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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

令和6(ワ)70106  特許使用料請求事件 令和6年11月15日  東京地方裁判所

 専用実施権者である原告が、通常実施権者である被告に対して実施料の支払いを求めました。原告は特許2の専用実施権者ですが、被告に対して特許1〜3の通常実施権を設定していました。被告は、特許1、3の通常実施権の設定義務があり、契約解除の申し出をしました。裁判所は被告の主張を認め、義務を果たしていないので請求棄却としました。

1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、 契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許\n諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契 約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。 しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許 諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常 実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、 本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、 証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技 術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社\nと日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被 告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの\nの、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。 したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、1)本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要 な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、 2)本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保 全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告 には債務不履行がないと主張する。 しかしながら、上記1)については、本件全証拠によっても、本件各特許権は いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の 主張はその前提を欠くものである。
また、上記2)についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権 について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実 (2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在 を否定することはできないというべきである。 そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、 前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面 到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履 行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付 して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期 間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意 思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている\nから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという べきである。

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令和6(ラ)10003  閲覧等の制限申立却下決定に対する即時抗告申\立事件 令和6年9月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟にて口外禁止条項を含む和解が成立しました。侵害事件の被告は、本件和解条項および提出済みの準備書面及び書証の一部につき、民訴法92条1項2号に基づく閲覧等の制限の申立てをしました。1審は、準備書面及び書証については、その一部について閲覧制限を認めませんでした。侵害事件の被告は、知財高裁に抗告しました。知財高裁は、全体として営業秘密に該当するとして、準備書面及び書証について閲覧制限を認めました。原審の判決はアップされていません。

抗告人は、和解条項は一体不可分に結びついて初めて意味を持つものであり、 本件和解条項においてもその全体について営業秘密性を判断すべきであると主 張するので、この点を踏まえつつ、営業秘密が認められるための要件(不正競 争防止法2条6項所定の1)秘密管理性、2)有用性、3)非公知性)の充足の有無 につき、以下順次検討する。
(1) 秘密管理性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項について、抗告人が定める秘 密管理規程上の「秘」情報と位置づけ、抗告人の代表取締役及び常勤監査役\n並びに抗告人の法務部門に属する者のみがアクセスすることができるように 制限を付し、これらの者が第三者に開示又は漏洩することを禁止して、一体 的に管理していることが認められる。 本件和解条項の一部につき、これと異なる扱いがされているような事情は 一切うかがわれず、以上によれば、抗告人は、本件和解条項の全部を、一体 不可分の秘密として管理しているものと認められる。
(2) 有用性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項を含む特許等紛争の和解条項 については、いかなる相手といかなる条件で和解の合意をするかという事業 方針に関わる有用な情報であるとの認識の下、和解条項全体として、上記(1) のような管理を行っていることが認められる。特に特許訴訟の帰趨は、知財 戦略に大きな影響を及ぼしたり、レピュテーションリスクにつながりかねな い機微が含まれる場合もあること、そうした影響を考慮しつつ、経営体とし ての和解に係る最終的な判断をするためには、和解条項全体を通じて検討す る必要があることを考えれば、抗告人の上記認識及び取扱いは首肯できるも のである。 以上によれば、本件和解条項は、その全体が、事業活動に有用な営業上の 情報に当たるものといえる。
(3) 非公知性について
本件和解条項は、いわゆる口外禁止条項を含むものであるところ、本件の 閲覧等制限等の申立ては、和解成立日から約1か月後に申\し立てられており その間に本件和解条項の閲覧等がされた事実は記録上確認できない。以上の 事実関係の下で、本件和解条項の全部又は一部が基本事件の当事者以外の者 に公然と知られるに至ったとは考えられない。よって、本件和解条項は、そ の全体につき、非公知性の要件を満たすと認められる。 基本事件原告は、和解条項に口外禁止条項があったとしても第三者からの 記録の閲覧申請は拒否することができない以上、非公知性を獲得することは\nあり得ないとの意見を述べるが、和解成立後速やかに閲覧等制限の申立てが\nされ、現に閲覧等が行われた事実も認められない本件において、上記意見は 採用できない。
(4) 以上によれば、本件和解条項は、その全体が不可分なものとして、営業秘 密に当たるというべきである。
2 裁判の公開原則との関係について
基本事件原告の意見は、民事訴訟法91条が憲法82条の裁判の公開原則に 由来するものであることを強調しているので、この点に関する当裁判所の考え を示しておく。 まず、憲法82条1項が裁判の公開を求めているのは、裁判の「対審」と「判 決」であるところ、「対審」とは、民事訴訟における口頭弁論手続及び刑事訴訟 における公判手続を指し、本件和解の手続が行われた弁論準備手続が当然に含 まれるわけではないし、訴訟上の和解が「判決」と異なり、公開の法廷で言い 渡すような性質のものでないことはいうまでもない。 そもそも、民事訴訟においては、私的自治の原則の反映として、訴訟物たる 権利関係を当事者に委ねる処分権主義が採用されており、当事者の自律的解決 を尊重することが求められている。本件の基本事件において、基本事件原告と 基本事件被告(抗告人)は、公開の要請が働く判決の手続ではなく、訴訟上の和解という非公開の手続による終局的な解決を選択するとともに、口外禁止条 項を合意し、本件和解条項に係る情報の流出、漏洩を防止しようとしているの である。それにもかかわらず、民事訴訟法91条1項の手続によって、和解条 項が第三者に閲覧されてしまうとすれば、上記のような和解を決断した当事者 の意図・期待に反する結果となることは明らかである。このような場合に、和 解条項の全部につき閲覧等制限決定をすることは、民事訴訟の基本原則である 処分権主義、当事者の自律的解決尊重の要請に沿うものであって、裁判の公開 の原則と何ら抵触するものではない。

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令和4(ワ)11921  特許権侵害に基づく差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年7月11日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。原告による同意があったと判断され、差止、損害賠償請求権を有しないと判断されました。

ア 前提事実及び前記認定に係る経緯を併せ考慮すれば、本件に関する一連の経緯については、以下のように要約し得る。
すなわち、原告は、平成 21 年 1 月の本件三社契約締結後間もない時期からリタッ グ、被告その他会員企業から、原告が供給する製品の品質及び安定供給に関する問 題点等を繰り返し指摘されたものの、これを解消し得ず、むしろ平成 23 年 3 月の東日本大震災の発生や平成 24 年 6 月の原告による民事再生手続開始申立てを受けて、\nより具体的な対応を強く求められるようになった。具体的には、遅くとも平成 24 年 7 月面談において、リタッグが、原告に対し、ヤマウ及び被告を委託先とする OEM 製造による二次蓋の供給を強く求め、原告もこれに応じ、原告はヤマウとの協議を 開始し、リタッグは、被告に対する委託を検討するようになった。しかし、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は価格面の問題等から契約締結には至らず、原 告自身、平成 年 月会議において、複数社による二次蓋の製造の必要性を認める 発言や、製造に伴う責任と関連付けてその場合の許諾料に関する自己の意見を述べ、 被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のものと理解し得る発言をした。これ を受けて、リタッグは、本件三社契約 18 条に基づく措置として、被告との間でリタッグ許諾契約を締結し、被告は、これに基づき、被告製品の製造販売を開始した。 他方、この頃、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は具体的に進展していな い状況にあった。このような状況の中で、リタッグは、原告に対し、引き続き原告 による二次蓋の安定的な供給等につき強い懸念を示し、他方、原告は、被告による 被告製品の製造販売を問題視する姿勢を示すようになっていた。ところが、令和 3 年 2 月に原告が二次蓋を製造していた中国工場の閉鎖を関係取引先に通知するとい う事態を受け、令和 3 年 3 月会議が開催されることとなった。この際、原告は、被 告による被告製品の製造販売という事情をもって、原告中国工場の閉鎖の一因と示 唆しつつも、同事情を閉鎖により取引先に対する商品の供給に支障が生じないこと を示すものと位置付けて会員企業に説明し、さらに、原告としても、その後の二次 蓋の供給は被告による被告製品の製造販売に依存せざるを得ないとの考えを明示的 に示した。また、同会議において、原告は、被告による被告製品の製造販売と本件 各特許権との関係につき、被告による本件各特許権の侵害の問題ではなく、原告と リタッグとの契約(原告・リタッグ基本契約)に関する問題であるとの認識を示し た。
イ こうした一連の経緯を踏まえると、原告は、遅くとも令和 3 年 3 月会議において、リタッグに対し、同社と被告とのリタッグ許諾契約につき、その契約締結時 に遡って同意をしたものとみるのが相当である。 なお、リタッグ許諾契約締結の契機となったとみられるのは、平成 年 月会議 での原告の発言であるが、当時リタッグ許諾契約は未だ締結されておらず、また、 その契約内容に即した検討等がされたといった事情も見当たらないことなどを踏まえると、この時点では、原告は、リタッグが被告に対し二次蓋の OEM 製造を委託 するという方向性の確認ないし承認をしたにとどまるものとみられる。
(2) 原告の主張について
これに対し、原告は、リタッグ許諾契約に係るリタッグに対する同意又は被告製 品の製造販売に係る被告に対する本件各特許権の許諾のいずれも行っていない旨を主張する。
しかし、原告は、令和 3 年 3 月会議の時点で約 年の長きにわたり、リタッグ、 被告その他会員企業から本件工法に係る二次蓋の品質や安定供給に関する問題を指 摘され続けたにもかかわらず、会員企業の納得を十分に得られる対応を実現できな\nいまま、民事再生手続開始申立てや二次蓋の製造を行っていた中国工場の閉鎖に追\nい込まれた状況にあった。このため、原告は、同会議において、本件三社契約(及 び被告以外の会員企業との同様の契約)に基づく二次蓋の供給に係る原告の責任を 免れ、又は軽減するには、当時既に約 年の実績のあるリタッグ許諾契約に基づく 被告による被告製品の製造販売を承認するほかに方法がない立場に置かれていたも のと推察される。また、被告による被告製品の製造販売につき、本件各特許権の侵 害の問題ではなく、原告・リタッグ基本契約に関する問題であるとする発言も、同 契約ではリタッグが自ら製造し、又は第三者に製造させることを想定していないと みられること(20条等)を踏まえると、合理的であり首肯し得る問題意識と考えら れる。

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令和3(ワ)18031等 特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。

ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。 原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明 の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記 載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の 発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信 し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ 以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本 件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記 載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求 項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、 作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲 を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特 定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を 特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記 要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理 を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、 上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認 めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特 許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。

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令和4(ワ)19222  特許権移転登録手続請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月17日  東京地方裁判所

 民法94条2項(善意の第三者に対する虚偽表示の無効主張)の類推適用が\n特許の移転登録手続にも適用可能とは判断されましたが、要件を充足しないと判断されました。\n

(1) 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法9 4条2項類推適用の可否について
被告は、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が 類推適用されることにより、原告は本件発明について特許を受ける権利を有 していることを主張することができないと主張する。 これに対し、原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれ ば、特許を受ける権利を有する者が同法74条1項に基づく移転登録手続請 求を行った場合において、冒認者からの譲受人等の関係で民法94条2項を 類推適用することはできないと主張する。
この点について、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当すると きには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許 権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許 法74条1項)、その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該 当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をし ているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をして いる発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権 を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。
他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の 外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与又は承認があ る場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められ る場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意 無過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないと主張する ことができないとする理論構成である。\n
このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰 責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認める ものであり、他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真 の権利者の帰責性と第三者の善意又は善意無過失とを要件として、当該権利 者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該 第三者への権利主張を許さないとするものであって、両者の要件及び効果は 異なっている。 そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有する と規定するのみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であ ることはうかがわれず、また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項 が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当 たらない。
以上によれば、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合 においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用す ることは可能であると解される。\n
(2) 本件における民法94条2項類推適用の要件充足性について
・・・・
以上のように、そもそも、Aが本件譲渡契約1)を締結し、Bが本件特 許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告 自身の内部事情や行為にその一因があるといえる上、原告の真の代表者\nとされるDが、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽 の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておら ず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める 判決が確定してからも、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡される までの約半年の間、Bに対して何らの措置もとっていないのである。 このような事情からすれば、原告には、虚偽の外観作出について、自 ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置し た場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるというべきである。 これに対し、原告は、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存 在を認める判決が確定してからの行動について、嘱託登記が完了したの が同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後、Bが更に本件特許 権を譲渡することは考え難かったことからすれば、F弁護士に対して資 料の引渡しを求めていた原告(D)の対応に何ら問題はないと主張する。
しかしながら、同年8月5日の段階で、本件譲渡契約1)の締結から既 に約6年が経過していたこと、Bは、Dと面識はなく、Aと協力関係に あったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認 める判決が確定した段階で、Bに対して特許権移転登録手続請求等の法 的な措置を速やかにとる必要性は高かったものといえる。 また、前記 k及びlのとおり、F弁護士は、本件損害賠償請求訴訟 において、その訴えを却下する判決が確定した後も、Dからの資料の引 渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにお いて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け\nたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、こ のようなF弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議 の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士がDの資料の引渡 請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。
以上の事情に加え、原告としては、F弁護士に対して資料の引渡しを 求めつつ、それと並行してBに対して特許権移転登録手続請求等を行う ことも可能であったといえることからすると、令和3年8月5日に本件\n各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの原告(D)の対 応に何ら問題はなかったという原告の主張は採用できないというべきで ある。
さらに、原告は、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代 理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力する ことはあり得ないから、仮にDがBやその代理人弁理士に働きかけたと しても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によって は逆効果となる可能性すらあるとも主張する。\n
しかしながら、そもそも、B自身が原告を不正に乗っ取った当事者で あることを認めるに足りる証拠はない上、DがBに対して接触した事実 がない以上、Dからの働きかけに対してBがどのような態度に出るのか については、それを示す兆候もなく、虚偽の外観を取り除くことにつな がらないとか、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理が ある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で 争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、Dとし ては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき 状況にあったものといえる。

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令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。

(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公 然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実 施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課 題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、 本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500 0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値 の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に 利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明 に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難 いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目 的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分 子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合 し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn) が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。 しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用 発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA 🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が 世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、 一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量 平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、 「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー) 重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M. W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。 また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について 記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1 991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用 途開発・販売開始」等の記載がある。 しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含 有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について 記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然 実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを 動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又 は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、 当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの 重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件 明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係 る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意 義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間 に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に 入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\ 水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、 当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー 等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を 含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重 合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が 「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00 0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0 052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平 均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、 「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5, 000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」 若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子 量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。 そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1 5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する 機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的 意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、 その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子 量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和3(ワ)4920大阪地裁

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令和5(ネ)10103  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 実質的に前訴の蒸し返しであり、本件訴訟は信義則に反すると判断されました。控訴人(1審原告)の本人訴訟です。

前記認定のとおり、原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告\nに対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主\n張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、 前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する 旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえ ず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告 の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告 棄却決定及び上告不受理決定により確定した。
しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表\者であったAの 原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構\成したものに すぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、 Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況 に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、 前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟 において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な 判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する 旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠 を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざ るを得ない。
また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求 と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわ らず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部 勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。 その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反 し許されないものと解するのが相当である。

◆判決本文

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令和5(ネ)10058  特許権移転登録抹消登録請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権を譲渡した事実はないのに、本件特許権の移転登録手続の抹消登録手続を求めましたが、1審、控訴審とも、請求を棄却しました。

前記認定事実に基づき、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないこと を知り、又は知ることができたかについて、以下検討する。 本件特許権の譲渡が会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」 として、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった被控訴人におい て取締役会決議を経る必要があったことについては当事者間に争いがな い。
前記認定事実によれば、令和2年10月5日頃に、Dは、Aに対し、本 件特許権の譲渡につき取締役会議事録の提出を要求しているところ(乙1 1)、Dの供述によれば、同日、Aから「Bも了解しているし、社内手続も 大丈夫です」との説明を受けた(原審における控訴人代表者Dの陳述記載\n書面3頁)とするが、仮にDの上記供述が事実であったとしても、Dは、 そもそも本件特許権の譲渡について取締役会の決議が必要であると十分\nに認識していたのであるから、Aの上記説明だけを聞いてそれをうのみに したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十\分 可能であったし、議事録の提出が得られないのであれば、B本人に確認す\nることも容易であったというべきである。にもかかわらず、そのような行 動に出ることはなく、本来、特許権譲渡の移転登録手続を急がなければな らない事情は何ら存しないのに、Aとの間で本件特許権の譲渡の話に及ん だ翌日には、弁理士に譲渡証書の作成を依頼し、その二日後にはAに対し 本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印を押印させ、その翌日には本件移\n転登録申請手続に及ぶというように、移転登録申\請を早急に進めたことは 極めて不自然というほかない。
この点に関して、控訴人は、被控訴人において適時適切に取締役会議事 録を作成していたかは疑わしいから、Dにおいて、本件特許権の移転登録 手続を経る前に取締役会議事録の提出を求めることは現実的ではなかった し、移転登録手続を急いだ理由は、「早急な解決を図りたい」というAの意 向を受けてそれが妥当だと考えたからにすぎないなどと主張する。 しかし、取締役会議事録が作成されていないとの疑念を抱いていたので あれば、なおさらのこと、本件特許権の譲渡につき取締役会の承認があっ たかどうかをA以外の被控訴人の取締役などに確認しなければならないは ずであるし、ましてや、控訴人はB以外の被控訴人の取締役は名目的な存 在にすぎないと主張するのであるから、Bが本件特許権の譲渡を承認して いない限り、取締役会の承認は得られないと認識していたはずであるから、 B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決 を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認すること\nなく、被控訴人の取締役会の承認が必要な本件特許権の移転登録手続を上 記のような異常な速さで実現しなければならない理由にはならないという べきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
また、本件特許権が被控訴人にとって重要な財産であることは控訴人も 認めるところであり、前記イ(イ)ないし(エ)に照らせば、控訴人は、被控訴 人が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたと認 識していたとするものである。これらの事情に照らすと、控訴人において、 被控訴人が競合他社である控訴人に対し本件特許権を無償で譲渡するこ とはないと考えるのが通常である。仮に、Bが控訴人に対して競業避止義 務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販\n売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権 の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の 上記義務違反の責めを負う理由はないし、仮に被控訴人として上記Bの義 務違反に責任を感じ、謝罪の意味で何らかの対応をとるべきと認識したと しても、たとえ謝罪の意味であったとしても本件特許権を無償で譲渡しな ければならない必然性はないというべきであるから、Aにおいてこれを理 由として本件特許権を控訴人に譲渡するとDに話したのであれば、Dとし てはまずはそれが真実なのかを確認するのが当然といえ、D自身もそう思 ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。 そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検 索して確認していた控訴人においても、当然に認識していたものというべ きである。
この点に関して控訴人は、被控訴人の実質的な経営者はBであり、被控 訴人の株主や取締役の構成に照らしても、被控訴人の行為はBの行為と同\n視できるから、被控訴人が上記義務違反の責任を負うなどと主張する。 しかしながら、本件全証拠を精査しても、被控訴人の法人格を否認して、 被控訴人の行為をBの行為と同視することを認めるに足りる証拠は存しな いというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 加えて、そのような本件特許権の譲渡について、契約当事者双方が署名 し押印する譲渡契約書が作成されていないのは、会社間の契約として著し く不自然であるし、それを措くとしても、本件譲渡証書の作成に当たり、 Aが被控訴人代表者印を改印したこと自体も極めて不自然というべきであ\nる。なぜなら、当時、改印前被控訴人代表者印はBが保管していたのであ\nるから、もし、Dが、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫で す」との説明を受けたというのが事実であるならば、本件譲渡証書の押印 に当たり、AがBから改印前被控訴人代表者印を借りるなどして押印すれ\nばよく、特許庁に本件譲渡証書を提出する前日にわざわざ代表者印を改印\nしなければならない必要性は何ら認められないからである。
以上の事実を総合考慮すると、上記のような極めて不自然な本件特許権 の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役 会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に\n進めた控訴人代表者のDは、本件特許権の譲渡がAの単独行為であって、\nBの承諾なしにされたこと、すなわち、取締役会決議が存しないことを知 っていた(悪意)ものと認めるのが相当である。
以上によれば、控訴人は、本件特許権の控訴人への譲渡につき、被控訴 人の取締役会決議を経ていないことについて悪意であったと認められる から、本件特許権の譲渡は民法93条1項ただし書に準拠して無効となる と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆東京地裁令和3(ワ)8940

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令和5(行ケ)10046  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。

以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成 物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での 洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、 本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。 他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」 の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原 告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜 10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体 積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」 とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到 できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が 「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、 どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。 すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡 便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが 可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク 質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果 を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負 担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00 65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1 6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液 であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク 質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比 較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、 クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで (【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007 3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明 において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」 量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。 以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚 れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。

◆判決本文

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