方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年 ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して 本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経 緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告 らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた ことが認められる。 そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2) 認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関 与する行為に当たるものと認められる。 したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133) であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加 工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認 められる。 そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島 工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと, これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し て,英国子会社に移管されたことが認められる。 したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間, 福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋 状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを 設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから 平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を 実施していたことが認められる。 上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告 らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利 を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると, 1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し, 当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代 表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに 対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点), 5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線 材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張 していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理 士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している 点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説 明がされていない。 しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張 に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H 部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005 年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4 3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」 との記載部分がある。 しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定 することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告 代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に これを認めるに足りる証拠はない。 また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯 を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。 (ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。 しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており (前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2 (5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材 料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造 方法等について知識を有していたものと認められる。 そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造 状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場 では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至 ったものと推認することができる。 そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の 線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般 的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告 代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原 告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2)) を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認 めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前 の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許 法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指 摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1 審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事 実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば 容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと 認められる。 そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な 行為に当たるものと認められる。 705/088705

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平成30(行ウ)424    その他  行政訴訟 令和元年6月18日  東京地方裁判所

 特許法112条の2第1項の正当理由について、判断基準として「一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるか」であると示し、今回のケースは該当しないと判断されました。

 特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したもの とみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納する ことができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについて の「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特 許料等を追納することができると規定する。 この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第 1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の「責 めに帰することができない理由」により追納期間内に特許料等を納付できなか った場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能\nとすることを目的として,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき, 特許法条約の規定を踏まえて「Due Care(相当な注意)」の概念を採用 したものであると解される。 これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があ るときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求め られる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な 事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特 許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。 原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4 年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によ って,本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をした と主張する。 しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,ま た,特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されて いなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気 力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の 納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール 及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のもので あり,その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみが あった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手 続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のもの が含まれていた。
更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務 所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書 等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれ に気付くことはなかった。 これらによれば,本件注文書に「2013年11月15日付けの最終連絡に 基づく」旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許 権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付 をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する 原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわ らず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付 の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を 指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然 あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件 において,一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと 認められる客観的な事情があるとは認められない。 これに対し,原告らは,本件特許事務所は世界的なランキングに掲載される 有力な事務所であり,年金納付が確実に行われるように体制を整備していたの であって,そのような外部組織を適切に選任した以上,原告らには特許法11 2条の2第1項の「正当な理由」があるなどと主張する。 しかし,前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が 明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書 の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したこ とによって「正当な理由」があるとはいえない。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」(特許法112条の2第 1項)があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。

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平成30(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 期間徒過後に、拒絶査定不服審判を請求しましたが、この却下処分について取消訴訟を提起しました。知財高裁は、「責めに帰すことのできない事由」ではないと判断しました。経緯はややこしいです。ある出願Aについて拒絶査定がなされたので、分割出願Bをしました。ところが、この出願Aは3代目の分割出願であり、拒絶査定不服審判と同時でないと分割出願ができない旧特許法44条が適用されるものでした。特許庁は、分割出願Bについて、特18条の却下処分を通知しました。出願人は、期間徒過後に、拒絶査定不服審判の請求とともに、分割出願Cをしましたが、拒絶査定不服審判の請求が審決却下されました。

 特許の出願人が在外者である場合,拒絶査定不服審判請求や分割出願を行 うためには,特許法施行令1条1号に定める場合を除いて,特許管理人たる代理人 を選任する必要があるが(特許法8条1項),その場合であっても,同在外者は, 誰を代理人に選任するのかについて,自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選 択することができる。そうすると,出願人から委任を受けた代理人に「その責めに 帰することができない理由」があるといえない場合には,出願人本人に何ら落ち度 がない場合であっても,特許法121条2項所定の「その責めに帰することができ ない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同 33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。
(2) 本件においては,前記第2の1のとおり,D弁理士は,本願からの分割出 願について,特許法44条1項3号の適用があり,拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し,拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してし まったものである。 弁理士法3条によると,弁理士には,業務に関する法令に精通して,その業務を 行う義務があるところ,通常の注意力を有する弁理士が,通常期待される法令調査 を行えば,本件拒絶査定後,本願から適法に分割出願を行うためには,拒絶査定不 服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能\であっ たと認められる。したがって,D弁理士が上記のように誤信をしたことは,弁理士 として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外 の他の本件代理人らについても,いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である 以上,適宜,必要な処置を講じて,本件のような過誤の発生を防止すべき義務があっ たといえ,D弁理士同様,弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかった ものというべきである。 以上のとおり,本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない 以上,本件において,特許法121条2項にいう「その責めに帰することができな い理由」があったとすることはできない。
(3)ア 原告は,本件代理人らの過誤は,原告本人にとって思いもかけないこと であり,外国法人である原告本人が,非本質的な手続である本件審判請求について の本件代理人らの過誤を防ぐことは不可能であったことなどから,「その責めに帰\nすることができない理由」があると主張する。 しかし,本件審判請求が,分割の機会を得るためだけにされたものであるとして も,そのことによって「その責めに帰することができない理由」があるとすること ができないのは,前記1(2)エで述べたとおりである。 また,前記(1)のとおり,原告本人は,自らの経営上の判断として,本件代理人ら に委任したのであるから,原告本人には過失がなかったとしても,自己が委任した 本件代理人らに過失がある以上,「その責めに帰することができない理由」はなかっ たと判断されるのもやむを得ないものというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件分割出願1と本件分割出願2が同内容であることからする と,失効した権利の回復を無制限に認めることにはならず,また,第三者の監視負 担が増大することはないと主張するが,そのような本件における個別具体的な事情 を理由に,「その責めに帰することができない理由」があるとすることはできない。

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平成29(ネ)10090  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年4月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。

 実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた 製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性 が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク 試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30 秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試 験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による 判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経 過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に, 湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。 なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や, 203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。 乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品 や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと 推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様 に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発 明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分 含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった 可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件 発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分 含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル 薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含 量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制 し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的 思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及 びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定 められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の 添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加 剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの 管理湿度などは不明である。 そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,● ●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量 が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水 分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており (乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の 管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は, サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5 〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分 含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲 内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水 分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存 在しない。 そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発 明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治 験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。 しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠 剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して いたといえるものではない。 したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量 を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し ていた旨主張する。 しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程 度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり, 控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量% の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2. 9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1. 5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評 価できるものでもない。 したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明 2と同じ内容の発明であるということはできない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)

 本件出願日(平成24年8月8日)までに,被 告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg 製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事 業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に 認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題 となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ, 水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分 含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の 提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少 なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水 分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの 条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及 び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。 しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号: PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30 3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が 経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状 態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値: 75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して, 乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが, 上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること を直接裏付ける証拠はない。 かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被 告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年 以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分 含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が 高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を 収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材 料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加 しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の 実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告 錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提 とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg 錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠 はないものというべきである。

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平成27(ワ)4292  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月28日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。大阪地裁は、特許侵害として、差止請求および総計3.3億円の損害賠償請求を認めました。争点は、間接侵害、サポート要件、進歩性違反などたくさんあります。この事件は控訴されており、知財高裁の特別部での審議が発表されています。大合議事件にされた理由は、下記でしょうか?\n

 「共同不法行為が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連 共同性が認められる場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認めら れる場合など,各侵害者に,他の侵害者による行為によって生じた損害についても 負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきで ある。そして,例えば,製造業者が小売業者に製品を販売し,これを小売業者が消 費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,製造業者と小売業 者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても, これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると\nはいえない。
・・・
被告アンプリーは,被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ,これを被告リズ ムに転売していたところ,被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売 する商品の相談をしており,その中で被告製品8を仕入れることになり,被告リズ ムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の 1)。これに対し,被告アンプリーは,OEMメーカーではあったが,被告リズム の創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し,販路として育成していこ うと考え,被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付け の企業にし,被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのであ る(乙B13の1,弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟では,被告アンプリーは被 告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで 主張しているのであり,被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあっ たと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして,被告リズムによる売上額は 3億円を超えており,被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており,他の被 告の他の製品の売上額と比較しても,桁違いに売上額が大きい。このような売上げ を上げることができたのは,以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関 係性があったからであると推認され,両社は相互に利用補充しながら,被告製品8 の製造,販売をしてきたということができる。したがって,両社の行為には,客観 的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為が成立するというべきである。 これに対し,被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると,被 告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの,被告ネオケミアは他にも 自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1,3,4及び15)を 製造するなどし,被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。この ような実態に照らせば,被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあ ったとはいえないし,同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるな どともいえない。 以上より,被告製品8に関し,被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同 不法行為が成立する。」

◆判決本文

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平成29(ワ)1752  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年2月28日  大阪地方裁判所(26部)

 専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。

 原告は被告が実施義務を負っていることを前提として,それに違反した債務不 履行があると主張している。 確かに,本件契約には,被告の実施義務を定めた条項は設けられておらず,被告 が本件特許の実施に努めることさえも規定されていない。 もっとも,本件契約は専用実施権設定契約であり,被告は本件契約に基づき本件 特許の専用実施権を取得し,本件特許を独占的に実施し得る地位を獲得するのに対 し,原告は本件契約を締結することによって,本件特許を実施することや他の者に 実施許諾することができないにもかかわらず,特許維持費用の支払義務は負うとい う立場に立つことになる。また,本件契約では,イニシャルペイメントが「0円」 と明記され,またランニング実施料の金額も,実施の有無にかかわらず一定額が支 払われる条項とはされず,被告が販売した本件特許権に基づく製品の販売価格に所 定の割合(2ないし5%)を乗じた額とするにとどめられていたから,原告は,被 告が本件特許を実施しないことには,実施料の支払を全く受けられないことになる。 本件契約の当事者である原告と被告が置かれる以上のような状況を踏まえると, 専用実施権者である被告は,本件特許の実施が可能であるのに,それを殊更に実施\nしないとか,その実施に向けた努力を怠るなどということは許されず,信義則に基 づき,本件特許を実施する義務を一定の限度で負うと解すべきである。 もっとも,上述したように,本件契約では被告の実施義務に関係する条項は何ら 設けられず,またランニング実施料の金額も販売価格に一定割合を乗じた額とする にとどめられており,被告としては製品が販売できた場合にのみ実施料の支払負担 が発生するにとどまるというリスク負担を前提に本件契約を締結したものであるか ら,本件特許を実施した製品を製造販売するための努力の程度について被告に過大 な義務を負わせることは相当でない。また,被告は本件特許の製造法によって製造 したしらすを製造販売することによって本件特許を実施することになるが,本件特 許は解凍後真空包装し,加圧加熱処理することをも構成として含むものであり,被\n告はそれを行うための機械を有していなかったから,そのための準備期間が不可避 的に生ずるし,結果的に,商品が消費者に十分受け入れられず,思うように商品が\n販売できないなどという事態も生じ得る。 以上のような本件の事情を考慮すると,被告が本件特許の実施義務を負うといっ ても,本件特許を実施するために必要な事項等を踏まえつつ,その時々の状況を踏 まえ,特許の実施に向けた合理的な努力を尽くすことで足りると解するのが相当で ある。
(3) 被告の実施義務違反の有無
ア 上記(2)のような観点から,被告が本件特許の実施のための努力を怠ったといえるかを検討すると,前記(1)で認定した事実によれば,被告は,平成26年3 月28日に本件契約を締結した後,速やかに,自社ではできないパック詰め作業を 委託する業者を探して,同年5月22日までにはその目途をつけた後,パッケージ 等の製造や,そのデザインを別の業者に依頼し,同年10月末までにその目途をつ けて,製造の準備をほぼ整えたと認められる。また,被告は,以上のような製造に 向けた準備と同時並行で,元々取引のあった愛媛県内のスーパーやデパートに本件 特許の製造法によって製造したしらすの販売を持ちかけたり,P4に対してその販 売の取次を依頼したりし,幅広く本件特許の製造法により製造したしらすを販売す るための交渉等を進めたが,成果は芳しくなく,その後,同年12月までには「婦人画報」への掲載が決まり,平成27年3月には商品の製造を開始し,同年4月頃 に販売された「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,実際に その販売が開始されるに至ったのである。以上のように,被告は,本件契約の締結 後,本件特許の実施に向けた準備を進め,実際に,実施にこぎつけたと認めること ができる(なお,被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反すると認められな いことは前記1で判示したとおりである。)。 イ もっとも,本件契約の締結から商品の製造や販売開始まで1年程度要し ていることから,被告が前記(2)で判示した本件特許の実施のための努力を尽くした といえるかを検討する。
(ア) 確かに,被告代表者自身も陳述書(乙40)において,「準備に思った\nより時間…が掛かりました」と述べているように,製造販売の準備行為に相当の時 間を要しており,さらに早期に商品の製造や販売の準備を整えることができた可能\n性も否定はできない。 しかし,被告は,パック詰め作業をする設備機械を保有していなかったのである し,パッケージ等の製造も他の業者に委託しなければならなかったのであるから, 製造準備を整えるまでに前記のような期間を要したことが,本件特許の実施を不当 に遅延したとはいえない。また,前記認定の経過によれば,被告が実際に被告製品 の製造を開始したのが平成27年3月となったのは,当初の地元のスーパーやデパ ートへの営業が販売価格の面で折り合わず,芳しくなかったが,同年4月頃に販売 される「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,それを見た消 費者に対する販売が相当程度見込まれたからと推認される。そして,被告も営利企 業として事業を営んでいる以上,ある程度まとまった販売が見込まれない段階で商品の製造を開始することは現実的ではないし,信義則上も被告にそれを強いること は相当とはいえないから,被告が結果として,ある程度まとまった販売が見込まれ るに至った同年3月から商品の製造を開始したこと(それまでは本件特許の製造法 によるしらすを製造しなかったこと)が,製造販売への努力を不当に怠ったという ことはできない。
以上によれば,製造販売の準備行為に時間を要したことによって製造開始が遅れ たとまで認めることはできないし,平成27年3月からの製造開始となったことが 被告の努力が足りなかったことによるものと認めることもできない。 また,製造販売を開始した後の販売状況も,決して順調とはいえないものではあ るが,被告は,Smile Circle株式会社以外の取引先にも営業を行って少量ながら取 引をしていることからすると,販路拡大のための努力を不当に怠っていたと認める ことはできない。

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平成30(ネ)10046  承継参加申立控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年2月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 冒認による特許の移転登録を求めましたが、知財高裁は1審と同様に、これを棄却しました。
2 本件各発明の内容は前記1のとおりであるが,本件各発明が控訴人の従業員 によって発明されたと認めることができるかについて,以下検討する。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と控訴人発明とを対比する。
(ア) 本件発明1と対応する控訴人発明は,別紙「控訴人発明と本件特許権 1との構成要件の対比」の対比表\の「控訴人の発明内容」欄記載の発明であるとこ ろ,同記載によると,控訴人発明が共通構成1を具備していないことは明らかであ\nる。 すなわち,共通構成1の構\成は,別紙「控訴人発明と本件特許権1との構成要件\nの対比」の対比表の「請求項の内容」欄のうち,「請求項1」の上から3番目及び\n4番目の欄,「請求項2」の欄,「請求項3,請求項4」の欄,「請求項3」の欄、 「請求項5」の欄、「請求項6」の欄,「請求項7」の上から2番目の欄,「請求項 8」の欄,「請求項9」の上から3番目の欄,「請求項10」の欄,「請求項11」 の上から2番目の欄,「請求項12」の欄,「請求項13」の上から2番目の欄に記 載されているが,同構成に対応する「控訴人の発明内容」欄に記載された構\成は, 共通構成1の「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の変化に応じて,複数の,前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記携帯端末装置に提供する」\nこと(「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の送信に応じて,複数の, 前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記情報処理装置から受信する」こと) と同一でないことは明らかである。また,上記対比表の「控訴人の発明内容」欄の\nその他の欄の記載に係る構成中に,共通構\成1と同一の構成が存在すると認めるこ\nともできない。
(イ) 控訴人は,控訴人発明は,起動情報として,1)画像情報,2)位置情報 及び3)識別情報を用いている旨主張する。 しかし,共通構成1は,起動情報として,上記の三つの情報を含むというだけで\nはなく,これらの三つの情報の順の変化に応じて,複数のコンテンツを提供すると いう構成であるから,控訴人の上記主張を踏まえて控訴人発明の構\成を特定したと しても,控訴人発明の構成は,共通構\成1と同一であるとはいえない。 イ 前記アのとおり,控訴人発明の構成は,本件発明1の構\成と異なるので あるから,その余の点を検討するまでもなく,本件発明1は,控訴人の従業員に よって発明されたと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)7906

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平成29(ネ)10049等  損害賠償請求控訴事件,同反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月26日  知的財産高等裁判所(2部)  東京地方裁判所

 共有者の一部による実施が、特許法73条2項の「別段の定」に違反しないかが争われました。裁判所は、事前の協議及び許可を要する制限があったと判断しました。
1 争点(1)ケ(特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無)について
(1) 事案に鑑み,争点(1)ケから判断する。
特許権の移転は,相続その他の一般承継によるものを除き,登録しなければ,そ の効力を生じないから(特許法98条1項1号),被控訴人は,本件特許権1の特 許権者(共有持分権者)である(甲1)。 控訴人は,被控訴人の特許法98条1項1号を根拠とする主張は,時機に後れた 攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,被控訴人が本件特許権1に係 る特許原簿に特許権者(共有持分権者)として登録されていた事実(甲1)は,既 に訴状において控訴人が主張していたのであり,控訴人において被控訴人は無権利 者である旨の主張をする際にあらかじめ検討しておくべき事項であるから,上記主張は採用できない。 また,控訴人は,特許法98条1項1号は,通常の特許権の移転について登録を 効力発生要件としたものであって,本件のように,移転が解除されたことにより特 許権が譲受人から譲渡人に対し復帰的に物権変動するときには登録は不要であるな どと主張するが,同号は,相続その他の一般承継による移転には適用されない旨を 明示した上で,「特許権の移転」を対象としていること,同法74条2項は,特許 がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき (同法123条1項6号)であっても,その特許に係る発明について特許を受ける 権利を有する者の請求に基づく特許権の移転の登録があったことを要件として,そ の特許権が初めからその登録を受けた者に帰属していたものとみなすとしているこ とに照らすと,本件には同法98条1項1号の適用がない旨の主張は採用できな い。 そうすると,特許法73条2項の「別段の定」をした場合を除き,被控訴人は, 他の共有者の同意を得ないで,本件発明1−1の実施をすることができるから,続 いて,本件4者間の「別段の定」の有無を検討する。
(2) 控訴人は,本件共同出願契約書13条は,本件固定的役割分担合意を規定 するものであり,本件固定的役割分担合意の一部が特許法73条2項の「別段の 定」に該当すると主張するところ,前記第2の2(4)のとおり,本件共同出願契約 書には,中国語で記載され,作成日付及び本件4者の署名があるもの(甲6契約書)と,日本語で記載され,作成日付及び本件4者の署名がないもの(甲5契約 書)とがあるが,甲6契約書には作成日付及び署名があることに加え,B及びAが 中国語を理解し日本語を理解しないこと,甲6契約書は被控訴人従業員が中国語に 翻訳したものであり,控訴人も中国語を理解すること(以上の事実につき,証人 E,弁論の全趣旨)を併せ考慮すると,本件4者は,作成日付及び署名がある甲6 契約書をもって,本件共同出願契約を締結したと認めるのが相当である。
(3) 前記第2の2(4)ア(ク)のとおり,甲6契約書13条には,「事前の協議・ 許可なく,本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し,又は生産・販売行為を行 った場合,本件の各権利は剥奪される。(甲,乙,丙及び丁の全員が対象である)」と記載されている。 同条の「生産・販売行為」の対象は,その文理に照らし,「本件の各権利(本件 特許権)」の実施品であると合理的に解釈できるから,同条は,契約当事者間にお いて「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生産・販売行為を制限する趣旨の 条項である。そうすると,契約当事者の合理的意思として,同条の「事前の協議・ 許可なく」とは,「事前の協議及び許可なく」の意味であると解釈でき,同条の 「生産・販売行為」とは,「生産又は販売行為」の意味であると解釈できる。前者 では「・」を「及び」と解釈し,後者では「・」を「又は」と解釈することになる が,いずれも契約当事者の合理的意思に沿うものであり,矛盾はない。また,前記 第2の2(4)ア(ア),(イ)によると,本件特許権1は,甲6契約書にいう「本件特許 権」に該当する。
以上によると,同条は,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産 又は販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとして制限するも のであるから,特許法73条2項の「別段の定」に該当する。 そして,前記第2の2(5),(6)のとおり,被控訴人は,平成28年4月以降,日 本において,本件製造会社に本件発明1−1の実施品である被告各商品を製造さ せ,被告各商品を独自に販売しているが,これについて,事前の協議及び許可を経 たことは,本件全証拠によっても認められない。
したがって,被控訴人が,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社に 本件発明1−1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売し たことは,「別段の定」である甲6契約書13条に違反するものである。
(4) 被控訴人は,本件共同出願契約書7条には,本件発明の実施は,協議によ り別途定める旨の規定があるから,本件共同出願契約には,製造,販売等について の何らかの役割分担に関する合意は含まれないことが明らかであり,同契約書13 条は「別段の定」を規定したものではない旨の主張をする。 しかし,前記第2の2(4)ア(オ)のとおり,甲6契約書7条は,「甲,乙,丙及び 丁は,本件発明の実施に対する協議の後,別途に定める。」と規定するものである から,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産 及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとすることと矛盾 するものではない。 そして,1)Bが中国国内の工場で本件発明1−1の実施品を製造し,2)これをA が梱包し,3)これを控訴人が仕入れ,4)さらに被控訴人がこれを日本に輸入して販 売するという本件販売形態が本件共同出願契約締結後,長年にわたり続けられてき たことは,当事者間に争いがないから,本件販売形態は,同契約書13条の「事前 の協議・許可」を経たものということができる。このように,製造,販売等につい ての役割分担を含む本件販売形態については,同契約書13条の「事前の協議・許 可」を経たものであるから,同契約書13条と矛盾するものではない。 また,前記第2の2(4)ア(カ)のとおり,甲6契約書8条は,「甲,乙,丙及び丁 は,他の全ての当事者の同意を得なければ,本件特許権を乙,丙及び丁が自ら経営 する法人以外の第三者に譲渡し,或いは本件発明の実施を許諾してはならない。」 と規定するものであるから,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許 発明の実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要する ものとすることと矛盾するものということはできない。本件共同出願契約書を起案した弁護士が,甲6契約書8条と概ね同様の共同出願契約書案8条の「乙,丙及び 丁のいずれかが主体となって事業を営む法人」という文言に添えたコメントには, 「X様やA様,B様が経営している会社については,同意がなくても製造販売等が 可能です。」と記載されているが(甲49),本件4者が合意に達した甲6契約書で\nはなく,契約書作成過程の書面に付されたものにすぎないし,契約当事者のうち被 控訴人を除く控訴人ら3者が自然人であったことから,控訴人ら3者が将来的に法 人化して事業を営む際にも支障が生じない旨を説明したものと理解できるから,上 記コメントにより,甲6契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の 実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要することを 定めたものではないということはできない。 さらに,本件共同出願契約には,靴紐の購入単価又はその決定方法についての条 項はなく,被控訴人が控訴人から靴紐を購入しなければならないことを規定する条 項もないからといって,甲6契約書13条についての上記判断が左右されるもので はない。
(5) 被控訴人は,控訴人が,被控訴人との協議・許可なしに,COOLKNO Tという商品名又はブランド名により本件特許権の実施品を販売しているから,こ の控訴人の販売及び被控訴人の製造販売のいずれも,本件共同出願契約書13条に は違反しないとするのが,契約当事者の合理的意思である,本件特許権の持分を剥 奪されるのは控訴人であり,被控訴人ではないと主張するが,前記(3)のとおり, 甲6契約書13条の文理等に照らし,採用できない。
(6) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,同条前段と合わせて読む べきところ,同条前段は,本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新 たに取得することを禁止しているから,同条後段は,実質的同一の範囲内で新たに 取得された特許権について,その実施品の生産・販売を禁止しているものと理解で きると主張する。 しかし,甲6契約書13条前段は,その文理に照らすと,事前の協議及び許可な く,「本件の各権利(本件特許権)」を未取得の国において,「本件の各権利(本件 特許権)」を新たに取得することを禁止するものと解すべきであるから,同条前段 が本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新たに取得することを禁止 しているとは認められない。また,同条前段は,「本件の各権利(本件特許権)」を 新たに取得したことのみによって「本件の各権利」を剥奪すると定めていることか らすると,同条後段が,その新たに取得された「本件の各権利(本件特許権)」の実施品を生産又は販売したことによって「本件の各権利」を剥奪することのみを定 めたものと解釈するのは不合理である。同条後段は,既に取得されているか,新た に取得されたものであるかを問わず,「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生 産又は販売行為を無断で行うことを禁止したものと解するのが相当である。
(7) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,日本以外の国での販売行 為を定めた同契約書14条に違反した場合の効果を規定した条項であると理解で き,仮に日本での生産・販売行為について規定したものであるとすると,被控訴人 は,既に販売中の靴紐について,日本での販売中止を前提に本件共同出願契約を締 結したこととなり,著しく不合理であると主張する。 しかし,前記(3)のとおり,甲6契約書13条後段の文理に照らし,日本以外の 国での行為に限定されたものとは解釈できないし,被控訴人が本件共同出願契約締 結当時行っていた本件販売形態は,同条の「事前の協議・許可」を経たものとして 禁止されないから,被控訴人が本件共同出願契約締結当時被告各商品を既に販売し ていたことは,同条後段が禁止する対象から日本での行為を除外して解釈すべき理 由とはならない。
(8) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段の内容は,同契約書16条の 協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできないと主張 するが,同契約書16条は,裁判外における紛争解決の方法を定めたものと合理的に解釈できるのであって,同条の協議を経なければ疑義が生じた契約条項の内容が 空文であり,法的請求の根拠とすることができないものとは認められない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成28(ワ)19633

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平成29(行ウ)297  異議申し立て棄却処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月20日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」には該当しないと判断されました。
 (1)特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したも のとみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納 することができる期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなか ったことについて「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間 内に限り,特許料等を追納することができると規定する。 そして,特許法112条の2の上記文言が,特許法条約(Patent Law Tre aty)において手続期間を徒過した場合に救済を認める要件としての「Du e Care(いわゆる『相当な注意』)」を取り入れて規定されたこと(平 成23年法律第63号による改正,乙12)からすれば,同条の「正当な理 由」があるときとは,原特許権者として,特許料等の追納期間の徒過を回避 するために相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的な事情により これを回避することができなかったときをいうものと解するのが相当である。
(2) 本件について,原告は,「正当の理由」として,主に,本件追納期間中は 別件訴訟の対応で心身ともに余裕がなかったこと,同期間中にうつ病等の複 数の疾患を抱えており,特許料等を納付できる状態ではなかったことを主張 する。 しかしながら,一般的に自己を当事者とする訴訟を追行していたとしても, それ以外の事務を行うことができなくなるものではなく,特許料の納付期限 等について注意を払うことは十分に可能\であったといえるから,原告の主張 する別件訴訟に係る事情は,追納期間の徒過を回避することができなかった と認められる客観的な事情とは評価できない。 また,原告は,本件追納期間中にうつ病等の複数の疾患に罹患していたと 主張し,原告について診断日を平成22年3月25日として「遷延性抑うつ 反応」との診断を受けたことが認められる(甲9の1)。しかし,本件追納 期間(平成25年6月12日から同年12月11日まで)中に原告が精神科 に通院するなどしてうつ病の治療を受けていたことを認めるに足りる証拠は ないほか,原告は,1)上記診断において「遷延性抑うつ反応」に罹患したと される平成20年11月10日(本件交通事故による受傷日)以降も複数の 特許出願を行なっていたことがうかがわれること(甲9の1,乙7〔3枚 目〕,2)本件追納期間中もほぼ毎週整形外科に通院していたこと(甲15, 乙7〔平成26年5月15日付け青森県立中央病院医師作成の診断書から始 まる添付資料の2,4,8,13,14枚目,2013/4/02(44)との記載から 始まる添付書類の5ないし16枚目),3)本件追納期間経過後から間もない 平成26年4月に本件特許権が消失していることを知ると,同月17日頃に は特許庁に対して特許料追納手続を問い合わせる電子メールを送信し,同月 23日には,特許庁から送付された電子メールの記載に従った追納分の特許 料相当額の印紙を貼付した本件納付書を提出し,正当な理由に該当する旨を\n記載した回復理由書を提出したこと(乙5の1,2,乙7〔2枚目,「登録 室」から2014年4月17日午前10時24分に送られた電子メールの記 載から始まる【添付資料】の1枚目〕)などからすれば,原告が本件追納期 間中に「遷延性抑うつ反応」あるいは他の疾患により行動等の制限を受ける ことがあったしても,それが特許料納付の妨げになる程度のものであったと 認めるには足りず,原告の疾病に係る事情もまた,追納期間の徒過を回避す ることができなかったと認められる客観的な事情とは評価できない。 更に,原告は,特許庁から特許料納付に係る請求書の送付がなかったとも 主張するが,特許料及びその納付期限については特許法107条以下に定め られるなどしていて,相当な注意を尽くして情報を収集すれば容易に知るこ とができたというべきであるから,上記事情は追納期間の徒過を回避するこ とができなかったと認められる客観的な事情とはいえない。 その他,追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観 的な事情は認められない。
(3)以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許 料等に係る部分について,本件期間徒過につき正当な理由があるとはいえな いとし,第5年分の特許料に係る部分について,第4年分の特許料等の追納 が認められないために本件特許権は消滅しているとして,本件納付書による 納付手続を却下した本件却下処分には,特許法112条の2第1項の解釈適 用を誤った違法があるとはいえない。 原告は,本件却下処分または本件決定によって本件特許権が回復しないこ とが憲法29条に違反するとも主張するが,特許権は,性質上,法が定める 条件に従って,国家から付与され存続する権利であるから,法が定める特許 料の納付等の手続を経なければこれを失うものであり,前記のとおり追納を 認めなかった本件却下処分に違法があるとはいえないことから,本件特許権 が回復しないことが憲法29条に違反することはない。

◆判決本文

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平成29(ワ)27980  債務不履行に伴う契約解除により返還請求と,その契約不履行と相当因果関係にある損害の賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月25日  東京地方裁判所

 翻訳業者の翻訳が不適切であったとして、損害賠償を求めましたが、裁判所は棄却しました。該当の日本特許はこれです。

◆特許5926470号

 前記前提事実,各項末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事 実が認められる。
(1) 被告Bは,特許の翻訳を業とする被告会社の代表取締役であり,被告会社\nが設立される以前は,比較的大手の特許事務所に勤務していたが,弁理士で はない。原告も,そのことを認識していた。
(2) 原告は,本件特許発明の米国特許出願のため,平成28年1月,被告会社 に本件明細書等の翻訳を一定の報酬支払を約して依頼し,被告会社はこれを 承諾した(本件契約)。
(3) なお,原告は,本件契約以前,本件明細書の翻訳を翻訳者である訴外Dに も依頼していたため,被告会社は,当初は訴外Dによる翻訳をチェックして いたが,当該翻訳に適切でない部分が多かったため,次第に翻訳を初めから 行うことになっていった。(甲36,乙50,弁論の全趣旨)
(4) 翻訳の対象となる本件明細書等は,それが記載された特許公報が本文だけ で69頁,図も合わせると81頁にも及ぶ非常に大部なものである上,その 内容は,原告自身も自認するように,相当に複雑で難解なものであった。(甲 7,乙17,23,46,47)
(5) 本件契約が締結された同年1月当時,米国特許出願における特許請求の範 囲の記載(日本語)は確定していなかった。原告は,少なくとも同年2月1 5日,翻訳の対象となる特許請求の範囲の記載に修正を加えた。(乙3,4, 弁論の全趣旨)
(6) 同年2月22日には,原告は被告Bに対し,自らが翻訳ソフトを購入し,\n翻訳者が抜けのない翻訳をしているかを自分で確認する旨記載したメールを 送信した。(乙6)
(7) 同年3月3日には,原告は被告Bに対し,被告会社が修正を加えた翻訳を 訴外インド人弁理士に送付し,同人が1か月程度で校正を行い,被告会社が 最終版を作成するとの手順を示すメールを送信した。(乙7)
(8) 同日以降も,原告は,翻訳の対象となる本件明細書等について,断続的に 修正等を行い,その修正等についての翻訳を,被告会社に指示した。その際, まず訴外Dに翻訳をさせ,当該翻訳を被告会社に送付し,それを参考にして 翻訳するよう指示していた。同年4月11日,原告は,被告会社に対して ,「収束に向かってください。拡散した自分が,どんどんと文章を広げました。 D様もその為に,意味不明になりました。自分にも責任があります。」とメ ールした。しかし,同月16日には,「基本請求項を早朝作成します。出来 た後に,再度,B様とC様で打合せをしてください。結果が大丈夫なら,そ の他の従属項を3人で作成します。」などとメールし,同日の後刻には,「大 変迷走させまして,無駄な時間をお掛けしました。」などとメールした。(乙 8ないし21,50)
(9) 同年4月17日,被告会社は,「ご確認いただき,修正すべき点がありま したらご連絡ください。特に問題がないようであればインド代理人への送付 をお願い致します。」,「エンドレスな作業となっておりますので,ここで 一度区切りとさせてください。」などとメールに記載して,翻訳を一旦終了 し,原告に当該翻訳をメールにて送付した。この時点で,本件明細書等の大 部分について翻訳が終了していた。(甲47,弁論の全趣旨(平成30年8 月16日付け原告準備書面23,26頁))
(10) 同日以降も,原告は,累次にわたって,特許請求の範囲の記載の修正等, それに伴う明細書等の修正等を行い,その都度,被告会社にその修正等につ いての翻訳を指示し,このような指示は少なくとも同年5月17日まで続い た。その間,原告は,被告会社が原告に送付した翻訳について修正や変更を 求めたり,翻訳の内容について質問をしたりすることはなかった。(乙23 ないし41,50)
(11) 原告は,同年5月19日(米国時間),被告会社の事務所において,本件 米国出願を行った。被告会社は,本件米国出願までの間に,本件翻訳を原告 に対して引き渡した。
(12) 原告は,同年1月から7月にかけて,被告会社に対し,本件契約の代金と して合計269万2000円を支払い,被告会社はこれを異議なく受領した。 (甲6)
(13) 米国特許商標庁は,平成29年2月7日(米国時間),本件拒絶理由通知 を発出した。本件米国出願から本件拒絶理由通知までの間に,原告から被告 らに対して,本件翻訳の内容について批判が述べられたり,質問等がされた りしたことはなかった。(甲11,弁論の全趣旨)
(14) 原告は,同年4月3日,被告会社に対し,内容証明郵便により,本件翻訳 についての報告を求めた。また,原告は,同年5月18日,被告会社に対し, 内容証明郵便により,被告会社に債務不履行があるとして,本件契約の解除 の意思表示をし,契約代金の返還を求めた。(甲33,34)\n
・・・・
前記認定事実のとおり,本件契約は,原告が被告会社に対し,本件明細書 等の翻訳を一定の報酬支払を約して依頼し,被告会社がこれを承諾したもの であること,その後,原告は,本件契約の対価として,被告会社に対して合 計269万2000円を支払い,被告会社はこれを異議なく受領したことが 認められる。そうすると,本件契約は,被告会社が仕事の完成を約し,原告 がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約したものであるから,その 法的性質は請負契約(民法632条)であると解するのが相当である。 なお,原告は,本件契約における被告の業務内容には米国特許出願事務や PCT国際出願事務も含まれているかのような主張をしており,被告はこれ を争っているところ,本件の全証拠を検討しても,本件契約に米国特許出願 事務及びPCT国際出願事務の委任が含まれているものと認めるに足りる証 拠はない。原告は,被告会社が原告に対してPCT国際出願に関する助言を 行っているメール(甲39)を証拠として提出するが,これは被告会社が原 告の問い合わせに応じて返答しているものにすぎず,このようなやり取りを もって本件契約にPCT国際出願事務の委託が含まれていたものと認めるこ とはできない。また,原告は被告事務所において本件米国出願を行っている が,そのことから本件契約に米国特許出願事務の委任が含まれていたものと 認めることもできない。

◆判決本文

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平成30(ム)10003  特許権侵害行為差止等請求再審事件  特許権  民事訴訟 平成30年9月18日  知的財産高等裁判所

 技術的範囲に属しないとして確定した前訴判決について、対象特許が訂正で範囲が変わったので再審を求めました。知財高裁(2部)は、特104条の4には該当しないが、前訴で技術的範囲に属しなかった被疑侵害品が属することはあり得ないとして、請求を棄却しました。
 (ム)の事件番号は初めてみました。
 1 特許法104条の4は,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に同条3号 所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決であって政令で定めるもの(以下, 「3号訂正審決」という。)が確定したときは,上記訴訟の当事者であった者は終局 判決に対する再審の訴えにおいて3号訂正審決が確定したことを主張することがで きないと規定している。その趣旨は,特許権侵害訴訟の当事者は,同法104条の 3により,無効の抗弁及びいわゆる訂正の再抗弁(訂正により無効の抗弁に係る無 効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張することができ,判決の基礎 となる特許の有効性及びその範囲につき,主張立証する機会と権能を有しているこ\nとから,そうであるにもかかわらず,上記訴訟の判決が確定した後に,特許の有効 性及びその範囲につき判決と異なる内容の審決が確定したことを理由として確定判 決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛 争解決機能や法的安定性の観点から適切ではないことにあると解される。そして,\n特許法施行令8条2号は,特許権侵害訴訟の終局判決が特許権者の敗訴判決である 場合には,「当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が・・・特許無 効審判により無効にされないようにするためのものである審決」が3号訂正審決に 当たると規定している。前記第2の2(3)のとおり,再審被告両名は,基本事件にお いて無効の抗弁を主張していないから,本件訂正認容審決は,特許法施行令8条2 号所定の「当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が・・・特許無 効審判により無効にされないようにするためのものである審決」ではなく,3号訂 正審決には当たらない。
2 しかし,特許法は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を訂正 するために訂正審判を請求することを認める一方(同法126条1項本文),その訂 正は,特許請求の範囲の減縮を含む所定の事項を目的とするものに限って許される ものとし(同項ただし書),さらに,「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す るものであってはならない」としている(同条6項)。これは,訂正を認める旨の審 決が確定したときは,訂正の効果は特許出願の時点まで遡って生じ(同法128条), しかも,訂正された明細書,特許請求の範囲又は図面に基づく特許権の効力は不特 定多数の一般第三者に及ぶものであることに鑑み,特許請求の範囲の記載に対する 一般第三者の信頼を保護することを目的とするものであり,特に,同法126条6 項の規定は,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範 囲に含まれることとなると,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるた め,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解される。このよ うに,特許法は,訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品は,訂正後 の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているのであるから,被疑侵害品 が特許発明の技術的範囲に属しないことを理由とする請求棄却判決が確定した後に, 特許権者が訂正認容審決を得て,再審の訴えにおいて被疑侵害品が訂正後の特許発 明の技術的範囲に属する旨主張することは,特許法がおよそ予定していないものと\nいうべきである。そして,再審原告は,基本事件において,前訴判決の基礎となる 本件特許に係る発明(本件発明及び本件訂正発明)の技術的範囲につき,主張立証 する機会と権能を有していたのであるから,前訴判決が確定した後に,本件訂正認\n容審決が確定したという,特許法がおよそ予定していない理由によって,前訴判決\nを覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛争 解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,特許法104条の4の規定の趣旨\nにかなわないということができる。なお,再審原告は,前記第2の2(3)のとおり, 基本事件の係属中に第一次訂正を行っていたのであり,基本事件の係属中に本件訂 正認容審決を得ることができなかったというべき事情も認められない。 これらの事情を考慮すると,再審原告が本件訂正認容審決が確定したことを再審 事由として主張することは,特許法104条の4並びに同法126条1項ただし書 及び同条6項の各規定の趣旨に照らし許されないものというべきである。 3 前記2によると,再審原告は,本件訂正認容審決が確定したことを主張する ことができないから,前訴判決の基礎となった行政処分である本件特許権に係る特 許査定が後の行政処分である本件訂正認容審決により変更されたことを理由として 民訴法338条1項8号の再審事由がある旨の主張は,その前提を欠くものであり, 理由がない。

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平成30(ネ)10019  特許を受ける権利帰属確認本訴請求控訴事件,損害賠償反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年8月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許を受ける権利の帰属確認を求めましたが、知財高裁(4部)は、1審と同じく請求を棄却しました。
 前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,1)一審原告は,Aと知り合う前 から本件技術の研究を行っていたが,一審原告自身にはその研究開発を進 めていく資金がなかったため,Aと知り合って以降に,Aに上記事情を説 明し,Aが代表社員を務める一審被告と協力して,携帯電話端末等の民生\n用の技術として本件技術の研究開発を進めていくこととし,その研究成果 である本件発明について本件出願に至っていること,2)本件出願に当たっ ては,一審被告が本件特許事務所に対して出願手続を委任し,本件出願に 係る願書の「特許出願人」欄には一審被告の名称が記載されており,しか も,特許出願料,本件特許事務所に対する手数料等の本件出願に必要な費 用は,一審被告が負担していること,3)一審原告は,一審被告の担当者と して,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたって,本件特許 事務所が作成した願書案の内容を確認してコメントを付したり,本件特許 事務所からの質問に回答するなどし,最終の願書案についても,Aに代わ って確認し,その願書案のとおりの内容で出願することを了承し,その願 書案中の1枚目の願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に は一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていること及び本件出願に必要な費用 は全て一審被告が負担していることを十分に認識し,本件出願について特\n許査定がされた場合には,特許出願人である一審被告が特許権を取得する ことを理解していたものと認められる。 加えて,一審原告と一審被告との間で本件発明についての特許を受ける 権利の譲渡の対価額について具体的な交渉がされたことはうかがわれな いものの,他方で,一審原告が一審被告に対して無償で上記特許を受ける 権利を譲渡すべき事情も認められないこと,その他本件出願に至る経緯等 (前記(2))に鑑みると,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出 願時までに,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一 審被告に相当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認める のが,当事者の合理的意思に合致するというべきである。
イ これに対し,一審原告は,1)願書案についての一審原告の確認対象は, 請求項の技術的な記載事項に限定されており,その他の記載は十分に確認\nしていないし,また,一審原告においては,特許出願手続や願書案の記載 方法について全く知識を有していなかったため,願書案の「特許出願人」 欄に記載される者が本件出願に係る特許を受ける権利を有している者を も意味する記載であると認識することは,極めて困難であったこと,2)一 審原告は,本件発明についての特許を受ける権利の対価の支払を受けてお らず,一審原告が無償で上記特許を受ける権利を一審被告に譲渡すべき理 由もないことからすると,一審原告が一審被告に対して本件発明について の特許を受ける権利を黙示に譲渡した事実はない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,前記ア認定のとおり,一審原告 は,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたり,願書案の内容 を確認し,最終の願書案についても,Aに代わって確認し,その願書案の とおりの内容で出願することを了承しているところ,願書案中の1枚目の 願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に一審被告の名称が 記載されていたのであるから,一審原告が願書案の確認を行うに際し,そ の記載に気付かないはずはないし,また,特許出願について特許査定がさ れた場合には,願書に「特許出願人」と記載された者が特許権を取得する ことは,特許出願手続や願書の記載方法について知識がなくても当然に理 解できる事柄である。 また,上記2)の点については,一審原告と一審被告間の本件発明につい ての特許を受ける権利の黙示の譲渡の合意は,無償ではなく,一審被告が 相当な対価を支払うことを内容とするものであり,仮に一審原告が一審被 告から上記譲渡の対価の支払を未だ受けていないとしても,そのことは上 記合意の成立を妨げるべき事情となるものではない。 したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出願時まで に,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一審被告に相 当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認められるから,上記 合意により,上記特許を受ける権利は一審被告に移転したものと認められる。 したがって,一審原告の特許を受ける権利の帰属確認請求は,理由がない。

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平成30(ネ)10001  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 会社役員Aに対して、悪意又は少なくとも重大な過失があった(会社法429条1項)として、約350万円の損害賠償が認められました。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (a) 1審被告Aは,1審被告白石の代表取締役であり,1審被告白\n石の事業全般を統括していたが,平成22年6月4日,1審被告白 石宛ての1審原告の通知書(親和製作所の装置の販売が本件特許権 侵害である旨を指摘するもの)を受領し,本件特許権の存在を知る に至った。さらに,1審被告Aは,平成24年1月12日,1審被 告白石宛ての1審原告の通知書(親和製作所と1審原告の和解に関 するもの)を受領した。(甲15の資料5,資料9,乙73)
(b) 東京地方裁判所は,本件仮処分申立事件についての平成26年\n10月8日の審尋期日において,被告装置(WK型)が本件特許権 に係る発明の技術的範囲に属する旨の心証開示をした。(甲18)
(c) 1審被告白石は,平成26年10月24日から同月28日まで の間に,渡邊機開から,被告装置(WK型)を合計14台,本件板 状部材153個及び本件固定リング123個を購入した。1審被告 白石の平成23年から平成25年にかけての本件固定リングの購入 数は合計20個未満であり,平成26年10月24日から同月28 日までの本件固定リングの購入量はこれまでの取引状況に比して突 出して多い。(甲17の1,2)
(d) 東京地方裁判所は,平成26年10月31日,渡邊機開による 被告製品(WK型),本件固定リング及び本件板状部材の販売等を 差し止める旨の本件仮処分決定をし,1審原告は,同年11月4日 付け通知により1審被告白石に対しその旨を通知した。(甲15の 資料10)
(e) 1審被告白石は,本件仮処分決定後は,平成26年11月14 日頃から平成27年4月1日にかけて被告装置を販売した。
(f) 1審被告白石は,平成27年2月26日,鶴商に型式名を「L S−S」とする被告装置(実質は「WK−550」)を販売し,ま た,同年5月までには,渡邊機開からWK型として仕入れた被告装 置(「WK−600」)に,構成の変更がないのに「LS−G」型\nの表示を付したものを取り扱っていた。(上記2(1),甲22)
c 1審被告Aは,1審被告白石の事業全般を統括していたのであるか ら,1審被告白石の取引実施に当たっては,第三者の特許権を侵害し ないよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。この観点か ら1審被告Aの責任について検討してみると,まず,平成22年6月 4日及び平成24年1月12日の時点で,1審被告Aにおいて,被告 装置が本件特許権に係る発明の技術的範囲に属することを知っていた ことを認めるに足りる証拠はない。なお,平成24年1月12日頃に 1審被告白石が1審原告から通知書を受領したことは上記b(a)のと おりであるが,その通知書の内容は親和製作所の装置に関するもので あり,渡邊機開製の被告装置とは直接関わるものではなかったのであ るから,1審被告Aが上記時点において被告装置につき専門家に問い 合わせるなどの調査等をせず,被告装置の販売を中止しなかったから といって,1審被告Aに重過失があったとすることはできない。 これに対し,上記b(d)によれば,1審被告Aは平成26年11月 初旬には本件仮処分決定について知ったものと認められるから,これ によって被告装置が本件特許権を侵害するおそれが高いことを十分に\n認識することができたと認められる。ところが,1審被告Aは,本件 仮処分決定を踏まえて,中立的な専門家の意見を聴取するなどの検討 をした形跡もないまま,取引を継続し,さらに被告装置の型式名につ いて工作をするなどしているのであり,これら上記bに認定した本件 仮処分決定前後の経過に照らせば,同月以降の1審被告白石による被 告装置の販売を中止するなどの措置をとらなかった1審被告Aには, 1審被告白石による本件特許権侵害について悪意又は少なくとも重大 な過失があったというべきである。 よって1審被告Aは,1審被告白石による被告装置の販売に係る 同月以降の本件特許権侵害について,会社法429条1項の責任を負 う。

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平成27(ワ)21684  特許権  民事訴訟 平成30年4月20日  東京地方裁判所(40部)

 特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
 ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより, 缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時, 当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平 7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物 を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収 着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応 して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の 主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着 しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆 した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等 に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成 分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと, 本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業 者が認識し得るように記載することを要するというべきである。 この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。 しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し, 缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効 果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討 する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶 を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何 ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が 本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置 いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関 してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については, 乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上 で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や 「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての 記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定 した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが, 本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩 化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離 SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載 された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか どうかを認識することができない。 加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明 細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを 具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は, ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件 等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても, それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の 濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの 成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな い。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された 「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても, 当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術 思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付 けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない と主張する。 しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」 に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その 範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得 られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが, 本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成 成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。

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平成29(ワ)36543  債務不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年3月27日  東京地方裁判所(46部)

 変わった判決なので、アップします。ライセンス料の支払い請求権の不存在確認訴訟です。
 本件は,原告が被告に対し,原告は被告との間で本件各特許のライセンス契 約を締結したことはないにもかかわらず,被告から本件各特許に係るライセン ス料の支払を請求されたとして,本件各特許のライセンス契約に基づくライセ ンス料支払債務を負わないことの確認を求める事案である。   被告は,原告が被告との間で本件各特許のライセンス契約を締結した事実を 主張立証しない。むしろ,本件における被告の主張は,原告が被告とライセン ス契約を締結せずに本件各特許に係る特許技術を使用していることを問題とす るものであって,原告と被告との間で本件各特許のライセンス契約が締結され ていないことを前提としているものといえる。 以上によれば,原告と被告との間で本件各特許のライセンス契約が締結され たとは認められず,被告が原告に対して本件各特許のライセンス契約に基づく 特許権者から「ライセンス契約していないのにライセンス料を支払えとの請求を受けました」。ありました。債務が存在しないことを確認する」との主文です。

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平成28(行ケ)10185  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月23日  知的財産高等裁判所(3部)

 特許庁では、無効審判について利害関係なしとして審決却下されました。知財高裁はこれを取り消しました。
(1) 原告は,特許権取得のための支援活動等を行う個人事業主であり,自らも 特許技術製品の開発等を行っている。
(2) 特許願(甲54)の請求項に記載されている発明(原告発明)は,自分(原 告)の発明である。
(3) 原告発明に係るおむつの開発に着手した理由は,日頃から医療分野に興味 を持っていたこと,特に子供の頃から●●(省略)●●ことや,●●(省略) ●●,排せつの問題に関する知識があったこと,さらには,災害の発生,外 国人の需要などにより,商品開発をして市場に提供するチャンスがあると考 えたことによる。
(4) 原告発明は,紙おむつの外層シートに新たな構造を付加することを特徴と\nするものであり,弾性構造のない部分を有し,かつ,(テープ型でなく)パ\nンツ型のおむつが最も適する。
(5) 原告としては,自ら発明を実施する能力がないので,ライセンスや他の業\n者に委託して製造してもらうことなどを考えており,製品化の準備として, 市販品のおむつ(被告製品など)に手を加えて試作品(サンプル)を製作し ていた。
(6) 実際に上記試作品をおむつの製造業者等に持ち込んだことはまだないが, インターネット上で特許発明の実施の仲介を行う業者や不織布を取り扱う業 者に対し,原告発明の実施の可能性について尋ねたことはある。
(7) その際,原告としては,原告発明を製品化する場合,被告の本件特許に抵 触する可能性があると考えていたので,率直にその旨を上記の業者らに伝え\nたところ,いずれも,その問題(特許権侵害の可能性)をクリアしてからで\nないと,依頼を受けたり,検討したりすることはできないといわれ,それ以 上話が進められなかった。
(8) 原告としては,設計変更等による回避も考えたが,原告発明を最も生かせ る構造(実施例)は,被告の本件特許発明の技術的範囲にあると思われたた\nめ,原告発明を実施する(事業化する)には,本件特許に抵触する可能性を\n解消する必要性があると判断し,また,専門家から本件特許に無効理由があ るとの意見をもらったことから,本件無効審判請求を行った。
3 検討
以上のとおり,原告は,単なる思い付きで本件無効審判請求を行っているわ けではなく,現実に本件特許発明と同じ技術分野に属する原告発明について特 許出願を行い,かつ,後に出願審査の請求をも行っているところ,原告として は,将来的にライセンスや製造委託による原告発明の実施(事業化)を考えて おり,そのためには,あらかじめ被告の本件特許に抵触する可能性(特許権侵\n害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて,本件無効審判請求を\n害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて,本件無効審判請求を行っ\nたというのであり,その動機や経緯について,あえて虚偽の主張や陳述を行っ ていることを疑わせるに足りる証拠や事情は存しない。 以上によれば,原告は,製造委託等の方法により,原告発明の実施を計画し ているものであって,その事業化に向けて特許出願(出願審査の請求を含む。) をしたり,試作品(サンプル)を製作したり,インターネットを通じて業者と 接触をするなど計画の実現に向けた行為を行っているものであると認められる ところ,原告発明の実施に当たって本件特許との抵触があり得るというのであ るから,本件特許の無効を求めることについて十分な利害関係を有するものと\nいうべきである。

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平成28(ネ)10098  不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 実施契約は取締役会の決議無しとして無効と判断されました。なお、原審はアップされていません。
 当裁判所も,原審と同様に,本件各契約は,これを締結するに当たって被 控訴人において必要とされる取締役会の決議を経ておらず,控訴人はそのこと について知り得べきであったものといえるから,本件各契約はいずれも無効で あり,控訴人の被控訴人に対する反訴請求はいずれも理由がないものと判断す る。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第 4の1ないし3(原判決20頁7行目冒頭から36頁22行目末尾まで)に記 載のとおりであるから,これを引用する。

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平成27(ワ)556等  特許権侵害差止請求権不存在確認等請求本訴事件,特許権侵害差止等請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月27日  東京地方裁判所(29民)

 不存在確認訴訟した原告敗訴の案件です。その中で、共有者の実施かどうかが争われました。
 特許法73条2項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,契約で別段の 定をした場合を除き,他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすること ができる。」と規定している。これは,特許発明のような無体財産は占有を伴うも のではないから,共有者の一人による実施が他の共有者の実施を妨げることになら ず,共有者が実施し得る範囲を持分に応じて量的に調整する必要がないことに基づ くものである。もっとも,このような無体財産としての特許発明の性質は,その実 施について,各共有者が互いに経済的競争関係にあることをも意味する。すなわち, 共有に係る特許権の各共有者の持分の財産的価値は,他の共有者の有する経済力や 技術力の影響を受けるものであるから,共有者間の利害関係の調整が必要となる。 そこで,同条1項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同 意を得なければ,その持分を譲渡し,又はその持分を目的として質権を設定するこ とができない。」と規定し,同条3項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者 は,他の共有者の同意を得なければ,その特許権について専用実施権を設定し,又 は他人に通常実施権を許諾することができない。」と規定しているのである。 このような特許法の規定の趣旨に鑑みると,共有に係る特許権の共有者が自ら特 許発明の実施をしているか否かは,実施行為を形式的,物理的に担っている者が誰 かではなく,当該実施行為の法的な帰属主体が誰であるかを規範的に判断すべきも のといえる。そして,実施行為の法的な帰属主体であるというためには,通常,当 該実施行為を自己の名義及び計算により行っていることが必要であるというべきで ある。
・・・・
上記(イ)の事実関係によれば,補助参加人は,ヤマト商工第2工場の責任者 として,水産加工機械の開発,製造に携わっていたが,同製造に要する原材料は, ヤマト商工の名義及び計算により仕入れられていたこと,補助参加人は,ヤマト商 工から固定額の金銭を受領しており,水産加工機械の販売実績によってヤマト商工 の補助参加人に対する支払額が左右されるものでないこと,顧客に対しても,水産 加工機械の販売に伴う責任等を負う主体としてヤマト商工の名が表示されていたこ\nとなどが認められ,また,本件製品との関係では,七宝商事がヤマト商工に支払っ たのは,ヤマト商工の請求に係る「BK−2フグスライサー」(すなわち,本件製 品)の代金310万円(税別)であって,ヤマト商工が同金員の全てを受領してい ること,七宝商事が補助参加人に支払ったのは,補助参加人の請求に係る「エフビ ックライサー BK−2 管理費」(すなわち,本件製品のメンテナンス料)40 万円(税別)であって,補助参加人が同金員の全てを受領していることが認められ るから,本件製品の製造販売は,ヤマト商工の名義及び計算により行われたもので あり,補助参加人の名義及び計算で行われていたものがあるとすれば,それは,本 件製品のメンテナンスにとどまり,本件製品の製造販売ではないというべきである。
 b この点,原告は,本件製品は補助参加人が自ら製造販売したものであるとし て縷々主張するが,既に説示したとおり,補助参加人が形式的,物理的に製造販売 に関与したか否かが問題なのではなく,いかなる立場で関与したか,すなわち,ヤ マト商工の名義及び計算において行われる製造販売にヤマト商工の手足として関与 したのか,補助参加人の名義及び計算において行われる製造販売を自ら行ったかが 問題なのであって,原告の上記主張は,的を射ないものである。 原告は,被告の別件地裁訴訟での主張についても縷々指摘するが,同訴訟での被 告の主張がいかなるものであったかによって,本件製品の製造販売をめぐる事実関 係が左右される性質のものでないことは明らかである。また,当該主張は,補助参 加人の行為(なお,同訴訟では本件製品は対象とされておらず,同製品に関する行 為を直接問題にしたものとはいえない。)が本件専売契約に違反することを指摘す るためにされたものであることは明らかであり,その言葉尻をとらえて被告が本件 各発明の実施行為としての本件製品の製造販売の主体が補助参加人であることを認 めたなどと評価することは,不相当である。

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平成28(ワ)2818  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月27日  大阪地方裁判所(21民)

 特許の技術的範囲に属することは争いがありませんでした。複数の被告のうち、日本アシストの製造行為についての差止のみ認められました。その他の差止・損害賠償は認められませんでした。
 (1) ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便 座βを2台製造したことは当事者間に争いがない。 しかし,被告らが同便座をそれ以外に製造した事実は認められず,また上記第2 の1(4)の展示会等で展示したものの,これをそのまま直ちに市販することを計画 したり,これにつき介護機器の認定のための手続を進めたりしている事実をうかが わせる証拠はない。 加えて被告らは,本件において,ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属す ることを認め,今後製造しない旨を原告に対して表明しているくらいであるから,\n以上のような事実関係のもとでは,被告らが,今後,本件ロボット便座βを製造, 使用,販売,又は販売の申出をするなどするおそれを認めることは困難といわなけ\nればならない。
(2) ただ被告日本アシストは,ロボット便座βの開発のために厚生労働省障害者 自立支援機器等開発促進事業の費用助成を受けた関係で,助成対象となったロボッ ト便座βの保存義務を課せられ(弁論の全趣旨),現に上記製造済み2台のロボット 便座βを保管していたが,証拠(乙5,乙6)によれば,それにもかかわらず,本件 訴訟係属中に,保存していた上記製造済み2台のロボット便座βにつき,うち1台 については回動駆動部並びにこれを駆動させるのに必要なモータ及び配線等を取り 外し,もう1台についても,回動駆動部を取り外してしまって,いずれももはやロ ボット便座βとはいえない状態にしていることが認められる。 被告日本アシストは,このように製造済みのロボット便座βを本件発明の技術的 範囲に属しない状態にすることにより,展示等のおそれもないことをいわんとして いるように考えられるが,上記状態では上記公法上の保存義務を果たしているとい えないことは明らかであるから,むしろ,このことにより被告日本アシストには, 関係官庁から保存義務を果たしていることの確認を求められた場合に,上記状態の ロボット便座βに取り外した部品を取り付けるなどして製品として完成させるおそ れが生じているものといわなければならず,被告日本アシストが部品を取り外した 状態のロボット便座βの部品を廃棄せずに所持していることも,そのような事態に 備えていることを裏付けているといわなければならない。 そして,被告日本アシストが,上記保存義務を果たしていることをいうためにロ ボット便座β2台を再度完成させた場合,それは,その事業のためにするものとな るから,部品取り外し済みのロボット便座β2台を再度完成させるという限度で, 被告日本アシストには,ロボット便座βを業として生産するおそれがあるといわな ければならない。
(3) したがって,原告の被告らに対するロボット便座βの製造販売等の差止請求 は,被告日本アシストに対する関係で製造の差止めを求める限度で理由があるとい うことになるが,上記(1)に説示したところによれば,同被告の関係では,これより 進んで完成したロボット便座βを使用,販売,又は販売の申出をするおそれは認め\nられない。また,上記保存義務を課せられない被告P1の関係では,上記(1)に説示 したとおり,同人に対する製造販売等の差止請求には理由がない。
(4) 以上に加え,被告日本アシストに対する関係では廃棄請求も問題となるが, 原告が被告日本アシストに求める廃棄請求の対象は,別紙物件目録で構成が特定さ\nれるロボット便座βであるところ,当該ロボット便座βは,上述のとおり本件発明 の構成要件を充足する要件となる部品が取り外されてしまっているというものであ\nる。 そうすると,これがロボット便座βに製造され得るものであったとしても,被告 日本アシストは,現在,廃棄請求の対象として特定されたロボット便座βを所有し ているということはできないことになる。 したがって,原告の被告日本アシストに対するロボット便座βの製造差止請求に は理由があるといえるものの,廃棄請求の対象となるロボット便座βを現在所有し ているわけではないことから,ロボット便座βの廃棄請求は理由がないといわなけ ればならない。
2 争点3について
原告は,被告らが,上記第2の2(3)のとおり,ロボット便座βを展示した行為を 捉え,これが特許法2条3項1号の「譲渡等のための展示」に当たるとして,これ による本件特許権の侵害行為を理由に被告P1に対して損害賠償請求をしている (ロボット便座βが本件特許の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便座β を2台製造したことは当事者間に争いがないが,その製造の時期は,本件特許が登 録される前であるから当該製造行為は本件特許権侵害を構成しない。)。\nしかしながら,原告が損害と主張するところは,被告P1が原告との本件発明の 実施品である2013年型キレット試作品に関する製造委託契約に基づき原告から 支払を受けた金額から実施品製造に要した原価を控除した1322万7600円が 損害額と推定するものであるが,その推定する根拠は明らかではなく,およそ当該 支払がロボット便座βの展示行為と因果関係にある損害と認めることはできない。 そのほか,被告らによる展示が,「譲渡のための展示」であるとしても,被告ら がこれにより利益を得た事実は認められず,また原告の営業に影響を及ぼした事実 も認められない以上,原告において損害発生について的確な主張立証をなさない本 件において,そもそも原告に損害があったものと認定することはできない。 したがって,争点1の被告らによる本件特許権侵害行為,すなわちロボット便座 βの展示が「譲渡のための展示」に該当するかどうかを判断するまでもなく,原告 の被告P1に対する損害賠償請求には理由がない。

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平成28(ワ)298等  特許権侵害差止等請求事件,債務不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月20日  大阪地方裁判所(21民)

 特許権侵害事件で、新規性喪失の例外主張における証明書では提出されていなかった証拠がある(関連したものでない)として、無効(特104-3)と判断されました。商品形態模倣(不競法2条1項3号)も否定されました。よって、取引先への告知は、営業誹謗行為(不競法2条1項15号)が成立すると判断されました。
 1 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 証拠(乙2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の実施品で ある原告製品は,本件発明の原出願である実用新案の出願日(平成26年11月2 6日)より前である同年9月22日以前に,Q2コープ連合に対して納品され,ま たQ2コープ連合においてそのチラシに掲載されて販売され,さらに同年10月1 0日には,被告において市場で取得された事実が認められるから,本件発明は,出 願前に日本国内において公然実施された (特許法29条1項2号)というべきこと になる。
(2) 上記(1)の事由は,本件特許を特許無効審判により無効とすべき事由となるが, 原告は,本件発明の原出願において原告が行った手続により,特許法30条2項に 定める新規性喪失の例外が認められる旨主張する。 そこで検討するに,特許法30条2項による新規性喪失の例外が認められるため には,同条3項により定める,同法29条1項各号のいずれかに該当するに至った 発明が,同法30条2項の規定を受けることができる発明であることを証明する書 面(以下「証明書」という。)を提出する必要があるところ,証拠(甲3)によれば, 原告は,本件発明の原出願(実願2014−6265,出願日:同年11月26日) の手続において,同年12月2日,実用新案法11条,特許法30条2項に定める 新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出した事実が認められる(特許 法46条の2,44条4項の規定により,特許出願と同時に提出されたものとみな される。)。 しかし,同証明書は,公開の事実として,平成26年6月2日,原告を公開者, Q1生活協同組合を販売した場所とし,原告が一般消費者にQ1生活協同組合のチ ラシ記載の「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(商品名:「ドラム式洗濯機の毛ゴ ミフィルター」)を販売した事実を記載しているだけであって,上記Q2コープ連合 における販売の事実については記載されていないものである。 この点,原告は,上記Q2コープ連合における販売につき,実質的に同一の原告 製品についての,日本生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の 販売行為であるから,新規性喪失の例外規定の適用を受けるために手続を行った販 売行為と実質的に同一の範疇にある密接に関連するものであり,原告が提出した上 記証明書により要件を満たし,特許法30条2項の適用を受ける旨主張する。 しかし,同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであ ることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような 場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手 続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連す る公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項 の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件 についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活 協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法 人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り 扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活 協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一 の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはでき ず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての 証明書に記載されたものとみることはできないことになる。
・・・・
上記検討した両製品において同一といえる形態的特徴のうち,本体部の形態 が長方形であるという点は,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる商 品である原告製品及び被告製品にとっては,リントフィルタの内面に沿って装着す るために必然的にもたらされる形態であるといえ,したがってこれは,その機能を\n確保するために不可欠なことであると認められる。また,もう一つの同一といえる 形態的特徴である本体部にスリットが存在するという点も,本件発明の効果をもた らすことに直接関係した形態であることからすると(上記第2の2(2)(10)),これも 両製品に共通する機能を確保するために不可欠な形態であるといえる。\nしたがって,これらの基本的形態で両製品の形態の同一性が認められたとしても, これによって両製品の形態が実質的に同一ということはできないというべきである (なお被告は,これらの形態の特徴をとらえて原告製品はありふた形態であって保 護されないと主張するが,原告製品が市販される以前に,同種の製品が市場に存し た事実は認められないから,商品の形態がありふれていることで保護されないわけ ではなく,機能確保に不可欠な形態として保護の限界が検討されるべきである。)。\n他方,上記検討したとおり,原告製品と被告製品は,機能確保のため必要とされ\nる形態的特徴以外の部分の細部における特徴的な形態というべき部分において形態 の差異が多数あるというのであるから,両製品の形態が酷似しているとはおよそい えず,結局,原告製品と被告製品は形態が実質的に同一であるとはいえないという べきである。
(5) これに対して原告は,両製品は主として通信販売されており,需要者が商品 を手に取って詳細に観察することがなければ両者の違いを認識し得ないから,両製 品の形態の差異は微細な差異で形態が実質的に同一であるということを妨げないよ うに主張するが,不正競争防止法2条4項に「商品の形態」は「需要者が通常の用 法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の 形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と定義されてい ることに明らかなように,本件で問題とすべき原告製品及び被告製品の形態とは, 上記検討したような包装袋から取り出された商品そのものの形態であって,これと 異なる前提に立つ原告の主張は失当である。 さらに,原告は,両製品の包装におけるチラシが共通することも指摘するが,原 告製品及び被告製品は,包装と一体となって切り離し得ないものではないから,原 告が指摘する包装のチラシは「商品の形態」とはいえず,原告の指摘は当たらない。
(6) 以上からすると,原告製品と被告製品とは,その形態が実質的に同一とはい えないから,被告製品は原告製品を模倣した商品とはいえず,被告が不正競争防止 法2条1項3号の不正競争をしたことを前提とする原告の請求はその余の判断に及 ぶまでもなく理由がない。
・・・・
(1) 原告は,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP1に対し,被告製 品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止 法2条1項3号に該当するとして,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める内容を 記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付している(本件告知行為)。\n上記2のとおり,被告製品は原告製品の模倣商品でないから,上記「申入書」の\n記載内容は虚偽の事実であるとともに,被告の営業上の信用を害する事実であると いうべきである。そして,原告と被告は競争関係にあるから,本件告知行為は,「競 争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,不 正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) そのほか被告は,原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争 行為として,原告が生活協同組合に対して被告の権利侵害の事実を理由として被告 製品の取扱いをすべきでない旨申し入れた旨主張する。\n確かに証拠(乙14の1ないし3,乙15,乙30)によれば,被告は,P2か ら被告製品の販売を中止された事実,及び,P2が被告に対し,被告製品の販売を 中止する理由として,原告の営業担当者から被告製品の販売企画を中止した方がよ いとの要望を受けたという生活協同組合のバイヤーから,そのことを理由に被告製 品の差替えの要望を受けたことを挙げていたことが認められる。 したがって,これらの事実によれば,P2における被告製品の販売中止が,原告 の営業担当の従業員がもたらした行為に起因することが認められそうであるが,前 掲証拠によれば,原告の営業担当者が生活協同組合のバイヤーに伝えた内容という のは「企画を中止した方が良い的な要望」というにとどまるというのであって,そ れだけでは原告が被告の権利を侵害したといった虚偽の事実が告知されたと認める に足りないものである。また,そもそも原告の営業担当の従業員が何らかの接触を したという生活協同組合のバイヤーは,どの生活協同組合であるかを含めて特定さ れておらず,その生活協同組合のバイヤーが実際に原告の営業担当の従業員から直 接働きかけを受けたのかを確かめようがないものである。これらのことからすれば, 原告の営業担当者の行為に起因してP2が被告製品の販売を中止したとしても,そ れをもって原告の不正競争行為を認定することは困難であるといわなければならな い。
(3) したがって,被告主張に係る原告がした不正競争防止法2条1項15号該当 の不正競争については,原告が,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP 1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行 為は不正競争防止法2条1項3号に該当する旨記載した「申入書」と題する書面を\n内容証明郵便で送付した事実の限度で認めるのが相当であって,それ以外の生活協 同組合に対する関係では同号の不正競争のみならず不法行為を構成する事実は認め\nられない。

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平成28(ワ)19633  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 平成29年3月29日  東京地方裁判所

 ”結ばない靴ひも”に関する特許について、共有特許の特約があるので、自由実施できないと主張しましたが、そのような特約はないと判断されました。問題の特許はこれです。

◆特許第5079926号

◆被告の製品はおそらくこれ
 (1) 原告は,原告,被告,B及びCの4者間において,本件発明の実施は本件 販売形態のみによる旨合意していた(本件実施合意)と主張する。 しかし,本件特許の出願に際して作成された本件契約書には,本件発明の 実施につき,原告,被告,B及びCの4者間で協議の上「別途定める」との 記載があるものの(本件契約書第7条),これ以外に何らの記載はなく,ま た,「別途定める」に該当するような,本件販売形態を唯一の実施形態とす る旨の合意がされたことを裏付ける契約書,合意書その他の書面は本件証拠 上存在しない。 この点に関して原告は,本件販売形態を唯一の実施形態とする旨の記載が 一応ある「特許発明の実施についての確認書」と題する書面(甲7の1)を 提出する。しかし,そもそも同書面には原告,B及びCの署名指印しかなく, 被告はこれに記名押印をしていないし,同書面の作成日自体,本件特許の出 願日(平成24年7月4日)から4年近くも後の平成28年4月26日であ って,出願日当時の合意の存在を直接裏付けるものですらない。 そもそも,原告の主張自体も,本件実施合意を,いつ,どこで,どのよう に取り決めたのかなどにつき具体的に特定しているものではない。また,原 告は,本件実施合意があったことを立証するものとして原告作成の陳述書 (甲19,22)及び被告の元従業員であるE(以下「E」という。)作成 の事情説明書(甲18,21)を提出するが,客観的裏付けを欠くことに変 わりはない上,このうちE作成の事情説明書については,「・・・という仕 組みでビジネスがされていたと考えます」(甲18・4頁),「当然,その ような役割分担で動いていたものと理解しています」(甲21・3頁)など という,単なるE自身の推測を述べるものでしかない。 そうすると,原告,被告,B及びCの4者間において,仮に本件販売形態 がかつて存在していたとしても,これをもって本件発明の唯一の実施形態と する旨の合意がされていたと認めることはできない。
(2) したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求のうち 本件実施合意の債務不履行に基づく損害賠償請求は,理由がない。
2 争点(2)(特許法73条2項の適用の可否)について
原告は被告による被告各商品の製造・販売が本件特許権を侵害する旨主張す るが,そもそも被告は本件特許権の共有者であり(前記第2,2(2)),共有 者であれば,契約で「別段の定」(特許法73条2項)をした場合を除き,他 の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるから,被告 は,原則として,本件発明を実施することができるというべきである。 この点につき原告は,「別段の定」として,本件販売形態を唯一の実施形態 とする旨の本件実施合意があったと主張するが,上記1(1)のとおり,そのよ うな合意があったとは認められない。そして,原告が他に「別段の定」の存在 を主張立証していない以上,本件特許権については「別段の定」は存在せず, 被告は,原則どおり,原告その他の共有者の同意を得ないで被告各商品を製造 ・販売することができると認めるのが相当である。

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平成28(行コ)10002  手続却下処分取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国際出願に関して国内移行期間経過後に提出した翻訳文の却下処分について、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があった、とは認められませんでした。
 ア 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,外国語特許出願は 国際出願日にされた特許出願とはみなされないのであるから,国際特許出願の対象 となる国及び広域の移行期限を確認することは,当該国際特許出願を行う出願人に 当然に求められるというべきであるところ,控訴人は,現地事務所は,移行期限を 徒過しないよう十分な体制を構\築していたと主張する。
イ 前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)ウ) 本件出願の処理に当 たり,現地事務所では,補助者であるA氏が,依頼人が移行手続を指示した国及び 広域について,締切リスト(甲14)及びWIPOの期限表(甲13)を用いて,\n移行期限が30か月であるかあるいは31か月であるかを確認した上で,移行期限 が30か月である国について指示書を作成したものである。 しかし,前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)カ),締切リストには, 対象となる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区 別して記載されていない。また,前記認定のとおり(引用に係る カ),WIPOの期限表は,アルファベット順に行ごとに国名ないし広域名が記載\nされ,その国名等の右側の離れた位置に移行期限が「30」あるいは「31」など の数字で記載されているものであるから,同期限表を目視するときは「30」ない\nし「31」という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように見える\nものである。 そうすると,本件出願の処理に当たり,補助者であるA氏が,締切リスト及びW IPOの期限表を用いて移行期限を確認するだけでは,同人が特許管理業務に豊富\nな経験を有していたことを考慮しても,移行期限を看過するという人的ミスが生じ 得ることは当然に想定されるものであったというべきである。
ウ そして,前記認定(引用に係る3の1(2)キ)によれば、現地事務所 において,管理者は,補助者が起案した指示書が適切に作成されているか否かにつ いて,本件システム上のリストを用いてチェックしたことは認められるものの,そ れがどのような内容のリストであるか,また,いかなる事項についてチェックした ものかについては明らかではない。これを,管理者が,締切リストを用いて移行期 限をチェックしたものと解したとしても,前記のとおり,締切リストには,対象と なる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区別して 記載されておらず,C氏作成に係る陳述書(甲50)によっても,本件において, 管理者が移行期限について,締切リストのほかに,どのような資料を用いて確認し たかについては明らかではないから,管理者が,移行指示を受けた国及び広域の移 行期限を確認したものということはできない。なお,同陳述書において,管理者は 「専門的データベース」を用いて指示書等を確認した旨記載があるものの,「専門 的データベース」の具体的内容は明らかではなく,これが移行期限を確認するに当 たり,有用なものであると認めるに足りる証拠はない。 また,平成25年3月12日付けメール(甲34)によれば,B氏が,イスラエ ル,米国,カナダについて指示書の書状及び付属書類の確認をしたことは認められ るものの,その際,B氏が,各国の移行期限の確認作業を行ったとまでは認められ ない。C氏作成に係る宣誓書(甲9の1)及び陳述書(甲12)によっても,管理 者による確認作業が,いかなる事項を対象に,どのような資料をもとに行われたか については明らかではない。その他,本件において,管理者が移行期限の確認作業 を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件出願の処理に当たり,現地事務所が,管理者をして,移行指示 を受けた国及び広域の移行期限の再確認作業を行ったとの事実を認めることはでき ない。また,現地事務所において管理者が移行期限の確認作業を行う体制が構築さ\nれていたとの事実も認められない。
エ このように,本件出願の処理において,移行期限を看過するという補助者に よる人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるところ,管理者などが,移行期限 の再確認作業を行ったとの事実も,現地事務所において移行期限の再確認作業を行 う体制が構築されていたとの事実も認められない。よって,現地事務所が,本件出\n願の処理に当たり,移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたというこ とはできない。

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平成28(行ケ)10088  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月8日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(3部)は、第1次判決の拘束力が及ばない、新規事項であるとした審決は妥当と判断しました。
 事情が複雑です。本件特許出願について、第1次審決で補正要件違反(新規事項)と判断され、知財高裁にて、それが取り消されました(第1次判決 平成26年(行ケ)第10242号)。審理が再開されましたが、審判官は、再度補正要件違反(新規事項)として判断しました。理由は、現出願である実案出願に開示がなかった技術的事項を導入しているというものです。
 以上を前提に,本件実用新案登録の当初明細書等と本願明細書等の記載事 項を比較すると,次のとおり,本願明細書等には,本件実用新案登録の当初 明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係に おいて,明らかに新たな技術的事項を導入するものというべき記載が認めら れる。
ア 本願明細書等の請求項1の(3)ないし(15)に関する事項 本願明細書等に記載がある,シュレッダー補助器について,材質がプラ スチック製であること(請求項1の(3)及び(9)),色が透明である こと(同(11)),横幅が約35cmであること(同(8))の各事項 について,本件実用新案登録の当初明細書等には明示の記載がなく,また, 本件実用新案登録の出願時において,これらの記載事項が技術常識であっ たとも認められない。 また,シュレッダー補助器に埋め込まれた金属製爪部分及びこれに関す る記載事項(同(4)ないし(7),(10),(12)ないし(15)) については,本件実用新案登録の当初明細書等において,そのような爪部 分の存在自体が明らかでない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
イ 本願明細書等の図1及び図2並びに段落【0010】の図1及び図2に 関する事項
本願明細書等の図1(シュレッダー補助器の横断面図)及び図2(シュ レッダー補助器の正面図)並びに段落【0010】の図1及び図2に関す る寸法については,本件実用新案登録の当初明細書等には記載も示唆も一 切認められない。これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全 ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明 らかに新たな技術的事項を導入するものというべきである。 ウ 本願明細書等の段落【0010】の図3及び図4に関する事項 本願明細書等の段落【0010】には,図3の寸法に関し,「(ム)シ ュレッダー補助器の下部外幅は6mm,」と記載され,「(ヤ)シュレッダ ー補助器が挿入し易いよう,傾斜角を,シュレッダー機本体の水平面から 測って85度とし,」と記載されている。しかしながら,本件実用新案登録 の当初明細書等の対応する図1においては,シュレッダー補助器の下部外 幅は5mmと異なる数値が記載されており,また,傾斜角については記載 も示唆も認められない。 また,本願明細書等の段落【0010】には,図4の寸法に関し,「( ヨ)シュレッダー補助器の横幅約35cm,」と記載されている。しかし ながら,本件実用新案登録の当初明細書等には,この点についての記載も 示唆も認められない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
(5) 以上のとおりであるから,本願明細書等に記載した事項は,本件実用新案 登録の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。 したがって,本願について出願時遡及を認めることはできないから,本願 は,平成18年8月24日(本件実用新案登録に係る実用新案登録出願の時) に出願したものとみなすことはできないとした本件審決の判断に誤りはなく, 本願出願の時は,本願出願の現実の出願日である平成20年10月10日と なる。
(6) これに対し,原告は,本件実用新案登録は,出願時と同一のものであると 認められたからこそ,登録になったのであり,原告は,本願において,その 登録になったものと同一のものを,そのまま(変更せずに)特許出願したに すぎないから,出願時遡及を認めないのは誤りであると主張する。 しかしながら,実用新案登録制度は,考案の早期権利保護を図るため実体 審査を行わずに実用新案権の設定の登録を行うものであるため,補正により 新規事項が追加され,無効理由を胚胎した出願であっても,実用新案権の設 定の登録はされ得る。そして,このような新規事項が追加されて実用新案登 録になった明細書等と同一のものに基づいて特許出願をした場合,特許出願 の当初明細書等も実用新案登録出願の当初明細書等に対して新規事項が追加 されたものになるから,その後の補正により新規事項が解消されない限り, 出願時遡及は認められないことになる。すなわち,実用新案権の設定の登録 は,登録時の明細書等が実用新案登録出願の当初明細書等と同一でなくとも され得るから,実用新案登録になった明細書等と同一のものをそのまま用い て特許出願をしたとしても出願時遡及が直ちに認められるものではない。し たがって,上記原告の主張はその前提を欠くものであって失当である。
また,原告は,本件実用新案登録の出願後,登録になるまでに何度も手続 補正をしているが,それは,いずれも被告側の指示(手続補正指令書)に従 って手続補正書を提出したものであり,被告側の指示に従って手続補正を繰 り返した結果,ようやく登録が認められたにもかかわらず,本件実用新案登 録の出願時のものとは異なるという理由で,出願時遡及を認めないのは理不 尽であるとも主張する。 しかしながら,証拠(甲2の1,4,6,8の1,8の2,11)によれ ば,手続補正指令書による被告の補正命令は,いずれも実用新案法6条の2 第1号又は第4号に関するものであって,補正後の明細書等の具体的内容を 指示したものではない。また,各手続補正指令書において,その都度,補正 した事項が出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるように十分\n留意する必要がある旨の注意喚起もなされている(更に付け加えれば,出願 手続には専門知識が要求されるので,専門家である弁理士に相談することの 促しもなされている。)。 それにもかかわらず,本件実用新案登録の登録時における明細書等の内容 が,新規事項の追加によって出願時のそれと異なるものとなり,その結果, 特許法46条の2第2項による出願時遡及が認められないこととなったのは, 原告自身の責任によるものというほかない。したがって,上記原告の主張も また失当である。

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平成28(ネ)10020等  特許権移転登録手続請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁第3部は、特許移転請求の裁判管轄がない国での判決は、無意味と判断しました。
 しかしながら,一審原告が一審被告らに対して本件各特許権の移転登録手 続を求める訴訟が日本国の専属管轄に属し,韓国に国際裁判管轄が認められ ないことは,前記のとおりである。したがって,専属管轄に違背する以上, 本件韓国訴訟(専属管轄に反する部分)は不適法であったといわざるを得な いのであるから,そのような不適法な訴訟において,いかに本件契約の成否 が争われ,この点について確定的な判断がなされたとしても,それは意味の ないものであったというほかはなく(これは,本来審理判断をすることがで きないはずの裁判所が審理判断を行ったという重大な瑕疵に関わる問題なの であるから,これを単なる形式論として軽視しようとする一審原告の主張は 到底採用できない。),信義則により主張を制限する前提を欠く。また,一 審原告の提訴の負担についても,そもそも日本国の裁判所において提訴する 必要があったのであるから,理由にならないというべきである。
(3) 以上によれば,争点1に関する一審原告の主張は,採用することができな い。
3 争点2(本件合意書に関する紛争の準拠法は韓国法か,日本国法か)につい て
(1) 前記認定のとおり,本件合意書9条において,本件合意書に関して紛争が 生じた場合,その準拠法は韓国法と指定されているところ,本件サインペー ジには一審被告Y及びAの署名があること,本件サインページを返送する際 にAが作成した本件カバーレター(乙9)には,「1点を除いて,貴殿の申\nし入れを全て受け入れたい」との文言があり,一審被告らは,準拠法につい ては特に異議を述べる意思はなかったと認められること等の事情からすれば, 本件合意書による契約(本件契約)の成立及び効力については韓国法による というのが,当事者の合理的意思であったと推認するのが相当であり,かか る推認を覆すに足りる証拠はない。 したがって,本件の準拠法は,韓国法であるというべきである(法の適用 に関する通則法附則3条3項,旧法例7条1項)。
(2) これに対し,一審被告らは,準拠法の指定合意が無効であるとか,取り消 されるべきであるなどと主張する。 しかしながら,ここでは,本件契約に関する合意の成否や効力を問題とし ているのではないことはもとより,準拠法に関する合意の成否や効力を問題 にしているのでもなく,飽くまで本件契約の成否について争いが生じたとき に,いずれの国の法律によってこれを判断するのが当事者の合理的意思に合 致するかを探求しているにすぎないのであるから,かかる主張は失当である。 また,一審被告らは,1)本件合意書においては日本国の特許権及び特許出 願が対象となっていること,2)本件合意書が日本語で作成されていること, 3)A及び一審被告Yは日本で本件合意書に署名したことなどからして,本件 合意書に関して紛争が生じた場合の準拠法は,日本国法とされるべきである 旨主張する。 しかしながら,1)については,日本国の特許権等が対象であるとしても, 譲渡契約自体は国外でもできる以上,譲渡契約を締結する当事者の合理的意 思が必ず準拠法は日本国法によるとの意思であると解すべき根拠はないとい うべきであるし,2)についても,本件合意書は日本語(和文)のみならず英 文でも作成されているのであるから,必ずしも決め手となるものではない。 3)についても然りであり,A及び一審被告Yが日本で本件合意書に署名して いるとの点は,合理的意思解釈を行う際の一つの要素にはなり得ても,それ だけで決め手になるものではない。 結局,前記(1)で説示した事情によれば,本件の準拠法に関する当事者の 合理的意思解釈としては韓国法によるものと解するのが相当であり,一審被 告らの主張はかかる認定を覆すに足りないというべきである。
・・・・
以上によれば,一審原告が主張するその余の点,すなわち,Aには,本 件サインページに署名するに当たり,本件米国訴訟を解決する(本件米国 訴訟を取り下げてもらう)という明確な動機があったとする点や,Aは, 本件特許権1及び同3に係る発明を完成させる能力を有しておらず,同人\nはこれらの発明の発明者ではなかったとする点を考慮しても,一審被告ら による本件サインページの返送により,平成16年4月3日の時点で直ち に本件契約が成立したと認定することは困難というべきである。 したがって,主位的主張に関する一審原告の主張は,採用することがで きない。

◆判決本文

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平成28(ネ)10046  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年1月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁特別部は、延長登録された特許権の効力がイ号製品には及ばないとした1審判断を維持しました。論点は、たくさんあります。
 (2) 法68条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」に係る特許発明の 実施行為の範囲について
政令(特許法施行令2条)では,延長登録の理由となる処分は医薬品医療 機器等法の承認と農薬取締法の承認の二つの処分に限定されている。本件の ように「政令で定める処分」が前者の承認(医薬品医療機器等法所定の医薬 品に係る承認)に係るものである場合においては,次のとおりであると認め られる。すなわち,
ア 医薬品医療機器等法14条1項は,「医薬品…の製造販売をしようとす る者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けな ければならない。」と規定し,同項に係る医薬品の承認に必要な審査の対 象となる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用\nその他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(同法14条2項,9項) と規定されている。 このことからすると,「政令で定める処分」が医薬品医療機器等法所定 の医薬品に係る承認である場合には,常に「用法,用量,効能及び効果」\nが審査事項とされ,「用法,用量,効能及び効果」は「用途」に含まれる\nから,同承認は,法68条の2括弧書の「その処分においてその物の使用 される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解される。 医薬品医療機器等法の承認処分の対象となった医薬品における,法68 条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」及び「用途」は,存続期 間が延長された特許権の効力の範囲を特定するものであるから,特許権の 存続期間の延長登録の制度趣旨(特許権者が,政令で定める処分を受ける ために,その特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許\n発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度と して,その期間の延長を認めるとの制度趣旨)及び特許権者と第三者との 衡平を考慮した上で,これを合理的に解釈すべきである。 そうすると,まず,前記のとおり,医薬品の承認に必要な審査の対象と なる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その\n他の品質,有効性及び安全性に関する事項」であり,これらの各要素によ って特定された「品目」ごとに承認を受けるものであるから,形式的には これらの各要素が「物」及び「用途」を画する基準となる。 もっとも,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨からすると,医薬品 としての実質的同一性に直接関わらない審査事項につき相違がある場合に まで,特許権の効力が制限されるのは相当でなく,本件のように医薬品の 成分を対象とする物の特許発明について,医薬品としての実質的同一性に 直接関わる審査事項は,医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能及び効\n果」である(ベバシズマブ事件最判)ことからすると,これらの範囲で「物」 及び「用途」を特定し,延長された特許権の効力範囲を画するのが相当で ある。 そして,「成分,分量」は,「物」それ自体の客観的同一性を左右する 一方で「用途」に該当し得る性質のものではないから,「物」を特定する 要素とみるのが相当であり,「用法,用量,効能及び効果」は,「物」そ\nれ自体の客観的同一性を左右するものではないが,前記のとおり「用途」 に該当するものであるから,「用途」を特定する要素とみるのが相当であ る。 なお,医薬品医療機器等法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」 は,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではないから,こ こでいう「成分」も有効成分に限られないことはもちろんである。 以上によれば,医薬品の成分を対象とする物の特許発明の場合,存続期 間が延長された特許権は,具体的な政令処分で定められた「成分,分量, 用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該\n特許発明の実施」の範囲で効力が及ぶと解するのが相当である(ただし, 延長登録における「用途」が,延長登録の理由となった政令処分の「用法, 用量,効能及び効果」より限定的である場合には,当然ながら,上記効力\n範囲を画する要素としての「用法,用量,効能及び効果」も,延長登録に\nおける「用途」により限定される。以下同じ。)。
イ 上記アによれば,相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。) が,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び\n効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が 延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできない。しか しながら,政令処分で定められた上記審査事項を形式的に比較して全て一 致しなければ特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることがで きるとすれば,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実 施をすることができなかった期間を回復するという延長登録の制度趣旨に 反するのみならず,衡平の理念にもとる結果になる。このような観点から すれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分 で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定さ\nれた「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものに も及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである(なお,法6\n8条の2は,「物…についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ば ない。」と規定しているけれども,同条における「物」についての「当該 特許発明の実施」としては,「物」についての当該特許発明の文言どおり の実施と,これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含 むものと解すべきである。)。 したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分\nが存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的 な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象とな った物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の 及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。
ウ そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で 定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用 量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しな い場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かど うかは,特許発明の内容(当該特許発明が,医薬品の有効成分のみを特徴 とする発明であるのか,医薬品の有効成分の存在を前提として,その安定 性ないし剤型等に関する発明であるのか,あるいは,その技術的特徴及び 作用効果はどのような内容であるのかなどを含む。以下同じ。)に基づき, その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法, 用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特\n徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判 断すべきである。 上記の限定した場合において,対象製品が政令処分で定められた「成分, 分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と医薬品と\nして実質同一なものに含まれる類型を挙げれば,次のとおりである。 すなわち,1)医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長 登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象 製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において\n異なる成分を付加,転換等しているような場合,2)公知の有効成分に係る 医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令 処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を\n付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の 間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,3) 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意 味のない程度の差異しかない場合,4)政令処分で特定された「分量」は異 なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる 場合(本件処分1と2,本件処分5ないし7がこれに該当する。)は,こ れらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当た り,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なも のに含まれるというべきである(なお,上記1),3)及び4)は,両者の間で, 特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型であ る。)。 これに対し,前記の限定した場合を除く医薬品に関する「用法,用量, 効能及び効果」における差異がある場合は,この限りでない。なぜなら,\n例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために「用法,用量」 に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じ て多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なる ために「効能,効果」が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点か\nらの考察が重要であると解されるからである。 しかし,特許発明の技術的範囲における均等は,特許発明の技術的範囲 の外延を画するものであり,法68条の2における,具体的な政令処分を 前提として延長登録が認められた特許権の効力範囲における前記実質同一 とは,その適用される状況が異なるものであるため,その第1要件ないし 第3要件はこれをそのまま適用すると,法68条の2の延長登録された特 許権の効力の範囲が広がり過ぎ,相当ではない。 すなわち,本件各処分についてみれば明らかなように,各政令処分によ って特定される「物」についての「特許発明の実施」について,第1要件 ないし第3要件をそのまま適用して均等の範囲を考えると,それぞれの政 令処分の全てが互いの均等物となり,あるいは,それぞれの均等の範囲が 特許発明の技術的範囲ないしはその均等の範囲にまで及ぶ可能性があり,\n法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広がり過ぎるこ とが明らかである。 また,均等の5要件の類推適用についても,仮にこれを類推適用すると すれば,政令処分は,本件各処分のように,特定の医薬品について複数の 処分がなされることが多いため,政令処分で特定される具体的な「物」に ついて,それぞれ適切な範囲で一定の広がりを持ち,なおかつ,実質同一 の範囲が広がり過ぎないように(例えば,本件各処分にみられるような複 数の政令処分について,分量が異なる一部の処分に係る物が実質同一とな ることはあっても,その全てが互いに実質同一の範囲に含まれることがな いように)検討する必要がある。 しかし,まず,第1要件についてみると,このような類推適用のための 要件を想定することは困難である。すなわち,第1要件は,政令処分によ り特定される「物」と対象製品との差異が政令処分により特定される「物」 の本質的部分ではないことと類推されるところ,実質同一の範囲が広がり 過ぎないように類推適用するためには,政令処分により特定される「物」 の本質的部分(特許発明の本質的部分の下位概念に相当するもの)を適切 に想定することが必要であると解されるものの,その想定は一般的には困 難である。また,第2要件は,政令処分により特定される「物」と対象製 品との作用効果の同一性と類推されるところ,これは,実質同一のための 必要条件の一つであると考えられるものの,これだけでは実質同一の範囲 が広くなり過ぎるため,類推適用のためには,第1要件やその他の要件の 考察が必要となり,その想定は困難である。 以上によれば,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合には,前記 の五つの要件を適用ないし類推適用することはできない。
オ ただし,一般的な禁反言(エストッペル)の考え方に基づけば,延長登 録出願の手続において,延長登録された特許権の効力範囲から意識的に除 外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には,法68条の2の 実質同一が認められることはないと解される。
(3) 対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。)に属することについて 法68条の2は,特許権の存続期間を延長して,特許権を実質的に行使す ることのできなかった特許権者を救済する制度であって,特許発明の技術的 範囲を拡張する制度ではない。したがって,存続期間が延長された特許権の 侵害を認定するためには,対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。) に属するとの事実の主張立証が必要であることは当然である。なお,このこ とは,法68条の2が政令処分の対象となった物についての「当該特許発明 の実施以外の行為には,及ばない」と規定していることからも明らかである。
・・・
しかしながら,一審原告の主張は,要するに,医薬品の承認制度の面から, 後発医薬品として承認されたものは全て実質同一物等に当たる(先発医薬品 に係る特許発明の効力が及ぶ)と断じるに等しく,法68条の2の制度趣旨 や解釈論を無視するものであって,採用することはできない。 すなわち,後発医薬品は,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み,同 一経路から投与する製剤で,効能・効果,用法・用量が原則的に同一であり,\n先発医薬品と同等の臨床効果・作用が得られる医薬品をいい,両者の間に有 効性や安全性について基本的な相違がないことが前提である。また,先発医 薬品と異なる添加剤を使用することがあっても,薬理作用を発揮したり,有 効成分の治療効果を妨げたりする物質を添加剤として使用することはできず, 医薬品としての承認に当たっては,生物学的同等性試験により主成分の血中 濃度の挙動が先発医薬品と同等であることの確認が求められるものとされて いる(甲30,弁論の全趣旨)。このように,後発医薬品は,先発医薬品と 治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり,先発医 薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから,そ\nもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは 当然である。しかし,これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性,安定性 を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず,特許発 明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。 これに対し,延長登録された特許権の効力範囲における実質同一は,特許 権の効力範囲を画する概念である。前記のとおり,1)法68条の2の規定は, 特許権の存続期間の延長登録の制度が,政令処分を受けることが必要であっ たために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目 的とするものであることに鑑み,存続期間が延長された場合の当該特許権の 効力についても,その特許発明の全範囲に及ぶのではなく,「政令で定める 処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が 定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)」について の「当該特許発明の実施」にのみ及ぶ旨を定めるものであり,2)医薬品の成 分を対象とする物の特許発明の場合,法68条の2によって存続期間が延長 された特許権は,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量, 効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」\nの範囲で効力が及ぶと解するのが相当であるものの,3)これらの各要素によ って当該特許権の効力範囲が画されるとしても,これらの各要素における僅 かな差異や形式的な差異によって延長登録された特許権の効力が及ばないと することは延長登録の制度趣旨に反し,衡平の理念にもとる結果となるから, これらの差異によっても,なお政令処分の対象となった医薬品と実質同一の 範囲で,延長された当該特許権の効力が及ぶと解すべきである。 したがって,延長登録された特許権の効力範囲における「成分」に関する 差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」のうち「効能,効果」に影\n響しない数量的差異に関する実質同一は,当該特許発明の内容に基づき,そ の内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量, 効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作\n用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえてこれを判断す べきであり,これを離れて,医薬品としての有効成分や治療効果(有効性, 安定性)のみからこれを論じるべきものではない。少なくとも,法68条の 2が,およそ後発医薬品であるが故に,すなわち,先発医薬品と同等の品質 を備え,これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨の ものでないことは明らかである。 しかるに,一審原告の主張は,当該特許発明の内容に関わらず,いわば医 薬品としての有効成分や治療効果のみに着目して延長された特許権の効力範 囲を論ずるものであり,これは前記のとおりの法68条の2の制度趣旨や解 釈論に反することが明らかであって,採用することはできないというべきで ある。

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1審はこちらです。

◆平成27(ワ)12412

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平成28(ネ)10060  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年12月14日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 経緯は以下の通りです。韓国における独占実施契約がなされました。ところが、国際出願について韓国における国内移行がなされていませんでした。裁判所は、契約の前提となる特許出願がなされていないことが、不法行為に該当するとして、損害賠償が認められました。なお、原審(H26(ワ)10203大阪地判)はアップされていません。
   以下によれば,敬晴会は,甲1契約の締結に当たり,信義則上,被控訴人に対し, 甲2発明が韓国において特許登録され得るものであるか否かに関する情報を調査・ 提供する義務(以下「本件情報提供義務」という。)を負うものと解される。
(ア) 前記1のとおり,甲1契約は,敬晴会が,被控訴人に対し,韓国において本 件皮膚再生医療技術を独占的に展開するために必要なノウハウ及び情報等を提供す るとともに,必要な知的財産権の実施を許諾(再実施許諾)するというものである から(第1条),実施許諾されるべき必要な知的財産権は,韓国において本件皮膚再 生医療技術を独占的に実施するために必要なものを指すと解される。 そして,甲1契約において,第1条を受けた第2条に甲2発明が挙げられている のであるから,甲2発明が上記の実施許諾されるべき必要な知的財産に含まれるこ とは,明らかである。さらに,甲2発明は,甲1契約において具体的に挙げられた 唯一の発明である上,本件皮膚再生医療技術に用いられる皮膚組織改善材等に係る ものであって,その内容(甲7の8参照)に照らしても,本件皮膚再生医療技術の 実施に当たり,当然に必要となるものと認められる。 そうすると,甲1契約の趣旨及び甲2発明の内容に照らし,韓国において,本件 ノウハウのみならず,甲2発明に係る技術を独占的に実施することができることは, 甲1契約の当然の前提であると解される。
(イ) そして,韓国における甲2発明に係る技術の独占的な実施は,同国において 甲2発明に係る特許権を取得することによって,可能となるものである。また,甲\n1契約の第2条には,「本基本契約において,『本件特許権等』とは,下記の特許権 及び甲(判決注・敬晴会)が今後所有権ないし実施権を取得する皮膚再生医療に関 する特許権のすべてを指す。」と記載された上で,甲2発明の出願番号が挙げられて おり,同記載内容から,甲2発明は,韓国において特許登録がされ得るものと理解 することができる。さらに,そもそも韓国において甲2発明に係る特許権を取得し 得ないことが明らかなのであれば,甲1契約によって同国における甲2発明の実施 の許諾を得る必要はない。 以上によれば,甲1契約は,甲2発明につき,韓国において特許取得のための手 続が採られ,特許登録がされる可能性のあるものであり,特許登録がされた場合に\nは,被控訴人においてその独占的実施許諾を受けられることを前提としていたもの と認められる。 そうすると,甲2発明が,韓国において特許登録され得るものかどうかに係る情 報(例えば,韓国における審査の進捗状況など)は,甲1契約の独占的実施の対象 となる権利に関するものであり,契約の重要な部分に当たるものであって,被控訴 人が甲1契約を締結するか否かを判断するに当たって必要とする情報であったもの ということができる。 (ウ) 一方,敬晴会は,甲1契約上,本件皮膚再生医療技術に関し,甲2発明を含 む名古屋大学が有する特許権に係る発明について,被控訴人に対し,再実施許諾を する立場にある。そうすると,甲2発明が韓国において特許登録され得るものであ るか否かは,甲1契約の対象となる独占的実施権に関する重要な情報であるから, 再実施許諾をする者としては,契約の相手方である被控訴人に対し,信義則上,上 記重要な情報を調査・提供する義務を負うものというべきである。
イ 敬晴会の本件情報提供義務違反について
前記1の認定事実によれば,名古屋大学が,本件国際特許出願につき,指定国と していた韓国において特許協力条約22条及び39条所定の期間内に国内移行手続 を行わなかったことから,同24条により,本件国際特許出願の効果は,韓国にお ける国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅し,甲2発明は,甲1契約 締結当時,既に韓国において特許登録を受けることができなくなっていた。 しかし,敬晴会は,これを代表する理事長である控訴人において,甲1契約の締\n結に当たり,上記のとおり甲2発明が韓国において特許登録を受けることができな くなっていたという事実を被控訴人に伝えなかったのであり,過失により,本件情 報提供義務を怠ったものと認められる。 そして,前記1の認定事実及び被控訴人代表者の供述(乙5)によれば,被控訴\n人は,1)名古屋大学が,同大学において開発した甲2発明を含む本件皮膚再生医療 技術につき,韓国内において独占的な権利を有し,あるいは,そのような権利を取 得するための手続を採り得る立場にあること及び2)敬晴会が,本件皮膚再生医療技 術に係る再実施許諾権を有しており,被控訴人に対して再実施許諾をすることを前 提として,甲1契約を締結したのであり,上記のとおり,甲2発明は,韓国におい て特許登録を受けることができなくなっていた事実を知っていれば,甲1契約を締 結しなかったものと認められる。 以上によれば,敬晴会が過失により本件情報提供義務を怠り,上記事実を被控訴 人に伝えなかった結果,被控訴人は,甲1契約を締結するに至ったものであるから, 敬晴会は,本件情報提供義務違反により,被控訴人に生じた損害を賠償する義務を 負う。

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平成28(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する特許について、新規性なし・公序良俗違反・記載要件違反なしとの審決が維持されました(知財高裁2部)。
 原告は,1)本件発明が本来的に治療行為,美容行為等を含んだ筋力トレーニング であること,2)本件発明が自然法則それ自体に特許を認めていること,から,本件 発明は,社会的妥当性を欠くので特許法32条に反すると主張する。 しかしながら,前記1(1)に認定のとおり,本件発明は,特定的に増強しようとす る目的の筋肉部位への血行を緊締具を用いて適度に阻害してやることにより,疲労 を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに,関節や筋肉 の損傷がより少なくて済み,更にトレーニング期間を短縮できるようにしたもので ある。 そうすると,本件発明は一義的に人体に重大な危険を及ぼすものではない上,本 件発明を治療方法等にも用いる場合においては,所要の行政取締法規等で対応すべ きであり,そのことを理由に,本件発明が特許を受けることが許されなくなるわけ ではない。また,特許を取得しても,当該特許を治療行為等の所要の公的資格を有 する行為において利用する場合には,当該資格を有しなければ当該行為を行うこと ができないことは,当然である。したがって,本件発明に特許を認めること自体が 社会的妥当性を欠くものとして,特許法32条に反するものとはいえない(なお, 産業上の利用可能性の有無については,前件審判・前件判決で既に取消事由とされ\nたものであり,本件は,専ら,特許法32条該当性のみを審理するものである。)。 また,本件発明は,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位 に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に与える負荷が, 筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」ものであるから,自然法則を利用し たものであるが,人体の生理現象そのもののような自然法則それ自体を発明の対象 とするものではない。そもそも,特許権は,業として発明を実施する権利を専有す るものであり(特許法68条),業として行わなければ,本件発明の筋力トレーニン グ方法は誰でも自由になし得るのであり,本件特許はそれを制限するものではない。 そうすると,原告の上記主張は,いずれも採用することができず,本件発明は, 公の秩序,善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明とすることはでき ない。 したがって,取消事由4は,理由がない。
6 取消事由5(無効理由5−2に関する判断の誤り)について
(1) 検討
旧特許法36条5項2号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようと する発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」とい\nう。)に区分してあること」との要件に適合するものでなければならないと規定して いた。これは,発明の構成に欠くことができない事項(必須要件)を全て記載する\nことを求めるとともに,必須要件でないものを記載しないことを求めることにより, 請求項の構成要件的機能\を担保したものであり,特許請求の範囲には,必要かつ十\n分な構成要件を記載することを求めたものといえる。\n前記1(1)のとおり,本件発明1の技術的意義は,筋力トレーニング方法において, 筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものとすること, すなわち,目的の筋肉部位への血行を緊締具により継続的に適度に阻害することに より,疲労を効率的に発生させることにある。このような技術的意義にかんがみれ ば,特許請求の範囲に,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部 位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に疲労を生じ させるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するも のである」ことが記載されていれば,本件発明の技術的課題を解決するために必要 かつ十分な解決手段が記載されているというべきである。
(2) 原告の主張について
1) 原告は,本件発明1の課題・効果を得るためには,所要の加圧条件を特許請 求の範囲に記載する必要があると主張する。 しかしながら,上記(1)のとおり,本件発明の課題解決手段は,本件発明1の記載 で明らかとされている一方,筋肉増大の程度は,トレーニングの態様,対象者,対 象部位等に応じて異なり,一義的に決まるものではないから,所要の加圧条件を特 許請求の範囲に記載しないことが,必須要件を記載していないことになるとまでは いえない。
2) 原告は,本件発明1が,筋肉への血流を止めることなく阻害し,これによっ て筋肉に疲労を生じさせること自体を筋力トレーニング方法と称しているのか,そ れ以外の何らかのトレーニングをすることを必須としているかも不明確であると主 張する。 本件発明の筋力トレーニング方法が,緊締具を用いて更にトレーニングを行うこ とを前提にしていることは,発明の詳細な説明から明らかであり(本件訂正明細書 の【0004】【0017】【図1】参照),そのような方法であるか否かが不明確で あるということはない。本件発明1は,そのうち,締結具によって筋肉への血流を 止めることなく阻害し,これによって筋肉に疲労を生じさせるとの部分を特許請求 の範囲に掲げたものと理解される。どのようなトレーニングがされるかは,トレー ニングの態様,対象者,対象部位等に応じて異なる上に,単なる技術常識の適用に すぎないことは自明であり,本件発明の筋力トレーニング方法を技術的に特徴付け るものではない。したがって,そのような事項は,本件発明の必須の要件ではない。 3) 以上のとおり,原告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上から,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項2号の要 件を満たすと認められる。

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平成27(ワ)7147  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月15日  大阪地方裁判所

 文言は被侵害、均等侵害も第1要件を充足していないとして否定されました。メーカではなく販売店が被告というのも興味深いです。
 すなわち均等侵害が認められるためには,本件発明と被告方法の構成に異な\nる部分が存在する場合であっても,その部分が本件発明の本質的部分ではないこと が要件となるところ,ここでいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明 の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成す\nる特徴的部分であると解すべきであり,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明 細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法36条4項,特許法 施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第\n116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴\n的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(知財高裁平成 28年3月25日特別部判決)。
・・・
 本件発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,本件発明は,本件 特許の特許請求の範囲請求項1の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方 法として,「粉砕段階」,「加熱段階」を含む複数の動作段階を設定し,それら動 作段階の一部についてはその順序,時間,回数等を具体的に指定し,穀物の粉砕手 段及び加熱手段を一体化した組合せとすることにより,通常のおかゆの調理方法に おいて時間を要していたふやかしの時間及び全体の調理時間の短縮を図り,また, 通常の調理方法においてはかきまぜの継続によって解消していたおかゆの焦げ付き も防止するなど,より簡便,迅速に本来の風味を有するおかゆの調理ができるよう にしたものであると認められる。 ところでおかゆの調理方法として,加熱や粉砕の動作を適宜組合せることは,周 知であるから(本件明細書の【0005】),本件特許の特許請求の範囲請求項1 の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方法である本件発明における本質 的部分とは,調理方法を決定するところの「粉砕段階」,「加熱段階」,「待機段 階」という一連の動作段階の設定,及び各動作段階において具体的に規定された粉 砕及び加熱の動作並びに待機の順序,各動作及び待機の時間,各動作及び待機の回 数等を一体化した組合せそのものにあると認められる。 (6) これに対し,被告方法は,既述のとおり,少なくとも,その第1及び第2の 粉砕段階において,本件発明の構成要件として規定された粉砕と待機とは異なる時\n間,回数の粉砕と待機がなされるものであるから,動作等の組合せにおいて,本件 発明の一体化した組合せとは異なっており,この相違部分は本件発明の本質的部分 に存するものといわなければならない, したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足するとは認められない。

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平成27(行コ)10004  異議申立却下決定取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国内移行の翻訳文を期限経過後に提出し、必要な代表者資格証明を提出しなかったために補正命令に応ぜず却下処分となりました。この異議申\し立ての行政訴訟です。知財高裁は却下処分妥当と判断しました。
 控訴人らが本件異議申立てに際して代表\者の資格証明に関する書面及び代理人であることを証明する書面(以下,両者を併せて,「資格証明所等」という。)を添付しなかったことから,特許庁長官は,補正期間を30日と定める本件補正命令を発したが,控訴人らが上記期間内に資格証明書等を提出しなかったため,本件決定をした。本件補正命令の内容は,資格証明書等の提出を求めるという明確なものであり,また,控訴人らのような種類の法人についても,補正を命じられた不備を補正することは困難なことではないから(現に,控訴人らは,本訴提起に当たっては,控訴人らの資格証明書等を提出している。),控訴人らは,相当の期間を定めて命じた補正に従って資格証明書等を提出することをしなかったのであって,本件異議申立ては,行政不服審査法13条1項に違反し,不適法である。したがって,これらをいずれも却下した本件決定に違法は認められない。\n

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平成28(ワ)12480  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月30日  東京地方裁判所

 生海苔異物除去機の一部の部品を交換する行為が生産が該当する(特許権侵害)と判断されました。
 原告は,被告ワンマン及び被告西部機販に対し,本件メンテナンス行為1 の差止めを求めるところ,製品について加工や部材の交換をする行為であっ ても,当該製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか, 取引の実情等も総合考慮して,その行為によって特許製品を新たに作り出す ものと認められるときは,特許製品の「生産」(法2条3項1号)として, 侵害行為に当たると解するのが相当である。 本件各発明は,前記1(2)のとおり,生海苔混合液槽の選別ケーシングの 円周面と回転板の円周面との間に設けられた僅かなクリアランスを利用して, 生海苔・海水混合液から異物を分離除去する回転板方式の生海苔異物分離除 去装置において,クリアランスの目詰まりが発生する状況が生じ,回転板の 停止又は作業の停止を招いて,結果的に異物分離作業の能率低下等を招いて\nしまうとの課題を解決するために,突起・板体の突起物を選別ケーシングの 円周端面に設け(本件発明1),回転板及び/又は選別ケーシングの円周面 に設け(本件発明3),あるいは,クリアランスに設けること(本件発明4) によって,共回りの発生をなくし,クリアランスの目詰まりの発生を防ぐと いうものである。そして,本件板状部材は,本件固定リングに形成された凹 部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより,本件各発明の 「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)に該当する「表\面側の突出 部」,「側面側の突出部」を形成するものであること(当事者間に争いがな い)からすると,本件固定リング及び本件板状部材は,被告装置の使用(回 転円板の回転)に伴って摩耗するものと認められるのであって,このような 摩耗によって上記突出部を失い,共回り,目詰まり防止の効果を喪失した被 告装置は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を欠き,もはや「共 回り防止装置」には該当しないと解される。 そうすると,「表面側の突出部」,「側面側の突出部」を失った被告装置\nについて,新しい本件固定リング及び本件板状部材の両方,あるいは,いず れか一方を交換することにより,新たに「表面側の突出部」,「側面側の突\n出部」を設ける行為は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を備え た「共回り防止装置」を新たに作り出す行為というべきであり,法2条3項 1号の「生産」に該当すると評価することができるから,原告は,被告らに 対し,法100条1項に基づき,上記(1)の差止めに加えて,本件メンテナ ンス行為1の差止めを求めることができる。
・・・・
これに対し,被告ワンマン及び被告西部機販は,要旨,1本件装置1及 び2の仕入代金以外に必要経費が生じているから,これらについても被告ワ ンマン及び被告西部機販の利益から控除すべきである,2)本件特許は本件装 置1及び2の販売にほとんど寄与しておらず,本件装置1及び2の売上への 寄与率が10%を超えることはない,3)被告ワンマン及び被告西部機販が本 件装置1及び2の販売によって得た利益を原告の損害と推定することについ ての推定覆滅事由があるなどと主張する。 しかしながら,上記1)について,必要経費として控除できるのは,本件装 置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になった経費に限られるもの と解すべきところ,被告ワンマン及び被告西部機販の主張する経費が本件装 置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になったものと認められない のはもちろん,そもそも同経費が現実に生じたこと自体を認めるに足る証拠 が一切なく,その算定根拠も判然としない。また,上記2)について,本件各 発明は,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものである一方,\n本件各発明が本件装置1及び2に寄与する割合を減ずべきであるとする被告 ワンマン及び被告西部機販の主張の根拠は判然としないことに照らせば,本 件各発明が本件装置1及び本件各部品の販売に寄与する割合を減ずることは 相当でない。さらに,上記3)について,被告が主張するのは,単に,原告が 販売店ではなく製造業者であるという事実にとどまるところ,同事実のみか ら,本件各発明の実施品が有する顧客吸引力にもかかわらず,原告がその取 引先への販売の機会を持ち得なかったということはできないし,ほかに原告 が取引の機会を奪われたとはいえない特段の事情もないから,法102条2 項による推定を覆滅するには足りないというほかない。

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平成27(ワ)10913  債務不履行損害賠償請求  特許権  民事訴訟 平成28年5月23日  大阪地方裁判所

 米国での手続きを適切に行わなかったとして、債務不履行に基づく損害賠償請求がなされました。一度神戸地裁で判決がなされていますが、控訴された、控訴審では、管轄違いとして大阪地裁に差し戻されました。判断としては請求棄却です。
2 被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負うか否か
(1) 前記認定事実等(1)ア(ア)のとおり,米国特許出願手続における補正は,書類 を提出することによって行われるが,審査官補正の場合には,米国特許商標庁(審 査官)が審査官補正書を発行して行われると認められる。そして,前記認定事実等 (1)ア(イ)c及びdのとおり,審査官補正は,出願人が電話又は個人面接にて権限を授 与した場合に許されることから,審査官補正の場合には,出願人が補正の書面を提 出する必要はないと認められ,前記認定事実等(4)のとおり,578出願での審査官 補正でも電話面接による権限授与が行われているにとどまる。そこで,本件で,被 告らが審査官からの連絡に対して補正の書面を提出すべき義務を負うといえるため には,審査官からの連絡が審査官補正の提案でなく,出願人による補正の促しであ ったことが必要となるので,まずこの点を検討する。
ア 前記認定事実等(2)アのとおり,被告P2は,P4に対する電子メールに おいて,審査官からの補正提案を許容する旨を審査官に伝えれば,審査官は審査官 による補正を用意すると連絡しており,これによれば,被告P2は,審査官からの 連絡を審査官補正の提案であると理解したと認められる。そして,同電子メールに 記載された審査官の提案は,クレームを提案のように補正すれば,特許可能である\nという内容を電話で伝えてきたものであるところ,これは,審査官補正が,「出願を 特許として通す場合」(又は「特許申請登録の段階に於いて」),「電話又は個人面接\nにてかかる変更について権限を授与した場合に」許されるものである(前記認定事 実等(1)ア(イ)c)との定めにも適合している。そうすると,本件での審査官の提案は, 審査官補正の提案であったと認めるのが相当である。

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平成27(ワ)12414  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月30日  東京地方裁判所

 延長登録の対象となった対象について、イ号と均等か争われました。地裁は「本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる」として、均等を否定しました。
 上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」 に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原 告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ 以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各 処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各 認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサ リプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として, 「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリ プラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注 射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)に グリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラ チンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその 二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成 するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的とし たものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各 製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オ キサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えること が,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく, むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチ ンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができ る(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については, 保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあ ることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加された シュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シ ュウ酸は人体に有害な物質である。)。 そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」 に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関 係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であ り,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験 が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技 術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。 したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,\n被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等 物ないし実質同一物に該当するということはできない。 この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加 物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット 50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有す ることを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を 得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静 注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有す るとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記 のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が, 医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を 特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した 有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たら ず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分であ る「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていること をもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって, 原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用 される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものというこ ともできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告 による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。

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平成26(ワ)9945  特許権者確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月17日  大阪地方裁判所

 現行法の取戻請求が認められない案件について、不当利得返還請求権に基づく移転登録の請求が認められました。
 以上に認定した原告とP3社との合意内容(請求原因(4)の事実)及び原告と被告 との合意内容(請求原因(5)の事実)によれば,出願人名義を被告に変更した当時, 原告が本件発明に係る特許を受ける権利を有していたと認められ,その後,請求原 因(6)のとおり,本件特許権は,本件出願について特許法所定の手続を経て,設定の 登録がされたのであるから,本件特許権は,原告が有していた特許を受ける権利と 連続性を有し,それが変形したものであると評価することができる。 そうすると,被告は,法律上の原因なくして,本件特許権を取得したという利益 を得ているといえるから,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づいて, 本件特許権について移転登録手続を請求することができる(最高裁判所平成13年 6月12日判決・民集55巻4号793頁参照。なお,本件では,平成23年法律 第63号による改正後の特許法74条は適用されない。)。

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平成25(ワ)19912  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年2月19日  東京地方裁判所

 共同出願人の一方が期間内に出願審査請求をしなかったことを内容とする債務不履行に基づく損害賠償請求について理由有りとの判断がなされました。中間判決です。争点の一つが、特許がとれる発明だったのかどうかです。裁判所は一部については進歩性があったと判断しました。
 本件発明1−1は,加振用液圧シリンダ機構が,「ピストンロッドを共通にする複シリンダ構\成をなし,各シリンダのロッド側液室には前記定加圧部による加圧力並びにこれと平衡する圧力を導入しつつヘッド側液室に加振液圧を導入して前記加 圧部による負荷を無負荷状態にして加振できるようにした」ものである(構成要件1D)のに対し,乙22の3発明は,脈動発生装置がそのような構\成を有していない点において,両発明は相違している。 b 本件発明1−1と乙22の3発明との相違点2に関する検討 乙22の3発明に乙4の2文献に記載された技術(装置)を適用しても,加振用液圧シリンダ機構の「各シリンダのロッド側液室に定加圧部による加圧力及びこれと平衡する圧力を導入しつつ」「ヘッド側液室に加振液圧を導入して」「加圧部による負荷を無負荷状態にして加振できるようにした」構\成とすること(構成要件1D2,1D3a及び1D3b)には至らない。\n前記イ(イ)bで説示したところからすれば,乙22の3発明において,脈動発生装置を上記構成とすることが,本件出願1前に,当業者が容易に想到し得たものということはできない。
c 小括
したがって,前記相違点1に関して検討するまでもなく,本件発明1−1は,本件出願1前に,乙22の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなかったというべきである。
・・・・
 以上のとおり,本件出願1及び本件出願2については,審査請求期間内に出願審査請求がされていれば特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということができるが,本件出願3及び本件出願4については,審査請求期間内に出願審査請求がされていたとしても特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということはできない。 したがって,本件出願1及び本件出願2については,前記2で説示した被告の債務不履行と損害の発生との間の因果関係を肯認することができるが,本件出願3及び本件出願4については,被告の債務不履行又は不法行為と損害の発生との間の因果関係を肯認することはできない。

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平成27(ネ)10048等  特許権侵害差止等請求控訴事件,仮執行の原状回復および損害賠償の申立事件  特許権  民事訴訟 平成27年11月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 侵害判断は1審と同じですが、下記のメンテナンス行為の禁止が追加されました。 ただし,部品の交換としての行為に限るとの条件が付加されました。
 一審被告は,本件各発明における「共回りを防止する防止手段」は,「突起物」 であるところの本件板状部材に限られ,本件固定リングは,これに該当しないから, 新しい本件固定リングを被告装置に取り付ける行為は,特許法2条3項1号の「生 産」に該当しない旨主張する。 しかし,被告装置における「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)は,\n「表面側の突出部」,「側面側の突出部」であり,これは,本件板状部材が本件固\n定リングに形成された凹部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより, 形成されるものであるから,本件板状部材のみが,単独で「共回りを防止する防止 手段」に該当するわけではない。 被告装置においては,上記イのとおり,本件板状部材が,本件固定リングの表面\nに形成された凹部に嵌め込むようにして取り付けられ,固定されることにより,「表\n面側の突出部」,「側面側の突出部」を形成するものであるから,被告装置におい て本件固定リングを交換する行為も,特許法2条3項1号の「生産」に該当すると いうべきである。
エ 上記イのとおり,一審原告は,被告装置において,本件固定リング又は本件 板状部材を,新しい本件固定リング又は本件板状部材に交換する行為の差止めを求 めることができる。 なお,被告装置において新しい本件固定リング又は本件板状部材を交換する行為 は,通常,一審被告による本件固定リング又は本件板状部材の譲渡を伴うものであ ると解されるから,これらの部材の販売の差止めと重なる部分がある。 他方,本件メンテナンス行為1の差止請求に,部品の交換以外の態様で,これら の部材を取り付ける行為の差止めを求める趣旨が含まれているとすれば,そのよう な行為は実施行為に当たらず,侵害の予防に必要な行為にも当たらないから,当該\n行為の差止請求を認める根拠はない。 オ 以上によれば,一審原告は,一審被告に対し,特許法100条1項に基づき, 前記9の差止めに加え,被告装置のいずれかに対し,本件固定リング又は本件板状 部材を取り付ける行為(ただし,部品の交換としての行為に限る。)の差止めを求 めることができる。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成25(ワ)32555

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平成27(ワ)14339  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年10月14日  東京地方裁判所

 物の発明か否かが争われました。これは単純方法発明だと結果物に効力が及ばないからです。東京地裁は方法の発明であると判断しました。PBPクレームに関する最高裁判決の後だけに、要チェックですね。
問題のクレームは「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前期テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構\造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」です。
イ そして,「物の発明」は,技術的思想である発明が生産,使用又は譲渡のできる対象として具現化されているものをいうと解されるから,「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになる(なお,特許が「物の発明」についてされている場合において,特許請求の範囲にその物の製造方法〔経時的要素〕の記載があるいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームも存在するところであるが,「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構\造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である〔最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号参照〕。)。\nこれに対し,方法の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,経時的要素(時間的要素)を記載して特定することになる。
(2)ア 以上を前提に,本件特許発明について見るに,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,その末尾に「地盤強化工法」と記載されているところ,「工法」の通常の意味は,「工事の方法」であると解される。 この点,原告は,建設業界において,「工法」を「構造・構\成」と同義に使用することは当業者の常識である旨主張するが,本件証拠によっても,そのような常識の存在を認めるには足りない。
イ また,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮すべきところ(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条2項参照),本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構\造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,」(段落【0005】),「施工手順としては,…テーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する」(段落【0008】)などと記載されており,分説Aと分説Bの時間的前後関係を裏付ける記載がある。\nそうすると,本件特許発明の構成要件のうち,分説A「鉄骨などの構\造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,」と分説B「前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または人工造成地を配置する地盤強化工法であって,」によれば,本件特許発明は,地盤に「テーブル」を設置した後に,「テーブルの上部」に構\造物等を配置する「工法」であると解され,分説A及び分説Bの「テーブル」は,そのような順序で施工されるものと解するのが相当である。 この点,原告は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち,「設置し」,「配置する」との文言については,施工の手順を意味するものではなく,「物の発明」であっても,仕様説明のために動詞によって記載することは本件特許の出願時の当業者にとって常識であった旨主張し,これを裏付けるものとして鹿島特許を掲げる。 しかし,鹿島特許(平成15年6月30日以前にされた出願に係るものであるから,特許請求の範囲は明細書から分離されていない。)に係る明細書の特許請求の範囲の各請求項の末尾には,「防災都市。」と記載されていることから(甲7),同特許に係る各発明は,「防災都市」に関するものであることが一義的に明らかであって,「工法」に関するものと解する余地はなく,したがって,鹿島特許の存在は,何ら原告の主張の根拠となるものでない。
ウ 以上によれば,本件特許発明は,「物の発明」でなく,「方法の発明」であることが明らかであるというべきである。
(3)ア 上記(2)の点をひとまず措いて,原告が主張するように,「工法」を「構造又は構\成」と解することを想定したとしても,「物の発明」であるというためには,いかなる「物」の構造又は構\成についての発明であるかが当該特許請求の範囲に明確に示されていること,換言すると,生産,使用又は譲渡の対象となる物が特許請求の範囲に示されていることが必要である。 しかし,原告は,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構\造」につき,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の作用や段落【0015】の効果を得ることを目的とする「物の発明」である旨主張するにとどまり,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「物」が何か,すなわち本件特許発明の対象\n となる「物」が何であるかを明らかにした主張をしていない。 また,本件特許の出願時において,本件特許発明の対象となる「物」をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であったとか,およそ実際的でなかったなどの事情は,何ら主張立証されていないから,仮に,本件特許発明を「物の発明」と解するならば,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合しないことになるところ,本件特許が出願され,特許査定されたものである以上,あえて本件特許発明を「物の発明」であるとして上記要件を満たさないとするよりも,前記のとおり,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に従って,これを「方法の発明」と解釈することが合理的であることは,明らかである。

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平成27(ネ)10097  差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ECサイトの楽天に対する特許権侵害について、運営者(楽天)による実施(販売)とは認定されませんでした。1審は技術的範囲外で請求棄却でした。
 控訴人は,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造, 販売及び輸出の差止めを請求しているところ,同請求が認められるためには,被控 訴人において被告製品の製造,販売及び輸出をしていること又はそのおそれがある ことが立証されなければならない。 しかしながら,本件において,控訴人は,被控訴人が被告製品の製造,販売及び 輸出をしていること又はそれらの行為に及ぶおそれがあることについて,何らの立 証をしていない。 なお,証拠(乙ハ1〜3)によれば,1)被控訴人がインターネット上で運営する ショッピングモール「楽天市場」は,出店者が,被控訴人との間の契約に基づき, 出店ページを開設するなどして出店者の物品の販売又は役務の提供を行うものであ ること,2)上記物品の売買又は役務の提供は,出店者と上記出店ページを閲覧した 者,すなわち,顧客との間で行われ,出店者は,顧客に対し,取引の当事者は出店 者と顧客であることを明確に表示する旨が上記ショッピングモールの利用規約(乙\nハ1)に明記されていることが認められ,これらの事実によれば,たとえ被告製品 が上記ショッピングモール上に紹介されていたとしても,直ちに被控訴人が自ら当 該被告製品を販売しているということはできない。 (2)控訴人は,被控訴人が共同不法行為責任を負うなどと主張する。それが,出 店者の販売行為を教唆,幇助するものであるという趣旨であるとしても,以下のと おり,被控訴人に対して特許法100条1項に基づく販売の差止めを請求すること はできない。 ア すなわち,特許法100条1項は,特許権を侵害する者又は侵害するおそれ がある者(以下「特許権を侵害する者等」という。)に対し,その侵害の停止又は予\n防を請求することができる旨を規定しているところ,特許権を侵害する者等とは, 自ら特許発明の実施(同法2条3項)若しくは同法101条所定の行為をした者又 はそのおそれがある者を意味し,特許権侵害の教唆,幇助をした者は,これに含ま れないと解するのが相当である。 このように解する理由は,以下のとおりである。すなわち,1)民法上,不法行為 に基づく差止めは認められておらず,特許法100条1項所定の「侵害の停止又は 予防」としての差止めは,特許権の排他的効力に基づき,特許法により特に定めら\nれたものである。2)他方,教唆又は幇助による不法行為責任は,自ら他人の権利を 侵害する者ではないにもかかわらず,被害者保護の観点から特に教唆及び幇助を共 同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることとしたもので あり,上記1)の特許権の排他的効力に基づく特許法100条1項所定の差止請求権 とは,制度の目的,趣旨において異なる。3)教唆又は幇助については,その行為態 様として様々なものがあり,特許権侵害の教唆行為又は幇助行為に対して無制限に 差止めを認めると,差止請求の相手方が無制限に広がり,差止めの範囲が広範にす ぎるなどの弊害が生じるおそれがあるところ,特許法101条所定の間接侵害の規 定は,上記弊害の点に鑑み,特許権侵害の幇助行為の一部の類型に限り侵害とみな して差止めの対象としたものと解されるから,それを超えて幇助行為一般及び教唆 行為について差止めを認めることは,同条の趣旨に反するものということができる。 イ そして,前記(1)によれば,被控訴人が本件発明を実施したとは認められず, 特許法101条所定の行為をしたとも認められないし,そのおそれもないから,被 控訴人に対する製造,販売及び輸出の差止請求が認められる余地はない。

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◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第23512号

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平成26(行ケ)10235  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月26日  知的財産高等裁判所

特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」ではないと判断されました。
 本件審判の請求書における上記記載によれば,原告は,本件審判の無効理由とし て,甲1文献に記載された従来技術と甲3公報に記載された「OS1」との組合せ による容易想到性(特許法29条2項)を主張していること,すなわち,甲1文献 に記載された従来技術である「ガラス瓶,金属表面の洗浄において2%以上のNa\nOH(水酸化ナトリウム)水溶液が,キレート剤としてコンプレクサン型であるE DTAを添加して常用されていたこと」を主引用発明とし,生分解が低いという問 題があるEDTAを,それと同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート 剤に変更するという技術思想が甲2公報に記載されていることを動機付けとして, 甲3公報に記載された,同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート剤で ある「OS1」を,主引用発明におけるEDTAに代えて用いて,「2%以上のN aOH水溶液に,キレート剤として「OS1」を添加して,ガラス瓶,金属表面の\n洗浄に用いる」ことにより,本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到す\nることができたと主張しているものと解される。 イ 本件審判の請求書には,上記の記載のほかにも「甲第3号証には,グルタミ ン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムとの相乗作用について記載が ない。しかし,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムを含 有する「OS1」をそのまま甲第1号証のEDTAの代わりに用いるという構成が\n容易に想到される以上,グリコール酸ナトリウムによる効果を見出したことは単な る効果の発見である。ここで留意すべきは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩と グリコール酸ナトリウムが夫々別の2つの刊行物に記載されていて,2つの刊行物 の記載を組み合わせることが容易である,と言うのではないことである。一つの刊 行物にひとつの組成物OS1として既に組み合わされているのである。」などとの 記載がある(甲8)。これは,甲1文献記載の主引用発明におけるEDTAの代わ りに甲3公報記載のグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウム を含有する「OS1」を用いる構成が容易に想到されることを前提とした記載であ\nり,第2判決が,本件発明1における,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二 酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並 びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物が,それぞれの相乗 効果により優れた洗浄性能を有し,この点は当業者が予\測し得ない効果である,と 判断したことに対する反論として述べた部分であると解される。第2判決は,第2 審判における無効理由(主引用発明を甲3公報ないし甲4公報におけるOS1とし た無効理由)について判断した第2審決の判断を是認したものであり,第2審判と は異なる無効理由による無効審判を求めている本件審判について,法律上の拘束力 があるものではないものの,当事者が予測し得ない効果と判断した上記部分は,本\n 件審判における無効理由の判断にも事実上の影響力があり得るため,原告は,本件 審判における請求書に上記のとおり記載したものと考えるのが合理的であり,この 記載は,本件審判において原告が主張する無効理由が前記認定のものであることに 何ら影響を与えるものではない。 また,本件審判の請求書には,「甲第1号証は,そのタイトル「入門キレート化 学」とあるように,学生レベルの参考書であり,1988年当時の技術常識を示す ものである。甲第3号証のOS1を技術常識に従って使用することを,数年遅れて 出願された特許で禁じるのは,不合理である。」とか「甲第1および2号証から周 知のように,コンプレクサン型キレート剤をアルカリ条件下にするための典型的な アルカリ物質として本件発明は水酸化ナトリウムを挙げたにすぎない。」とかの記 載もあるが,これらの記載も本件審判における無効理由が前記認定のとおりである ことと何ら矛盾するものではない。 なお,原告は,本件審判の請求書において,主引用例とか主引用発明とかの用語 を使用せず,本件発明と主引用発明との一致点,相違点も主張しておらず,この点 でどの発明が主引用発明であるかについてやや主張の明確性を欠いており,本来は, 審判請求書としてはこの点をより明確に記載すべきであった。しかし,本件審判の 請求書全体を慎重に検討すれば,その主引用発明を甲1文献記載の発明と解するほ かないことは前記認定のとおりである。 ウ これに対し,本件審決は,前記認定のとおり,本件審判において原告が主張 する無効理由における主引用発明は,第2審判における主引用発明である,甲3公 報ないし甲4公報に記載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物(引用発明 1bないし引用発明2b)であると認定したのであり,本件審決のこの認定は誤り である。
(2) 特許発明が出願時における公知技術から容易想到であったというためには, 当該特許発明と,対比する対象である引用例(主引用例)に記載された発明(主引 用発明)とを対比して,当該特許発明と主引用発明との一致点及び相違点を認定し た上で,当業者が主引用発明に他の公知技術又は周知技術とを組み合わせることに よって,主引用発明と,相違点に係る他の公知技術又は周知技術の構成を組み合わ\nせることが,当業者において容易に想到することができたことを示すことが必要で ある。そして,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が 異なれば,特許発明との一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づ いて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになるのであるから,主引用発 明が異なれば,無効理由も異なることは当然である。 これを本件についてみれば,本件発明1は,「水酸化ナトリウム,アスパラギン 酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを 含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1〜40重量%であることを特 徴とする洗浄剤組成物」であるのに対し,甲1文献に記載された主引用発明は, 「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガ ラス瓶の洗浄剤組成物」であるから,水酸化ナトリウム水溶液とキレート剤を含む 洗浄剤組成物の点で本件発明1と一致し(水酸化ナトリウムの含有量も重複してい る。),キレート剤として,本件発明1が「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/また はグルタミン酸二酢酸及びグリコール酸ナトリウムを含有」するのに対し,甲1文 献に記載された主引用発明は,EDTA等であり,キレート剤の組成において相違 するものと認められる。これに対し,本件発明1と第2審判における主引用発明と の一致点及び相違点1’ないし相違点4’又は相違点5’ないし相違点8’は,前 記認定のとおりであり,これとは明らかに異なるものである。 また,主引用例は,特許発明の出願時における公知技術を示すものであればよい のであるから,甲1文献のように出願時における周知技術を示す文献であっても, 主引用例になり得ることも明らかであり,これを主引用例たり得ないとする理由は ない。さらに,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合わせる公 知技術又は周知技術が実質的に異なれば,発明の容易想到性の判断における具体的 な論理構成が異なることとなるのであるから,これによっても無効理由は異なるも\n のとなる。 よって,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異な る場合も,主引用発明が同一で,これに組み合わせる公知技術あるいは周知技術が 異なる場合も,いずれも異なる無効理由となるというべきであり,これらは,特許 法167条にいう「同一の事実及び同一の証拠」に基づく審判請求ということはで きない。

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平成27(ネ)10011  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年6月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特103条の過失の推定が争われました。知財高裁は1審の判断を維持しました。
 被告は,過失推定の覆滅事由として,被告が,管渠築造工事の完了ごとに, 一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたこと, 被告が,インバートを適切に管理してきたこと,原告又は原告の関係者が,一般的 な形状のインバートを,本件特許権を侵害する態様に施工したことを主張する。 特許法103条は,「他人の特許権・・・を侵害した者は,その侵害の行為につい て過失があったものと推定する。」と規定している。ここにいう「侵害」とは,特許 権者又は使用権者以外の第三者が,特許発明を実施することであり(特許法68条 参照),物の発明の場合の実施とは,具体的には,その物の生産のみならず使用も含 まれる(特許法2条3項1号)。本件発明は,マンホール用のインバートに関する発 明であるから,本件特許の特許権者でも使用権者でもない被告は,本件発明の技術 的範囲に含まれるインバートを生産した場合はもちろんのこと,本件発明の技術的 範囲に含まれるインバートを使用した場合も,本件特許権を侵害したことになる。 そして,上記で認定したとおり,少なくとも,平成24年6月27日の時点におけ る被告物件1の構成が別紙2−1のとおりであり,平成24年9月12日の時点に\nおける被告物件2の構成が別紙2−2のとおりであるから,被告は,そのころには,\n被告物件1及び2を,本件特許権を侵害する態様で使用していたものと認められる。 したがって,被告は,かかる被告物件1及び2の使用行為についての過失が推定さ れることになる。 そして,特許法103条で推定されている過失とは,特許権侵害の予見義務又は\n結果回避義務違反のことを指すから,過失推定の覆滅事由としては,特許権の存在 を知らなかったことについて相当の理由があるといえる事情,自己の行為が特許発 明の技術的範囲に属さないと信じることについて相当の理由があるといえる事情な どが挙げられる。 以上を前提に,被告に過失推定の覆滅事由が認められるか検討する。
(2) まず,被告は,過失推定の覆滅事由として,管渠築造工事の完了ごとに, 一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたことを 主張する。これは,自己の行為が特許権を侵害しないと信じることについて相当の 理由があるといえる事情を指摘するものと解される。 しかしながら,かかる主張は,被告が,被告物件1及び2の施工時において,十\n分な注意を払っていたこと,すなわち,特許発明の生産時における過失の覆滅事由 を指摘するものにすぎず,その後の使用時における過失の覆滅事由とはいえない。 なぜならば,被告物件1及び2が,一旦,本件特許を侵害しない態様で施工された としても,その後,仕様が変更され,本件特許を侵害する可能性があるからである。\n生産の時点で,特許侵害の有無を確認していれば,その後の使用期間中は,一切注 意を払う必要がないとはいえない以上,その後,被告が生産時の確認をもって,そ の後の使用時に特許侵害がないと信じたとしても,これを正当化することはできな い。下水道法3条は,公共下水道の設置のみならず,維持その他の管理をも市町村 が行うと規定しており,被告には,法律上,公共下水道の維持管理権限が付与され ているのであって,インバート使用についての維持管理責任を果たすことについて, 法的な障害はない。

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平成27(ネ)10035  証書真否確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成27年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

本件各文書は民事訴訟法134条所定の「法律関係を証する書面」には当たらないと判断した地裁の判断が維持されました。
 この点,控訴人は,被控訴人代理人の別件訴訟の弁論期日における弁論内 容において,本件各文書は,本件借用証書に記載された被控訴人から控訴人 への1000万円の融資に関連して作成された文書であることが明らかにさ れていることから,本件借用証書と本件各文書には一体性があるとし,した がって,本件各文書が「法律関係を証する書面」に当たるか否かを判断する に当たっては,本件借用証書を参照して本件各文書の記載内容を特定するこ とができる旨を主張する。 しかしながら,既に述べたとおり,民事訴訟法134条所定の「法律関係 を証する書面」とは,書面自体の記載内容から直接に一定の現在の法律関係 の存否が証明される書面をいうものと解されるのであるから,本件各文書が これに当たるか否かの判断に当たっては,本件各文書の記載内容のみに基づ いて判断されるべきであって,これとは別個の書面である本件借用証書を参 照し,そこに記載された内容を補充して本件各書面の記載内容を特定するこ とはできないというべきである。 他方,仮に,本件各文書と本件借用証書とが,その体裁において一体とな っていたり,本件各文書の記載自体において本件借用証書の記載を参照すべ きこととされているような事情があるのであれば,両者を一体の書面とみて, 本件借用証書を参照して本件各文書の記載内容を特定することも許される余 地があると考えられるが,本件において,そのような事情は認められない。 控訴人が上記で主張するのは,要するに,本件各文書それ自体の体裁や記載 内容とは別の事情から,本件各文書が本件借用証書と関連する文書として作 成された事実が認められるということにすぎず,そのような事実が認められ るからといって,本件各文書が「法律関係を証する書面」に当たるか否かを 判断するに当たって,本件借用証書を参照することができるとすべき理由は ない。

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◆原審はこちら 平成26(ワ)25384

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平成26(行ケ)10206  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月24日  知的財産高等裁判所

 珍しい無効理由です。特38条(共同出願要件違反)を理由に無効とした審決が維持されました。
 原告は,仮に,本件設計図を見た後に,Aが放出孔や薬剤袋との位置関係が 課題解決原理であると着想し,具体化したとしても,本件発明の課題解決原理を着 想したのはAのみということになるから,本件発明の発明者はAであると主張する。 確かに,Bが本件設計図において放出孔を外袋の上方に定めたのは,上方に設け た方が衣服に直接かかる二酸化塩素が少なくなり,衣服が漂白されるおそれが少な くなると考えたからであり(前記2(6)),Bは,CL−40の内袋の量について特 段CL−30の内袋の量から変更する必要があると考えていたものではなく(弁論 の全趣旨),本件設計図作成の際に外袋に薬剤袋を封入した試作品を作成したことも, 外袋の放出孔と薬剤袋の厚み方向の位置関係について特段検討したことがあるとも 認められない。また,審判での証言内容をみても,Bが,本件設計図を送信した当 時,外袋と内袋との間に隙間を設け,放出孔を同隙間部分に設けることの技術的意 義について十分に理解していたとは認められない。\nしかし,CL−40はCL−30の改良品という位置づけであるから,CL−4 0の外袋には不織布入りの薬剤袋(内袋)を封入して完成品とすることは当事者の 間で当然の前提となっていたものである。そして,前記のとおり,当時のCL−3 0の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gというCL−40の薬剤袋の規定 分包薬剤量(7g)よりも少ないものであり,本件設計図の外袋を試作し,CL− 30の薬剤袋と同様の薬剤袋を当該外袋に入れさえすれば,製品の下部においては 薬剤の重みと厚みのため内袋と外袋は接しているが,上部においては内袋と外袋の 間に隙間ができ,その部分に放出孔が位置するという発明特定事項hの構成を備え\nた製品となるのである。なお,被告も,本件設計図の作成に先立ち,平成23年3 月7日及び同月22日にはサンプルとしてCL−30をエンブロイから購入してお り(甲39,75),当時の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gであったと ころ,Bは,CL−40においてCL−30と異なる内袋を使用する必要があると の認識をもっていたものではないから,試作品を作成しなくとも,本件設計図の外 袋にCL−30の内袋を封入すれば,上部においては内袋と外袋の間に隙間ができ, その部分に放出孔が位置するということは当然に推測できたものといえる。 そうすると,完成したCL−40の試作品の外袋と薬剤袋との間に隙間があり, その隙間に放出孔が位置するという構成(発明特定事項h)となることに着目し,\n同構成により二酸化塩素の除放を可能\とするという技術的意義自体に気が付き,本 件発明1を完成させたのがAであるとしても,それはBの創作した外袋により生じ た発明特定事項hの構成についての技術的意義を発見したものであり,Aが単独で\n本件発明1の「創作」をしたものとはいえない。そして,Bは,前記のとおり別な 技術的理由に基づき,上記の外袋に構成に想到したとしても,少なくともそのよう\nな構成を具体化する上ではBの着想し,具体化した放出孔の位置が貢献したことに\nなるから,原告の上記主張は,Bが本件発明の共同発明者であることを否定する理 由とはならないというべきである。

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平成27(ワ)4552  不当利得返還請求事件  実用新案権  民事訴訟 平成27年5月28日  東京地方裁判所

 旧実案に基づく分割出願がH22年に登録されましたが、出願日からの制限によりすぐに抹消登録となりました。原告は登録前の実施について侵害として訴えましたが、請求棄却されました。本人訴訟かと思いますが、代理人がついてます。
 実用新案権は設定の登録により発生するところ(実用新案法14条1項),前提事実(1)のとおり,本件実用新案権について設定の登録がされたのは平成22年4月2日であるから,昭和59年9月5日から平成6年9月5日までの期間における被告製品の製造販売が本件実用新案権の侵害に当たることはなく,これにより原告に損失が生じ,又は原告が損害を被ったということはできない。したがって,同期間における被告製品の製造販売によって不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権が発生したとは認められない。これに対し,原告は,不当利得返還請求権又は損害賠償請求権の発生原因事実は本件実用新案権の登録前に既に生じていたから,その登録に伴って不当利得返還請求権又は損害賠償請求権が権利として顕在化した旨主張するが,行為時に適法であった製造販売がその後に実用新案登録がされたことにより法律上の原因を欠き,又は違法になるとする余地はない。したがって,原告の主張を採用することはできない。

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平成24(ワ)7971等  特許権移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年4月24日  東京地方裁判所

 取締役会決議がなく、かつこれにつき悪意であるから合意は無効であるとの主張は認められませんでした。
   上記1で認定したとおり,本件各移転登録に関し,前提となる本件譲渡契約についての代金債務の一部とみられる特許保証金等につき,原告Cに対する貸付金債権との相殺処理等がされているところ,原告会社は,この処理は利益相反取引に当たり,原告会社における取締役会決議は存せず,エコラインはこれにつき悪意であるから各相殺合意は無効である旨主張し,A事件被告らは,本件の事実関係に照らせば原告会社が相殺合意の無効を主張するのは信義則に反する旨主張するので,以下この点につき検討する。 上記1で認定した事実によれば,本件譲渡契約の代金債務の一部とみられる特許保証金等について原告Cに対するエコラインの貸付金債権等との相殺合意につき,原告会社との関係で利益相反取引に当たるものが含まれ得るとみられるところ,平成20年5月ないし平成22年5月までの間においては,原告Cは,原告会社の代表者であるとともにエコラインの会長などとして同社の実質的な経営者であり,エコラインの代表\者ではない時期から代表者勘定を利用して上記相殺処理の前提となる使途不明金を作出した者であること,\n原告会社は,本件A事件の訴え提起時においても原告Cが代表者であったほか,その他の取締役も原告Cの姉などであり,前記1(10)のPの陳述書にみられるとおり,原告会社の社員でもエコラインの社員でもないPが平成16年頃から原告会社の現金出納を行うようになったとするなど原告会社は実体に乏しく,これは本件A事件訴え提起に至るまで同様とみられること等からすれば,原告Cの合意の下に行われた各相殺合意につき,原告会社において,同社の取締役会決議が存しないことを理由にその無効を主張するのは,仮に原告会社における取締役会決議が存しないものとしても,信義則に反し許されないものというべきであり,原告会社はその無効を主張することはできないというべきである。

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平成24(ワ)15621  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年1月22日  東京地方裁判所

 かなりレアの判断です。侵害ではあるが、過剰な差止を認めることとなるとして、差止請求が棄却されました。
 原告は,本件における差止めの対象を,被告合金1及び2のうち,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のものであると限定するが,同一の製造条件で同一組成のCu−Ni−Si系合金を製造した場合,当然に,X線ランダム強度比の極大値が同一になることまでをも認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記のとおり,製造ロットや測定部位の違いによりこれが変動する可能性があることからすると,正確なX線ランダム強度比の極大値については,製造後の合金を測定して判断せざるを得ないことになるが,この場合,どの部位を測定すればよいか,また,ある部位において構\成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,どこまでの部分が構成要件Dを充足することになるのかといった点について,原告は,その基準を何ら明らかにしていない。\nそうすると,被告の製品において,たまたま構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして,当該製品全体の製造,販売等を差し止めると,構\成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし,逆に,一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,他の部分が構\成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから,結局のところ,被告としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の測定値が出た例もあること(なお,原告は,これが構\成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと,本件で,原告が特定した被告各製品について差止めを認めると,過剰な差止めとなるおそれを内包するものといわざるを得ない。 さらに,原告が特定した被告各製品を差し止めると,被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが, これは,被告に多大な負担を強いるものであり,こうした被告の負担は,本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから,被告にこのような負担を負わせることは,衡平を欠くというべきである。 これらの事情を総合考慮すると,本件において,原告が特定した被告各製品の差止めを認めることはできないというべきである。

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平成24(ワ)15621  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年1月22日  東京地方裁判所

 かなりレアの判断です。侵害ではあるが、過剰な差止を認めることとなるとして、差止請求が棄却されました。
 原告は,本件における差止めの対象を,被告合金1及び2のうち,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のものであると限定するが,同一の製造条件で同一組成のCu−Ni−Si系合金を製造した場合,当然に,X線ランダム強度比の極大値が同一になることまでをも認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記のとおり,製造ロットや測定部位の違いによりこれが変動する可能性があることからすると,正確なX線ランダム強度比の極大値については,製造後の合金を測定して判断せざるを得ないことになるが,この場合,どの部位を測定すればよいか,また,ある部位において構\成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,どこまでの部分が構成要件Dを充足することになるのかといった点について,原告は,その基準を何ら明らかにしていない。\nそうすると,被告の製品において,たまたま構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして,当該製品全体の製造,販売等を差し止めると,構\成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし,逆に,一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,他の部分が構\成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから,結局のところ,被告としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の測定値が出た例もあること(なお,原告は,これが構\成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと,本件で,原告が特定した被告各製品について差止めを認めると,過剰な差止めとなるおそれを内包するものといわざるを得ない。 さらに,原告が特定した被告各製品を差し止めると,被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが, これは,被告に多大な負担を強いるものであり,こうした被告の負担は,本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから,被告にこのような負担を負わせることは,衡平を欠くというべきである。 これらの事情を総合考慮すると,本件において,原告が特定した被告各製品の差止めを認めることはできないというべきである。

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平成25(ワ)21383  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成27年2月18日  東京地方裁判所

 FRAND宣言している場合の、差止請求権を有する旨の告知について、不競法の営業誹謗行為であると認定されました。被告は、ブルーレイのパテントプール管理会社です。
 本件告知は,「上記特許権の各特許権者は,貴社に対し,上記特許権侵害行為の差止めを請求する権利及び上記特許権侵害行為によって生じた損害の賠償をする請求する権利を有しております。」と記載しているところ(甲4),原告は,FRAND宣言を行った被告プール特許権者による差止請求権の行使は権利濫用となり,被告プール特許権者が即時の差止請求権を有しているとはいえないのに,これを有しているかのように記載したことは虚偽の事実の告知に該当する,と主張する。
イ そこで,まず,FRAND宣言と差止請求権の行使の関係について検討するに,FRAND宣言された必須特許(以下「必須宣言特許」という。)に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは,次に見るとおり,当該規格に準拠しようとする者の信頼を害するとともに特許発明に対する過度の保護となり,特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠くものといえる。 すなわち,ある者が,標準規格へ準拠した製品の製造,販売等を試みる場合,当該規格を定めた標準化団体の知的財産権の取扱基準を参酌して,当該取扱基準が,必須特許についてFRAND宣言する義務を会員に課している等,将来,必須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認した上で,投資をし,標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に,後に必須宣言特許に基づく差止請求を許容することがあれば,FRAND条件によるライセンスが受けられるものと信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し, 投資等をした者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は,当該標準規格の利用者に当該必須宣言特許が利用されることを前提として,自らの意思で,FRAND条件でのライセンスを行う旨の宣言をしていること,標準規格の一部となることで幅広い潜在的なライセンシーを獲得できることからすると,必須宣言特許の保有者がFRAND条件での対価を得られる限り,差止請求権行使を通じた独占状態の維持を保護する必要性は高くない。そうすると,このような状況の下で,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,必須宣言特許による差止請求権の行使を許すことは,必須宣言特許の保有者に過度の保護を与えることになり,特許発明に係る技術の幅広い利用を抑制させ,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害することになる。 そうすると,必須宣言特許についてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,FRAND宣言をしている者による特許権に基づく差止請求権の行使を許すことは,相当ではない。 他面において,標準規格に準拠した製品を製造,販売する者が,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない場合には,かかる者に対する差止めは許されると解すべきである。FRAND条件でのライセンスを受ける意思を有しない者は,FRAND宣言を信頼して当該標準規格への準拠を行っているわけではないし,このような者に対してまで差止請求権を制限する場合には,特許権者の保護に欠けることになるからである。もっとも,差止請求を許容することには,前記のとおりの弊害が存することに照らすならば,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの認定は厳格にされるべきである。 以上を総合すれば,FRAND宣言をしている特許権者による差止請求権の行使については,相手方において,特許権者が本件FRAND宣言をしたことに加えて,相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意 思を有する者であることの主張立証に成功した場合には,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないと解される(以上につき,知財高裁平成26年5月16日決定・判時2224号89頁[乙21大合議決定])。

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 平成25(ワ)2421  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年11月26日  東京地方裁判所

 訂正要件を満たしていないとして訂正の抗弁が否定されました。
 特許に無効理由が存在する場合であっても,1)特許権者が適法な訂正請求又は訂正審判請求を行い,2)その訂正により無効理由が解消され,かつ,3)被告製品が訂正後の発明の技術的範囲に属するものと認められる場合には,訂正の再抗弁が成立し,特許法104条の3により特許権の行使が制限されることはない(知財高裁平成21年8月25日判決・判時2059号125頁)。 本件において,原告は,第2次訂正請求を行ったとして,訂正の再抗弁を 主張しているので,第2次訂正請求による訂正により,前記1及び2で説示した新規性,進歩性欠如の無効理由が解消されているか(上記2)の要件)について検討する。
・・・
上記「ゲームのアプリケーションソフトウェア」で生成されるデータがどのようなものか,乙A10には明示されていないが,携帯情報装置において実行される「ゲームのアプリケーションソ\\フトウェア」が,「『撮像手段が取得した画像をスルー表示して得られる動画』,『保存された動画データ』を再生して得られる動画』及び『受信した動画信号を復号して得られる動画』のいずれにも該当しない動画」を生成することは,本件特許権の優先日時点において当業者の技術常識であったと認められる(例えば,乙A25の段落【0020】)。\n(オ) 以上によれば,相違点2は,乙A10自体から(その「変形例」と「第1の実施の形態」とを組み合わせることにより),当業者が容易に想到できるものと認められる。
(カ) 原告は,乙A10の「第2の実施の形態」と「第1の実施の形態」との間には,画像情報の生成処理をPDA10側で行うかHMD20側で行うかという本質的な相違点があるから,「第1の実施の形態」と「第2の実施の形態」とを組み合わせることには阻害要因が存在し,「第2の実施の形態」に係る記載(段落【0041】〜【0064】)は考慮する必要がない,と主張する。 しかし,「第2の実施の形態」の変形例である【0058】の構成を「第1の実施の形態」と組み合わせることについて【0063】で開示があることは上記のとおりであり,また,【0058】の変形例を「第1の実施の形態」と組み合わせることに技術的困難性は存在しない。したがって,それらを組み合わせることに阻害要因が存在するとの原告の主張は失当である。オ 以上によれば,相違点1及び2はいずれも当業者が容易に想到できる構成であるから,訂正発明1は,乙A10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。\n

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平成26(ネ)10084  補償金請求控訴事件  実用新案権  民事訴訟 平成26年11月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 非常にレアなケースです。旧実案についての分割出願についての補償金請求権が、出願日からの制限により既に存続期間経過しているとして認められませんでした。
 控訴人は,これに対し,1)補償金請求権と実用新案権は法的性質が異なる別個の権利であること,2)実用新案権の設定登録が有効にされた場合に実用新案権の存続期間が満了したことを理由に補償金請求権の行使を否定する根拠規定を欠くこと,3)分割出願した考案は,原出願とは別個の手続の対象とされており,実用新案権の存続期間が満了していても出願公開の対象となり,その出願公開により新規に公開がされる以上,公開に対する代償は公開の都度個別に行われる必要が存すること,4)仮に実用新案権の存続期間満了後は登録によっても,実用新案権のみならず,補償金請求権をも認められないとすれば,存続期間が満了した考案につき,そもそも分割出願を認める意味はなく,存続期間満了後は分割自体を認めないのが合理的であるが,分割出願の時期的要件を定める旧実用新案法9条1項,特許法44条1項は,存続期間満了後の分割出願につき何ら制限していないこと,5)本件実用新案権の設定登録が存続期間満了後であったことにつき控訴人に帰責性はないことなどを挙げて,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人による本件考案の実施について旧実用新案法13条の3第1項に基づく補償金請求権を有している旨主張する。 償金請求権は,法が特に出願人に認めたものであり,実用新案権とは別個の権利であるが,上記補償金請求権に係る考案は,登録実用新案として保護を受けるべき考案であることを前提としているといえるから,補償金請求権を取得できる期間は,実用新案権の存続期間の範囲内であると解される。 また,本件出願は,その現実の出願日である平成11年12月20日の時点で,本件考案が実用新案登録された場合であっても既に実用新案権の存続期間は満了し,実用新案権を行使することができなかったものであるから,第三者によって本件考案が実施されたとしても出願人である控訴人が不利益を被る関係にあるものと認めることはできないものであって,本件出願の出願公開により,保護を受けるべき考案が公開されたものとはいえず,控訴人が不利益を被ることはおよそ想定し得ないものであり,本件出願の出願公開に基づいて,控訴人に旧実用新案法13条の3第1項の補償金請求権を認める合理性は認められない。 したがって,控訴人が挙げる1)ないし5)の諸点は,いずれも控訴人に補償金請求権を認める根拠となるものではないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。 以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

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平成25(ワ)14214  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年11月18日  東京地方裁判所

 同族会社の取締役に、特許権侵害につき悪意又は重過失であったとして、600万円を超える損害賠償が認められました。
 前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば,上記不法行為期間のうち平成23年4月1日から同年6月30日までの間,被告Bは代表取締役として本件新会社の本件治療器に係る業務を執行し,被告Aも取締役として同業務についての意思決定に関わっており,特許権侵害につき悪意又は重過失であったと認められる。\nしたがって,被告らは,この間の本件新会社による特許権侵害の不法行為につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。 イ 平成23年7月1日から平成24年3月31日まで 原告は,本件新会社は同族会社であり,被告らは役員でない期間もD一族のトップとして実権を行使していたことなどから,本件新会社の不法行為につき責任を負う旨主張する。しかし,事実上の取締役について会社法429条1項の類推適用を認める余地があるとしても,本件において,被告らが取締役でなかった期間における本件新会社の経営の実態等については何ら具体的な主張がない。したがって,被告らが同項による責任を負うとは認められない。
・・・
1) 前記2(2)アのとおり,被告らは,本件新会社による平成23年4月1日から同年6月30日までの特許権侵害の不法行為により生じた原告の損害につき会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うから,同期間の原告の損害額を検討する。 ア 証拠(甲6〜11)及び弁論の全趣旨によれば,本件旧会社が本件事業により得た利益は年間平均2549万6461円であったことが認められる。そして,本件新会社は本件旧会社と同様に本件治療器に係る業務を行 っていると解されるところ,被告らは本件新会社の利益につき原告の主張に対して具体的な反論をせず,積極的な反証もしていない。そうすると,本件新会社が本件治療器を販売し,これを使用したセラピーを提供したことによる年間の利益は上記と同額であると推認されるから,平成23年4月1日から同年6月30日までの利益は635万6652円(2549万6461円×91÷365)であると認めることができる。 イ 原告は,本件治療器の販売をし,本件治療器を使用した施術を提供していると認められるから(甲32),本件新会社が本件発明の実施により得た利益の額は原告が受けた損害の額であると推定される(特許法102条2項)。 なお,被告らは,セラピーに係る利益は同項の「利益」に当たらないと主張するが,実施品の使用(同法2条3項1号)という特許権侵害行為により得た利益であることは明らかであり,被告らの主張は採用できない。 ウ 被告らは,本件治療器の販売及びセラピーにおける使用により利益を得るためには,使用方法のノウハウの提供及びセラピストの技術等が寄与する程度が大きく,上記利益に対する本件特許の寄与度は,販売について5%,セラピーについて2.5%であると主張する。 そこで検討するに,本件発明は音叉型治療器の発明であり,実施品の販売やセラピーでの使用に際して,使用方法の説明やセラピストの知識及び技術が必要なのは当然であり,本件新会社に特有の事情ではない。そして,被告らの主張によっても,本件新会社における使用方法の説明,セラピストの知識及び技術,セラピストの団体等の具体的内容は明らかでなく,本件において,上記イの推定を覆滅するに足りる事情があるとは認められない。
(2) したがって,本件新会社の上記期間の特許権侵害の不法行為による原告の損害額は635万6652円であると認められ,被告らは,会社法429条1項に基づき,各自同額の損害賠償義務を負う。

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平成26(行ケ)10109 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年10月6日  知的財産高等裁判所

 この事件は、出願から審決取消訴訟の判決まで1年6月かかっていません。私の知ってる限り、出願から判決まで最速です。公開公報が出る前に、判決文にて発明の内容が公表された珍しい案件です。
 引用発明の「ロール情報」(保守プログラム識別子)は,前記ア2)のとおり,監視動作の機能であるプログラム(トナーの残量監視プログラム,紙詰まり監視プログラム)や通知動作の機能\であるプログラム(通報プログラム)等の動作内容が類似する機能ごとに付与されているものであり,「トナーの残量」「紙詰まり」及び「通報」等は,各保守プログラムの役割を表\しているといえる。 また,前記(1)アのとおり,「ロール情報」(保守プログラム識別子)が「紙詰まり」である場合の保守プログラムリストの例として,4つ(複数)の紙詰まり検出プログラムがダウンタイムの短い順に順位付けされており,保守プログラム選択部30によって選択の対象とされるものである。 そして,情報処理の技術分野において,複数のプログラムを連続して実行する際に,前に実行した処理結果(情報)に基づいて,後続の処理を行うことは技術常識であると認められる。 そうすると,「紙詰まり」というロール情報(保守プログラム識別子)に,複数の呼び出し用プログラム(保守プログラム)が関連付けられており,その複数の呼び出し用プログラム(保守プログラム)から1つの呼び出し用プログラム(保守プログラム)を選択して実行する引用発明において,「紙詰まり」に対する呼び出し用プログラム(保守プログラム)の呼び出し順序よりも前に実行する呼び出し用プログラム(保守プログラム)がある場合 に,その呼び出し用プログラム(保守プログラム)から出力された情報に基づいて,実行対象とする1つの呼び出し用プログラム(保守プログラム)を選択するように構成することは,当業者であれば容易に想到し得るものである。\n

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平成25(行ケ)10327  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成26年9月25日  知的財産高等裁判所

 特許の存続期間延長を認めなかった審決が維持されました。
最後に特許法67条の3第1項1号の要件の有無の判断について、裁判所の見解が審決とは異なるが、結論に影響がないと付言されています。
 以上の認定判断によれば,本件先行処分による禁止の解除の範囲は本件処分によるそれを包含するものと認められるから,本件特許発明1に関し,特許法67条の3第1項1号所定の要件に該当するとした審決の判断の結論に誤りはないというべきである。 なお,本件においては直接結論を左右する争点とはならないが,念のために,特許法67条の3第1項1号の要件の有無の判断について,当裁判所の見解を述べておくこととする。特許法67条の3第1項1号により審査官が延長登録の出願を拒絶すべき場合の要件について,これを特許権の存続期間の延長登録の制度の趣旨に照らして考えると,医薬品の成分を対象とする特許については,薬事法14条1項又は9項(平成14年法律第96号による改正前の薬事法においては,同法14条1項又は7項。)に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,薬事法14条2項3号(平成14年法律第96号による改正前の薬事法においては,同法14条2項)が定める審査事項のうち,成分,分量,用法,用量,効能,効果によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である(上記の点は平成14年法律第96号による改正前の薬事法においても同様である。)。\nそして,上記処分を受けることにより,上記事項によって特定された医薬品の製造販売等の行為につき禁止の解除がされるものであることからすると,禁止の解除がされた範囲は,原則として,薬事法14条1項又は9項(平成14年法律第96号による改正前の薬事法においては同法14条1項又は7項)に基づく医薬品の輸入ないしは製造販売についての承認書に記載された上記事項の記載に基づいて決せられるべきものと解するのが相当である。
当裁判所の判断は,以上の前提に基づくものであり,原告の主張に鑑み,禁止の解除の範囲につき,上記と別異に解する特段の事情があるか否かを検討したものである。 これに対し,審決は,特許法67条の3第1項1号における「特許発明の実施」は,処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項(発明特定事項に該当する事項)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であるが,医薬品の承認においては用途に該当する事項が定められていることから,用途を特定する事項を発明特定事項として含まない特許発明の場合には,「特許発明の実施」は,処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち,特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項及び用途に該当する事項によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるべきことを前提に認定判断を行っている(前記第2の3(1)。そうすると,上記の審決の解釈は当裁判所とは異なるものであるが,本件において,この点は結論を左右するものではない。

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◆関連事件です。平成25(行ケ)10326

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平成25(行ケ)10291  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成26年7月16日  知的財産高等裁判所

 特29条の2の同一発明かが争われました。裁判所は同一発明でないと判断しました。
 審決は,拡大先願発明の農薬活性成分であるアニロホスとベンフレセートが遊星運動型混合機による混合で融点降下して液状化すると認定した。 融点降下とは,異なる二種類の物質が混ざり合うことにより純粋な物質のときよりも融点が低くなる現象をいう(乙2)。融点降下は,あらゆる物質を混合した場合に起きるわけではなく,むしろ,特定の選択された化合物間においてのみ認められ,(乙3,4参照),融点が低い化合物を混合したからといって常温で液状化するとはいえない。しかるに,拡大先願発明において,・・・という大量の固体成分と一様に混合されるから,アニロホスとベンフレセートの二成分のみが接触混合されるわけではない。また,拡大先願発明で用いられるアニロホス,ベンフレセートは,実際に融点降下が生じた・・・ との間で,化学物質としての構造や性質の類似性,同質性を認めるに足りる証拠はない。さらに,アニロホス,ベンフレセートを融点降下の生じ得る化合物として掲げている特開平10−158111号公報(甲2)においても,\nこれらの二つの成分について融点降下が実際に生じた例やそのための条件に関する言及はない。 したがって,拡大先願発明において,アニロホス,ベンフレセートにつき融点降下が生じる条件が整っていると認めるに足りる具体的・技術的根拠はなく,融点降下が起きていると断定することは困難である。よって,アニロホスとベンフレセートが混合により融点降下して液状化するという審決の認定には,誤りがある。
ウ 液状化について
また,審決は,拡大先願発明では,ナタネ油や界面活性剤が実質上の液体溶媒として作用して,農薬活性成分がナタネ油に溶解又は分散した液状物の形態で含まれる旨推認した。 まず,界面活性剤については,当事者双方の主張自体において,必ずしも液体であることを前提としていないから,これが実質上の液体溶媒として作用するとはいえない。したがって,界面活性剤が実質上の液体溶媒として作用するという審決の判断には誤りがある。 また,ナタネ油に関して検討すると,拡大先願発明において,そもそも混合するナタネ油の量それ自体が非常に少なく,液体溶媒として機能する上で十\分かという点が疑問である。しかも,拡大先願発明は,混合造粒機に焼成軽石を加え,運転しながらナタネ油を浸み込ませた後,それとは別に農薬活性成分等の成分を混合した後にハンマーミルで粉砕して調製した原末を投入し,さらに造粒機を運転させる過程を経て作成するものであるから,焼成軽石に既に浸み込んだ後のナタネ油が,農薬活性成分を溶解させる機能を果たすのに充分なだけの湿潤性をなお保持しているかという点にも疑問が残る。したがって,拡大先願発明において,ナタネ油が液体溶媒として機能\するとは必ずしもいえず,この点においても,審決の判断には誤りがあるというべきである。
エ 農薬活性成分の状態
上記のとおり,融点の低いアニロホス,ベンフレセートに融点降下が起きて液状 化するとは認められないから,固体の状態を維持したまま混合され,ケナフ粉などその他の原末成分とともに粉末化される。ここで,溶媒の役割を果たすべき液体のナタネ油の量は6%と非常に少ない上に,予め焼成軽石に浸み込まされているために農薬活性成分と混合した際に触れる量はより一層少ないから,ナタネ油は,混合された固体の農薬活性成分を液状化するまでには至らず,結合剤として機能\するだけで,固体の農薬活性成分を焼成軽石の表面や内部空隙に結着させるにすぎないと考えられる。したがって,拡大先願発明において,農薬活性成分が製造過程において液状になることはなく,「液体」又は「液状物」が「含有」されたものとはいえないから,「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」することを必須とする本願発明とはこの点において相違がある。\n確かに,本願発明と拡大先願発明はいずれも物の発明であるところ,本願発明において,液体溶媒に分散された固体農薬活性成分が繊維作物の破断物の内部空隙まで浸透せずに表面に結着して存在する場合,生成物同士を比較すると,本願発明と拡大先願発明との間で固体農薬活性成分の存在形態に違いがない以上,両者を区別することはできない。また,拡大先願発明において,ケナフ粉の空隙と焼成軽石成分粒子の大小関係次第では,ケナフ粉の内部にアニロホス,ベンフレセートを含めた固体の農薬活性成分粒子が侵入することも考えられるが,この場合,農薬活性成分が繊維作物破断物の内部へ浸透する場合の本願発明と,固体農薬活性成分の存在形態に違いがなくなり,両者を区別することはできないことになる。このように,本願発明と拡大先願発明の固体農薬組成物に重なり合う部分があることは否定できないが,本願発明の請求項に「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」するという記載がある以上,拡大先願発明との対比においてこの点を無視することはできないのであって,拡大先願発明がこの点を具備しない以上,相違点と認めざるを得ない。\nしたがって,審決の一応の相違点αに関する判断には誤りがある。

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平成25(行ケ)10288  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年7月17日 知的財産高等裁判所

 無効審判で提出したDVDの証拠力について争われました。裁判所は、公然実施されたとした審決を維持しました。
 原告は,甲9号証の1のビデオ映像は重要な部分に関し編集された疑いがあり,その提出経緯も不自然であるから,甲9号証の1には証拠価値が認められないと主張する。 しかし,甲49号証によれば,甲9号証の1のDVDに収録された映像は,もともとビデオカセットに撮影された映像であるところ,甲45号証の映像が収録されていたのは8ミリビデオテープカセットであり,カセットの背面には,「スカーフジョインタ DATE:97.3.14サンテック用」とのラベルが貼り付けられている。甲46,47号証の映像が収録されていたのはデジタルビデオカセットであり,カセットの表\面には,それぞれ「97.3.14サンテックスカーフ」等,「97.6.17サンテックNo.1」と記載されたラベルが貼り付けられている。また,被告の説明によれば,甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年10月29日から同年11月2日まで開催された第33回名古屋国際木工機械展において上映する目的等で製作したものであり,甲9の1本体映像には,不鮮明な部分があったため,甲45ないし47号証の映像を差し込んで,甲9号証の1の映像を作成したものとされている(甲119)。これらの作成経緯,差し込まれた甲45ないし47号証の原映像の保存状況,甲9号証の1の内容に照らせば,甲9号証の1の証拠価値を疑わせるような事情は見当たらず,原告の主張を採用することはできない。原告は,先行侵害訴訟や審決における提出経緯が不自然であると主張するが,原告の主張する事情が訴訟や審決の進行に照らして特段不自然なものとは認められないし,先行侵害訴訟において最初に証拠として提出した際に,編集の経緯について説明していなかったことをもって,証拠価値を疑わせる事情とは認められない。\n

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平成24(行ケ)10399 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年05月30日 知的財産高等裁判所

 特許権の延長出願が拒絶された審決について、知財高裁はこれを維持しました。
 以上によれば,まず,本件製剤と旧製剤とは,粉末薬剤としては,成分,分量,用法,用量,効能,効果等において全く同じであると認められる。そして,本件製剤は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態である旧製剤のノズルについて,カウンターを搭載する実施形態に限定したものにすぎないから,本件製剤は,本件発明1の実施形態としては,旧製剤に含まれるというべきである。そうすると,本件処分は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態について,ノズルにカウンターを搭載するという,より限定した形態について本件処分の承認事項の一部を変更したものにすぎないから,本件出願については,前記の「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」の要件を充足するということができる。したがって,本件出願は,特許法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」に該当するというべきである。\n

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平成25(行ケ)10228 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年05月29日 知的財産高等裁判所

 共同出願要件(特38条)違反であるので無効とした審決が取り消されました。
 Cが本件訂正発明の発明者であるかどうかについて ア 上記認定の本件確認書の記載内容,証拠(乙1ないし3)からうかがえるセンターによる技術指導の性格,及び,発明をすることにより特許を受ける権利を原始的に取得するのは当該発明者であり,その者が特許出願をなし得るのが特許法の原則であるところ,本件確認書も当然このことを前提としたものであると解される反面,本件確認書には佐賀県への特許を受ける権利の移転に関する明示的な記載もないことに照らすと,本件確認書第2条は,「技術指導関連発明」につき被指導企業側の者のみが発明者であると認められる場合に,当該発明につき特許を受ける権利が上記の者に帰属し,その者から特許を受ける権利の移転を受ければ,被指導企業が単独で特許出願をなし得ることを前提とした上で,その際に佐賀県知事の同意を得ることを定めたものであると解される。また,本件確認書第3条は,県の職員(技術指導者)と被指導企業側の者とが共同で「技術指導関連発明」をしたと認められる場合に,当該発明について特許を受ける権利が両者の共有となることから,当該発明につき共同出願することをそれぞれ規定したものと解するのが自然である。そして,第2条及び第3条の規定に該当する場合を除き,第1条が適用されることとなる。そうすると,本件訂正発明が,上記認定のとおり本件確認書の「技術指導関連発明」に該当するとしても,本件訂正発明の発明者が誰であるかによって,適用されるべき本件確認書の条項が異なることとなる。そこで,以下,Cが本件訂正発明の発明者といえるかどうかについて検討する。
・・・
そうすると,上記発明特定事項は,単に本件訂正発明9における光触媒としての酸化チタンゾルについて,本件特許の出願前のみならず,Cによる技術指導以前に既に公知となっていた製法により得られるものとして特定したにすぎず,しかも,これを用いることにより顕著な作用効果をもたらすものとも認められない。したがって,上記の発明特定事項は,本件訂正発明9の特徴的部分に該当するということはできず,上記事項がCの発明でありかつCが同事項につき技術指導をしたとしても,Cは本件訂正発明9の特徴的部分の完成に創作的に寄与したものとはいえず,したがって,同発明の共同発明者であるとはいえない。本件訂正発明5についても,同発明が発明特定事項として酸化チタンゾルを含んでおり,これはCが技術指導を行った方法により得られたものを含むものではあるが,上記において認定したのと同様の理由により,Cが本件訂正発明5の共同発明者であるとはいえない。
・・・
以上の佐賀県の行動状況に照らすと,本件確認書第1条の規定における第2条に該当する場合とは,佐賀県知事の同意を得なかった場合を意味するものではなく,むしろ被指導企業の者が独自に行った技術指導関連発明に関する場合を意味するものと解釈するのが合理的である。このように解すると,発明について特許を受ける権利がその発明者に帰属するという特許法の原則とも整合的である。そうすると,原告らが本件特許を出願するに当たり,佐賀県知事の同意を得なかったからといって,それにより直ちに本件訂正発明について特許を受ける権利ないしは本件特許権が佐賀県知事に帰属することとなるということはできない(本件確認書第2条に定める佐賀県知事の同意を得るとの手続に違反したかどうかの問題が残るだけである。)。そして,他に本件訂正発明について特許を受ける権利ないしは本件特許権が佐賀県知事に帰属することを認めるに足りる証拠はない。

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平成25(行ケ)10195 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年05月30日 知的財産高等裁判所 

 特許権延長制度に関する知財高裁特別部の判断です。延長を認めなかった審決が取り消されました。
 特許法68条の2は,「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。上記規定は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,その特許発明の全範囲に及ぶのではなく,「政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)」についてのみ及ぶ旨を定めている。
(2) 特許法68条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」及び「用途」に係る特許発明の実施行為の範囲について
ア 「政令で定める処分」が薬事法所定の医薬品に係る承認である場合,存続期間が延長された特許権の効力が,薬事法の承認の対象になった物(物及び用途)に係る特許発明の実施行為のうち,いかなる範囲に対してまで及ぶかについては,前記のとおり,特許権侵害訴訟において検討されるべき事項であるといえるが,関連する範囲で,便宜検討することとする。
イ 薬事法14条1項は,「医薬品・・・の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定し,同項に係る医薬品の承認に必要な審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(同法14条2項,9項)と規定されている。このことからすると,「政令で定める処分」が薬事法所定の医薬品に係る承認である場合には,常に「効能\,効果」が審査事項とされ,「効能,効果」は「用途」に含まれるから,同承認は,特許法68条の2括弧書きの「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解される。
ウ 薬事法の承認処分の対象となった医薬品における「政令で定める処分の対象となった物及び用途」の解釈については,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権の効力の範囲を,どのような事項によって特定すべきかの問題であるから,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨(特許権者が,政令で定める処分を受けるために,その特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度として,その期間の延長を認めるとの制度趣旨)及び特許権者と第三者との公平を考慮した上で,これを合理的に解釈すべきである。なお,医薬品関連特許にも様々なものがあり,これを一様に論じることは困難であるため,延長登録された特許権の効力について以下に判示するところは,医薬品の成分を対象とした特許発明について述べるものである。
(ア) 特許法68条の2所定の「政令で定める処分の対象となつた物」について
薬事法14条2項3号所定の前記審査事項のうち,「名称」は,医薬品としての客観的な同一性を左右するものではなく,医薬品の構成を特定する事項とならないので,延長された特許権の効力を制限する要素とは解されない。「成分(有効成分に限らない。)」は,医薬品の構\成を客観的に特定する事項であって,上記審査事項における重要な要素であるから,延長された特許権の効力を制限する要素となる。「分量」は,錠剤やパックなどの単位医薬品中に含まれる成分等の量を指すため,医薬品の構成を客観的に特定する要素となり得るものの,競業他社が,本来の特許期間経過後に,特許権者が臨床試験等を経て承認を得た医薬品と実質的に同一の用法・用量となるようにし,分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは,延長登録制度を設けた趣旨に反することになるから,分量については,延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない。「副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」も,通常,それ自体が医薬品としての実質的な同一性に直接関わる事項とはいえないから,これも延長された特許権の効力を制限する要素と解することはできない。
(イ) 特許法68条の2所定の「用途」について
医薬品における「用途」の用例に照らすならば,上記審査事項の「効能,効果」は,当該医薬品の「用途」に該当し,延長された特許権の効力を制限する要素となる。上記審査事項の「用法,用量」は,医薬品においては,医薬品の患者への使用方法に関するものであるものの,医薬品においては,特定の用法,用量ごとに,その副作用の安全性を確認するための臨床試験が必須となり,そのために承認までに相当な期間を要し,その期間内は特許発明の実施が妨げられるとの状況が存在し,「用法,用量」は薬事法上の承認における各審査事項の中でも重要な審査事項の一つであること(甲25),及び本件先行処分や本件処分のように,当該医薬品の「他の抗悪性腫瘍剤との併用」を前提として「用法,用量」が定められる場合があること等に照らせば,これも「用途」に含まれ,延長された特許権の効力を制限する要素となると解するのが相当である。
(ウ) 以上のとおり,特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる。)。\n
エ 上記のように解した場合,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲と,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲とは,常に一致するわけではない。しかし,先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と,直接的に関係するものでない以上,それぞれの範囲が一致しないことに,不合理な点はないというべきである。なお,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された特許発明の実施が,先行処分に基づき存続期間が延長された当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲に含まれるような場合は,重複して延長の効果が生じ得ることとなる。後行処分による延長期間が先行処分による延長期間より長い場合には,これに対応する期間,当該特許権の存続期間が延長されるが,当該期間については,当該特許発明の実施が禁止されていた部分があることに照らすと,上記のように解することに何ら不合理な点はない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10198

◆関連事件です。平成25(行ケ)10197

◆関連事件です。平成25(行ケ)10196

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平成25(ネ)10043 債務不存在確認請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成26年05月16日 知的財産高等裁判所

 知財高裁がFRAND宣言した特許権の行使についてアミカスブリーフを求めた事件です。争点は多数ですが、2次使用について消尽が適用されるのかについて展開した後、FRAND宣言における必須特許1/529の約1000万円の損害賠償を認めました。最後に意見募集についても言及されました。
 インテル社は,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約によって,本件ベースバンドチップの製造,販売等を許諾されていると仮定されるから,前記(イ)にいう特許権者からその許諾を受けた通常実施権者に該当する。また,「データを送信する装置」(構成要件A)及び「データ送信装置」(構\成要件H)に該当するのは本件ベースバンドチップを組み込んだ本件製品2及び4であると解される一方,本件ベースバンドチップには,本件発明1の技術的範囲に属する物を生産する以外には,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないと認められるから,本件ベースバンドチップは,特許法101条1号に該当する製品(1号製品)である。アップル社は,インテル社が製造した本件ベースバンドチップにその他の必要とされる各種の部品を組み合わせることで,新たに本件発明1の技術的範囲に属する本件製品2及び4を生産し,被控訴人がこれを輸入・販売しているのであるから,前記(ア),(イ)のとおり,控訴人による本件特許権の行使は当然には制限されるものではない。b そこで,まず,控訴人においてこのような特許製品の生産を黙示的に承諾していると認められるかを検討する。この点,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が存続しており,かつ,本件ベースバンドチップがその対象となると仮定した場合における,仮定される控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約は,控訴人が有する現在及び将来の多数の特許権を含む包括的なクロスライセンス契約であり,本件特許を含めて,個別の特許権の属性や価値に逐一注目して締結された契約であるとは考えられない。また,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約の対象は,「インテル・ライセンス対象商品」すなわち「(a)半導体材料,(b)半導体素子,又は(c)集積回路を構成する全ての製品」であって,「インテル・ライセンス対象商品」に該当する物には,控訴人の有する特許権との対比における技術的価値や経済的価値の異なる様々なものが含まれ得る。そうすると,かかる包括的なクロスライセンスの対象となった「インテル・ライセンス対象商品」を用いて生産される可能\性のある多種多様な製品の全てについて,控訴人において黙示的に承諾していたと解することは困難である。そして,インテル社が譲渡した本件ベースバンドチップを用いて「データを送信する装置」や「データ送信装置」を製造するには,さらに,RFチップ,パワーマネジメントチップ,アンテナ,バッテリー等の部品が必要で,これらは技術的にも経済的にも重要な価値を有すると認められること,本件ベースバンドチップの価格と本件製品2及び4との間には数十倍の価格差が存在すること(乙31,32),いわゆるスマートフォンやタブレットデバイスである本件製品2及び4は「インテル・ライセンス対象商品」には含まれていないことを総合考慮するならば,控訴人が,本件製品2及び4の生産を黙示的に承諾していたと認めることはできない。なお,このように解したとしても,本件ベースバンドチップをそのままの状態で流通させる限りにおいては,本件特許権の行使は許されないのであるから,本件ベースバンドチップを用いて本件製品2及び4を生産するに当たり,関連する特許権者からの許諾を受けることが必要であると解したとしても,本件ベースバンドチップ自体の流通が阻害されるとは直ちには考えられないし,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が,契約の対象となった個別の特許権の価値に注目して対価を定めたものでないことからすると,控訴人に二重の利得を得ることを許すものともいえない。\n
・・・
すなわち,ある者が,標準規格に準拠した製品の製造,販売等を試みる場合,当該規格を定めた標準化団体の知的財産権の取扱基準を参酌して,必須特許についてFRAND宣言する義務を構成員に課している等,将来,必須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認した上で,投資をし,標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に,後に必須宣言特許に基づいてFRAND条件によるライセンス料相当額を超える損害賠償請求を許容することがあれば,FRAND条件によるライセンスが受けられると信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し,投資等をした者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は,当該標準規格の利用者に当該必須宣言特許が利用されることを前提として,自らの意思で,FRAND条件でのライセンスを行う旨宣言していること,標準規格の一部となることで幅広い潜在的なライセンシーを獲得できることからすると,必須宣言特許の保有者にFRAND条件でのライセンス料相当額を超えた損害賠償請求を許容することは,必須宣言特許の保有者に過度の保護を与えることになり,特許発明に係る技術の幅広い利用を抑制させ,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害することになる。(イ) 一方,必須宣言特許に基づく損害賠償請求であっても,FRAND条件によるライセンス料相当額の範囲内にある限りにおいては,その行使を制限することは,発明への意欲を削ぎ,技術の標準化の促進を阻害する弊害を招き,同様に特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあるから,合理性を欠くというべきである。標準規格に準拠した製品を製造,販売しようとする者は,FRAND条件でのライセンス料相当額の支払は当然に予定していたと考えられるから,特許権者が,FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内で損害賠償金の支払を請求する限りにおいては,当該損害賠償金の支払は,標準規格に準拠した製品を製造,販売する者の予\測に反するものではない。また,FRAND宣言の目的,趣旨に照らし,同宣言をした特許権者は,FRAND条件によるライセンス契約を締結する意思のある者に対しては,差止請求権を行使することができないという制約を受けると解すべきである(当裁判所においても,控訴人が被控訴人に対して本件特許権に基づく差止請求権を被保全債権として,本件製品2及び4に加えて「iPhone 4S」の販売等の差止等を請求した仮処分事件(本件仮処分の申立て及び別件仮処分の申\立ての抗告審。当庁平成25年(ラ)第10007号,同10008号事件)において,控訴人の申立てを却下した原審決定を維持する旨の決定をした。)。FRAND宣言をした特許権者における差止請求権を行使することができないという上記制約を考慮するならば,FRAND条件でのライセンス料相当額の損害賠償請求を認めることこそが,発明の公開に対する対価として極めて重要な意味を有するものであるから,これを制限することは慎重であるべきといえる。(ウ) 以上を「FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求」と「FRAND条件でのライセンス料相当額による損害賠償請求」に分けて,より本件の事実に即して敷衍する。
・・・
意見の中には,諸外国での状況を整理したもの,詳細な経済学的分析により望ましい解決を論証するもの,結論を導くに当たり重視すべき法的論点を整理するもの,従前ほとんど議論されていなかった新たな視点を提供するものがあった。これらの意見は,裁判所が広い視野に立って適正な判断を示すための貴重かつ有益な資料であり,意見を提出するために多大な労を執った各位に対し,深甚なる敬意を表する次第である。\n

◆判決本文

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平成23(ワ)34450 相応の対価請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年02月14日 東京地方裁判所

元社員がした発明について、実施料が削減コストの1%と判断されました。
 そうすると,これらの事情を踏まえれば,上記コスト削減見込額のうち,実際に実現されたものとみることができる部分(被告が実際に得た利益とみることができる部分)は,その半分程度にとどまるものとみるのが相当である。また,被告の発明規定において,導入による効果に対し5年間一定の対価を支払う旨の実績報奨制度が存在するとされること(弁論の全趣旨)を考慮すれば,本件においても,被告が5年間において得た利益(5年分のコスト削減額)を,「相応の対価」の算定の基礎とするのが相当である。(イ) 前記共販店におけるコスト削減見込額の合計額(前記ウ(ウ)aないしgの合計額)は10億8100万円であるところ,これに2分の1を乗じ,5年分のコスト削減額を算出すると,その額は27億0250万円となり,同額が,「相応の対価」の算定の基礎とすべき金額(原告の提供した知的財産の使用料率を乗じるべき金額)となる。(ウ) この点に関し,原告は,本件システムは被告の共販店全店において導入可能なものであったから,原告の得るべき対価額を計算するに当たっては,実際に本件システムを利用した7店舗におけるコスト削減額ではなく,全共販店において見込まれるコスト削減額を基礎とするべきである旨主張する。しかし,上記7共販店以外の共販店らは,本件システムを実際に利用したものではない上,本件システムは,既にその維持契約を解消されているものであって(前記ウ(オ)),今後,上記7共販店以外の共販店が本件システムを利用してコスト削減を達成する可能性も存在しない。そうすると,全共販店において本件システムによってコスト削減が達成されると仮定した上で,上記コスト削減見込額を対価額算定の基礎とすることは相当ではないというべきであって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
カ 原告の提供した知的財産の使用料率について
本件システムは,サービスL/T基準を指定してシミュレーションを繰り返し行い,コスト比較を行うことができるというものであり(前記(1)ウ(ア)),その内容に照らし,前記1(2)ア(エ)でみたとおり,原告の提供した知見のうち,従来の文献(乙7ないし9)にみられない点が反映されているとみることのできるものである。しかし,前記1(2)イ(ウ)でみたとおり,本件システムは,原告の提供した知見(X理論)をその出発点の一つとし,上記理論をその骨格において反映しているものではあるものの,上記知見を具体化するに当たり,上記知見に相当の変容を加えたものであって,本件システムの基礎となる理論面において,原告が寄与した割合が,被告アフマ部において71%と評価されているものである(甲21の2)ことを考慮しても,本件システムを全体としてみた場合において,原告の貢献した割合を,それほど大きなものとみることはできない。加えて,上記コスト削減は,本件システムを用いたシミュレーションのみによって達成されたものではなく,上記シミュレーション結果を踏まえた上で,適切な方策を検討することによって達成されたものであると認められる。これは,本件システムによるシミュレーションの結果,廃止が適切であるとの結果が出た物流施設についても,営業上の必要性があるとの判断から廃止を見送るとの結論となり,方策としてその廃止を提案するに至らなかったものがあること(前記ウ(ウ)g)からも明らかである。また,本件システムは,原告の提供した知見を,コンピュータ上で動作させることができるよう,コンピュータにもたせるべき機能を検討・構\築し,プログラミングしたものであって,その検討・構築及びプログラミングのために,原告のほか,被告,東京共販及び富士通の従業員が関与し(前記前提事実(3)イ),その要件書の完成まで約2年8か月,ソフトウェアの完成まで約3年8か月を要したものである(前記前提事実(3)ウ)。したがって,本件システムの全体の運用及びそれによる利益の増加という実際面も含めて検討すると,原告の提供した知見が寄与した割合を,大きいものとみることはできないというべきである。他方,原告が合計7件の特許権を取得していること(前記前提事実(4)),原告は平成23年7月31日まで被告の名古屋オフィスにおいて勤務していたものであるが(前記前提事実(1)ア(ア)),原告が,本件システム開発に関与したことにより,被告において特段に有利な処遇を受けた等の事実も見当たらないことも総合的に考慮すれば,原告の提供した知的財産の使用料率としては,1パーセントが相当である。キ したがって,本件システムを用いたシミュレーションにより,被告が5年間において得た利益(前記5年分のコスト削減効果である27億0250万円)に,原告が提供した知的財産の使用料率である1パーセントを乗じた額である2702万5000円が,原告の提供した知的財産の使用許諾料の額(「相応の対価」の額)として相当であると認められる。ク したがって,原告は,被告に対し,原告と被告との間の合意に基づき,2702万5000円の支払を求めることができる。

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平成25(行ウ)467等  特許権 行政訴訟 平成26年01月31日 東京地方裁判所 

 追納期間経過後の「その責めに帰することができない理由」に該当するかどうか争われ、裁判所は該当しないと判断しました。原告は理研です。
 改正前特許法112条の2は追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定であり,同条1項の定める要件は,拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒過した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを踏まえて立法されたものと認められるから(乙1),改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である。
・・・・・
3 上記認定によれば,本件各特許権につき,第9年分の特許料が納付期間内及び追納期限までに適正に納付されなかった原因は,本件特許事務所において,原告から,平成23年3月17日に本件納付指示書を受領し,同日付け受信の手続印を押して受信の事実を確認した上で,本件特許事務所の担当者による回答情報をホスト端末において入力したが,具体的にどのような適切でないデータの入力がされたかは明確ではないものの,適切でないデータ入力の結果,本件特許事務所のコンピュータ上,本件各特許権につき,各納付期限の異常な応答処理と扱われる内容であったために,本件各特許権についての第9年分の特許料の納付に係るオンライン手続での特許料納付や,納付手続の当日に納付書データに基づき出力される依頼者に送付するための送付状,請求書等の出力もされなかったことにあると認められる。そして,適切なデータ入力がされたか否かについての最終確認であるはずの本件納付指示書との適切な突合せがされなかった原因も,本件納付指示書自体が,本来整理されるべき書類群とは別の書類と共に整理されて紛れてしまったまま同年11月に至り,原告から本件各特許権についての第10年分の特許料の納付に関する記載がないことの指摘を受けて捜索し発見されるまで,本件特許事務所において,突合せに必要な書類として分類整理されていなかったことによるものである。以上によれば,原告提出証拠(甲10ないし13)のとおりの計画停電や放射性物質の影響等も含めた東日本大震災による混乱の続く状況下でのことであるとはいえ,本件各特許権の第9年分の特許料等不納付に係る上記一連の不手際は,本件各特許権の特許料の納付期限のデータ入力が適切でなかったことに加え,本件納付指示書自体が他の書類と紛れてしまって適切な管理がされなかったという,本件特許事務所における手続上の単純な人的な過誤によるものといわざるを得ない。そうすると,本件において,本件各特許権の特許料等の納付ができなかったことは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合に当たるということはできない。

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平成25(ワ)13223 実用新案権 平成25年10月18日 東京地方裁判所

 原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たるとして、損害賠償請求が却下されました。
 一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。数量的一部請求を全部棄却する旨の判決は,債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないとの判断を示すものであって,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならないから,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した判決が確定した後に,原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものとして,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないというべきである。そして,この理は,訴訟物を異にするものの,債権の発生原因として主張する事実関係がほぼ同一であって,前訴等及び本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及び主張の蒸し返しに当たる訴えにも及び,その訴えも同様に信義則に反して許されないものというべきである(上記平成10年最判参照)。これを本件についてみると,前々訴は,被告が製造・販売しているテレホンカードの構成につき,「カード式公衆電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードで,縦の辺が横の辺に比して短い長方形であって,表\裏ともに一様に平坦で,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一つあるいは二つの半月状の切欠部が形成されており,この切欠部に手,指で触れることにより,カードの表裏及び差込方向の確認をすることができるもので,この内,使用度数が五〇度数のものは切欠部が二個あり,使用度数が一〇五度数のものは切欠部が一個ある」としていたところ,これは本件訴えにおける被告製品の構\成を含むものである。そして,前々訴は,その被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,昭和59年9月5日以降,10年分の被告製品の販売にかかる不当利得の返還を求めたものであり,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,平成8年2月21日から平成11年9月5日までの仮保護に基づく損害賠償請求であるとするところ,訴訟物を異にするものとしても,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することにより,原告の有する本件実用新案権が侵害されたことについては,主張立証すべき事実関係はほぼ同一であって,被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないことを理由として原告が敗訴した前々訴の訴訟経過に加え,前訴及び本件訴えの訴訟経緯にも照らすと,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属しないとして原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たることが明らかである。そうすると,本件訴えは,信義則に反し許されず,これを許容する特段の事情がない限り,不適法として却下すべきこととなる。

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平成24(行ケ)10295 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月18日 知的財産高等裁判所

 延長登録について拒絶した審決が取り消されました。
 証拠(甲11,12)によれば,本件速放性組成物には,●●●●●含まれていること(甲11の1,2.3−4頁の表2.3.P.1−2),FRGには,●●●●●が含まれているが,●●●●●は含まれていないこと(甲12,2.3−26頁の表\2.3.P.2−8)がそれぞれ認められる。以上によれば,本件速放性組成物の組成とFRGの組成とは,●●●●●●●を含有するか否かの点で異なっている。そして,薬剤の最高血中薬物濃度到達時間が,有効成分の含有量のみならず,結合剤の含有量や種類によって影響を受けることは技術常識であると解されるから,審決が,本件対象医薬が本件クレームの「最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との要件を充足するか否かを判断するに当たり,本件速放性組成物とは組成の異なるFRGの最高血中薬物濃度到達時間である1.04±0.498時間を判断の基礎としたことは誤りであるといわざるを得ず,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。

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平成23(ワ)8085等 各損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月12日 東京地方裁判所

 特許権侵害について損害賠償が認められました。幇助者に対して、先行技術を調査 するべきだったとして幇助についての過失が認定されました。
 被告三菱電機が被告製品4及び5を譲渡し,又は譲渡等の申出をしたことを認めるに足りる証拠はない。ところで,被告三菱電機を除く被告らは,被告日本建鐵が製造して,被告ライフネットワーク及び同住環境システムズに販売し,同被告両名が転売するという関係にあったから,被告ライフネットワークが販売した被告製品4及び5に係る被告日本建鐵と同ライフネットワークの各譲渡,被告住環境システムズが販売した被告製品4及び5に係る被告日本建鐵と同住環境システムズの各譲渡は,それぞれ客観的に関連したものということができる。そして,証拠(甲33ないし35,40ないし56,58ないし60,73,74,81)及び弁論の全趣旨によれば,被告ライフネットワーク,同住環境システムズ及び同日本建鐵は,被告三菱電機の完全子会社であるところ,被告三菱電機は,被告ライフネットワーク,同住環境システムズ及び同日本建鐵と共に洗濯機の製造販売に係る事業を行い,被告日本建鐵と共に被告製品4及び5を開発したり,被告製品4及び5を発売する旨のプレスリリースや新聞広告を出したり,被告製品4及び5のカタログや取扱説明書の最終頁に自らの名称を表\示したり,製造物責任を負担する趣旨で被告製品4及び5に自らの商号を表示したりしたことが認められる。これらの事実によれば,被告三菱電機は,被告製品4及び5に係る被告日本建鐵,同ライフネットワーク及び同住環境システムズのそれぞれの譲渡を幇助したものということができる。そして,被告三菱電機は,被告日本建鐵と共に,被告製品4及び5を開発したのであるから,先行技術を調査するなどして上記各譲渡を幇助すべきでなかったのに,漫然と幇助した過失も認められる。したがって,被告らは,民法719条の共同不法行為として,連帯して損害賠償責任を負う。\n

◆判決本文

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平成24(ネ)10093 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年08月09日 知的財産高等裁判所

 侵害訴訟の控訴審です。地裁では特許権侵害が認定されました。被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。被控訴人の追加主張について、時期に後れた抗弁について、却下はされませんでした。
 被控訴人は,控訴人の本件防御方法の提出が時機に後れたものである旨主張する。しかし,本件防御方法のうち,当判決における第2の2(4),(6)及び(9)記載の主張は,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであるし,同3(1)ア記載の主張についても,直ちに取調べの可能な書証及び既に提出済みの証拠に基づき判断可能\なものである。さらに,当裁判所は,平成25年6月10日の当審第2回口頭弁論期日において,弁論を終結したものである以上,本件防御方法の提出が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項)ものとはまでは認め難い。よって,本件防御方法を時機に後れたものとして却下する必要はない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成23年(ワ)第24355号

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平成25(ネ)10014 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年07月11日 知的財産高等裁判所

 ウェブサイトにおける商品紹介は、販売の申し出には該当しないとした1審判決が維持されました。
 被控訴人は,技術商社であって,仕入先メーカーから仕入れた各種半導体製品を顧客に販売しているところ,被控訴人の半導体製品の仕入先メーカーの一つにエバーライト社があるが,被控訴人はエバーライト社の取扱代理店ではないこと,被控訴人ウェブサイトには,半導体デバイスのページに15社を数える半導体の取扱メーカーの一つとしてエバーライト社についての記載があり,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクやエバーライト社がLED製品を取り扱っている旨の記載があるが,具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がないこと,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクをクリックすると,同社のトップページに移動するが,このページには具体的なLED製品の記載はないこと,このページからさらに具体的な製品が掲載されたページにたどり着くためには,複数回リンクをたどる必要があり,例えば,本件製品1に関する情報が掲載されたページにたどり着くためには,トップページの「Products」のボタン,「Visible LED Components」の項目,「Low−Mid Power LED」の項目,「5050(0.2w)」の項目,「Datasheet」の欄の下にあるPDFファイルのアイコンを順次たどる必要があることが認められ,これらの事情に鑑みると,被控訴人ウェブサイトの記載をもって,被控訴人が本件各製品について譲渡の申出をしていると認めることはできない。なお,過去には,被控訴人ウェブサイト内にエバーライト社についてのページが存在し,このページにおいて,製品案内として,「アプリケーション」に「屋内外サインボード」,「各種信号灯」,「車載関連(インテリア・エクステリア)」,「携帯端末バックライト」,「DVD/STB/TV」との記載,「製品」に「砲弾型LED全般」,「面実装タイプ LED全般」,「IrDA」,「フォトカプラ」,「フォトリンク」との記載があったが,さらに具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がなく,結局,具体的な個別のLED製品を知るには,エバーライト社のウェブサイトによらなければならなかったのであって,過去の被控訴人ウェブサイト内に,現在のページとほぼ同じ内容のページのほか,上記のエバーライト社についてのページが存在していたとしても,これをもって,被控訴人が本件各製品について譲渡の申出をしていたと認めることはできない。(イ) この点,控訴人は,顧客は,必ず,購入したい特定の製品を念頭において,被控訴人ウェブサイトにアクセスし,目的とする品目の製品情報にたどり着くまでリンクをたどるのであるから,被控訴人ウェブサイトに具体的製品の記載がないことや,個別のLED製品の型番や製品情報に行き着くために複数回のクリックを要するかダイレクトに行き着くかは,「譲渡の申出」性を否定する理由にはならず,殊に被控訴人ウェブサイトの「半導体製品」のカテゴリーにある15社のうち,LED関連の製品を挙げるのは,エバーライト社及び株式会社光波のみであり,被控訴人の顧客がLEDを購入しようとすれば,実際上,エバーライト社か他の1社しか選択肢はないのであって,被控訴人ウェブサイトの記載からは,本件各製品について譲渡の申\出が認められる旨主張する。しかしながら,顧客が,必ず,購入したい特定の製品を念頭において被控訴人ウェブサイトにアクセスするものとは断定できない上に,被控訴人はエバーライト社の取扱代理店ではなく,被控訴人ウェブサイトにおいても,半導体デバイスの仕入先メーカーの一つとしてエバーライト社を紹介し,具体的製品を何ら特定することなく同社製品を一般的に取り扱っている旨を記載しているにすぎず,被控訴人ウェブサイトに貼られたエバーライト社のウェブサイトへのリンクも,単に同社のトップページに移動するもので,同社製品に直接リンクするものではない。そして,顧客が被控訴人ウェブサイトに貼\られたエバーライト社のウェブサイトへのリンクから,同社ウェブサイトのトップページに移動した後,具体的な製品が記載されたページにたどり着くためには,同社のウェブサイトにおいて複数回リンクをたどる必要があるところ,かかるエバーライト社のウェブサイトにおけるリンクの方式や具体的な取扱製品の記載が同社による同社製品の譲渡の申出に当たるか否かは格別,エバーライト社が管理する上記ウェブサイトの記載をもって,被控訴人による譲渡の申\出と認めることはできない。そして,前記(ア)で認定した事実に加え,前掲乙1,2及び12において,被控訴人が,本件各製品については,いずれもE&E社との間で商談を行ったこともサンプルの提供を受けたこともなく,その予定もない旨陳述していることや,被控訴人において今後も本件各製品を販売する意思のない旨を表\明していることをも併せ考慮すれば,被控訴人ウェブサイトの記載やエバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクの貼り付けをもって,譲渡の申\出の事実があるものと認めることはできない。

◆判決本文

◆1審はこちら。平成23(ワ)32488等

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平成24(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所

 共同発明か否かが争われました。裁判所は共同発明でないとした審決を維持しました。
 ある特許発明の共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である。特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。したがって,本件においては,審判請求人である原告が,自らが共同発明者であること,すなわち,本件発明1〜6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて,主張立証責任を負担するものというべきである。\n
・・・・
イ 本件発明1〜3は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構\成することにより,二重瞼を形成するために従来技術において必要とされた細かい作業や慣れを不要とし,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡が残したりすることなく,簡単にきれいで自然な二重瞼を安全に形成できるというものであるから,本件発明1〜3の上記特徴的部分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構\成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼\り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要するものと解するのが相当である。
(3)本件発明4〜6の特徴的部分の完成を基礎付ける事情
ア前記(1)によれば,本件発明4の特徴的部分は,本件発明1又は2の「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点であると認められる。本件発明5は,本件発明4の破断部を,剥離シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成したものにすぎず,本件発明6は,本件発明4又は5の剥離シートがシリコンペーパー又はシリコンを施したフィルムであるものにすぎず,いずれも,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特段の技術的意義を有するものではない。したがって,本件発明5及び6には,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はない。イ本件発明4〜6は,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼\付した」構成とすることにより,テープ状部材に把持部や離型紙を設けなくてもテープ状部材の粘着材が指や他の物品に付着することがなく,また,当該二重瞼形成用テープを使用する際には,当該二重瞼形成用テープを左右両側に引っ張るだけでテープ状部材が延びた状態で露出することから,本件発明1〜3に係る二重瞼形成用テープよりもさらに使いやすいという点に技術的意義があるものであるから,本件発明4〜6の上記特徴的部分が完成したといえるためには,この技術的意義を確認したこと,すなわち,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼\付した」構成とした二重瞼形成用テープを引っ張った時には,その長さ方向への引っ張り力に対して,テープ状部材が二重瞼形成のために必要かつ十\分な程度の長さに至るまで延びたままの状態(切れない程度の強度を有している状態)において,剥離シートが破断部において容易に破断しテープ状部材から剥離して,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することを確認したことを要するものと解するのが相当である。
3 本件発明1〜3に係る原告の共同発明者性について
(1)原告の供述の信用性について
原告は,本件発明1〜3の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを基礎付ける事実として,本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであると主張し,原告の供述はこれに沿う。すなわち,原告は,原告本人尋問において,要旨次のとおり供述している。「原告と被告は,平成12年の春頃,プレオ社の玄関の応接室のところで,両面テープ(3M社製#1522)をアイメイク関係で二重瞼に使えるのではないかという話をした。その時点では既に,原告,被告及びAの3人でプレオ社を辞めて新しい会社を作ることが決まっており,もし商品ができた場合は,新会社で商品にしようということを約束していたので,それ以上の話はしていないし,実際に両面テープを瞼に当てるなどの実験はしていない。その後,原告と被告は,この両面テープをどういう商品にするかについて,喫茶店で何回か打合せをしたことがあり,被告の車の中で1回話をしたことがある。被告の車の中で話をした際には,両面テープをどういう商品にするかという話はしておらず,また,両面テープのサンプルも見ていない。被告の車の中で話したことは,新しい会社をどういう会社にするかということである。」しかし,原告の上記供述は,容易く信用することができない。その理由は次のとおりである。
ア本件発明1に係る商品の開発意図について
上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では既に,新たに開発する商品を新会社の商品とすることが決まっていた旨を述べている。しかし,原告は,甲1(審判において提出された原告の陳述書)では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープはプレオ社の新商品として開発する予定であった旨を述べている。すなわち,甲1には,要旨以下の記載がある。「詳しい時期は忘れたが,平成12年頃,被告が何かの拍子に両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切って引っ張ったところ,両面テープが長く伸びた。長く伸びた両面テープを見て,被告から「何か新しい化粧品雑貨等に使えないか」という話が出たので,原告と被告とで話を続けているうちに,「二重瞼形成用素材として使えないか」ということになった。当時,プレオ社では,二重瞼を形成するための「液状のり」を取り扱っていたが,二重瞼を作るのに面倒で手間がかかり,売れ行きも良くなく,新商品を開発できないかと二人で話をしていたこともあり,その両面テープで瞼を貼\り付け,二重瞼形成用素材にできないかという話になった。その後も二人でいろいろ話をして,3M社製の両面テープ素材を前提とした二重瞼形成用テープをシリコンシートで挟み込み,伸ばしやすいようにシリコンゴムに切れ目を入れるなどの発明の基本的な骨格ができあがった。もっとも,その後プレオ社の業績が悪くなり,両面テープの開発が具体的に進展することはなかった。平成12年夏頃,プレオ社から原告に対し,会社の業績も悪いことから退職して27もらえないかという話があった。これを聞いた被告とAが原告に同調し,3人でプレオ社を辞めて新たに事業を立ち上げようということになった。平成12年9月の新会社設立当初は,お金を稼ぐことで手いっぱいであったため,「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発にすぐに着手することはできなかったが,原告は,近い将来新会社で製造販売することを考えていた。「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発について具体的な協議を始めたのは,平成13年1月に至ってからである。」甲1の上記記載によれば,原告が本件発明1の着想を得たとする時点(原告本人尋問によれば,平成12年の春頃)では,原告と被告は,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを,売上げ不調のプレオ社の従来商品に代わる新商品としようという話をしたということになる。これに対して,原告本人尋問では,上記のとおり,平成12年の春頃には既に新会社設立の話が決まっており,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の商品とすることは既定の事実であったというのである。原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想に係る商品をプレオ社のために開発するか新会社のために開発するかという開発意図について,供述が変遷し,相互に矛盾するということは,極めて不自然である。イ新会社の商品とすることが話し合われたか否かについて上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の商品とすることは既に決まっていた旨を述べている。しかし,原告は,甲39(本訴において提出された原告の陳述書)では,平成12年の春頃に原告と被告が上記の話をした正にその際に,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社28の商品として開発することを決めた旨を述べている。すなわち,甲39には,要旨以下の記載がある。「具体的な時期は覚えていないが,平成11年の末頃,原告は,プレオ社の社長から退職勧奨を受け,被告とAに相談した結果,3人でプレオ社を辞めようという話になったが,すぐに辞める必要はない,退職金のこともあるから3人で組合を作って交渉しようという話になった。その後,具体的な時期は覚えていないが,平成12年になってから,3人でプレオ社を退職して新会社を作ろうという話になった。最終的には,平成12年夏頃,プレオ社からの退職が具体化した。具体的な時期は覚えていないが,平成12年の春頃,被告が原告の机のところに(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。),はさみで短冊状に切った両面テープ(3M社の#1522)を持ってやってきた。被告は,短冊状に切った両面テープを原告に見せながら,「このテープは引っ張ると伸びるけど,何か新しい商品に使えないだろうか。」という話をしてきた。被告は,「アイメイク品として何かに使えないか」といった話もしていた。その際に,いろいろな話をしている中で,原告と被告のどちらからともなく「両面テープを瞼に貼り付ければ,二重瞼を作るものに使えるのでは?」「二重瞼テープにしよう」ということになった。退職問題が進展している最中のことだったので,「このアイデアはプレオ社には内緒にしておこう」「新会社の商品としよう。」ということになった。」原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話の際に,その着想に係る商品を新会社の商品として開発することを決めたのか,それとも既に決めていたのかという点について供述が変遷し,一貫しないということは,不自然である。
ウ 平成12年春頃の話をしたとする場所について
上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年の春頃に原告と被告が両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話した場所は,プレオ社の玄関の方と述べているのに対し,甲39では,原告の机のところ(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。)と述べている。原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1〜3の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話をした場所について,供述が一貫しないというのは不自然である。以上のとおり,原告が平成12年の春頃本件発明1の着想を得たとする原告本人尋問における原告の供述は,重要な点において,それ以前に作成された原告の陳述書(甲1,39)の記載内容から変遷しており,一貫しないものであるから,その供述を容易く信用することはできない。したがって,原告の上記主張(本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細かく短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであるとの主張)は理由がなく,他に,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2)原告の供述を前提としても原告が本件発明1〜の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえないこと
仮に,原告と被告が平成12年の春頃両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実があったとしても,原告の供述によれば,その際には,二重瞼形成用テープにしようという話をしただけで,それ以上の話はしておらず,また,実際に両面テープを二重瞼に当てるなどの実験はしていないというのである。また,その後原告は被告と喫茶店で何回か打合せをした旨供べているものの,打合せの具体的な内容については何ら言及されていない上,被告の車の中で1回話をしたことがあるが,そこでも両面テープをどのような商品にするかについての話はしていないというのである。そうすると,原告の供述を前提としても,本件発明1の着想に係る原告の関与としては,平成12年の春頃,原告と被告との間において,伸縮性のあるテープが二重瞼形成用に使えるのではないかといった極めて漠然とした話がされたという程度のものすぎず,この程度の関与は,仮にあったとしても,単なる思いつきのレベルを超えるものではなく,これをもって,本件発明1の特徴的部分が完成したものと認めることはできない。すなわち,前記2(2)のとおり,本件発明1〜3の特徴的部分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構\成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼\り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要し,このような確認をすることなく,単に,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」を二重瞼形成用テープとして使用することを着想しただけでは足りないというべきである。これを原告の供述に係る原告の関与についてみると,原告は両面テープを二重瞼に当てるなどの実験もしていないというのであるから,原告が,実際に,両面テープによって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認していないことは明らかである。したがって,原告の供述を前提としても,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえない。

◆判決本文

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平成23(ワ)38969 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年02月28日 東京地方裁判所

 アップルとサムスンの訴訟です。東京地裁は、サムスンによる権利濫用があるとしてて、差止請求不存在を認めました。
 原告は,被告が意図的に本件特許について適時開示義務に違反したこと,被告の本件仮処分の申立てが報復的な対抗措置であること,被告が本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのライセンス契約締結義務及び誠実交渉義務に違反し,いわゆる「ホールドアップ状況」(標準規格に取り込まれた技術の権利行使によって標準規格の利用を望む者が利用できなくなる状況)を策出していること,かかる被告の一連の行為が独占禁止法に違反することなどの諸事情に鑑みれば,被告が原告に対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない旨主張する。
ア(ア) 我が国の民法には,契約締結準備段階における当事者の義務について明示した規定はないが,契約交渉に入った者同士の間では,一定の場合には,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。ところで,前記前提事実によれば,1)3GPPを結成した標準化団体であるETSI(欧州電気通信標準化機構)の会員である被告は,平成19年8月7日,甲13の書面で,ETSIに対し,本件出願の国際出願番号等に係るIPR(知的財産権)がUMTS規格(3GPP規格)に必須であること,この必須IPRについて,ETSIのIPRポリシー6.1項に準拠するFRAND条件(公正,合理的かつ非差別的な条件)で,取消不能\なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をしたこと,2)IPRについてのETSIの指針1.4項は,会員の義務として,「必須IPRの所有者は,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスを許諾することを保証することが求められること」(IPRポリシー6.1項),会員の権利として,「規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項),第三者の権利として,「少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作するため,規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項)を定めていることが認められる。上記1)及び2)と弁論の全趣旨を総合すると,被告は,ETSIのIPRポリシー6.1項,IPRについてのETSIの指針1.4項の規定により,本件FRAND宣言でUMTS規格に必須であると宣言した本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する申出があった場合には,その申\出をした者が会員又は第三者であるかを問わず,当該UMTS規格の利用に関し,当該者との間でFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けた交渉を誠実に行うべき義務を負うものと解される。そうすると,被告が本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出を受けた場合には,被告とその申\出をした者との間で,FRAND条件でのライセンス契約に係る契約締結準備段階に入ったものというべきであるから,両者は,上記ライセンス契約の締結に向けて,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。そして,遅くとも,アップル社が,平成24年3月4日付け書簡(甲65の1)で被告に対し,被告がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の申出をした時点(前記(1)ウ(カ)b)で,アップル社から被告に対するFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出がされたものと認められ,アップル社と被告は,契約締結準備段階に入り,上記信義則上の義務を負うに至ったものというべきである。
(イ) この点に関し,被告は,1)日本法の観点からは,FRAND宣言により誠実交渉義務が生じるのは,ライセンス対象特許の有効性を争うことなく,真にライセンスを受けることを希望する「確定的なライセンスの申出」が必要であると解すべきである,2)アップル社の被告に対する平成24年3月4日の申出は,被告の本件特許の抵触性と有効性を争うものであるから,そもそも「確定的なライセンスの申\出」に該当しないし,3)また,アップル社の上記申出の内容は,「●(省略)●%」という不合理に低額なライセンス料率を提示するものであって,交渉が成立しないことを知った上で,申\出の外形を形式的に策出しただけの真にライセンスを受ける意思のないものであり,この点においても,上記申出が「確定的なライセンスの申\出」に該当しないとして,被告には,本件FRAND宣言に基づく誠実交渉義務が発生していない旨主張する。しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)及び2)について
FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許についてのFRAND条件によるライセンスを希望する申出は,許諾対象特許の有効性を留保するものであったとしても,その申\出の内容が許諾対象特許が有効であることを前提とする具体的なものであり,FRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であるときは,上記申出により,FRAND宣言をした者と上記申\出をした者との間で,前記(ア)の信義則上の義務が発生するというべきである。しかるところ,アップル社の平成24年3月4日付け申出(甲65の1)は,許諾対象特許を本件特許を含む三つの日本国特許に特定し,ライセンス料率等の詳細なライセンス条件を記載したライセンス契約書案(甲65の2)を添付した具体的なものであり,その記載内容に照らし,アップル社におけるFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であることが認められる。もっとも,上記契約書案の「●(省略)●」には,「●(省略)●」(訳文2頁2行〜4行)との記載があり,アップル社の上記申\出は,許諾対象特許とされた本件特許の有効性を留保するものといえる。しかし,上記条項の記載内容自体は格別不合理なものではない上,被告がアップル社の子会社である原告に対し本件特許権に基づく本件各製品の輸入,譲渡等の差止めを求める本件仮処分の申立てをし,原告がその防御として本件特許の有効性等を争っていること,同仮処分命令申\立事件はアップル社の上記申出があった当時も係属中であったこと(弁論の全趣旨)を踏まえると,アップル社が上記申\出において本件特許の有効性を留保しているからといって,直ちにアップル社においてFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思がないということはできない。したがって,被告の主張1)及び2)は,理由がない。 b 上記3)についてアップル社が平成24年3月4日付け申出において提示したライセンス料率(ロイヤルティ料率)は日本国における●(省略)●%というものであるが,そのライセンス料率の数値のみからFRAND条件に適合しない不合理に低額なものであり,アップル社においてFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思がないものと断ずることはできないし(前記前提事実に照らすと,上記ライセンス料率は,アップル社が平成23年8月18日付け書簡(甲34の4)で示した全世界におけるUMTS規格に不可欠と宣言された特許ファミリーのうち,被告が保有しているものの割合(前記(1)ウ(エ))を踏まえたものであることがうかがわれる。),アップル社において上記ライセンス料率以外の条件でライセンス契約を締結する意思が全くなかったとまで認めることはできない。したがって,被告の主張3)は,理由がない。
イ そこで,被告において前記ア(ア)の信義則上の義務違反があったかどうかについて検討する。前記前提事実と弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年7月20日付けで秘密保持契約(アップル社と被告間の秘密保持契約)を締結した後,同月25日付け書簡(甲29)で,アップル社に対し,FRAND条件に従って,UMTS規格に必須の被告の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスを,関連する「●(省略)●%の料率」でライセンス供与する用意ができていることを提示(被告の本件ライセンス提示)し,●(省略)●,その際,被告は,上記ライセンス条件の「●(省略)●%の料率」の算定根拠を示さなかったこと,2)アップル社は,同年8月18日付け書簡(甲34の4)で,被告に対し,被告の本件ライセンス提示について,全世界においてUMTS規格に不可欠と宣言された1889の特許ファミリーのうち,被告が保有しているものがその5.5%に当たる103にすぎないこと(「Fairfield Resources International」が実施した調査結果)からすると,被告がアップル社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高くても0.275%(5%×5.5%)と捉えるべきであることなどを理由に,被告の本件ライセンス提示に係るライセンス料率が法外な高さであり,FRAND条件に従ったものでないとの意見を述べるとともに,被告の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,アップル社と被告間の秘密保持契約に基づいて,被告がアップル社に支払うことを求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,被告と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請したこと,3)被告は,平成24年1月31日付け書簡(乙36)で,アップル社に対し,●(省略)●被告の本件ライセンス提示がアップル社にとって不本意な内容であるならば,アップル社において,真摯な対案を提示するよう要請をしたが,その際,被告は,被告の本件ライセンス提示に係るライセンス料率(ロイヤルティ料率)の算定根拠を示さなかったこと,4)アップル社は,平成24年3月4日付け書簡(甲65の1)で,被告に対し,被告がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許について,●(省略)●%をロイヤルティとして支払う旨のFRAND条件でのライセンス契約の申出をしたこと,5)被告は,同年4月18日付け書簡(乙42)で,アップル社に対し,アップル社の上記4)の申出は,日本における三つの特許の個々につきロイヤルティ料率●(省略)●%という金銭的条件が低額であり不合理であること,●(省略)●などを理由に,FRAND条件に基づくライセンスの申\出に当たらないなどと意見を述べたこと,6)アップル社は,同年9月1日付け書簡(甲109)で,被告に対し,2G,3G及び4G(LTE)に対応する携帯機器標準規格必須特許全体を対象として,クロスライセンスの提案を含むFRAND条件に基づくライセンス許諾の枠組みを提案する用意がある旨を表明し,さらに,同月7日付け書簡(甲110)で,被告に対し,ロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,全てのフィーチャーフォン,スマートフォン及び携帯型タブレットに関する両当事者間の1台当たりのロイヤルティの構\成として,携帯機器標準規格必須特許全体のロイヤルティを1台当たり●(省略)●ドルを上限とすべきであるとの前提に立ち,被告がアップル社に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル),アップル社が被告に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル)とするライセンス案を提示したこと,7)一方,被告は,同月7日付け書簡(甲111)で,アップル社に対し,上記6)のアップル社の同月1日付け書簡は,●(省略)●を提案したことが認められる。これらの認定事実に加えて,本件証拠上,アップル社が平成24年9月7日付け書簡で提示したライセンス案について,被告がいかなる対応をしたのか不明であることを総合すると,1)アップル社と被告間の本件特許権についてのライセンス交渉の過程において,被告は,平成23年7月25日付け書簡で,アップル社に対し,本件FRAND条件に従ったライセンス条件として,UMTS規格に必須の被告の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスについて「●(省略)●%の料率」の提示(被告の本件ライセンス提示)をしたものの,その際には,上記ライセンス条件の算定根拠を示すことがなかった上,その後,アップル社から,被告の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,被告がアップル社に支払うことを求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,被告と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請があったにもかかわらず,平成24年9月7日に至っても上記ライセンス条件の算定根拠を示すことはなかったこと,2)その間,被告は,アップル社が同年3月4日付け書簡で被告がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許について,●(省略)●%をロイヤルティとして支払う旨のFRAND条件でのライセンス契約の申出をし,さらには,同年9月7日付け書簡でロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,クロスライセンスを含む具体的なライセンス案を提示しているにもかかわらず,アップル社が被告の本件ライセンス提示を不本意とするならば,アップル社において具体的な提案をするよう要請するのみで,アップル社が提示したライセンス条件に対する具体的な対案を示していないことが認められる。上記1)及び2)に鑑みると,被告は,アップル社の再三の要請にもかかわらず,アップル社において被告の本件ライセンス提示又は自社のライセンス提案がFRAND条件に従ったものかどうかを判断するのに必要な情報(被告と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報等)を提供することなく,アップル社が提示したライセンス条件について具体的な対案を示すことがなかったものと認められるから,被告は,UMTS規格に必須であると宣言した本件特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けて,重要な情報をアップル社に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反したものと認めるのが相当である。これに反する被告の主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,被告が,原告の親会社であるアップル社に対し,本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していること,かかる状況において,被告は,本件口頭弁論終結日現在,本件製品2及び4について,本件特許権に基づく輸入,譲渡等の差止めを求める本件仮処分の申立てを維持していること,被告のETSIに対する本件特許の開示(本件出願の国際出願番号の開示)が,被告の3GPP規格の変更リクエストに基づいて本件特許に係る技術(代替的Eビット解釈)が標準規格に採用されてから,約2年を経過していたこと,その他アップル社と被告間の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総合すると,被告が,上記信義則上の義務を尽くすことなく,原告に対し,本件製品2及び4について本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。\n

◆判決本文

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平成22(ワ)28813 特許権移転登録請求権不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年02月19日 東京地方裁判所

 日本国における特許を受ける権利の移転請求権不存在の確認訴訟について、裁判所は、訴えの利益無しと判断しました。
 ア そこで検討するに,前記前提事実によれば,原告らは,被告が,原告らと被告間の本件権利移転合意(本件合意書2条の合意)に基づいて,原告大林精工に対し,目録1の各特許権及び韓国,米国等の対応特許権の特許権移転登録手続等の履行を,原告Aに対し,目録2の各出願について被告を出願人とする出願人名義変更手続等の履行を求めた本件韓国訴訟において,被告の請求を全部認容するソウル高等法院判決の言渡しがあった後に,原告らの本件権利移転合意の意思表\示の錯誤無効又は詐欺による取消しを主張して,被告が本件権利移転合意に基づいて目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める本件訴訟を提起したものであり,本件訴訟の提起時までに,原告Aが目録2の各出願の分割出願として目録3の各出願を行った後,目録2の各出願の特許権の設定登録を受けていたことからすると,本件韓国訴訟と本件訴訟(本件訴え)とは,目録1及び2の各特許権並びに目録3の各出願の特許を受ける権利に関し,被告の原告らに対する本件権利移転合意に基づく特許権移転登録手続等請求権に基づく給付の訴えと原告らの被告に対する上記請求権と同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないことの確認を求める消極的確認の訴えの関係にあるものと認められる。
イ また,前記前提事実によれば,被告は,本件韓国訴訟のソウル高等法院判決が平成23年4月28日に確定したことから,同年7月29日,民事執行法24条に基づき,外国裁判所の判決であるソ\ウル高等法院判決の主文第2項(目録1の各特許権の移転登録手続の履行を命じた部分及び目録2の各出願の出願人名義変更手続の履行を命じた部分)等についての執行判決を求める別件訴訟1)及び2)を名古屋地方裁判所豊橋支部及び水戸地方裁判所下妻支部にそれぞれ提起したところ,両支部は,いずれもソウル高等法院判決の主文第2項に係る訴訟の国際裁判管轄は,日本の裁判所に専属し,韓国の裁判所に国際裁判管轄が存しないとして,ソ\ウル高等法院判決の主文第2項は,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くことを理由に,被告の請求を棄却する旨の別件判決1)及び2)をそれぞれ言い渡し,これらを不服とする被告が控訴をし,別件訴訟1)及び2)の控訴事件が名古屋高等裁判所及び東京高等裁判所にそれぞれ係属中であることが認められる。そして,外国裁判所の判決について執行判決を求める訴えにおいては,外国裁判所の判決が確定したこと及び民事訴訟法118条各号所定の要件を具備することについて審理をし(民事執行法24条3項),その裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないこと(同条2項),執行判決が確定した場合には,当該外国裁判所の判決は執行判決と合体して債務名義となること(同法22条6号)に照らすならば,別件訴訟1)及び2)は,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る本件権利移転合意に基づく特許権移転登録手続等請求権についての債務名義の取得を目的とするものであり,実質上,ソ\ウル高等法院判決に係る給付の訴え(本件韓国訴訟)の日本国内における事後的継続であるということができる。このような債務名義の取得という観点からみると,別件訴訟1)及び2)と本件訴訟(本件訴え)との関係は,本件韓国訴訟と本件訴訟との関係と同様に,実質上,給付の訴えと消極的確認の訴えの関係にあるものということができる。次に,別件訴訟1)及び2)と本件訴訟の国際裁判管轄に係る当事者の主張をみると,被告は,本件管轄合意(本件合意書9条の合意)は,本件合意書に関する紛争の第一審はソウル中央地方法院の専属的管轄とすることを定めた専属的管轄の合意であること,平成23年法律第36号による改正後の民事訴訟法(「平成23年改正法」)3条の5第2項は,登記又は登録に関する訴えの管轄権は登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは日本の裁判所の専属管轄に服する旨規定するが,平成23年改正法が施行された平成24年4月1日の時点で,本件訴えは東京地方裁判所に現に係属していたのであるから,平成23年改正法の附則2条1項により,本件訴えに民事訴訟法3条の5第2項が適用されないことなどを根拠として,別件訴訟1)及び2)においては,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求について,ソ\ウル高等法院に民事訴訟法118条1号所定の「裁判権」,すなわち国際裁判管轄(間接管轄)が認められ,本件訴訟においては,原告らの消極的確認請求について,日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められない旨主張するのに対し,他方で,原告らは,本件管轄合意及び本件権利移転合意は,原告らの錯誤無効又は詐欺による取消し等により効力を有しないこと,平成23年改正前の民事訴訟法の下においても,登記又は登録に関する訴えの管轄権は登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは日本の裁判所の専属管轄に服すると解すべきであることなどを根拠として,別件訴訟1)及び2)においては,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求について,ソ\ウル高等法院に国際裁判管轄(間接管轄)が認められないので,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くものであり,本件訴訟においては,原告らの消極的確認請求について,日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められる旨主張している(甲32ないし35,乙21ないし25,弁論の全趣旨)。このように別件訴訟1)及び2)において,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求についてソ\ウル高等法院に国際裁判管轄(間接管轄)が認められるかどうかと,本件訴訟において,原告らの消極的確認請求について日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められるかどうかとは表裏一体の関係にある。
ウ 前記ア及びイの諸点を踏まえると,外国裁判所の確定した給付判決であるソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟1)及び2)が現に係属している場合に,給付判決の基礎とされた同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないことの確認を求める消極的確認の訴えである本件訴訟を許容するならば,執行判決の要件である民訴法118条1号の外国裁判所における国際裁判管轄の有無と表裏一体の関係にある消極的確認の訴えの国際裁判管轄の有無について,執行判決を求める訴えの係属する裁判所の判断と消極的確認の訴えの係属する裁判所の判断とが矛盾抵触するおそれが生じ得るのみならず,請求権の存否についても,外国裁判所の確定判決の判断内容の当否を再度審査して,それと矛盾抵触する判断がされるおそれが生じ得ることとなり,裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないとした民事執行法24条2項の趣旨に反するのみならず,当事者間の紛争を複雑化させることにつながりかねないものと認められる。また,仮に外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が認容され,その判決が確定した場合には,同一の請求権について消極的確認請求を認容する判決が確定したとしても,当該判決には,前に確定した判決(外国裁判所の確定判決)と抵触する再審事由(民事訴訟法338条1項10号)が存することとなり,他方で,外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が棄却され,当該判決が確定した場合には,日本において同一の請求権に基づく給付の訴えが提起される可能\性があり,その場合には,同一の請求権についての消極的確認の訴えは訴えの利益を欠く関係にあるから,いずれの事態も消極的確認の訴えにより紛争の解決に直結するものとは認め難い。以上を総合すると,ソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟1)及び2)が現に控訴審に係属している状況下において,本件訴訟(本件訴え)により被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことの確認を求めることは,原告らと被告間の上記各特許権及び特許を受ける権利の帰属に関する紛争の解決のために必要かつ適切なものであるとはいえないから,本件訴えは,いずれも確認の利益を欠く不適法なものであるというべきである。これに反する原告らの主張は,採用することができない。

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平成23(ワ)32488等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 平成25年01月31日 東京地方裁判所

 ウェブサイトにおける商品紹介は、販売の申し出には該当しないとして、特許権侵害を否定しました。
 (エ) エバーライト社のウェブサイトのトップページ(http://以下省略)には,「Products」とのボタンがあり,これをクリックすると「Products」のページに移動し,ここには,「Visible LED Components」,「Lighting Solutions」,「Infrared LED,Sensors,Couplers」,「LED Digital Displays」との項目がある。この中の「Visible LED Components」をクリックすると,「Visible LED Components」のページに移動し,ここには,「Low−Mid Power LED」,「High Power LED」,「LED Lamps」,「Super Flux LEDs」,「SMD LEDs」,「Flash LEDs」との項目がある。この中の「Low−MidPower LED」をクリックすると「Low−Mid PowerLED」のページに移動し,ここには,「5050(0.2w)」のほか,4種類のパッケージについての項目がある。この中の「5050(0.2w)」をクリックすると,「5050(0.2w)」のページに移動し,ここには,「Product」として,本件製品1に該当する製品番号を含む九つの製品が記載され,「Datasheet」の欄の下にあるPDFファイルのアイコンをクリックすると,その製品に対応するデータシートがPDF形式で表示される。イ 上記アの認定事実によれば,被告は,技術商社であって,仕入先メーカーから仕入れた各種半導体製品を顧客に販売しているところ,エバーライト社は,10社を超える被告の半導体製品の仕入先メーカーの一つであること,被告ウェブサイトには,半導体デバイスのページに半導体の取扱いメーカーの一つとして,エバーライト社についての記載があり,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクやエバーライト社がLED製品を取り扱っている旨の記載があるが,具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がないこと,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクをクリックすると,同社のトップページに移動するが,このページには具体的なLED製品の記載はないこと,このページからさらに具体的な製品が掲載されたページにたどり着くためには,複数回リンクをたどる必要があり,例えば,本件製品1に関する情報が掲載されたページにたどり着くためには,トップページの「Products」のボタン,「Visible LED Components」の項目,「Low−Mid Power LED」の項目,「5050(0.2w)」の項目を順次たどる必要があることが認められ,これらの事情に鑑みると,被告ウェブサイトの記載をもって,被告が本件各製品について譲渡の申出をしていると認めることはできない。なお,過去には,被告ウェブサイト内にエバーライト社についてのページが存在し,このページにおいて,製品案内として,「アプリケーション」に「屋内外サインボード」,「各種信号灯」,「車載関連(インテリア・エクステリア)」,「携帯端末バックライト」,「DVD/STB/TV」との記載,「製品」に「砲弾型LED全般」,「面実装タイプ LED全般」,「IrDA」,「フォトカプラ」,「フォトリンク」との記載があったが,さらに具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がなく,結局,具体的な個別のLED製品を知るには,エバーライト社のウェブサイトによらなければならないのであって,過去の被告ウェブサイト内に,現在のページとほぼ同じ内容のページのほか,上記のエバーライト社についてのページが存在していたとしても,これをもって,被告が本件各製品について譲渡の申出をしていたと認めることはできない。
(3) 以上によれば,被告が過去に本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をしたり,現在これらの行為をしているとは認められないし,被告が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申\出をする蓋然性があることをうかがわせるような証拠もないから,被告が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をするおそれがあることも認められない。\n

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平成24(行ウ)383 特許分割出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月06日 東京地方裁判所

 H19/4/1以前にした特許出願についての、特許査定後の分割出願が適法かが争われましたが、裁判所は却下処分は適法と判断しました。
 旧44条1項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前(特許法17条の2第1項)に限って分割出願をすることができるとしていたが,新44条1項は,これに加え,特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内であれば分割出願をすることができることとした。そして,平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置として,「改正後の特許法…第44条…の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の例による」と規定し,前段で改正法が適用される場合を特定し,後段でそれ以外の場合(すなわち,改正法が適用されない場合)を定めている。本件出願は,平成22年6月8日にした本件原出願からの分割出願であり,本件原出願は,平成12年2月15日にした本件原々出願からの分割出願であるところ,本件原出願は,新44条2項により,平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)前である平成12年2月15日にしたものとみなされるから,本件出願は,同法附則3条1項前段の「この法律の施行後にする特許出願」には該当せず,後段の「この法律の施行前にした特許出願」に該当するものとして,「なお従前の例による」ことになる。そこで,「従前の例」,すなわち,従前の特許法44条1項の適用関係につきみるに,平成18年改正法による改正前に特許法44条1項に関する改正をした直近の法律は,平成14年改正法であるが,同法附則3条1項は,施行日(平成15年7月1日)以後にする特許出願であって,特許法44条2項の規定により施行日前にしたものとみなされるものについては,同改正法による改正後の特許法の規定(44条1項に関しては,旧44条1項がこれに当たる。)が適用されると規定していたから,本件出願には旧44条1項が適用される。そうすると,本件原出願から分割出願(本件出願)をすることができるのは,本件原出願についての特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に限られる。しかるに,原告が本件出願をしたのは,本件原出願についての特許査定の送達がされた平成23年1月28日より後の同年2月10日であるから,本件出願は,旧44条1項の定める出願期間経過後にされたもので,不適法である。 20121214105700

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平成24(ネ)10023 製造販売禁止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 秘密保持命令について付言がなされています。
 (2) 本件訴訟では原審で秘密保持命令が発令されているが,秘密保持命令に係る手続に関し,以下の2点について付言する。
ア 第1に,控訴人は,その代表者等において秘密記載文書(乙8の1・8の2)を閲覧できなかったことについて問題がある旨主張する。しかし,秘密記載文書については,閲覧等の制限(民事訴訟法92条1項)など秘密保護の規定が存するものの,「当事者」(当事者の法定代理人を含む。)に関する限り,秘密保持命令の発令に至るまでの協議の過程で,当該当事者が営業秘密の開示を受けないことが合意されていたような特段の事情が存在する場合を除き,その閲覧(同法91条1項)が制限されることはない。そこで,特許法は,特許法105条の6第1項所定の「当事者」(民事訴訟法92条1項の「当事者」と同義と解される。)から秘密記載部分の閲覧請求がされた場合に,その者が秘密保持命令を受けていない者であるときは,秘密保護を要する当事者のために,所定の期間を設けて秘密保持命令を申\し立てる機会を付与している(同条2項参照)。本件においても,控訴人代表者は控訴人の法定代理人であると解されるから,かかる特段の事情がない限り秘密記載文書の閲読が許されるのであり,控訴人の指摘は当たらない。イ 第2に,本件訴訟では,準備書面等に,秘密記載文書の写しが添付されている。しかし,このような営業秘密に関する安易な取扱いは,秘密漏洩を防止するための記録管理をいたずらに煩雑にさせ,また,漏洩の危険性を著しく高めることになる。準備書面等に営業秘密の内容に言及する場合には,営業秘密の内容を準備書面等に転記するような方法を避けた,秘密記載文書(原本)における掲載箇所(開始頁及び行と終了頁及び行、図面の番号)の特定にとどめるなどの工夫をすることにより,営業秘密が拡散することのないよう,配慮をすべきである。

◆判決本文

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平成24(ネ)10016 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年07月18日 知的財産高等裁判所

 先使用による通常実施権を有するとして、差止、損害賠償請求を棄却した一審判断が維持されました。
 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照)。
(2) そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
・・・
 以上のとおり,大阪ガスが開発したトルエン加水分解法は,BPEFの粗結晶を水とトルエンに溶かした後,不純物が溶けた水を取り除くと,BPEFのみが溶けたトルエンが得られ,これを精製して純度の高いBPEFを得るという方法であり,本件特許発明1とは異なるBPEFの製造方法であるところ,大阪ガス及び同社から平成11年4月頃にトルエン加水分解法を含んだBPEFの製造方法について開示を受けた被控訴人は,本件特許の優先権主張日である平成19年2月15日前に,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを少なくとも約30トン委託製造しているのであるから,被控訴人製品に係る発明は,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的,客観的なものとして構成されていたということができる。したがって,被控訴人製品に係る発明は完成していたものと認められる。

◆判決本文

◆一審判決はこちら。平成22年(ワ)第9102号

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平成23(ネ)10069 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年04月25日 知的財産高等裁判所

 優先権主張が認められず、新規性無しとして特104条の3の規定により、権利公使不能と判断されました。
 本件特許発明1については,特許法29条等の規定の適用に関して優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきであるところ,同日以前に実施品「スイングクランプLH」が製造・販売されていたので,新規性を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
・・・
原判決が認定するとおり(58〜63頁),平成13年11月13日にされた特許出願(第1基礎出願)に係る基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,平成13年12月18日にされた特許出願(第2基礎出願)に係る基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,平成14年4月3日にされた特許出願(第3基礎出願)に係る基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構\成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

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平成21(ワ)47445 専用実施権設定登録抹消登録等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月30日 東京地方裁判所

 専用実施権の設定期間満了による登録抹消請求が認められました。争点は、契約を更新する旨の覚え書きが有効か否かです。
 上記認定事実に鑑みると,本件覚書は,平成21年9月30日に本件株式譲渡契約(の準備契約)が締結された後,Aとペンジュラム社との間での顧問契約の内容等について不安を抱いたAが,Dと共謀して,ペンジュラム社がAの所有する株式を買収することを妨げる目的で作成したものと認められ,本件覚書を作成した当時,原告と被告MFI社との間において,本件覚書記載のとおり本件専用実施権設定契約の内容を変更する合意があったと認めることはできない。したがって,本件覚書は,通謀虚偽表示(民法94条)により無効であるから,原告と被告MFI社との間の本件専用実施権設定契約は,同契約の第4条第2項に基づく解約により終了したものと認められる。\n

◆判決本文

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平成23(行ケ)10227 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月28日 知的財産高等裁判所

 H11年改正前の特30条について、同一発明でなくても適用すべきと争いましたが、認められませんでした。
 平成11年特許法改正による改正前特許法30条の改正は,新規性喪失の例外適用の拡大を目的とするものであり,改正前においては,新規性喪失の例外が適用される範囲は,特許出願に係る発明と発表等がされた発明とが同一である場合に限られていたが,当該要件を見直し,これを同一のみならず,自己の発表\等を行った発明から出願の発明が容易に発明をすることができた場合(両者に相違点が存在する場合)まで適用可能とし,当該発明の新規性又は進歩性の判断において,発表\等の行為を考慮しないこととする趣旨の改正であるとされる(甲11,乙2)。このように,改正前特許法30条においては,新規性喪失の例外が適用される範囲は,進歩性の判断の場合を含まず,新規性の判断の場合のみであると定められており,特許庁における運用についても,同様であったことについては,原告も争うものではない。平成11年特許法改正は,上記解釈及び運用を前提として,例外が適用される範囲を進歩性判断の場合にまで拡大したものである。
・・・・
原告は,平成11年特許法改正により,進歩性判断の場合にまで例外規定が拡大された趣旨をふまえ,改正前特許法30条の適用においても同様に解し,本件出願にもその趣旨を拡大して同条が適用されるべきであって,引用例1を引用例として用いることはできないと主張する。しかしながら,前記アの改正前特許法30条の解釈によれば,同条を原告主張のように拡大して適用することができないことは明らかである。原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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平成23(行ウ)542 決定処分取消請求事件 その他 行政訴訟 平成24年03月16日 東京地方裁判所

 国内書面提出日から2月経過後に提出された翻訳文提出に対して、特許庁は期間経過後であるとして却下処分を行いました。原告は優先権主張を取り下げて争いましたが、裁判所は、かかる処分について、適法と判断しました。
 原告は,i)平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,ii)その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,iii)その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる旨主張する。しかしながら,原告の主張は採用することができない。すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。したがって,原告による本件取下書の提出をもって,原告が主張する上記ii),iii)のような本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものということはできず,これに反する原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10241 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所

 特29−2(出願後に公開された公報に記載された発明と同一である)違反として拒絶された出願について、裁判所は、先願発明は本願発明を排除しているとして、審決を取り消しました。
 本願補正発明における「電力需給線路」は,同発明の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,複数の電力需給家の電力需給制御機器を相互接続するものであり,電力需給家において電力不足又は電力余剰が生じた場合に,これを介して電力を「受け取り」又は「渡す」ものであることが認められるが,請求項1の記載のみでは,その技術的意義が明確ではないから,発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。補正明細書の記載によれば,「従来の電力系統」とは,図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムをいうこと,従来の電力系統では,大量かつ長距離の電力移送による損失が多く,また,従来の電力系統との連係を前提とした系統連系型分散発電システムは,再生可能エネルギーの遍在により大規模発電所を構\築しにくいとの課題があり,これを解決するため,本願補正発明は,従来の電力系統に拠らない電力システムの提供を目的としていること(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】),本願補正発明は,自立し,疎結合した各電力需給家が,少なくとも各1つの発電機器,蓄電機器及び電力消費機器と,電力需給制御機器とを備え,それぞれの電力需給制御機器において電力需給線路により相互接続されてなる電力システムであること,電力需給制御機器は,当該機器が備えられた電力需給家において電力不足が生じるか否か,又は,電力余剰が生じるか否かを判断し,電力不足が生じる場合には他の電力需給家から電力需給線路を介して電力を受け取り,電力余剰が生じる場合には他の電力需給家に電力需給線路を介して電力を渡すことを特徴とすること(【0009】,【0014】,【0015】,【0018】),電力需給者間で電力の需給を行う場合,電圧・電流・周波数・位相の整合を電力需給制御機器が行うこと(【0025】,【0026】等)が認められる。以上によれば,特許請求の範囲の請求項1記載の「電力需給線路」は,従来の電力系統に拠らない電力システムを構成し,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであり,各「電力需給家」において,電力の不足,余剰が生じた場合には,「電力需給制御機器」がこれを判断して電力を「受け取り」又は「渡し」,電流・電圧等の整合を行うが,「電力需給線路」を介して電力の移動が行われるものであることが認められる。すなわち,本願補正発明における「電力需給線路」は,「従来の電力系統に拠らない」【0006】ことを目的とするものであって,図8(従来の電力系統)が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから,「電力需給線路」は,「従来の電力系統」とは異なるとともに,電圧等の整合を行うための構\成を含んでいないと解するのが相当である。そうすると,本願補正発明における,電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「電力需給線路」は,「従来の電力系統」(図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。他方,先願発明の「送配電線網」については,上記ア(イ) のとおり,モノや設備の集合体としての設備群ないし「送電線,配電線,変電所および変圧器などの多くの設備から構成され,電気エネルギーを流通するための電力設備群」であることについて,当事者間に争いはない(引用例の段落【0003】,【0021】,【0022】,【0025】の記載からも,このように理解できる。)。また,引用例によれば,「電力送受制御手段324では,要求制御手段322が待ち受けた受電に応じる受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報D,あるいは応答制御手段323が送信した受電に応じる旨の受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報Dをもとに,受電または送電を行う電力を制御する。」等の記載(【0024】,【0030】,【0034】参照)があるものの,電力需要家間での電力を送電し受電する際の具体的な制御や必要となる電圧等の整合に係る制御についての具体的な記載はない。引用例の図5(別紙図面の「引用例の図5」のとおり。)には,先願発明の「制御装置」(本願補正発明の「電力需給制御装置」に相当する。)は,「通信網」とは接続されているが,「送配電線網」とは接続されていない様子が明確に示されている。したがって,先願発明では,「既存の系統を利用することなく,別個に送電及び受電を行うための技術的構\成」は示されていないというべきである。以上によれば,本願補正発明の「電力需給線路」は,従来の電力系統でないとともに「電力需給制御装置」とも区別されているのであって,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないのに対して,先願発明における「送配電線網」は,従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構\成を示すにとどまり,これを超える構成を示すものではないから,両者が相当するということはできない。そうすると,本願補正発明における「電力需給線路」は,「従来の電力系統」を含まない点において,先願発明の「送配電線網」と相違する。本願補正発明と先願発明に相違点は認められないとした審決には誤りがあるというべきである。
ウ これに対し,被告は,i)乙1の段落【0001】,乙2の段落【0003】,【0035】の各記載からすれば,「線路」に変圧器等の機器が含まれることは技術常識である,ii)補正明細書に,「電力需給線路W」として「送配電線網」を用いないことを示す記載はなく,本願補正発明の「電力需給線路」から「送配電線網」を除外すべき理由はない,iii)本願補正発明が「従来の電力系統に拠らない」,「各電力需給家は自立している電力システム」であるとすることは,特許請求の範囲の請求項1,補正明細書の段落【0025】,【0026】の各記載に基づくものではない,iv)補正明細書の図5の実施例のような広域間での送電では,送電効率を高くするため,変電所や変圧器を用いて,昇圧して送電することは技術常識(乙3,乙4)であり,「電力需給線路」を変電所や変圧器などの電力設備を備えた「送配電線網」とすることは当業者が当然に行うことであると主張する。しかし,被告の主張はいずれも失当である。上記イのとおり,本願補正発明は,従来の電力系統に拠らない電力システムの提供を目的とするものであるから,仮に,「線路」に変圧器等が含まれることや,変電所,変圧器を用いて昇圧して送電することが技術常識であり,補正明細書の記載に,「電力需給線路W」として「送配電線網」を用いないことが明示されていないとしても,少なくとも「従来の電力系統」を前提とする電力設備が本願補正発明における「電力需給線路」に含まれると理解する根拠はない(なお,本願補正発明における「従来の電力系統」を前提とする電力設備の範囲の明確性や,そのような電力設備を含まない「電力需給線路」の構成の容易想到性は,本件の争点ではない。)。また,上記イのとおり,先願発明の「送配電線網」は,従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構\成を示すにとどまるものと解される。したがって,「電力需給線路」に「送配電線網」が含まれるとはいえず,上記i),ii)及びiv)の被告の主張は失当である。

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平成22(ワ)9102 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年01月26日 大阪地方裁判所

 特79条の先使用権が認められました。
 たしかに,上記各乙号証(乙15の2,乙20,26)は,いずれも作成名義が開示されていない。しかし,上記書証は,いわゆる処分証書とは異なり,被告が譲渡するBPEFについて,示差走査熱分析による融解吸熱最大を測定した結果を報告する文書であり,その文書の内容及び体裁自体から,その測定した者が作成した文書であることを十分に認めることができる。また,上記書証の作成者が特定されていないため,上記書証の作成者に対する反対尋問も実施することができない。しかし,これらの書証は,相互に内容を補強しているということができ,その後,提出された同様の測定結果(乙56の3,乙57の3,乙63。いずれも作成者が明記されており,原告は,真正に成立したことを争っていない。また,その信用性を疑わせる事情も見あたらない。)とも符合する。さらに,上記(1)イ(ア),同ウ(ア)及び(ウ)のとおり,上記各乙号証(乙15の2,乙20,26)に係るBPEFについては,上記書証が提出されてから相当期間を経た後,譲渡先の了解を得られたことから譲渡に係る書証が提出されており,このような提出の経過等も考慮すれば,これらの測定結果は,いずれも,実質的証拠力を認めることができ,上記(1)において,大阪ガス又は被告が製造に関与したBPEFが,いずれも本件特許発明2の技術的範囲に属することを認めることができる。他に,上記(1)の事実認定を左右する証拠はない。
 (3) 先使用の成否上記(1)のとおり,大阪ガスは,遅くとも平成11年3月からは本件特許発明2の技術的範囲に属する被告製品を製造していたこと,その後も,大阪ガス及びその事業を承継した被告は,複数の譲渡先に対し,反復,継続して被告製品を譲渡してきたこと,本件特許の優先日前に,被告らが委託するなどして製造した被告製品の数量は少なくとも合計約40トンを超えており,譲渡した数量も少なくとも約25トンを超えることが認められる。これらのことからすれば,被告は,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に当たると優に認めることができる。なお,原告は,被告がこれまで本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFも製造していたことからすれば,被告において本件特許の優先日前には本件特許発明2に係る発明を完成していなかったし,事業又は事業の準備の程度には至っていなかったなどと主張する。しかしながら,大阪ガス又は被告が,本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFを,被告製品と平行して製造・販売していたとしても,そのことのみをもって,被告が本件特許発明2に係る発明を完成していなかったとか,被告製品について本件特許発明2に係る発明を反復実施することができなかったなどと推認するべき事情は見当たらない。むしろ,上記(1)のような被告製品の製造数量や譲渡数量からすれば,被告らは,本件特許発明2について反復・継続して実施してきたものというほかない。また,大阪ガスが本件特許の優先日より約8年も以前から被告製品を製造してきたことなどからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであること,被告は,大阪ガスから被告製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。

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平成22(ワ)5655等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年01月19日 大阪地方裁判所

 無償実施することについて、黙示の許諾があったと認定されました。
 前提事実(2)イのとおり,被告は,原告P1から依頼され,その指導,監督の下,本件各歪計を製造し,原告P1が当時勤務していた名古屋大学及び同大学が共同研究協定を締結していた日本原子力研究開発機構瑞浪超深地層研究所に販売したことが認められる。また,争点1に係る【原告らの主張】によれば,これらの機関が本件各歪計を購入するに至ったことについても,原告P1の寄与が大きかったというのであり,原告P1は本件各歪計の検査と設置工事まで指導したというのである。さらに,原告P1本人の陳述によれば,名古屋大学在職中に本件特許権Aに係る実施料を受け取ることは可能\であったし,本件各歪計の販売価格等についても当時から認識していたというのである。これらのことからすれば,原告P1が被告との間で,本件各歪計の製造,販売に際し,本件特許A発明の実施料の支払等について協議する機会はあったことが明らかである。それにもかかわらず,原告P1は,当時,被告に対し,本件特許A発明の実施料の支払等を請求したことはなかったのであるから,このような原告P1の対応をみれば,少なくとも黙示的には,被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,本件特許A発明について無償で実施することを許諾していたものというべきである。原告らの主張によれば,原告P1は被告に本件特許A発明を自らの依頼により実施させておきながら,その時点では,実施料の請求をせず(その結果,販売先である自らの勤務する大学等に対する販売価格に転嫁されることはない。),その後になって 実施料の請求をしているということになるが,このような請求は,被告にとっては全くの予想外というべきである。\n

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平成23(ワ)3102 損害賠償請求事件 平成23年10月24日 大阪地方裁判所

 弁理士に対して、委任契約の債務不履行又は不法行為があるとして損害賠償請求がなされましたが、原告の請求は棄却されました。
 そこで検討すると,原告が拒絶したのでなければ,被告が審査官と再度面談をしたり,進歩性なしとして拒絶された出願について一部でも特許査定をする旨の合意をされたにもかかわらず,それに従った手続補正をしなかったりする理由は他にないのであって,上記経過は被告本人の供述を前提としてしか了解することができないものである。また,前提事実のとおり,原告と被告は相互に本件出願Bに係る委任契約を解除したにもかかわらず,再度,本件出願Bに係る委任契約を締結している。これは,本件出願Bについて拒絶査定がされ,本件出願A及びCの拒絶査定も確定した後の時期であり,原告の主張するような債務不履行が被告にあったのであれば起こりえないことである。さらに,乙20及び21によれば,再度の委任契約後に,原告は本件出願Bに係る手続補正について発明の名称や請求項の記載内容の文案を示すなど,被告に詳細に指示したことが認められる。このことや,前記1のとおり,被告が原告のアメリカ特許について手続をする都度,原告に了解を求めたことは,被告本人の上記供述を裏付けるものである。なお,この点に関する原告本人の供述は,書面の体裁からして原告から被告に指示したものであることが明らかであるのに,被告から指示されるままに書いたなどと不合理な弁解に終始しており,信用することはできない。加えて,上記1と同様に,原告が平成19年4月に至るまで被告の責任を追及することがなかったことからすれば,本件出願Bの出願手続において被告の責任を追求することができるような事情があったとは考えにくい。

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平成22(行ケ)10380 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月28日 知的財産高等裁判所 

 スロットマシン(CS発明)について、異なる構成は、課題解決に不可欠な構\成ではないとして39条違反はないとした審決を維持しました。
 特許法39条2項所定の「同一の発明」について,複数の発明相互の構成において,相違部分がある場合に,その相違点に係る構\成が,解決課題に対して,技術的な観点から何ら寄与しないと評価される場合には,複数の発明は,同一の発明と解すべきであるが,相違点に係る構成が,そのように評価されない場合には,特許法39条2項所定の同一の発明とはいえない。そこで,上記観点から検討する。甲18ないし甲20には,ぱちんこ遊技機において,当たりを表\示と音で報知することが記載されている。ぱちんこ遊技機では,ぱちんこ遊技機自体が所定時間後に自動的に事前に決定された当選フラグ役に対応した図柄で停止させる。これに対し,回胴式遊技機(スロットマシン)では,遊技者が停止ボタンを押して図柄を停止させる必要があり,停止ボタンを押すタイミングによって停止時の図柄が変化し得るから,遊技者はビッグボーナス当選の報知があるとビッグボーナス識別情報を揃えようと努力をするため,当該報知を行うことによる効果において,相違があると認められる。以上の事実に照らすならば,甲18ないし甲20の記載を考慮したとしても,ビッグボーナス役が内部当選していることを音で報知するとの技術が,スロットマシンの技術分野において,解決課題に対して,技術的な観点から何らの寄与をしないと評価されるような構成であると認めることができない。甲46には,スロットマシンの技術分野において,入賞が得やすい停止ボタンの操作時期を音と光で報知する技術が記載されている。しかし,甲46には内部抽選に関する記載がないことからすると,甲46のスロットマシンは内部抽選と引き込み制御を有するパチスロではなく,甲46にいう入賞が得やすいストップスイッチの操作時期とは,入賞を与える絵柄が揃うタイミングを意味し,ビッグボーナス役が内部当選しているという状態とは異なると認められる。したがって,甲46の記載があったとしても,ビッグボーナス役が内部当選していることを音で報知するとの技術が,スロットマシンの技術分野において,解決課題に対して,技術的な観点から何らの寄与をしないと評価される構\成であると認めることができない。甲9及び甲21の記載があったとしても,同様に,ビッグボーナス役が内部当選していることを音で報知するとの構成が,スロットマシンの技術分野において,解決課題に対して,技術的な観点から何らの寄与をしないと評価される構\成であると認めることができない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,採用の限りでない。本件特許発明と特許第4058084号発明とは,特許法39条2項所定の同一の発明であるとはいえず,審決は同項に違反しない。

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平成22(行ウ)527 特許料納付書却下処分取消請求事件 平成23年07月01日 東京地方裁判所

 特許年金の支払いについて、「通常期待される注意を尽くしたものということはできない」と判断されています。特許料管理の委託を受けた事務所は気をつけないといけませんね。
 原告は,本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情として,A法律事務所(前権利者であるフラーレン社が本件特許権に係る特許料の支払を委託していた法律事務所)がB法律事務所(原告が本件特許権に係る特許料の支払を委託した法律事務所)からの再三の要求にもかかわらず,本件特許権に関する一件記録の送付に応じなかったことから,B法律事務所において適切に特許維持管理を行うことができなかったことが原因であり,原告及びB法律事務所には何ら責任がなく,「その責めに帰することができない理由」がある旨主張する。しかしながら,仮に,原告が本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情が原告の主張するとおりであったとしても,原告から本件特許権の管理を委託されたB法律事務所は,受託者として,善良な管理者としての注意義務を負うものであるから,A法律事務所に対し,本件特許権の特許番号,特許料の支払期限,支払状況等が記載された一件記録の送付を求めたというだけで,その注意義務を尽くしたことになるとは解されない。すなわち,B法律事務所が本件特許権を管理するに当たって必要な情報を入手するため,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めた措置に合理性は認められるものの,その後,相当期間が経過してもA法律事務所から一件記録が送付されなかった場合には,本件特許権に係る特許料の追納期限が到来する可能性についても当然に配慮し,特許権者である原告に対して本件特許権に係る詳細な情報の提供を求めるとか,あるいは自ら特許原簿を閲覧するなどして,本件特許権に係る特許料の納付状況を調査することが求められているというべきであり,このような調査を尽くすことは,本件特許権の管理を委託された者に通常期待される注意義務の範囲内のことというべきである。本件において,B法律事務所がA法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を最初に求めた時期は不明であるが,原告の主張を前提としても,B法律事務所は,少なくともA法律事務所から「B法律事務所が特許維持管理の責任を負うことの確認」を求めるレターを受領した平成20年6月5日頃には,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めていたことになる。本件特許権に係る第11年分特許料の追納期限は平成21年1月17日であり,B法律事務所がA法律事務所に対し本件特許権に係る一件記録の送付を要求してから少なくとも半年以上の期間が残存していたことを考慮すると,B法律事務所は,その間,A法律事務所からの一件記録の送付を漫然と待つにとどまらず,自ら本件特許権に係る特許料の納付状況を調査した上,本件特許権の維持に必要な処置を講じることが求められていたというべきである。したがって,このような調査を行わず,本件特許権に係る第11年分の特許料の追納期限(平成21年1月17日)を徒過させたB法律事務所は,本件特許権の管理者として通常期待される注意を尽くしたものということはできない。そして,B法律事務所は,本件特許権の管理について,特許権者である原告から委託を受けた者であり,B法律事務所に「その責めに帰することができない理由」が認められない以上,前示2のとおり,原告についても「その責めに帰することができない理由」があると認めることはできない。\n

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平成21(行ヒ)326 審決取消請求事件 平成23年04月28日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所

 医薬品の存続期間延長について拒絶審決を取り消した高裁判決が、最高裁でも、維持されました。
 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能\\及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。

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平成22(行ケ)10177 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年03月28日 知的財産高等裁判所

 存続期間の延長拒絶審決が取り消されました。
 以上の点を前提として整理する。特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。

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平成22(行ケ)10178 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年03月28日 知的財産高等裁判所

 存続期間の延長拒絶審決が取り消されました。
 このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,i)「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及びii)「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。以上の点を前提として整理する。特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,i)「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,ii)「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。

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平成21(行ケ)10423等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年02月22日 知的財産高等裁判所

 延長登録の無効について棄却審決が維持されました。
 前記認定によれば,軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と高度アルツハイマー型認知症との差異は,緩やかにかつ不可逆的に進行するアルツハイマー型認知症の重症度による差異であると解されるところ,塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても,より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには,高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し,その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。そして,「用途」とは「使いみち。用いどころ。」を意味するものであり,医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され,「用途」の同一性は,医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく,先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理),薬理作用,症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ,本件のように,対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり,薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも,先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり,先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には,特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして,重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。よって,本件においては,前記判示のとおり,疾患としては1つのものとして認められるとしても,用途についてみれば,先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして,存続期間の延長登録無効審判請求を不成立とした審決は,その判断の結論において誤りはない。\n

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平成20(許)36 秘密保持命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成21年01月27日 最高裁判所第三小法廷

 かなり前の事件ですが、挙げておきます。仮処分事件にて秘密保持命令の申し立てを認めなかった原審を破棄自判しました。
 特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,仮処分命令の必要性 の有無という本案訴訟とは異なる争点が存するが,その他の点では本案訴訟と争点 を共通にするものであるから,当該営業秘密を保有する当事者について,上記のよ うな事態が生じ得ることは本案訴訟の場合と異なるところはなく,秘密保持命令の 制度がこれを容認していると解することはできない。そして,上記仮処分事件にお いて秘密保持命令の申立てをすることができると解しても,迅速な処理が求められ\nるなどの仮処分事件の性質に反するということもできない。 特許法においては,「訴訟」という文言が,本案訴訟のみならず,民事保全事件 を含むものとして用いられる場合もあり(同法54条2項,168条2項),上記 のような秘密保持命令の制度の趣旨に照らせば,特許権又は専用実施権の侵害差止 めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許 権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,秘密 保持命令の申立てをすることが許されると解するのが相当である。\n

◆判決本文

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平成21(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年12月22日 知的財産高等裁判所 

 延長拒絶審決が取り消されました。
 審決は,「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。また,審決は,「本件特許発明はランソプラゾールの使用を必須とする錠剤についての発明でないのはもちろん、それが「非びらん性胃食道逆流症」という特定の用途に向けられたものでもない。」(8頁5行〜7行)と判断するが,これは,当裁判所の上記判断に反する立場を前提とするものであり,前記1の認定判断と当裁判所の上記判断を前提とする以上,審決の上記判断に基づき本件出願を拒絶すべきものであるとした審決の結論は誤りというべきである。\n

◆判決本文

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平成21(ワ)9793 特許を受ける権利確認請求事件 特許権 民事訴訟平成22年11月29日 東京地方裁判所

 職務発明および黙示の譲渡も否定されました。
 上記のとおり,乙1の4発明は,本件発明1〜8のすべての構成要件を開示している。そして,本件発明9〜16は,それぞれ本件発明1〜8に対応し,それぞれのねじに対応する形状を備えたドライバビットに関する発明であるから,乙1の4発明が本件発明1〜8を開示していることにより,本件発明9〜16の構\成要件についても開示していると認めるのが相当である。(3) そして,乙1の4発明に関しては,・・・このような甲5発明との対比からすると,本件発明の内容を開示する乙1の4発明は,具体的な設計図や金型のパンチ仕様図が作成されて,製品が特定され,実施が可能な状態となった平成15年3月の時点において,発明として既に完成していたと認めるのが相当である。・・以上によると,乙1の4発明には,本件発明の内容が開示されており,本件発明は,被告が原告に再入社する以前である平成15年3月の段階で,既に発明として完成していたというべきであるから,本件発明は,被告が原告に再入社した後にその職務としてした発明とはいえず,職務発明に該当しないと言わざるをえない。そして,その他,本件発明が職務発明に該当すると認めるに足りる証拠はない。・・・以上のような経緯にかんがみれば,上記(ア)の被告の言動から,原告においては,「CRドライブ」が新たな発明の実施品であって,その発明は原告に帰属すべきものであるとの認識が生じていたとは認められるものの,他方,上記(イ)のとおり,被告においては,原告への再入社前に完成し,再入社後も自ら保有すると認識していた本件発明の特許を受ける権利について,これを原告に譲渡する意思を有していたと認めることはできず,原告,被告の間においては,本件発明がいずれに帰属すべきかについて,認識の差があったものということができる。加えて,原告においても,他のねじの発明(甲5)については,早期に特許出願等の対応を行ったのに対し,本件発明については,平成18年8月27日の時点において,特許出願について何ら言及しなかったこと等からすると,(ア)の認定事実から,同日の時点で,本件発明の特許を受ける権利を被告から原告に譲渡する旨の黙示の譲渡契約が成立していたことを推認することはできないと言わざるをえない。

◆判決本文

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平成21(行ケ)10381 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月30日 知的財産高等裁判所

 無効審判が請求棄却され、審決取消訴訟に継続中に、別途、特許権者が訂正審判を請求して、訂正が確定した場合に、裁判所は訂正後の発明について無効理由を判断できるかが争われました。また、進歩性については無効理由無しとした原審決と同じ判断をしました。
 当事者双方は,訂正後の発明に基づいて審判請求に係る無効理由の有無を審理判断することを求めているので,まずその当否について検討する。特許庁がなした無効不成立の審決(したがって無効審決は除かれる。)の取消訴訟係属中に特許請求の範囲の減縮を内容とする訂正審決が確定した場合,訂正後発明との関係で上記無効理由の有無が訂正審決において実質的に特許庁の判断が示されており,かつ当事者双方が訂正後発明との関係で裁判所が無効理由の有無につき審理判断することに異議がないときは,裁判所は,相当と認める限り,訂正後発明につき改めて特許庁の特許無効審判の判断を経る必要があるとして原審決を取り消すことなく,訂正後発明との関係における無効理由の有無を判断することができると解される。そこで,以上の見地に立って本件をみると,本件訴訟は,前記のとおり原告らがなした前記無効理由1ないし3に基づく特許無効審判請求につき特許庁がなした請求不成立を内容とする(原)審決の取消しを求める訴訟である。また,その後なされた訂正審決は,別添審決写し(2)(乙2)記載のとおりであって,その内容は,訂正審判における関係無効審判請求人として原告らから提出された上申書において特許法29条関連で前記引用例1,2を含む多数の証拠が引用されたことから,これらを含めて訂正後の発明の独立特許要件を特許法29条及び29条の2の観点から5人の審判官により詳細に検討したものであって,訂正後の発明につき本件無効審判請求における無効理由2及び3(いずれも特許法29条2項に関するもの)について実質的に特許庁の判断を示したものと認めることができる(原告らは,無効理由1に対する原審決の判断については本訴において取消事由として主張していない。)。そして,訂正後の発明につき審判請求に係る無効理由2,3の有無を当裁判所が審理判断することにつき当事者双方が異議を述べない旨陳述していることは,前記のとおりである。そうすると,上記のような事情が認められる本件にあっては,訂正後の発明について改めて上記無効理由2及び3について判断させるまでもなく,当裁判所が訂正後の発明を前提として無効理由の有無を審理判断することができると認めるのが相当である。そこで,進んで訂正後の発明(訂正発明)を前提として,原告ら主張の無効理由の有無を検討する。
・・・
上記(イ),(ウ)のとおり,甲3,甲4は,いずれも注射針がその役割を果たした後に,中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術であるといえるが,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における,安全のためのものではない。ところで,本件の無効理由2における周知技術に関する原告ら(無効審判請求人)の主張は,「カニューレまたはカテーテルの分野において,カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術は周知であった」(無効審判請求書[甲39]の13頁29〜32行)ことを前提とし,「引用発明1においては,使用後にニードルを中空ハンドルに収納する際に,中空ハンドルを移動させるものであり,ニードルを移動させるものではないが,・・・周知の技術であったから,・・・ニードルハブを中空なハンドルに対して移動させるようにすることは当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない」(甲39の17頁4〜11行)というものである。前記(3)のとおり,甲1発明において,使用後にニードル(針)を中空ハンドル(さや)に収納する際,中空ハンドル(さや)を移動させるのは,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するためである。仮に,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術が周知であったとしても,その目的や意義が甲1と異なる場合には,これをそのまま甲1に適用することが容易であるとはいえないため,原告ら主張の「安全のため」の意味についても,甲1発明の目的に即して理解するのが合理的である。そして,甲3及び甲4は,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における「安全」を目的としたものではないから,審決はこの意味において,原告ら(無効審判請求人)の主張する周知技術は認められないとしたものと解され,審決の同認定に誤りがあるとはいえない。

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平成21(ワ)297 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月18日 大阪地方裁判所

 特許を受ける権利の移転が認めれるかが争われました。裁判所は承継自体が認められないとしましたが、念のため検討するとして、特許法はそのような手続きを予定していないと判断しました。
 原告の被告に対する本件各特1 許権についての移転登録請求は,主張に係る各発明者から,原告あるいは旧デーロスにその特許を受ける権利を承継した事実が認めらず,したがって上記各請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないことは上記1で認定判断したとおりであるが,仮に原告が,本件発明1ないし3について,各発明者から特許を受ける権利を承継した事実が認められたとしても,本件の事実関係のもとでは,その請求をそもそも認める余地はないので,以下において念のためその点について判断を示すこととする。(2) すなわち特許を受ける権利を有する者は,特許法の規定に従って,特許出願をして特許登録を受けることにより,特許権者となることができる。特許を受ける権利は,発明と同時に発生し,発明者に原始的に帰属する。この権利は移転することができるから,特許を受けられるのは,発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)に限られる(特許法29条1項柱書,33条1項)。そして,特許法は,発明者等でない者による特許出願(以下「冒認出願」という。)については拒絶査定すべきこと(同法49条7号),冒認出願に基づいて特許登録がされた場合には特許が無効とされること(特許法123条1項6号)をそれぞれ規定するとともに,発明者等の救済として,冒認出願を先願から除外する規定(29条の2括弧書き,39条6項)及び新規性喪失の例外とする規定(30条2項)を設け,一定の条件の下で発明者等が特許出願することにより特許を受けられる場合があることを規定しているが,これはいずれも冒認出願による特許の無効を前提に,発明者等に別途に特許を受ける方法を残しているにすぎないものである。以上からすると特許法の規定は,冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には,当然には,発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解される。\n

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平成21(行ウ)540 手続却下処分等取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年10月08日 東京地方裁判所

 優先権証明書の提出について争いましたが、認められませんでした。
 このように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について,同期間経過後,優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば,優先権証明書提出期間を定め,その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項,4項の規定の趣旨を没却することになるから,本件提出書に係る手続の瑕疵は,優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であり,もはや補正することはできないというべきである。(4)アこの点,原告は,本件提出書に係る手続については,客観的に判断した手続者の合理的意思(優先権証明書の原本を提出すべきところ,誤って「複写」を提出してしまったこと)が明らかであり,不適法な手続であってその補正をすることができないもの(特許法18条の2第1項)には該当しない旨主張する。しかし,原告が本件提出書に添付したのは,OHIMが発行した本件共同体意匠の出願日が記載された認証謄本の一部(表紙を含む2枚分)のみを複写したものとその訳文にすぎず,本件共同体意匠を記載した図面等に相当するものの写し等は添付されていなかったのであるから,本件提出書のその他の記載等を総合しても,直ちに「原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったことが明らか」であると認めることはできない。この点は,原告において,本件出願と同時に行った他の3件の意匠登録出願については,優先権証明書の原本とその訳文を特許庁長官に提出していた(甲9,10)という事情を考慮しても同様である。\n

◆判決本文

◆関連事件です。平成21(行ウ)597

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平成8(行ウ)125  特許権 行政訴訟 平成9年03月28日 東京地方裁判所

 古い事件ですが、興味深いので挙げておきます。意見書提出期間内に提出された補正書で特許査定がなされ、その結果分割出願が適法でないとされた事件について、裁判所は、意見書提出期限内の特許査定処分は適法と判断しました。  法五〇条は、審査官は、拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定していたが、その趣旨は、審査官が、特許出願に拒絶理由があるとの心証を得た場合に直ちに拒絶査定をすることなく、その理由をあらかじめ特許出願人に通知し、期間を定めて出願人に弁明の機会を与え、審査官が出願人の意見を基に再考慮する機会とし、判断の適正を期することにある。 ところで、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることは、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であって、特許査定をしようとする場合に要求されるものでないことは、法五〇条自体から明白である。したがって、拒絶査定をしようとする場合には、指定した期間の経過を待って、右期間中に提出された意見書、右期間中にされた手続の補正、特許出願の分割を考慮した上で拒絶査定をする必要があるけれども、右期間中に提出された意見書又は右期間中にされた手続の補正を考慮した結果、特許査定をすることができると判断した場合には、無為に指定した期間の経過を待って、その後、さらに、追加の意見書が提出されるか否か、再度の手続補正がされるか否か、特許出願の分割がされるか否かを見極める必要はなく、指定期間の途中であっても特許査定をすることができるものであり、むしろ、そのような取扱いこそが望ましいものということができる。意見書提出の期間として指定された期間は、特許出願人が明細書又は図面について補正することができる期間とされている(法一七条の二第三号、法六四条一項)が、その趣旨は、拒絶理由通知を受け、その拒絶理由のある部分を補正により除去することにより、特許すべき発明が特許を受けることができるようにすることにある。

◆判決本文

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平成22(行ウ)183 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月09日 東京地方裁判所

 パリ優先の証明書が、「優先権書類データの交換に基づく優先権書類提出義務の免除」対象であると誤解して提出せず、これによって優先権の効果が認められ無かったことを争いましたが、裁判所は認めませんでした。  原告の主張は,立法論としてはともかく,解釈論としては到底採用することができない。本件において失効した優先権の主張を補正により復活させなかったことが,原告の財産権等の法的利益を侵害するものであるといえないことは明らかである。したがって,法43条2項及び4項に基づき本件補正書に係る手続を却下した本件処分は,憲法29条1項に違反するものとは認められず,原告の主張は理由がない

◆判決本文

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平成20(ワ)11245 違約金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年08月27日 東京地方裁判所

 裁判上の和解における「実施」の定義が争われました。
 本件和解は,原告と被告との間に締結されていた本件特許権についての専用実施権設定契約(甲6の1)及び製造委託契約(甲7)等に関して生じた紛争をめぐる訴訟(当庁平成16年(ワ)第3678号,同年(ワ)第7950号,同年(ワ)第2277号,同年(ワ)第70001号,同年(ワ)第70012号,同年(ワ)第70041号,同年(ワ)第70042号事件)において調ったものであるが,第5項は,本件特許権の専用実施権設定に関する第3項の特約条項として設けられたものであることは,前記第2の2(2)の本件和解条項の文言から明らかである。そして,本件和解条項中には,「実施」の用語についての定義規定はないから,その意味は,特許権の専用実施権設定契約における通常の意味で使用されるところに従って解釈するのが当事者の合理的な意思にかなうものというべきである。そうすると,専用実施権については特許法に規定されているのであるから,これに関する契約中の「実施」の文言も,特許法における「実施」の定義,すなわち,同法2条3項の定義するところに従って解釈するのが相当である。そして,本件特許発明のような物の発明については,本件和解成立時(平成17年4月11日)に適用されていた特許法(平成18年法律第55号による改正前の特許法)2条3項1号によれば,「実施」とは,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」と規定されていたのであるから,第5項の「実施」の意味は,上記規定に則して解釈するのが相当である。
 (2) この点,原告は,本件和解に至った経緯や本件和解の趣旨,目的に照らし,本件和解条項中の「実施」については,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号の規定する「実施」よりも広いもので,「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」を意味するものと解するのが相当である旨主張する。しかしながら,かかる解釈は,「実施」の概念を大きく拡張するものであるから,このような意味を「実施」に盛り込もうとするのであれば,本件和解条項中にその旨の明示の定義が置かれてしかるべきである(本件和解が当庁において特許事件を専門的に扱う知的財産権部において成立したものであること〔当裁判所に顕著な事実〕を考慮すれば, このことは一層妥当するというべきである。)が,本件和解条項上,そのような措置は何ら講じられていない。また,原告の主張する「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」とは,その外延が甚だ不明確というほかなく,1億円もの高額な違約金の発生がこのように不明確な要件の充足に係っている(本件和解第5項(1),(8)参照)というのも,当事者の予測可能\性を大きく損なうという点において不合理というべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。・・・
 (3) 以上のとおり,本件和解条項中の「実施」は,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号所定の「実施」と同義であり,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」を意味するものと解される。そこで,上記解釈を前提として,争点(2)において,被告が本件和解後に本件特許発明を実施したか否かについて検討する。

◆判決本文

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平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所

均等侵害であるとの中間判決がなされていた事件です。均等侵害についても登録前の実施に対する補償金請求権が認められました。また、補正による再警告は補正が認められる範囲からして不要であるとの判断を示しました。
特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をした後,特許請求の範囲を含めて補正がされた場合,その補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を明瞭にし又は減縮するものに限られ,拡張することは許されないから,補正がされることによって,発明の技術的範囲に属しなかった製品が,技術的範囲に属するようになることは想定できない。したがって,警告後に補正がされることによって第三者に対して不意打ちを与えることはないから,再度の警告を発しないと不意打ちに当たるというような特段の事情(そのような特段の事情を想定することは困難ではあるが)がない限り,補償金請求の前提としての警告をした後,補正がされたからといって,再度の警告をしなければならない理由はないといえる。・・・・被告は,警告が発せられたのは,補正前の特許請求の範囲に基づくものであるから,これに基づく補償金請求には,均等の手法による技術的範囲の解釈は適用されない旨を主張する。しかし,前記のとおり,本件特許の各補正は,特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にする目的の範囲にとどまるものであること,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては,補正後の設定登録を経由した発明の技術的範囲に基づいて判断していることに照らすならば,被告の上記主張は,理由がない(なお,被告製品の具体的態様に照らすならば,本件各補正の内容は,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの争点(均等を前提とした技術的範囲の解釈を含む。)に関係するものではないし,いわゆる侵害論において,このような観点からの当事者の主張もされていない。)。

◆判決本文

◆中間判決はこちらです。

◆原審はこちらです。◆平成19(ワ)28614 平成20年12月09日 東京地裁

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平成18(ワ)7758等 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成21年01月20日 大阪地方裁判所 

 販売地域制限違反が争われました。
 前記争いのない事実等のとおり,本件製造委託契約書の9項(本件エリア条項)には「快通ハーブ粒の販売に当たり,原告は近畿2府4県,及び石川,三重,徳島の各県においては店舗販売ルートにおけるハーブ粒商品の独占販売を行い,それ以外の地域については,被告ウェーブの製造販売するスリムダイエット粒と,協調販売を行う。被告ウェーブの発売するスリムダイエット粒は原告の上記独占発売地域外において販売活動を行うものとする。なお,原告の取引先に関し,広域販売網を持つ会社との取引については,その出店先が上記条項に抵触しないこと」の条項記載がある。この条項にいう「広域販売網を持つ会社」の「出店先」には「広域販売網を持つ会社」の直営店のほか卸売会社の転売先も含むものかなど,後記のように,被告ウェーブが販売すべき店舗の範囲について疑義が生ずる余地がある曖昧なところもある。しかし,少なくとも,被告ウェーブが本件エリア内の店舗に自ら快通ハーブ粒を販売することを一律に禁止され,本件エリア外においてのみ自社の販売するスリムダイエット粒を販売することが許容されているにすぎないことは,本件エリア条項の文言上は一義的に明確といわざるを得ず,上記文言で示された合意の存在を否定し,これと異なる口頭の合意の存在を認定することは,慎重である必要がある。

◆判決本文

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平成21(ネ)10036 業務委託料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月17日 知的財産高等裁判所

 争点の1つが、特許権者の開発の遅れによって実施がきわめて制限された場合にも、、ミニマムロイヤルティの支払い義務があるかでした。
年間ミニマムロイヤルティは,控訴人が「許諾製品」を製造販売したことに対するロイヤルティ(実施許諾料)につき,被控訴人に対する最低限の支払を保証する趣旨のものであるから,契約上明文の規定はないものの,控訴人が「許諾製品」を製造販売することができず,しかも,その原因が被控訴人の研究開発の遅延にあるときは,その支払義務を負わないとする趣旨であったと解することができる。控訴人の上記主張は,そのような趣旨のものと理解することができる。ウ そして原判決(38頁下1行〜40頁17行)認定のとおり,被控訴人が開発した「W−1」は,平成15年2月22日,23日に行われた初期排出ガス試験に不合格となったため,控訴人及び被控訴人の当初の見込みに反し,指定を受けるまでのスケジュールが大幅に遅延することになり,その後,被控訴人が改良した「W−1」は,平成15年10月23日に八都県市の指定を受けたことから,平成15年12月には控訴人がモニター販売を行ったものの,平成16年1月中旬ころには,控訴人は,「W−1」の品質に問題がある,すなわち,冷温時に排気ガスのすすがフィルターにすぐに目詰まりするという欠陥があると考えたため,「W−1」のモニター販売を中止したものと認められる。以上のように,控訴人は,平成15年には,被控訴人が開発した「W−1」について2台モニター販売をしたのみであって,しかも,その主たる原因は,被控訴人の開発が遅れたことにあるものと認められるから,控訴人は,平成15年の年間ミニマムロイヤルティの支払義務を負わないというべきである。

◆判決本文

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平成20(ネ)10086 特許権実施料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

 ライセンス対象が技術的範囲に属しないとしても、要素の錯誤には該当しないと判断されました。
 上記の本件実施契約の締結前後の事実経緯に照らすならば,本件実施契約を締結するに当たり,Z装置が本件発明の技術的範囲に含まれると原告が誤信した点は,要素の錯誤に当たると解すべきではなく,また,原告の認識した事実に何らかの点で誤りがあったとしても,それは重大な過失に基づくものというべきであるから,原告は本件実施契約の無効を主張することができない。その理由は,以下のとおりである。すなわち,本件実施契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであり,その対象は,本件特許権(専用実施権)であるから,契約の当事者としては,取引の通念として,契約を締結する際に,契約の内容である特許権がどのようなものであるかを検討することは,必要不可欠であるといえる。すなわち,合理的な事業者としては,「発明の技術的範囲がどの程度広いものであるか」,「当該特許が将来無効とされる可能性がどの程度であるか」,「当該特許権(専用実施権)が,自己の計画する事業において,どの程度有用で貢献するか」等を総合的に検討,考慮することは当然であるといえる。そして,「技術的範囲の広狭」及び「無効の可能\性」については,特許公報,出願手続及び先行技術の状況を調査,検討することが必要になるが,仮に,自ら分析,評価することが困難であったとしても,専門家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは可能であるというべきである。本件では,原告は,被告Kから,専用実施権の設定を受け,その権利に基づいて,第三者に再許諾(通常実施権)をし,また,自ら施設を運営するすることによって,利益を図ることを計画していたのであるから,原告としては,そのような事業目的との関連性において,本件特許権(専用実施権)の価値(発明の技術的範囲等)を分析,評価及び検討をすべきであったというべきである。ところで,本件特許権は,当事者双方が予\測しなかった事情によって,無効とされるに至ったが,本件実施契約では不返還の特約が付されていたため,原告は,無効となったことを理由として,支払った金額の返還を求めることはできなかった。しかし,仮に,本件特許が無効とされる事情が発生しなかったとすれば,本件特許権は,その特許請求の範囲の記載のとおりの技術的範囲及びその均等物に対する専有権を有していたのであり,その専有権は,原告の計画していた事業において,有益であったというべきである。実際にも,原告は,本件実施契約に基づく再許諾権限に基づいて,湯本館に対して,通常実施権を付与したことにより,525万円の契約金の支払を受けていた(乙38,39)。そうすると,技術的範囲についての原告の認識の誤りは,原告の計画していた事業の妨げになったとは到底解することはできず,Z装置が本件発明の技術的範囲又はそれと均等の範囲に含まれていない限り原告において本件実施契約を締結する意思表示をすることがなかったであろうとまで認めることはできない。以上のとおりであって,原告に,本件実施契約の対象たる特許権に係る発明の技術的範囲についての認識の誤りがあったからといって,その点が,本件実施契約についての「要素の錯誤」に該当するということはできない。また,仮に,何らかの誤認があったとしても,それは,このような事業を遂行する過程で契約を締結する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるものであって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。\n

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平成21(ワ)29534 損害賠償請求 特許権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所 

 ライセンサーが年金不能により権利が消滅し、ライセンシーが虚偽表\\示を回避するためにした廃棄処分など損害賠償が認められました。
 原告は,本件債務不履行により,本件特許権の登録が抹消され,本件特許権が消滅したことから,「PATENT No.3128771」との表示をした本件商品や段ボールケースを譲渡等することが,特許法の禁止する虚偽表\\示(同法188条)に該当するおそれがあると懸念して,別紙1の1記載のとおり,本件商品の在庫分49万3470枚(顧客の返品要求に応じて引き取った2万5500枚を含む。以下同じ。)及び前記特許表示をした段ボールケース140箱について,これらを廃棄することとしたと認められる。したがって,廃棄することとした在庫分等に要した生産費用は,本件債務不履行による原告の損害と認めることができる。そして,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件商品の在庫分49万3470枚の紙代,印刷費,加工費等の製造原価は,約386万6959円,段ボールケース140箱の製造原価は,約1万2460円と認められるから,原告は,本件債務不履行により,少なくとも同額の損害を被ったと認めるのが相当である。また,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,顧客の返品要求に応じて本件商品2万5500枚を引き取った引取運賃1万6000円,廃棄処理を行うため本件商品の在庫分を原告の芳賀工場から宇都宮第二工場まで搬送するために要した運賃6万円は,本件債務不履行により生じた損害と認めることができる。・・・・・・証拠(甲4,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行により,取引先から,本件特許権が消滅したことを理由として,本件特許権の実施品である販売商品(封筒)の販売価格の減額を求められ,販売単価を減額せざるを得なくなったこと,商品1個(封筒1枚)当たりの販売単価の減額幅は,少なくとも平均1円であること,本件特許権の実施許諾料は,本件商品1個(封筒1枚)当たり25銭(本件特許権及び本件商標権についての封筒1枚当たりの許諾料50銭の2分の1)であると認めることができる。また,証拠(甲3)によれば,本件契約の契約期間は,その有効期間が契約成立の日から3年間とされ,別段の意思表\\示がないときは3年間自動的に更新されるもの(本件契約9条)と認められ,本件各証拠を見ても,本件特許の無効や原告の債務不履行等(本件契約10条)により,本件契約が本件特許権の存続期限である平成29年3月7日より前に終了する可能性があることをうかがわせるような事情も見当たらない。これらによれば,原告は,本件債務不履行がなければ,本件特許権の残存期間のうち少なくとも原告が請求の基礎とする7年9か月の間は,本件契約を継続して本件商品の販売を継続することができたと推認することができ,原告は,本件債務不履行により,その間に本件商品の販売を継続することにより得られたであろう利益(本件商品1個(封筒1枚)当たり75銭)を失ったと推認することができる。\n

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平成19(ワ)35324 特許権侵害差止請求 特許権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて、当該製造方法で製造された物に限定されると判断されました。
 本件特許の特許請求の範囲の各請求項は,物の発明について,当該物の製造方法が記載されたもの(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)である。ところで,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づき定めなければならない(特許法70条1項)ことから,物の発明について,特許請求の範囲に,当該物の製造方法を記載しなくても物として特定することが可能であるにもかかわらず,あえて物の製造方法が記載されている場合には,当該製造方法の記載を除外して当該特許発明の技術的範囲を解釈することは相当でないと解される。他方で,一定の化学物質等のように,物の構\\成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。⑵ そこで,本件において,前記(1)の「特段の事情」があるか否かについて,検討する。・・・以上述べたように,本件特許の請求項1は,「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」と記載されて物質的に特定されており,物の特定のために製造方法を記載する必要がないにもかかわらず,あえて製造方法の記載がされていること,そのような特許請求の範囲の記載となるに至った出願の経緯(特に,出願当初の特許請求の範囲には,製造方法の記載がない物と,製造方法の記載がある物の双方に係る請求項が含まれていたが,製造方法の記載がない請求項について進歩性がないとして拒絶査定を受けたことにより,製造方法の記載がない請求項をすべて削除し,その結果,特許査定を受けるに至っていること。)からすれば,本件特許においては,特許発明の技術的範囲が,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定されないとする特段の事情があるとは認められない(むしろ,特許発明の技術的範囲を当該製造方法によって製造された物に限定すべき積極的な事情があるということができる。)。したがって,本件発明1の技術的範囲は,本件特許の請求項1に記載された製造方法によって製造された物に限定して解釈すべきであるから,次のとおりと解される。

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平成21(行ウ)517 特許料納付書却下処分取消請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年03月24日 東京地方裁判所 

管理を委託していた年金管理会社が年金を納付しなかったことについて、その責めに帰することができない理由に該当するのかが争われました。裁判所は、「天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当」と判断しました。
「原告は,特許の申請その他特許権維持に関する諸手続を外部の専門機関に委託することを強制されている現状があり,外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることから,外部の専門機関の選択,当該専門機関の業務に対する監督について,特許権者に落ち度がある場合に限って,特許権者も責任を問われるべきであると主張する。しかしながら,前記( )で1 述べたとおり,特許権の維持管理をどのようなに行うかは,特許権者が自ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて本人である特許権者の自由な意思と判断にゆだねられているものである。また,特許料の納付手続を外部の機関に委託するという方法が,法令上義務付けられているものでないことは明らかであり,事実上,これが強制されていると認めるに足る証拠も皆無である。したがって,外部の専門機関への委託を強制されているとか外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることを前提とする原告の前記主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。

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平成21(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月19日 知的財産高等裁判所

 特許権の延長登録について、実施できなかった期間の認定は誤りであるとして 拒絶審決が取り消されました。  「本件特許発明のように,その実施について薬事法上の承認処分のような行政処分を要する特許発明については,上記処分を求める申請日から承認処分の告知を受けた日の前日までの期間は,特許法67条2項にいう「その特許発明の実施をすることができない期間」に該当すると解されるところ,前記(2)認定の事実関係からすると,原告から本件特許の通常実施権の設定を受けた日本チバガイギー社は,膵臓移植に関し,平成12年3月21日に本件承認処分の申請を行い,その後取下書を提出することなく,平成17年1月26日に承認処分を受けており,その間,日本チバガイギー社において免疫抑制剤たるシクロスポリンの販売を膵臓移植に関し断念すべき客観的事情は認められないのであるから,厚生労働省担当官が膵移植につき承認を当面行わないと告知した上記(2)vii)の平成13年4月27日から同省担当官が電話連絡したX)の平成16年11月9日までの間は,承認権者たる厚生労働省が保険診療との調整を理由に承認を保留していたにすぎないと認めるのが相当であり,その間は特許権者たる原告が特許発明を実施することができないことも明らかであるから,この期間を期間計算から除外するのは相当でないというべきである。これに対し被告は,日本チバガイギー社は平成16年12月1日付けで改めて2回目の承認申請を行っていること,不服審判請求後の平成19年6月12日付け(乙1)及び平成20年3月18日付け(乙2)の各意見書において1回目の申請が取り下げられた旨を原告が述べていること等を理由に,平成12年3月21日付けでなされた1回目の申\請は心移植についてのみ承認処分がなされた平成13年6月20日ころに取り下げられた旨主張するが,本件承認処分の取下げという重要な行為の認定に当たっては,原則として取下書の提出のような申請者の意思を確実に認定できる様式を要すると解するのが相当であることに鑑みると(本件不服審判請求後にその代理人弁理士が取下げがなされたことを前提とするかの如き意見書<乙1,2>を提出したとしても,あくまでも意見であるから,前記のような事実関係からすると,これをもって直ちに取下げがあったと認めることはできないし,原告が2回目の承認申\請を行ったことも,1回目の申請が既に取り下げられていることを前提としたものではなく,念のため注意的に申\請書を提出したものとみるべきである。),これを援用することができない。また被告は,前記(2)vii)の平成13年4月27日からX)の平成16年11月9日までの3年6月余の期間は,保健医療と調整のための待機期間であって安全性確保のために必要とされる期間ではない等とも主張するようであるが,保健医療との調整を要するという事情は承認権者たる厚生労働省側の事情であって,特許権者たる原告が本件承認処分を受けていないため本件特許発明を実施できないことに変わりはないから,上記3年6月余を前記期間計算から除外することも相当でない。

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関連事件はこちらに◆平成21(行ケ)10098 平成21年11月19日 知的財産高等裁判所

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平成20(ワ)33405 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年10月22日 東京地方裁判所 

 和解条項違反ではあるが損害が生じていないとして、損害賠償請求が棄却されました。
。  「前記2(4)認定のとおり,被告が本件和解成立後の平成19年7月21日にヤマト自動車に対し,平成20年7月31日にフジックスに対し,それぞれ被告物件A1台(合計2台)を販売したことは,本件和解の和解条項1項に違反する債務不履行に当たるものである。しかし,前記2(1)イ及び(2)イ認定のとおり,被告によるヤマト自動車及びフジックスに対する被告物件Aの上記販売は,原告がエヒメマシン及びフジックスに対し被告から被告物件Aを取り寄せることを依頼し,その依頼を受けたエヒメマシンから発注を受けたヤマト自動車及びフジックス自らが被告物件Aを被告に発注し,これに基づいて被告がヤマト自動車及びフジックスに販売したものであって,この一連の取引によって原告が当該被告物件A(合計2台)を取得したものである。そうすると,被告によるヤマト自動車及びフジックスに対する被告物件Aの上記販売によって,原告がヤマト自動車及びフジックスに対する原告製品の販売の機会を奪われたものと評価することができないことは明らかである。したがって,被告による上記債務不履行によって,原告にその主張する逸失利益相当の損害が生じたものと認めることはできない。」

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◆平成20(行ケ)10476 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月27日 知的財産高等裁判所

 特許権の延長登録を認めなかった審決が取り消されました。裁判所は下記を付言しました。
  「事案にかんがみ,再開されるべき審判手続における審理に資するよう,特許法67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について,当裁判所の見解を付言する。・・・そうすると,「その特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったというためには,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為と「その特許発明の実施」に当たる行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に重複部分があることが必要であるといえる。換言すれば,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為と「その特許発明の実施」に当たる行為に重複している部分がなければ,「その特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったとは認められないことになる。イ「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為と「その特許発明の実施」に当たる行為に重複している部分があるか否かを判断するには,まず,「政令で定める処分」が薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合には,当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為が「その特許発明の実施」に当たる行為であるか否かを検討すべきである。なぜなら,薬事法14条所定の承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為が「その特許発明の実施」に当たる行為である場合には,特許発明の当該実施行為をすることは,薬事法により禁止されていたということができるからである。ウ 一方,特許法68条の2は,「特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となつた第六十\七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。上記規定の趣旨は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,その特許発明の全範囲に及ぶものではなく,「政令で定める処分の対象」となった「物」(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についてのみ及ぶというものである。これは,特許請求の範囲がしばしば上位概念で記載されるため,同記載によって特定される特許発明の範囲も「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された範囲よりも広いことが少なくないところ,「政令で定める処分」を受けることが必要なために特許権者がその特許発明を実施することができなかった範囲(「物」又は「物及び用途」の範囲)を超えて,延長された特許権の効力が及ぶとすることは,特許発明の実施が妨げられる場合に存続期間の延長を認めるという特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に反することとなるからであると解される。ところで,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)についてのみ及ぶとする制度の下においては,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対し,不測の不利益を与えないという観点からの考慮が必要であることはいうまでもない。しかし,そのような観点から,「政令で定める処分」の対象となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,客観的な要素によって特定され,かつ,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載及び技術常識に基づいて,十分に認識,理解できることが必要となるとはいい得ても,特許請求の範囲によって明確に記載されていることが必要となるとはいえない。したがって,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,特許請求の範囲に明確に記載されていないという理由で,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶することは,許されないものというべきである。」

◆平成20(行ケ)10476 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月27日 知的財産高等裁判所

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    ◆平成20(行ケ)10477
    ◆平成20(行ケ)10478

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◆平成20(行ケ)10460 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月29日 知的財産高等裁判所

特許権の存続期間延長登録について、「特許法68条の2にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」であるとしてした審決の判断には,誤りがある」として、拒絶審決が取り消されました。
 「特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,i)「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及びii)「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。以上の点を前提として整理する。特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,i)「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,ii)「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。(2) 本件事案について上記(1)の観点から,本件について,本件先行処分の対象となった先行医薬品と本件発明との関係について検討する。本件においては,第2「当事者に争いのない事実等」記載のとおり,原告は,i)平成17年9月30日,本件医薬品について,本件処分を受け,同処分によって,本件医薬品の製造等に関する禁止が解除されたこと,また,ii)本件処分によって禁止が解除された行為が,本件発明(本件発明15を除く。)の実施に当たる行為を含んでいることについて,先行的に主張していることが認められる。そうすると,上記原告の先行的主張が肯定される場合には,特許法67条の3第1項1号所定の「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」との延長登録出願を拒絶する要件を充足しないことになる。ところで,本件においては,本件処分の前である平成15年3月14日に,先行医薬品を対象とする本件先行処分がされている。しかし,本件先行処分の対象となった先行医薬品は,本件発明の技術的範囲に含まれないこと,本件先行処分を受けた者が,本件特許権の特許権者である原告でもなく,専用実施権者又は登録された通常実施権者でもないことは,当事者間に争いがなく,本件先行処分によって禁止が解除された先行医薬品の製造行為等は本件発明の実施行為に該当するものではない。本件においては,本件先行処分が存在するものの,本件先行処分を受けることによって禁止が解除された行為が,本件発明の技術的範囲に属し,本件発明の実施行為に該当するという関係が存在するわけではない。したがって,本件先行処分の存在は,本件発明に係る特許権者である原告にとって,本件発明の技術的範囲に含まれる医薬品について薬事法所定の承認を受けない限り,本件発明を実施することができなかった法的状態の解消に対し,何らかの影響を及ぼすものとはいえない。本件先行処分の存在は,本件発明の実施に当たり,「政令で定める処分」(本件では薬事法所定の承認)を受けることが必要であったことを否定する理由とならない。」

◆平成20(行ケ)10460 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月29日 知的財産高等裁判所

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    ◆平成20(行ケ)10459
    ◆平成20(行ケ)10458

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◆平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年04月07日 大阪地方裁判所

 原実施権者に対する損害賠償請求事件です。1)特許請求の範囲の用語の解釈、2)均等判断、3)補正された場合の通知義務なとが争われまれした。
  争点1)
 「原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとは記載されていないから,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」全量がカップリング処理されることまで要求されていないとも主張する。確かに,本件明細書では,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとまでは明示的に記載されていない。しかし,他方で,本件明細書には,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えてもよいことについて何らの開示も示唆もなく,実施例にも熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されたものだけが開示されており,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えた場合にも,そうでない場合と同様の効果が得られることについて何ら記載されていない。むしろ,前記ウのとおり,未処理の熱伝導性無機フィラーは,その表\面が疎水性の長鎖アルキル基に全く覆われていないのであるから,これを加えた場合に本件各特許発明と同様の効果が得られるとは容易に想到できないと考えられる。この点,原告は,自ら実験した結果(甲6)を基に,熱伝導性無機フィラーの半量を処理した場合であっても,本件各特許発明の効果を奏するに十分であると主張する(原告第3準備書面15頁6行〜16頁9行)。しかし,特許請求の範囲の解釈(均等侵害の成否は別論)において,明細書の記載のほか,出願経過及び公知技術を参しゃくすることを超えて,当業者にとって自明でない実験結果を考慮することはできないというべきであるから,同実験結果の信用性にかかわらず,これを根拠とすることはできない。・・・以上からすると,本件補(ウ) 正における原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解するのが相当であり,自らかかる補正をしておきながら,後になってこれと異なる主張をすることは,本件補正の外形を信用した第三者の法的安定性を害するものであり,禁反言の法理に抵触し許されないというべきである。
 争点2)
 「そうすると,特許権者において特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したといった主観的な意図が認定されなくても,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には,第三者の予測可能\性を保護する観点から,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで,かかる解釈を前提に,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。・・・前記1 において認定したとおりであり,本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。したがって,原告は,熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったものであり,上記特段の事情に当たるというべきである。なお,本件拒絶理由通知は,単に組成物に係る発明だからという理由で,その組成比の記載がない本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足しないと判断しているところ,この判断の妥当性には疑問の余地がないではない。しかし,第三者に拒絶理由の妥当性についての判断のリスクを負わせることは相当でなく,原告としても,単に熱伝導性無機フィラーの総量を定める意図だったというのであれば,その意図が明確になるような補正をすることはできたはずであり,それにもかかわらず,自らの意図とは異なる解釈をされ得るような(むしろそのように解する方が自然な)特許請求の範囲に補正したのであるから,これによる不利益は原告において負担すべきである。(3) 以上により,GR−b等について,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属すると認めることはできない。」
 争点3)
 「原告は,信義則上,本件補正を通知する義務を負っていたと主張するところ,上記 イ・ウのとおり,出願段階では補正が認められて特許されるものかどうかが未だ確定しておらず,原告が本件補正書を提出したというだけでは直ちに本件実施契約上の権利義務に影響を及ぼすものではないと解すべきであるから,そもそも補正の事実を通知する実益に乏しく,信義則上,かかる義務を認めることはできない。他方で,補正によって特許請求の範囲が減縮された上で特許査定され,特許権が発生した場合には,本件実施契約上の権利義務にも影響を及ぼすことになるから,減縮の事実を被許諾者に通知する実益があることは否定できない。また,本件実施契約では,まず,被告において自己の販売する製品が「許諾製品」に該当するかどうかを判断すべきであるから,その判断に当たって特許請求の範囲が減縮されたことは重要な情報といえる。したがって,少なくとも,被告から本件出願の経過等について問合せがされた場合には,原告はこれに誠実に応答すべき信義則上の義務があったというべきである。しかし,さらに進んで,特許請求の範囲が減縮されたことについて,被告からの問合せの有無にかかわらず原告から積極的にこれを通知すべき義務があったか否かについては,これを容易に肯定することはできない。なぜなら,本件実施契約書においてかかる通知義務の存在を窺わせる条項は全く見当たらず,同契約書外においても通知義務を認める旨の合意の存在を推認させる具体的事情は何ら認められないのであるから,本件において通知義務を認めるということは,実施許諾契約一般において,これについての明示又は黙示の合意の有無にかかわらず,許諾者たる特許権者に信義則上の通知義務を負わせることになりかねないからである。もともと,出願段階で許諾を受けようとする者にとって,契約締結後の補正により特許成立段階で特許請求の範囲が減縮されることは,当然に想定できる事柄であり,減縮があった場合に許諾者から通知して欲しいというのであれば,契約交渉段階でその旨の同意を取り付けて契約書に明記しておくべきといえる(かかる交渉を経ずに許諾者一般にかかる義務を負わせることは,むしろ許諾者に予期しない不利益を被らせるおそれがある。)。また,被許諾者は,許諾者に特許請求の範囲を問い合わせたり(少なくとも許諾者には問合せに応答すべき義務がある。),特許公報等を参照するなどして,特許請求の範囲がどのようになったか調査することができるのである。上記のような事情を併せ考慮すれば,許諾者たる特許権者一般に,信義則上,特許請求の範囲が減縮された場合の通知義務を認めることはできないというべきであり,本件においても,原告に,信義則上かかる通知義務があったと認めるに足りる事情はない(なお,上記は特許請求の範囲が減縮された場合を前提としており,拒絶査定不服審判における不成立審決が確定した場合や,特許無効審判における無効審決が確定したような場合における通知義務については別途考慮を要するところである。)。」

◆平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年04月07日 大阪地方裁判所
  

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◆平成19(行ケ)10351 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月28日 知的財産高等裁判所

  共同出願違反の無効理由なしとした審決を、共同開発における契約解除は有効でないとして、取り消しました。
 「審決において債務不履行解除の意思表示の認定根拠とされている甲8書簡中の「本開発委託契約を御解約される場合は」という記載には,敬語が使用されているから,その「御解約」の主体は,被告作成の甲8書簡の相手方である原告であると理解される。また,甲8書簡において,被告が原告に対して主張した開発設計費支払請求の法的根拠は,債務不履行解除に係る損害賠償請求権(民法545条3項,415条)ではなく,本件開発委託契約書(甲5)の4条である。同条項の記載,すなわち「甲(判決注原告)のやむを得ない事由により,開発を中止又は中断しなければならなくなったとき,甲はその旨を乙(判決注被告)に書面にて通知することにより,本契約を解除することができる。この場合,甲乙協議の上,乙がそれまで負担した費用を甲は乙に支払うものとする。」という約定記載によれば,その解除権行使の主体は,原告のみに限定されている。したがって,甲8書簡で言及された「御解約」の主体は,被告ではなく,原告であることは明らかである。その他,甲8書簡には,債務不履行を理由とする解除の意思表\示を認めるに足りる記載が見当たらない。そうすると,甲8書簡をもって被告が期限付きの債務不履行解除の意思表示をし,又は黙示的にその意思表\示をしたものであると認めることはできない。したがって,被告が債務不履行を理由とする解除の意思表示をしたとした審決の認定は誤りであり,この点に関する原告の主張は,理由がある。」

◆平成19(行ケ)10351 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月28日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10449 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年12月26日 知的財産高等裁判所

 国内優先権が認められる範囲について、先願に記載されていたとして、29条の2の先願の地位を有するとした審決が取り消されました。
 「CaO含有量については,優先権基礎出願明細書には,「10.0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない」と記載され,同記載部分によれば,優先権基礎出願明細書においては,「10.0%」なる数値に上限としての技術的意義を有するものとして開示されているといえるが,「0〜8.0%」の範囲の数値については,何ら技術的な意味を示唆する記載はない。そして,優先権基礎出願明細書の実施例及び比較例によれば,CaOの含有量は,2.1〜7.5%の範囲にあることが示されており,CaOを「8.0%」含有させたガラス組成物についての開示はない。そうすると,優先権基礎出願明細書には,「8%」を上限とする「0〜8%」のCaO含有量範囲について,何らかの技術的意義を示した記述はないと理解するのが自然である。以上によれば,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということはできない。」

◆平成18(行ケ)10449 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年12月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10311 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

 特許の存続期間の延長の対象となるのかについて、争われました。知財高裁は、延長理由無しとした審決を維持しました。
 「以上の(1)認定の事実によると,特許法68条の2にいう「物」が「有効成分」を,「用途」が「効能・効果」を意味するものとして立法されたことは,明らかであるというべきである。そして,その理由としては,新薬の特許は「有効成分」又は「効能\・効果」に与えられることが多いので,薬事法上,医薬品の品目の特定のために要求されている各要素のうち,新薬を特徴付けるものは「有効成分」と「効能・効果」であることが多く,そのため,それらについて「物」と「用途」という観点から特許権の存続期間延長制度を設けることとしたものと解することができる。そして,前記2のとおり,特許法は,同法67条2項の政令で定める処分の対象となった品目ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採用しておらず,処分の対象となった「物」及び「用途」ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採用しており,存続期間が延長された特許権は,処分の対象となった品目とは関係なく,「物」と「用途」の範囲で,その効力が及ぶのであるから,「物」と「用途」の範囲は明確でなければならないところ,これらを「有効成分」と「効能\・効果」と解すると「物」と「用途」の範囲が明確になるということができる。「物」と「用途」を「有効成分」と「効能・効果」と解さないと「物」と「用途」の範囲は極めてあいまいなものになるといわざるを得ず,法的安定性を欠くことになる。したがって,特許法68条の2にいう「物」は「有効成分」を,「用途」は「効能\・効果」を意味するものと解するのが相当である。」

◆平成18(行ケ)10311 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ウ)609 裁決取消等請求事件 平成18年08月04日 東京地方裁判所

 出願時の時点では審査請求期間の末日が10/10(体育の日)で休日であったが、その後の祝日に関する法律が第2月曜日になった場合に、審査請求期限の末日が手続きのできない日になるかが争われました。原告は、経過措置に7年の審査請求期限について「なお従前の例による」との規定を根拠に、当該10/10は、休日として取り扱うべきであると主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
  「平成11年特許法改正法は,出願審査請求期間を出願から3年以内と改正し,同法附則1条4号においてその改正規定の施行期日を平成13年10月1日とするとともに,同法附則2条4項において,「前条第4号に掲げる規定の施行の際現に特許庁に係属している特許出願に係る出願審査の請求については,新特許法48条の3第1項の規定にかかわらず,なお従前の例による。」と規定しているが,同法附則2条4項は,同規定の施行の際現に係属中の出願の審査請求期間を7年としたに止まるものであり,それ以外の法律の適用関係を定めたものではないと解される。イ.そして,特許法3条2項は,手続についての期間の末日が行政機関の休日に当たるときは,その日の翌日をもってその期間の末日とする旨規定している。同条項は,期間の末日が行政機関が執務を行わない日である場合,期間が満了する日をその日ではなくその翌日としたものであり,当該期間の末日が行政機関の休日であるか否かは,当該日における法律によって判断すべきものと解される。ウ.平成10年祝日法改正法は,改正に当たっての経過措置を何ら定めていない。エ.平成15年10月10日当時,同日が行政機関の休日ではなかったことは,当事者間に争いがない。オ.したがって,本件国際特許出願の審査請求期間は,平成15年10月10日がその末日であり,前提事実(4)ウのとおり同月14日にされた本件審査請求は,出願審査請求期間の経過後にされたものである。よって,本件処分には,出願審査請求期間を徒過したとの判断につき,取消事由たる違法はない。」

◆平成17(行ウ)609 裁決取消等請求事件 平成18年08月04日 東京地方裁判所

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◆H18. 1.19 神戸地裁 平成16(行ウ)29 特許権 行政訴訟事件

  税関による特許権侵害物品と認定する認定処分が争われました。神戸地裁は、無効理由ありとして上記認定を取り消しました。今後は、税関における上記認定処分にて無効主張がなされた場合、税関は判断さぜるを得ないのかもしれません。また、特許権侵害訴訟は、大阪地裁、東京地裁に集中させてますが、これら以外の裁判所で実質上無効判断がなされた点でも興味深いです。
  「関税定率法21条1項5号の「特許権」とは,すべての特許権を指すのではなく,無効理由の存在しない特許権を指すものと解するのが相当であり,輸入しようとした貨物が同号にいう特許権侵害物品に当たるとの理由で認定処分を受けた者は,同認定処分取消訴訟において,同認定処分の根拠となった特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の違法を主張することができると解すべきである。もとより,これは認定処分をした税関長又は国と認定処分の相手方との間において,無効理由の存在が当該認定処分の違法理由となるというにとどまる。」

◆H18. 1.19 神戸地裁 平成16(行ウ)29 特許権 行政訴訟事件

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◆平成17年06月17日 第二小法廷判決 平成16年(受)第997号 特許権侵害差止請求事件

 特許権者は、専用実施権を設定した場合でも、その特許権に基づく差止請求権を行使できるかについて、最高裁が判断を示しました。
  「特許法100条1項の文言上,専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はない。また,実質的にみても,専用実施権の設定契約において専用実施権者の売上げに基づいて実施料の額を定めるものとされているような場合には,特許権者には,実施料収入の確保という観点から,特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があることは明らかである上,一般に,特許権の侵害を放置していると,専用実施権が何らかの理由により消滅し,特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があること等を考えると,特許権者にも差止請求権の行使を認める必要があると解される。これらのことを考えると,特許権者は,専用実施権を設定したときであっても,差止請求権を失わないものと解すべきである。」と判断しました。

 高裁の判決です 。◆H16. 2.27 東京高裁 平成15(ネ)1323 特許権 民事訴訟事件

 第1審です。◆ H15. 2. 6 東京地裁 平成13(ワ)21278 特許権 民事訴訟事件
◆平成17年06月17日 第二小法廷判決 平成16年(受)第997号 特許権侵害差止請求事件

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◆H16. 7.26 大阪地裁 平成14(ワ)13527 特許権 民事訴訟事件

  少し前の事件です。被告の過失責任が認められる始期についての判断がなされました。本件は、補償金請求権の警告後、登録、公報発行の間に、登録料を納付し、登録査定のなされたクレームを被告に通知し、という当事者間のやりとりがなされました。公報発行後の過失が推定されるのは当然ですが、公報発行前の過失があるのかが1つの争点でした。
  裁判所は、「原告が、本件特許の出願公開後である平成13年7月27日、被告に対し、公開特許公報を添えて、警告書を送付し、これが同月30日に被告に到達したこと、及び、原告が、本件特許出願について、補正後の特許請求の範囲で特許すべきものとする旨の審決を受け、最初の特許料を納付した後である平成14年9月26日、被告に対し、補正後の特許請求の範囲と共にその旨を記した通告書を送付し、これがそのころ被告に到達したことは、前記「前提となる事実」(5)のとおり当事者間に争いがなく、甲第2及び第3号証の各1、第6号証によれば、上記警告書及び通告書は、いずれも原告から委任を受けた弁理士が原告を代理して発したものであることが認められる。・・・したがって、上記警告書及び通告書の送付を受けた被告は、通告書が到達した時点(発送日からすると、遅くとも平成14年9月30日には到達していたものと推定すべきである。)においては、本件特許出願について、通告書に記載された補正後の特許請求の範囲で特許とすべき旨の審決がされ、最初の特許料も納付されたことを知っていたと認められる。そして、一般に、特許査定ないし特許審決がされ、特許料が納付されれば、特段の事情がない限り、早晩特許権の設定登録がされるのであるから、被告は、上記通告書の到達時において、本件特許出願についても、数日間ないし遅くとも数週間のうちには、特許権の設定登録がされるであろうことを、高い確度をもって予見することができたものと認めることができる。」と登録日以降については過失ありと認定しました。

◆H16. 7.26 大阪地裁 平成14(ワ)13527 特許権 民事訴訟事件

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◆H16. 4.28 東京地裁 平成15(ワ)26297 特許権 民事訴訟事件

 ちょっと前のケースです。通常実施権者が訂正の同意をしなかったことが、契約違反でも信義則違反でもないので、実施検討録抹消請求は認められないと判断されました。実務的には、通常実施権を設定する場合(特に登録する場合)には、特許権者は実施権契約の条項を詳細にチェックしておく必要がありそうです。
 この通常実施権者はもともと警告を受けて実施料を支払っていた者でした。別途訴外Aから無効審判を請求され、この状態が、実施権契約の第11条にいう、「第三者が侵害し又は侵害のおそれがあるとき」に該当するかが争われました。裁判所は、無効審判が請求されているだけでは、協力義務がない、また、信義則上も協力する必要はないと判断しました。

 

◆H16. 4.28 東京地裁 平成15(ワ)26297 特許権 民事訴訟事件

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◆H16. 3.29 東京地裁 平成15(行ウ)514 特許権 行政訴訟事件

 年金管理会社が期限を入力する際に、月と日を逆に入力して期限内に追納できなかったことが、「責めに期すことのできない」に該当するかが争われました。
裁判所は、「CPA担当者には,本件特許料等の追納期限の徒過について,重大な過失があったものと認められるところ,原告は,本件特許料等の追納事務をその専門家であるパトラフィー担当者及びCPA担当者に委任したのであるから,同委任事務の遂行におけるCPA担当者の上記の過失は原告の過失と同視すべきである。この点,原告は,仮に,CPAの担当者やデータ入力スタッフに過失があったとしても,これを原告の過失と同視できない旨主張するが,同主張は採用できない。したがって,原告は,本件特許料等をその追納期間内に追納しなかったことについて,重大な過失が認められるから,原告には,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があったということはできない」と述べました。

◆H16. 3.29 東京地裁 平成15(行ウ)514 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 3.11 大阪地裁 平成14(ワ)6845 特許権 民事訴訟事件

日本の弁理士Aは、企業Bから米国における特許紛争に関し米国の特許弁護士との連絡調整等の委任を受けました。米国特許弁護士の費用については弁理士Aが立替払いしました。この費用につき、弁理士Aは企業Bにその請求を求めました。裁判所はこれを認めましたが、専門家としての説明責任を果たしているという立証責任が今後問題となるかもしれません。

◆H16. 3.11 大阪地裁 平成14(ワ)6845 特許権 民事訴訟事件

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◆H16. 2.26 東京地裁 平成15(ワ)15702 不正競争 民事訴訟事件

争点の1つが、国内優先権の主張が有効か否かです。
裁判所は、「本件特許明細書記載の第1,第2及び第4実施例について本件発明の技術的事項が記載されていないから本件発明の実施例とは認められず,したがって,優先権主張が認められるかどうかは,第3実施例の要件が先の出願で開示されているかどうかによって決するべきと主張する。しかしながら,本件発明についての優先権主張が認められるかどうかは,先に述べたとおり,本件発明の構成要件(特許請求の範囲に記載されたもの)が,先の出願に添付された明細書又は図面に記載されているかどうかによって判断すべきものであるから,本件特許明細書に記載されている実施例がどのようなものであるかは,優先権主張が認められるかどうかに関係ないことである。なお,仮に,原告らの主張が,本件発明の技術的範囲につき,第3実施例に限定して解釈すべきことをいうものであるとしても,そのように限定して解釈すべき理由は認められない。」として、構\成要件Fが基礎出願でも開示があったと判断しました。

◆H16. 2.26 東京地裁 平成15(ワ)15702 不正競争 民事訴訟事件

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◆H16. 2.27 東京高裁 平成15(ネ)1323 特許権 民事訴訟事件

 専用実施権が全範囲について設定されている場合でも、特許権者による差し止め請求が認められるとの判断がなされました。
 東京高裁は、「原判決は,特許法100条に基づく権利は,特許発明を独占的に実施する権利を全うさせるために認められたものであるから,専用実施権を設定したことにより実施権を有しない特許権者については,その行使を認めることができない,また,その権利の行使を認めるべき実益もない,と判断した。しかし,特許法100条は,明文をもって「特許権者又は専用実施権者は,自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と規定している。しかも,専用実施権を設定した特許権者にも,次のとおり,上記権利を行使する必要が生じ得るのであり,上記権利の行使を認めないとすると,不都合な事態も生じ得る。これらのことからすれば,専用実施権を設定した特許権者も,特許法100条にいう侵害の停止又は予\防を請求する権利を有すると解すべきである。専用実施権を設定した特許権者といえども,その実施料を専用実施権者の売上げを基準として得ている場合には,自ら侵害行為を排除して,専用実施権者の売上げの減少に伴う実施料の減少を防ぐ必要があることは明らかである。特許権者が専用実施権設定契約により侵害行為を排除すべき義務を負っている場合に,特許権者に上記権利の行使をする必要が生じることは当然である。特許権者がそのような義務を負わない場合でも,専用実施権設定契約が特許権存続期間中に何らかに理由により解約される可能性があること,あるいは,専用実施権が放棄される可能\性も全くないわけではないことからすれば,そのときに備えて侵害行為を排除すべき利益がある。そうだとすると,専用実施権を設定した特許権者についても,一般的に自己の財産権を侵害する行為の停止又は予防を求める権利を認める必要性がある,というべきである」と判断しました。

 以下は原審です。

◆ H15. 2. 6 東京地裁 平成13(ワ)21278 特許権 民事訴訟事件
 

◆H16. 2.27 東京高裁 平成15(ネ)1323 特許権 民事訴訟事件

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◆H16. 1.28 東京地裁 平成14(ワ)28097 特許権 民事訴訟事件

 美術館の構築方法(特許3113833号)が対象特許で、かかる特許権の侵害が争点である点が興味深いです。 

     

◆H16. 1.28 東京地裁 平成14(ワ)28097 特許権 民事訴訟事件

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◆H15.10.16 東京地裁 平成14(ワ)1943 不正競争 民事訴訟事件

米国特許権に基づく差止請求権の不存在確認請求に係る訴えが、認められるか否かについて、三村裁判官は、これを肯定しました。「虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」に該当するかどうかの前提として、以下の点について判断されました。
争点は、1)我が国の裁判所に国際裁判管轄は認められるか、2)確認の利益があるのか、3)米国特許権の技術的範囲について、無効事由まで判断できるのかが争われました。

   

◆H15.10.16 東京地裁 平成14(ワ)1943 不正競争 民事訴訟事件

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◆H15.10. 8 東京高裁 平成14(行ケ)539 特許権 行政訴訟事件

 実施例追加型の国内優先権について、あとの出願で追加した発明について優先権が認められるかについて、裁判所は特許庁と同様に、これを否認しました。総論では原告の判断基準を認めましたが、本件ケースでは無理ということのようですね。私の知っている限りで国難優先権についての初の判断です。公報検討してみたいですね。
  裁判所は、「特許法41条2項は,・・・後の出願に係る発明が先の出願の当初明細書等に記載された事項の範囲のものといえるか否かは,単に後の出願の特許請求の範囲の文言と先の出願の当初明細書等に記載された文言とを対比するのではなく,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項と先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項との対比によって決定すべきであるから,後の出願の特許請求の範囲の文言が,先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても,後の出願の明細書の発明の詳細な説明に,先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。・・・そうすると,特許法41条2項の適用については,後の出願に係る発明が先の出願の請求項についての補正として提出されたと仮定した場合に,先の出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正と認められるか否かを判断して決すべきであるという原告の主張は,それ自体としては,首肯するに足りる。」と総論では認めましたが、「本件において,図11実施例発明を加えることは,上記のとおり,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになるから,これを先の出願の請求項の補正として提出する補正が認められず・・・」と述べました。

      

◆H15.10. 8 東京高裁 平成14(行ケ)539 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 5.27 大阪高裁 平成15(ネ)320 特許権 民事訴訟事件

 1つの争点として、制限付きの通常実施権の制限を超えた実施が特許権侵害となるのか、それとも、単なる契約違反なのかが争われました。
  大阪高裁は、制限を本質的なものか付随条件なのかで区別し、前者については、特許権侵害、後者については契約違反と判断しました。前者の例としては、「特許法2条3項が定める生産,使用,譲渡等の実施態様のうち一つ又は複数に制限する場合,特許請求の範囲の複数の請求項のうち一部の実施のみに制限する場合,複数の分野の製品に利用できる特許について分野ごとに制限する場合等が考えられる。」と述べました。

 

◆H15. 5.27 大阪高裁 平成15(ネ)320 特許権 民事訴訟事件

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◆H14.12.17 東京地裁 平成13(ワ)22452 特許権 民事訴訟事件

  特許権者が、差し止めについて仮処分決定を得て,その後当該特許を無効とする審決が確定した場合に、これらに基づく権利行使に過失が認められるかが争われました。
裁判所は、「特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令について,後に当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合においても,他に特段の事情のない限り,債権者において過失があったものと推定するのが相当である。そして,この場合に,過失の推定を覆すに足りる特段の事情の存否を判断するに当たっては,当該特許発明の内容,無効事由及びその根拠となった資料の内容等を総合考慮して検討するのが相当である。・・・本件特許の出願前に先行技術を調査することにより,本件主引用例を始めとする上記各引用例の存在を知り得たものであり,これらの先行技術の存在を知ったならば,そもそも本件発明が特許を受けられないものであると判断することができたはずであり,本件発明が特許査定されて設定登録された後においても,本件仮処分決定を得るまでの間に被告において先行技術を調査するなどしていれば,本件審決が認定したのと同様の無効事由の存在を認識することが可能であったというべきである。これらの点に照らせば,本件特許の出願の経過,すなわち,本件特許の出願に対して審査官がいったん進歩性を欠く旨の拒絶理由を通知したものの,被告がこれに対し意見書を提出すると同時に補正書を提出したところ,新たな拒絶理由の通知もなく,特許査定がされたという経過を考慮しても,被告に,過失の推定を覆すに足りる特段の事情が存在したと認めることはできない。」との判断をしました。

 

◆H14.12.17 東京地裁 平成13(ワ)22452 特許権 民事訴訟事件

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◆H14.11.27 東京高裁 平成14(行ケ)392 特許権 行政訴訟事件

  特許取消決定に対する取消請求事件ですが、めずらしく、”訴えを却下する”というものです。理由は原告適格無しです。事案としては、取消審決がなされた後、特許権の移転登録申請とともに取消訴訟を提起したが、上訴期間内には移転登録手続きが完了しなかったために、原告適格を有しないという判断となりました。法的には正しいのでしょうが、すこし形式的にすぎると感じました。裁判所は、「代理人がついた訴訟事件にもかかわらず、何をやっているのか」と考えたのでしょうか?
  「原告は,・・・取消決定がされた後に特許権の譲渡を受けた譲受人は,その旨の移転登録申請をしていても,特許庁内部の事務処理の結果その登録がされまでの間は,上記取消決定に対する訴えを提起することができない・・・旨主張する。しかしながら,・・・・その取消決定に対する訴えの出訴期間内にその旨の移転登録ができる見込みがない場合には,譲渡人において上記取消決定に対する訴えを提起し,権利を保全する措置を講ずることができるのであり,当事者が上記譲渡契約の締結にあたってそのような権利保全の措置について合意をしておくことに何らの不都合もないから,上記取消決定に対する訴えの原告適格について上記(1)のような解釈をとっても,・・・上記譲受人がその不利益を甘受せざるを得ない結果になるということはないというべきである。 ・・・もっとも,特許法178条3項は,取消決定に対する訴え等は,決定等の謄本の送達があった日から30日を経過した後は提起することができない旨規定しているから,原告適格を有しない者が特許異議申立てに基づく取消決定に対する訴えを提起したとしても,上記出訴期間内にその者が原告適格を備えるに至れば,原告適格を有しない者により提起されたという手続上の瑕疵は治癒され,上記訴えは適法になるものと解される。・・本件特許権の原告への移転の効力が生じたのはその旨の移転登録がされた同年8月16日であるから,本件決定に対する訴えの出訴期間内・・・に原告が原告適格を具備したとは認められず,・・・本件訴えの手続上の瑕疵が治癒されたということはできない。」

 

◆H14.11.27 東京高裁 平成14(行ケ)392 特許権 行政訴訟事件

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◆H14.11.20 東京高裁 平成13(行ケ)134 特許権 行政訴訟事件

 事件の経緯が結構複雑です。平成6年以前の出願について「元出願のクレームと同一でない」として分割が認められず、出願日が繰り下げになり、その後に行った補正が要旨変更として補正却下されたのは違法だと争いました。
  裁判所は、分割要件が平成6年前後で異なるのかについては判断せず、「出願日が繰り下がったのであるから補正却下したのは違法」と審決を審決を取消しました。H6前後の分割要件の変更について裁判所の判断がなされるとおもしろかったのですが・・・

 

◆H14.11.20 東京高裁 平成13(行ケ)134 特許権 行政訴訟事件

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