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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

第1要件(本質的要件)

平成27(ワ)7147  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月15日  大阪地方裁判所

 文言は被侵害、均等侵害も第1要件を充足していないとして否定されました。メーカではなく販売店が被告というのも興味深いです。
 すなわち均等侵害が認められるためには,本件発明と被告方法の構成に異な\nる部分が存在する場合であっても,その部分が本件発明の本質的部分ではないこと が要件となるところ,ここでいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明 の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成す\nる特徴的部分であると解すべきであり,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明 細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法36条4項,特許法 施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第\n116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴\n的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(知財高裁平成 28年3月25日特別部判決)。
・・・
 本件発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,本件発明は,本件 特許の特許請求の範囲請求項1の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方 法として,「粉砕段階」,「加熱段階」を含む複数の動作段階を設定し,それら動 作段階の一部についてはその順序,時間,回数等を具体的に指定し,穀物の粉砕手 段及び加熱手段を一体化した組合せとすることにより,通常のおかゆの調理方法に おいて時間を要していたふやかしの時間及び全体の調理時間の短縮を図り,また, 通常の調理方法においてはかきまぜの継続によって解消していたおかゆの焦げ付き も防止するなど,より簡便,迅速に本来の風味を有するおかゆの調理ができるよう にしたものであると認められる。 ところでおかゆの調理方法として,加熱や粉砕の動作を適宜組合せることは,周 知であるから(本件明細書の【0005】),本件特許の特許請求の範囲請求項1 の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方法である本件発明における本質 的部分とは,調理方法を決定するところの「粉砕段階」,「加熱段階」,「待機段 階」という一連の動作段階の設定,及び各動作段階において具体的に規定された粉 砕及び加熱の動作並びに待機の順序,各動作及び待機の時間,各動作及び待機の回 数等を一体化した組合せそのものにあると認められる。 (6) これに対し,被告方法は,既述のとおり,少なくとも,その第1及び第2の 粉砕段階において,本件発明の構成要件として規定された粉砕と待機とは異なる時\n間,回数の粉砕と待機がなされるものであるから,動作等の組合せにおいて,本件 発明の一体化した組合せとは異なっており,この相違部分は本件発明の本質的部分 に存するものといわなければならない, したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足するとは認められない。

◆判決本文

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平成26(ワ)25928  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年8月30日  東京地方裁判所

 構成要件Gを満たさないと判断されました。均等侵害についても、第1要件を満たしていないとして、否定されました。
 ウ さらに,本件特許の出願経過からも上記解釈は裏付けられる。すなわち, 原告は,本件特許の審査段階において,特許庁から平成15年1月21日 発送の拒絶理由通知(乙8)を受けたところ,そこには「…請求項1の記 載では本願発明の目的である通過すべき経由地点の設定中にすでにそれら の経由地点のいずれかを通過してしまった場合でも,正しい経路誘導を行 うための構成である『設定指令が入力された時点での車両現在位置を探索\n開始地点として記憶し,この記憶された探索開始地点と,経路データが設 定され移動体の経路誘導が開始される時点での移動体の現在位置を比較す る』点が明確に記載されていない。…よって,請求項1は,特許を受けよ うとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではな\nい。」とされていた。原告は,上記拒絶理由通知に対応して,同年2月5 日受付の意見書(乙9)を提出し,そこにおいて「審査官殿のご指摘の通 り,本願発明における探索開始地点と経路誘導地点に関する上述の点が不 明瞭であると考えますので,『設定指令が入力され,経路の探索を開始す る時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段』 と構成要件を加えることにより,探索開始地点が記憶されることを明確に\nするとともに,経路データ設定手段が『記憶した探索開始地点を基に経路 の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する』と補正して探索開 始地点と経路データの関係を明確にし,制御手段おける記憶された探索開 始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました。」(1頁下9行 〜2行)と記載し,併せて,同日受付の手続補正書(乙10)を提出して 上記記載に沿った補正を行い,探索開始地点と誘導開始地点とを比較する ことを明確にしたものである。以上の出願経過も,構成要件Gに係る上記\n解釈を裏付けるものである。
(2) しかるところ,被告装置において,「探索開始地点」と「誘導開始地点」 を比較して両地点が異なるかどうかを判断しているものと認めるに足りる証 拠はない。 かえって,証拠(乙16の1)によれば,被告装置においては,1)経路誘 導の計算が行われ,これが終了すると,出発地点P0から目的地Pnまでの 経路を示す経路リンクのリストがメモリに保存され,2)他方で,上記1)の経 路誘導とは独立して,継続的に,車両の現在位置Cと地図データの地図リン クとのマッチングが行われ,その際,車両の現在位置Cと,地図データのノ ード間を結ぶ地図リンクとを比較することで,車両の現在位置Cと一致する 地図リンクを特定し,3)上記2)のマップマッチングで特定されたリンクが上 記1)の経路リンクの一つと直接対応すると,道路境界領域の処理は行われず, その代わりに地図リンクと一致する経路リンクに基づいて誘導が行われ,他 方で,現在位置Cが,マップマッチングによって特定された経路リンクに載 っていない場合,所定の方法で絞り込んだ道路境界領域内のリンクと現在位 置とを比較してリンク上に載っているか否かの判定をするとの作業が行われ ていることが認められる。 なお,乙16の1は,補助参加人の関連会社所属のエンジニアが作成した 宣誓書であるが,同記載内容は,被告装置の制御に関する他の証拠とも矛盾 がなく,これを特段疑う理由もないから,信用できるものといえる。 以上からすれば,被告装置では,探索開始地点と誘導開始地点とを比較し て両地点が異なるか否かを判断するという作業は行われず,あくまで,車両 の現在位置が所定の経路リンク上に載っているか否かが判定されているにす ぎないから,被告装置は本件発明の構成要件Gを充足しないものというべき\nである。
・・・・
このように,本件発明が,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始 地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来\n技術における問題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の 有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の 異同を判断することを定めており,この点は,従来技術にはみられない特有 の技術的思想を有する本件特許の特徴的部分であるといえる。 そして,本件明細書(甲2)において,上記「ずれ」を判断する方法とし て,上記両地点を直接比較する方法以外の方法は何ら記載されておらず,そ れ以外の方法が想定されていたとは認められない。 また,前記2(1)ウ認定の本件特許に係る出願経過からも,探索開始地点 と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断することが本件発明の本質 的部分であることは明らかである。 なお,原告自身も,本件発明においては「探索開始地点に関する情報」と 「誘導開始地点」とを比較する旨主張している(原告第9準備書面9頁参照) ところ,上記「探索開始地点に関する情報」の中核は「探索開始地点」自体 であるから,原告の上記主張を前提としても,本件特許において,探索開始 地点と誘導開始地点との比較が本質的部分であるといえる。 以上からすれば,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同 を判断することが本件発明の本質的部分というべきであり,かつその比較方 法としては,両地点を直接比較することが当然に予定されているものであっ\nて,これに反する原告の主張は採用できない。 なお,原告は,従来技術において,経由予定地点を超えた地点となったこ\nとを判断する必要性すら認識されていなかった以上,この点に関する下位概 念的な具体的な手段まで本質的部分であるとはいえないとも主張する。しか し,前述のとおり,本件発明において探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」 を問題とし,その有無を判断するために,上記両地点を比較することが必須 であり,この点が本件発明を特徴付けているといえるものであって,その比 較の具体的手段が単なる下位概念であるとはいえないから,原告の上記主張 も採用できない。

◆判決本文

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平成28(ネ)10007  特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 第1,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
 前記イのとおり,控訴人は,本件特許の出願時,座席を連続して揺動させること が可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するもの について,旧請求項1においては,座席支持機構を特段限定せず,旧請求項2にお\nいては,座席支持機構をロッド2点支持方式に限定し,旧請求項3においては,座\n席支持機構を,座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能\な スライド手段を設けたことを特徴とする」ものに限定していたものである。そして, 控訴人は,本件補正により,旧請求項1を,本件特許の特許請求の範囲から削除し, その範囲を旧請求項2及び旧請求項3に限定したものである。 このように,控訴人は,本件補正において,座席を連続して揺動させることが可 能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するものにつ いて,拒絶理由通知に対応して,座席支持機構を特段限定していない旧請求項1を\n削除し,座席支持機構にロッド2点支持方式を採用する旧請求項2(本件発明)及\nび座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能なスライド手段\nを設けたことを特徴とする」方式を採用する旧請求項3に限定したものである。そ して,本件発明の出願時には既に,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児\n用の椅子等の座席支持機構として,コロと湾曲レールを利用した方式が存在するこ\nとは周知であり(乙3〜5),コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機 構は,上記のとおり削除された旧請求項1に係る座席支持機構\の範囲内に客観的に 含まれるものである。 したがって,控訴人は,コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機構に\nついても,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそ のように解されるような行動をとったものと評価することができる。 よって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,本件特許の出願当時,動力機構としてソ\レノイドを用い,座席支持機 構としてコロと湾曲レールを利用するという各構\成を組み合わせた乳幼児用の椅子 等は存在せず,また,動力機構としてソ\レノイドを用いることから生じる課題も公 知ではなかったから,本件特許の特許請求の範囲に,座席支持機構としてコロと湾\n曲レールを利用する方式も含めることは容易ではなく,さらに,拒絶理由を回避す るために,座席支持機構についてロッドを利用した方式に限定したものでもないと\n主張する。 しかし,控訴人が,本件補正において,ロッド2点支持方式等を除く方式に係る 座席支持機構を包括的に削除したとの事実の評価は,客観的に判断されるべきもの\nである。 そうすると,このような控訴人の本件補正時における具体的な認識や本件補正の 目的は,均等の第5要件の充足に関する結論を左右するものではない。
(4) まとめ
よって,均等のその余の要件の成否について検討するまでもなく,各被告製品は, 均等の第1要件及び第5要件を充足しないから,各被告製品が本件発明と均等なも のとしてその技術的範囲に属するということはできない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第25196号

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平成27(ネ)10107  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 第1要件により均等侵害否定されました。1審では、文言解釈により技術的範囲に属しない、また進歩性なしとして特許104条の3により権利行使不能と判断されていました。\n
 これらの記載によれば,本件特許発明1の特徴となる技術的意義の一 つは,弾性腕の接触部についての有効嵌合長が短くなるという課題を解決するため に(【0005】【0008】),複数の弾性腕が,いずれも,端子の基部から接触線 に沿って平行に延びるという解決手段を採用することによって(【0013】,【00 25】,【0042】),端子の基部から延びる弾性腕が接触線を跨ぐことで相手端子 と当接することを防ぎ,その結果,各弾性腕を長く形成することができ(【0013】), そのため,有効嵌合長を大きく確保することができるという効果を奏する(【001 9】)ものであるから,弾性腕が,端子の基部から接触線に沿って平行に延びること は,本件特許発明1の効果を奏するために必要となる,特徴的な構成であると認め\nられる。 これに対し,本件特許発明1において,弾性腕の間に設けられた中央壁15は, 実施例で言及されているだけであるから,本件特許発明1において発明特定事項と なる必須の構成ではなく,また,本件特許1の明細書に従来技術に関する文献とし\nて掲げられた特開平8−236187号公報(甲19)に加え,特開2003−1 68505号公報(乙12),特開平6−76896号公報(乙15),バーグエレ クトロニクスジャパン株式会社カタログ(乙19。平成10年1月ころ発行)から も明らかなとおり,本件特許1の出願日及び本件特許2の原出願日である平成20 年8月5日当時において,コネクタでは,2つの端子の接触部側の間に,相手端子 を当接して停止させる効果をもたらす中央壁が必ず設けられるという技術常識は存 在しないから,当業者にとって,上記中央壁の設置が当然の構成ということもでき\nない。そして,中央壁が存在しない場合には,弾性腕の根元部分が接触線を跨ぐと, 有効嵌合長が短くなるし,仮に,中央壁を設ける場合であっても,弾性腕の根元部 分が中央壁よりも常に高い位置に設けられるとは限らないから,例えば,弾性腕の 最も根元の部分が,中央壁よりも低い位置から開始し,かつ,接触線に対して端子 溝側にある場合であっても,弾性腕が屈曲形状を有していて,中央壁よりも高い位 置で接触線を跨ぐときには,有効嵌合長が短くなることも想定され,したがって, 有効嵌合長の長さは,常に中央壁よりも高い弾性腕部分の長さになるわけではなく, 弾性腕の根元部分の位置や弾性腕の形状等にも左右される。本件特許1の明細書に 記載された従来技術としては,特開平8−236187号公報(甲19)では,相 手端子が当接する中央壁が存在しないコネクタが実施例として,特開2002−1 75847号公報(甲20)では,相手端子が当接する中央壁が設けられたコネク タが実施例として開示されているから,これらの従来技術を踏まえた本件特許発明 1は,相手端子が当接する中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を長くすること を確実にする効果を目指していた発明ということができる。 そうすると,本件特許発明1は,中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を大き く確保することを課題とする発明である以上,当該効果を確実に実現するためには, 弾性腕の一部だけが接触線に対して一方の側に位置すれば足りるわけではなく,そ の全体が接触線に対して一方の側に位置することが不可欠であり,複数の弾性腕全 体が接触線の一方の側にあるという発明特定事項は,本件特許発明1の本質的部分 といえる。
(エ) これに対し,被控訴人製品1,2のいずれにおいても,内側接触子2 3(「上位に位置する弾性腕」)の内側湾曲部23Aの根元部分は,直線(接触線) Xを跨っているから,弾性腕が,接触線に対して一方の側に位置しているとはいえ ない。 したがって,被控訴人製品は,本件特許発明1の本質的部分である構成要件1B\nと相違するから,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26(ワ)18842

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平成27(ネ)10104  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で均等侵害を主張しましたが、第1要件、第5要件を満たしていないとして、否定されました。
ア 均等侵害の第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成と相手方が製造等をする製品又は用いる方法との異なる部分が特許発明の本質的部分でないことであ\nる。そして,特許発明における本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部\n分であると解すべきである。
イ 本件各発明は,前記1(4)イのとおり,HMG−CoA還元酵素阻害剤として 高脂血症の治療に有用な,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む 医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの 結晶性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題 とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコ ントロールすることでその安定性が格段に向上すること及び結晶形態AないしCの 中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというもので ある。 そうすると,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶 性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とす る本件各発明において,特定の結晶形態をとることが,上記課題の特徴的な解決手 段であるといえる。 そして,本件各明細書には,結晶形態AないしCの3種類の結晶形態は,水分が 同等で結晶形態が異なる形態であり,結晶形態B及びCは,「いずれも結晶形態A に特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在し ないことから,結晶多形であることが明らかにされる。」(本件明細書1【001 4】,本件明細書2【0015】)とあるように,CuKα放射線を使用して測定 した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存在する3本のピークの回折角が存在 しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されているの みで,結晶形態B及びCに係る回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図 を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切なく,他方で,結晶形態A については,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折パターンとして,別 紙本件明細書1図表目録2記載のとおりの数値が記載され,同目録3記載の【図1】の記載があるのみで,それ以上の特定はされておらず,結晶形態Aに係る回折角に\nついて,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一 部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載も一切 存しない。 以上によれば,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各明細書において,本件各発明の課題の特徴的な解決\n手段である特定の結晶形態を,他の結晶形態,すなわち本件各発明の課題の解決手 段とはなり得ない結晶形態と画する唯一の構成として開示されたものであるということができる。\nしたがって,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各発明の課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核\nをなす特徴的部分であるというべきである。
ウ そうすると,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩 における15本のピークの回折角であるとする数値は,前記1(5)のとおり,原判決 別紙物件目録(1)記載のとおりであり,控訴人の特定する数値によったとしても,1 5本の全てが構成要件C・C’の回折角の数値と相違するのであるから,被控訴人製品は,本件各発明と課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的\n部分において相違していることになる。 以上によれば,被控訴人製品は,均等侵害の第1要件を充足しない。
(3) 均等侵害の第5要件について
ア 均等侵害の第5要件は,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が特許発 明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな どの特段の事情がないことである。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通 知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相\n当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過においても,拒絶理由通知を受け,構\成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入する平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の 限定的減縮に相当するものであることを表明した。控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ\nーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された 結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対 して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本 件発明1の結晶を特定したというほかない。 そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む 医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの 結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に 含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係 る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願 当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15 本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。 以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明 の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると 解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明\nの特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。 したがって,被控訴人製品は,均等侵害の第5要件を充足しない。

◆判決本文

◆一審はこちらです。平成26(ワ)3344等


◆関連事件です。平成27(ネ)10108

◆この事件の一審はこちらです。平成26(ワ)688

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