2019.12.27
平成30(ワ)5189 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月19日 大阪地方裁判所
特許権侵害事件です。争点はいろいろありますが、製造したのは共有者か?、また、101条5号の間接侵害が成立するか?について、大阪地裁(21部)は、いずれも否定しました。
原告は,被告会社による共有特許権の侵害行為として,被告製品を製造販
売したことを主張し,被告会社が被告製品を販売したことは当事者間に争いがない
ものの,被告らは被告会社が被告製品を製造したことを否認している。そして,被
告らは,むしろ,被告製品を製造したのは,共有特許の特許権者(共有者)である
被告P2であり,被告会社が販売したのは,被告P2が製造した製品であるとして,
共有特許権についての消尽の抗弁を主張するが,この点については,原告が否認し,
争っている(争点2)。そこで,事案に鑑み,被告製品が共有特許発明の技術的範
囲に属すると仮定して,争点2から判断する。
この点について,被告P2は,上記被告らの主張に沿う供述をしていることから,
この供述の信用性について検討する。また,上述するとおり,原告は被告会社によ
る被告製品の製造を特許権侵害行為として主張するところ,その事実が認められる
かについても,ここで検討する。
・・・・
(ア) まず,原告は,被告会社の決算報告書(損益計算書)や法人事業概況
説明書(甲34,35,53,54)に不自然な点があると主張し,それと同旨の
供述をしているが,被告会社が被告製品を仕入れた旨の記載部分の信用性が認めら
れることは,前記判示のとおりであり,これに反する原告の供述は採用できない。
また,原告は,甲39の被告製品の数量が658袋となっており,甲38記載の
526袋との差は被告会社が製造したものであるとも主張する。しかし,被告P2
は数え間違いによるものであると説明しているところ(乙24,被告P2供述),
被告会社が被告製品の原材料や製造装置等を用意していたことをうかがわせる証拠
がないことは前述のとおりであるし,被告会社が被告製品を製造したことをうかが
わせる事実も認められない。したがって,数え間違いであるとの被告P2の説明は
否定し難く,上記事実から被告会社が被告製品を製造したと推認することはできな
い。
そして,原告が被告会社の書類について指摘するその他の不自然な点については,
被告P2から裏付け証拠(乙3,16の1ないし16の3)を伴う形で説明がされ
ており(乙24,被告P2供述),その説明を否定すべき事情は認められないし,
その他に以上の判断を左右すべき証拠があるとはいえない。
(イ) 次に,原告は,被告会社が被告P2の一人会社であることなどを指摘
し,被告P2の行為は法人である被告会社の行為とみるのが自然であるなどと主張
する。しかし,被告P2は被告会社の代表取締役を務める一方で,「ケアシェルサ\nポート」という屋号で個人事業を営んでいるのであり,直ちに原告主張のように解
することはできない。むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は,個人の立場
で,解散会社から被告製品の原材料や製造装置を購入したり,従業員を雇用したり,
本件建物を賃借したりするなどしていると認められるから,これらの事実に照らせ
ば,被告P2の行為を被告会社の行為と評価することはできず,これらの事実は被
告P2が個人の立場で被告製品を製造していたことを基礎付ける事実といえる。
この点に関し,原告は,甲52に被告会社が本件建物の6か月分の家賃として6
0万円を支払っていたと記載されていることを指摘し,被告製品を製造する本件建
物の家賃を被告会社が支出していたと主張するが,甲52の記載は誤記と認められ
(乙23。なお,甲52には平成28年4月から9月までの家賃の支払が記載され
ておらず,甲51の記載との連続性からすると,それ自体,不自然なことであるし,
乙19も踏まえると,誤記であるとの乙23の陳述は信用できる。),原告の上記
主張事実を認めることはできない。
(ウ) また,原告は,被告P2が被告製品の原材料等を被告会社の利益を使
って仕入れていたとして,被告製品の所有権を原始取得するのは被告会社である旨
主張する。しかし,被告会社が被告製品の原材料等を自ら仕入れていたことを認め
るに足りる証拠はないし,被告らが取引基本契約を締結し,被告P2が被告会社に
被告製品を販売していたことをもって,原告主張のように評価することはできない。
むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は被告製品を被告会社に販売し,そこ
から被告製品の製造に係る経費を回収していたと認めるのが相当である。したがっ
て,被告製品の所有権は被告P2が製造することによって発生し,被告会社に販売
されることによって,被告会社がその所有権を取得したものと認められるから,原
告の上記主張は採用できない。なお,被告会社は被告P2が全株式を有する一人会
社であるから(被告P2供述,弁論の全趣旨),被告ら間の取引基本契約ないし売
買契約が民法108条本文や会社法356条1項により無効となることはないと解
される(最高裁昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1305頁参照)。
(エ) 原告は被告会社の従業員数に照らせば,被告会社が被告製品を製造し
ていないのは不自然であることも主張するが,被告会社の従業員は,被告P2自身
を除けば,被告P2の妻と,女性1人で,同人らの勤務時間は少なく,被告会社は
「しおさい」の販売業務等も行っているから(乙24,被告P2供述),原告指摘
の点が特別不自然であるとはいえない。
それだけでなく,原告は,被告P2が自ら被告製品を販売せず,被告会社が販売
している点について不自然である旨指摘しているが,被告P2は,顧客が法人から
仕入れたいと要望することがある旨供述しており,この説明自体,不自然,不合理
なものとはいえない。
(オ) 以上より,原告の主張・供述を採用することはできず,原告供述によ
って被告会社が被告製品を製造していたことを認めることはできないし,被告P2
の供述の信用性が否定されるともいえない。
エ 以上のことに加え,被告P2の主張・陳述は本件訴訟の提起以来一貫し
ていたことも踏まえると,被告製品を自ら製造し,被告会社に販売していた旨の被
告P2の供述は全体として採用することができる。また,原告は被告会社が被告製
品を製造していたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はないから,この原告
の主張は採用できない。
(4) まとめ
共有特許権の共有者である被告P2(ケアシェルサポート)は,原告の同意を
得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有
特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には,
共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原
告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはでき
ないものと解される。
なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあっ
たが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受け
て製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品について
も共有特許権は消尽したと解される。
したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範\n囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵
害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。
2 争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5
号の間接侵害が成立するか)について
(1) 原告は,甲4特許発明が方法の発明であることを前提として,被告製品の
販売について甲4特許権に対する特許法101条5号の間接侵害が成立すると主張
する(なお,前記1で判示したとおり,被告会社が被告製品を製造したとは認めら
れない。)。これに対し,被告らは,甲4特許発明は物の発明であるなどとして,
同号の間接侵害は成立しないと主張する。
(2) そこで原告の主張について検討すると,そもそも,物の発明と方法の発明
とは,明文上判然と区別され(特許法2条3項),与えられる特許権の効力も明確
に異なっているのであるから(例えば,同法101条,104条,175条2項),
物の発明と方法の発明とを同視することはできないし,物の発明に関する特許権に
方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして,当該発
明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した特許請求の範囲の記載に
基づいて判定すべきものである(同法70条1項参照)(最高裁判所平成11年7
月16日判決・民集53巻6号957頁参照)。
そこで,甲4特許の特許請求の範囲の請求項1を見ると,そこには機能的な表\現
がみられるものの,「…透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」
と明記されており,その文言上,物の発明について記載されたものであることが明
らかである。したがって,甲4特許発明は方法の発明ではなく,物の発明である。
なお,以上のことは,甲4特許の発明の名称が「透析機洗浄排水の中和処理用マ
グネシウム系緩速溶解剤」とされていることや,甲4特許明細書の【0001】に
「本発明は個人用透析機排水の中和処理に利用される透析機洗浄排水の中和処理用
マグネシウム系緩速溶解剤に関する。」との記載があること(甲4)からも裏付け
られる。また,原告は甲4特許の出願経過に照らし,方法の発明として特許査定さ
れたと主張するが,その主張は前述した特許請求の範囲の記載に照らして採用でき
ないし,原告は出願当初,マグネシウム系緩速溶解剤の製造方法に係る発明(これ
は,物を生産する方法の発明と解される。)についても特許請求の範囲に含めてい
たが(乙9),補正によりこれを削除し,さらに用途を限定したところ(乙12,
13),この経緯に照らせば,なおさら採用する余地はないというべきである。
(3) 以上より,甲4特許発明は物の発明であって,方法の発明ということは
できないし,これに方法の発明と同様の効力を認める根拠も見出し難い。したがっ
て,甲4特許発明が方法の発明であることを前提に特許法101条5号の間接侵害
が成立するとの原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
◆判決本文
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2019.11.18
平成30(行ケ)10178 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月24日 知的財産高等裁判所
インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n
前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に
インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ
「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ
グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」,
ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の
各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20
11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー
ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と
の記載があること(画像4)が認められる。
上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分)
に更新され,保存されたことが認められる。
したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27
日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公
衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は,
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願
後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい
ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項
目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ
レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25
日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同
日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ
グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス
ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報
の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと
(甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ
グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契
約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。
また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項
目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ
り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書
き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.09.19
平成31(ネ)10032 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月18日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。1審は、実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。控訴されましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
2 実施義務違反の有無について
(1) 被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)
ア 控訴人は,被告製品の製造工程には,稚魚をボイルした後に,粗熱をとって
冷ます工程が入っていることから,本件発明の製造工程に反し,そのことにより,
本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施がされていない旨主張す
る。
しかしながら,本件において被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反して
いると認めることはできない。
その理由は,後記イのとおり補正し,後記ウのとおり,当審における補充主張に
対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(原判決12頁
19行目から22頁20行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す
る。
イ 原判決の補正
原判決22頁15行目及び20行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改め
る。
ウ 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否に
ついては,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイル
した後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れる
ことを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れること
が許容されることにはならないと主張する。
そして,本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にする\nことを目的とするものであるのに,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は,
その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく,
被告製品においてはイノシン酸による旨味成分の維持がされていないことからすれ
ば,本件発明の製造工程に従って製造されていないと認めるべきであり,このこと
は被控訴人の実施義務の違反を構成すると主張する。\nその上で,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量を示す証拠として,平成3
0年2月1日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第252―\1
号。甲18)及び平成30年3月8日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(2\n9産研分第286号。甲24)並びに被告製品の写真(甲21)を提出する。
しかしながら,甲21の被告製品の写真は,上記各成績表に係る試料となる検体\nを撮影したものであると説明されているものの,上記被告製品は,賞味期限を平成
28年11月19日とするものであり(甲21,24),試験の依頼日である平成3
0年3月5日までに1年3か月以上経過していた。上記被告製品が上記試験までの
間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えら
れるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記
試験の結果によれば,イノシン酸の含有量の値が41と低く(甲18),被控訴人に
おいて,粗熱を取ったしらすに対し冷凍と解凍を繰り返したときの試験結果(乙6
9)とイノシン酸の含有量の傾向が一致していることからすると,上記被告製品の
保存の状態も,同様に解凍と冷凍をしたものであったことがうかがわれる。
そうすると,上記の試験結果が被告製品の状態を的確に示すものといえるか否か
については疑義があり,この疑義を払拭するに足りる的確な証拠はない。
よって,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)\n
ア 控訴人は,被控訴人が本件契約の締結後すぐには被告製品を製造しなかった
ことや,その後に支払われた実施料が少額であったことをとらえて,被告製品の製
造販売が実施義務の履行として十分なものでなく,そのことにより,本件契約上専\n用実施権者に義務付けられた本件発明の実施がされていない旨主張する。
しかしながら,本件事実関係の下において,被告製品の製造販売が実施義務の履
行として十分なものでなかったと評価することはできない。\nその理由は,後記イのとおり補正するほかは,判断の基礎となる事実関係につい
ては,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)(原判決22頁25行目から28頁1
8行目まで)に記載されたとおりであり,判断については,同第4の2(3)(原判決2
9頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す
る。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)1752
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2019.09.11
平成31(ワ)3277 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年8月29日 大阪地方裁判所
特許権も不動産のような価値を見いだせる時代になったともいえます。被告は、原告(個人)に対して、「大手建設会社に対して特許侵害訴訟を提起しており、勝訴すれば持分の価値が2,3倍になる」として、証券化した特許の持ち分を販売しました。かかる行為が、嘘を言って勧誘したとして、大阪地裁21部は、支払った額全額の損害+弁護士費用約9000万円の支払いを命じました。
ア 前記1で認定したところによれば,1)被告P5,被告日本知財開発及び被告
ジンムは,本件各特許権を被告P5と被告日本知財開発の共有とし,これに被告ジ
ンムの専用実施権を設定した上で,本件各特許権を細分化して譲渡するという枠組
みを考案したこと,2)この枠組みは,被告日本知財開発を管理委託機関とし,被告
日本知財開発より委託を受けたリーフ,被告ecoリーフあるいはさらにその下請
けであるはなみずきその他が顧客に案内し,代金等を収受するものであること,3)
リーフらの担当者又は代表者であるP9,P10,被告P3らは,原告に対し,被\n告ら側が本件地盤特許侵害訴訟に勝訴することや,本件ナビ特許について大手企業
とロイヤリティについて契約したり,多額の対価を得て本件ナビ特許を売却したり
することにより,本件各特許権の共有持分の価値が上がり,原告に莫大な利益が還
元されるかのような説明をし,これにより,原告が本件各特許権の持分を購入する
に至ったこと,4)原告の前記購入後,被告日本知財開発は,被告P5が作成した報
告書を原告に送付したが,その内容は,前記3)に沿うものであったこと,以上の事
実が認められる。
イ 他方,前記1によれば,原告が前記購入した時点で,1)本件各特許権の残存
期間はごくわずかであったこと,2)被告P5及び被告日本知財開発が被告ジンムよ
り専用実施権の対価を得ていたことは認められず,これ以外に,本件各特許権につ
いて第三者からのライセンス料が得られるような具体的案件が進行中であった,あ
るいは将来的に本件特許権の価値が上昇し,高額で転売し得る見込みがあったこと
を示すような客観的証拠は何ら提出されていないこと,3)本件地盤特許については,
権利存続期間満了の直前にこれを無効とする審決があり,本件地盤特許侵害訴訟に
ついては請求棄却となっているが,被告日本知財開発やリーフらの関係者が,これ
を適切に原告に説明していたとは認められず,かえって,訴訟がうまくいっていな
いことを理由に原告に本件地盤特許を本件ナビ特許に振り替えさせ,その際に,新
たに本件ナビ特許の持分を購入させたこと,4)本件で現れたどのような事情を考慮
しても,本件地盤特許の2万分の1の持分を60万円,本件ナビ特許の持分10万
分の1の持分を20万円と評価すべき理由は見出されないこと,5)実際に,被告P
5又は被告日本知財開発が,本件各特許権について,ライセンス収入や損害賠償な
ど,持分の譲受人に対し配分可能な収入を得たと認めるべき証拠はなく,3口分の\n解約に伴う返戻金を除き,被告らから原告に金員が支払われた事実がないこと,6)
原告は,持分の転売が可能との説明を受けたが,原告の持分取得については,被告\n日本知財開発が作成した証書に記載されるにとどまり,特許原簿への登録がないた
め,権利者としての保護はないこと,以上の点を指摘することができる。
ウ 以上ア及びイで述べたところを総合すると,原告が本件各特許権の持分の譲
渡を受けた際に,リーフ,被告ecoリーフ,はなみずきの担当者又は代表者であ\nるP9,P10,被告P3らがした前記⑴ア3)の説明は,客観的裏付けのない,原
告に金員を出させることのみを目的とした虚偽のものであったといわざるを得ない。
そして,本件各特許権の持分を細分化して高額で譲渡するという基本的枠組みは,
被告P5,被告日本知財開発,被告ジンムの関与がなければ成立し得ないものであ
り,前記P9らは,被告日本知財開発らが定めた基本的枠組み,あるいは被告P5
が作成し被告日本知財開発が配布した報告書の内容に沿って案内をしたものと認め
られるから,前記P9らが被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムと無関係に,
原告に案内,説明したと考える余地はなく,同被告らは,前記P9らが原告に前記
虚偽の説明をして本件各特許権の持分を取得させたことを認識していたものと認め
ることができる。
(2) 共同不法行為の成立について
ア 前記1で認定したとおり,原告に対する本件各特許権の持分の譲渡は,4年
余りの間,13回にわたって行われたものであり,前半は本件地盤特許について,
書面上は被告ecoリーフを譲渡店とし,その下請けのはなみずきを介して行われ,
後半は本件ナビ特許について,書面上はリーフを譲渡店として行われたものである。
しかしながら,既に検討したとおり,本件地盤特許と本件ナビ特許の各持分の譲
渡は,いずれも被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムが設定した同様の枠組
みに従って行われており,また本件地盤特許侵害訴訟がうまくいかなくなるや,そ
れを契機として本件ナビ特許の案内を行い,原告にその持分を取得させているので
あるから,本件地盤特許の持分の譲渡も,本件ナビ特許の持分の譲渡も,全体とし
て一連のものとして行われたというべきであり,被告P5,被告日本知財開発,被
告ジンム,リーフ,被告ecoリーフ及びはなみずきの責任を,本件地盤特許の持
分の譲渡と,本件ナビ特許の持分の譲渡とに分断して考えることはできない。
そして,前述のとおり,原告が被告ecoリーフの下請けであるはなみずきのP
9から本件地盤特許について虚偽の説明を受け,リーフの担当者であるP10又は
代表者である被告P3から,本件ナビ特許について虚偽の説明を受けたことにより,\n代金及び手数料を支払ったことが認められ,被告P5,被告日本知財開発及び被告
ジンムはこれを認識していたと認められるのであるから,被告ecoリーフ,はな
みずき,リーフ,被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムは,原告が,虚偽の
説明により,本件各特許権の持分代金及び手数料の名目で金員を詐取されたことの
全体について,共同不法行為責任を負うというべきである。
イ また,本件各特許権の持分譲渡受申込要項(甲3,26)には,権利金の支\n払は保証するものではない旨の記載があり,リーフが書証として提出するチェック
シート(乙4の1)には,原告により,平成27年1月22日に本件ナビ特許の持
分を譲り受けた際に,権利金は現在未確定である旨の説明を受けたこと,説明中に
断定的な収入例,又は誇大表現で収入例を強調されていないこと等のチェック欄に\nつき,いずれも「はい」の欄に丸が付けられている。
しかしながら,このような形式的記載によって,前記検討した上記被告らの不法
行為責任は,左右されるものではない。
◆判決本文
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2019.09. 2
平成29(ワ)12529 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年5月16日 大阪地方裁判所
専用実施権の侵害が否定されました。争点は、チャック爪の交換が新たな生産に該当するかですが、そもそも、被告はかかる交換行為があったことが立証されていないと判断されました。
原告は,被告が本件発明の構成部材である本件機械のチャック爪を少なく\nとも20回修理交換したとして,その行為は本件特許の実施品の生産行為に該当す
ると主張している。
そして,原告は被告に対して平成27年2月20日頃,チャック爪を2個販売し,
被告はその数年後,これを使用して本件機械のチャック爪を交換したことを認めて
いるが,原告はこの交換が本件特許の専用実施権の侵害に当たるとは主張していな
いから,原告の損害賠償請求や差止請求との関係では,被告がこれ以外に本件機械
のチャック爪を交換したかどうかが問題となる。
(2) そこで,原告の主張する事実が認められるかを検討すると,まず原告の主
張を直接裏付ける証拠があるわけではない。
また,そもそも本件機械のチャック爪は,原告が図面を作成した上で,鉄工所に
委託して製造しているもので,汎用品ではない(原告代表者供述)から,被告が原\n告からチャック爪を購入せず,また原告に依頼せずにチャック爪を交換するために
は,被告がチャック爪を自作するか,原告以外の第三者に製造を委託するなどして
チャック爪を調達してくる必要がある。しかし,原告以外の者が本件機械のチャッ
ク爪を製造していたことを認めるに足りる証拠はないから,そのような証拠状況の
下で,被告が,原告から購入したチャック爪を使用した交換以外にチャック爪を交
換したと推認することはできない。
さらに,原告はチャック爪は少なくとも7000mの掘削を施工するごとに修理
交換する必要があるという前提で,被告が本件機械を使用して合計13万2800
mの掘削を行ったと主張しているが,被告はこれを否認している。原告が主張する
修理交換の頻度については,客観的かつ具体的な裏付けがあるわけではないし,こ
れを措くとしても,原告において被告が本件機械を使用して施工した杭引抜き工事
が多数あることを具体的に主張立証しているわけではないから,被告が平成27年
2月20日頃に購入したチャック爪を使用した交換以外に,本件機械のチャック爪
の交換を必要とする状況があったことの立証もされていない。
以上の事実を総合すると,被告が,原告から購入したチャック爪を使用した交換
以外に本件機械のチャック爪を交換していた事実を推認することはできず,その他
に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
なお,原告が指摘するように,被告取締役は,本件機械の平爪よりもさらに先に
設置されている爪を頻繁に交換したことを認めているが,その爪はチャック爪より
も先端側に設置されていて,掘削作業により摩耗し得るものであって,チャック爪
の外側にはガードフレームやガード板が設置されていることを踏まえると,上記の
チャック爪とは別の爪を頻繁に交換していることから,直ちに原告主張の事実が推
認されるとまでいうことはできない。
(3) そうすると,争点2について判断するまでもなく,被告において原告が有
する本件特許の専用実施権を侵害する行為をしたとは認められない。したがって,
原告による損害賠償請求及び差止請求には理由がないことになる。
・・・・
2 争点4(原告と被告は,被告が本件機械を使用する杭引抜き工事を受注した
ときに使用料を支払う旨の本件使用料合意をしたか)について
(1) 原告は,被告との間で,被告が本件機械を使用する杭引抜き工事を受注し
たときは,工事代金額の5%(消費税別)を使用料として支払う旨の本件使用料合
意が成立したと主張し,原告代表者はこれに沿う供述をしている。そこで,以下,\nこの供述の信用性について検討する。
ア まず,被告は原告から本件機械を代金420万円(消費税込)で購入し
て本件機械の所有権を取得し,本件機械を自由に使用収益することができる立場に
あるから,被告が本件機械を購入したにもかかわらず,これを使用する都度,原告
に対し使用料を負担することは,直ちに経済合理性があるものとはいえず,特段の
合意としての本件使用料合意が,明確に立証されなければならない。
この点につき,原告代表者は,被告との間の合意の前提として,本件特許の特許\n権者との間で,本件機械を使用して杭引抜き工事を施工した場合には,特許使用料
を支払う旨合意しており,現にこれを支払っていたなどと供述している。しかし,
原告と本件特許の特許権者との間の合意の存在を直接裏付ける証拠は何ら提出され
ていない。
そして,原告の主張立証によっても,被告が原告主張の合意をすることが経済的
に合理的といえる程の事情は明らかとなっていないといわざるを得ない。
イ また,本件売買契約に際しては,注文書と注文請書が作成され,これに
は「ケーシングを販売するにあたり,類似品作成はご遠慮願います。」とか「ケー
シングの販売後,修理不可能になった場合は,スクラップ処理願います。」とか「ケ\nーシングは(株)大枝建機工業様以外の使用はご遠慮願います。」との記載がされ
ている(甲3,乙4)一方で,原告主張の使用料に関することは何ら明記されてい
ない。それだけでなく,注文書や注文請書には,被告が本件機械を使用する杭引抜
き工事を受注したことを原告に対して報告しなければならないということさえ記載
されていない。
上記注文書と注文請書は,その性質上,それらが相手に交付され,その内容が一
致していれば,契約当事者における合意内容になると考えられる。そうすると,上
記認定の注文書等の記載内容は原告と被告の合意内容になるが,そこには原告主張
の使用料に関する記載はなく,そのことは,原告と被告との間でそのような合意が
されなかったことを強くうかがわせるものといわざるを得ず,原告代表者の供述と\nは必ずしも整合しない。原告代表者は,業界では契約書や合意書等の書面を作成し\nないのが通例であるとか,書面で契約書を交わすというのが知識としてなかったな
どと供述しているが,上記注文書等には上述した別の合意の内容が記載されている
ことに照らし,採用できない。
ウ さらに,原告代表者の供述は,本件機械の販売後の原告の行動と必ずし\nも整合しない。すなわち,原告は被告に対して4件の杭引抜き工事を発注し,各工
事では本件機械が使用されたところ,原告は被告が本件機械を使用したことを当然
に認識し得たのであるから,本件使用料合意が成立していたのであれば,これに基
づく使用料を請求するか,原告が被告に対してその工事の代金を支払う際に,使用
料相当額を相殺処理するなどして精算することは容易であった。しかし,原告は各
工事の代金を支払う際に,いずれも使用料の精算をすることなく工事代金の全額を
支払うのみならず,未払の使用料がある旨を被告に指摘した事実も認められないの
であって,これらの事情は,原告代表者の供述と必ずしも整合しないといわざるを\n得ない。
この点に関し,原告代表者は,事務員が被告への工事代金の支払に当たり,使用\n料を差し引くのを漏らしていた旨供述しているが,原告による工事代金の支払はそ
の請求時期(平成28年6月20日ないし平成29年4月20日)に近接した時期
に3回に分けて行われたと推認され,毎回処理を漏らしていたとするには疑問があ
るし,その時期は,後記エで検討する他の業者への使用料支払請求の時期(平成2
8年8月22日。甲8,9)とほぼ同じ時期であることに照らせば,原告代表者の\n上記供述を直ちに採用することはできない。
エ 原告は,原告からケーシングを購入した他の業者が,それを使用した工
事を受注した際に,工事代金から使用料を控除することによって,使用料を支払っ
たことを主張している(甲8ないし10)。しかし,これは被告とは別の業者の話
にすぎず,このような事実があったとしても,直ちに被告との間で本件使用料合意
が成立したと推認することはできない。そして,上記ウのとおり,被告は原告から,
使用料を控除されることなく工事代金全額の支払を受けるなど,異なる事実関係が
認められるから,上記事実から,被告との間に本件使用料合意が成立したと推認す
ることは困難である。
なお,原告代表者は,本件売買契約の後に,被告取締役が被告において使用料を\n支払う義務があることを認めていた旨を供述するが,被告取締役はこれを否定して
おり,原告代表者の上記供述以外にこれに沿う証拠は何ら提出されていないから,\n上記のような事実を認めることもできない。
オ 以上のように,原告代表者の供述は,本件売買契約に際して作成された\n注文書等の記載内容や原告自身の行動と必ずしも整合しないから,これによって本
件使用料合意の成立を認めることはできないというべきである。
(2) 本件においては,他に本件使用料合意の成立を認めるに足りる証拠は提出
されていないから,この点についての原告の主張を認めることはできず,本件使用
料合意に基づく使用料の請求は理由がない。
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2019.07. 2
平成30(ネ)10024 特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。
特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と
する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが
できる旨を規定する。
ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的
思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許
発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め
なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」
とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」
といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発
明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想
を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当
である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし,
1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動
画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。
これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月
30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ
れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年
2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が
付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する
方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され
ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ
いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年
ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して
本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経
緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告
らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた
ことが認められる。
そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2)
認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関
与する行為に当たるものと認められる。
したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ
たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133)
であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加
工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F
CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認
められる。
そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島
工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC
M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと,
これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し
て,英国子会社に移管されたことが認められる。
したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間,
福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋
状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと
が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを
設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから
平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し
てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を
実施していたことが認められる。
上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告
らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利
を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると,
1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ
ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し,
当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代
表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに
対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点),
5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線
材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張
していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理
士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ
ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している
点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説
明がされていない。
しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張
に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D
iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H
部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005
年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4
3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」
との記載部分がある。
しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定
することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告
代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の
とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯
を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する
からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。
(ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。
しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス
プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており
(前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ
ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2
(5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材
料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造
方法等について知識を有していたものと認められる。
そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造
状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場
では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ
ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至
ったものと推認することができる。
そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の
線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ
ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般
的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告
代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原
告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2))
を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認
めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前
の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許
法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指
摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので
あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1
審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ
とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事
実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば
容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと
認められる。
そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的
に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な
行為に当たるものと認められる。
705/088705
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2019.06.27
平成30(行ウ)424 その他 行政訴訟 令和元年6月18日 東京地方裁判所
特許法112条の2第1項の正当理由について、判断基準として「一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるか」であると示し、今回のケースは該当しないと判断されました。
特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したもの
とみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納する
ことができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについて
の「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特
許料等を追納することができると規定する。
この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第
1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の「責
めに帰することができない理由」により追納期間内に特許料等を納付できなか
った場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能\nとすることを目的として,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき,
特許法条約の規定を踏まえて「Due Care(相当な注意)」の概念を採用
したものであると解される。
これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があ
るときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求め
られる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な
事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特
許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。
原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4
年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によ
って,本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をした
と主張する。
しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,ま
た,特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されて
いなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気
力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の
納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール
及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のもので
あり,その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみが
あった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手
続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のもの
が含まれていた。
更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務
所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書
等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれ
に気付くことはなかった。
これらによれば,本件注文書に「2013年11月15日付けの最終連絡に
基づく」旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許
権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付
をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する
原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわ
らず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付
の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を
指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然
あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件
において,一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと
認められる客観的な事情があるとは認められない。
これに対し,原告らは,本件特許事務所は世界的なランキングに掲載される
有力な事務所であり,年金納付が確実に行われるように体制を整備していたの
であって,そのような外部組織を適切に選任した以上,原告らには特許法11
2条の2第1項の「正当な理由」があるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が
明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書
の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したこ
とによって「正当な理由」があるとはいえない。
以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」(特許法112条の2第
1項)があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。
◆判決本文
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2019.04. 5
平成30(行ケ)10156 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年3月19日 知的財産高等裁判所
期間徒過後に、拒絶査定不服審判を請求しましたが、この却下処分について取消訴訟を提起しました。知財高裁は、「責めに帰すことのできない事由」ではないと判断しました。経緯はややこしいです。ある出願Aについて拒絶査定がなされたので、分割出願Bをしました。ところが、この出願Aは3代目の分割出願であり、拒絶査定不服審判と同時でないと分割出願ができない旧特許法44条が適用されるものでした。特許庁は、分割出願Bについて、特18条の却下処分を通知しました。出願人は、期間徒過後に、拒絶査定不服審判の請求とともに、分割出願Cをしましたが、拒絶査定不服審判の請求が審決却下されました。
特許の出願人が在外者である場合,拒絶査定不服審判請求や分割出願を行
うためには,特許法施行令1条1号に定める場合を除いて,特許管理人たる代理人
を選任する必要があるが(特許法8条1項),その場合であっても,同在外者は,
誰を代理人に選任するのかについて,自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選
択することができる。そうすると,出願人から委任を受けた代理人に「その責めに
帰することができない理由」があるといえない場合には,出願人本人に何ら落ち度
がない場合であっても,特許法121条2項所定の「その責めに帰することができ
ない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同
33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。
(2) 本件においては,前記第2の1のとおり,D弁理士は,本願からの分割出
願について,特許法44条1項3号の適用があり,拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し,拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してし
まったものである。
弁理士法3条によると,弁理士には,業務に関する法令に精通して,その業務を
行う義務があるところ,通常の注意力を有する弁理士が,通常期待される法令調査
を行えば,本件拒絶査定後,本願から適法に分割出願を行うためには,拒絶査定不
服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能\であっ
たと認められる。したがって,D弁理士が上記のように誤信をしたことは,弁理士
として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外
の他の本件代理人らについても,いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である
以上,適宜,必要な処置を講じて,本件のような過誤の発生を防止すべき義務があっ
たといえ,D弁理士同様,弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかった
ものというべきである。
以上のとおり,本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない
以上,本件において,特許法121条2項にいう「その責めに帰することができな
い理由」があったとすることはできない。
(3)ア 原告は,本件代理人らの過誤は,原告本人にとって思いもかけないこと
であり,外国法人である原告本人が,非本質的な手続である本件審判請求について
の本件代理人らの過誤を防ぐことは不可能であったことなどから,「その責めに帰\nすることができない理由」があると主張する。
しかし,本件審判請求が,分割の機会を得るためだけにされたものであるとして
も,そのことによって「その責めに帰することができない理由」があるとすること
ができないのは,前記1(2)エで述べたとおりである。
また,前記(1)のとおり,原告本人は,自らの経営上の判断として,本件代理人ら
に委任したのであるから,原告本人には過失がなかったとしても,自己が委任した
本件代理人らに過失がある以上,「その責めに帰することができない理由」はなかっ
たと判断されるのもやむを得ないものというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件分割出願1と本件分割出願2が同内容であることからする
と,失効した権利の回復を無制限に認めることにはならず,また,第三者の監視負
担が増大することはないと主張するが,そのような本件における個別具体的な事情
を理由に,「その責めに帰することができない理由」があるとすることはできない。
◆判決本文
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2019.04. 1
平成29(ネ)10090 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年4月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。
実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に
は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま
た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた
製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア
ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性
が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク
試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30
秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試
験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による
判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経
過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが
みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら
れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする
と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に,
湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。
なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や,
203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。
乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品
や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない
から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と
ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である
からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと
推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様
に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発
明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分
含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった
可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m
g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件
発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分
含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル
薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき
ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含
量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制
し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら
に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的
思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと
の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及
びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定
められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の
添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加
剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの
管理湿度などは不明である。
そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,●
●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量
が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水
分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており
(乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の
管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は,
サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5
〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと
も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた
とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分
含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである
のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲
内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水
分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存
在しない。
そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発
明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する
ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治
験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。
しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな
るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し
なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし
ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ
バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠
剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して
いたといえるものではない。
したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量
を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し
ていた旨主張する。
しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程
度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり,
控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量%
の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2.
9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは
できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ
れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた
と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1.
5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評
価できるものでもない。
したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され
ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明
2と同じ内容の発明であるということはできない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)
本件出願日(平成24年8月8日)までに,被
告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて
いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で
あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg
製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事
業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ
り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題
となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ,
水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ
るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分
含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の
提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少
なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水
分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの
条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及
び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい
て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。
しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:
PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30
3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が
経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ
ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状
態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値:
75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して,
乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが,
上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること
を直接裏付ける証拠はない。
かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被
告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年
以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン
からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分
含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が
高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を
収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材
料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ
ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加
しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と
アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら
れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ
ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ
ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の
実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告
錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提
とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg
錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠
はないものというべきである。
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2019.03.28
平成27(ワ)4292 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月28日 大阪地方裁判所
漏れていたのでアップします。大阪地裁は、特許侵害として、差止請求および総計3.3億円の損害賠償請求を認めました。争点は、間接侵害、サポート要件、進歩性違反などたくさんあります。この事件は控訴されており、知財高裁の特別部での審議が発表されています。大合議事件にされた理由は、下記でしょうか?\n
「共同不法行為が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連
共同性が認められる場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認めら
れる場合など,各侵害者に,他の侵害者による行為によって生じた損害についても
負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきで
ある。そして,例えば,製造業者が小売業者に製品を販売し,これを小売業者が消
費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,製造業者と小売業
者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても,
これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると\nはいえない。
・・・
被告アンプリーは,被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ,これを被告リズ
ムに転売していたところ,被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売
する商品の相談をしており,その中で被告製品8を仕入れることになり,被告リズ
ムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の
1)。これに対し,被告アンプリーは,OEMメーカーではあったが,被告リズム
の創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し,販路として育成していこ
うと考え,被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付け
の企業にし,被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのであ
る(乙B13の1,弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟では,被告アンプリーは被
告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで
主張しているのであり,被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあっ
たと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして,被告リズムによる売上額は
3億円を超えており,被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており,他の被
告の他の製品の売上額と比較しても,桁違いに売上額が大きい。このような売上げ
を上げることができたのは,以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関
係性があったからであると推認され,両社は相互に利用補充しながら,被告製品8
の製造,販売をしてきたということができる。したがって,両社の行為には,客観
的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為が成立するというべきである。
これに対し,被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると,被
告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの,被告ネオケミアは他にも
自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1,3,4及び15)を
製造するなどし,被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。この
ような実態に照らせば,被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあ
ったとはいえないし,同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるな
どともいえない。
以上より,被告製品8に関し,被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同
不法行為が成立する。」
◆判決本文
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2019.03.25
平成29(ワ)1752 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年2月28日 大阪地方裁判所(26部)
専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。
原告は被告が実施義務を負っていることを前提として,それに違反した債務不
履行があると主張している。
確かに,本件契約には,被告の実施義務を定めた条項は設けられておらず,被告
が本件特許の実施に努めることさえも規定されていない。
もっとも,本件契約は専用実施権設定契約であり,被告は本件契約に基づき本件
特許の専用実施権を取得し,本件特許を独占的に実施し得る地位を獲得するのに対
し,原告は本件契約を締結することによって,本件特許を実施することや他の者に
実施許諾することができないにもかかわらず,特許維持費用の支払義務は負うとい
う立場に立つことになる。また,本件契約では,イニシャルペイメントが「0円」
と明記され,またランニング実施料の金額も,実施の有無にかかわらず一定額が支
払われる条項とはされず,被告が販売した本件特許権に基づく製品の販売価格に所
定の割合(2ないし5%)を乗じた額とするにとどめられていたから,原告は,被
告が本件特許を実施しないことには,実施料の支払を全く受けられないことになる。
本件契約の当事者である原告と被告が置かれる以上のような状況を踏まえると,
専用実施権者である被告は,本件特許の実施が可能であるのに,それを殊更に実施\nしないとか,その実施に向けた努力を怠るなどということは許されず,信義則に基
づき,本件特許を実施する義務を一定の限度で負うと解すべきである。
もっとも,上述したように,本件契約では被告の実施義務に関係する条項は何ら
設けられず,またランニング実施料の金額も販売価格に一定割合を乗じた額とする
にとどめられており,被告としては製品が販売できた場合にのみ実施料の支払負担
が発生するにとどまるというリスク負担を前提に本件契約を締結したものであるか
ら,本件特許を実施した製品を製造販売するための努力の程度について被告に過大
な義務を負わせることは相当でない。また,被告は本件特許の製造法によって製造
したしらすを製造販売することによって本件特許を実施することになるが,本件特
許は解凍後真空包装し,加圧加熱処理することをも構成として含むものであり,被\n告はそれを行うための機械を有していなかったから,そのための準備期間が不可避
的に生ずるし,結果的に,商品が消費者に十分受け入れられず,思うように商品が\n販売できないなどという事態も生じ得る。
以上のような本件の事情を考慮すると,被告が本件特許の実施義務を負うといっ
ても,本件特許を実施するために必要な事項等を踏まえつつ,その時々の状況を踏
まえ,特許の実施に向けた合理的な努力を尽くすことで足りると解するのが相当で
ある。
(3) 被告の実施義務違反の有無
ア 上記(2)のような観点から,被告が本件特許の実施のための努力を怠ったといえるかを検討すると,前記(1)で認定した事実によれば,被告は,平成26年3
月28日に本件契約を締結した後,速やかに,自社ではできないパック詰め作業を
委託する業者を探して,同年5月22日までにはその目途をつけた後,パッケージ
等の製造や,そのデザインを別の業者に依頼し,同年10月末までにその目途をつ
けて,製造の準備をほぼ整えたと認められる。また,被告は,以上のような製造に
向けた準備と同時並行で,元々取引のあった愛媛県内のスーパーやデパートに本件
特許の製造法によって製造したしらすの販売を持ちかけたり,P4に対してその販
売の取次を依頼したりし,幅広く本件特許の製造法により製造したしらすを販売す
るための交渉等を進めたが,成果は芳しくなく,その後,同年12月までには「婦人画報」への掲載が決まり,平成27年3月には商品の製造を開始し,同年4月頃
に販売された「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,実際に
その販売が開始されるに至ったのである。以上のように,被告は,本件契約の締結
後,本件特許の実施に向けた準備を進め,実際に,実施にこぎつけたと認めること
ができる(なお,被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反すると認められな
いことは前記1で判示したとおりである。)。
イ もっとも,本件契約の締結から商品の製造や販売開始まで1年程度要し
ていることから,被告が前記(2)で判示した本件特許の実施のための努力を尽くした
といえるかを検討する。
(ア) 確かに,被告代表者自身も陳述書(乙40)において,「準備に思った\nより時間…が掛かりました」と述べているように,製造販売の準備行為に相当の時
間を要しており,さらに早期に商品の製造や販売の準備を整えることができた可能\n性も否定はできない。
しかし,被告は,パック詰め作業をする設備機械を保有していなかったのである
し,パッケージ等の製造も他の業者に委託しなければならなかったのであるから,
製造準備を整えるまでに前記のような期間を要したことが,本件特許の実施を不当
に遅延したとはいえない。また,前記認定の経過によれば,被告が実際に被告製品
の製造を開始したのが平成27年3月となったのは,当初の地元のスーパーやデパ
ートへの営業が販売価格の面で折り合わず,芳しくなかったが,同年4月頃に販売
される「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,それを見た消
費者に対する販売が相当程度見込まれたからと推認される。そして,被告も営利企
業として事業を営んでいる以上,ある程度まとまった販売が見込まれない段階で商品の製造を開始することは現実的ではないし,信義則上も被告にそれを強いること
は相当とはいえないから,被告が結果として,ある程度まとまった販売が見込まれ
るに至った同年3月から商品の製造を開始したこと(それまでは本件特許の製造法
によるしらすを製造しなかったこと)が,製造販売への努力を不当に怠ったという
ことはできない。
以上によれば,製造販売の準備行為に時間を要したことによって製造開始が遅れ
たとまで認めることはできないし,平成27年3月からの製造開始となったことが
被告の努力が足りなかったことによるものと認めることもできない。
また,製造販売を開始した後の販売状況も,決して順調とはいえないものではあ
るが,被告は,Smile Circle株式会社以外の取引先にも営業を行って少量ながら取
引をしていることからすると,販路拡大のための努力を不当に怠っていたと認める
ことはできない。
◆判決本文
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2019.02.28
平成30(ネ)10046 承継参加申立控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年2月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
冒認による特許の移転登録を求めましたが、知財高裁は1審と同様に、これを棄却しました。
2 本件各発明の内容は前記1のとおりであるが,本件各発明が控訴人の従業員
によって発明されたと認めることができるかについて,以下検討する。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と控訴人発明とを対比する。
(ア) 本件発明1と対応する控訴人発明は,別紙「控訴人発明と本件特許権
1との構成要件の対比」の対比表\の「控訴人の発明内容」欄記載の発明であるとこ
ろ,同記載によると,控訴人発明が共通構成1を具備していないことは明らかであ\nる。
すなわち,共通構成1の構\成は,別紙「控訴人発明と本件特許権1との構成要件\nの対比」の対比表の「請求項の内容」欄のうち,「請求項1」の上から3番目及び\n4番目の欄,「請求項2」の欄,「請求項3,請求項4」の欄,「請求項3」の欄、
「請求項5」の欄、「請求項6」の欄,「請求項7」の上から2番目の欄,「請求項
8」の欄,「請求項9」の上から3番目の欄,「請求項10」の欄,「請求項11」
の上から2番目の欄,「請求項12」の欄,「請求項13」の上から2番目の欄に記
載されているが,同構成に対応する「控訴人の発明内容」欄に記載された構\成は,
共通構成1の「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の変化に応じて,複数の,前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記携帯端末装置に提供する」\nこと(「前記画像情報,前記位置情報,前記識別情報の順の送信に応じて,複数の,
前記ユーザを誘導するためのコンテンツを前記情報処理装置から受信する」こと)
と同一でないことは明らかである。また,上記対比表の「控訴人の発明内容」欄の\nその他の欄の記載に係る構成中に,共通構\成1と同一の構成が存在すると認めるこ\nともできない。
(イ) 控訴人は,控訴人発明は,起動情報として,1)画像情報,2)位置情報
及び3)識別情報を用いている旨主張する。
しかし,共通構成1は,起動情報として,上記の三つの情報を含むというだけで\nはなく,これらの三つの情報の順の変化に応じて,複数のコンテンツを提供すると
いう構成であるから,控訴人の上記主張を踏まえて控訴人発明の構\成を特定したと
しても,控訴人発明の構成は,共通構\成1と同一であるとはいえない。
イ 前記アのとおり,控訴人発明の構成は,本件発明1の構\成と異なるので
あるから,その余の点を検討するまでもなく,本件発明1は,控訴人の従業員に
よって発明されたと認めることはできない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)7906
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2019.02. 1
平成29(ネ)10049等 損害賠償請求控訴事件,同反訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年12月26日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所
共有者の一部による実施が、特許法73条2項の「別段の定」に違反しないかが争われました。裁判所は、事前の協議及び許可を要する制限があったと判断しました。
1 争点(1)ケ(特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無)について
(1) 事案に鑑み,争点(1)ケから判断する。
特許権の移転は,相続その他の一般承継によるものを除き,登録しなければ,そ
の効力を生じないから(特許法98条1項1号),被控訴人は,本件特許権1の特
許権者(共有持分権者)である(甲1)。
控訴人は,被控訴人の特許法98条1項1号を根拠とする主張は,時機に後れた
攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,被控訴人が本件特許権1に係
る特許原簿に特許権者(共有持分権者)として登録されていた事実(甲1)は,既
に訴状において控訴人が主張していたのであり,控訴人において被控訴人は無権利
者である旨の主張をする際にあらかじめ検討しておくべき事項であるから,上記主張は採用できない。
また,控訴人は,特許法98条1項1号は,通常の特許権の移転について登録を
効力発生要件としたものであって,本件のように,移転が解除されたことにより特
許権が譲受人から譲渡人に対し復帰的に物権変動するときには登録は不要であるな
どと主張するが,同号は,相続その他の一般承継による移転には適用されない旨を
明示した上で,「特許権の移転」を対象としていること,同法74条2項は,特許
がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき
(同法123条1項6号)であっても,その特許に係る発明について特許を受ける
権利を有する者の請求に基づく特許権の移転の登録があったことを要件として,そ
の特許権が初めからその登録を受けた者に帰属していたものとみなすとしているこ
とに照らすと,本件には同法98条1項1号の適用がない旨の主張は採用できな
い。
そうすると,特許法73条2項の「別段の定」をした場合を除き,被控訴人は,
他の共有者の同意を得ないで,本件発明1−1の実施をすることができるから,続
いて,本件4者間の「別段の定」の有無を検討する。
(2) 控訴人は,本件共同出願契約書13条は,本件固定的役割分担合意を規定
するものであり,本件固定的役割分担合意の一部が特許法73条2項の「別段の
定」に該当すると主張するところ,前記第2の2(4)のとおり,本件共同出願契約
書には,中国語で記載され,作成日付及び本件4者の署名があるもの(甲6契約書)と,日本語で記載され,作成日付及び本件4者の署名がないもの(甲5契約
書)とがあるが,甲6契約書には作成日付及び署名があることに加え,B及びAが
中国語を理解し日本語を理解しないこと,甲6契約書は被控訴人従業員が中国語に
翻訳したものであり,控訴人も中国語を理解すること(以上の事実につき,証人
E,弁論の全趣旨)を併せ考慮すると,本件4者は,作成日付及び署名がある甲6
契約書をもって,本件共同出願契約を締結したと認めるのが相当である。
(3) 前記第2の2(4)ア(ク)のとおり,甲6契約書13条には,「事前の協議・
許可なく,本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し,又は生産・販売行為を行
った場合,本件の各権利は剥奪される。(甲,乙,丙及び丁の全員が対象である)」と記載されている。
同条の「生産・販売行為」の対象は,その文理に照らし,「本件の各権利(本件
特許権)」の実施品であると合理的に解釈できるから,同条は,契約当事者間にお
いて「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生産・販売行為を制限する趣旨の
条項である。そうすると,契約当事者の合理的意思として,同条の「事前の協議・
許可なく」とは,「事前の協議及び許可なく」の意味であると解釈でき,同条の
「生産・販売行為」とは,「生産又は販売行為」の意味であると解釈できる。前者
では「・」を「及び」と解釈し,後者では「・」を「又は」と解釈することになる
が,いずれも契約当事者の合理的意思に沿うものであり,矛盾はない。また,前記
第2の2(4)ア(ア),(イ)によると,本件特許権1は,甲6契約書にいう「本件特許
権」に該当する。
以上によると,同条は,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産
又は販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとして制限するも
のであるから,特許法73条2項の「別段の定」に該当する。
そして,前記第2の2(5),(6)のとおり,被控訴人は,平成28年4月以降,日
本において,本件製造会社に本件発明1−1の実施品である被告各商品を製造さ
せ,被告各商品を独自に販売しているが,これについて,事前の協議及び許可を経
たことは,本件全証拠によっても認められない。
したがって,被控訴人が,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社に
本件発明1−1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売し
たことは,「別段の定」である甲6契約書13条に違反するものである。
(4) 被控訴人は,本件共同出願契約書7条には,本件発明の実施は,協議によ
り別途定める旨の規定があるから,本件共同出願契約には,製造,販売等について
の何らかの役割分担に関する合意は含まれないことが明らかであり,同契約書13
条は「別段の定」を規定したものではない旨の主張をする。
しかし,前記第2の2(4)ア(オ)のとおり,甲6契約書7条は,「甲,乙,丙及び
丁は,本件発明の実施に対する協議の後,別途に定める。」と規定するものである
から,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産
及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとすることと矛盾
するものではない。
そして,1)Bが中国国内の工場で本件発明1−1の実施品を製造し,2)これをA
が梱包し,3)これを控訴人が仕入れ,4)さらに被控訴人がこれを日本に輸入して販
売するという本件販売形態が本件共同出願契約締結後,長年にわたり続けられてき
たことは,当事者間に争いがないから,本件販売形態は,同契約書13条の「事前
の協議・許可」を経たものということができる。このように,製造,販売等につい
ての役割分担を含む本件販売形態については,同契約書13条の「事前の協議・許
可」を経たものであるから,同契約書13条と矛盾するものではない。
また,前記第2の2(4)ア(カ)のとおり,甲6契約書8条は,「甲,乙,丙及び丁
は,他の全ての当事者の同意を得なければ,本件特許権を乙,丙及び丁が自ら経営
する法人以外の第三者に譲渡し,或いは本件発明の実施を許諾してはならない。」
と規定するものであるから,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許
発明の実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要する
ものとすることと矛盾するものということはできない。本件共同出願契約書を起案した弁護士が,甲6契約書8条と概ね同様の共同出願契約書案8条の「乙,丙及び
丁のいずれかが主体となって事業を営む法人」という文言に添えたコメントには,
「X様やA様,B様が経営している会社については,同意がなくても製造販売等が
可能です。」と記載されているが(甲49),本件4者が合意に達した甲6契約書で\nはなく,契約書作成過程の書面に付されたものにすぎないし,契約当事者のうち被
控訴人を除く控訴人ら3者が自然人であったことから,控訴人ら3者が将来的に法
人化して事業を営む際にも支障が生じない旨を説明したものと理解できるから,上
記コメントにより,甲6契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の
実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要することを
定めたものではないということはできない。
さらに,本件共同出願契約には,靴紐の購入単価又はその決定方法についての条
項はなく,被控訴人が控訴人から靴紐を購入しなければならないことを規定する条
項もないからといって,甲6契約書13条についての上記判断が左右されるもので
はない。
(5) 被控訴人は,控訴人が,被控訴人との協議・許可なしに,COOLKNO
Tという商品名又はブランド名により本件特許権の実施品を販売しているから,こ
の控訴人の販売及び被控訴人の製造販売のいずれも,本件共同出願契約書13条に
は違反しないとするのが,契約当事者の合理的意思である,本件特許権の持分を剥
奪されるのは控訴人であり,被控訴人ではないと主張するが,前記(3)のとおり,
甲6契約書13条の文理等に照らし,採用できない。
(6) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,同条前段と合わせて読む
べきところ,同条前段は,本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新
たに取得することを禁止しているから,同条後段は,実質的同一の範囲内で新たに
取得された特許権について,その実施品の生産・販売を禁止しているものと理解で
きると主張する。
しかし,甲6契約書13条前段は,その文理に照らすと,事前の協議及び許可な
く,「本件の各権利(本件特許権)」を未取得の国において,「本件の各権利(本件
特許権)」を新たに取得することを禁止するものと解すべきであるから,同条前段
が本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新たに取得することを禁止
しているとは認められない。また,同条前段は,「本件の各権利(本件特許権)」を
新たに取得したことのみによって「本件の各権利」を剥奪すると定めていることか
らすると,同条後段が,その新たに取得された「本件の各権利(本件特許権)」の実施品を生産又は販売したことによって「本件の各権利」を剥奪することのみを定
めたものと解釈するのは不合理である。同条後段は,既に取得されているか,新た
に取得されたものであるかを問わず,「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生
産又は販売行為を無断で行うことを禁止したものと解するのが相当である。
(7) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,日本以外の国での販売行
為を定めた同契約書14条に違反した場合の効果を規定した条項であると理解で
き,仮に日本での生産・販売行為について規定したものであるとすると,被控訴人
は,既に販売中の靴紐について,日本での販売中止を前提に本件共同出願契約を締
結したこととなり,著しく不合理であると主張する。
しかし,前記(3)のとおり,甲6契約書13条後段の文理に照らし,日本以外の
国での行為に限定されたものとは解釈できないし,被控訴人が本件共同出願契約締
結当時行っていた本件販売形態は,同条の「事前の協議・許可」を経たものとして
禁止されないから,被控訴人が本件共同出願契約締結当時被告各商品を既に販売し
ていたことは,同条後段が禁止する対象から日本での行為を除外して解釈すべき理
由とはならない。
(8) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段の内容は,同契約書16条の
協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできないと主張
するが,同契約書16条は,裁判外における紛争解決の方法を定めたものと合理的に解釈できるのであって,同条の協議を経なければ疑義が生じた契約条項の内容が
空文であり,法的請求の根拠とすることができないものとは認められない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28(ワ)19633
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