2010.12.24
平成21(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年12月22日 知的財産高等裁判所
延長拒絶審決が取り消されました。
審決は,「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。また,審決は,「本件特許発明はランソプラゾールの使用を必須とする錠剤についての発明でないのはもちろん、それが「非びらん性胃食道逆流症」という特定の用途に向けられたものでもない。」(8頁5行〜7行)と判断するが,これは,当裁判所の上記判断に反する立場を前提とするものであり,前記1の認定判断と当裁判所の上記判断を前提とする以上,審決の上記判断に基づき本件出願を拒絶すべきものであるとした審決の結論は誤りというべきである。\n
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2010.12.21
平成21(ワ)9793 特許を受ける権利確認請求事件 特許権 民事訴訟平成22年11月29日 東京地方裁判所
職務発明および黙示の譲渡も否定されました。
上記のとおり,乙1の4発明は,本件発明1〜8のすべての構成要件を開示している。そして,本件発明9〜16は,それぞれ本件発明1〜8に対応し,それぞれのねじに対応する形状を備えたドライバビットに関する発明であるから,乙1の4発明が本件発明1〜8を開示していることにより,本件発明9〜16の構\成要件についても開示していると認めるのが相当である。(3) そして,乙1の4発明に関しては,・・・このような甲5発明との対比からすると,本件発明の内容を開示する乙1の4発明は,具体的な設計図や金型のパンチ仕様図が作成されて,製品が特定され,実施が可能な状態となった平成15年3月の時点において,発明として既に完成していたと認めるのが相当である。・・以上によると,乙1の4発明には,本件発明の内容が開示されており,本件発明は,被告が原告に再入社する以前である平成15年3月の段階で,既に発明として完成していたというべきであるから,本件発明は,被告が原告に再入社した後にその職務としてした発明とはいえず,職務発明に該当しないと言わざるをえない。そして,その他,本件発明が職務発明に該当すると認めるに足りる証拠はない。・・・以上のような経緯にかんがみれば,上記(ア)の被告の言動から,原告においては,「CRドライブ」が新たな発明の実施品であって,その発明は原告に帰属すべきものであるとの認識が生じていたとは認められるものの,他方,上記(イ)のとおり,被告においては,原告への再入社前に完成し,再入社後も自ら保有すると認識していた本件発明の特許を受ける権利について,これを原告に譲渡する意思を有していたと認めることはできず,原告,被告の間においては,本件発明がいずれに帰属すべきかについて,認識の差があったものということができる。加えて,原告においても,他のねじの発明(甲5)については,早期に特許出願等の対応を行ったのに対し,本件発明については,平成18年8月27日の時点において,特許出願について何ら言及しなかったこと等からすると,(ア)の認定事実から,同日の時点で,本件発明の特許を受ける権利を被告から原告に譲渡する旨の黙示の譲渡契約が成立していたことを推認することはできないと言わざるをえない。
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2010.12. 7
平成21(行ケ)10381 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月30日 知的財産高等裁判所
無効審判が請求棄却され、審決取消訴訟に継続中に、別途、特許権者が訂正審判を請求して、訂正が確定した場合に、裁判所は訂正後の発明について無効理由を判断できるかが争われました。また、進歩性については無効理由無しとした原審決と同じ判断をしました。
当事者双方は,訂正後の発明に基づいて審判請求に係る無効理由の有無を審理判断することを求めているので,まずその当否について検討する。特許庁がなした無効不成立の審決(したがって無効審決は除かれる。)の取消訴訟係属中に特許請求の範囲の減縮を内容とする訂正審決が確定した場合,訂正後発明との関係で上記無効理由の有無が訂正審決において実質的に特許庁の判断が示されており,かつ当事者双方が訂正後発明との関係で裁判所が無効理由の有無につき審理判断することに異議がないときは,裁判所は,相当と認める限り,訂正後発明につき改めて特許庁の特許無効審判の判断を経る必要があるとして原審決を取り消すことなく,訂正後発明との関係における無効理由の有無を判断することができると解される。そこで,以上の見地に立って本件をみると,本件訴訟は,前記のとおり原告らがなした前記無効理由1ないし3に基づく特許無効審判請求につき特許庁がなした請求不成立を内容とする(原)審決の取消しを求める訴訟である。また,その後なされた訂正審決は,別添審決写し(2)(乙2)記載のとおりであって,その内容は,訂正審判における関係無効審判請求人として原告らから提出された上申書において特許法29条関連で前記引用例1,2を含む多数の証拠が引用されたことから,これらを含めて訂正後の発明の独立特許要件を特許法29条及び29条の2の観点から5人の審判官により詳細に検討したものであって,訂正後の発明につき本件無効審判請求における無効理由2及び3(いずれも特許法29条2項に関するもの)について実質的に特許庁の判断を示したものと認めることができる(原告らは,無効理由1に対する原審決の判断については本訴において取消事由として主張していない。)。そして,訂正後の発明につき審判請求に係る無効理由2,3の有無を当裁判所が審理判断することにつき当事者双方が異議を述べない旨陳述していることは,前記のとおりである。そうすると,上記のような事情が認められる本件にあっては,訂正後の発明について改めて上記無効理由2及び3について判断させるまでもなく,当裁判所が訂正後の発明を前提として無効理由の有無を審理判断することができると認めるのが相当である。そこで,進んで訂正後の発明(訂正発明)を前提として,原告ら主張の無効理由の有無を検討する。
・・・
上記(イ),(ウ)のとおり,甲3,甲4は,いずれも注射針がその役割を果たした後に,中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術であるといえるが,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における,安全のためのものではない。ところで,本件の無効理由2における周知技術に関する原告ら(無効審判請求人)の主張は,「カニューレまたはカテーテルの分野において,カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術は周知であった」(無効審判請求書[甲39]の13頁29〜32行)ことを前提とし,「引用発明1においては,使用後にニードルを中空ハンドルに収納する際に,中空ハンドルを移動させるものであり,ニードルを移動させるものではないが,・・・周知の技術であったから,・・・ニードルハブを中空なハンドルに対して移動させるようにすることは当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない」(甲39の17頁4〜11行)というものである。前記(3)のとおり,甲1発明において,使用後にニードル(針)を中空ハンドル(さや)に収納する際,中空ハンドル(さや)を移動させるのは,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するためである。仮に,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術が周知であったとしても,その目的や意義が甲1と異なる場合には,これをそのまま甲1に適用することが容易であるとはいえないため,原告ら主張の「安全のため」の意味についても,甲1発明の目的に即して理解するのが合理的である。そして,甲3及び甲4は,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における「安全」を目的としたものではないから,審決はこの意味において,原告ら(無効審判請求人)の主張する周知技術は認められないとしたものと解され,審決の同認定に誤りがあるとはいえない。
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2010.12. 6
平成21(ワ)297 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月18日 大阪地方裁判所
特許を受ける権利の移転が認めれるかが争われました。裁判所は承継自体が認められないとしましたが、念のため検討するとして、特許法はそのような手続きを予定していないと判断しました。
原告の被告に対する本件各特1 許権についての移転登録請求は,主張に係る各発明者から,原告あるいは旧デーロスにその特許を受ける権利を承継した事実が認めらず,したがって上記各請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないことは上記1で認定判断したとおりであるが,仮に原告が,本件発明1ないし3について,各発明者から特許を受ける権利を承継した事実が認められたとしても,本件の事実関係のもとでは,その請求をそもそも認める余地はないので,以下において念のためその点について判断を示すこととする。(2) すなわち特許を受ける権利を有する者は,特許法の規定に従って,特許出願をして特許登録を受けることにより,特許権者となることができる。特許を受ける権利は,発明と同時に発生し,発明者に原始的に帰属する。この権利は移転することができるから,特許を受けられるのは,発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)に限られる(特許法29条1項柱書,33条1項)。そして,特許法は,発明者等でない者による特許出願(以下「冒認出願」という。)については拒絶査定すべきこと(同法49条7号),冒認出願に基づいて特許登録がされた場合には特許が無効とされること(特許法123条1項6号)をそれぞれ規定するとともに,発明者等の救済として,冒認出願を先願から除外する規定(29条の2括弧書き,39条6項)及び新規性喪失の例外とする規定(30条2項)を設け,一定の条件の下で発明者等が特許出願することにより特許を受けられる場合があることを規定しているが,これはいずれも冒認出願による特許の無効を前提に,発明者等に別途に特許を受ける方法を残しているにすぎないものである。以上からすると特許法の規定は,冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には,当然には,発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解される。\n
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2010.11.10
平成21(行ウ)540 手続却下処分等取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年10月08日 東京地方裁判所
優先権証明書の提出について争いましたが、認められませんでした。
このように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について,同期間経過後,優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば,優先権証明書提出期間を定め,その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項,4項の規定の趣旨を没却することになるから,本件提出書に係る手続の瑕疵は,優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であり,もはや補正することはできないというべきである。(4)アこの点,原告は,本件提出書に係る手続については,客観的に判断した手続者の合理的意思(優先権証明書の原本を提出すべきところ,誤って「複写」を提出してしまったこと)が明らかであり,不適法な手続であってその補正をすることができないもの(特許法18条の2第1項)には該当しない旨主張する。しかし,原告が本件提出書に添付したのは,OHIMが発行した本件共同体意匠の出願日が記載された認証謄本の一部(表紙を含む2枚分)のみを複写したものとその訳文にすぎず,本件共同体意匠を記載した図面等に相当するものの写し等は添付されていなかったのであるから,本件提出書のその他の記載等を総合しても,直ちに「原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったことが明らか」であると認めることはできない。この点は,原告において,本件出願と同時に行った他の3件の意匠登録出願については,優先権証明書の原本とその訳文を特許庁長官に提出していた(甲9,10)という事情を考慮しても同様である。\n
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◆関連事件です。平成21(行ウ)597
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2010.11. 2
平成8(行ウ)125 特許権 行政訴訟 平成9年03月28日 東京地方裁判所
古い事件ですが、興味深いので挙げておきます。意見書提出期間内に提出された補正書で特許査定がなされ、その結果分割出願が適法でないとされた事件について、裁判所は、意見書提出期限内の特許査定処分は適法と判断しました。
法五〇条は、審査官は、拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定していたが、その趣旨は、審査官が、特許出願に拒絶理由があるとの心証を得た場合に直ちに拒絶査定をすることなく、その理由をあらかじめ特許出願人に通知し、期間を定めて出願人に弁明の機会を与え、審査官が出願人の意見を基に再考慮する機会とし、判断の適正を期することにある。 ところで、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることは、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であって、特許査定をしようとする場合に要求されるものでないことは、法五〇条自体から明白である。したがって、拒絶査定をしようとする場合には、指定した期間の経過を待って、右期間中に提出された意見書、右期間中にされた手続の補正、特許出願の分割を考慮した上で拒絶査定をする必要があるけれども、右期間中に提出された意見書又は右期間中にされた手続の補正を考慮した結果、特許査定をすることができると判断した場合には、無為に指定した期間の経過を待って、その後、さらに、追加の意見書が提出されるか否か、再度の手続補正がされるか否か、特許出願の分割がされるか否かを見極める必要はなく、指定期間の途中であっても特許査定をすることができるものであり、むしろ、そのような取扱いこそが望ましいものということができる。意見書提出の期間として指定された期間は、特許出願人が明細書又は図面について補正することができる期間とされている(法一七条の二第三号、法六四条一項)が、その趣旨は、拒絶理由通知を受け、その拒絶理由のある部分を補正により除去することにより、特許すべき発明が特許を受けることができるようにすることにある。
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2010.09.16
平成22(行ウ)183 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月09日 東京地方裁判所
パリ優先の証明書が、「優先権書類データの交換に基づく優先権書類提出義務の免除」対象であると誤解して提出せず、これによって優先権の効果が認められ無かったことを争いましたが、裁判所は認めませんでした。
原告の主張は,立法論としてはともかく,解釈論としては到底採用することができない。本件において失効した優先権の主張を補正により復活させなかったことが,原告の財産権等の法的利益を侵害するものであるといえないことは明らかである。したがって,法43条2項及び4項に基づき本件補正書に係る手続を却下した本件処分は,憲法29条1項に違反するものとは認められず,原告の主張は理由がない
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2010.09. 1
平成20(ワ)11245 違約金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年08月27日 東京地方裁判所
裁判上の和解における「実施」の定義が争われました。
本件和解は,原告と被告との間に締結されていた本件特許権についての専用実施権設定契約(甲6の1)及び製造委託契約(甲7)等に関して生じた紛争をめぐる訴訟(当庁平成16年(ワ)第3678号,同年(ワ)第7950号,同年(ワ)第2277号,同年(ワ)第70001号,同年(ワ)第70012号,同年(ワ)第70041号,同年(ワ)第70042号事件)において調ったものであるが,第5項は,本件特許権の専用実施権設定に関する第3項の特約条項として設けられたものであることは,前記第2の2(2)の本件和解条項の文言から明らかである。そして,本件和解条項中には,「実施」の用語についての定義規定はないから,その意味は,特許権の専用実施権設定契約における通常の意味で使用されるところに従って解釈するのが当事者の合理的な意思にかなうものというべきである。そうすると,専用実施権については特許法に規定されているのであるから,これに関する契約中の「実施」の文言も,特許法における「実施」の定義,すなわち,同法2条3項の定義するところに従って解釈するのが相当である。そして,本件特許発明のような物の発明については,本件和解成立時(平成17年4月11日)に適用されていた特許法(平成18年法律第55号による改正前の特許法)2条3項1号によれば,「実施」とは,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」と規定されていたのであるから,第5項の「実施」の意味は,上記規定に則して解釈するのが相当である。
(2) この点,原告は,本件和解に至った経緯や本件和解の趣旨,目的に照らし,本件和解条項中の「実施」については,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号の規定する「実施」よりも広いもので,「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」を意味するものと解するのが相当である旨主張する。しかしながら,かかる解釈は,「実施」の概念を大きく拡張するものであるから,このような意味を「実施」に盛り込もうとするのであれば,本件和解条項中にその旨の明示の定義が置かれてしかるべきである(本件和解が当庁において特許事件を専門的に扱う知的財産権部において成立したものであること〔当裁判所に顕著な事実〕を考慮すれば, このことは一層妥当するというべきである。)が,本件和解条項上,そのような措置は何ら講じられていない。また,原告の主張する「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」とは,その外延が甚だ不明確というほかなく,1億円もの高額な違約金の発生がこのように不明確な要件の充足に係っている(本件和解第5項(1),(8)参照)というのも,当事者の予測可能\性を大きく損なうという点において不合理というべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。・・・
(3) 以上のとおり,本件和解条項中の「実施」は,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号所定の「実施」と同義であり,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」を意味するものと解される。そこで,上記解釈を前提として,争点(2)において,被告が本件和解後に本件特許発明を実施したか否かについて検討する。
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2010.06. 8
平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所
均等侵害であるとの中間判決がなされていた事件です。均等侵害についても登録前の実施に対する補償金請求権が認められました。また、補正による再警告は補正が認められる範囲からして不要であるとの判断を示しました。
特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をした後,特許請求の範囲を含めて補正がされた場合,その補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を明瞭にし又は減縮するものに限られ,拡張することは許されないから,補正がされることによって,発明の技術的範囲に属しなかった製品が,技術的範囲に属するようになることは想定できない。したがって,警告後に補正がされることによって第三者に対して不意打ちを与えることはないから,再度の警告を発しないと不意打ちに当たるというような特段の事情(そのような特段の事情を想定することは困難ではあるが)がない限り,補償金請求の前提としての警告をした後,補正がされたからといって,再度の警告をしなければならない理由はないといえる。・・・・被告は,警告が発せられたのは,補正前の特許請求の範囲に基づくものであるから,これに基づく補償金請求には,均等の手法による技術的範囲の解釈は適用されない旨を主張する。しかし,前記のとおり,本件特許の各補正は,特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にする目的の範囲にとどまるものであること,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては,補正後の設定登録を経由した発明の技術的範囲に基づいて判断していることに照らすならば,被告の上記主張は,理由がない(なお,被告製品の具体的態様に照らすならば,本件各補正の内容は,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの争点(均等を前提とした技術的範囲の解釈を含む。)に関係するものではないし,いわゆる侵害論において,このような観点からの当事者の主張もされていない。)。
◆判決本文
◆中間判決はこちらです。
◆原審はこちらです。◆平成19(ワ)28614 平成20年12月09日 東京地裁
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2010.04.28
平成18(ワ)7758等 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成21年01月20日 大阪地方裁判所
販売地域制限違反が争われました。
前記争いのない事実等のとおり,本件製造委託契約書の9項(本件エリア条項)には「快通ハーブ粒の販売に当たり,原告は近畿2府4県,及び石川,三重,徳島の各県においては店舗販売ルートにおけるハーブ粒商品の独占販売を行い,それ以外の地域については,被告ウェーブの製造販売するスリムダイエット粒と,協調販売を行う。被告ウェーブの発売するスリムダイエット粒は原告の上記独占発売地域外において販売活動を行うものとする。なお,原告の取引先に関し,広域販売網を持つ会社との取引については,その出店先が上記条項に抵触しないこと」の条項記載がある。この条項にいう「広域販売網を持つ会社」の「出店先」には「広域販売網を持つ会社」の直営店のほか卸売会社の転売先も含むものかなど,後記のように,被告ウェーブが販売すべき店舗の範囲について疑義が生ずる余地がある曖昧なところもある。しかし,少なくとも,被告ウェーブが本件エリア内の店舗に自ら快通ハーブ粒を販売することを一律に禁止され,本件エリア外においてのみ自社の販売するスリムダイエット粒を販売することが許容されているにすぎないことは,本件エリア条項の文言上は一義的に明確といわざるを得ず,上記文言で示された合意の存在を否定し,これと異なる口頭の合意の存在を認定することは,慎重である必要がある。
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2010.04.28
平成21(ネ)10036 業務委託料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月17日 知的財産高等裁判所
争点の1つが、特許権者の開発の遅れによって実施がきわめて制限された場合にも、、ミニマムロイヤルティの支払い義務があるかでした。
年間ミニマムロイヤルティは,控訴人が「許諾製品」を製造販売したことに対するロイヤルティ(実施許諾料)につき,被控訴人に対する最低限の支払を保証する趣旨のものであるから,契約上明文の規定はないものの,控訴人が「許諾製品」を製造販売することができず,しかも,その原因が被控訴人の研究開発の遅延にあるときは,その支払義務を負わないとする趣旨であったと解することができる。控訴人の上記主張は,そのような趣旨のものと理解することができる。ウ そして原判決(38頁下1行〜40頁17行)認定のとおり,被控訴人が開発した「W−1」は,平成15年2月22日,23日に行われた初期排出ガス試験に不合格となったため,控訴人及び被控訴人の当初の見込みに反し,指定を受けるまでのスケジュールが大幅に遅延することになり,その後,被控訴人が改良した「W−1」は,平成15年10月23日に八都県市の指定を受けたことから,平成15年12月には控訴人がモニター販売を行ったものの,平成16年1月中旬ころには,控訴人は,「W−1」の品質に問題がある,すなわち,冷温時に排気ガスのすすがフィルターにすぐに目詰まりするという欠陥があると考えたため,「W−1」のモニター販売を中止したものと認められる。以上のように,控訴人は,平成15年には,被控訴人が開発した「W−1」について2台モニター販売をしたのみであって,しかも,その主たる原因は,被控訴人の開発が遅れたことにあるものと認められるから,控訴人は,平成15年の年間ミニマムロイヤルティの支払義務を負わないというべきである。
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2010.04.28
平成20(ネ)10086 特許権実施料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所
ライセンス対象が技術的範囲に属しないとしても、要素の錯誤には該当しないと判断されました。
上記の本件実施契約の締結前後の事実経緯に照らすならば,本件実施契約を締結するに当たり,Z装置が本件発明の技術的範囲に含まれると原告が誤信した点は,要素の錯誤に当たると解すべきではなく,また,原告の認識した事実に何らかの点で誤りがあったとしても,それは重大な過失に基づくものというべきであるから,原告は本件実施契約の無効を主張することができない。その理由は,以下のとおりである。すなわち,本件実施契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであり,その対象は,本件特許権(専用実施権)であるから,契約の当事者としては,取引の通念として,契約を締結する際に,契約の内容である特許権がどのようなものであるかを検討することは,必要不可欠であるといえる。すなわち,合理的な事業者としては,「発明の技術的範囲がどの程度広いものであるか」,「当該特許が将来無効とされる可能性がどの程度であるか」,「当該特許権(専用実施権)が,自己の計画する事業において,どの程度有用で貢献するか」等を総合的に検討,考慮することは当然であるといえる。そして,「技術的範囲の広狭」及び「無効の可能\性」については,特許公報,出願手続及び先行技術の状況を調査,検討することが必要になるが,仮に,自ら分析,評価することが困難であったとしても,専門家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは可能であるというべきである。本件では,原告は,被告Kから,専用実施権の設定を受け,その権利に基づいて,第三者に再許諾(通常実施権)をし,また,自ら施設を運営するすることによって,利益を図ることを計画していたのであるから,原告としては,そのような事業目的との関連性において,本件特許権(専用実施権)の価値(発明の技術的範囲等)を分析,評価及び検討をすべきであったというべきである。ところで,本件特許権は,当事者双方が予\測しなかった事情によって,無効とされるに至ったが,本件実施契約では不返還の特約が付されていたため,原告は,無効となったことを理由として,支払った金額の返還を求めることはできなかった。しかし,仮に,本件特許が無効とされる事情が発生しなかったとすれば,本件特許権は,その特許請求の範囲の記載のとおりの技術的範囲及びその均等物に対する専有権を有していたのであり,その専有権は,原告の計画していた事業において,有益であったというべきである。実際にも,原告は,本件実施契約に基づく再許諾権限に基づいて,湯本館に対して,通常実施権を付与したことにより,525万円の契約金の支払を受けていた(乙38,39)。そうすると,技術的範囲についての原告の認識の誤りは,原告の計画していた事業の妨げになったとは到底解することはできず,Z装置が本件発明の技術的範囲又はそれと均等の範囲に含まれていない限り原告において本件実施契約を締結する意思表示をすることがなかったであろうとまで認めることはできない。以上のとおりであって,原告に,本件実施契約の対象たる特許権に係る発明の技術的範囲についての認識の誤りがあったからといって,その点が,本件実施契約についての「要素の錯誤」に該当するということはできない。また,仮に,何らかの誤認があったとしても,それは,このような事業を遂行する過程で契約を締結する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるものであって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。\n
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2010.04.23
平成21(ワ)29534 損害賠償請求 特許権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所
ライセンサーが年金不能により権利が消滅し、ライセンシーが虚偽表\\示を回避するためにした廃棄処分など損害賠償が認められました。
原告は,本件債務不履行により,本件特許権の登録が抹消され,本件特許権が消滅したことから,「PATENT No.3128771」との表示をした本件商品や段ボールケースを譲渡等することが,特許法の禁止する虚偽表\\示(同法188条)に該当するおそれがあると懸念して,別紙1の1記載のとおり,本件商品の在庫分49万3470枚(顧客の返品要求に応じて引き取った2万5500枚を含む。以下同じ。)及び前記特許表示をした段ボールケース140箱について,これらを廃棄することとしたと認められる。したがって,廃棄することとした在庫分等に要した生産費用は,本件債務不履行による原告の損害と認めることができる。そして,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件商品の在庫分49万3470枚の紙代,印刷費,加工費等の製造原価は,約386万6959円,段ボールケース140箱の製造原価は,約1万2460円と認められるから,原告は,本件債務不履行により,少なくとも同額の損害を被ったと認めるのが相当である。また,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,顧客の返品要求に応じて本件商品2万5500枚を引き取った引取運賃1万6000円,廃棄処理を行うため本件商品の在庫分を原告の芳賀工場から宇都宮第二工場まで搬送するために要した運賃6万円は,本件債務不履行により生じた損害と認めることができる。・・・・・・証拠(甲4,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行により,取引先から,本件特許権が消滅したことを理由として,本件特許権の実施品である販売商品(封筒)の販売価格の減額を求められ,販売単価を減額せざるを得なくなったこと,商品1個(封筒1枚)当たりの販売単価の減額幅は,少なくとも平均1円であること,本件特許権の実施許諾料は,本件商品1個(封筒1枚)当たり25銭(本件特許権及び本件商標権についての封筒1枚当たりの許諾料50銭の2分の1)であると認めることができる。また,証拠(甲3)によれば,本件契約の契約期間は,その有効期間が契約成立の日から3年間とされ,別段の意思表\\示がないときは3年間自動的に更新されるもの(本件契約9条)と認められ,本件各証拠を見ても,本件特許の無効や原告の債務不履行等(本件契約10条)により,本件契約が本件特許権の存続期限である平成29年3月7日より前に終了する可能性があることをうかがわせるような事情も見当たらない。これらによれば,原告は,本件債務不履行がなければ,本件特許権の残存期間のうち少なくとも原告が請求の基礎とする7年9か月の間は,本件契約を継続して本件商品の販売を継続することができたと推認することができ,原告は,本件債務不履行により,その間に本件商品の販売を継続することにより得られたであろう利益(本件商品1個(封筒1枚)当たり75銭)を失ったと推認することができる。\n
◆判決本文
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2010.04.22
平成19(ワ)35324 特許権侵害差止請求 特許権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所
プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて、当該製造方法で製造された物に限定されると判断されました。
本件特許の特許請求の範囲の各請求項は,物の発明について,当該物の製造方法が記載されたもの(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)である。ところで,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づき定めなければならない(特許法70条1項)ことから,物の発明について,特許請求の範囲に,当該物の製造方法を記載しなくても物として特定することが可能であるにもかかわらず,あえて物の製造方法が記載されている場合には,当該製造方法の記載を除外して当該特許発明の技術的範囲を解釈することは相当でないと解される。他方で,一定の化学物質等のように,物の構\\成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。⑵ そこで,本件において,前記(1)の「特段の事情」があるか否かについて,検討する。・・・以上述べたように,本件特許の請求項1は,「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」と記載されて物質的に特定されており,物の特定のために製造方法を記載する必要がないにもかかわらず,あえて製造方法の記載がされていること,そのような特許請求の範囲の記載となるに至った出願の経緯(特に,出願当初の特許請求の範囲には,製造方法の記載がない物と,製造方法の記載がある物の双方に係る請求項が含まれていたが,製造方法の記載がない請求項について進歩性がないとして拒絶査定を受けたことにより,製造方法の記載がない請求項をすべて削除し,その結果,特許査定を受けるに至っていること。)からすれば,本件特許においては,特許発明の技術的範囲が,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定されないとする特段の事情があるとは認められない(むしろ,特許発明の技術的範囲を当該製造方法によって製造された物に限定すべき積極的な事情があるということができる。)。したがって,本件発明1の技術的範囲は,本件特許の請求項1に記載された製造方法によって製造された物に限定して解釈すべきであるから,次のとおりと解される。
◆判決本文
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2010.04.21
平成21(行ウ)517 特許料納付書却下処分取消請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年03月24日 東京地方裁判所
管理を委託していた年金管理会社が年金を納付しなかったことについて、その責めに帰することができない理由に該当するのかが争われました。裁判所は、「天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当」と判断しました。
「原告は,特許の申請その他特許権維持に関する諸手続を外部の専門機関に委託することを強制されている現状があり,外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることから,外部の専門機関の選択,当該専門機関の業務に対する監督について,特許権者に落ち度がある場合に限って,特許権者も責任を問われるべきであると主張する。しかしながら,前記( )で1 述べたとおり,特許権の維持管理をどのようなに行うかは,特許権者が自ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて本人である特許権者の自由な意思と判断にゆだねられているものである。また,特許料の納付手続を外部の機関に委託するという方法が,法令上義務付けられているものでないことは明らかであり,事実上,これが強制されていると認めるに足る証拠も皆無である。したがって,外部の専門機関への委託を強制されているとか外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることを前提とする原告の前記主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。
◆判決本文
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