リサイクル業者に対する侵害訴訟です。この事件では、知財高裁大合議がなした第2類型にも該当するのかも争点となっていましたが、原出願の当初明細書に記載された範囲外であるとして分割の効果が認められず、これらについては判断するまでもなく、無効理由ありとして、請求棄却されました。
「上記のとおり,本件原明細書及び図面には,本件原当初発明において,インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させていない構成を採用することは一切記載されておらず,上記判示内容からすれば,その示唆もないというべきであり,また,本件原明細書及び図面において,上記構\成を採用しないことが自明の事項であると認めることもできない。(4) これに対し,原告は,インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成は,フィルムを保護するという目的のために採用されたものであり,本件原当初発明の本来の目的を達成させるための構\成ではないから,付加的な構成にすぎず,同構\成を削除したことにより分割出願が不適法となることはない旨主張する。確かに,前記(3)のとおり,本件原当初発明の目的は,・・・のであり,このことから,必然的に当該フィルムの保護の問題が生じた以上,フィルムを保護するための構成が本件原当初発明の目的達成のための構\成ではないということはできない。そして,本件原明細書において,インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成が本件原当初発明にとって不可欠のものであると見なしていたことは,前記(3)で判示したとおりである。したがって,原告の上記主張は理由がない。(5) そうすると,本件分割出願は,平成6年法律第116号改正前特許法44条1項の分割要件を満たしているとは認められない不適法なものであるから,出願日の遡及は認められず,本件特許の出願日は現実の出願日となる。」
◆平成16(ワ)26092 特許権侵害差止請求事件 特許権民事訴訟 平成18年10月18日 東京地方裁判所
2006.02. 1
インクジェットプリンター用カートリッジのリサイクル品について、特許権は消尽したか否かが争われました。知財高裁(大合議)は、消尽するとした原審を取り消し、権利行使可能と判断しました。
知財高裁は、消尽については、特許製品を販売すると原則として消尽するとした上、特許製品に着目した第1類型、特許発明に着目した第2類型のいずれかに該当する場合には、消尽しないと判断基準を示しました。
「しかしながら,(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という。),又は,(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。 その理由は,第1類型については,?@ ・・・上記の使用ないし再譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするものであり,年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等により作用効果を奏しなくなった場合に譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定しているものではないから,その効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通を阻害することにはならず,?A ・・・効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,特許権者が二重に利得を得ることにはならず,他方,効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用ないし再譲渡されるときには,特許製品の新たな需要の機会を奪い,特許権者を害することとなるからである。また,第2類型については,特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合には,特許発明の実施品という観点からみると,もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品ということができないのであって,これに対して特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通が阻害されることはないし,かえって,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新たな需要の機会を奪われることとなって,特許権者が害されるからである。 そして,第1類型に該当するかどうかは,特許製品を基準として,当該製品が製品としての効用を終えたかどうかにより判断されるのに対し,第2類型に該当するかどうかは,特許発明を基準として,特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされたかどうかにより判断されるべきものである。したがって,特許発明の本質的部分を構\成する部材の全部又は一部が損傷又は喪失したことにより製品としての効用を終えた場合に,当該部材につき加工又は交換がされたときは,第1類型にも第2類型にも該当することとなる。また,加工又は交換がされた対象が特許発明の本質的部分を構成する部材に当たらない場合には,第2類型には該当しないが,製品としての効用を終えたと認められるときは,第1類型に該当するということができる。」
また、物の発明について消尽する場合には、実質的に技術内容が同じ方法の発明についても消尽すると判示しました。
「特許発明に係る方法の使用をする行為については,特許権者が発明の実施行為としての譲渡を行い,その目的物である製品が市場において流通するということが観念できないため,物の発明に係る特許権の消尽についての議論がそのまま当てはまるものではない。しかしながら,次の(ア)及び(イ)の場合には,特許権に基づく権利行使が許されないと解すべきである。
(ア) ・・・実質的な技術内容は同じであって,特許請求の範囲及び明細書の記載において,同一の発明を,単に物の発明と物を生産する方法の発明として併記したときは,物の発明に係る特許権が消尽するならば,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も許されないと解するのが相当である。したがって,物を生産する方法の発明を実施して特許製品を生産するに当たり,その材料として,物の発明に係る特許発明の実施品の使用済み品を用いた場合において,物の発明に係る特許権が消尽するときには,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も許されないこととなる。
(イ) また,特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が,特許発明に係る方法の使用にのみ用いる物(特許法101条3号)又はその方法の使用に用いる物(我が国の国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの(同条4号)を譲渡した場合において,譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の発明に係る方法の使用をする行為,及び,その物を用いて特許発明に係る方法により生産した物を使用,譲渡等する行為については,特許権者は,特許権に基づく差止請求権等を行使することは許されないと解するのが相当である。その理由は,?@・・・これらの物を用いてその方法の使用をする際に特許権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害されることになるし,?A ・・将来の譲受人ないし転得者による特許発明に係る方法の使用に対する対価を含めてこれらの物の譲渡価額を決定することが可能であり,特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているからである。」
原審はこちらです。
H16.12. 8 東京地裁 平成16(ワ)8557 特許権 民事訴訟事件
◆H18. 1.31 知財高裁 平成17(ネ)10021 特許権 民事訴訟事件