2022.08.18
令和3(ネ)10079 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様に、技術的範囲に属しないと判断されました。
(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明の「係止片」は、1)所定
位置において、それ自体として針先の再露出を直接防止し、2)片状の部材で
あり、3)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、4)大径部に円筒状部と一
体形成され、5)小径部側には設けられていないものをいうから、上記構成要\n素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられていても構成\n要件1E4)の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの主張もこのよ
うな理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第3の2(1)(補正後のもの)のとおり、
本件発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機能\nを有する係止片は小径部側には設けられてはならず(係止片が小径部側に設
けられていないことに特有の技術的意義がある。)、したがって、小径部に設
けられることで構成要件1E4)の充足が妨げられる係止片は、その形状を問
われないものであるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小\n径部側に存することは、対象製品が構成要件1E4)を充足することを妨げる
ものである。
また、控訴人は、係止片は針先の再露出を「それ自体」として、かつ、「直
接」に防止しなければならない旨主張するところであるが、特許請求の範囲
及び本件明細書の記載上、根拠を見いだし難い(いずれにせよ、大径部係止
手段と小径部側壁部から構成される「係止片」は、それ自体により直接に針\n先の再露出を防止していると認められる。)。
さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは
その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片
状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控
訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、
上記のような本件発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判断
に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を片
状のものに限定する意義は見いだせない。また、いずれにしても、被告製品
は、小径部側壁部の突端面により縦リブの側面を挟持するものであるところ
(引用に係る原判決第2の1(3)イd(補正後のもの))、小径部側壁部の突端
面を「片」と理解することに支障があるとは思えない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)27053
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2022.07.23
令和2(ネ)10042 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。
争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6
159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第
1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ
アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に
対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、
前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ
れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置
関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴
人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2
04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス
マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た
り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ
とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知
手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし
て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、
S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載
器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず
れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ
ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及
び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム
においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、
発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、
被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」
と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。
また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用
出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場
合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する
ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC
による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手
段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機
を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、
逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘
導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、
料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ
てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防
止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明
らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に
第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。
たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車
両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上
記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の
遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中
の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス
テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無
線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行
中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0
042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し
ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される
ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな
い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、
車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ
り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ
とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1
の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通
信を行うものであると限定的に解釈することはできない。
したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して
いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開
閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も
のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出
ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと
によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定
結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い
てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通
じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘
導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに
通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ
スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各
システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され
るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな
い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導
する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」
に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい
ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、
インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー]
1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、
バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係
員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出
ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各
発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提
供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」
という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1
の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で
説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5
685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス
マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ
り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生
活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常
のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト
は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年
と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3)
既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ
とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕
著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI
Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触
しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお
らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める
被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人
は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ
れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。
◆判決本文
原審はこちら。
◆H31年(ワ)7178
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2022.01.11
令和1(ワ)27053 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月31日 東京地方裁判所
出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。
争点1−1(被告製品の小径部側壁部は,係止片は大径部側に一体形成される一方
小径部側には設けられていないという文言を充足するか−構成要件1E4),2E4),
3E5)充足性)について
構成要件1E4),2E4),3E5)によれば,「係止片は」「大径部側に」「一体形成
される一方」「小径部側には設けられておらず」というのであり,上記のとおり,本
件発明は,従来よりも安全性などの向上を図るというその目的をより良く達成する
という上記の技術的見地から,針先再露出防止を担う係止片の構成を工夫して,拡\n開部の大径部側に一体形成し小径部側には設けないという構成を採用したものとい\nうことができる。これによれば,本件発明において,拡開部に設ける「係止片」に
ついては,大径部側に一体形成されている必要があるとともに,小径部側には設け
られていない構成である必要があるものであって,「係止片」が小径部側に設けられ\nている構成は排除されているものといわなければならない。\n
そして,この「係止片」は,使用後の針先再露出を防止する部材であるといえる
が,当該部材が針先の先端側への移動を阻止して針先再露出を防止する態様につい
ては,構成要件1Dに「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた\n所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止
される」とある以上には何ら具体的な限定がなされていない。また,本件明細書の
発明の詳細な説明を見ても,当該部材が,針先の先端側への移動を阻止する具体的
態様を限定する根拠となり得るような記載は見当たらない。加えて,本件特許の出
願経過を見ると,証拠(乙14,15)によれば,原告は,令和元年5月15日頃,
特許庁から進歩性欠如等を理由とする拒絶理由通知を受け,その際,構成要件1D\nに関し,「針先プロテクタの断面形状を,周知の形状である小径部と大径部とを備え
た楕円形とし,大径部の周壁に針ハブ係合部を設け,大径部の周壁で覆われた内部
に係止部を設けた構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。」などと\n指摘されたことを踏まえて,同年6月19日,従前の請求項で「前記拡開部の前記
大径部に対応する位置に,前記筒状の周壁に一体形成された前記係止部が設けられ
て」と記載していた部分を,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方,
前記小径部側には設けられておらず,」と補正したものであることが認められる。そ
の上で原告は,同日特許庁に提出した意見書において,本件発明の進歩性を基礎付
ける事情として,拒絶理由通知書で審査官が指摘した引用文献(乙27,29)に
ついては,いずれも針先プロテクタの小径部側に係止部が設けられており本件発明
とは異なる旨主張し,その際,当該係止部が針先の先端側への移動を阻止する具体
的態様には言及していなかったことが認められる。そして,本件特許は,その上で
登録されている。
そうすると,本件特許請求の範囲の記載文言をみても,本件明細書の発明の詳細
な説明をみても,小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」が針先
の先端側への移動を阻止する具体的態様を限定する根拠となり得るような記載がな
く,加えて,原告自身,本件特許の出願手続においては,その特許請求の範囲を前
記のように「前記小径部側には設けられておらず,」と補正した上で,意見書におい
て,具体的態様については何ら限定しないまま,小径部側に「係止片」が設けられ
ていない点を本件発明の進歩性を基礎付ける事情として主張し,その上で本件特許
が登録されたものである。
以上によれば,本件発明において小径部側に設けられてはならない「係止片」は,
針先の先端側への移動を阻止する具体的態様が限定されているものではなく,他の
部材と協働して針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものであるといわなけ\nればならない。
そこで,被告製品をみるに,前記前提事実によれば,被告製品においては,針基
に設けられた針リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが,小径部側壁部の
突端面により縦リブの側面を挟持することで互いに係合することにより,針基が針
先保護部に対して回動することを防止する構成になっており,仮にこのような回動\nが発生して針基の受部が大径部係止手段のない小径部側まで移動した場合には,針
基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前進することになる。すなわ
ち,小径部側壁部がなければ,大径部係止手段が無効化されて,針基が前進し,留
置針の針先が針先保護部の先端側から再露出することになるのであるから,被告製
品においては,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段による針基の
受け部の係止が協働して機能することによって,針先の再露出を防止していると認\nめられる。
そうすると,被告製品の小径部側壁部は,他の部材と協働して,針先の先端側へ
の移動を阻止する構成であるといえ,当該小径部側壁部は,本件発明において小径\n部側に設けられることが排除されている「係止片」に当たるといわなければならな
い。これによれば,「係止片」が針先抜出防止機構を含むものであるか否かに関わら\nず,被告製品は,小径部側に「係止片」が設けられているものとして,本件発明に
おいて排除されている構成を有しているから,本件発明の構\成要件1E4),2E4),
3E5)をいずれも充足しないといわなければならない。
したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件発明の構成要件1Dの「係止片」が,針ハブ(に設けられた受部)\nと「係止」されることによって「再露出を防止する(つまり,留置針が前進しな
いように止める)」ものであるのに対し,被告製品の小径部側壁部は,針基の縦リ
ブの側面を挟持して針基の回動を防止しているだけで,針基の前進を防止してい
るわけではないから,「係止片」に該当しないなどと主張する。
しかし,前記説示のとおり,本件発明にいう「係止片」は,他の部材と協働し
て針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものといわなければならない。そ\nして,被告製品において,小径部側壁部がそれ単体として針先の再露出を防止す
るものでないとしても,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段に
よる針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再露出を防止し\nているものである以上,本件発明にいう「係止片」に該当しないということはで
きない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ また,原告は,被告製品の小径部側壁部が針基の縦リブの側面を挟持する場所
は,針基と針先保護部の位置関係にかかわらないのであって,留置針の針先側へ
針先プロテクタが移動せしめられた「所定位置」において係止するものでないた
め,被告製品の小径部側壁部は「係止片」に当たらないとも主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告製品は,小径部側壁部がそれ単体として針
先の再露出を防止するものではなく,小径部側壁部による針基の回動防止と大径
部係止手段による針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再\n露出を防止するものであり,その機能が発揮される場所は,前記前提事実のとお\nり,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置に限定されている。
このことからすれば,被告製品の小径部側壁部は,「留置針の針先側へ針先プロテ
クタが移動せしめられた所定位置において」,大径部係止手段と協働して針先の再
露出を防止しているといえる。被告製品の小径部側壁部が,針先と針先保護部の
位置関係にかかわらず針基の縦リブの側面を挟持しているという事情は,この説
示を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ さらに,原告は,本件発明の構成要件1E4),2E4),3E5)が「前記係止片
は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,」と規定していることをもって,
本件発明で小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」は「前記針
ハブに向かって傾斜した内側面」を有しているものに限られているなどと主張す
る。
しかし,構成要件1E4),2E4),3E5)の「前記係止片は,前記針ハブに向
かって傾斜した内側面を有し」との文言は,本件明細書の段落【0061】の記
載(「・・・垂直面79a,79aの外周側に位置する傾斜面79b,79bが,外周
側になるにつれて先端側に傾斜していることから,垂直面79a,79aと基端
側規制面40とが傾斜面79b,79bに干渉されることなく当接することがで
きて,針ユニット20と針先プロテクタ10の軸方向における相対移動防止効果
がより確実に発揮され得る。」との記載)も併せると,そのような大径部側に一体
形成される係止片の構成について,規定した針ユニットと針先プロテクタの軸方\n向における相対移動防止効果がより確実に発揮されるという効果を奏させるべく
規定されたものであると認められる。そうすると,当該文言は,大径部側に円筒
状部と一体形成される係止片について特定したものにすぎず,設けられていては
ならない位置にある「係止片」の形状を限定するものではないというべきである。
したがって,被告製品の小径部側壁部が「傾斜した内側面」を有しないことは,
被告製品の小径部側壁部が本件発明において小径部側に設けられてはならないと
されている「係止片」に当たることを否定する理由にはならない。原告の上記主
張は,採用することができない。
エ 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。原告は,その他も縷々
主張するが,それらの主張内容を慎重に精査しても,上記説示を左右するに足り
るものはない。
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2020.01. 8
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。
本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に
適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。
前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な
時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。
しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程
度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる
からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す
ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ
ることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)16468
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2017.12. 6
平成28(ワ)7649 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年11月21日 大阪地方裁判所
発明特定事項「裾絞り部」について、明細書の記載および出願経過から、限定解釈されました。
「裾絞り部」の形状については,構成要件Gで特定されているとおり「底部に近\nづくに連れて先細りとなる」ものであり,本件明細書において,「裾絞り部」につ
き,「垂直に延在するのではなく,裾絞り状に傾斜している」(【0015】)と
説明されている上,構成要件G及びHを含まない出願当初の特許請求の範囲の請求\n項 1 を削除した上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても,裾絞り部は,それ
が直線であっても,曲線であっても,少なくとも,垂直の部分を含むことなく,蛇
腹部から底部にかけて,徐々に先細りになっていくものに限定されていると解され
る。
(5) まとめ
したがって,構成要件Gにいう「裾絞り部」とは,胴部において「蛇腹部」と「底\n部」の間にあって,それぞれに接続部で連続して存在するものであり,また「蛇腹
部」との接続部において「垂直に延在」する部分があっても許容されるが,それは
極く限られた幅のものにすぎないのであり,またその形状は,「蛇腹部」方向から
「底部」方向に向けて,徐々に先細りになっているものということになる。
(6) 以上の「裾絞り部」の解釈を踏まえ,被告容器が裾絞り部を備え,構成要件\nGを充足しているかを検討する。
ア 原告は,別紙「被告容器の構成(原告の主張)」記載の図面で「湾曲部」と\n指示した部分が「裾絞り部」に相当し,同部分の存在により構成要件Gを充足する\nと主張し,併せて,その上部にある垂直部分は,本件明細書の【0015】にいう
「接続部」にすぎないとしている。
しかしながら,上記検討したとおり,「裾絞り部」は,「蛇腹部」から接続部で
連続しているものであるが,この接続部は,極く限られた幅の範囲であるべきであ
って,上記図面に明らかなように,被告容器における原告主張に係る「裾絞り部」
に相当する湾曲部と蛇腹部の間に存する,湾曲部と高さ方向の幅がほぼ一緒である
垂直に延在する部分をもって「接続部」にすぎないということはできない。
したがって,被告容器は,上記定義した「裾絞り部」で構成されるべき「蛇腹部」\nから「底部」にかけて胴部の大半が,「裾絞り部」に該当しない部分で構成されて\nいるということになるから,被告容器は,「裾絞り部」を備えているものというこ
とはできない。
◆判決本文
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2016.02.21
平成26(ワ)25013 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年1月28日 東京地方裁判所
使用量を限定した治療薬について、用法用量がそのような投与量のものに限られると判断して、本件特許を侵害しないと認定しました。請求項1は以下の通りです。
成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられる(ただし,イソソ\ルビトールに対し1〜30質量%の多糖類を,併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする,イソソ\ルビトールを含有するメニエール病治療薬。
まず,特許請求の範囲の記載を見ると,本件発明は,所定量のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられること(構成要件A)を「特徴とする,イソ\ソルビトールを含有するメニエール病治療薬」の発明であり,メニエール病治療薬を用法用量により特定したものであるが,イソ\ソルビトールの投与量が構\成要件A所定の範囲に含まれるような用法があれば足りるのか(その範囲未満又は超過の投与量での用法があってもよいのか),用法用量がそのような投与量のものに限られるのか(それ以外の用法用量をも有する治療薬は本件発明の技術的範囲から除外されるのか)については,特許請求
の範囲に明示的に記載されていない。
上記アの本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来のイソソ\ルビトール製剤(これが被告製品1を指すことは明らかであり,その標準用量は1日当たりイソソ\ルビトール1.05〜1.4g/kg体重に相当する。甲3)の投与量が過大であり,そのために種々の問題が生じるところ,その投与量を構成要件Aに記載の0.15〜0.75g/kg体重という範囲にまで削減することによって上記の問題を解消したというものである。そうすると,本件発明の治療薬は,構\成要件A記載の範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与する用法を排除し,従来より少ない量を投与するように用いられる治療薬に限定されるということができる。換言すると,上記範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与するように用いられる治療薬は,「医師のさじ加減」個々の患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合には構成要件Aに記載された量で用いられ得るものであっても,本件発明の技術的範囲に属しないと解すべきである。このことは,上記?イのとおり,実施例又は参考例において,イソソ\ルビトールの投与量を時間的推移に着目して変動させたものが見当たらないことからも裏付けられると解される。
したがって,構成要件Aの「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソ\ソルビトールを経口投与されるように用いられる」とは,上記の用量を,患者の病態変化その他の個別の事情に着目した医師の判断による変動をしない段階,すなわち治療開始当初から,患者の個人差や病状の重篤度に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当である。\n
◆判決本文
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2010.12. 7
平成21(ワ)7718 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月30日 東京地方裁判所
切り餅事件について、明細書の記載、出願経過が参酌されて上面および底面に切り込みがあるものは技術的範囲外と解釈されました。
原告は,焼き上がった後の切り込み部が「忌避すべき焼き形状とならない」ことについて述べる本件明細書の記載(段落【0034】等)は,単に「側周表面」に設けられた切り込み部が忌避すべき焼き形状とならないことを指摘したものにすぎず,「載置底面又は平坦上面」に切り込み部を設けるか否かについて何ら言及するものではない旨主張する。しかしながら,前記ア(イ)で述べたとおり,本件明細書には,加熱時の膨化による噴き出しを制御するための切り込み部を餅の表面(切餅では平坦上面)に設けた場合には,「人肌での傷跡のような焼き上がりとなり,焼き上がり形状が忌避すべき状態となってしまい,切餅への実用化がためらわれる」という従来の課題を踏まえ,当該切り込み部を,平坦上面の場合に比べて見えにくい上に,オーブンによる火力が弱い位置である「側周表\面」に設けたことによって,「焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することが記載されていることに照らすならば,原告の上記主張は,理由がない。
◆判決本文
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2010.12. 7
平成21(ワ)7718 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月30日 東京地方裁判所
切り餅事件について、明細書の記載、出願経過が参酌されて上面および底面に切り込みがあるものは技術的範囲外と解釈されました。
原告は,焼き上がった後の切り込み部が「忌避すべき焼き形状とならない」ことについて述べる本件明細書の記載(段落【0034】等)は,単に「側周表面」に設けられた切り込み部が忌避すべき焼き形状とならないことを指摘したものにすぎず,「載置底面又は平坦上面」に切り込み部を設けるか否かについて何ら言及するものではない旨主張する。しかしながら,前記ア(イ)で述べたとおり,本件明細書には,加熱時の膨化による噴き出しを制御するための切り込み部を餅の表面(切餅では平坦上面)に設けた場合には,「人肌での傷跡のような焼き上がりとなり,焼き上がり形状が忌避すべき状態となってしまい,切餅への実用化がためらわれる」という従来の課題を踏まえ,当該切り込み部を,平坦上面の場合に比べて見えにくい上に,オーブンによる火力が弱い位置である「側周表\面」に設けたことによって,「焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することが記載されていることに照らすならば,原告の上記主張は,理由がない。
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2010.08. 3
平成22(ワ)9664 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年07月22日 大阪地方裁判所
地震時ロック方法に関する特許権について、詳細な説明に記載の発明に基づき、特許請求の範囲が限定解釈されました。
特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表\現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構\成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能\的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構\成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。・・・以上のとおり,本件明細書には,地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構\成としては,装置本体の震動エリアに収納された球により地震時に係止体の回動を妨げる構成が開示されていることが認められるが,それ以外の構\成は記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。また,本件明細書の【背景技術】にも,従来技術として地震時ロック方法が紹介されているが,それはゆれによって球が動くことにより地震を検出するものであって,他に,振動エリア内に収容した球を用いる以外の構成を示唆するような記載は一切認められない。したがって,本件明細書には,装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想だけが開示されているというべきである。以上によれば,本件明細書の記載から当業者が実施できる構\成は,振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成だけというべきであるから,かかる構\成に限り本件特許発明の技術的範囲に含まれる(構成要件Cを充足する)と解するのが相当である。\n
◆判決本文
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2010.04. 5
平成17(ワ)26473 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月26日 東京地方裁判所
ゴルフボールの特許について、10億を超える損害賠償が認められました。
(ア) 特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする旨規定している。被告は,本件においては,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないこと,原告各製品の市場におけるマーケットシェアを超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきであること,被告の営業努力,ブランド力及び販売力などの事情が存在し,これらの事情は,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」に該当するので,上記事情に相当する数量に応じた額を原告主張の損害額から控除すべきである旨主張する。・・・・以上・・事情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」があったものと認めるのが相当である。したがって,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。(イ)a これに対し被告は,原告各製品(5種類)が特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」であることを前提に,その「単位数量当たりの利益の額」を基に損害額を算定する以上,同項ただし書の「販売することができないとする事情」としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮する際には,上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきであり,当該市場占有率を超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきである旨主張する。しかし,i)ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は,市場占有率に反映されているといえるが,それを適切に評価するためには,ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると考えられること,ii)本件においては,原告各製品と競合する他社メーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされていないなど,被告各製品の譲渡数量のうち,原告各製品の市場占有率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できることを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば,被告の上記主張は採用することができない。b また,被告は,原告各製品及び被告各製品の販売において,本件訂正発明の対象である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされておらず,本件訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製品の購買の動機付けとなることはあり得ないから,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないことを,原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべきである旨主張する。しかし,前記(ア)b認定のとおり,ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能\,スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが,一般のユーザーはゴルフボールの性能\を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれることに照らすならば,原告各製品及び被告各製品の販売において本件訂正発明の対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないことを,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量を原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべき余地はないというべきである。
◆判決本文
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2009.09.15
平成19(ワ)16025 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年09月10日 大阪地方裁判所
技術的範囲の判断において、請求項の「〜手段」という文言が明細書開示事項に基づいて限定解釈がなされました。
「特許請求の範囲において,加減圧手段は,「レンジ室内と連通されレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返す加減圧手段」というように,加減圧という作用,機能面に着眼して抽象的に記載されているだけであって,加減圧手段の具体的な構\成は明らかにされていない。このように,特許請求の範囲の発明の構成が機能\的,抽象的な表現で記載されている場合に,当該機能\ないし作用効果を果たし得る構成がすべてその技術的範囲に含まれるとすれば,明細書に開示されていない技術的思想に属する構\成までもが発明の技術的範囲に含まれることになりかねず,特許権に基づく独占権が当該特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することになり,相当でない。そこで,本件特許発明1の技術的範囲を確定するに当たっては,本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌し,そこに開示された加減圧手段に関する記載内容から当業者が実施し得る構成に限り,その技術的範囲に含まれると解するのが相当である。・・・・本件明細書1には,上記調圧器5の具体的構\成や,それがいかなる作用,機能を有するものであるかについて,一切開示されておらず,当業者にとっても「調圧器5」がいかなる構\造,機能を有するものであるかを理解することはできない(本件明細書1の【図面の簡単な説明】の欄には「ポンプ4」が, 「加減圧手段としてのポンプ」と記載されているのに対し,「調圧器5」は単に「調圧器」と記載されているだけである。)。そして,本件明細書1には,加減圧手段として採り得る他の構成は開示されおらず,また,他の構\成を採用し得ることについての示唆もない。してみると,本件明細書1で加減圧手段として開示されている具体的構成は,気密室6を構\成する外枠1に接続された管路に接続し,ポンプ4の作動により,加圧と減圧を繰り返すものである。以上によれば,本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌して,その記載内容等から当業者が実施し得る加減圧手段の構成は,ポンプ4のようなそれ自体の作動により加圧及び減圧を繰り返すことができるようなもの,すなわち,加熱手段によるレンジ室内の加熱に伴う圧力変化とは無関係にそれ自体の作動によりレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返し行うものと解するのが相当である」。
◆平成19(ワ)16025 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年09月10日 大阪地方裁判所
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2009.09. 2
平成20(ワ)3277 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年08月27日 大阪地方裁判所
製造方法が構成要件として特定されている侵害事件において、原則として別の方法で製造された場合でも同じものであれば技術的範囲に属するとの原則を述べつつ、禁反言により、侵害が否定されました。
「・・・原告は,構成要件Eの「枠台」の解釈において,裏返し脱型作業するという製造工程までも構\成要件とする方法の発明ではないとも主張する。たしかに,本件特許発明は特許法2条3項1号の物の発明と解されるところ,それにもかかわらず,特許請求の範囲に物の製造方法(構成要件E及びF)が記載されている。そこで,本件特許発明における構\成要件E及びFの位置づけについて最初に検討することとする。ア 特許法2条3項1号の物の発明において特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合であっても,原則として,同製造方法により得られる物と同一であれば,これと異なる製造方法を用いて製造された物であっても,同特許発明の技術的範囲に属するというべきである。しかしながら,証拠(乙18)によれば,本件特許に係る出願経過について,以下の事実が認められる。「・・・本件補正のうち,構成要件Bの金属線材受け入れ孔を設けることについては,もともと出願当初の特許請求の範囲【請求項2】に記載されていたものであり,同請求項に係る上記拒絶理由通知においても「結束用金属線材受け入れ孔を設けることは,引用文献2にも記載されている。」と指摘されているところである。また,原告も上記意見書においてこの点を特段強調してもいない。これに対し,成形キャビティを用いたコンクリートブロックの成形及び陥没数字の賦形手段については,上記意見書においても,原告が従来技術との相違点として特に強調していた点であり,本件補正がなされたことによって特許査定がなされていることからすれば,特許庁審査官も,その当否は措くとして,この点を考慮して特許査定したものと認められる。そうとすれば,原告が本件特許権を行使するに当たり,本件特許発明は物の発明であって,構\成要件E及びFの製造工程を構成要件とするものではないと主張することは,禁反言の法理に照らして到底許されるものではないというべきである。ウ よって,構\成要件E及びFの製造工程も,本件特許発明の技術的範囲を画する構成要件と解すべきであり,ここに記載された製造工程によって製造された鉄筋用スペーサーのみが本件特許発明の技術的範囲に属し得るものというべきである」
◆平成20(ワ)3277 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年08月27日 大阪地方裁判所
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2009.07.10
◆平成19(ワ)22715 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年06月30日 東京地方裁判所
特許請求の範囲の用語「抽出」について、化学変化を起こさせる方法については開示または示唆がないとして、技術的範囲に属さないと判断されました。
「燕窩の含水溶剤抽出物」の製造方法としては,「燕窩乾燥物の粉砕品を,1〜 1000 倍重量,好ましくは5〜 500 倍重量,より好ましくは10 〜 100 倍重量の含水溶剤中において,0〜 180 ℃,好ましくは室温〜 120 ℃の範囲の温度において,10 分〜 50 時間,好ましくは1〜8時間抽出処理する」ものであり,「抽出処理は,常圧下および加圧下のいずれで行ってもよく,抽出装置としては,加熱抽出機等が利用できる」こと,抽出処理に用いる含水溶剤の例としては,「例えば,水を始め,水と水混和性有機化合物との混合物が用いられ,水混和性有機化合物としては,メタノールなどが挙げられる」こと,成分としては,「通常タンパク質が40 〜 80 重量%,糖質が20 〜 60 重量%およびシアル酸が0.1 〜 15 重量%の割合で含有されている」こと,作用としては,「優れた保湿作用、皮膚細胞におけるコラーゲン合成促進作用及び良好な皮膜形成能を有しており、皮膚に対して極めて安全性が高い」ことなどが説明されているにとどまり,燕窩の含水溶剤抽出に際し,単に目的物(燕窩中の成分)を抽出相(水や水と水混和性有機化合物との混合物)に溶解させて抽出する方法のほかに,タンパク分解酵素による加水分解反応等の化学変化を起こさせる方法も採り得ることや,このように化学変化を起こさせる方法により燕窩から取り出した物質が,燕窩から水等によって抽出した物質と同様の成分,作用を有することなどを示唆する記載は,存在しないことが認められる。また,本件明細書中には,「含水溶剤」及び「抽出物」という用語について,酵素を用いた加水分解のように,燕窩の中の成分に適当な化学変化を起こす場合をも含むものである旨の,格別の定義は記載されていない。したがって,本件明細書の記載からも,特許請求の範囲に記載された「燕窩の含水溶剤抽出物」は燕窩の酵素分解物を含むものであると解釈することは,困難である。」
◆平成19(ワ)22715 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年06月30日 東京地方裁判所
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2008.06. 5
◆平成18(ワ)23787等 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成20年05月30日 東京地方裁判所
携帯電話の番号を用いて生成される”暗号化された固定値”が「前記自局電話番号を識別するための番号識別子」に該当するかが争われました。
裁判所は、技術的範囲に属しないと判断しました。
被告製品の識別のやり方は、明確ではありませんが、以下のようなものです。記録時には、「コンテンツの記録時に「暗号化されたコンテンツ」のほか,「暗号化されたコンテンツ鍵」,「暗号化された固定値」をSDカードに記録しておく。読み出し時には、読出しを行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより,正しい復号鍵を生成し,「暗号化された固定値」を復号し、所定の「固定値」と一致するか否かを見分ける。
「イ 以上のとおり,各被告製品における「暗号化された固定値」は,所定の「固定値」を,記録を行う携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成された暗号鍵を用いて暗号化した記号であり,暗号化されたコンテンツをメモリカードから読み出す前に,読出しを行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより,正しい復号鍵(記録を行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成した暗号鍵と同一の鍵)を生成し,「暗号化された固定値」を正しく(所定の「固定値」と一致する値に)復号することができるか否かを見分けることを目的として使われる記号であると認められる。そうすると,各被告製品における「暗号化された固定値」は,あらかじめ自局電話番号を見分けることを目的として設定されたものであるということはできないから,本件発明における「番号識別子」には該当しないというべきである」
◆平成18(ワ)23787等 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成20年05月30日 東京地方裁判所
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2006.10.31
◆平成17(ワ)15455 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成18年10月30日 知的財産高等裁判所
CS関連発明ではありませんが、ソフトウェアの販売に関する侵害事件です。審査経過から限定解釈され、技術的範囲に属しないと判断されました。
「これらの記載及び前記ア(ア)e記載の本件補正の内容を考慮すると,本件意見書では,本件拒絶理由通知で指摘された本件引用例に記載された発明について,多種多様の数多くのモードの中から所望のものを選択する必要があるため,最終フォーマットの作成が面倒であるという難点があることを主張した上で,本件発明では,各種のデータの中から任意に選択した一つのパターンデータと一つのフォーマットデータとを組み合わせるだけで最終フォーマットを作成できる旨を述べたものであり,これは,各種のセットデータの中から,一つのセットパターンデータと一つのセットフォーマットデータを組み合わせるだけで最終フォーマットデータを作成できることを開示したものと認められる。そして,この意見書の開示に即応して,同日付けで行われた本件補正においても,本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」を,セットデータを意味するものに限定して特許請求の範囲を減縮し,前記のとおり,本件発明の構成に至ったものと解するのが相当である。」
◆平成17(ワ)15455 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成18年10月30日 知的財産高等裁判所
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2005.12.28
◆H17.12.27 東京地裁 平成15(ワ)23079 特許権 民事訴訟事件
クレームに対応する発明の詳細な説明が十分でないとして、技術的範囲が限定して解釈されました。
裁判所は、「マップから2つの読出順序データを得,これを図形発生手段に供給しないと,当時の技術では図形の回転表示を行なうことができないといわざるを得ず,本件実施例以外の回転表\示方法による構成は,本件明細書中に一切開示されていない。すなわち,本件特許発明について,本件実施例以外の説明では,当業者がマップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表\示を行うこと,すなわち本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に特許請求の範囲が説明されているとはいえないから,開示されていない技術思想を特許請求の範囲に含ませることはできない。」と述べました。
◆H17.12.27 東京地裁 平成15(ワ)23079 特許権 民事訴訟事件
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2005.01. 7
◆H16.12.28 東京地裁 平成15(ワ)19733等 特許権 民事訴訟事件
機能的な表\現で記載されているクレーム関する技術的範囲についての判断が為されました。なお、本件は明らかな無効理由も存在するとされてます。
問題となったクレームは、以下の通りです。「芯のくり抜かれた新鮮な苺の中にアイスクリームが充填され,全体が冷凍されているアイスクリーム充填苺であって,該アイスクリームは,外側の苺が解凍された時点で,柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とするアイスクリーム充填苺」
裁判所は、「この「外側の苺が解凍された時点で,柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする」との記載は,「新鮮な苺のままの外観と風味を残し,苺が食べ頃に解凍し始めても内部に充填されたアイスクリームが開口部から流れ出すことがなく,食するのに便利であ」る(本件明細書【0008】。本件公報3欄38行ないし41行)という本件特許発明の目的そのものであり,かつ,「柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性」という文言は,本件特許発明におけるアイスクリーム充填苺の機能ないし作用効果を表\現しているだけであって,本件特許発明の目的ないし効果を達成するために必要な具体的な構成を明らかにするものではない。 このように,特許請求の範囲に記載された発明の構成が作用的,機能\的な表現で記載されている場合において,当該機能\ないし作用効果を果たし得る構成であれば,すべてその技術的範囲に含まれると解すると,明細書に開示されていない技術思想に属する構\成までもが発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり,出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となりかねない。しかし,このような結果が生ずることは,特許権に基づく発明者の独占権は当該発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することになる。
したがって,特許請求の範囲が,上記のような作用的,機能的な表\現で記載されている場合には,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。」と述べました。
◆H16.12.28 東京地裁 平成15(ワ)19733等 特許権 民事訴訟事件
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2004.12.23
◆H16.12.21 大阪地裁 平成16(ワ)3640 特許権 民事訴訟事件
1つの争点は、補正による限定が審査基準に合致させるためにしたもので、意識的に限定したものではないかでした。
裁判所は、以下のように判断しました。
「原告は、・・・改訂前審査基準の下で新規事項の追加とされるのを免れるためには、出願当初明細書に実施例として具体的に記載された、各回路素子の極性をも含めた具体的な接続の仕方、電流の流れ方を記載するしかなかった旨主張する。
イ しかし、出願当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】には、「すなわち本発明の考え方は、高周波トランスの三次巻線と定電流検出抵抗と直列ドロッパー制御用素子と逆流防止用ダイオードと二次電池とを直列に接続して充電回路を構成し、この充電回路の電流路の外側に、二次電池と三次巻線と三次側スイッチング素子とを直列に配列して放電回路を設け、放電時には、前記定電流検出抵抗と直列ドロッパー制御用素子と逆流防止用ダイオードには電流が流れないようにする、というものである。」と記載され、段落【0009】には、放電時の作用として、「この時は、逆流防止ダイオード18のカソ\ード側が、逆流防止ダイオード9および三次側スイッチング素子11の順電圧降下によって二次電池14の負極に対して逆極性になるため、充電回路3cは自動的に停止し、充電は行われないことになる。」と記載されている。また、特許出願の願書に添付された図面の図2には、前記段落【0004】の記載に対応する回路図が示されている。したがって、放電時に充電回路の充電電流路に電流が流れることを阻止するための逆流防止ダイオードを設けることは、出願当初明細書の発明の詳細な説明に記載されていたと認められる。
そうであるとすれば、改訂前審査基準の下において新規事項の追加とされるのを免れることを前提としても、特許請求の範囲に「放電時には、定電流検出抵抗と直列ドロッパー制御用素子と逆流防止用ダイオードには電流が流れないようにするものである」という作用効果に対応する構成を付け加えようとするならば、出願当初明細書の特許請求の範囲の「逆流防止ダイオード」という構\成要件を、例えば、「放電時に充電回路の充電電流路に電流が流れることを阻止するための逆流防止ダイオード」と補正すれば足りたものと認められ、補正後の特許請求の範囲のように各回路素子の具体的な接続の仕方や具体的な電流の流れ方まで記載しなければならなかったとは認められない。」
◆H16.12.21 大阪地裁 平成16(ワ)3640 特許権 民事訴訟事件
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2004.04.28
◆H16. 4.23 東京地裁 平成15(ワ)9215 特許権 民事訴訟事件
分割出願の技術的範囲について、原出願に記載されていない事項を含む解釈ができるかが1つの争点でした。
裁判所は、「分割出願が適法と認められるためには,もとの出願が特許庁に係属し,かつ,もとの出願が2以上の発明を含むものでなければならず,2つ以上の発明を含むということは,単に特許請求の範囲に含まれている場合だけではなく,明細書に2以上の発明が含まれていればよいと解されていること,また,分割出願は,補正をなし得る期間内に出願されることが必要であること(特許法44条1項),さらに,分割出願はもとの特許出願の時にしたものとみなされ(同条2項),新規性・進歩性の判断等については分割出願の基になった特許出願時を基準とすることになることなどにかんがみると,出願の分割は補正(特許法17条)と類似した機能を持つものであるといえるから,分割出願をすることができる範囲についても,もとの出願について補正をすることが可能\である範囲に限られるものと解すべきであって(補正の要件を欠く場合にも出願の分割をなし得るとすれば,実質的には分割手続により補正の要件を潜脱することを許すことになり,不合理である。),分割出願の明細書又は図面に,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲外のものを含まないように解するのが相当である。」と述べました。
◆H16. 4.23 東京地裁 平成15(ワ)9215 特許権 民事訴訟事件
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2004.03.29
◆H16. 2.25 東京地裁 平成14(ワ)16268 特許権 民事訴訟事件
合金に関する特許権について、「実質的に,Ni:2〜4.8%,Si:0.2〜1.4%,Mg:0.05〜0.45%,Cu:残部(数字はいずれも重量%)から成る」という構成要件について、実質的にという文言が争点になりました。裁判所は、異なる元素を含むという理由で技術的範囲に属しないと判断しました。
「?@本件明細書には,特許請求の範囲に記載されている,ニッケル(Ni),ケイ素(Si),マグネシウム(Mg),銅(Cu)の他に,構成元素として,同等量のニッケル(Ni)と置換して,・・・記載されているが,その他の元素,特に,亜鉛(Zn),スズ(Sn)の添加について,これを示唆する記載はないこと,?A一般的に,合金は,成分元素や添加量を変化させた場合に合金の性質に与える予測可能\性が極めて低いこと,?B原告は,本件特許の出願過程において,Cu-Ni-Si基合金に,他の元素を増加させると電気伝導率や曲げ特性が悪化すると述べて,スズ(Sn)を0.39%含有する合金は電気伝導率が下がるので採用し得ないとして,本件発明の技術的範囲から除外すべきである旨述べていること等の事実に照らすならば,構成要件Aの「実質的に・・・から成る」とは,ニッケル(Ni),ケイ素(Si),マグネシウム(Mg)及び銅(Cu)以外の元素について,明細書中に具体的な記載がある元素,及び明細書の記載に基づいて当業者が容易に想到できる元素を含有させることを許容する趣旨と解すべきであるが,その範囲を超えた,合金の特性に影響を与える元素を含有させることを許容する趣旨と解することはできない。」
◆H16. 2.25 東京地裁 平成14(ワ)16268 特許権 民事訴訟事件
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2003.02.28
◆H15. 2.26 東京高裁 平成13(ネ)3453 特許権 民事訴訟事件
「電源をオフする」との文言は,省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)を含むか否かが争われました。裁判所は一般的な辞書レベルの用語の解釈に加えて、明細書の記載を参酌して、省電力状態は含まないと判断しました。
◆H15. 2.26 東京高裁 平成13(ネ)3453 特許権 民事訴訟事件
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2002.09.27
◆H14. 9.27 東京地裁 平成12(ワ)6610 特許権 民事訴訟事件
カラオケ装置(CS関連?)の侵害事件です。ブラザーvs第1興商です。
「以上によると,本件第1特許発明は,音データと歌詞表示指示データとを組み合わせて,楽音情報記憶部に格納するという構\成によって,歌詞の色変え画像表示をその楽曲の主旋律の進行にほぼ一致させるという目的を達成するものであるから,構\成要件Dにいう「楽音情報記憶部に格納されるデジタル楽音情報は,種々の楽器の演奏情報と,歌詞表示指示情報とを有している」とは,種々の楽器の演奏情報と歌詞表\示指示情報が組み合わせられ,一つのデジタル楽音情報として楽音情報記憶部に格納されていることを意味するものと解するベきである。 ウ 上記1で認定した事実及び弁論の全趣旨によると,被告装置においては,音楽生成データと,歌詞抽出データとは,それぞれ独立したデータとして別個の記憶領域に記憶されており,組み合わせられて一つのデジタル楽音情報として格納されているものではないものと認められる。したがって,被告装置は,本件第1特許発明の構成要件Dを充足しない。 エ 原告らは,歌詞表示指示情報が演奏情報中に組み込まれることまでは要しないと主張する。しかし,上記(1)で認定した事実に証拠(甲A2,3)を総合すると,本件第1特許の明細書には,歌詞の色変え画像表示をその楽曲の主旋律の進行にほぼ一致させて行うという本件第1特許発明の目的を達成するための構\成として,歌詞表示指示情報のデータを演奏情報のデータに組み込む構\成以外の説明は何ら記載されていないものと認められるから,原告らの上記主張は理由がない。・・・
以上述べたところによると,本件第2特許発明は,公知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができるから,本件第2特許は特許法29条2項に違反して特許されたものである。したがって,本件第2特許に,同法123条1項2号に規定する無効理由が存在することは明らかであり,特段の事情も認められないから,本件特許権に基づく本訴請求は,権利の濫用として許されない。」
◆H14. 9.27 東京地裁 平成12(ワ)6610 特許権 民事訴訟事件
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