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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

平成28(行ケ)10185  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月23日  知的財産高等裁判所(3部)

 特許庁では、無効審判について利害関係なしとして審決却下されました。知財高裁はこれを取り消しました。
(1) 原告は,特許権取得のための支援活動等を行う個人事業主であり,自らも 特許技術製品の開発等を行っている。
(2) 特許願(甲54)の請求項に記載されている発明(原告発明)は,自分(原 告)の発明である。
(3) 原告発明に係るおむつの開発に着手した理由は,日頃から医療分野に興味 を持っていたこと,特に子供の頃から●●(省略)●●ことや,●●(省略) ●●,排せつの問題に関する知識があったこと,さらには,災害の発生,外 国人の需要などにより,商品開発をして市場に提供するチャンスがあると考 えたことによる。
(4) 原告発明は,紙おむつの外層シートに新たな構造を付加することを特徴と\nするものであり,弾性構造のない部分を有し,かつ,(テープ型でなく)パ\nンツ型のおむつが最も適する。
(5) 原告としては,自ら発明を実施する能力がないので,ライセンスや他の業\n者に委託して製造してもらうことなどを考えており,製品化の準備として, 市販品のおむつ(被告製品など)に手を加えて試作品(サンプル)を製作し ていた。
(6) 実際に上記試作品をおむつの製造業者等に持ち込んだことはまだないが, インターネット上で特許発明の実施の仲介を行う業者や不織布を取り扱う業 者に対し,原告発明の実施の可能性について尋ねたことはある。
(7) その際,原告としては,原告発明を製品化する場合,被告の本件特許に抵 触する可能性があると考えていたので,率直にその旨を上記の業者らに伝え\nたところ,いずれも,その問題(特許権侵害の可能性)をクリアしてからで\nないと,依頼を受けたり,検討したりすることはできないといわれ,それ以 上話が進められなかった。
(8) 原告としては,設計変更等による回避も考えたが,原告発明を最も生かせ る構造(実施例)は,被告の本件特許発明の技術的範囲にあると思われたた\nめ,原告発明を実施する(事業化する)には,本件特許に抵触する可能性を\n解消する必要性があると判断し,また,専門家から本件特許に無効理由があ るとの意見をもらったことから,本件無効審判請求を行った。
3 検討
以上のとおり,原告は,単なる思い付きで本件無効審判請求を行っているわ けではなく,現実に本件特許発明と同じ技術分野に属する原告発明について特 許出願を行い,かつ,後に出願審査の請求をも行っているところ,原告として は,将来的にライセンスや製造委託による原告発明の実施(事業化)を考えて おり,そのためには,あらかじめ被告の本件特許に抵触する可能性(特許権侵\n害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて,本件無効審判請求を\n害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて,本件無効審判請求を行っ\nたというのであり,その動機や経緯について,あえて虚偽の主張や陳述を行っ ていることを疑わせるに足りる証拠や事情は存しない。 以上によれば,原告は,製造委託等の方法により,原告発明の実施を計画し ているものであって,その事業化に向けて特許出願(出願審査の請求を含む。) をしたり,試作品(サンプル)を製作したり,インターネットを通じて業者と 接触をするなど計画の実現に向けた行為を行っているものであると認められる ところ,原告発明の実施に当たって本件特許との抵触があり得るというのであ るから,本件特許の無効を求めることについて十分な利害関係を有するものと\nいうべきである。

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平成28(ネ)10098  不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 実施契約は取締役会の決議無しとして無効と判断されました。なお、原審はアップされていません。
 当裁判所も,原審と同様に,本件各契約は,これを締結するに当たって被 控訴人において必要とされる取締役会の決議を経ておらず,控訴人はそのこと について知り得べきであったものといえるから,本件各契約はいずれも無効で あり,控訴人の被控訴人に対する反訴請求はいずれも理由がないものと判断す る。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第 4の1ないし3(原判決20頁7行目冒頭から36頁22行目末尾まで)に記 載のとおりであるから,これを引用する。

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平成27(ワ)556等  特許権侵害差止請求権不存在確認等請求本訴事件,特許権侵害差止等請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月27日  東京地方裁判所(29民)

 不存在確認訴訟した原告敗訴の案件です。その中で、共有者の実施かどうかが争われました。
 特許法73条2項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,契約で別段の 定をした場合を除き,他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすること ができる。」と規定している。これは,特許発明のような無体財産は占有を伴うも のではないから,共有者の一人による実施が他の共有者の実施を妨げることになら ず,共有者が実施し得る範囲を持分に応じて量的に調整する必要がないことに基づ くものである。もっとも,このような無体財産としての特許発明の性質は,その実 施について,各共有者が互いに経済的競争関係にあることをも意味する。すなわち, 共有に係る特許権の各共有者の持分の財産的価値は,他の共有者の有する経済力や 技術力の影響を受けるものであるから,共有者間の利害関係の調整が必要となる。 そこで,同条1項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同 意を得なければ,その持分を譲渡し,又はその持分を目的として質権を設定するこ とができない。」と規定し,同条3項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者 は,他の共有者の同意を得なければ,その特許権について専用実施権を設定し,又 は他人に通常実施権を許諾することができない。」と規定しているのである。 このような特許法の規定の趣旨に鑑みると,共有に係る特許権の共有者が自ら特 許発明の実施をしているか否かは,実施行為を形式的,物理的に担っている者が誰 かではなく,当該実施行為の法的な帰属主体が誰であるかを規範的に判断すべきも のといえる。そして,実施行為の法的な帰属主体であるというためには,通常,当 該実施行為を自己の名義及び計算により行っていることが必要であるというべきで ある。
・・・・
上記(イ)の事実関係によれば,補助参加人は,ヤマト商工第2工場の責任者 として,水産加工機械の開発,製造に携わっていたが,同製造に要する原材料は, ヤマト商工の名義及び計算により仕入れられていたこと,補助参加人は,ヤマト商 工から固定額の金銭を受領しており,水産加工機械の販売実績によってヤマト商工 の補助参加人に対する支払額が左右されるものでないこと,顧客に対しても,水産 加工機械の販売に伴う責任等を負う主体としてヤマト商工の名が表示されていたこ\nとなどが認められ,また,本件製品との関係では,七宝商事がヤマト商工に支払っ たのは,ヤマト商工の請求に係る「BK−2フグスライサー」(すなわち,本件製 品)の代金310万円(税別)であって,ヤマト商工が同金員の全てを受領してい ること,七宝商事が補助参加人に支払ったのは,補助参加人の請求に係る「エフビ ックライサー BK−2 管理費」(すなわち,本件製品のメンテナンス料)40 万円(税別)であって,補助参加人が同金員の全てを受領していることが認められ るから,本件製品の製造販売は,ヤマト商工の名義及び計算により行われたもので あり,補助参加人の名義及び計算で行われていたものがあるとすれば,それは,本 件製品のメンテナンスにとどまり,本件製品の製造販売ではないというべきである。
 b この点,原告は,本件製品は補助参加人が自ら製造販売したものであるとし て縷々主張するが,既に説示したとおり,補助参加人が形式的,物理的に製造販売 に関与したか否かが問題なのではなく,いかなる立場で関与したか,すなわち,ヤ マト商工の名義及び計算において行われる製造販売にヤマト商工の手足として関与 したのか,補助参加人の名義及び計算において行われる製造販売を自ら行ったかが 問題なのであって,原告の上記主張は,的を射ないものである。 原告は,被告の別件地裁訴訟での主張についても縷々指摘するが,同訴訟での被 告の主張がいかなるものであったかによって,本件製品の製造販売をめぐる事実関 係が左右される性質のものでないことは明らかである。また,当該主張は,補助参 加人の行為(なお,同訴訟では本件製品は対象とされておらず,同製品に関する行 為を直接問題にしたものとはいえない。)が本件専売契約に違反することを指摘す るためにされたものであることは明らかであり,その言葉尻をとらえて被告が本件 各発明の実施行為としての本件製品の製造販売の主体が補助参加人であることを認 めたなどと評価することは,不相当である。

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平成28(ワ)2818  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月27日  大阪地方裁判所(21民)

 特許の技術的範囲に属することは争いがありませんでした。複数の被告のうち、日本アシストの製造行為についての差止のみ認められました。その他の差止・損害賠償は認められませんでした。
 (1) ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便 座βを2台製造したことは当事者間に争いがない。 しかし,被告らが同便座をそれ以外に製造した事実は認められず,また上記第2 の1(4)の展示会等で展示したものの,これをそのまま直ちに市販することを計画 したり,これにつき介護機器の認定のための手続を進めたりしている事実をうかが わせる証拠はない。 加えて被告らは,本件において,ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属す ることを認め,今後製造しない旨を原告に対して表明しているくらいであるから,\n以上のような事実関係のもとでは,被告らが,今後,本件ロボット便座βを製造, 使用,販売,又は販売の申出をするなどするおそれを認めることは困難といわなけ\nればならない。
(2) ただ被告日本アシストは,ロボット便座βの開発のために厚生労働省障害者 自立支援機器等開発促進事業の費用助成を受けた関係で,助成対象となったロボッ ト便座βの保存義務を課せられ(弁論の全趣旨),現に上記製造済み2台のロボット 便座βを保管していたが,証拠(乙5,乙6)によれば,それにもかかわらず,本件 訴訟係属中に,保存していた上記製造済み2台のロボット便座βにつき,うち1台 については回動駆動部並びにこれを駆動させるのに必要なモータ及び配線等を取り 外し,もう1台についても,回動駆動部を取り外してしまって,いずれももはやロ ボット便座βとはいえない状態にしていることが認められる。 被告日本アシストは,このように製造済みのロボット便座βを本件発明の技術的 範囲に属しない状態にすることにより,展示等のおそれもないことをいわんとして いるように考えられるが,上記状態では上記公法上の保存義務を果たしているとい えないことは明らかであるから,むしろ,このことにより被告日本アシストには, 関係官庁から保存義務を果たしていることの確認を求められた場合に,上記状態の ロボット便座βに取り外した部品を取り付けるなどして製品として完成させるおそ れが生じているものといわなければならず,被告日本アシストが部品を取り外した 状態のロボット便座βの部品を廃棄せずに所持していることも,そのような事態に 備えていることを裏付けているといわなければならない。 そして,被告日本アシストが,上記保存義務を果たしていることをいうためにロ ボット便座β2台を再度完成させた場合,それは,その事業のためにするものとな るから,部品取り外し済みのロボット便座β2台を再度完成させるという限度で, 被告日本アシストには,ロボット便座βを業として生産するおそれがあるといわな ければならない。
(3) したがって,原告の被告らに対するロボット便座βの製造販売等の差止請求 は,被告日本アシストに対する関係で製造の差止めを求める限度で理由があるとい うことになるが,上記(1)に説示したところによれば,同被告の関係では,これより 進んで完成したロボット便座βを使用,販売,又は販売の申出をするおそれは認め\nられない。また,上記保存義務を課せられない被告P1の関係では,上記(1)に説示 したとおり,同人に対する製造販売等の差止請求には理由がない。
(4) 以上に加え,被告日本アシストに対する関係では廃棄請求も問題となるが, 原告が被告日本アシストに求める廃棄請求の対象は,別紙物件目録で構成が特定さ\nれるロボット便座βであるところ,当該ロボット便座βは,上述のとおり本件発明 の構成要件を充足する要件となる部品が取り外されてしまっているというものであ\nる。 そうすると,これがロボット便座βに製造され得るものであったとしても,被告 日本アシストは,現在,廃棄請求の対象として特定されたロボット便座βを所有し ているということはできないことになる。 したがって,原告の被告日本アシストに対するロボット便座βの製造差止請求に は理由があるといえるものの,廃棄請求の対象となるロボット便座βを現在所有し ているわけではないことから,ロボット便座βの廃棄請求は理由がないといわなけ ればならない。
2 争点3について
原告は,被告らが,上記第2の2(3)のとおり,ロボット便座βを展示した行為を 捉え,これが特許法2条3項1号の「譲渡等のための展示」に当たるとして,これ による本件特許権の侵害行為を理由に被告P1に対して損害賠償請求をしている (ロボット便座βが本件特許の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便座β を2台製造したことは当事者間に争いがないが,その製造の時期は,本件特許が登 録される前であるから当該製造行為は本件特許権侵害を構成しない。)。\nしかしながら,原告が損害と主張するところは,被告P1が原告との本件発明の 実施品である2013年型キレット試作品に関する製造委託契約に基づき原告から 支払を受けた金額から実施品製造に要した原価を控除した1322万7600円が 損害額と推定するものであるが,その推定する根拠は明らかではなく,およそ当該 支払がロボット便座βの展示行為と因果関係にある損害と認めることはできない。 そのほか,被告らによる展示が,「譲渡のための展示」であるとしても,被告ら がこれにより利益を得た事実は認められず,また原告の営業に影響を及ぼした事実 も認められない以上,原告において損害発生について的確な主張立証をなさない本 件において,そもそも原告に損害があったものと認定することはできない。 したがって,争点1の被告らによる本件特許権侵害行為,すなわちロボット便座 βの展示が「譲渡のための展示」に該当するかどうかを判断するまでもなく,原告 の被告P1に対する損害賠償請求には理由がない。

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平成28(ワ)298等  特許権侵害差止等請求事件,債務不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月20日  大阪地方裁判所(21民)

 特許権侵害事件で、新規性喪失の例外主張における証明書では提出されていなかった証拠がある(関連したものでない)として、無効(特104-3)と判断されました。商品形態模倣(不競法2条1項3号)も否定されました。よって、取引先への告知は、営業誹謗行為(不競法2条1項15号)が成立すると判断されました。
 1 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 証拠(乙2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の実施品で ある原告製品は,本件発明の原出願である実用新案の出願日(平成26年11月2 6日)より前である同年9月22日以前に,Q2コープ連合に対して納品され,ま たQ2コープ連合においてそのチラシに掲載されて販売され,さらに同年10月1 0日には,被告において市場で取得された事実が認められるから,本件発明は,出 願前に日本国内において公然実施された (特許法29条1項2号)というべきこと になる。
(2) 上記(1)の事由は,本件特許を特許無効審判により無効とすべき事由となるが, 原告は,本件発明の原出願において原告が行った手続により,特許法30条2項に 定める新規性喪失の例外が認められる旨主張する。 そこで検討するに,特許法30条2項による新規性喪失の例外が認められるため には,同条3項により定める,同法29条1項各号のいずれかに該当するに至った 発明が,同法30条2項の規定を受けることができる発明であることを証明する書 面(以下「証明書」という。)を提出する必要があるところ,証拠(甲3)によれば, 原告は,本件発明の原出願(実願2014−6265,出願日:同年11月26日) の手続において,同年12月2日,実用新案法11条,特許法30条2項に定める 新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出した事実が認められる(特許 法46条の2,44条4項の規定により,特許出願と同時に提出されたものとみな される。)。 しかし,同証明書は,公開の事実として,平成26年6月2日,原告を公開者, Q1生活協同組合を販売した場所とし,原告が一般消費者にQ1生活協同組合のチ ラシ記載の「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(商品名:「ドラム式洗濯機の毛ゴ ミフィルター」)を販売した事実を記載しているだけであって,上記Q2コープ連合 における販売の事実については記載されていないものである。 この点,原告は,上記Q2コープ連合における販売につき,実質的に同一の原告 製品についての,日本生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の 販売行為であるから,新規性喪失の例外規定の適用を受けるために手続を行った販 売行為と実質的に同一の範疇にある密接に関連するものであり,原告が提出した上 記証明書により要件を満たし,特許法30条2項の適用を受ける旨主張する。 しかし,同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであ ることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような 場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手 続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連す る公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項 の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件 についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活 協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法 人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り 扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活 協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一 の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはでき ず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての 証明書に記載されたものとみることはできないことになる。
・・・・
上記検討した両製品において同一といえる形態的特徴のうち,本体部の形態 が長方形であるという点は,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる商 品である原告製品及び被告製品にとっては,リントフィルタの内面に沿って装着す るために必然的にもたらされる形態であるといえ,したがってこれは,その機能を\n確保するために不可欠なことであると認められる。また,もう一つの同一といえる 形態的特徴である本体部にスリットが存在するという点も,本件発明の効果をもた らすことに直接関係した形態であることからすると(上記第2の2(2)(10)),これも 両製品に共通する機能を確保するために不可欠な形態であるといえる。\nしたがって,これらの基本的形態で両製品の形態の同一性が認められたとしても, これによって両製品の形態が実質的に同一ということはできないというべきである (なお被告は,これらの形態の特徴をとらえて原告製品はありふた形態であって保 護されないと主張するが,原告製品が市販される以前に,同種の製品が市場に存し た事実は認められないから,商品の形態がありふれていることで保護されないわけ ではなく,機能確保に不可欠な形態として保護の限界が検討されるべきである。)。\n他方,上記検討したとおり,原告製品と被告製品は,機能確保のため必要とされ\nる形態的特徴以外の部分の細部における特徴的な形態というべき部分において形態 の差異が多数あるというのであるから,両製品の形態が酷似しているとはおよそい えず,結局,原告製品と被告製品は形態が実質的に同一であるとはいえないという べきである。
(5) これに対して原告は,両製品は主として通信販売されており,需要者が商品 を手に取って詳細に観察することがなければ両者の違いを認識し得ないから,両製 品の形態の差異は微細な差異で形態が実質的に同一であるということを妨げないよ うに主張するが,不正競争防止法2条4項に「商品の形態」は「需要者が通常の用 法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の 形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と定義されてい ることに明らかなように,本件で問題とすべき原告製品及び被告製品の形態とは, 上記検討したような包装袋から取り出された商品そのものの形態であって,これと 異なる前提に立つ原告の主張は失当である。 さらに,原告は,両製品の包装におけるチラシが共通することも指摘するが,原 告製品及び被告製品は,包装と一体となって切り離し得ないものではないから,原 告が指摘する包装のチラシは「商品の形態」とはいえず,原告の指摘は当たらない。
(6) 以上からすると,原告製品と被告製品とは,その形態が実質的に同一とはい えないから,被告製品は原告製品を模倣した商品とはいえず,被告が不正競争防止 法2条1項3号の不正競争をしたことを前提とする原告の請求はその余の判断に及 ぶまでもなく理由がない。
・・・・
(1) 原告は,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP1に対し,被告製 品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止 法2条1項3号に該当するとして,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める内容を 記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付している(本件告知行為)。\n上記2のとおり,被告製品は原告製品の模倣商品でないから,上記「申入書」の\n記載内容は虚偽の事実であるとともに,被告の営業上の信用を害する事実であると いうべきである。そして,原告と被告は競争関係にあるから,本件告知行為は,「競 争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,不 正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) そのほか被告は,原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争 行為として,原告が生活協同組合に対して被告の権利侵害の事実を理由として被告 製品の取扱いをすべきでない旨申し入れた旨主張する。\n確かに証拠(乙14の1ないし3,乙15,乙30)によれば,被告は,P2か ら被告製品の販売を中止された事実,及び,P2が被告に対し,被告製品の販売を 中止する理由として,原告の営業担当者から被告製品の販売企画を中止した方がよ いとの要望を受けたという生活協同組合のバイヤーから,そのことを理由に被告製 品の差替えの要望を受けたことを挙げていたことが認められる。 したがって,これらの事実によれば,P2における被告製品の販売中止が,原告 の営業担当の従業員がもたらした行為に起因することが認められそうであるが,前 掲証拠によれば,原告の営業担当者が生活協同組合のバイヤーに伝えた内容という のは「企画を中止した方が良い的な要望」というにとどまるというのであって,そ れだけでは原告が被告の権利を侵害したといった虚偽の事実が告知されたと認める に足りないものである。また,そもそも原告の営業担当の従業員が何らかの接触を したという生活協同組合のバイヤーは,どの生活協同組合であるかを含めて特定さ れておらず,その生活協同組合のバイヤーが実際に原告の営業担当の従業員から直 接働きかけを受けたのかを確かめようがないものである。これらのことからすれば, 原告の営業担当者の行為に起因してP2が被告製品の販売を中止したとしても,そ れをもって原告の不正競争行為を認定することは困難であるといわなければならな い。
(3) したがって,被告主張に係る原告がした不正競争防止法2条1項15号該当 の不正競争については,原告が,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP 1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行 為は不正競争防止法2条1項3号に該当する旨記載した「申入書」と題する書面を\n内容証明郵便で送付した事実の限度で認めるのが相当であって,それ以外の生活協 同組合に対する関係では同号の不正競争のみならず不法行為を構成する事実は認め\nられない。

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平成28(ワ)19633  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 平成29年3月29日  東京地方裁判所

 ”結ばない靴ひも”に関する特許について、共有特許の特約があるので、自由実施できないと主張しましたが、そのような特約はないと判断されました。問題の特許はこれです。

◆特許第5079926号

◆被告の製品はおそらくこれ
 (1) 原告は,原告,被告,B及びCの4者間において,本件発明の実施は本件 販売形態のみによる旨合意していた(本件実施合意)と主張する。 しかし,本件特許の出願に際して作成された本件契約書には,本件発明の 実施につき,原告,被告,B及びCの4者間で協議の上「別途定める」との 記載があるものの(本件契約書第7条),これ以外に何らの記載はなく,ま た,「別途定める」に該当するような,本件販売形態を唯一の実施形態とす る旨の合意がされたことを裏付ける契約書,合意書その他の書面は本件証拠 上存在しない。 この点に関して原告は,本件販売形態を唯一の実施形態とする旨の記載が 一応ある「特許発明の実施についての確認書」と題する書面(甲7の1)を 提出する。しかし,そもそも同書面には原告,B及びCの署名指印しかなく, 被告はこれに記名押印をしていないし,同書面の作成日自体,本件特許の出 願日(平成24年7月4日)から4年近くも後の平成28年4月26日であ って,出願日当時の合意の存在を直接裏付けるものですらない。 そもそも,原告の主張自体も,本件実施合意を,いつ,どこで,どのよう に取り決めたのかなどにつき具体的に特定しているものではない。また,原 告は,本件実施合意があったことを立証するものとして原告作成の陳述書 (甲19,22)及び被告の元従業員であるE(以下「E」という。)作成 の事情説明書(甲18,21)を提出するが,客観的裏付けを欠くことに変 わりはない上,このうちE作成の事情説明書については,「・・・という仕 組みでビジネスがされていたと考えます」(甲18・4頁),「当然,その ような役割分担で動いていたものと理解しています」(甲21・3頁)など という,単なるE自身の推測を述べるものでしかない。 そうすると,原告,被告,B及びCの4者間において,仮に本件販売形態 がかつて存在していたとしても,これをもって本件発明の唯一の実施形態と する旨の合意がされていたと認めることはできない。
(2) したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求のうち 本件実施合意の債務不履行に基づく損害賠償請求は,理由がない。
2 争点(2)(特許法73条2項の適用の可否)について
原告は被告による被告各商品の製造・販売が本件特許権を侵害する旨主張す るが,そもそも被告は本件特許権の共有者であり(前記第2,2(2)),共有 者であれば,契約で「別段の定」(特許法73条2項)をした場合を除き,他 の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるから,被告 は,原則として,本件発明を実施することができるというべきである。 この点につき原告は,「別段の定」として,本件販売形態を唯一の実施形態 とする旨の本件実施合意があったと主張するが,上記1(1)のとおり,そのよ うな合意があったとは認められない。そして,原告が他に「別段の定」の存在 を主張立証していない以上,本件特許権については「別段の定」は存在せず, 被告は,原則どおり,原告その他の共有者の同意を得ないで被告各商品を製造 ・販売することができると認めるのが相当である。

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平成28(行コ)10002  手続却下処分取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国際出願に関して国内移行期間経過後に提出した翻訳文の却下処分について、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があった、とは認められませんでした。
 ア 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,外国語特許出願は 国際出願日にされた特許出願とはみなされないのであるから,国際特許出願の対象 となる国及び広域の移行期限を確認することは,当該国際特許出願を行う出願人に 当然に求められるというべきであるところ,控訴人は,現地事務所は,移行期限を 徒過しないよう十分な体制を構\築していたと主張する。
イ 前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)ウ) 本件出願の処理に当 たり,現地事務所では,補助者であるA氏が,依頼人が移行手続を指示した国及び 広域について,締切リスト(甲14)及びWIPOの期限表(甲13)を用いて,\n移行期限が30か月であるかあるいは31か月であるかを確認した上で,移行期限 が30か月である国について指示書を作成したものである。 しかし,前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)カ),締切リストには, 対象となる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区 別して記載されていない。また,前記認定のとおり(引用に係る カ),WIPOの期限表は,アルファベット順に行ごとに国名ないし広域名が記載\nされ,その国名等の右側の離れた位置に移行期限が「30」あるいは「31」など の数字で記載されているものであるから,同期限表を目視するときは「30」ない\nし「31」という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように見える\nものである。 そうすると,本件出願の処理に当たり,補助者であるA氏が,締切リスト及びW IPOの期限表を用いて移行期限を確認するだけでは,同人が特許管理業務に豊富\nな経験を有していたことを考慮しても,移行期限を看過するという人的ミスが生じ 得ることは当然に想定されるものであったというべきである。
ウ そして,前記認定(引用に係る3の1(2)キ)によれば、現地事務所 において,管理者は,補助者が起案した指示書が適切に作成されているか否かにつ いて,本件システム上のリストを用いてチェックしたことは認められるものの,そ れがどのような内容のリストであるか,また,いかなる事項についてチェックした ものかについては明らかではない。これを,管理者が,締切リストを用いて移行期 限をチェックしたものと解したとしても,前記のとおり,締切リストには,対象と なる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区別して 記載されておらず,C氏作成に係る陳述書(甲50)によっても,本件において, 管理者が移行期限について,締切リストのほかに,どのような資料を用いて確認し たかについては明らかではないから,管理者が,移行指示を受けた国及び広域の移 行期限を確認したものということはできない。なお,同陳述書において,管理者は 「専門的データベース」を用いて指示書等を確認した旨記載があるものの,「専門 的データベース」の具体的内容は明らかではなく,これが移行期限を確認するに当 たり,有用なものであると認めるに足りる証拠はない。 また,平成25年3月12日付けメール(甲34)によれば,B氏が,イスラエ ル,米国,カナダについて指示書の書状及び付属書類の確認をしたことは認められ るものの,その際,B氏が,各国の移行期限の確認作業を行ったとまでは認められ ない。C氏作成に係る宣誓書(甲9の1)及び陳述書(甲12)によっても,管理 者による確認作業が,いかなる事項を対象に,どのような資料をもとに行われたか については明らかではない。その他,本件において,管理者が移行期限の確認作業 を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件出願の処理に当たり,現地事務所が,管理者をして,移行指示 を受けた国及び広域の移行期限の再確認作業を行ったとの事実を認めることはでき ない。また,現地事務所において管理者が移行期限の確認作業を行う体制が構築さ\nれていたとの事実も認められない。
エ このように,本件出願の処理において,移行期限を看過するという補助者に よる人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるところ,管理者などが,移行期限 の再確認作業を行ったとの事実も,現地事務所において移行期限の再確認作業を行 う体制が構築されていたとの事実も認められない。よって,現地事務所が,本件出\n願の処理に当たり,移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたというこ とはできない。

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平成28(行ケ)10088  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月8日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(3部)は、第1次判決の拘束力が及ばない、新規事項であるとした審決は妥当と判断しました。
 事情が複雑です。本件特許出願について、第1次審決で補正要件違反(新規事項)と判断され、知財高裁にて、それが取り消されました(第1次判決 平成26年(行ケ)第10242号)。審理が再開されましたが、審判官は、再度補正要件違反(新規事項)として判断しました。理由は、現出願である実案出願に開示がなかった技術的事項を導入しているというものです。
 以上を前提に,本件実用新案登録の当初明細書等と本願明細書等の記載事 項を比較すると,次のとおり,本願明細書等には,本件実用新案登録の当初 明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係に おいて,明らかに新たな技術的事項を導入するものというべき記載が認めら れる。
ア 本願明細書等の請求項1の(3)ないし(15)に関する事項 本願明細書等に記載がある,シュレッダー補助器について,材質がプラ スチック製であること(請求項1の(3)及び(9)),色が透明である こと(同(11)),横幅が約35cmであること(同(8))の各事項 について,本件実用新案登録の当初明細書等には明示の記載がなく,また, 本件実用新案登録の出願時において,これらの記載事項が技術常識であっ たとも認められない。 また,シュレッダー補助器に埋め込まれた金属製爪部分及びこれに関す る記載事項(同(4)ないし(7),(10),(12)ないし(15)) については,本件実用新案登録の当初明細書等において,そのような爪部 分の存在自体が明らかでない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
イ 本願明細書等の図1及び図2並びに段落【0010】の図1及び図2に 関する事項
本願明細書等の図1(シュレッダー補助器の横断面図)及び図2(シュ レッダー補助器の正面図)並びに段落【0010】の図1及び図2に関す る寸法については,本件実用新案登録の当初明細書等には記載も示唆も一 切認められない。これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全 ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明 らかに新たな技術的事項を導入するものというべきである。 ウ 本願明細書等の段落【0010】の図3及び図4に関する事項 本願明細書等の段落【0010】には,図3の寸法に関し,「(ム)シ ュレッダー補助器の下部外幅は6mm,」と記載され,「(ヤ)シュレッダ ー補助器が挿入し易いよう,傾斜角を,シュレッダー機本体の水平面から 測って85度とし,」と記載されている。しかしながら,本件実用新案登録 の当初明細書等の対応する図1においては,シュレッダー補助器の下部外 幅は5mmと異なる数値が記載されており,また,傾斜角については記載 も示唆も認められない。 また,本願明細書等の段落【0010】には,図4の寸法に関し,「( ヨ)シュレッダー補助器の横幅約35cm,」と記載されている。しかし ながら,本件実用新案登録の当初明細書等には,この点についての記載も 示唆も認められない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
(5) 以上のとおりであるから,本願明細書等に記載した事項は,本件実用新案 登録の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。 したがって,本願について出願時遡及を認めることはできないから,本願 は,平成18年8月24日(本件実用新案登録に係る実用新案登録出願の時) に出願したものとみなすことはできないとした本件審決の判断に誤りはなく, 本願出願の時は,本願出願の現実の出願日である平成20年10月10日と なる。
(6) これに対し,原告は,本件実用新案登録は,出願時と同一のものであると 認められたからこそ,登録になったのであり,原告は,本願において,その 登録になったものと同一のものを,そのまま(変更せずに)特許出願したに すぎないから,出願時遡及を認めないのは誤りであると主張する。 しかしながら,実用新案登録制度は,考案の早期権利保護を図るため実体 審査を行わずに実用新案権の設定の登録を行うものであるため,補正により 新規事項が追加され,無効理由を胚胎した出願であっても,実用新案権の設 定の登録はされ得る。そして,このような新規事項が追加されて実用新案登 録になった明細書等と同一のものに基づいて特許出願をした場合,特許出願 の当初明細書等も実用新案登録出願の当初明細書等に対して新規事項が追加 されたものになるから,その後の補正により新規事項が解消されない限り, 出願時遡及は認められないことになる。すなわち,実用新案権の設定の登録 は,登録時の明細書等が実用新案登録出願の当初明細書等と同一でなくとも され得るから,実用新案登録になった明細書等と同一のものをそのまま用い て特許出願をしたとしても出願時遡及が直ちに認められるものではない。し たがって,上記原告の主張はその前提を欠くものであって失当である。
また,原告は,本件実用新案登録の出願後,登録になるまでに何度も手続 補正をしているが,それは,いずれも被告側の指示(手続補正指令書)に従 って手続補正書を提出したものであり,被告側の指示に従って手続補正を繰 り返した結果,ようやく登録が認められたにもかかわらず,本件実用新案登 録の出願時のものとは異なるという理由で,出願時遡及を認めないのは理不 尽であるとも主張する。 しかしながら,証拠(甲2の1,4,6,8の1,8の2,11)によれ ば,手続補正指令書による被告の補正命令は,いずれも実用新案法6条の2 第1号又は第4号に関するものであって,補正後の明細書等の具体的内容を 指示したものではない。また,各手続補正指令書において,その都度,補正 した事項が出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるように十分\n留意する必要がある旨の注意喚起もなされている(更に付け加えれば,出願 手続には専門知識が要求されるので,専門家である弁理士に相談することの 促しもなされている。)。 それにもかかわらず,本件実用新案登録の登録時における明細書等の内容 が,新規事項の追加によって出願時のそれと異なるものとなり,その結果, 特許法46条の2第2項による出願時遡及が認められないこととなったのは, 原告自身の責任によるものというほかない。したがって,上記原告の主張も また失当である。

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平成28(ネ)10020等  特許権移転登録手続請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁第3部は、特許移転請求の裁判管轄がない国での判決は、無意味と判断しました。
 しかしながら,一審原告が一審被告らに対して本件各特許権の移転登録手 続を求める訴訟が日本国の専属管轄に属し,韓国に国際裁判管轄が認められ ないことは,前記のとおりである。したがって,専属管轄に違背する以上, 本件韓国訴訟(専属管轄に反する部分)は不適法であったといわざるを得な いのであるから,そのような不適法な訴訟において,いかに本件契約の成否 が争われ,この点について確定的な判断がなされたとしても,それは意味の ないものであったというほかはなく(これは,本来審理判断をすることがで きないはずの裁判所が審理判断を行ったという重大な瑕疵に関わる問題なの であるから,これを単なる形式論として軽視しようとする一審原告の主張は 到底採用できない。),信義則により主張を制限する前提を欠く。また,一 審原告の提訴の負担についても,そもそも日本国の裁判所において提訴する 必要があったのであるから,理由にならないというべきである。
(3) 以上によれば,争点1に関する一審原告の主張は,採用することができな い。
3 争点2(本件合意書に関する紛争の準拠法は韓国法か,日本国法か)につい て
(1) 前記認定のとおり,本件合意書9条において,本件合意書に関して紛争が 生じた場合,その準拠法は韓国法と指定されているところ,本件サインペー ジには一審被告Y及びAの署名があること,本件サインページを返送する際 にAが作成した本件カバーレター(乙9)には,「1点を除いて,貴殿の申\nし入れを全て受け入れたい」との文言があり,一審被告らは,準拠法につい ては特に異議を述べる意思はなかったと認められること等の事情からすれば, 本件合意書による契約(本件契約)の成立及び効力については韓国法による というのが,当事者の合理的意思であったと推認するのが相当であり,かか る推認を覆すに足りる証拠はない。 したがって,本件の準拠法は,韓国法であるというべきである(法の適用 に関する通則法附則3条3項,旧法例7条1項)。
(2) これに対し,一審被告らは,準拠法の指定合意が無効であるとか,取り消 されるべきであるなどと主張する。 しかしながら,ここでは,本件契約に関する合意の成否や効力を問題とし ているのではないことはもとより,準拠法に関する合意の成否や効力を問題 にしているのでもなく,飽くまで本件契約の成否について争いが生じたとき に,いずれの国の法律によってこれを判断するのが当事者の合理的意思に合 致するかを探求しているにすぎないのであるから,かかる主張は失当である。 また,一審被告らは,1)本件合意書においては日本国の特許権及び特許出 願が対象となっていること,2)本件合意書が日本語で作成されていること, 3)A及び一審被告Yは日本で本件合意書に署名したことなどからして,本件 合意書に関して紛争が生じた場合の準拠法は,日本国法とされるべきである 旨主張する。 しかしながら,1)については,日本国の特許権等が対象であるとしても, 譲渡契約自体は国外でもできる以上,譲渡契約を締結する当事者の合理的意 思が必ず準拠法は日本国法によるとの意思であると解すべき根拠はないとい うべきであるし,2)についても,本件合意書は日本語(和文)のみならず英 文でも作成されているのであるから,必ずしも決め手となるものではない。 3)についても然りであり,A及び一審被告Yが日本で本件合意書に署名して いるとの点は,合理的意思解釈を行う際の一つの要素にはなり得ても,それ だけで決め手になるものではない。 結局,前記(1)で説示した事情によれば,本件の準拠法に関する当事者の 合理的意思解釈としては韓国法によるものと解するのが相当であり,一審被 告らの主張はかかる認定を覆すに足りないというべきである。
・・・・
以上によれば,一審原告が主張するその余の点,すなわち,Aには,本 件サインページに署名するに当たり,本件米国訴訟を解決する(本件米国 訴訟を取り下げてもらう)という明確な動機があったとする点や,Aは, 本件特許権1及び同3に係る発明を完成させる能力を有しておらず,同人\nはこれらの発明の発明者ではなかったとする点を考慮しても,一審被告ら による本件サインページの返送により,平成16年4月3日の時点で直ち に本件契約が成立したと認定することは困難というべきである。 したがって,主位的主張に関する一審原告の主張は,採用することがで きない。

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平成28(ネ)10046  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年1月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁特別部は、延長登録された特許権の効力がイ号製品には及ばないとした1審判断を維持しました。論点は、たくさんあります。
 (2) 法68条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」に係る特許発明の 実施行為の範囲について
政令(特許法施行令2条)では,延長登録の理由となる処分は医薬品医療 機器等法の承認と農薬取締法の承認の二つの処分に限定されている。本件の ように「政令で定める処分」が前者の承認(医薬品医療機器等法所定の医薬 品に係る承認)に係るものである場合においては,次のとおりであると認め られる。すなわち,
ア 医薬品医療機器等法14条1項は,「医薬品…の製造販売をしようとす る者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けな ければならない。」と規定し,同項に係る医薬品の承認に必要な審査の対 象となる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用\nその他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(同法14条2項,9項) と規定されている。 このことからすると,「政令で定める処分」が医薬品医療機器等法所定 の医薬品に係る承認である場合には,常に「用法,用量,効能及び効果」\nが審査事項とされ,「用法,用量,効能及び効果」は「用途」に含まれる\nから,同承認は,法68条の2括弧書の「その処分においてその物の使用 される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解される。 医薬品医療機器等法の承認処分の対象となった医薬品における,法68 条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」及び「用途」は,存続期 間が延長された特許権の効力の範囲を特定するものであるから,特許権の 存続期間の延長登録の制度趣旨(特許権者が,政令で定める処分を受ける ために,その特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許\n発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度と して,その期間の延長を認めるとの制度趣旨)及び特許権者と第三者との 衡平を考慮した上で,これを合理的に解釈すべきである。 そうすると,まず,前記のとおり,医薬品の承認に必要な審査の対象と なる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その\n他の品質,有効性及び安全性に関する事項」であり,これらの各要素によ って特定された「品目」ごとに承認を受けるものであるから,形式的には これらの各要素が「物」及び「用途」を画する基準となる。 もっとも,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨からすると,医薬品 としての実質的同一性に直接関わらない審査事項につき相違がある場合に まで,特許権の効力が制限されるのは相当でなく,本件のように医薬品の 成分を対象とする物の特許発明について,医薬品としての実質的同一性に 直接関わる審査事項は,医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能及び効\n果」である(ベバシズマブ事件最判)ことからすると,これらの範囲で「物」 及び「用途」を特定し,延長された特許権の効力範囲を画するのが相当で ある。 そして,「成分,分量」は,「物」それ自体の客観的同一性を左右する 一方で「用途」に該当し得る性質のものではないから,「物」を特定する 要素とみるのが相当であり,「用法,用量,効能及び効果」は,「物」そ\nれ自体の客観的同一性を左右するものではないが,前記のとおり「用途」 に該当するものであるから,「用途」を特定する要素とみるのが相当であ る。 なお,医薬品医療機器等法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」 は,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではないから,こ こでいう「成分」も有効成分に限られないことはもちろんである。 以上によれば,医薬品の成分を対象とする物の特許発明の場合,存続期 間が延長された特許権は,具体的な政令処分で定められた「成分,分量, 用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該\n特許発明の実施」の範囲で効力が及ぶと解するのが相当である(ただし, 延長登録における「用途」が,延長登録の理由となった政令処分の「用法, 用量,効能及び効果」より限定的である場合には,当然ながら,上記効力\n範囲を画する要素としての「用法,用量,効能及び効果」も,延長登録に\nおける「用途」により限定される。以下同じ。)。
イ 上記アによれば,相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。) が,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び\n効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が 延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできない。しか しながら,政令処分で定められた上記審査事項を形式的に比較して全て一 致しなければ特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることがで きるとすれば,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実 施をすることができなかった期間を回復するという延長登録の制度趣旨に 反するのみならず,衡平の理念にもとる結果になる。このような観点から すれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分 で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定さ\nれた「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものに も及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである(なお,法6\n8条の2は,「物…についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ば ない。」と規定しているけれども,同条における「物」についての「当該 特許発明の実施」としては,「物」についての当該特許発明の文言どおり の実施と,これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含 むものと解すべきである。)。 したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分\nが存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的 な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象とな った物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の 及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。
ウ そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で 定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用 量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しな い場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かど うかは,特許発明の内容(当該特許発明が,医薬品の有効成分のみを特徴 とする発明であるのか,医薬品の有効成分の存在を前提として,その安定 性ないし剤型等に関する発明であるのか,あるいは,その技術的特徴及び 作用効果はどのような内容であるのかなどを含む。以下同じ。)に基づき, その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法, 用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特\n徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判 断すべきである。 上記の限定した場合において,対象製品が政令処分で定められた「成分, 分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と医薬品と\nして実質同一なものに含まれる類型を挙げれば,次のとおりである。 すなわち,1)医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長 登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象 製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において\n異なる成分を付加,転換等しているような場合,2)公知の有効成分に係る 医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令 処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を\n付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の 間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,3) 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意 味のない程度の差異しかない場合,4)政令処分で特定された「分量」は異 なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる 場合(本件処分1と2,本件処分5ないし7がこれに該当する。)は,こ れらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当た り,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なも のに含まれるというべきである(なお,上記1),3)及び4)は,両者の間で, 特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型であ る。)。 これに対し,前記の限定した場合を除く医薬品に関する「用法,用量, 効能及び効果」における差異がある場合は,この限りでない。なぜなら,\n例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために「用法,用量」 に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じ て多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なる ために「効能,効果」が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点か\nらの考察が重要であると解されるからである。 しかし,特許発明の技術的範囲における均等は,特許発明の技術的範囲 の外延を画するものであり,法68条の2における,具体的な政令処分を 前提として延長登録が認められた特許権の効力範囲における前記実質同一 とは,その適用される状況が異なるものであるため,その第1要件ないし 第3要件はこれをそのまま適用すると,法68条の2の延長登録された特 許権の効力の範囲が広がり過ぎ,相当ではない。 すなわち,本件各処分についてみれば明らかなように,各政令処分によ って特定される「物」についての「特許発明の実施」について,第1要件 ないし第3要件をそのまま適用して均等の範囲を考えると,それぞれの政 令処分の全てが互いの均等物となり,あるいは,それぞれの均等の範囲が 特許発明の技術的範囲ないしはその均等の範囲にまで及ぶ可能性があり,\n法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広がり過ぎるこ とが明らかである。 また,均等の5要件の類推適用についても,仮にこれを類推適用すると すれば,政令処分は,本件各処分のように,特定の医薬品について複数の 処分がなされることが多いため,政令処分で特定される具体的な「物」に ついて,それぞれ適切な範囲で一定の広がりを持ち,なおかつ,実質同一 の範囲が広がり過ぎないように(例えば,本件各処分にみられるような複 数の政令処分について,分量が異なる一部の処分に係る物が実質同一とな ることはあっても,その全てが互いに実質同一の範囲に含まれることがな いように)検討する必要がある。 しかし,まず,第1要件についてみると,このような類推適用のための 要件を想定することは困難である。すなわち,第1要件は,政令処分によ り特定される「物」と対象製品との差異が政令処分により特定される「物」 の本質的部分ではないことと類推されるところ,実質同一の範囲が広がり 過ぎないように類推適用するためには,政令処分により特定される「物」 の本質的部分(特許発明の本質的部分の下位概念に相当するもの)を適切 に想定することが必要であると解されるものの,その想定は一般的には困 難である。また,第2要件は,政令処分により特定される「物」と対象製 品との作用効果の同一性と類推されるところ,これは,実質同一のための 必要条件の一つであると考えられるものの,これだけでは実質同一の範囲 が広くなり過ぎるため,類推適用のためには,第1要件やその他の要件の 考察が必要となり,その想定は困難である。 以上によれば,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合には,前記 の五つの要件を適用ないし類推適用することはできない。
オ ただし,一般的な禁反言(エストッペル)の考え方に基づけば,延長登 録出願の手続において,延長登録された特許権の効力範囲から意識的に除 外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には,法68条の2の 実質同一が認められることはないと解される。
(3) 対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。)に属することについて 法68条の2は,特許権の存続期間を延長して,特許権を実質的に行使す ることのできなかった特許権者を救済する制度であって,特許発明の技術的 範囲を拡張する制度ではない。したがって,存続期間が延長された特許権の 侵害を認定するためには,対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。) に属するとの事実の主張立証が必要であることは当然である。なお,このこ とは,法68条の2が政令処分の対象となった物についての「当該特許発明 の実施以外の行為には,及ばない」と規定していることからも明らかである。
・・・
しかしながら,一審原告の主張は,要するに,医薬品の承認制度の面から, 後発医薬品として承認されたものは全て実質同一物等に当たる(先発医薬品 に係る特許発明の効力が及ぶ)と断じるに等しく,法68条の2の制度趣旨 や解釈論を無視するものであって,採用することはできない。 すなわち,後発医薬品は,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み,同 一経路から投与する製剤で,効能・効果,用法・用量が原則的に同一であり,\n先発医薬品と同等の臨床効果・作用が得られる医薬品をいい,両者の間に有 効性や安全性について基本的な相違がないことが前提である。また,先発医 薬品と異なる添加剤を使用することがあっても,薬理作用を発揮したり,有 効成分の治療効果を妨げたりする物質を添加剤として使用することはできず, 医薬品としての承認に当たっては,生物学的同等性試験により主成分の血中 濃度の挙動が先発医薬品と同等であることの確認が求められるものとされて いる(甲30,弁論の全趣旨)。このように,後発医薬品は,先発医薬品と 治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり,先発医 薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから,そ\nもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは 当然である。しかし,これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性,安定性 を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず,特許発 明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。 これに対し,延長登録された特許権の効力範囲における実質同一は,特許 権の効力範囲を画する概念である。前記のとおり,1)法68条の2の規定は, 特許権の存続期間の延長登録の制度が,政令処分を受けることが必要であっ たために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目 的とするものであることに鑑み,存続期間が延長された場合の当該特許権の 効力についても,その特許発明の全範囲に及ぶのではなく,「政令で定める 処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が 定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)」について の「当該特許発明の実施」にのみ及ぶ旨を定めるものであり,2)医薬品の成 分を対象とする物の特許発明の場合,法68条の2によって存続期間が延長 された特許権は,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量, 効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」\nの範囲で効力が及ぶと解するのが相当であるものの,3)これらの各要素によ って当該特許権の効力範囲が画されるとしても,これらの各要素における僅 かな差異や形式的な差異によって延長登録された特許権の効力が及ばないと することは延長登録の制度趣旨に反し,衡平の理念にもとる結果となるから, これらの差異によっても,なお政令処分の対象となった医薬品と実質同一の 範囲で,延長された当該特許権の効力が及ぶと解すべきである。 したがって,延長登録された特許権の効力範囲における「成分」に関する 差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」のうち「効能,効果」に影\n響しない数量的差異に関する実質同一は,当該特許発明の内容に基づき,そ の内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量, 効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作\n用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえてこれを判断す べきであり,これを離れて,医薬品としての有効成分や治療効果(有効性, 安定性)のみからこれを論じるべきものではない。少なくとも,法68条の 2が,およそ後発医薬品であるが故に,すなわち,先発医薬品と同等の品質 を備え,これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨の ものでないことは明らかである。 しかるに,一審原告の主張は,当該特許発明の内容に関わらず,いわば医 薬品としての有効成分や治療効果のみに着目して延長された特許権の効力範 囲を論ずるものであり,これは前記のとおりの法68条の2の制度趣旨や解 釈論に反することが明らかであって,採用することはできないというべきで ある。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成27(ワ)12412

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