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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

用語解釈

令和1(ネ)10052  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許侵害事件です。知財高裁(2部)も、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断しました。

ア 控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能\の有無に限らず, 「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。 本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパター\nンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というも のであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張に\nよると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合 には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換す\nるものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,ま た,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたも\nのということになる。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パタ ーンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持さ\nれたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等 1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」 として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語を パターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパタ ーンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされて いる。 したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能\の有無に限 らないとの控訴人の主張を採用することはできない。 そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換\nする機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」\nの第4の2(2)イに判示するとおりである。 よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。\n
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や被控訴人の主 張によると,本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関する情報(画 像情報)からディスプレイに表示するための画素データ(画像パターン)に変換され\nていることが分かると主張する。 しかし,構成要件1Aの「パターン変換器」が行うものとして記載された「画像情\n報・・・を対応するパターンに変換する」処理でいうところの「パターン」とは,画 像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる 「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味すると解されること は,原判決「事実及び理由」の第4の2(1)アが判示するとおりである。 そして,本件装置が,「本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関す る情報から,ディスプレイに表示するための画素データを作成する」としても,この\nことが,画像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別すること ができる信号の組合せに変換する処理に当たらないことは明らかである。 したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 以上によると,本件製品が構成1Aを充足すると認めることはできない。\n
(3) 争点2−2(構成要件1Bの充足性)について\n
ア 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)によると,顧客の銀行口座に 関する情報に対応するデータにパターンの変更が行われているから,本件装置はパ ターンを変更していると主張する。 しかし,「パターン」とは,画像,音声及び言語に係る事象の特徴が計算機たる検 出器が識別することのできる信号の組合せに変換されたものであり,「パターンの 変更」とは,このような信号の組合せ自体を変更するものである(原判決「事実及び 理由」の第4の2(3)ア)。顧客の銀行口座に関する情報に変更が行われているとし ても,このようなことは,パターンとパターンの結合関係を変更することによって も行うことができるから,本件装置の内部において,上記のような意味での「パター ンの変更」が行われていることを示すとは直ちに認められず,控訴人の主張を採用 することはできない。
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製品の 紹介ビデオ(甲80)の説明によると,本件装置は「質問」に対し,学習の前と後で 回答内容が更新できるため,「回答内容」についてパターンの変更が実施されている と主張する。 しかし,本件装置が回答内容を更新しているということは,入力された言語情報 に対応する回答が変更されたということになるが,「言語に係る事象の特徴が変換 された信号の組合せ」が変更されたのか否かは明らかではないから,控訴人の主張 を採用することはできない。
ウ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や本件製品の紹介ペー ジ(甲81)に,「アメリアが文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語 との関係を解釈する」とある点について,本件装置は,「文章(=文,パターン)」 を「パーツ(文要素や単語)」に分解するという「変更」を実施していると主張する。 しかし,本件装置が,「文章(=文,パターン)」を「パーツ(文要素や単語)」 に分解するということは,文章を,文要素や単語に分解して認識していることを意 味しているにすぎないとも考えられ,言語の「パターン」を変更しているとは直ちに 認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成要件1Bを充足するとは認められない。\n
(4) 争点2−4(構成要件1Dの充足性)について\n
ア 控訴人は,原判決が構成要件1Dについて,「有用と判断した情報のみを\n記録する」として,「のみ」を含むクレーム解釈をしたことが,請求項に記載のない ことを含めたものであり,誤りがあると主張する。 しかし,「有用と判断した情報のみを記録する」と解釈すべきことは,原判決「事 実及び理由」の第4の2(4)アが判示するとおりであり,控訴人の主張を採用するこ とはできない。
イ 控訴人は,甲31及び38に「業務に特化した情報を学習するため,業務 に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」との記載があることから,本件装 置が有用な情報のみを記録するとの機能を備えていると主張する。\nしかし,価値ある入力した情報のみを記録するということをしなくても,入力さ れたそれぞれの情報の結合関係を生成しながら知識体系を構築することは可能\であ る上,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験 や知識に加えられる」との説明があるから,「業務に特化した情報を学習するため, 業務に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」からといって,本件装置が構\n成要件1Dの「有用な情報のみを記録している」とは認められない。
ウ 控訴人は,本件製品の紹介ビデオの説明(甲12の図5,甲79,80) やパンフレットの記載(甲11の2)によると,本件装置は,入力した情報の価値を 分析し,有用な情報を自律的に記録していると主張する。 しかし,上記の紹介ビデオの説明やパンフレットの記載は,アメリアが同僚と顧 客のやりとりを観察し,処理マップを自分で作成するというものや顧客に必要な質 問を投げかけ,それに対する顧客の回答に応答するというものであり,それから直 ちに有用な情報を取捨選択し有用な情報のみを記録しているとは認められない上, 本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験や知識 に加えられる」との説明があるから,本件製品が構成要件1Dの「有用な情報のみを\n記録している」とは認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成1Dを充足すると認めることはできない。\n
(5) 争点3(構成要件2C等の充足性)について\n
ア 控訴人は,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自\n律的に知識を構築」の関係は並列であると主張するが,控訴人の上記主張を採用す\nることができないことは,原判決「事実及び理由」の第4の3(2)ア及びイが判示す るとおりである。 したがって,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自律的\nに知識を構築」の関係が並列であるとの控訴人の主張を採用することはできない。\n
イ 控訴人は,前記関係が直列の関係であるとしても,本件装置が構成要件\n2C等を充足すると主張する。 (ア) 意味の評価について
控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や本件製品の紹介ビデオ (甲12の図5)の説明などから,本件装置は,「同じ言葉の異なる用法」の中から 「最も文脈にあてはまる用法」がどれかを評価し,知識を構築しており,本件装置\nは,情報(意味)を評価し,知識の獲得を実施していると主張する。 しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2の3頁)の「彼女は同じ言葉の異な る用法を見分けるために文脈をあてはめることで,暗示されている意味を完全に理 解します。」との記載は,本件装置が,文脈をあてはめて言葉の用法を見分けている というにすぎず,本件装置が情報(意味)を評価した上で,その評価を踏まえて妥当 性が確認された情報を知識として獲得していることを示していると認めることはで きない。 また,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質問がアメリア の経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,意味を評価した上で,その 評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることは できない。 これに対し,控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)の上記説明につい て,意味を評価し,その結果に基づいて自律的に有益な知識を獲得する機能を有し,\n全ての質問を知識として加えるというケースはあり得ると主張するが,上記の説明 は,単に全ての質問を知識として加えるという意味に理解するほかなく,本件装置 が意味を評価した上で全ての質問を知識として加えるという意味に理解することは できないから,控訴人の主張を採用することはできない。
(イ) 新規性の評価について
a 控訴人は,本件製品のパンフレットの(甲11の2)の記載からする と,本件装置は,遭遇した状況が知識として記録している場面と似ておらず,自分で 問題に対処できないことを識別する機能を有するから,新規性を評価し,知識の獲\n得を実施している旨主張する。 しかし,本件発明2は,「自律的に知識を獲得」するというものであり,人の手を 介することを予定しているものではない。しかるところ,本件製品のパンフレット\n(甲11の2の9頁)には,「自力で問題に対処できない場合,人間の同僚にその問 題を引き継ぎます。」と記載されていて,人間の同僚が介入することが予定されてい\nる上,本件装置がその後同僚の様子を見て特定の状況に対する最善の手順を見つけ ることがあるとしても,本件製品の紹介ビデオ(甲80)では,「生成した処理ステ ップの使用を管理者が了承すると,直ぐに彼女は同様の質問に対して自分自身で対 応できるようになります」と記載されていて,管理者が了承しないと,知識として獲 得されないから,本件装置が「自律的に知識を獲得」するということはできない。 仮に,控訴人が主張するように,新しい処理ステップに関しては,本件装置の管理 者が了承する前に,既に生成し,記録しているとしても,本件装置の管理者が了承し なかった処理ステップまでが知識として獲得されるものではないから,本件装置が 「自律的に知識を獲得」すると認めることはできない。
b なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,新規性を評価 した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している と認めることはできないことは,上記(ア)と同様である。
(ウ) 真偽を評価する機能\n
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や紹介ビデオ(甲 12の図5,甲79,80)には,本件装置が的確な質問を発して,「真実を明らか にする」機能(=真偽を評価する機能\)を有していることが示されていると主張す る。 しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2)には,「問題の根本を見極めるた めの的確な質問ができる能力を持った」,「問題を明らかにするために必要な質問を\n投げかけることで,答えを提示することができます。」(6頁)との記載や,「事実 を明らかにするための的確な質問を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕 在化させることができるのです。」(11頁)との記載があるところ,これらの記載 と本件製品の紹介ビデオ(甲79,80)によると,本件装置の質問は,顧客の要望 を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認めら れないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認め ることはできない。
b 控訴人は,知識に対して論理を当てはめ,プロセス全体の各ステッ プを自律的に進め,論理的な結論を得るためには,本件装置は,何が真であり,何が 偽であるかを評価する必要があると主張する。 しかし,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあ るが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。
c なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,真偽を評価し た上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると 認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
(エ) 論理の妥当性について
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製 品の紹介ビデオ(甲79)によると,本件装置は,「積極的に論理を当てはめ」,「事 実を明らかにするための明確な質問を発し」,「問題の明確な性質を顕在化し」,「論 理的な結論を得て」,「事実を明らかにするための的確な質問」及び「回答」を記録 して知識を獲得するという一連の動作を実施していることが分かるから,本件装置 は,情報を評価(論理の妥当性)し,知識の獲得を実施していると主張する。 しかし,「論理的な結論」,「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより, アメリアは問題を解決することもできます。彼女が知っている情報の本体に立ち返 ることで,自然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問 を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。」 との本件製品のパンフレット(甲11の2の11頁)の記載や,アメリアの「質問」 に対する顧客の「回答」が記録された本件製品の紹介ビデオ(甲79)からは,本件 装置が入力した言語情報の論理の妥当性を確認しているとまでは読み取れないし, また,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが, 必ずしも入力した言語情報の論理の妥当性を評価する必要性は認められないから, 控訴人の主張を採用することはできない。
b 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載によると, 本件装置は,論理を適用し(=論理の妥当性を評価し),経験を通して学習している (=記録している),すなわち,言語情報の論理の妥当性を評価し,経験した内容を 知識として獲得していると主張する。 しかし,本件装置が,「・・・論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験 を通して学び,感情すらも察知」(甲11の2の3頁)するものであるとしても,こ のことから本件装置が入力した言語情報の論理の妥当性を評価しているとは直ちに 認められないから,控訴人の主張は採用できない。
c 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)には,本件装置が条件付 き処理を実施していることから,論理的に対応し,情報を記録していると主張する。 しかし,本件装置が,顧客の回答が「はい(yes)」なら,受取人リストに追加し, 回答が「いいえ(no)」なら,受取人リストに追加しないという処理をするとしても, このことは,顧客の回答に基づいた処理をしていることを示すにすぎず,本件装置 が論理の妥当性を評価しているとは認められない。 d なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,論理性を評価 した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している と認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)15518

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平成29(ワ)11147  損害賠償請求事件  特許権 令和元年11月11日  大阪地方裁判所

 構成要件を充足しないとして請求棄却されました。

 原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「流体の流れる方向が周期的に交互に 方向変換して流れる現象」の意味での「フリップフロップ現象」を発生させるため に使用される軸体であることを直接的に裏付け,これを認めるに足りる証拠を提出 しない。 かえって,証拠(乙40)によれば,被告が,「第2の軸体8」を通過するクー ラント液の状況を検証するため,被告製品(3/8inch)について,本来金属製である 接続機構6’を含む筒本体2及び入口側接続部材4を,下記【参考写真】のように\n透明プラスチック製のものにした上で(以下「実験対象物」という。),その内部 にクーラント液を通過させる実験を行ったところ,クーラント液につき,実験対象 物の入口側接続部材から流入し始めてから16分22秒の間,「第2の軸体8」の 軸部の外周面に形成された凸部32の間の交差流路を流れる際,その「流れる方向 が周期的に交互に方向変換して流れる現象」すなわち「フリップフロップ現象」の 発生が観察されなかったことが認められる。この実験結果の信用性につき,本来金 属製の部分を透明プラスチック製のものとしたことを考慮しても,疑義を差し挟む べき具体的な事情はない。
また,前記認定によれば,被告各製品の「第2の軸体8」の構成は,主として凸\n部32の形状につき各製品相互間で異なるものと見られる。もっとも,被告製品 (3/8inch)の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させなかったにもか かわらず,他の被告製品(1/4inch,1/2inch,3/4inch,1inch)の「第2の軸体8」 がフリップフロップ現象を発生させるものであると見るべき具体的な事情はない。 原告自身,被告各製品の構成には,本件各発明の構\成要件充足性を検討するに当た って,有意な相違はないと主張しているところでもある。 以上によれば,被告各製品の「第2の軸体8」は,クーラント液を通過させても 「フリップフロップ現象」を発生させ得るものと認めることはできない。そうであ る以上,被告各製品の「第2の軸体8」は,「フリップフロップ現象発生用軸体」 (構成要件E,F)に当たらない(なお,仮に,被告各製品が,別紙「被告各製品\n構成目録(原告主張)」記載のとおりの構\成を有するとしても,その「第2の軸体 8」が,クーラント液を通過させると「フリップフロップ現象」を発生させ得るも のと認めることはできないことに変わりはないから,上記結論が異なるものではな い。)。 したがって,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E,Fを充足しない。 また,前記第2の2(4)のとおり,本件において,原告は,被告各製品の構成が本件\n特許の請求項2に係る発明の構成要件を充足するとの主張を撤回した。そうすると,\n被告各製品の構成は,本件発明3の構\成要件Mを充足しない。
(3) 原告の主張について
原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体」 当たるとする根拠として,被告各製品のパンフレット(甲6)及び被告の特許に係 る特許公報(甲18の2及び3)の各記載を指摘する。 このうち,前者については,被告各製品である「ビックスは『フリップフロップ 流れ』を応用しています。水などの流体を菱型の柱を網目状に配列した四角の管に 通すと,管内に生じる渦により,管体から噴出する液体が,左右に規則正しくスイ ッチングする現象のことをフリップフロップ流れと言います。」などという記載が ある。しかし,ある性能等が製品のパンフレットに記載されているからといって,\n真実当該製品が当該性能等を有するとは限らない(そもそも,上記「フリップフロ\nップ現象」の説明は,原告主張に係る本件各発明での「フリップフロップ現象」の 意味とは異なる。)。 他方,後者については,そもそも被告各製品が後者の特許公報に記載された発明 の実施品であることを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,上記実験結果(乙40)にもかかわらず,これらの記載のみをもっ て,被告各製品の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させ得ることを 認めること,ひいては被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発 生用軸体」であること(構成要件E,F)を認めることはできない。\nしたがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 以上より,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E及びFを充足せず, 本件発明3の構成要件Mも充足しないから,被告各製品は,本件各発明の技術的範\n囲に属しない。

◆判決本文

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平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。

構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について (ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を 生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理 解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は, 前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文 のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情 報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前 記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の 「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が 約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注 文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含 む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注 文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。 次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト 機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格 を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決 済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注 済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。 以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の 記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情 報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」 の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文 が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生 成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記 の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理 が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B 1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり (【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報 を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに, まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は, 拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して, 本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\ 成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において, シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する 旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高 い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう 「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前 記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文 価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も 介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文 価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り 注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張 する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範 囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ 高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に, 「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売 り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載 (【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の 形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\ 成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上 記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態 のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が 挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙 14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価 格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち, 最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると, 前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受 けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成 する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1 5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された 複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情 報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基 づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最 も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売 り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視 すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最 も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成 …を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監 視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願 発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく 注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって 処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認 められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29 年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1 に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1 に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上 昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成 するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の 売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて, 同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を 有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約 定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高 い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90 円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高 い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数 の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと が認められる。 したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注 文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文 を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件 Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許 法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する とはいえない旨主張する。 ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知 の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ 高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載 はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合 も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新 規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文 や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異 なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様 の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注 文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の 実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016 4】)の記載がある。 上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一 方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文 の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」 等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態 3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の 買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売 り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変 動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS 3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成 された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約 定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定 した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り 注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる ことを理解できる。 そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売 り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情 報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本 件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な 説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再 度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後 に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約 定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5, B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし 【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注 文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3 とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約 定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ 約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると, 元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度 生成されることを看取できない旨主張する。 しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5, S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5, B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S 4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1 ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注 文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報 18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注 文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成 部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ, 新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」 (【0132】)との記載に照らしても明らかである。 したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検 知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注 文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。 したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。

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平成30(ワ)16555  特許権侵害差止等請求事件  民事訴訟 令和元年10月29日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で、技術的範囲に属しないと判断されました。争点は、「プロカルシトニン3−116を測定する」の意義です。

 ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は「患者の血清中でプロカルシトニン3 −116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出する ための方法。」であり,その構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定することを含む」というものであるところ,特許請求の範 囲には,その意義について規定する記載はないが,「測定」とは,一般的に, 「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具や装置を用いてはかること」(大辞林 (第3版))との意味を有する。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,構成要件Aの「プロカルシト\nニン3−116を測定すること」とは,敗血症等を検出するため,血清中に 含まれるプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味する ものと解するのが自然である。
イ また,前記1(2)のとおり,本件明細書の記載によれば,敗血症等の患者の 血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンについて,従前プロシ\nカルシトニン1−116と暫定的,一般的にみなされるなどしていたところ, 本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカル\nシトニンが,プロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3− 116であるという発見に基づき,新規な敗血症等の診断方法を提供するこ とを目的とするものである。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には, 「プロカルシトニン3−116を測定すること」の意義について,特段の記 載はない。そうすると,本件明細書の記載からも,構成要件Aの「プロカル\nシトニン3−116を測定すること」とは,敗血症の検出のため,上記の発 見に基づきプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味し, その測定結果が敗血症等の検出に用いられることと理解できる。
ウ 原告は,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定すること」と\nは,プロカルシトニン3−116を敗血症等の検出に必要な精度で測定する ことをいい,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3− 116を特異的・選択的に測定することを必須とするものではない旨主張し, その根拠として,本件明細書の実施例において,プロカルシトニン3−11 6を特異的・選択的に測定することが困難なイムノアッセイによりプロカル シトニンの濃度を測定することが記載されていること,本件明細書の記載等 を踏まえると,患者の血清中でプロカルシトニン1−116とプロカルシト ニン3−116とを区別することなくプロカルシトニン一般を測定したと しても,その濃度は,おおよそプロカルシトニン3−116の濃度であり, 測定されたプロカルシトニン3−116の濃度は敗血症等の検出に必要な 精度になっていることを指摘する。 しかし,本件明細書のイムノアッセイによる測定に関する記載について, 正常者及び敗血症患者の血清中のプロカルシトニン濃度の測定結果と,これ と同時に行われたこれらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対 比することにより,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニ ンにおいて際立っていることを示すものである旨の記載があることからす ると(段落【0059】【0062】【0063】【表3】),上記測定は,「敗\n血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の実施例であるとは認 められないから,原告の上記主張の根拠となるとは認められない。 また,仮に,敗血症患者の血清中に含まれるプロカルシトニンの大部分が プロカルシトニン3−116であるという関係があるとしても,プロカルシ トニン3−116を測定することとプロカルシトニン一般を測定すること が同義とはいえないことは明らかである,また,敗血症等であるかどうかが 明らかではない患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分が プロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないといえるほ か,本件明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定すること により敗血症等を検出する技術は本件発明の優先日前に従来技術として存 在したところ,本件発明は,従来技術に対して新規のものである旨が記載さ れているのであって,原告の主張は採用することはできない。 以上によれば,原告の主張には理由がなく,これを採用することはできな い。
エ 以上によれば,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定する\nこと」とは,プロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味す るものと解される。
(2)前記前提事実(第2の1(4)のとおり,被告装置及び被告キットを使用する と,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116とを区別する ことなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ, その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認められる。被 告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニ ン3−116の量が明らかにされているとは認められない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構成要\n件Aを充足するものとは認められない。

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平成29(ワ)7576  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月19日  大阪地方裁判所

 特許権侵害の損害について、7割の限度で特許法102条2項による推定が覆滅され、3項で相当実施料率は4%と判断されました(双方争いなし)。

 以上を踏まえ,顧客吸引力の観点から被告第2製品における本件第2 及び第3特許の技術的意義の有無及び程度を検討すると,まず,本件被告カタログ 記載の「6つの特徴」の1つとして,被告第2製品は「素手で持っても痛くありま せん。」との記載がある。「テーパ部」の解釈に関する被告の主張をも考慮すると, これは「テーパ部」の存在をうかがわせるものとも理解し得るものの,いかなる構\n成によって「素手で持っても痛く」ないことを実現しているのかは具体的に示され ていない。当該記載に付された写真では,製品のアンカーボルト挿通用の開口部に 手指を通して握る形で,当該開口部を囲む部材のうち長辺部分をなす部材のうちの 1つを掌全体で把持していること(甲4,乙32)に鑑みると,「テーパ部」の存在 故に「素手で持っても痛く」ないという効果を奏しているとも断じ得ない。また, 本件第2発明の効果2に言及する記載もない。 さらに,本件被告カタログには,「6つの特徴」の1つとして,「スピード施工」 が挙げられているところ,その部分には,被告第2製品の片方の端部の接続部につ いて「連結構造」との説明が付されている。もっとも,「連結構\造」とされる接続部 の構造や接続の仕方ないし効果に関する説明はない。\nむしろ,前記認定のとおり,本件被告カタログでは,被告第2製品の強度や換気 性能,供給・品質・価格の安定性,カットしやすい独自の形状を有する省施工商品\nであること等が強調されている。 この点は,原告や同業他社のカタログ等にも共通する。このうち,原告のカタロ グ等には「テーパ部」や「接続部」に関する記載も見られるものの,その構造は具\n体的に示されておらず,作用効果も,他の記載と比較すると,強調の度合いは低い。 むしろ,全周敷き込みの簡単施工や特殊構造の換気スリット・防鼠材といった点が\n前面に出されて強調されている。 以上の事情に加え,被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しない形で使用され ることがあり得ることは否定できないこと(ただし,実務上そのような使用態様が 採られる割合は不明である以上,この事情を推定覆滅に当たって過大視することは できない。),前述のとおり,台輪の幅方向への移動を防止する別の方法もあること を踏まえると,本件第2及び第3発明は,施工容易性の実現という観点から一定の 顧客吸引力を有するといえるものの,本件第2発明の「テーパ部」の構成や本件第\n3発明の構成要件3C〜3Gの構\成を有することによる顧客吸引力は,相対的には 小さいというべきである。 なお,被告は,被告第2製品の形状変更後に売上げが増加したことを指摘してい るが,その裏付けとなる資料(乙60)は形状変更後の4か月の売上額を集計した ものにすぎないし,売上げの変動要因としては様々なものが考えられることから, 上記事情が直ちに本件第2及び第3特許が被告第2製品の需要に与える影響が小さ いことを裏付けると見ることはできない。 これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限度で特許法102条2 項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の 各主張はいずれも採用できない。
エ ミサワホームに生じた損害
本件第2及び第3特許がいずれも持分2分の1の割合による原告とミサワホ ームの共有であることは当事者間に争いはなく,また,弁論の全趣旨によれば,ミ サワホームが自社施工工事分を除きこれらの特許を実施していないことが認められ る。そして,原告及び被告いずれも,特許法102条3項に基づき損害額を算定す る場合の本件第2及び第3特許の相当実施料率を4%程度とし,これを不合理ない し不相当と見るべき事情もないことから,相当実施料率は4%と認められるところ, 相当実施料率を乗じる対象となる売上額を消費税込の金額とすべき証拠はない。 そうすると,次のとおり,1463万7125円をもってミサワホーム(なお, 同社が本件第2特許の持分を取得する以前の損害賠償請求権を持分譲渡人が有して いるのであれば,その譲渡人を含む。)の損害額と認めるのが相当である。 そして,侵害された特許権が共有であったことにより侵害者の賠償すべき損害額 が単独保有の場合に比較して増額されるいわれはないことなどから,原告との関係 においては,更にこの限度で,特許法102条2項による推定が覆滅されるとする のが相当である。
(計算式) 売上額7億3185万6254円(税抜)×4%×1/2=146 3万7125円
オ 原告の損害額
以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,別紙「被告第2製 品に係る損害額(裁判所の認定)」の「原告の損害額」欄記載のとおり,4867万 8376円と認められる。
(計算式) 被告の利益の額2億1105万1670円×0.3−1463万7125円=4867万8376円
(4) 原告の予備的主張について\n
原告は,被告工場製品の製造販売について,特許法102条2項に基づき推定 される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合には,予備的に,同項に基づく\n損害額を主張する。 しかし,前記認定から明らかなとおり,特許法102条3項に基づき推定される 原告の損害額は,同条2項に基づくそれを上回るものではないから,この点に関す る原告の主張は採用できない。 仮に,原告の主張が,被告工場製品を除く被告第2製品の販売による損害につい ては特許法102条2項に基づき賠償請求しつつ,被告工場製品の販売による損害 については,同項に基づき算定される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合 に,予備的に同項に基づく損害額を主張する趣旨であったとしても,前記3(2)ウ (オ)で判示したとおり,被告工場製品とそれ以外の製品とで訴訟物が異なると見るべ き根拠はないから,原告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用(本件第1特許権の侵害分も含む。)について
原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,被告の本 件第1〜第3特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,510万 円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護 士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っ ていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,被告 の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠 償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
(6) 原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について
原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による 損害に対する遅延損害金の金額は,別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認 定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合 計1231万6870円である。

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平成31(ネ)10031  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月10日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 一審原告製の使用済み中空芯管をそのまま利用して生産された薬剤分包用ロールペーパの特許権・商標権を侵害すると判断されました。1審では、商標権侵害は認められていましたが、差止請求が棄却されていましたが、その点は同じです。

 本件訂正発明は,構成要件A〜Dからなる「薬剤分包用ロールペーパ」に係る\n発明であるところ(構成要件E),構\成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が, 構成要件B及びDにはロールペーパ及びその中空芯管並びにロールペーパに配\n設される複数の磁石(以下,併せて「本件ロールペーパ等」という。)に関する 事項が,構成要件Cには薬剤分包装置及びロールペーパに関する事項が,それぞ\nれ記載され,構成要件Aにおいて,ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき,\n前者が後者に「用いられ」るものとして記載されている。 本件訂正発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であると認めら れるところ,物の発明の特許請求の範囲の記載は,物の構造,特性等を特定する\nものとして解釈すべきであること,「用いられ」が,構成要件Aの中で「・・・\nようにした薬剤分包装置に用いられ,」とされていることからすると,「用いら れ」とは,本件ロールペーパ等が構成要件Aで特定される薬剤分包装置で使用可\n能なものであることを表\していると解される。
(3) 被告製品の構成要件充足性について\n
ア 前記(2)を前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回\n転速度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け」との記載は,本件ロ ールペーパ等の「複数の磁石」につき,支持軸の片端に設けられた角度センサに よる検出が可能な位置に配設されるものであることを特定するものと理解でき,\nまた,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその\n固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設 け」との記載は,本件ロールペーパ等について,薬剤分包装置の中空軸と接する 中空芯管の端に,中空軸と着脱自在に固定する手段を設けることで,そのような 態様で回転させられるものであることを特定するものと理解できる。 そうすると,本件訂正発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構\n成要件B〜Eと,構成要件Aによる上記特定に係る事項によって画されるもの\nであるから,被告製品が構成要件A〜Eで特定される本件ロールペーパ等とし\nての構成を備えていて,構\成要件Aで特定される薬剤分包装置に利用可能なも\nのについては,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認められ, 被告製品が構成要件Aで特定される薬剤分包装置に実際に使用されるか否かと\nいうことは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。\n
イ(ア) 被告製品は,前提事実(6)のとおりの構成を有するところ,弁論\nの全趣旨によると,被告製品の構成a,b,c,dは,本件訂正発明の構\成要件 B,C,D,Eをそれぞれ充足するものと認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によると,被告製品の中空芯管内部に配設された 3個の磁石は,支持軸の片端に設置された角度センサによる信号の検出が可能\nな位置に配設されたものであり,また,被告製品は,薬剤分包装置の中空軸に着 脱自在に装着されて,固定時に中空軸と一体となって回転し得るものであって, その手段がロールペーパと中空軸が接する端に設けられているものと認められ る。
(ウ) したがって,被告製品は,本件訂正発明の構成要件B〜Eと構\成 要件Aによる上記アの特定に係る事項を充足し,構成要件Aで特定される薬剤\n分包装置で使用可能なものであると認められる。\n
ウ よって,被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認め られる。
(4) 一審被告らの主張について
ア 一審被告らは,本件訂正発明が用途発明であり,また,本件訂正発明 において保護されるべき特徴的部分は,薬剤分包装置側の構成又は機能\である ことなどから,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられては\nじめて本件特許権に対する侵害が成立すると主張する。 しかし,前記(2)で検討したとおり,本件訂正発明は用途発明ではない。また, 本件訂正発明の技術的意義は,前記(1)認定のとおりであって,本件訂正発明の 特徴的部分が薬剤分包装置のみにあるということはできない。 したがって,一審被告らの上記主張は採用することができない。 なお,特許庁の審査基準(甲22)も,サブコンビネーション発明について用 途発明と同様に解釈することを求めているものとは解されない。
イ 一審被告らは,一審原告は,本件補正に際して,本件訂正発明の技術 的特徴が構成要件Aにあることを主張していたと主張する。\n一審原告は,本件補正に際しての意見書(乙9)において,本件補正に先立つ 拒絶理由通知の引用文献記載の技術に対して,「本願発明では『回転角度と測長 センサの検出信号を検出してロールペーパの巻量が検出可能な位置に配置され\nた磁石』の構成を有し,かつ『角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不\n一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸との ずれを検出するようにした』薬剤分包装置に用いられることを前提とするロー ルペーパについての発明であり,部分的な構成部材の抽象的,総論的な構\成が公 知,周知であるという理由だけで,本願発明の全体の構成が全て否定されること\nにはならないと考えます。」と主張しているものの,そのことから直ちに一審原 告が構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いられることが必要であるとまで\n主張していたとは解されないから,一審被告らの上記主張を採用することはで きない。
ウ 一審被告らは,原審裁判所の暫定的見解について主張するが,原審裁 判所の暫定的見解によって当審の判断が左右されないことは明らかである。
・・・・
一審被告らは,非純正品であることを明示して販売していたことや 購入者が調剤薬局であることなどからすると,購入者は被告製品が非純正品で あること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識しており,出所 表示機能\や品質保証機能が害されていないから,商標法26条1項6号が適用\nされるか,実質的違法性を欠き,商標権侵害が成立しないと主張する。 しかし,以下の(ア)〜(オ)の各事情を考え併せると,購入者の全てが,被告製 品が非純正品であること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識 していたとは認められず,一審被告らの上記主張はその前提を欠くものであっ て,採用することができない。
(ア) まず,前記(1)イのとおり,被告製品については,ウェブサイト のみならず,ダイレクトメールやFAX等による宣伝活動もされており,顧客が 一審被告らのウェブサイトを経由することなく被告製品を購入する場合もあっ たと認められるところ,ダイレクトメールやFAXにおいて,どのような態様で 宣伝がされていたのかは証拠上必ずしも明らかではない。
(イ) 一審被告らは,顧客に対し,非純正品であることを説明していた と主張するが,一審被告らの下で稼働していた従業員は,その点に関し,刑事事 件の公判廷において,「電話で口頭で説明するときに,『純正の紙と違うので』 と説明した。」,「電子メールで顧客に説明する際にも電話での説明の場合と同 様に非純正であることを顧客に説明したように思うが,よく覚えてない。」と曖 昧な供述をしている(乙4)上,同供述の裏付けとなるような顧客への対応マニ ュアルや顧客に送付された電子メールといったようなものは何ら証拠として提 出されていないから,一審被告らの主張するような説明が常に顧客に対してさ れていたとは認められない。
(ウ) 被告製品の購入を申し込むために顧客が一審被告らに対して送\n付する「注文書兼使用許可書」についても,「非純正」の文字(乙25の1・2) は,後から記載されるもので,常に記載されていたのかは証拠上明らかではない し,また,「非純正」の文字が取り立てて大きく表示されたり,強調されたりし\nていないことからすると,仮に記載されていたとしても顧客がこれに気付かな いこともあり得る。そして,前記(1)イのとおり,顧客から使用済み芯管の送付 を受けることなく,被告製品が販売された事例があることからすると,上記の 「注文書兼使用許可書」が常に使用されるものであったとも認められない。 納品書(乙26)についても,「分包紙はお客様からお預かりした芯で作りま した。」とだけ記載されており,非純正品であることが明示されているわけでは ない。
(エ) 前記(1)ウのとおり,一審被告らのウェブサイトには「非純正分 包紙」という記載があったものの,被告ネクストウェブサイトの非純正品ウェブ ページ1では,「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されて\nいるのみで,非純正品であることが明示的に記載されていなかった上,被告ヨシ ヤウェブサイトの非純正品ウェブページ2でも,「ユヤマ分包機対応」という記 載と共に各種の製品が表示されており,「非純正分包紙」という記載が左欄に小\nさく記載されているにすぎないことからすると,一審被告らのウェブサイトに 接した購入者の全てが,被告製品が非純正品であると正確に認識するとは認め られない。
(オ) 購入者が調剤薬局であるからといって,その注意力が常に一般 消費者に比して高いとまではいえず,購入者の一人が,被告製品が非純正品であ ると認識していたことがある(乙19,113)からといって,それにより全購 入者が同じ認識であったとは認められない。 なお,一審被告らは,調剤薬局の薬剤師の間では,当該調剤薬局で使用してい る薬剤分包用ロールペーパの仕入先や問合せ先に関する情報が共有されている と主張するが,上記(ア)〜(オ)で検討してきたところによると,そもそも,調剤 薬局において,被告製品を非純正品(一審原告の製品でないもの)として購入す るとは限らないというべきであるから,仕入先や問合せ先に関する情報が共有 されるかどうかは,本件の結論を左右するものではない。

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◆平成28(ワ)7536

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平成31(ネ)10034  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁はこれを維持しました。

 構成要件Gの「前記上位ノード変数データ」の意義について\n
a 本件発明の構成要件Fの「前記スクリプトは,当該ノードデータに\n含まれる変数データである自ノード変数データと,当該ノードの直系 上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変 数データを利用した演算を行って,前記自ノード変数データの値を求 める代入用スクリプトを含んでおり」との記載及び構成要件Gの「前\n記表示された木構\造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノー ド変数データ,前記上位ノード変数データ及び前記スクリプトを表示\nするノードデータテーブル表示ステップ」との記載から,本件発明の\n「上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノー ドデータに含まれる変数データ」であり,構成要件Fの「前記自ノー\nド変数データの値」を求める「代入用スクリプト」による演算に利用 される「変数データ」であることを理解できる。 次に,本件明細書には,「上位ノード変数データ」に関し,「変数 情報は,各ノードが保持するデータであって,変数名に対応させて記 憶される。記憶される変数は,下位ノードから参照される公開変数と, 自ノード内でのみ使用する限定変数を含む。また,変数の値(「変数 データ」と記述する場合もある。)は,固定値が設定されても,スク リプトの実行によって演算された値が設定されてもよい。また,UR Lが設定されてもよい。どのような値が設定されるかは任意である。」 (【0031】),「代入用スクリプトは,自ノードの変数の値を演 算するためのものである。代入用スクリプトは,自ノードの変数の値 である自ノード変数データと,そのノードの直系上位ノードの公開変 数の値である上位ノード変数データを利用して記述することが可能で\nある。」(【0032】),「公開変数表示領域に表\示される公開変 数は,自ノードの公開変数51と,直系上位ノードの公開変数52を 含み,直系上位のノードの公開変数52は,自ノードの公開変数51 と異なる色で表示される(図10では,フォントを変えて示してある。)。\nまた,公開変数には,固定値が入力される公開変数と,代入用スクリ プトの実行によって計算される公開変数があり,修飾領域に「なし」 あるいは「要計算」を表示することによりに区別される。」(【00\n65】)との記載がある。 そして,図10には,「直系上位ノードの公開変数の値である上位 ノード変数データ」として,「52」に「変数名」及びそれに対応す る「値」が示されている(例えば,「変数名」の欄「パネル色」・「値」 欄「KW−400」)。 これらの記載によれば,本件明細書には,「上位ノード変数データ」 にいう「変数データ」は,「変数の値」を含むデータであることの開 示があることが認められる。 以上の本件発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によ れば,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノードのうちの選択さ\nれたノードの前記自ノード変数データ,前記上位ノード変数データ及 び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」に いう「前記上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノー ドのノードデータ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると解 される。
b これに対し控訴人は,本件明細書の【0032】における「変数の 値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変数 データ」という用語を,文脈によって,変数の値を指す意味で用いる こともあるという注意書きであると理解できること,「変数データ」 は,変数名と変数の型を意味するというのが,プログラミングに関す る通常の用語であること(甲24),実質的にも,本件発明が「ノー ドデータテーブル表示ステップ」において上位ノード変数データを表\ 示させる目的は,表示された木構\造の個々のノードに対応付けられた 詳細情報を簡単に表示することができる(【0009】)ことにより,\n文書ファイル(プログラム)の編集を容易にする点にあり,変数名が 分かれば,その目的を達成することができることからすると,本件発 明の「上位ノード変数データ」は,本件明細書において文脈上変数の 値を意味すべき場合を除き,変数名を指すと解すべきである旨主張す る。 しかしながら,本件明細書には,「上位ノード変数データ」が変数 名のみで構成される場合を含むことについての記載や示唆はない。\nまた,前記aの本件明細書の記載に照らすと,【0032】の「変 数の値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変 数データ」は「変数の値」を意味することを示した記載であると解す るのが自然であり,これが変数の値を指す意味で用いることもあると いう注意書きであるということはできない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告プログラムにおける「ノードデータテーブル表示ステップ」の\n有無について
a 控訴人は,入力コネクタは,親ボックスから引き渡される値を記憶 する変数が図形化されたものであり,入力コネクタの名称が構成要件\nGにおける「上位ノード変数データ」に該当すること,インスペクタ 及びスクリプトエディタに表示される入力コネクタの名称に関する\n情報の表示は,上位ノード変数データを表\示するものであることから すると,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノ\nードデータテーブル表示ステップ」を備えている旨主張する。\nしかしながら,前記(ア)a認定のとおり,構成要件Gの「前記上位\nノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノードデー タ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると認められるところ, 入力コネクタの名称は,「変数の値」であるとはいえないから,控訴 人の上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
b 控訴人は,被告プログラムの構成g’に関し,被告プログラムのS\nay Textボックスの「スクリプトエディタ」において「親から の変数を取得」機能を使う場合,上位ノードであるSayボックスの\n変数から利用可能なものを一覧表\示する機能があるから,被告プログ\nラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えている旨主張する。\n しかしながら,控訴人の上記主張は,「スクリプトエディタ」にお いて,どのような「上位ノード変数データ」が表示されるのかについ\nて具体的に主張するものではないから,その主張自体理由がない。
c 以上によれば,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表\n示する「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えているものと認\nめることはできないから,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノ\nードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ,前記上位 ノード変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えているものと認めることはできない。\n
ウ まとめ
以上のとおり,被告プログラムは,構成要件Gの「木構\造を表示する木\n構造表\示ステップ」及び「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えて\nいるものと認められないから,構成要件Gを充足しない。\n

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◆平成29(ワ)31706

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平成30(ワ)7123  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月24日  大阪地方裁判所

 CS関連発明についての侵害事件で、大阪地裁21部は技術的範囲に属しないと判断しました。争点は「前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない」という用語の技術的意義です。

ア そもそも,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の 記載に基づいて定めなければならないとされている(特許法70条1項)。 そこで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1をみると,構成要件Eとして,次\nのように記載されている。 「前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た 後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信 しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」 ここでは, 「前記広告情報管理サーバは,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しな いこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」 と記載されるのではなく,「前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後, 再び前記指定地域内に戻っても,」という文言(以下「本件指定地域に関する文言」 という。)がみられる。 このように,構成要件Eには本件指定地域に関する文言がわざわざ付加されてい\nるから,その文言には何らかの意味があるものとして理解すべきであり,構成要件\nEについて本件指定地域に関する文言がない場合と同じ解釈をすることは許されず, その文言によって本件発明1の構成が特定(限定)されているものと理解するのが\n相当である。
イ そこで,本件指定地域に関する文言の意義について検討すると,ここで いう「指定地域」とは,構成要件C及びDの記載を踏まえると,広告提供者から入\n手した配信先情報に含まれる,広告提供者が広告情報を配信する地域として指定し た地域のことである。 そして,構成要件Eは,構\成要件Dにおいて,無線通信装置が少なくとも1回は 広告情報の配信を受けたことを踏まえたものであるから,無線通信装置がその時点 で上記指定地域内に存在していたことが前提となるが,無線通信装置は,その性質 上,(1)その指定地域内に存在し続ける場合((1)の場合)もあれば,(2)指定地域外に 出る場合もあり,後者の場合については,指定地域外に出たままの場合((2)−1の 場合)もあれば,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻る場合((2)−2の 場合)も想定される。 このうち,指定地域外に出たままの場合((2)−1の場合)に,無線通信装置に同 じ広告情報が送信されないことは明らかであるが(これは構成要件Eによるもので\nはなく,指定地域内の無線通信装置に広告情報を送信するという構成要件Dの構\成 による作用効果である。),指定地域内に存在し続けている場合((1)の場合)及び 一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合((2)−2の場合)には,無 線通信装置に同じ広告情報が送信される可能性がある。\nそうすると,本件指定地域に関する文言は,無線通信装置に同じ広告情報が送信 される可能性がある場合のうち,上記(2)−2の場合だけを記載し,上記(1)の場合を あえて記載していないことになる。
ウ 以上のことを踏まえると,構成要件Eは,広告情報管理サーバが,特に,\n無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同じ広 告情報を無線通信装置に送信しないことを特徴とするということを記載したものと 解すべきこととなる。 もっとも,これは,広告情報管理サーバが広告情報を無線通信装置に送信するも のであること(構成要件C)を踏まえ,同じ広告情報を再送信するかどうかという\n機能ないし作用効果に着目して記載されたものであり,その具体的構\成について, 当該広告情報管理サーバは,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないよ うにする構成を備えているだけでは足りず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地\n域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しない ようにする構成を備えていなければ,構\成要件Eを充足するとはいえないと解すべ きである。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件明細書の【0070】の記載を指摘し,構成要件Eは,\n広告情報管理サーバが,無線通信装置への広告の配信回数が0であるか1であるか を表す送信済フラグに基づいて,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再\nび配信エリア内に戻った場合には,広告情報を再送しないようにする態様を含むも のと解すべきであると主張する。 原告の主張のように,構成要件Eが,無線通信装置への広告の配信回数のみによ\nって広告情報を再送信しないようにする態様を含むと解する立場をとると,無線通 信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻った場合だけでなく, 無線通信装置が配信エリア内に存在し続けている場合にも,同じ広告情報が再送信 されなければ構成要件Eを充足することになる。\nしかしながら,「一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻って も」という構成要件Eの用語は,一義的に明確というべきであるし,特許請求の範\n囲には,発明を特定するために必要な事項が記載され(特許法36条5項),特許 発明の技術的範囲が,特許請求の範囲の記載に基づいて定められることは前述のと おりであるから(同法70条1項),前記(2)−1と(2)−2の態様を区別する構成な\nしに,広告情報の配信回数を制限し得ることをもって,構成要件Eを充足すると解\nすることはできない。
(イ) 本件明細書の【0070】では,広告情報管理サーバによる広告情報 (広告メッセージ)の配信方法等について記載されており,広告を配信する際,「個 人情報データベースに項目として本広告メッセージに対応する広告IDを追加し, 送信済フラグを立てる。これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを 重複して送信することがなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た 後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッ セージを送信しない。」と記載されている。 この記載のうち,「即ち」よりも前の記載は,個人情報データベースに配信した 広告メッセージに対応する広告IDを追加し,送信済フラグを立てると,その広告 メッセージの配信を受けたユーザーに対しては,同一の広告メッセージを重複して 送信することがなくなるとの当然の機能ないし作用効果を記載したものと解される\nが,「即ち」の後ろの記載は,「携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び 指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを 送信しない。」というものであり,前記イで判示したとおり,携帯端末1Aが指定 地域内に存在し続けており,同一の広告メッセージを重複して受信する可能性があ\nる場合があえて除かれていることから,「即ち」の前の記載と同視し得るものと認 めることはできず,「即ち」の前の記載と後ろの記載とは,本来,「即ち」という 接続詞を用いて接続することのできる関係にはないといわざるを得ない。 したがって,構成要件Eは,【0070】の「即ち」の後ろの記載に対応するも\nのであるが,上記検討したところによれば,「即ち」の前の記載が,構成要件Eの\n意味内容である,あるいは,本件発明1の実施例であるということはできない。 また,【0070】は【0069】の後に記載されているところ,【0069】 では,広告情報管理サーバが,広告配信サービス契約を結んだ全てのユーザの携帯 端末の位置情報を時々刻々更新しており,常にそれら端末の現在位置を把握してい ることが記載されている。そして,【0070】の「即ち」の後ろでは,無線通信 装置が指定地域内に存在し続けている場合が除かれていることからすると,そこで は,特に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合 に,同じ広告メッセージを送信しないということを記載したものと読むのが自然で ある。 以上のことを踏まえると,【0070】の記載内容によって,前記ウの解釈は左 右されないというべきである。
(ウ) 本件特許の出願経過について
・・・・
(d) 原告は,同日,特許庁審査官に対し,意見書を提出し,上記補正 後の特許請求の範囲の請求項1について,その内容を記載した上で,「特に,『前 記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再 び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない こと』に特徴付けられるものであります。」「本願発明は,かかる特徴的な構成を\n有機的に関連付けて具備することにより,明細書の段落0070に記載した通り, 『これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを重複して送信すること がなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に 戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。』 という特有の作用・効果を奏するものであります。」などと説明した。また,原告 は,拒絶理由通知における引用文献との対比の項目でも,上記構成を含む構\成を「最 大の特徴」とした上で,引用文献にはこの構成についての記載や示唆は一切なく,\n補正後の請求項に係る各発明は,引用文献に記載された発明から当業者が容易に発 明することができたものではないと結論付けていた(乙1)。
(e) その後,上記請求項26を本件特許の設定登録時のもの(前記第 2の1(3)ウ参照)と同じ内容に変更する補正がされるなどした後,本件特許につい て特許査定がされた。
c 前記bで認定した本件特許の出願経過に照らし検討すると,確かに, 構成要件Eは本件明細書に【0070】の記載があることを踏まえて追加されたも\nのであることがうかがわれるが,原告は,上記補正に当たって,構成要件Eの構\成 を「特徴的な構成」などと位置付けた上で,この構\成を含む構成についての記載や\n示唆が引用文献には一切ないことを前提として,これを強調していた。 他方で,乙3の1の1ないし乙4の2によれば,本件特許が出願された平成12 年9月以前から,インターネットを利用した広告情報(バナー広告)の配信サービ スの分野においては,ユーザー(利用者)に対して同じ広告が配信(表示)される\n回数をコントロール(制限)することによって,「バナーバーンアウト」(広告に 反応がなくなる状態)ないし「バナー飽き(wearout)」を防止し,効果的な宣伝広 告を実現することが広く行われていたと認められる。この点,原告も,乙3の1の 1等で触れられているダブルクリック社の DART や乙4の1,2の公知技術が,広告 の配信回数を管理するものであることを認めている。 そうすると,原告が本件特許の出願経過において,単に,本件特許の出願前から 広く行われ,公知技術でもあった同じ広告の配信回数を管理するという構成による\n機能ないし作用効果を構\成要件Eに記載し,これを本件特許の「特徴的な構成」な\nどとして強調していたとは考え難い。 むしろ,前記認定の原告による本件特許の出願経過における説明内容に加え,本 件特許の出願当時,広く行われ公知とされていた技術を前提とすれば,原告は,特 に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同 じ広告情報を無線通信装置に送信しないようにする構成を強調していたと理解する\nのが自然である。 したがって,先に判示した構成要件Eの解釈は,原告による本件特許の出願経過\nにおける説明等とも整合的ということができ,これに反する原告の主張は採用でき ない。

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平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審同様、技術的範囲に属する、無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)と判断されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性
なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められる。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合 するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(ネ)10043  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月3日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は、化分野の発明について、特許請求の範囲が抽象的な表現で記載されている場合、特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定せず、明細書などの記載から当業者が実施できる範囲は、その技術的範囲に含まれると判断基準を示しました。ただ、結論は、1審と同じく、技術的範囲に属しないとしました。問題の用語は「凝血促進活性を増大させる」です。

 本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明1に係る特許請求の範囲)の 記載は,「第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体であって, 凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHI X−5041:Haematologic Technologies社製,抗体 クローンHIX−1:SIGMA−ALDRICH社製,抗体クローンESN−2: American Diagnostica社製,および抗体クローンESN−3: American Diagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を 除く)。」であり,請求項4(本件発明4に係る特許請求の範囲)は請求項1を引用 している。ここで,「凝血促進活性を増大させる」との記載の意義については,本件 明細書においてこれを定義した記載はない上,「血液凝固障害の処置のための調製 物を提供する」(段落【0010】)という本件各発明の目的そのものであり,か つ,本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表\現しているのみで あって,本件各発明の目的又は効果を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。\n特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示する ことの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が 機能的,抽象的な表\現にとどまっている場合に,当該機能や作用効果を果たし得る構\成全てを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含めて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独\n占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきで ある。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表\現で記載されて いる場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすること はできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具 体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。もっとも,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定す\nるものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が理解することができ,実施す ることができるのであれば,同構成はその技術的範囲に含まれるものと解すべきである。\n
イ そこで,本件明細書において開示された具体的構成に示されている技術思想について検討する。\n
(ア) ある抗体が,FIX又はFIXaに結合し,FIXaの凝血促進活性 を増加するか又はFVIII様活性を有することを示すための試験方法としては, 凝血試験や色素形成試験等があり,これらによって評価が可能である(段落【0013】,【0014】,【0037】,【0065】)。そして,FIXaに対する抗体を\nスクリーニングし,色素形成アッセイによってFVIII様活性を有するモノクロ ーナル抗体(モノスペシフィック抗体)が複数作製されており(実施例4,9),そ の中でFVIIIインヒビターを有する血漿の凝血をもたらす抗体(193/AD 3)も確認されている(実施例7)。したがって,当業者は,FIXaに対する抗体 をスクリーニングすることにより,過度の試行錯誤を要することなく,一定の割合 で凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作 製できたと認められる。 また,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体) からの誘導体も複数作製されているから(例えば,CDR3領域由来ペプチド及び その誘導体〔実施例11,12〕,キメラ抗体〔実施例13〕,Fabフラグメント 〔実施例15〕,単鎖抗体〔scFv。実施例10,16,18〕,ミニ抗体〔実施 例17〕),当業者は,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシ フィック抗体)からの誘導体も作製できたと認められる。
 (イ) バイスペシフィック抗体については,本件明細書において,実施例と して作製された例は記載されておらず,FIX又はFIXaに結合するアーム以外 のアームが結合する対象の抗原がいかなるものかも開示されていない。 しかし,バイスペシフィック抗体は,抗体誘導体の一態様として明記されている (段落【0019】及び【0026】)。そして,バイスペシフィック抗体ではない ものの,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作 製されている(実施例10〜13,15〜18)。 また,FIX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体の作製法は,本件出 願日当時に複数知られており,その中でも,クワドローマ技術は簡便な方法であり, 本件出願日当時の当業者にとって,合理的な時間及び努力の範囲内でバイスペシフ ィック抗体を作製できる手法であったのであり,また,バイスペシフィック抗体を 産生するクワドローマを融合し及び選択する種々の方法及びプロトコルは,199 9年において,利用可能であり,良好に確立され,二重特異性のIgG分子を作製するのに幅広く用いられていた(本件明細書の段落【0026】,甲97,100〜\n104,甲140の1)のであるから,当業者は,本件出願日の技術常識から,F IX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体を作製可能であったと認められる。\nさらに,前記3(2)のとおり,バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性と 抗FIXのモノスペシフィック抗体とは乏しい相関関係しかなく,バイスペシフィ ック抗体のFVIII補因子活性は,抗FIX抗体由来の構造だけなく,抗FX抗体由来の構\造にも影響を受けるのであるが,バイスペシフィック抗体においては,FIX又はFIXaに対する結合部位は1価になるものの,1価でも凝血促進活性 を増大させる効果があり(本件明細書実施例10〜12,15,16,18),バイ スペシフィック抗体の二つの抗原間で立体干渉が生じない限り,モノスペシフィッ ク抗体の活性は維持される(甲140の1)。FIX又はFIXa以外の結合部位が FXである場合を想定すると,本件出願日当時,FIXaとFXaの構造が明らかとなっており,FIXaとFXaの立体構\造からすると,当業者は,FIXaとFXに結合するバイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフ ィック抗体)で,FIXa結合部位の活性に対する干渉は起こりにくいと予測できる(甲140の1)。\nしたがって,当業者は,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型 バイスペシフィック抗体)が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増 大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)についても,\nモノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態 様として「抗体誘導体」に含まれると解される。
(ウ) 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには, 「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子 に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつ つ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの,バイスペシフ ィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)は「抗体誘導 体」の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。 もっとも,FIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィッ ク抗体)がFIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には,別 異に解すべきである。すなわち,本件各発明の技術的範囲に属するというためには, 「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子 に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつ つ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,こ れには,FIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものではないFIX又はF IXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし, このようなモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘 導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。)も含まれないというべきである。 このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体がFIX aの凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の 課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされ ているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が理解し,実施できるもの とはいえないというべきである。
(エ) 被控訴人は,(1)非対称型バイスペシフィック抗体の著しく高い活性 は,一つの分子が2種類のアームを有するというバイスペシフィック抗体に固有の 機序によって初めて実現されたもので,非対称型バイスペシフィック抗体は,本件 明細書においてハイブリドーマ方法によって得られたモノスペシフィック抗体とは 活性及び機序の点で大きく異なっており,本件各発明の課題解決手段とは異なる手 段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたされていることになる,(2)FVI II補因子活性は,抗FX腕によって影響を受けるため,抗FIX(a)腕及び抗 FX腕の何れの組合せが非対称型バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性 を発現するのか,予測することが困難である,(3)現時点においてすら,非対称型バ イスペシフィック抗体の適切な評価手法が確立できていないことなどからすると, 本件明細書は,非対称型バイスペシフィック抗体を想定していなかったといえると 主張する。 しかし,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィ ック抗体)が抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれ得ることは,既に 判示したとおりであって,このことは,被控訴人が主張する非対称型バイスペシフ ィック抗体の凝血促進活性を増大させる効果が大きいことや,抗FIX(a)腕と 抗FX腕の何れの組合せが効果があるかを予測することが困難であることや現時点において,非対称型バイスペシフィック抗体の適切な評価方法が確立していないこ\nとによって左右されるものではない。 (オ) 本件明細書においては,凝血促進活性を図る方法について,2時間の インキュベーション後のFVIIIアッセイ(例えば,COATEST(登録商標) アッセイまたはイムノクロム(Immunochrom)試験)において少なくと も3のバックグラウンドの対測定値の比を示すとされている(段落【0013】,【0 014】。なお,「バックグラウンドの対測定値の比」は,「ネガティブコントロール との比」と同義である。)が,色素形成アッセイ以外にも凝固アッセイなどFVII I活性を決定するために使用される全ての方法が使用でき(段落【0037】,【0 065】),同じ色素形成アッセイであってもインキュベーション時間が2時間では ない例も記載されている(実施例2,4,5,実施例11・図18〜22,実施例 15〜18)。
このように,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在して おり,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないとはいえる ものの,本件明細書では,段落【0013】及び【0014】に前記2(1)クのとお り記載され,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7 程度(例えば,段落【0081】・図11において,198/AP1はネガティブコ ントロールとの比が1.7程度であるが,凝血促進活性を示さないとされている。 段落【0067】・図7A(196/AF2 35μM Pefabloc Xa〔登 録商標〕),段落【0068】・図7B(198/AM1 35μM Pefablo c Xa〔登録商標〕)も同様。)や2程度(段落【0105】・図20において,A 1/5はネガティブコントロールとの比が2程度であるが,有意な凝血促進活性は ないと評価されている。)の場合においては,「凝血促進活性を増大させる」とは評 価されていない。 本件明細書のこれらの記載に加え,前記アのような本件各発明の請求項の記載を 考慮すると,当業者は,本件各発明の範囲に含まれる抗体又はその誘導体は,複数 の評価方法のうち,色素形成アッセイ(FVIIIアッセイ)を実施した場合には, 少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比(ネガティブコントロールとの比) を示すものが本件各発明の抗体及び抗体誘導体であると理解すると認められるから, 「凝血促進活性を増大させる」とは,色素形成アッセイを実施した場合には,ネガ ティブコントロールとの比が3を超えることを意味すると認めるのが相当である。 これに対し,控訴人らは,「凝血促進活性を増大させる」について,当業者は,ネ ガティブコントロールとの比が1を超えるものであるか否かで判断する旨主張し, 本件明細書の段落【0013】の記載は,「最終的に生成された物の評価をする際に 何らかの値を決めておく必要があるので,とりあえず3としたという程度の意味で ある」(甲131の3頁),「任意に設定された仮の基準であり,すべての候補物質に 適応すべき必須の条件ではない」(甲132の3頁),「ノイズや測定誤差の大きさに 関する記載がない以上,統計学的議論から根拠をもった基準として3を導くことは できない」(甲136の1頁)などの意見書を提出するが,これらの意見書によると, 本件各発明の技術的範囲が当業者にとって明らかでないことになるから,これらの 意見書の意見や控訴人らの主張を採用することはできないことは,既に判示したと おりである。
(2) 上記(1)のとおり,「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,色素形成 アッセイを実施した場合のネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味 するが,色素形成アッセイの測定方法について,控訴人らは,本件明細書の記載及 び技術常識によると,コンティニュアス法によるアッセイを行うのであればインキ ュベーション時間を2時間とし,サブサンプリング法によるアッセイを行うのであ れば第1ステップのインキュベーション時間を5分とし,長時間のインキュベーシ ョン時間をとるのであれば,酵素の最大反応速度をみるために,継続的に測定すべ きである旨主張する。
ア コンティニュアス法及びサブサンプリング法について 証拠(甲210,甲229の1)及び弁論の全趣旨によると,サブサンプリング 法とは,FXaを生成させる第1ステップと,生成したFXaを定量する第2ステ ップを分離して実施する色素形成アッセイの方法であり,第1のステップではFX aを生成させるのに必要な試薬と被験抗体を混合させ,一定時間インキュベーショ ンさせてFXaを生成し,第1ステップで生成されたFXaの反応をみるために, 第2ステップに移行する前にFXaの生成を止め,第2ステップで,上記混合物に 発色性合成基質を添付することで,第1ステップで生成されたFXaが発色性合成 基質を切断し,発色する様子を測定するという標準的な FVIIIアッセイで用い られている方法であること,コンティニュアス法とは,第1ステップ(FXa生成 反応)及び第2ステップ(FXaによる発色反応)からなる一連の反応を1ステッ プで行う方法であり,被験抗体,FIXa,FX,リン脂質,カルシウムイオン, 発色性合成基質等の一連の反応に必要な試薬を全て最初から投入し,第1ステップ であるFXa生成反応と,第2ステップである生成したFXaによる発色反応とを 同時に進行させて,吸光度を経時的に測定することにより,FXa生成量の推移を 継続的に観察するものであることが認められる。
 イ 証拠(甲208,211,213,乙39)及び弁論の全趣旨によると, 本件明細書の段落【0013】に記載されているCOATEST(登録商標)やイ ムノクロムは,サブサンプリング法の色素アッセイキットであり,コアテストの仕 様書や,イムノクロムの後継品であるテクノクロムの仕様書にはインキュベーショ ン時間は5分間とされていることが認められるが,本件明細書の段落【0013】 においては,インキュベーション時間は2時間とされているから,本件明細書の段 落【0013】においては,サブサンプリング法を用いつつも,インキュベーショ ン時間を2時間として色素形成アッセイを実施したところ,少なくとも3のバック グラウンドの比を示すものが本件各発明である旨記載されていることになる。 この点について,控訴人らは,インキュベーション時間を2時間とすると,イン キュベーションの途中で,基質の消費に伴い,反応速度は最大反応よりも低下し, 第1ステップのインキュベーション時間の間,FIXaが失活してしまい,その結 果,FXaの生成速度も低下し,さらに,生成物であるFXaも自己消化を起こし, 血液凝血性やアミド活性を持たないFXaγに変換してしまうので,FXaの産出 量は本来の産出量より少なくなっていて,適切でなく,インキュベーション時間は 仕様書のとおり5分が適切であると主張する。 しかし,本件明細書には,上記のとおり,インキュベーション時間を2時間とし たものしか記載されていないのであって,本件明細書においては,インキュベーシ ョン時間を仕様書の記載に反してあえて2時間とし,そのときのFXaの産出量を もって,3のネガティブコントロールとの比を評価するときの産出量としているの であるから,当業者は,3のネガティブコントロールとの比を評価するに当たり, インキュベーション時間が5分の場合を想定することはできないというべきである。 なお,本件明細書において,インキュベーション時間を2時間とした理由につい ては,本件明細書に記載はなく,本件の証拠によるも必ずしも明らかでないが,そ のことは上記判断を左右するものではない。 そうすると,当業者は,本件各発明の「凝血促進活性を増大させる」というため には,インキュベーション時間を2時間とする測定を要すると理解すると解される。
ウ 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第 IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対 するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当 該抗体を改変した抗体誘導体」であり,インキュベーション時間を2時間とする色 素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味す ると認めるのが相当である。
・・・
エ 以上によると,被控訴人製品は,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的 に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペ シフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該 当するとは認められない。

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◆平成28(ワ)11475

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平成29(ワ)44181  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月18日  東京地方裁判所

 東京地裁(40部)は、構成要件11D等における「送信先」としては、「ドメイン」を含まないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害も第1要件を満たさないと判断されました。問題の構成要件における特定は、「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」というものです。原告キヤノンITソ\リューションズ(株)代理人鮫島弁護士、被告デジタルアーツ(株)代理人大野聖二弁護士です。

 原告は,制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の 「受信者」欄に,「*@zzz.co.jp」が定められており,これはドメインを表\nすものであるから,「送信先」には電子メールアドレスのみならず,ドメ インを含むと主張する。 しかし,前記のとおり,本件明細書等1には,制御ルールに関し,「「条 件定義部」は,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条 件」から構成される。…「受信者(宛先)」には,メール送受信端末11\n0から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールア ドレス(受信者情報) が設定されている」(段落【0040】),「「発 信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレ スを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカ ード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0\n041】)と記載されており,これらの記載によれば,上記「*@zzz.co.jp」 は,ドメインを意味するのではなく,「*」に任意の文字列を含み,ドメイ ン名を「zzz.co.jp」とする複数の電子メールアドレスを意味するという べきである。
原告は,「*@zzz.co.jp」がドメインを意味することは,複数の特許文献 (甲24,30〜32,乙15)などの記載からも裏付けられると主張す るが,特許請求の範囲や発明の詳細な説明において使用される言葉の意義 は各発明により異なることから,構成要件11D等の「送信先」の意義は\n本件特許に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づいて 解釈されるべきである。本件明細書等1の「*@zzz.co.jp」がドメインを意 味すると解し得ないことは上記判示のとおりであり,原告の挙げる他の文 献等の記載は上記結論を左右するものではない。
(イ) 原告は,本件明細書等の段落【0061】及び【図4】のステップS4 02には,「受信者」の「宛先」単位で電子メールの分割をすることを記 載しているが「受信者」の「宛先」にはドメインも含まれると主張する。 しかし,段落【0061】には「各宛先(受信者)のそれぞれを単一の 宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する」と記載されているところ, 同エンベロープの生成を説明する【図12】には,送信先(受信者) の電 子メールアドレスとして設定されている「A」,「B」,「C」のそれぞ れを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示 されているのであるから,同段落の「各宛先(受信者)」とは電子メール アドレスを意味するというべきである。
(ウ) 原告は,本件明細書等1の段落【0003】に記載の従来技術である乙 15公報における「宛先」には「電子メールアドレス」又は「ドメイン」 であることが記載されており,本件発明1において分割する単位をドメイ ンとしてもこの従来技術の課題を解決することができると主張する。 そこで,乙15公報をみるに,その段落【0032】には,【図2】の 「項目203,205にあっては,アカウントを*として,ドメインのみ を指定するとした設定も可能である」と記載されているが,ここにいう項\n目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合であって,一時保留\nせずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であ り,同図の項目205は,全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配 送する場合であって,配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者) に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である(段 落【0030】)。【図2】
このように,項目203及び同205は即配信又は送信不要リストを設 定するためのものであるから,段落【0032】の趣旨は,一時保留せず に即配信したいメールアドレスの即配信リスト(項目203)や,送信保 留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リス ト(項目205)に,任意のドメイン名を有する複数のメールアドレスを 一括して設定することも可能であることを述べたものにすぎず,電子メー\nルの「宛先」にドメインが含まれることを示すものということはできない。 そうすると,同段落の記載をもって従来技術である乙15公報における 「宛先」に「ドメイン」が含まれると解することはできないので,原告の 上記主張は前提において採用し得ないというべきである。
(エ) 原告は,電子メールをドメイン単位で分割する場合でも本件発明1の課 題を解決し得ると主張する。 しかし,電子メールをドメイン単位で分割するとなると,同一ドメイン の複数の電子メールのうち,一つのみの送出を保留すべきような場合に上 記課題を解決し得ないことは,前記判示のとおりである。 原告は,本件発明1はいかなる場合でも電子メールの送出制御を効率的 に行うことを課題と設定しているのではないと主張するが,本件発明1が その課題を解決し得ない構成を含むとは考え難く,特許請求の範囲及び本\n件明細書等1の記載に照らしても,「送信先」にドメインを含むとは解し 得ないことも,前記判示のとおりである。
エ 以上のとおり,構成要件11D等における「送信先」は「電子メールアド\nレス」のみを指し,「ドメイン」を含まないと解することが相当である。
・・・・
特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書 記載の従来技術との比較から認定されるべきであるところ(知財高裁平成2 7年(ネ)第10014号同28年3月25日判決),本件明細書等1には, 従来技術の「複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可 能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメー\nル送信までもが保留,取り消しがされることとなる」(段落【0004】) という課題を解決するため,電子メールに設定された複数の送信先を個々の 送信先に分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従って,電子メ ールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従って電子メー ルの送信制御を行うなどの構成を備えることにより,「ユーザによる電子メ\nールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御\nを行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる」(段落【0 008】)などの効果を奏するものである。
イ 原告は,本件特許1の特許メモ(乙9)などを根拠に,本件発明1の本質 的部分は,「送出制御内容を,電子メールの送信元と送信先とに対応付けた 制御ルールと,分割された電子メールの送信先と送信元とに従って,分割さ れた送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定すること」(構\n成要件11E)にあると主張する。 しかし,本件発明1の従来技術として挙げられているのは乙15公報であ り,本件明細書等1に記載されている課題は「複数の送信先が記載された電 子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれ\nば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ ととなる」というものであるところ,同課題を解決するためには,電子メー ルに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割した上で,制 御ルールを適用することが不可欠である。そうすると,構成要件11D等に\n係る構成は本件発明1の本質的部分というべきである。\n 原告は,特許メモ(乙9)の記載を根拠とするが,同メモには,本件特許 の出願時の複数の公知文献に本件発明1に係る構成が記載されているかど\nうかが記載されているにすぎず,本件発明1の従来技術として挙げられた乙 15公報との対比がされているものではなく,また,本件発明1の本質的部 分の所在を検討するものでもないので,同メモに基づいて,本件発明1の本 質的部分が構成要件11Eに係る構\成にあるということはできない。

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平成30(ワ)24717  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月17日  東京地方裁判所(46部)

 ゼンリンに対する地図表示に関する特許侵害事件です。争点は、構\成要件D、Fの「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」を具備していない、さらに均等侵害についても第1要件を満たさないと判断されました。

 特許請求の範囲の「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所 在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画 の記号番号と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)\nに照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページの特定の\n部分に記号番号を付し番地とこれに対応するページの特定の部分を一覧的 に示したりすることができるよう,検索すべき領域の地図のページを分割し, 認識できるようにすることといえる。 そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等 以外の住宅及び建物は番地のみを記載するなどし,全ての建物等が所在する 番地について,記載ページと当該ページ内で分割された区画のうち当該番地 が記載された区画を一覧的に対応させて掲載した索引欄を設けることによ って,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図の提供を可能\にする というものであり,本件発明の地図の利用者は,索引欄を用いて,検索対象 の建物等が所在する地番に対応する,ページ及び当該ページにおける複数の 区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区画内において, 検索対象の建物等を検索することが想定されている。そのためには,当該ペ ージについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割され,利用 者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうすると, 本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件発明 の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号によ り,検索対象の建物等が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でど の区画であるかを認識することができる形でページを分割することをいう といえる。
 また 前記(2)のとおり、本件明細書には発明の実施の形態において,本件 発明を実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明 細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図にお いては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示 されたうえで,そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて 複数の区画に分割されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付され ている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番 号及び区画番号が記載されており,利用者は,検索対象の建物の番地から, 索引欄において当該建物が掲載されているページ番号及び区画番号を把握 し,それらの情報を基に,該当ページ内の該当区画を認識して,その該当区 画内を検索することにより,目的とする建物を探し出すことが記載されてい る(【0028】)。ここでは,上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に 従った実施の形態が記載されているといえる。 加えて,本件明細書には,本件発明の「区画化」の用語を定義した記載は なく,【0017】ないし【0032】及び別紙「本件明細書図1」ないし 「本件明細書図5」で記載された実施形態以外には本件発明の実施形態の具 体的記載はない。なお,後記イのとおり,本件明細書の【0033】【00 37】に記載された地図は,本件発明の実施形態を記載したものとはいえな い。
したがって,本件明細書における発明の実施の形態に係る記載からしても, 構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページを見た利用者が,線そ\nの他の方法及び記号番号により,検索対象の建物等が所在する区画が,ペー ジ内に複数ある区画の中でどの区画であるかを認識することができる形で ページを分割することをいうと解される。
イ これに対し,原告は,本件明細書(【0033】【0037】)は,本件発明 の実施形態として,コンピュータが自動的に区画を探し出し,当該区画を画 面中央に配置し,当該区画内にある所望の建物をユーザが直接認識できる電 子住宅地図(全戸氏名入り電子住宅地図)を開示しており,このような構成\nを備える電子住宅地図では,ユーザが視覚的に地図内の位置を分かりやすく 探せるように仕切り線を設ける必要はないから,「区画化」もまたユーザが 目に見える形で仕切る構成に限定されない旨主張する。\n確かに,本件明細書には,全戸氏名入り電子住宅地図として「戸番地(住 所地番及び号)をキーとして,電子電話帳11の氏名データと,住所入り電 子住宅地図12のポリゴンデータとを連結する。」(【0035】),「この全戸 氏名入り電子住宅地図14は,パソコン13のキーボードから氏名を入力す\nれば,その人物の居住する建物を中心にした地図がパソコン13の表\示装置 に表示され,その人物の居住する建物にマークが付されて,そのマークが点\n滅する。」(【0037】)との記載がある。
しかし,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,上記【0037】 記載の動作に対応する構成の記載はない。また,本件明細書には,「公官庁\nや住宅関係の企業では,今まで通り氏名入りの住宅地図を必要とする場合も 考えられる。そのような場合でも,…全戸氏名入りの住宅地図を作成するこ とができる。」(【0033】)との記載があるところ,上記記載中の「今まで 通り氏名入りの住宅地図」とは,「建物表示に住所番地ばかりではなく,居\n住者の氏名も全て併記」された「従来の住宅地図」(【0002】)を指すと 解されること,【0037】の全戸氏名入り電子住宅地図14においては, 利用者がパソコン13のキーボードから氏名を入力することによりその人\n物が居住する建物を検索する場合,マークの付された建物に表示された氏名\nを視認することによって検索の目的とする建物との同一性を確認するもの と理解できることからすると,全戸氏名入り電子住宅地図14は,「全戸」 の氏名が表示された地図であるものと認められる。そうすると,全戸氏名入\nり電子住宅地図14は,構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビ\nル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名及び建物名称の記載を 省略し」の構成を備えていない。\n
 したがって,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14は,本件発 明の実施形態に含まれるとは認めることはできない。なお,本件発明の出願 経過によれば,本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(乙8の2,8 の3)記載の特許請求の範囲は旧請求項1ないし11からなり,旧請求項7 ないし11には,「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の記載 があり,発明の詳細な説明中の【0014】ないし【0016】に旧請求項 7ないし11を引用した記載部分があったが,同年10月21日付けの手続 補正(乙9)により,旧請求項1の文言を補正し,旧請求項2ないし11及 び【0014】ないし【0016】を削除する補正がされたこと,上記補正 後の請求項1は,拒絶査定不服審判請求と同時にされた平成13年6月7日 付けの手続補正により本件発明の特許請求の範囲記載の請求項1と同一の 記載に補正されたこと(乙10)に照らすと,本件明細書の【0033】な いし【0038】記載の全戸氏名入り電子住宅地図14に関する記載は,平 成11年10月21日付けの手続補正により削除された旧請求項7ないし 11記載の「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の実施形態で あると認められる。 以上によれば,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14が本件発 明に含まれることを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
・・・・
原告は,仮に縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図が,各ペー ジに線その他の方法及び記号番号を付されていない点において構成要件Dと相違\nするとしても,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,均等の 成立要件(第1要件ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なも のとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。 前記2(1)のとおり,本件発明の技術的意義は,検索の目安となる建物を除く建 物名称や居住者氏名の記載しないため,高い縮尺度で地図を作成することにより 小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや(構成要件B\n及びC),地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住 宅地図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以\n外の住宅及び建物は番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化し たうえで,全ての建物等の所在する番地を,当該番地の記載ページ及び記載区画 を特定する記号番号と一覧的に対応させた索引欄を付すことによって,簡潔で見 やすく迅速な検索を可能にする住宅地図を提供すること(構\成要件DないしF) を可能にする点にあるものと認められる。\n
 しかしながら、被告地図においては前記2(1)で認定したとおり,地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に見える形で複 数の区画に仕切られていないため,ユーザが所在番地の記載ページ及び区画の記 号番号の情報から検索対象の建物等の該当区画を探し,区画内から建物を探し出 すことができないから,迅速な検索が可能であるということはできない。\nしたがって,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発 明の本質的部分を備えているものとは認めることができず,同被告地図の相違部 分は,本件発明の本質的部分でないということはできないから,均等の第1要件 を充足しない。よって,その余の点について判断するまでもなく,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはで\nきない。

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平成30(ワ)13400  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  東京地方裁判所(40部)

 文言侵害、均等侵害とも否定されました。論点は係止爪の位置です。本件発明をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓んで拡がることにより解決しているが、被告製品は本件発明1と異なる構成で実現していると、判断されました。\n


 均等論の本質的部分(第1要件)
 本件発明1と被告製品との相違点は,本件発明1では,係止爪がサブアー ム部の上端部に位置するものであるのに対し,被告製品では,爪部の上部に フック部が設けられ,爪部がサブアーム部の上端部に位置するとはいえない 点にあるところ,被告は,原告の均等侵害の主張に対し,第4要件を充足す ることは争わないものの,その余の要件の充足性を争うので,以下検討する。
(2) 第1要件(非本質的部分)について
ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発 明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象\n製品等が共通に備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分 ではないと解される。
イ 原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を 利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて いると主張する。 しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方, 抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強 くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の 段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発 明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。 そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と, メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向 かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔 への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が 加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を 可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003 6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設 けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0. 3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪 部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。 そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙 5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し, 被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。 また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告 製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用 いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60 N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり, フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい ことが認められる。
前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は, 本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは ないということができる。 なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部 からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル (1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概 ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題 をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓 んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。

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平成28(ワ)12296  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月10日  大阪地方裁判所

 特許権侵害認定されましたが、損害額については102条2項について、「他の店舗用品とを組み合わせて販売されたバンドル取引商品である」ことを覆滅事由として、6割の推定が覆滅されました。

 まず,被告が経費として主張する製造委託費,検査費等は,いずれ も侵害者である被告において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接 関連して追加的に必要となった経費に当たると認められるから,被告の利益額を算 定するに当たり,上記販売金額からこれらの経費の金額を控除すべきである。
b そして,乙53,56ないし61及び弁論の全趣旨によれば,製造 委託費(樹脂やプレートの材料代,プレートの組付費用を含み,金型の作成費用は 含まない。),検査費等として,別紙「被告の損害論における主張」の「被告の経 費額」欄記載の経費を支出したと認められる。
c 原告らは,被告主張の仕入価格には高すぎるなどの疑問があると主 張して,被告主張の経費のうち「製造委託費」の金額を争っている。 しかし,この主張は特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利 益の額の算定の問題に関連する主張であるが,そもそもその利益の額(限界利益の 額)の主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであるから(知財高裁令和 元年6月7日判決・最高裁ウェブサイト),そのような観点から検討すると,原告 らは原告製品の製造販売に係る経費と対比をするのみで,被告製品の製造販売に係 る経費について具体的な立証をしているわけではない。 他方,被告製品の製造委託先は,被告と資本関係にあるわけではなく(乙62, 弁論の全趣旨),被告の主張する製品1個当たりの製造委託費は,別紙「被告主張 の被告製品1個当たりの経費額」の「製造委託費(材料費込)」欄記載のとおりで あるところ,その金額には一定の裏付け(乙56ないし61)がある。したがって, 原告らの上記指摘によって前記認定は左右されず,下記(ウ)で認定する金額を超え る利益が被告に生じていたことを認めることはできない。
(ウ) 被告の利益額
以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は,別 紙「被告の損害論における主張」の「被告の限界利益」欄記載のとおり,合計(中 略)円と認められる。
イ 推定覆滅事由の有無
(ア) 特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立 証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果 関係を阻害する事情がこれに当たると解され,例えば,(1)特許権者と侵害者の業務 態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,
(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能\,デザイン 等特許発明以外の特徴)などの事情について,考慮することができるものと解され る(前掲知財高裁令和元年6月7日判決)。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告扶桑産業について(甲1,33) 原告扶桑産業は,資本金の額を2500万円とする会社であり,その従 業員数は30名程度である。そして,原告扶桑産業は,店装用備品等の企画,製造 販売,陳列器具及び店舗什器関連備品等の製造販売等を事業品目とし,全国スーパ ー量販店備品卸売業者,全国インテリア装飾・店装業者等を取引先としている。そ して,原告製品については,被告や他の企業に対して卸売販売され,そこを通じて 小売量販店に販売された(量販店の各店舗に設置された)ほか,原告扶桑産業から 直接,株式会社サンリオの直営店等の量販店に販売されることもあった。
b 被告について(乙1,53ないし55,65ないし66の5)
(a) 被告は,資本金の額を1億円とする会社であり,その従業員数は 3000人程度で,平成28年度の売上高は1220億円(グループ全体で346 0億円)であり,平成20年から東北楽天ゴールデンイーグルスのメインスポンサ ーとなっている。そして,被告は,生活用品の企画,製造,販売を事業内容として おり,販売している商品は,LED照明,家電,調理用品,日用品,収納用品,ハ ードオフィス・資材等多岐に渡っており,被告のこれらの商品は全国のホームセン ターで販売されている。
(b) 被告は,量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するの ではなく,内装工事を含め,店舗のあらゆるスペースをデザイン・プロデュースし, 店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行っている。 そして,被告は,販売する什器について,500頁を超えるカタログ(乙1,5 4)を作成しており,そこに掲載されている什器は,カードケースを含むシステム 什器だけでなく,内装・棚下照明,陳列用什器,インフォメーション器具,販促用 品,オフィス家具,運営サポート用品及び照明・演出用品といったように,多岐に 渡っている。
(c) 被告が顧客との間で上記(b)の取引をする場合の流れは,次のと おりである。すなわち,まず顧客から要望についてヒアリングをした上で,それを もとに現地調査をする。その後,顧客から建築平面図等を取得し,什器の配置を検 討し,顧客と打合せをした上で,什器配置図等を作成するとともに,コストをシミ ュレーションする。そして,顧客の要望に応じた什器・オプションアイテムを提案 し,納品内容を確定した上で,現場への納品や施工の手配を行う。
(d) 被告が平成25年12月5日,ある株式会社に対して発行した見 積書(乙55)では,取引金額が合計(中略)万円(税抜)とされたが,そのうち カードケースの代金額は(中略)円(個数は合計(中略)個)であった。
(e) 平成26年の被告製品の販売金額は,合計(中略)円であったが, その大半((中略)円)はカードケースと他の店舗用品とを組み合わせて販売され るいわゆるバンドル取引によるものであった。
c 原告扶桑産業と被告との間の取引
(a) 被告は,遅くとも平成24年1月以降,原告扶桑産業から原告製 品を購入しており,同月から平成25年11月までの原告製品の販売数量は,次の とおりであった。
・・・・
(b) 上記(a)のうち平成25年の原告製品4(ただし,QPCII−65 を除く。)の販売数量・販売金額は次のとおりであったほか,平成26年ないし平 成28年の原告製品(ただし,QPCII−65を除く。)の販売数量・販売金額は, 次のとおりであった(乙78の2)。
・・・・
(ウ) 被告の主張について
a まず,被告は被告製品1,4,6及び10については,原告製品に 相当するものがないことを指摘している。 しかし,上記各被告製品は,原告製品と色やサイズが異なるだけであり,原告扶 桑産業が販売している他の色やサイズの製品が購入されなかったとまで認めること はできないし,原告扶桑産業が販売していた製品をみる限り,原告扶桑産業が被告 製品と同じ色やサイズの製品を製造し,販売することができなかったと認めること もできない。 したがって,被告の上記主張は推定覆滅事由とならない。
b 次に,被告は取引の実情として,被告製品の販売方法や,被告によ る販売力・営業努力・企業規模・ブランドイメージを理由とする推定覆滅を主張す る。
(a)(1) 前記認定のとおり,被告が販売している什器は多岐に渡ってお り,また量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するのではなく,内装工 事を含め,店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行って いた。そして,前記認定事実によれば,被告製品は,その大半が他の店舗用品と組 み合わせて販売されるいわゆるバンドル取引によって販売されていた。 しかも,前記認定事実によれば,そのようなバンドル取引の取引額に占めるカー ドケースである被告製品の販売額はわずかであったと認められる。 このような被告製品に係る取引の実情によれば,被告製品の需要者の大半は,カ ードケースである被告製品に殊更に注目して被告製品を購入したというよりも,他 の店舗用品と組み合わせて購入できる利便性や,内装工事を含めて店舗全体又は売 り場全体の什器・備品を総合的に購入することができるという被告の販売体制に魅 力を感じて,被告と取引をするに至り,その取引の一環として被告製品を購入した と認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張について
原告らは,被告がドン・キホーテの店舗内装を受注するに当たり, ドン・キホーテから原告製品を使用するよう指示されたため,原告扶桑産業と原告 製品の取引をするようになったとか,バンドル取引においても原告製品を組み込む 需要があり,被告がその需要に応え,顧客との取引を維持するために原告製品を侵 害品である被告製品に置き換えたなどと主張する。 確かに,被告は現在でも,原告扶桑産業から原告製品を購入しているから,本件 発明の技術的範囲に属する製品を購入し,エンドユーザーにこれを販売する一定の 需要があったというべきである。 しかし,原告らが主張する原告扶桑産業との取引開始の経緯や,被告が本件特許 のライセンスを求めたことについては,これを認めるに足りる証拠はないし,被告 が,被告製品のモデルチェンジをして,本件特許権の侵害とならないカードケース を販売するようになった後,被告のバンドル取引による売上げが減ったとの事情も 認められない。 以上の事情に加え,前記認定の被告製品の取引の実情を踏まえると,被告が顧客 との取引を維持するために原告製品を侵害品である被告製品に置き換えたとまで認 めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
(3) そうすると,被告主張の事情は,侵害者である被告が得た利益 と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を相当程度,阻害す る事情といえる。
(b) また,被告の企業規模や販売する製品の多様性は前記認定のとお りであり,被告が被告製品を販売するに当たり,被告自身の販売力や企業規模,ブ ランドイメージか需要者に与えた影響も小さくないものというべきである。 したがって,この事情も,上記(a)の事情と相まって,侵害者である被告が得た利 益と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を一定程度,阻害 する事情といえる。
(c) なお,被告はその他に自身の営業努力も推定覆滅事由として主張 するが,被告製品に関する事実関係が明らかではなく,事業者は,製品の製造,販 売に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であることを 踏まえると,推定覆滅事由として考慮すべきとまでいうことはできない。
c 被告は代替品・競合品(乙67ないし72)の存在を指摘している。 しかし,推定覆滅事由として考慮する競合品といえるためには,市場において侵 害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される(前掲知財高裁令和 元年6月7日判決)。このような観点から被告主張の製品を検討すると,被告が指 摘する製品には,その具体的構成や使用方法が判然としないものも含まれているほ\nか,カードケースが上保持部と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本\n的部分を備えたものと認めることもできないから,被告指摘の製品を代替品ないし 競合品ということはできない。また,被告指摘の製品の販売時期等も不明である。 したがって,被告の上記指摘によって推定が覆滅されるとはいえない。
d 被告は,乙73ないし77の先行技術等の存在を指摘して,被告製 品の販売に対して本件発明の技術的意義が寄与する程度は低いということを主張す る。 しかし,被告が指摘する乙73ないし77はいずれも,カードケースが上保持部 と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本的部分を備えたものと認める\nことはできない。また,被告が指摘する乙77は,表示板支持棒の先端に表\示板が 取り付けられているものの,その取り付け方法は,指示棒の先端に平板部分を設け, その下面に突設されたピンに表示板を保持するというものであり(乙77の【考案\nの詳細な説明】の【0021】),本件発明の構成とは大きく異なっている。それ\nだけでなく,被告製品が販売されていた時期に,本件発明の作用効果の一部を奏す るとされる技術があったとしても,それだけで直ちに,原告扶桑産業において,本 件特許の全構成を備えた被告製品の販売による利益に相当する損害を被ったことが\n否定されるとはいえない。 したがって,被告の主張の技術的観点からの主張は採用できない。
e 以上より,本件では前記b(a)及び(b)記載の事情を推定覆滅事由と して考慮すべきところ,前記認定・判示の事情を踏まえると,6割の限度で推定が 覆滅されると認めるのが相当である。 この点に関し,被告は顧客が原告らに注文して原告製品を購入するという行動に 出たという可能性は皆無であったなどとして,推定覆滅率を99.09%とすべき\n旨主張する。 確かに,被告が原告扶桑産業から原告製品を購入すべき義務を負っていたという 事情はうかがえないから,被告が原告製品以外のカードケースを販売すること自体 は自由にできたことと認められる。 しかし,他方で,被告は遅くとも平成24年1月以降,原告製品を購入し,量販 店等のエンドユーザーに対して販売しており,以前原告製品を購入したことのある エンドユーザーがバンドル取引において原告製品を組み込むことを希望する可能性\nも否定できない。また,前記認定のとおり,被告製品の販売を開始した平成25年 2月以降も,原告製品の購入を完全にやめたわけではなく,量販店等のエンドユー ザーへの販売もされていたことが推認されるから,被告において原告製品を購入し, これをエンドユーザーに販売する必要性が全くなかったとまで認めることはできな い。むしろ,従前の経緯を踏まえると,被告が本件特許の侵害品を販売しなければ, 原告扶桑産業から原告製品を購入し続け,原告扶桑産業が利益を得ていた可能性も\n一定程度認められるものというべきである。 したがって,被告が主張するように99.09%もの推定覆滅を認めることは相 当でない。
f 他に共有者がいることによる控除(推定覆滅)
(a) 被告は,特許法102条2項に基づく原告扶桑産業の損害は,同 項に基づき算定される逸失利益の2分の1にとどまると主張する。 しかし,特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないで その特許発明の実施をすることができるものの(特許法73条2項),その価値の 全てを独占するものではないことに鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額 の推定を受けるに当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失 利益額を推定されると解するのが相当であり,共有持分の割合を基準に共有者各自 の逸失利益額を推定すべきものではない。本件においては,前記(1)オで検討したと おり,原告製品を製造して被告に販売するという実施による利益は原告扶桑産業に 帰属し,原告ソーグは,これに伴って金員を得ていたにすぎないから,原告扶桑産\n業の損害額を算定するに当たり,特許法102条2項に基づく利益額の算定から, 共有持分の割合に応じて2分の1を控除(推定覆滅)すべき理由はない。 しかしながら,原告ソーグについては,被告製品の販売により,特許法102条\n3項の実施料相当額の損害を観念し得ることは既に述べたとおりであり,この場合 に,特許権の共有者の一部(原告扶桑産業)が同条2項により侵害者に対し損害賠 償請求権を行使するに当たっては,同項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他 の共有者(原告ソーグ)の同条3項に基づく実施料相当額(共有持分の割合により\n取得する。)の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である(知財高裁平成30 年11月20日判決・最高裁ウェブページ)。
(b) そこで,原告ソーグが被告に対して請求することができる特許法\n102条3項に基づく実施料相当損害金の額について検討する。 この点について,被告は原告らの間で支払われていた差益をもとに実施料率を算 定すべきと主張するが,原告らが指摘する差益は特許権の共有者間で支払われてい るものであり,その具体的内容や法的位置付けは判然としない(なお,原告らは訴 状において原告製品の原材料の売買による差益と主張していた。)から,この金額 を実施料相当損害金の額を算定するのに用いることは相当でない。 そこで,本件では業界における実施料の相場を考慮に入れつつ,相当な実施料率 を認定するのが相当である。 被告はそれを前提としつつも,本件発明の寄与度や被告による販売力等を考慮す ると,原告ソーグの共有持分(2分の1)に係る相当な実施料率は0.025%で\nあると主張するが,推定覆滅事由に関する前記判示によれば,本件発明の寄与度を 考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条 件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最 頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の 構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,\n前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメー ジ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらに は特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料 率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和 元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべ きであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:\n被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。
(c) そして,原告ソーグについて特許法102条3項により算定した\n(中略)円を,原告扶桑産業との関係では,前記eの推定覆滅に加え,さらに控 除(覆滅)すべきことになる。
ウ したがって,原告扶桑産業の特許法102条2項に基づく損害額は(中 略)円(計算式:(中略)円×4割(推定覆滅後)−(中略)円)と認められる。 なお,原告扶桑産業は特許法102条1項に基づく損害の主張もしているが,原 告ら主張の原告らの利益額は(中略)円であるところ,特許法102条1項ただし 書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の 推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27 年11月29日判決参照),本件では前記判示に照らすと,原告らの利益について 6割の限度で「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当で ある。そうすると,原告ら主張の利益額について立証されているかを検討するまで もなく,同条1項に基づく損害額が前記認定の同条2項に基づく損害額を下回るも のであることは明らかである。
エ 原告扶桑産業は,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起 等を委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中 略)万円と認めるのが相当であり,原告扶桑産業の損害額は合計(中略)円となる。
(3) 原告ソーグの損害額\n
原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害額は,上記認定のとおり,(中\n略)円と認められる。 そして,原告ソーグは,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起等\nを委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中 略)万円と認めるのが相当であり,原告ソーグの損害額は合計(中略)円となる。\n
4 以上より,原告らの請求は,それぞれ主文第1項及び第2項に掲げる限度で 理由があるから,その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄 却することとして,主文のとおり判決する。

◆判決本文

◆別紙1

◆別紙2

◆別紙3

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平成29(ワ)41474  特許権に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年7月30日  東京地方裁判所

 東京地裁47部は、被告方法は「タンパク質を抽出する」には該当しないとして、非侵害と判断しました。原告は個人、被告はDHCです。

 特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる ものであり(特許法70条1項),特許請求の範囲の記載の解釈は,明細書 の発明の詳細な説明の記載等を考慮して行うべきものである(同条2項)。 しかして,本件発明の構成要件Bにおける「タンパク質を抽出する」混\n合液との文言について解釈し,そのタンパク質抽出の態様を明らかにすべ く,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,1)従来,界面活性剤 の使用を前提とする方法により溶液中の対象物質(タンパク質等)を分離 (抽出)していたところ,界面活性剤を使用すると,分離(抽出)された 対象物質から界面活性剤を除去する工程が必要となり,煩雑さが生じてい たため,溶液中から対象物質を簡便に分離(抽出)するための混合液が求 められていたこと,2)そこで,上記課題を解決するため,界面活性剤を必 要的には含まず,所定の高級アルコール(第1の高級アルコール)と脂肪 酸を含む混合液によって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液から タンパク質を簡便に分離(抽出)するという構成を採用したものが請求項\n1発明であり,本件発明は,かかる請求項1発明を前提としつつ,第1の 高級アルコールとは異なる高級アルコールと炭化水素を含む混合液によ って,タンパク質と水性溶媒と第1の高級アルコールと脂肪酸とを含む抽 出対象液からタンパク質を夾雑物の含有量が従来より少ない状態で抽出 するものであること,3)これによって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽 出対象液からタンパク質を簡便に分離(抽出)できる混合液,及び,タン パク質の抽出方法が提供されることとなったこと,4)本件発明に係るタン パク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物質の分離(抽出)のための エマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク 質抽出剤全体に対して0〜4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい こと,本件発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素 数18未満の高級アルコール等)を添加してもよいことが記載されている 旨が認められる。
これらによれば,本件発明に係る,「タンパク質を抽出する」混合液とは, タンパク質と水性溶媒に加え所定の高級アルコールと脂肪酸を含む抽出対 象液から,上記とは別の高級アルコールと炭化水素を含むことによって, タンパク質を夾雑物の含有量がより少ない状態で分離(抽出)できる混合 液であり,界面活性剤の含有の有無を問わないが,従来のエマルション等 に含まれる界面活性剤よりも少ない量の界面活性剤の含有を,従来必要と されていた除去工程を不要にする限度において許容することによって,上 記の分離(抽出)を簡便に行うことができる混合液という技術思想に係る ものであるというべきである。そうすると,上記「タンパク質を抽出する」 混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離等された対象 物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とするもので あり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解するのが相 当であり,分離(抽出)されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程 が必要となるものは,上記「タンパク質を抽出する」混合液には当たらな いというべきである。 なお,この解釈は,本件特許の特許出願の経過(「早期審査に関する事情 説明書」(乙2),「意見書」(乙3))において,原告自身が,先行技術にお いては,タンパク質の抽出につき界面活性剤を使用することが必要的であ ったところ,本件原出願の実施形態は,界面活性剤を必要的に用いること はせず,高級アルコールを必要的に用いるものであり,この構成の差によ\nり,界面活性剤を抽出結果物から除去する工程を不要とすることが可能と\nなり,また,タンパク質への界面活性剤の悪影響を回避することが可能と\nなるという効果を奏し(乙2),さらに,界面活性剤を含まなくとも,抽出 対象液からタンパク質を簡便に分離できるという,従来技術からは予測し\n得ない異質な効果を奏する(乙3)旨述べていることにも沿うものであり, 何ら矛盾するものではない。
イ 原告の主張について
これに対し,原告は,本件明細書(段落【0056】)には,「本発明の 目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級 アルコール等)を添加してもよい」と記載されているが,本件発明の目的 を害する場合とは,タンパク質の分離・抽出作用が機能しない場合,例え\nば,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の全部が乳化して二層 に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極めて例外的な場面を 指すものであって,上記のようなタンパク質の分離抽出においておよそ想 定されない添加物の添加以外は,むしろ広く公知の添加物の添加をさらに 許容することを明示したものと解釈されるべきである旨主張する。 しかし,上記説示のとおり,本件発明に係る「タンパク質を抽出する」 混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離(抽出)され た対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とする ものであり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解する のが相当であるというべきであり,本件明細書の具体的記載を精査しても, 原告が主張するような,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の 全部が乳化して二層に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極 めて例外的な場面を除いて広く界面活性剤の添加を許容することが読み取 れるような記載は見当たらない。したがって,原告の上記主張は,本件明 細書の具体的記載から離れた独自の主張というほかなく,採用することが できない。
被告製品と構成要件Bとの対比\n
ア 証拠(乙18,28ないし31)によれば,被告製品は界面活性剤を「● (省略)●」質量%含むこと,従来,タンパク質の分離等のために使用さ れてきた界面活性剤の量は抽出剤と対象液とを合わせた全体量に対して 0ないし2質量%であったことが認められる。 そして,上記のとおり被告製品に含まれる界面活性剤の量からすれば, 「従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含ま れる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して 0〜4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい。」(段落【0041】) という本件明細書の記載との関係で見ても,また,上記のとおり従来使用 されてきた界面活性剤の量との関係で見ても,被告製品における界面活性 剤の含有量が,従来のエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない 量であるものとは認められず,その含有される界面活性剤の程度が,分離 (抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度 であるとは認めるに足りない。 そうすると,このような被告製品は,そのタンパク質抽出の態様の観点 からして,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液という文言を充\n足しないというほかない。
イ これに対し,原告は,従来の「抽出剤」を,「抽出対象液」に添加した総 量に対する界面活性剤の「終濃度」については,CMC(臨界ミセル形成 濃度)を意識して2ないし4%前後とされているところ,実験の操作性の 観点から,前段階である「抽出剤」における界面活性剤の濃度は,その1 0ないし20倍程度が概ね目安となることからすると,同濃度は,通常2 0ないし80%であることとなり,そうすると,界面活性剤を「●(省略) ●」質量%含む被告製品は,従来の「抽出剤」よりも界面活性剤の含有量 が少ないものといえる旨を主張する。 しかし,原告のいう界面活性剤の「終濃度」が「2ないし4%前後とさ れている」こと,「抽出剤」における界面活性剤の濃度がその10ないし2 0倍程度が目安となることを認めるに足りる的確な証拠はなく,従来使用 されてきた抽出剤における界面活性剤の含有量にかかる原告の上記主張 は採用しがたい。また,仮に,原告の上記主張(被告製品が,従来の「抽 出剤」よりも界面活性剤の含有量が少ないこと)を前提としても,そのこ とから直ちに,界面活性剤を「●(省略)●」質量%含む被告製品が,そ の界面活性剤の含有の程度につき,分離(抽出)された対象物質から界面 活性剤を除去する工程が不要である程度のものであると認められること とはならず,被告製品が,そのタンパク質抽出の態様の観点からして,構\n成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液という文言を充足しないとの 上記結論が左右されることにはならない。

◆判決本文

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平成30(ワ)2554  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月27日  大阪地方裁判所

 大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。

 被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを, 第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮 に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持 部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」 と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細 書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2 通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用 いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という 文言は基本的に同義であると解すべきである。)。 本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術 において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得 ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず, ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨 とは解し得ない。 そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを 第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該 間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル —プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当 するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ, 乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙 13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆 うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔 (角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を 連結・固定するものである。 これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平 面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に 記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部 材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形 状の孔の存在意義がなくなってしまう。 したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。 また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から 吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣 用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め 支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件 発明)を容易に発明することができる,と主張する。 しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同 一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告 の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の 棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を 備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11 を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう 一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2 6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。), 被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示 されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に 開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同 じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の 第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。 乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導 けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の 態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種 類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。 したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。

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平成29(ワ)15518  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月26日  東京地方裁判所

 「画像情報を対応するパターンに変換する」という用語について、明細書の記載から「画像情報を0または1の信号の組合せに変換する」を意味するとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

 (2) 争点2−1(構成要件1Aの充足性)について\n
以下のとおり,本件装置が「画像情報を対応するパターンに変換するパター ン変換器」を有すると認めることはできないので,同装置は構成要件1Aを充\n足しない。
ア 構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに\n変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」であ るところ,本件特許1の特許請求の範囲の記載によれば,「パターン」は, 本件発明1の自律型思考パターン生成機を構成する「パターン変換器」によ\nり画像等の情報から変換され,「パターン記録器」に記録され,「パターン 制御器」において設定,変更がされ,あるいはパターン同士の結合関係が生 成されるものであるから,これらにより処理可能なものであると解すること\nができる。
次に,本件明細書等1の記載を参酌すると,「パターン」は,「対応する 事象の特徴を検出器が識別する信号の組合せにより表現したもの」であり\n(段落【0017】),例えば,画像情報として「犬」を入力すると,犬の 画像パターンが生成され,パターン記録器に犬の画像パターンとして記録さ れることとなる(段落【0018】)。そして,本件発明の実施形態1につ いて説明した段落【0039】においては,画像,音声及び言語の情報をそ れぞれ識別する信号の組合せに変換したものをパターンと呼び,パターンの 要素を「ON」,「OFF」又は「1」,「0」で表現することにするとさ\nれ,【図2】には,画像パターンの例として「IG=[0.0.1.1.・・・] T,とのパターン例が例示されている。 これらの記載によれば,本件発明1における「パターン」とは,画像,音 声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる 「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味し,構成要\n件1Aは,少なくとも,「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパ ターン変換器」,すなわち,画像情報を上記信号の組合せに変換する変換器 を有することを特定したものであるということができる。
イ 原告は,本件製品のパンフレットや動画において,アメリアが「感情的な 対応力」を有するとされ,アメリアの表情が「EQ(共感指数)」により変\n化させられ,ユーザがアメリアの感情を画像で確認できるようになっている ことなどを根拠として,本件装置は「画像情報・・・を対応するパターンに 変換するパターン変換器」を有していると主張する。 しかし,被告は,本件装置がアメリアの感情に対応した画像を予め保有し\nており,状況に応じてその場に適した表情の画像を表\示可能であるとしても,\n画像情報を対応するパターンに変換する機能は備えていないと主張すると\nころ,原告が指摘する本件パンフレットの記載や動画を総合すると,本件装 置が様々な感情に対応する表情のアメリアの画像を保有し表\示することが できるとは認められるものの,本件装置が,外部から入力された表情等に関\nする画像をパターンに変換する機能を有していると認めるに足りる証拠は\nない。
ウ 原告は,本件装置が,その感情に対応した画像を予め保有しており,状況\nに応じてその場に適した表情の画像を表\示可能な構\成を備えているにすぎ ないとしても,構成要件1Aの「画像パターン」とは,画像情報から生成さ\nれ,人工知能を構\成するソフトウェアが利用できる「一塊のデータ」の全て\nを含むのであるから,人工知能がアメリアの感情に対応する画像を表\示する 際に,画像作成時のデータ形式から別のデータ形式に変換する場合も同構成\n要件を充足すると主張する。
しかし,原告の主張する「パターン」の意義は,特許請求の範囲及び本件 明細書等の根拠を欠くものである上,本件装置がアメリアの感情に対応した 画像を予め保有しているのであれば,それは既にアメリアが利用できるデー\nタ形式で保有しているものと解するのが自然であり,更に異なるデータ形式 に変換する必要があるとは考え難い。そうすると,本件装置が様々な表情の\nアメリアの画像を表示し得ることをもって,本件装置が入力された画像情報\nからパターンに変換する機能を有するということはできず,他に本件装置に\nおいて,かかる変換をする変換器が存在することを認めるに足りる証拠はな い。
なお,原告は,アメリアとは別の画像処理用のコンピュータにより画像デ ータを作成したとしても,「アメリアの感情に対応した画像を計算機で処理 可能な形態(パターン)に変換する」という工程を実施していることになる\nから,アメリアが構成要件1Aを充足することに変わりはないとの主張もす\nるが,アメリアとは別のコンピュータが,アメリアが利用できるデータ形式 の画像データを作成する場合に,本件装置が上記工程を実施しているといえ ないことは明らかである。
エ 以上のとおり,本件装置は構成要件1Aを充足しない。\n

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平成29(ワ)4311  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年7月18日  大阪地方裁判所

 特許権侵害で102条2項に基づく損害として1000万を越える損害額が認定されました。利益を計算するに当たって、消費税を控除すべきかについても判断されています。

 後記検討する【図2】及び【図3】の問題を除けば,上記検討した本件明細 書の記載には,肘置き部が,施術部よりも上方部で施術部に連結していなければな らないことを積極的に示すような内容は存しないと思われるのに対し,本件発明の 効果の観点では,肘置き部は,施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位 置で,施術部に連結されると解するのが合理的である。 そして,本件発明1の文言において,「上方位置」と「施術者の上方部」とは近 接する位置で使用されており,本件補正により追加された際にも,当然両者を認識 の上,別異の意味を有するものとして使用されたと解されるところ,前述のとおり, 「上方位置」が施術部よりも上方部の意味である以上,「施術部の上方部」はこれ とは異なる意味であると解され,このことに,上記検討した本件明細書の記載内容 を総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」は,施術部における上方部,すな\nわち,施術部の上下方向における略中心を想定し,それよりも上方の部分を指すと 解するのが相当である。 被告らは,構成要件Cが本件補正により追加された要件であるところ,特許\n請求の範囲の補正に当たって新たな技術的事項の導入は許されないとして,本件明 細書の【図2】及び【図3】においては,肘置き部の上方位置の背面に連結部であ る水平軸が設けられていることから,本件発明における「上方部」は,構成要件B\nの「上方位置」と同様,「施術部の,それより上の部分」(施術部を含まず,施術 部に対して上)と解釈せざるを得ないと主張する。 確かに,本件明細書の【図3】では,肘受け部の回転軸が,施術部の上縁より少 し上方に存するように見えるが,これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明 示されているし(【0015】),回転軸が,施術部の上縁に接する状態であれば, これも,施術部における上方部に,肘置き部が連結されているといえなくもない。 その他の【図】で開示されている実施例では,肘置き部がどの位置で施術部に連 結され,回転軸がどの位置に存在するかは全く不明といわざるを得ないが,少なく とも,施術部における上方部に肘置き部を連結する構成と,明らかに矛盾するよう\nな内容は存しない。
イ 出願経過及び本件意見書の記載について
本件意見書には,「4.特許法第29条第2項の拒絶の理由がないことの説 明」という表題の下,「(a)本願第1発明の説明」として,本件発明1につき,\nアイメイクの施術部位は被施術者の目尻,目頭,瞼,まつ毛,眉毛等であるため, この施術部位の周辺に施術者の手を配置すれば,必然的に肘の位置は手の位置を基 点とした範囲内(被施術者の頭部周辺)になるところ,その範囲で肘を支える部材 として肘置き部を備えたのが本件発明1であること,肘置き部が施術部の上方部を 基点として,これを軸に施術部に対して回動することで施術部に対する角度が変化 するが,肘置き部がどのような角度に調整された場合であっても,回動する範囲は 施術部の周囲(頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置)において一定で あるため,肘置き部が回動する範囲は,施術部位周辺に施術者が手を配置した際に その施術者の肘が配置される範囲と常に一致すること,これにより,施術者は肘置 き部により肘を固定させて施術することができるため,施術が安定するとともに施 術効率を向上させることができる旨が記載されている。 また,原告は,上記に続く「(b)本件拒絶理由通知書における認定」にお いて,本件拒絶理由通知の概略を,1)「被施術者の頭部を載置する施術部が形成さ れている施術台において,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の 頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置\nき部を設けることで施術者の施術における負担の軽減を図るものは,例えば,引用 文献2の第1図における肘掛け34a,34b(中略)にみられるように周知技術 (以下「周知技術1」という。)であり,引用発明1において上記周知技術1を適 用し,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の頭部の左右位置,も しくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものと\nする(中略)ことは当業者が容易になし得たものである。」,及び2)「さらに,施 術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能\なものとすることも,例 えば,引用文献3(中略),引用文献4(中略)にみられるように周知技術(以下 「周知技術2」という。)であり,引用発明1において上記周知技術2を適用し, 前記肘置き部は水平を軸にして回動可能であるものとすることも当業者が容易にな\nし得たものである。」とまとめた上で,それに続く「(c)本願第1発明と引用発 明との対比」において,引用発明2について,「ヘッドレスト33が傾倒するもの であり,肘掛け34a,34bは個別に回動するものではありません。また,肘掛 け34a,34bの取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」「した がって,引用発明1に,上記した各引用発明のいずれを適用したとしても,本件発 明1のように,『肘置き部が前記施術部の上方部に連結され,水平を軸にして前記 施術部に対して回動可能』な構\成とはならない」と記載した。 被告らは,上記原告の引用発明2に関する文章(「肘掛け34a,34bの 取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」)を理由に,本件意見書に おいて,原告は,肘置き部の取付け位置が施術部の左右である構成を排除した旨を\n主張する。 しかしながら,本件意見書の上記文章は,引用発明2について,肘掛けの取付け 位置がヘッドレストの左右であるものの,肘掛けが回動しない点で本件発明とは異 なる旨を指摘したものと解することができ,被告の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上検討したところを総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」とは,施術\n部における上方部の意味に解すべきであるが,肘置き部の回転軸が施術部の上縁に 接するよう連結する構成も含み得るとすると,その範囲については,別紙原告図面\nのうち,赤で示された部分を指すと解すべきこととなる。
(2)構成要件Cの「連結」の意義について\n
ア 「連結」の字義的意味は,「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」で あるところ,本件明細書には,特に「連結」についての定義や,具体的な連結方法 についての記載はない。 本件明細書の【図2】及び【図3】には,肘置き部と施術部が,それぞれ支持部 材と背面部材を介して,水平軸の位置でつながっている形態が示されており,段落 【0018】も上記形態について説明する。 また,本件意見書には,肘置き部が,施術部の上方部を基点として,これを軸に 施術部に対して回動すること,引用発明3及び引用発明4においては,枕F(また は head rest 2)と肘受24(または head rest 4)とが連動せず別々に動作するこ とが望ましいと考えられるため,引用発明1にこれらの発明を適用したとしても本 件発明1の構成要件Cのような構\成にはならないことが記載されている。 そうすると,構成要件Cにおける「連結」とは,施術部と肘置き部が別々に動作\nすることができない形態でつながっていることを意味し,それ以上具体的な連結方 法について定めるものではないと解するのが相当である。
イ 被告らは,本件明細書の【図1】及び【図6】に示される実施形態から,構\n成要件Cの「連結」とは,「肘置き部が,その上方位置の背面において,前記施術 部の上方部に連結され」と解釈すべきであると主張するが,同図は,1つの実施形 態にすぎないから,そこから具体的な連結部位についてまで定められていると解す べきではない。
(3) 被告製品の構成\n
ア 別紙被告製品写真1ないし4及び別紙「被告製品の説明書」によれば,構成\n要件Cに対応する被告製品の構成cは,施術部の左右側面のうち,上下方向におけ\nる中央線よりも上の部分において,回動部材を介して施術部とリクライニングアー ムとがつながる構成をとり,施術部を左右方向に横切るような仮想の回転軸を中心\nにリクライニングアームが回動するものであると認められる。
イ 被告らは,被告製品の肘置き部が施術部の「左右位置」において回転自在に 支持されていることから,本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが,構\成 要件Cの「施術部の上方部」が施術部の左右側面を排除しない概念であることは前 述のとおりであり,また,構成要件Cの「連結」が具体的な連結方法や連結部位を\n定めるものではないことも前述のとおりであるから,上記被告らの主張を採用する ことはできない。
ウ また,被告らは,被告製品について,仮想の回転軸が施術部を貫通している ことから,回転軸が施術部の背面にあり,また施術部よりも上方にある本件発明と 比較して,肘置き部を回転させた時に肘置き部の左右位置と施術部との間の距離が 比較的短く施術しやすい,という本件明細書から記載された発明からは導き出せな い技術的事項を有すると主張するが,本件発明の回転軸が施術部よりも上方にある との主張は採用できず,被告らの主張は理由がない。
(4) まとめ
以上より,被告製品のリクライニングアームは,施術部の上方部に連結され,水 平を軸として施術部に対して回動可能であると認められるから,本件発明の構\成要 件Cを充足する。
・・・
上記(1)及び(2)によると,被告製品の売上高(税込)から原価(税込)を控除した 額は,951万7032円(別紙被告計算表の「粗利(総計売上税込−総計原価税\n込)」欄参照。)であり,同額を被告らの利益の額と認め,原告の損害額を算定す る基礎とするのが相当である。 なお,消費税基本通達5−2−5に鑑みれば,知的財産権の侵害に基づく損害賠 償金は,消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当し,消費税の課税対象となると解 するのが相当であり(消費税法2条1項8号,同法4条1項),本件における損害 賠償金も,特許権の侵害に基づく損害賠償金として消費税の課税対象となると解さ れるところ,上記被告らの利益の額は,税込売上高から税込原価を控除したもので あり,消費税相当額を含む額であるから,原告の損害額を算定する際に,さらに消 費税相当額8%を加算する必要はない。
イ 被告らの主張について
被告らは,消費税に関し,特許法102条2項の「利益」の算定方法について主 張するほか,そもそも,同項により推定される損害賠償金は逸失利益であるから, 一般的に消費税の課税の対象とならないか,本件の個別事情に照らし,損害賠償金 は対価性がないため消費税の課税の対象とならないこと,仮に本件における損害賠 償金が消費税の課税の対象になるとしても,原告と被告との間において内税方式, 外税方式のいずれを採用するかについての合意がない以上,内税方式によるべきで あることを主張する。 しかしながら,特許権侵害に対する損害賠償請求訴訟では,典型的には,特許権 者のみが発明の実施品を製造,販売している状態を想定し,侵害品の販売により特 許権者側の売上等が減少したことを損害と捉え,認定又は推定の方法により算定し た損害賠償額金を得させることで,権利侵害のなかった原状に可及的に復させよう とするものであるところ,その回復の対象となる原状において,特許権者が発明の 実施品を製造,販売すれば,売上,経費いずれの面でも消費税は考慮されるはずで ある。 そうすると,本件のように,回復の対象である原状において,消費税が考慮され る事案においては,その回復の手段として逸失利益の損害賠償を算定する際におい ても消費税の負担は考慮すべきことになり,これに反する被告らの主張は採用でき ない。 そして,その計算としては,前述のとおり,消費税相当額を考慮した売上額から, 消費税相当額を考慮した経費額を控除すれば足りると解され,これによって算定し た損害額に,さらに消費税相当額を加算する必要はないし,当事者間に特段の合意 がなければ内税方式により計算すべきであるとの被告らの主張も理由がない。 また,被告らは,消費税相当額分の遅延損害金の起算日は,その額が確定した日, すなわち判決確定日であって不法行為時ではないと主張するが,上記アのとおり, 原告に支払われるべき損害賠償金は,消費税相当額を含むものの,全体としては特 許法102条2項により原告の損害と推定される額であるから,全部につき不法行 為の日から遅滞に陥ると解するのが相当である。
(4) 推定覆滅又は寄与率について
ア 被告らは,本件発明の被告製品に対する技術的寄与及び顧客吸引力は小さく, 寄与率は50%程度であると主張する。 しかし,本件発明3の構成要件Fは,リクライニング機構\が付与されていること とされており,本件明細書の段落【0020】及び【0021】にも,電動式を含 むリクライニング機構が付与されていることにより,異なるアイメイク施術を1台\nで済ませることができたり,被施術者が仰向けになったときの下半身の負担を軽減 したりすることができる旨の記載がある。また,本件発明はアイメイク用施術台全 体に関するものであって,リクライニングアームのみに関する発明ではない。 よって,本件発明の,被告製品に対する技術的寄与が少ないという上記被告らの 主張を採用することはできない。
イ また,被告製品の価格(11万8000円(税抜))と本件発明の実施品の 価格(18万2000円(税抜))との差は6万4000円であるところ(乙29), これが直ちに顧客吸引力に大きな差が生じるまでの金額ということはできない。ま た,被告らは,高田ベッド製作所がアイメイク用施術台の分野において特別なブラ ンド力を有することや,被告製品の広告宣伝において,高田ベッド製作所のブラン ド力を使用していること等の主張立証をせず,リクライニング機構が本件発明3の\n構成要件となっていることは,上記アのとおりである。\nよって,本件発明が,顧客の購買に寄与する要素が極めて小さいという上記被告 らの主張を採用することはできない。
ウ したがって,本件において特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情は認 められない。
(5) 特許法102条4項後段に関する主張
原告は,平成28年10月31日付け及び同年12月5日付けで,被告アイラッ シュに対し,本件特許権の侵害について2回にわたり警告し,被告アイラッシュも これに回答していることから(甲5ないし8),被告らにおいて被告製品が本件特 許の権利範囲外であると考えたことについて,故意または重過失がなかったとして 損害賠償の額を定めるにつきこれを参酌すべき場合であるとは認められない。

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平成31(ネ)10005  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 骨切術用開大器について、1審では、補正によって追加された事項を充足しない被疑侵害品について、第5要件問題なしとして均等を認めました。知財高裁は、文言侵害と判断しました。
なお、「原判決30頁17行目から31頁3行目までを次のとおり改める。」とありますが、原審のどの部分を改めるのか?は、上記範囲とはズレていますので、不明です。

 また,請求項1においては,係合部が設けられている揺動部材と他方の揺動部材が,それぞれ開閉機構を有することが規定されるのみで,いずれの開閉機構\をどのような手順で操作するかについては何ら特定がなく,前述の本件発明の技術的意義からもかかる点につき限定する理由はないから,係合部を設けた揺動部材の側に力を加えることによって,他の揺動部材が同時に開く仕組みになっていることは,本件発明において必須の構成ではない。\n以上を踏まえると,構成要件Eの「係合部」とは,これによって外力を伝達し,その結果,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,2対の揺動部材を同時に開くことを可能\にするものであるというべきである。
イ 「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」の意義
次に,かかる係合部の意義を踏まえて,「揺動部材の一方に…係合部 が設けられている」の意義について検討する。 まず,「設けられている」との文言の一般的な意味は,「そなえてこ しらえる。設置する。しつらえる。」というものにすぎず(広辞苑・甲 13),当該文言自体からは,「係合部」が一方の揺動部材と一体であ るのか,別の部品であるのかを読み取ることはできない。前記の本件発 明の技術的意義に照らしても,「係合部」が一方の揺動部材と一体のも のでなければその機能を果たせないとはいえず,別の部品によって係合\n部を設けることを除くべき根拠は見当たらない。そうすると,係合部が 揺動部材に「設けられている」という構成が,係合部が揺動部材の一部\nを構成しているものに限定されるとはいえない。\nそして,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」という特許 請求の範囲の文言に照らすと,係合部が,「一方の」揺動部材に設けら れていることを要することは明らかである。このことは,特許請求の範 囲における請求項3及び4が,2対の揺動部材について,いずれに「係 合部」が設けられているかを区別できることを前提としていることから も裏付けられる。 以上によれば,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」とは, 「係合部」が,揺動部材に設けられており,かつ,それが2対のいずれ の揺動部材に設けられているのか区別できることを要し,またそれをも って足りると解される。
・・・
被告製品の構成eは,「揺動部材1,2の各下側揺動部には後部に開\n口部が設けられ,各上側揺動部にはその後部側に角度調整器のピンを挿 通させるためのピン用孔が設けられている。揺動部材1と揺動部材2が 組み合わせられたときに,開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン 用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態で揺動部材2の上側揺 動部と下側揺動部を相互に開いていくと,留め金の突起部と角度調整器 のピンがそれぞれ揺動部材1の下側揺動部と上側揺動部を押圧して,揺 動部材2と一緒に開くようになっている」ものである(前記第2の3に おいて引用した原判決「事実及び理由」の第2の2⑸)。 このように,被告製品における角度調整器の2本のピンと留め金の突 起部は,外力の伝達により,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって, 2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるから,角度調\n整器のピン及び留め金の突起部は,構成要件Eの「係合部」を充足する。\nまた,上記のとおり,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,開操 作の前に,組み合わせられた揺動部材1及び2の開口部に留め金の突起 部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンが挿通された状態 に固定されるものである。このような固定態様に照らすと,「係合部」 である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動部材1又は2に設 けられているといえる。そして,証拠(甲3,乙6,10)によれば, 角度調整器は,施術者から視認できるように揺動部材1側からピンが挿 通されて揺動部材1に固定されることが認められるから,少なくとも角 度調整器のピンは,揺動部材1に設けられていると認識できることは明 らかである。そして,留め金の突起部も,角度調整器のピンと一体とな って揺動部材の開操作に関わっているのであるから,この両者は,全体 として揺動部材1に設けられていると評価するのが素直である。したが って,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部をもって, 構成要件Eの「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」との要件\nは充足されることになる。 そして,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部が, 2対の揺動部材の開操作の前にこれらの揺動部材に固定されることは上 記のとおりであって,これらを同時に開いていく間にかかる固定が解除 されることはない(乙6,10)。したがって,構成要件Eの「他方の\n揺動部材と組み合わせられたときに」揺動部材の一方に係合する係合部 が設けられているといえる。 控訴人は,被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動 部材1及び2と別の部品であることから,直ちにいずれの揺動部材に上 記ピン及び上記突起部が固定されているのかの区別ができなくなるとい う前提で主張するが,上記説示したところに照らし,採用できない。
カ 結論
以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,他の構\成要件を充足 することについては既に説示したとおりであるから,被告製品は,本件 発明1及び2の技術的範囲に属する。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)18184

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平成29(ワ)44053  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月29日  東京地方裁判所

 争点は、分割要件違反など色々ありますが、発明1,3についてはサポート要件違反なので権利行使不要、発明2については構成要件不充足と判断されました。\n

(3) 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発 明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ, すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進 んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の 抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【001 5】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量 のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治 療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザ ントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer) 化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2−CdA,FLAG& IDA(以後のG−CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C−Week ly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0 017】)と記載されている。 しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体とし て示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の 前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが, 薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また, 【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにと どまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされ ていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投 薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとよ り,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各 サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。 このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマ ブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定 した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法 が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用され る化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっ ているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆する ものと認めるに足りない。
イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】
(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】の SWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グ レード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとC HOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これら は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与す るという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。 a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には, 「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリ ツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】) について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(37 5mg/m3)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入 1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6 日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第 4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイク ル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載さ れており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】) などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試 験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHO Pサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であ ると認められる。)。 そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注 入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入 3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と 同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれに ついても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識する と認められる。 したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成 物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載 又は示唆するものではない。
b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診 断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第 II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載 されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOP の後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬 期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。 (イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治 療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナ ファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイ クルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1〜3日目に 投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究 所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験 の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード /濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明 1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】
(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である 「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキ シマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容 は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人, 男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリ ツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法 の各薬剤の投与時期は記載されていない。 また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている 乙9文献においても,前記1(2)イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル 21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブは CHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド, ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソ\ ンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。 したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP 療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆する ものとは認められない。
(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー 研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床 試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性 度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されてお らず,そのように認めるに足る証拠もない。 また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与さ れ,CHOPは1〜3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬 剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれ にしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤 をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又 は示唆するものとは認められない。
(4)原告らの主張について
ア 本件発明1
原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法 の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する 異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】 には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の 投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張す る。 しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによって リツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】, 【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載は なく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツ キシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中 にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの 記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
・・・
被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には, 用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関 連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ 医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成 績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」 と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療 の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR−CVP レジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨 床成績として,国外臨床第III相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジ キンリンパ腫(NHL)の患者に,R−CVPレジメンによる寛解導入療法等が 実施されたことが記載されている。 そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書 に記載されているR−CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するととも に,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレ ドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン\nであると認められる。 そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホ スファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するも のでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。\n
・・・
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いず れも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の 3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使 は認められない。 また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤 の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

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平成29(ワ)43269  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月18日  東京地方裁判所

 衛生マスクの特許権侵害が認定されました。「空間を形づくる非伸縮性の接合部」について、明細書の記載に基づいて、「会話や呼吸の妨げにならない程度に,マスクの本体が鼻下及び唇の表面に接触しない程度の空間が保たれている」と判断されました。\n

「空間を形づくる非伸縮性の接合部」の意義について,本件明細書には,マ スク布地の中央部に鼻下及び唇部を覆って空間を形づくる非伸縮性の接合部 を形成したので,会話等で唇を動かしても,呼吸をしても,ニット布地による 拡大,縮小といった変化を生じることがなく,安定して会話や呼吸を行うこと ができること,非伸縮性の接合部を形成する手段として,マスク本体の中央部 を左右に分離させた上,鼻下及び唇部との間に一定空間を保つような外膨らみ の扇形状に裁断し,可及的に伸縮性をもたない非伸縮性とすべく縫合するとの 記載がある(段落【0020】【0059】【0060】【0092】)。 そうすると,「空間を形づくる非伸縮性の接合部」とは,少なくとも,会話や 呼吸の妨げにならないように,マスクの本体が鼻下及び唇の表面に接触しない\n程度の空間が保たれるよう,マスク本体の中央部を左右に分離させ,外膨らみ の扇形状に裁断して可及的に伸縮性をもたない非伸縮性とすべく縫合する構\n成を含むと解するのが相当である。
 証拠(甲5,21の1・2,乙37)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品 は,マスク本体の中央部を左右に分離させ,外膨らみの扇形状に裁断して縫合 する構成を有しており,それによって,マスク本体の中央部に非伸縮性の接合\n部が形成され,会話や呼吸の妨げにならない程度に,マスクの本体が鼻下及び 唇の表面に接触しない程度の空間が保たれていると認められる。\nしたがって,被告製品は,「空間を形づくる非伸縮性の接合部」(構成要件D)\nを充足するといえる。
これに対し,被告は,「非伸縮性の接合部」について,「非」とは,後に続く 語句について「そうでない」という意味であり,「非伸縮性」とは,伸縮しない, 又は,伸縮するものを除くという意味であると主張するが,本件明細書には, 前記のとおりの記載があり,他方,「非伸縮性」について全く伸縮性を有しない とは記載されていない。また,本件発明はニット生地のマスクに関する発明で あり,一切伸縮しない製品のみを想定しているとは考え難い。 被告は,本件明細書の記載(段落【0060】【0061】)から,「非伸縮性」 の接合部とは,二重の縫合であることが必須の構成であると主張するが,本件\n明細書の段落【0061】には,「例えば・・・二重の縫合を施すことで可及的 な非伸縮性を得ることができる。」との記載があるとおり,二重の縫合はあく まで実施形態の一つとして例示されているにすぎず,「非伸縮性」の接合部の 構成が二重の縫合に限定されるとは認められない。\n

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平成31(ネ)10019  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年7月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について均等主張も否定されました。1審では、構成要件Dについて均等主張をしていませんでした。控訴審では構\成要件Dの均等侵害を主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。被控訴人(1審被告)はYAHOO(株)です。

 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細 書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図に おいては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,\n肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要\nがあり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型 化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅 地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住\n宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護とい う点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁 目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目 的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり, 迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,\n本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共 施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物 名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すること により,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構\成要件B 及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載 の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特 定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構\成要 件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な 廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによ って,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容 易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供す\nることができるという効果を奏することにあるものと認められる。
イ この点に関し控訴人は,本件発明の技術的思想(技術的意義)は,「検 索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については 居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみ を記載すると共に,縮尺を圧縮して」(本件発明の構成要件B及び構\成要 件Cの前半)という構成により,「記載スベースを大きく必要とせず」(本\n件明細書の【0039】),これにより「広い鳥瞰性を備えた地図を構成」\n(構成要件Cの後半)する点にある旨(前記第2の4(1)エの「当審におけ る控訴人の主張」(ア))を主張する。
しかしながら,発明の技術的意義は,明細書に開示された従来技術の課 題について,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて,当該発 明がその課題の解決手段として採用した構成及びその構\成による効果を踏 まえて認定すべきものと解されるところ,控訴人の上記主張は,本件明細 書において,従来の住宅地図の付属の索引には,住所の丁目及びそれぞれ の丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地 (建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け, 非能率であるという課題があったこと(【0003】),本件発明は,上\n記課題を解決するための手段として,地図の各ページを適宜に分割して区 画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記 載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索 引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用したことにより,全ての 建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるた め,簡潔で見やすく,迅速な検索を可能としたという効果を奏すること(【0\n039】)の開示があることを考慮しないものであるから,採用すること ができない。
・・・
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Dの「区画化」の構\成が,地図が記載 されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によっ て仕切って複数の区画に分割し,その各区画を特定する番号又は記号番号を 付し,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある 複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割す ることを意味するものと解し,また,仮に構成要件Fの「索引欄に…住宅建\n物の所在する番地を前記地図上における…記載ページ及び記載区画の記号番 号と一覧的に対応させて掲載した」との構成が,索引欄に所在番地の記載ペ\nージ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載される構成に限られ\nると解した場合には,被告地図は,各ページに線その他の方法及び記号番号 が付されていない点及び「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル 19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示されていない点で\n本件発明と相違することとなるが,被告地図は,均等の成立要件(第1要件 ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なものとして,本件 発明の技術的範囲に属する旨主張する。 しかしながら,前記1(3)ア認定の本件発明の技術的意義に鑑みると,本件 発明の本質的部分は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住 宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建 物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性 を備えた構成の地図とし(構\成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分 割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建 物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属 の索引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用することにより,小判 で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また, 上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該 ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可 能な住宅地図を提供することができる点にあるものと認められる。\n
しかるところ,被告地図においては,前記2(1)ウ及び(2)認定のとおり, 地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に 見える形で複数の区画に仕切られておらず,索引欄に住宅建物の所在番地の 記載ページ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載されていない ため,構成要件D及びFを充足せず,ユーザが所在番地の記載ページ及び区\n画の記号番号の情報から検索対象の建物の該当区画を探し,区画内から建物 を探し当てることができないから,このような索引欄を利用した迅速な検索 が可能であるということはできない。\nしたがって,被告地図は,本件発明の本質的部分を備えているものと認め ることはできず,被告地図の相違部分は,本件発明の本質的部分でないとい うことはできないから,均等論の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)34450

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平成30(ワ)10157  独占的通常実施権に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月22日  東京地方裁判所

 独占的通常実施権者が損害賠償を請求しましたが、技術的範囲に属しないとして、請求棄却されました。

(1) 構成要件1Eは「前記溶出液による前記外面の衝撃の際の圧力は,0.5\nkg/cm2〜3.5kg/cm2の範囲であること」,同7Hは,「前記ノ ズルの噴射孔から前記溶出液が噴射されて前記ガラス基板の外面を0. 5kg/cm2〜3.5kg/cm2の範囲の圧力で衝撃する」という構\n成を含むものであり,いずれも,ノズルから噴射された溶出液がガラス 基板の外面を衝撃する際の圧力が「0.5kg/cm2〜3.5kg/c m2」の範囲内であることをその内容とするものである。
(2) 原告は,構成要件1E及び7Hの「圧力」の数値の意義について,1cm\n2当たりの平均の圧力ではなく,溶出液がガラスを衝撃するそのスポットの 衝撃圧力を意味すると理解すべきであると主張する。 しかし,構成要件1E及び7Hの「圧力」の単位は「kg/cm2」であ り,これは,通常の意味としては,ある程度の面積を有する面に所定の時間 にわたり作用する力の大きさを単位面積当たりの大きさに換算したものと解 するのが自然である。 また,本件明細書等には,構成要件1E及び7Hの「圧力」の意義や測定\n方法に関する明確な定義は存在しないものの,段落【0034】には,「こ の際,各ノズル4の各噴射孔41と外面との距離(図3にdで示す)は重要 な要素である。距離dがあまり大きくなると,送液ポンプ54による送液圧 力をかなり高くしなければ,上記範囲内の圧力で外面を衝撃することができ なくなってしまい,実用的に難しくなる。」との記載が存在する。液滴の大 きさや衝撃力は距離により変化するものではないので,上記明細書の記載は, 上記各構成要件の「圧力」が単位面積当たりの作用力の大きさであることを\n示唆するものということができる。
(3) これに対し,原告は,本件明細書等の段落【0015】及び【0017】 における,ノズルから噴射された溶出液の衝撃により外面の材料が溶け出し, 溶出液が衝撃により流出していく旨の記載を根拠として,構成要件1E及び\n7Hの「圧力」は,溶出液がガラスを衝撃するそのスポットの衝撃圧力を意 味すると主張する。しかし,上記記載は,構成要件1E及び7Hの「圧力」\nの測定について特定の方法によるべきことを含意するものではなく,同記載 をもって,同各構成要件の「圧力」が,ガラスを溶出液が衝撃するそのスポ\nットの衝撃圧力を意味すると解することはできない。
また,原告は,甲21の1〜3に依拠し,本件特許出願当時,本件特 許に近い技術分野においても,原告が主張するような意味で「圧力」と いう用語が用いられていたと主張する。しかし,甲21の1は,「気中ウ ォータージェットピーニング技術」であって,約1000MPaの非常 に高い衝撃圧力が生じるものであり,甲21の2及び3も,高速液体噴 流による洗浄・ピーニングに関する技術及び漁船等に付着した貝などを 除去するための高圧噴流ノズルに関する技術であって,本件特許のよう なガラスの基板の研磨に関する技術分野とは異なる技術分野であり,そ こで想定されている「圧力」の大きさも異なるというべきである。 むしろ,本件ノズルと同種のノズルを昭和30年代から製造している いけうち(乙4)においては,その測定に当たり,1cm×1cmの正 方形の圧力受領域を有する「受圧プレート」が使用されていると認めら れ(乙3),また,いけうちと同様に長年にわたりスプレーノズルを製造 している共立合金製作所においても,一定の面積の受圧部を使用してい ることが認められる(乙5参考資料1)。これによれば,本件特許出願当 時,ノズルから噴射された溶出液がガラス基板の外面を衝撃する際の圧 力の測定方法としては,一定面積を有する面に所定の時間にわたり作用 する力の大きさを単位面積当たりの大きさに換算することが標準的であ ったというべきである。
(4) 原告は,本件ノズルを製造したいけうちの作成したスプレーノズル流量線 図(甲8)などに基づき,被告NSCの用いる方法又は装置におけるフッ酸 の噴射圧力は約1.224kgf/cm2であるとした上で,ノズルからフ ッ酸が噴射される際の圧力と噴射によってガラス基板に加わる衝撃の圧力は ほとんど変わらないので,被告方法は構成要件1E及び7Hを充足すると主\n張する。 しかし,証拠(乙1資料4〜6,乙2)によれば,本件ノズルは,ノズル 吐出口の直径は約3mm,吐出口の面積が約7mm2であり,ノズルの先端 とガラス基板との間には190mmの距離があり,薬液は65〜70°の噴 霧角度(噴角)に均等な流量分布で広がって円錐形に噴霧されるので(乙2 の1頁左上写真参照),ノズルから190mm離れたガラス基板上に噴霧さ れる領域は,ノズルの噴霧圧力が0.1〜0.2MPaの場合,直径約24 2〜約266mmの円形領域となり,その面積は約4万5973〜約5万5 543mm2であると認められる。 このように,本件ノズルは,65〜70°の噴霧角度に広がり均等な流量 分布で円錐形に噴霧されるものであり,液滴の分布は一様に広がりながらガ ラス基板の外面に到達するのであるから,その分薬液の単位面積当たりの圧 力は大幅に低減するというべきである。 そうすると,ノズルからフッ酸が噴射される際の圧力と噴射によってガラ ス基板に加わる衝撃の圧力がほとんど変わらないことを前提とし,被告方法 が構成要件1E及び7Hを充足するとの原告の主張は理由がない。\n

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平成31(ネ)10006  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 方法に用いる検査キットが間接侵害かが争われました。知財高裁(3部)は、1審の構成要件該当せずとの判断を維持しました。「患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにしていない」として、イ号キットを用いた検査方法は技術的範囲に属しないと判断されました。
 クレームが凄いですね。「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」です。

 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明 の「プロカルシトニン3−116」は,「患者の血清中」から「測定」 されるものであり,測定結果が「敗血症及び敗血症様全身性感染」の「検 出」のために用いられることを理解できる。 そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「プロカルシ トニン3−116を測定すること」の意義について規定する記載はない が,「測定」とは,一般的に,「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具 や装置を用いてはかること」(大辞林(第3版))との意味を有する。 したがって,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「患者の血 清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは,患者の血清 中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味するも のと解される。
(イ) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,従来技術として,患者 の血清中のプロカルシトニンの測定が,敗血症の検出にとって有益な診 断手段であることが知られていたこと,「本発明」の開始点は,敗血症 等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが,プ\nロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3−116であ るという発見であり,そこから新規な診断及び治療方法,そこで使用可 能な物質等を導き出したことの開示がある(前記1(1)イ)。一方,本件 明細書の発明の詳細な説明には,「プロカルシトニン3−116を測定 すること」の意義について明示した記載はない。 そして,このような本件明細書の記載に照らしても,本件発明の「患 者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは,患者 の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味 し,その測定結果が敗血症等の検出に用いられることを理解できる。
(ウ) 以上の特許請求の範囲及び本件明細書の記載事項を総合すると, 「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは, 患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを 意味するものと解される。
イ これに対し控訴人は,構成要件Aの「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定すること」とは,敗血症患者の血清中でプロカルシトニ ン3−116を敗血症の検出に必要な精度で測定することをいうと解すべ きであり,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3− 116を測定することを必須とするものではない旨主張し,その根拠とし て,1)本件明細書の記載事項(【0002】〜【0008】等)から,患 者の血清中でプロカルシトニン1−116等とプロカルシトニン3−11 6を区別することなくプロカルシトニン一般を測定したとしても,敗血症 等の検出に必要な精度でプロカルシトニン3−116を測定できることが 当業者に明らかであること,2)本件明細書には,本件特許に係る「敗血症 及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の具体例として,血中か ら検出されるプロカルシトニンの濃度を一般的なイムノアッセイにより測 定することが記載されているが(【0062】,表3),通常のイムノア\nッセイでは,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3 −116を測定することは不可能であることを挙げる。\nしかしながら,「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定す ること」とは,患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らか にすることを意味するものと認められることについては,前記アのとおり である。
上記1)の点については,患者の血清中のプロカルシトニン3−116を プロカルシトニン1−116等と区別することなく測定することとは,患 者の血清中のプロカルシトニンを測定することと同義であるところ,本件 明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定することにより 敗血症等を検出する技術は,本件出願の優先日前に従来技術として存在し たものであり,「本発明」は,かかる従来技術に対して新規のものである 旨が記載されていること(前記1⑵イ,ウ)からすると,かかる従来技術 が本件発明に係る方法に含まれると解することはできない。 なお,本件明細書には,敗血症等の患者の血清中に含まれるプロカルシ トニンの大部分がプロカルシトニン3−116であることを発見した旨 の記載があるが(【0009】,【0010】),たとえそのような関係 があるとしても,プロカルシトニン3−116を測定することと,プロカ ルシトニン一般を測定することとが同義とはいえないことは明らかであ る。更に付け加えれば,敗血症等の患者の血清中に含まれるプロカルシト ニンの大部分はプロカルシトニン3−116であるとの知見が存在する としても,敗血症等であるかどうかが明らかではない(だからこそ,その 診断を要する)患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分 がプロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないはずで ある。したがって,敗血症等であるかどうかの診断に当たり,検出された プロカルシトニン一般の大部分がプロカルシトニン3−116であると の前提に立つことはできないというべきであるから,上記知見の存在は, 前記アの判断を左右するものではない。 また,上記2)の点については,本件明細書には,正常者及び敗血症患者 の血清中のプロカルシトニン濃度を測定した旨が記載されているところ (【0062】),【0062】に明示の記載はないが,上記測定は,【0 023】と同様に,市販のプロカルシトニンアッセイを用いて行われたも のと理解することができる。 しかしながら,本件明細書には,かかる測定は,これと同時に行われた これらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対比することによ り,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニンにおいて際 立っていることを示すものである旨の記載があることからすると(【00 59】,【0062】,【0063】,表3),上記測定が,本件特許に\n係る「敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の具体例と して記載されたものであるとは認められない。したがって,上記2)の主張 は,その前提を誤るものである。 以上によれば,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 被告方法について
前記前提事実のとおり,被告装置及び被告キットを使用すると,患者の 検体中において,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−1 16とを区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度 を測定することができ,その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行わ れていると認められるものの,本件全証拠によっても,被告装置及び被告 キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニン3−11 6の量が明らかにされているとは認められない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構\n成要件Aを充足するものとはいえない。

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平成29(ワ)31706  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月27日  東京地方裁判所

 東京地裁29部は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 そこで,被告プログラムが「木構造」を有するか,すなわち,被告プログラムを\n使用して表示されるフローダイアグラムの親子関係が示されている部分が「木構\ 造」であるかについて検討する。
原告は,前記イ(イ)の1)から4)までのSayボックスの接続関係について,木構\n造,すなわち階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分である と主張するのでこれをみると,前記イ(イ)のとおり,Sayボックスについて,S ayボックスのonStartコネクタから出発して,SayボックスのonSt oppedコネクタに接続されているのであり,SayボックスのonStart コネクタ及びonStoppedコネクタは,いずれも,Sayボックスの構成要\n素である以上,Sayボックスのフローダイアグラムにおけるボックスの接続関係 は,Sayボックスから出発してSayボックスに戻る閉路として表示されている\nことになり,木構造であるとはいえない。\nその他,階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分が全て木 構造であることを認めるに足りる証拠もない。\nそうであれば,被告プログラムは,「木構造」を有しているとはいえず,したが\nって,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充足しないというべきである。\n
エ(ア) この点,原告は,「木構造」の意義について,ノード(点)とエッジ\n(線)から構成される図として表\示されるものであって,閉路を含まない概念であ るとした上で,前記イ(イ)でみたSayボックスの構成は,閉路ではないと主張す\nる。すなわち,被告プログラムのSayボックスのフローダイアグラムにおいて, 3)Say Textボックスの出力コネクタから1)Sayボックスの入力コネクタ に直接リードが接続されている場合には,SayボックスからSayボックスに戻 る閉路であるといえるが,3)Say Textボックスの出力コネクタは,4)Sa yボックスの出力コネクタに接続されており,1)Sayボックスの入力コネクタと 4)Sayボックスの出力コネクタは異なるものとして表示されているのであるから\n閉路ではない旨主張する。 しかしながら,「木構造」はコネクタの接続関係ではなく,ノード間の接続関係\nを表示するものであり,被告プログラムにおいて,それはボックス間の接続関係を\n表示するものであるところ,別紙6の図2は,別紙6の図1に表\示されたフローダ イアグラムのうち,Sayボックスの構成要素を表\示した図であって,前記認定の とおり,SayボックスのonStartコネクタとSayボックスのonSto ppedコネクタはいずれもSayボックスの構成要素であるから,Sayボック\nスのonStartコネクタとSayボックスのonStoppedコネクタの表\n示位置が離れているとしても,Sayボックスから出発してSayボックスへ戻る 接続関係がないとみることはできない。よって,原告の上記主張はその前提を欠き, 採用することができない。
(イ) また,原告は,出力コネクタであるonStoppedは,ボックスの動 作が終了したことを示すにすぎず,Say TextボックスのonStoppe dコネクタから出力されたデータは,Sayボックスを経由して流れることはない から,Sayボックスのフローダイアグラムは,データの流れの観点からみても閉 路ではない旨主張する。しかしながら,証拠(乙30,31)及び弁論の全趣旨に よれば,Say TextボックスのonStoppedコネクタから出力された データは,Sayボックスを経由していることが認められるから,原告の主張はそ の前提を欠き,採用できない。
オ 小括
以上のとおり,被告プログラムは,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充\n足しない。
(2) 争点1−4(被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード変 数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」(構\n成要件G)を充足するか)について
ア 「ノードデータテーブル表示ステップ」及び「ノード変数データ」の意義について\n
まず,「ノードデータテーブル表示ステップ」の意義について検討すると,「テ\nーブル」は,表,一覧表\を意味するところ,本件明細書等(【0046】,【00 55】,【0057】,【0065】,【0066】,【図6】,【図10】)に おいて,「ノードデータテーブル」に相当するデザインテーブルは,自ノード変数 データ及び全ての直系上位ノード変数データを表示する領域(【図6】における公\n開変数表示領域)と,代入用スクリプトを表\示する領域を含む一覧表になっており,\n「図6に示した状態で,表示された木構\造及びノードデータの編集が可能であり」\n(【0054】),「ノードデータとして1まとまりになっている」(【005 5】)と記載されていることにも照らせば,「ノードデータテーブル」とは,「ノ ードデータ」の一覧表であり,上位ノード変数データ,自ノード変数データ及び代\n入用スクリプトを同時に表示するものと解するのが一般的かつ自然である。\n次に,ノードデータテーブルが表示する「ノード変数データ」の意義について検\n討すると,本件明細書等には,「変数の値(「変数データ」と記述する場合もあ る。)」(【0031】),「ノードの直系上位ノードの公開変数の値である上位 ノード変数データ」(【0032】)と記載されており,これと異なる解釈を導く ような説明がされていることは認められないから,「ノード変数データ」は,変数 の値を意味すると解するのが自然かつ合理的である。
 イ この点,原告は,「テーブル」の意義について,本件明細書等に「デザイン テーブル20は,ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノー\nドが有する情報を表示する領域であり」(【0046】)と記載されているから,\n「テーブル」(構成要件G)は,情報を表\示する領域を意味すると主張する。しか しながら,この記載はデザインテーブルの性質を説明するものにすぎず,「テーブ ル」の意義を一般的意味より広く解釈すべきことを示唆する記載とみることはでき ないから,原告の同主張は採用することができない。 また,原告は,「ノード変数データ」の意義について,本件特許の請求項1及び 請求項9並びに本件明細書等の記載(【0008】【0017】)には,「前記自 ノード変数データの値」という文言があり,「変数データ」は,「変数データの 値」と区別して用いられているから,「ノードデータテーブル表示ステップ」にお\nいて,変数の値を表示することは必要ではなく,また,上位ノード変数データと自\nノード変数データとを同時に表示することも必要ではないと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らして採用することができない。
ウ 被告プログラム
(ア) 被告プログラムの構成g\n
まず,原告は,被告プログラムのフローダイアグラム画面上のインスペクタに表\n示された入力コネクタの名称が「上位ノード変数データ」に当たると主張している ところ,入力コネクタの名称は変数の値ではないから,「上位ノード変数データ」 に当たると認めることはできない。よって,被告プログラムは,「上位ノード変数 データ」「を表示するノードデータテーブル表\示ステップ」を充足しない。
(イ) 被告プログラムの構成g’\n
また,原告は,被告プログラムのSay Textボックスのスクリプトエディ タにおいて親からの変数の取得機能を使う場合,上位ノードであるSayボックス\nの変数のうち利用可能なものを一覧表\示させることができる機能があるから,被告\nプログラムは,「上位ノード変数データ」「を表示するノードデータテーブル表\示 ステップ」を充足すると主張する。
この点,Say Textボックスにおいて親からの承継を選択した場合,別紙 3−1被告プログラム説明書図19のとおり,インスペクタ上に,Say Tex tボックスの変数Speed(%)の値が表示されるが,これはSay Text ボックスにおいて表示されるものであるから自ノード変数を表\示しているものと認 められ,「上位ノード変数データ」を表示しているとみることはできない。よって,\n被告プログラムは,一覧表として「自ノード変数データ」及び「上位ノード変数デ\nータ」を同時に表示しているということはできない。\nさらに,原告は,別紙6の図3のように,上位ノード変数と代入用スクリプトを 同時に表示することができる旨主張するが,同図の表\示形態を一覧表とみることは\nできない上,同図では,上位ノードの名称が表示されているにとどまり,上位ノー\nド変数の値が表示されていると認めることはできないから,「ノード変数データ」\nを一覧表として表\示しているということはできず,原告の同主張は採用することが できない。
加えて,本件全証拠によっても,behavior.xar内に,親からの承継 の機能に関して,自ノード変数データ及び上位ノード変数データを利用した演算を\n行って自ノード変数データの値を求める「代入用スクリプト」があると認めるに足 りる証拠はないから,被告プログラムは,「前記スクリプトを表示するノードデー\nタテーブル表示ステップ」を充足すると認めることはできない。\nエ 以上のとおり,被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード 変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」 (構成要件G)を充足しない。\n

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平成30(ネ)10060  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。

 まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
 (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直 接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味 など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用 されている。 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006 2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに 保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」 は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自 然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態, 資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。 しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション) とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細 書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。 そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び 【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n

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◆平成29(ワ)14142

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平成29(ワ)34450  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年1月31日  東京地方裁判所(46部)

 CS関連発明について、構成要件Dを有していないとして、非侵害の認定がされました。被告はヤフー株式会社です。
 前記(1)によれば,本件発明の意義は以下のとおりであると認められる。 従来の住宅地図は,建物表示に住所番地だけでなく居住者氏名も全て併記さ\nれていたため,氏名を記載するためのスペースを確保するために住宅地図の縮 尺を高くすることができず,そのため,地図の大きさも比較的大きくする必要 があるとともに,地図に氏名が記載されることによるプライバシー侵害や利用 者の検索への支障を生じたり,地図の更新作業のための調査に膨大な労力と人 件費がかかったりするという課題があった。また,住宅地図に付されている索 引についても,住所のうち丁目と,それぞれの丁目に該当するページが掲載さ れているだけであったため,同一の丁目の中で番地が異なっている多くの建物 の中から目的とする建物を探し出す必要があった。 本件発明は,居住者氏名を記載しないため,高い縮尺度で地図を作成するこ とにより小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや, 地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住宅地 図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以外\nは住宅番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化したうえで建 物の所在する番地と記載ページと記載区画の記号番号を一覧的に対応させた 索引欄を付すことによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図\nを提供することを可能にするものである。\n
2 争点1−4(構成要件D(「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画\n化し」)についての文言侵害の有無) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告地図プログラムは,ユーザが,インターネット上の「https:/ /以下省略」のURLにアクセスし,所定の操作をするなどすると,ユーザ の端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のデ ィスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。\n被告地図プログラムにより表示される地図では,縮尺レベルが1〜20の\n20段階に分かれており,縮尺レベル20が最も詳細(縮尺率が小さい)な もので,縮尺レベル1が最も広域(縮尺率が大きい)なものである。各縮尺レベルに応じて,地図用のデータが存在する。 りディスプレイの画面に表示さ\nれる地図の画面表示等は,別紙「被告地図プログラムの構\成(分説)」記載の とおりである。(以上につき,甲13ないし19,乙1,22,弁論の全趣旨)
イ 被告地図において,市区町村名,町名,丁目及び番の表示の右側に〔地図〕\nと表示された部分等にはハイパーリンクが設定されており,そのハイパーリ\nンクに係るURLは,冒頭に「https://以下省略」と記載され,そ の後の記載がパラメータであることを示す「?」が記載された後に,「lat =…&lon=…&ac=…&az=…」及び「z=…」という記載を含む ものである。前記のlat,lon,ac,azが示す各値は,それぞれ当 該地点に係る緯度,経度,都道府県及び市区町村の住所コード,町,丁目, 番又は号の番号を示し,zが示す値は縮尺レベルを示す。ユーザがディスプ レイ画面上で当該ハイパーリンクをクリックすると,その緯度経度を含む地点データと縮尺データを含むURLが被告地図の地図提供サーバに送信さ れる。地図提供サーバが,この地点データに係る地点を含み,かつ,縮尺デ ータに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユ ーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上におい\nて当該緯度経度を中心とした所定の縮尺の地図が表示される。(甲4ないし\n19,弁論の全趣旨)
ウ インターネットに接続した状態で被告地図をユーザのディスプレイ画面 に表示し,その後,インターネットの接続を停止した上で地図表\示画面をス クロールさせると,地図が表示されない部分が画面上に表\示される。(甲3 4,弁論の全趣旨)
エ 被告地図プログラムにおける縮尺レベル19の縮尺は,概ね1/1250 から1/2857の範囲であり,被告地図における縮尺レベル20の縮尺は, 概ね1/615程度である。(甲33,乙1,弁論の全趣旨)
(2)本件明細書には、前記1(1)記載のほか、(発明の実施の形態)として以下 の記載がある。なお,以下の図1ないし5は,それぞれ,本判決別紙本件明細 書図1ないし5である。 ア 段落【0017】
・・・
(3)構成要件Dの「適宜に分割して区画化」について\n
構成要件Dの「適宜に分割して区画化」の意義について,特許請求の範囲の\n「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図 上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対 応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構\成要件D の「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画 を一覧的に示すことができる区画を作成することが可能となるように,検索す\nべき領域の地図のページを分割し,認識できるようにすることといえる。 そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等以 外は住宅番地のみを記載するなどし,全ての建物が所在する番地について,掲 載ページと当該ページ内で分割された該当区画を一覧的に対応させて掲載し た索引欄を設けることによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅\n地図の提供を可能にするというものであり,本件発明の地図の利用者は,索引\n欄を用いて,検索対象の建物が所在する地番に対応する,ページ及び当該ペー ジにおける複数の区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区 画内において,検索対象の建物を検索することが想定されている。そのために は,当該ページについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割さ れ,利用者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうす ると,本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件 発明の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号に より,検索対象の建物が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でどの 区画であるかを認識することができる形でページを区分することをいうとい える。 前記(2)のとおり、本件明細書には、発明の実施の形態において,本件発明を 実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」 及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いず れも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで, そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて複数の区画に分割 されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付されている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番号及び区画番号が記載 されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,索引欄において当該建物 が掲載されているページ番号及び区画番号を把握し,それらの情報を基に,該 当ページ内の該当区画を認識して,その該当区画内を検索することにより,目 的とする建物を探し出すことが記載されている(段落【0028】)。ここでは, 上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に従った実施の形態が記載されて いるといえる。そして,「区画化」の意義に関係して,他の実施の形態は記載さ れていない。
以上によれば,構成要件Dの「区画化」とは,地図が記載されている各ペー\nジについて,記載されている地図を線その他の方法によって仕切って複数の区画に分割し,その各区画に記号番号を付すことであり,索引欄を利用すること で,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある複数 の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割するこ とを意味すると解するのが相当である。 原告は,被告地図において,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20 の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当する\nと主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形\nでその一部が表示されるから構\成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると 主張するとともに,「メッシュ化」され,また,複数のデータとして管理されて いるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」することになると主張する。\nしかし,仮に,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図が それぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当するとしても,利\n用者は,画面に表示されている地図を見ているのであって,線その他の方法及\nび記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在す る地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。被告地図におい て「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータ として管理されているとしても,被告地図プログラムの構成(分説)及び前記\nアないしウに照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分された データを通常認識しないだけでなく,それらに対応する記号番号を認識するこ とはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び記号番号によ り,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応す る区画を認識することができるとはいえない。そうすると,前記 に照らし, 被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとは いえない。 これらによれば,被告地図について,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」\nがされているとは認められない。

◆判決本文

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