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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

消尽

令和2(ネ)10057 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ICチップのメモリの書換えを技術的に困難にする措置をプリンターカートリッジに採用することが、独禁法が禁ずる行為に該当するのかが争われました。1審は、独禁法違反(権利濫用)としましたが、知財高裁は、独禁法違反ではなく、約470万円の損害賠償を認めました。

 被控訴人らは,控訴人の本件請求は,控訴人が,原告電子部品(ICチップ) のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必 要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取 り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(IC チップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイク ル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思によ り妨げ,そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を 潜脱し,また,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表\n示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で, 純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,リサイクル事業者である被 控訴人らの取引を不当に妨害しているから,公正な競争を阻害するものであり, 競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6 号,一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると,控訴人が,被控訴人 らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠 償請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない旨主張するので, 以下において判断する。
(2) 被控訴人ら主張の本件書換制限措置による競争上の不利益について
被控訴人らは,1)トナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無\nを製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格 が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品と同等ではな\nい「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない,2)ICチップを 書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」と\nなりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少な くなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーが\nなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくな\nるという不便をユーザーが被ることになり,その結果,リサイクル事業者に 大きな不利益を与えるものである,3)残量表示がされず,「?」が表\示され る製品がユーザーに受け入れられないことは,被控訴人らの実施した聴き取 り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされな\nいことは,官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1 ないし4)ことからも明らかであり,このことは,本件アンケート調査(乙 70)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる,4) 本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイク ルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があり, 実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困\n難である,5)したがって,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控 訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものである旨主張するので,以 下において判断する。
・・・
以上のとおり,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された 純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナー を再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品\nが装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表\示され,残量表\n示がされず,予告表\示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プ リンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる 印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正\n品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすもので\nはないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示\nに「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表\示がされるので, 再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,\nユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,\nユーザーは,残量表示がされないことについて予\備のトナーをあらかじめ用 意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大き いものとはいえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品\nとの上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも\n存在するものと認められる。また,前記認定のとおり,残量表示がされるこ\nとが公的入札の条件であるとはいえない。
一方,リサイクル事業者においては,残量表示がされないことについてユ\nーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため残量表示\nがされないが,印刷はできることを表示することによって対応できること,\n電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属 さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各 特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能\であり,●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からすると, 原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置に よるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。 次に,控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品 に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質 等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量\n表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除した\nいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略とし て,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプ リンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載され た原告電子部品を選択した旨を述べていること(甲75,76),その理由に は,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回 避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人\nが本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品 に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品 のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることは できない。
上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制 限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相 応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使 がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは 認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び 必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品 を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成 立を妨げたものと認めることはできない。 以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人 が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請 求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触す るものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」 を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないか ら,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)40337

上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。
そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

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