2018.11. 1
平成28(ワ)3856 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月19日 東京地方裁判所(29部)
ドワンゴVSFC2の特許権侵害について、文言侵害および均等侵害が否定されました。第1,第5要件を満たさないというものです。
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表\n示可能領域),「第2の表\示欄」はコメントを表示するために確保された領域(コメン\nト表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズで
いずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表\n示可能領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及\nび3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領
域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告
ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら
各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認め\nられない。したがって,被告ら各装置は,本件発明1−1の「第1の表示欄」(構\成要
件1−1C,1−1E,1−1F)及び「第2の表示欄」(構\成要件1−1D,1−1
E,1−1−1F)を充足するとは認められず,本件発明1−1の技術的範囲に属するとは認められない。
そして,被告ら各装置は,同様に,本件発明1−5の「第1の表示欄」及び「第2\nの表示欄」(構\成要件1−5J)を充足せず,そうである以上,「第2の表示欄」を構\
成要素とする「コメント表示部」(構\成要件1−1D,1−2H,1−5J,1−6L)も充足しないから,本件発明1−2,1−5及び1−6の技術的範囲に属するとは認
められない。
また,本件発明1−9及び1−10は,発明の対象が「プログラム」であるが,発
明の対象を「表示装置」とする本件発明1−1及び1−2と対応するものである。したがって,被告ら各プログラムは,本件発明1−1及び1−2と同様に,「第1の表\
示欄」(構成要件1−9B,1−9E)及び「第2の表\示欄」(構成要件1−9E)を\n充足せず,本件発明1−9を引用している本件発明1−10の構成要件1−10Hも\n充足しないから,本件発明1−9及び1−10の技術的範囲に属するとは認められない。以上のとおりであるから,被告ら各装置及び被告ら各プログラムは,文言上,本件
発明1の技術的範囲に属するとは認められない。
・・・
ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかっ
た技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基
づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,特許発明にお\nける本質的部分とは,当該特許発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に
見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。そして,\n上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,
特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で,特許発明に係る特許請
求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部\n分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(知財高裁平成27年
(ネ)第10014号同28年3月25日特別部判決・判時2306号87頁参照。)。
イ これを本件についてみると,前記2(3)で説示したとおり,本件発明2は,複数
のコメントが書き込まれても,コメントの読みにくさを低減させることができる表示\n装置,コメント表示方法及びプログラムを提供することを目的とするものであって,\nコメント表示部によって表\示されるコメントが他のコメントと重なるか否かを判定
し,コメントが重なると判定した場合に,コメント同士が重ならない位置にコメント
を表示させるようにし,複数のコメントが表\示される場合において,コメント同士が
動画上で重なってしまい,各コメントが判読できなくなってしまうことを防止するこ
とができるようにするとともに,動画の再生中に他の端末装置から入力されたコメン
トをリアルタイムに受信して当該動画上に表示し,そのコメントをダイナミックに変\n動させることにより,リアルタイムな双方向のコミュニケーションを可能にし,大人\n数でコメントを交換する面白みを増加させる発明である。上記の「動画の再生中に他
の端末装置から入力されたコメントをリアルタイムに受信して当該動画上に表示し,\nそのコメントをダイナミックに変動させることにより,リアルタイムな双方向のコミ
ュニケーションを可能にする」という作用効果は,コメント配信サーバが端末装置か\nらコメント情報を受信してそれを送信するタイミングがリアルタイムに行われるこ
と,すなわち,構成要件2−1Cに規定されているように「前記コメント配信サーバ\nが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信
されるコメント情報を受信」との構成によって実現されているのであり,本件特許2\nの出願経過においても,上記構成は,表\示すべき文字情報があらかじめ決定されてい
る従来技術との比較において,「ユーザの端末装置から送信されるコメントを受信し
て表示するものであり,コメントを受信する毎に,表\示するコメントがダイナミック
に変動する点」が相違すると説明されている。そうすると,構成要件2−1Cは,動\n画の再生中に他の端末装置から入力されたコメントをリアルタイムに受信して当該
動画上に表示し,そのコメントをダイナミックに変動させることにより,リアルタイ\nムな双方向のコミュニケーションを可能にする」という作用効果を奏する構\成を具体
的な構成として特定したものであり,この構\成が従来技術にみられない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分であり,本件発明2における本質的部分であるというべき\nである。
ウ 他方,前記のとおり,被告ら各装置は構成要件2−1Cを充足せず,被告ら各\nプログラムは構成要件2−9Bを充足しないから,被告ら各装置及び被告ら各プログ\nラムが本件発明2の本質的部分を備えているということはできず,本件発明2と被告
ら各装置及び被告ら各プログラムは本質的部分において相違すると認められる。
(3) 第5要件(特段の事情)について
前記2(2)において認定したとおり,本件特許2の出願経過として,1)特許庁審査官
は,平成22年11月24日を起案日とする拒絶理由通知書(乙24)において,出
願当初の特許請求の範囲請求項1ないし6及び8ないし12に係る各発明について,
特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨を通知し,2)原告は,
平成23年1月31日付け手続補正書(乙25)において明細書を補正し,請求項1
に「前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信し,前記コメント情報記憶部に
記憶する受信部と,」との構成を,請求項9に「前記コメント配信サーバが前記端末装\n置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメン
ト情報を受信し,」との構成を付加して変更し,3)特許庁審査官はこれに対して特許
査定をしたものである。
上記の出願経過からすれば,原告は,拒絶理由を回避するために構成要件2−1C\n及び構成要件2−9Bを備えた発明に限定して特許を受けたものといえるから,上記\n構成要件の全部又は一部を備えない発明について,本件発明2の技術的範囲に属しな\nいことを承認したか,少なくとも外形的にそのように解される行動をとったものと理
解することができる。
したがって,均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきであり,均等の第5
要件を充足しない。
◆判決本文
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2018.09.28
平成29(ワ)22417 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年8月29日 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。裁判所(29部)は、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害も第1要件を満たさないとしました。
(2)本件各発明の意義
上記(1)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の特許請求の範囲請
求項1及び3の記載によれば,本件各発明は,より広範で深い人間関係を結ぶための,
人脈関係登録システム,人脈関係登録方法とサーバ,人脈関係登録プログラムと当該
プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体に関するものであり,より広\n範で深い人間関係を結ぶことを積極的にサポートするために,上記人脈関係登録シス
テム等を提供することを目的とするものであって,登録者相互間の合意によって人間
関係が結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,人間関係を結んだ登録者の個人情
報又は識別情報を関連付けて記憶することで,個人情報又は識別情報を含む検索キー
ワードによって第二の登録者と人間関係を結んでいる第三の登録者の個人情報又は
識別情報を検索することができるようにするという発明である,と認められる。
2 被告サーバの構成について\n証拠(甲16,乙4,7)及び弁論の全趣旨によれば,被告サーバにおいて,人間
関係を記憶する手順は,次のとおりであり,これを図示すると,別紙「被告サーバの
動作フロー」のとおりである(同別紙では,アカウント1号を甲,アカウント2号を
乙と表記している。)と認められる。すなわち,他のユーザと人間関係を結ぶ申\請をす
ることを意味する「友達申請」(以下,単に「友達申\請」という。)をするユーザを「アカウント1号」,友達申請をされるユーザを「アカウント2号」として説明すると,1)
アカウント1号が「友達申請をする」と示されたボタンをクリックする(画面08),\n2)被告サーバがアカウント1号に確認画面を送信する,3)アカウント1号が「送信す
る」と示されたボタンをクリックする(画面09),4)被告サーバが記憶手段に友達申\n請に係るデータを登録する,5)被告サーバが記憶手段にアカウント1号及びアカウン
ト2号の人間関係が結ばれた旨の友達リストの仮登録をする,6)被告サーバがアカウ
ント2号に友達申請がされたことを通知する(画面12),7)被告サーバがアカウン
ト1号に友達申請の完了画面を送信する(画面11),8)アカウント2号が被告サー
バにアカウント1号のプロフィールを要求する(画面13,14),9)被告サーバが記
憶手段からアカウント1号のプロフィールを取得する,10)被告サーバがアカウント2
号にアカウント1号のプロフィールを送信する,11)アカウント2号が「友達になる」
と示されたボタンをクリックする(画面15),12)被告サーバが記憶手段の友達リス
トを更新して本登録をし,友達として関連付けることが完了する,13)被告サーバがア
カウント1号に友達申請が承認されたことを示すメール(甲16)を送信する,とい\nうものである。
そうすると,被告サービスにおいては,被告サーバの記憶手段にアカウント1号と
アカウント2号の人間関係が結ばれたとして関連付けられた後に,アカウント1号に
対して友達申請が承認されたことを示すメールが送信されるという処理がされるの\nであり,アカウント1号とアカウント2号が友達として記憶された後に,仮にアカウ
ント1号に対し友達申請が承認された旨が通知されなかったとしても,被告サーバに\nおいては,アカウント1号とアカウント2号が友達であると記憶されているといえる。
3 争点1(被告サーバは,文言上,本件各発明の技術的範囲に属するか)について
事案に鑑み,まず,争点1−3(被告サーバは構成要件1D及び2Dを充足するか)\nについて判断する。
(1) 構成要件1Dは,「上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者\nの個人情報と第二の登録者の個人情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段
と,」というものであり,本件発明1においては,サーバが,第二の登録者と人間関係
を結ぶことを希望する旨の第一の登録者からのメッセージである「第一のメッセージ」
を受信して同メッセージを第二の登録者の端末に送信し,第二の登録者からこれに合
意する旨のメッセージである「第二のメッセージ」を受信して,同メッセージを第一
の登録者に送信したことを条件として,又は送信した後で,第一の登録者の個人情報
と第二の登録者の個人情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとして規定して
いるということができる。
そして,構成要件1Dの「個人情報」が「識別情報」に置き換えられているほかは,\n構成要件1Dと文言を共通にする構\成要件2Dについても,サーバが第二のメッセー
ジを送信したことを条件として,又は送信した後で,第一の登録者の識別情報と第二
の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとして規定していると
認められる。
(2) この点,原告は,構成要件1D及び2Dにおける「送信したとき」の「とき」\nは「ある幅をもって考えられた時間」という意味であるとして,構成要件1D又は2\nDは,第一の登録者の個人情報又は識別情報を第二の登録者の個人情報又は識別情報
とが関連付けられた後に第二のメッセージが送信される場合をも含む旨を主張する
が,「送信したとき」とは,送信したことを条件とする旨表す表\現であると解釈するの
が一般的かつ自然な解釈であるというべきであり,また,これが時を表す表\現である
と解釈したとしても,送信という動作が完了していることを表す表\現が用いられてい
ることからすると,送信することが関連付けることに先行すると解釈するのが一般的
かつ自然であって,本件明細書その他にも異なる解釈を導く説明は見当たらない。
したがって,構成要件1D及び2Dの記載は,送信の実行が先行し,その後に関連\n付ける旨の実行がされることを規定していると解され,原告の上記主張を採用するこ
とはできない。
(3)そこで,被告サービスについてみると,前記2において認定したとおり,被告
サービスにおいては,被告サーバの記憶手段に第一の登録者に相当するアカウント1
号と第二の登録者に相当するアカウント2号が友達として登録されて関連付けるこ
とが終了した後に,アカウント1号に対して友達申請が承認されたことを示すメール\nが送信されるという処理がされるのであるから,被告サーバは,「第二のメッセージ
を送信したとき」に,「上記第一の登録者の個人情報と第二の登録者の個人情報とを
関連付けて上記記憶手段に記憶する手段」又は「上記第一の登録者の識別情報と第二
の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段」を有しているとい
うことはできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告サー
バは,構成要件1D及び2Dを充足しない。\nよって,被告サーバは,文言上,本件各発明の技術的範囲に属すると認めることは
できない。
・・・・
これを本件についてみると,前記1(2)で説示したとおり,本件各発明は,より
広範で深い人間関係を結ぶための,人脈関係登録システム,人脈関係登録方法とサー
バ,人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記\n録媒体に関するものであり,より広範で深い人間関係を結ぶことを積極的にサポート
するために,上記人脈関係登録システム等を提供することを目的とするものであって,
登録者相互間の合意によって人間関係が結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,
人間関係を結んだ登録者の個人情報又は識別情報を関連付けて記憶することで,個人
情報又は識別情報を含む検索キーワードによって第二の登録者と人間関係を結んで
いる第三の登録者の個人情報又は識別情報を検索することができるようにするとい
う発明である。そして,登録者相互間の合意は,メールの交換によって行われるもの
されている(段落【0011】,【0015】)。そうすると,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信したとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶\nする」という構成は,登録者相互間の合意(メッセージの交換)によって人間関係が\n結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,人間関係を結んだ登録者の個人情報又は
識別情報を関連付けて記憶するという課題解決手段を具体的な構成として特定した\nものであって,この構成が従来技術に見られない特有の技術的思想を構\成する特徴的
部分であり,本件各発明における本質的部分というべきである。
これに対し,原告は,より広範で深い人間関係を結ぶために共通の人間関係を結ん
でいる登録者の検索を容易にするということが本件各発明の本質であり,本件各発明
における友達申請メッセージ(第一のメッセージ)や承認メッセージ(第二のメッセ\nージ)のやり取りに係る構成は,人間関係を結ぶための「合意の手段」としての意味\nを有するにすぎず,本件各発明において非本質的な部分である旨主張する。
しかしながら,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信し\nたとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶する」という構成が,本件各発明の課題解\n決手段を具体的な構成として特定したものであることは前記のとおりであるから,個\n人情報又は識別情報を関連付けて記憶する過程のみを切り離して,それらの処理のタ
イミングを規定したものにすぎないということはできず,本件各発明の非本質的部分
であるということはできない。また,本件各発明は,個人情報又は識別情報を含む検
索キーワードによって第二の登録者と人間関係を結んでいる第三の登録者の個人情
報又は識別情報を検索することを内容とするものである(構成要件1Eないし1G,\n2E)が,それを超えて,共通の人間関係を結んでいる登録者の検索を容易にすると
いうことが,本件各発明の課題又は目的とされて本件各発明の構成として具体的に反\n映されているとはいえず,原告の主張を裏付けるに足る本件明細書の記載その他の証
拠はない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
ウ そうすると,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信\nしたとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶する」という構成は,本件各発明におけ\nる本質的部分であると解されるところ,前記説示のとおり,被告サーバは,メッセー
ジを交換する前に,登録者相互間の関連付けが終了するのであって,上記構成を有し\nていないから,その相違部分が本件各発明の本質的部分ではないとはいえず,均等の
第1要件(非本質的部分)を充足しない。
◆判決本文
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2018.09.27
平成29(ネ)10064 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審です。知財高裁第1部は、被告装置1−2は本件訂正発明1の1の技術的範囲に属する、被告装置3は本件訂正発明4の技術的範囲に属し,かつ,無効理由無し、その他の被告装置は技術的範囲に属しない、とした1審判断を維持しました。均等侵害も第1、第2要件を満たさないとしました(1審と同じ)。損害額については変わりありませんが、「寄与率」という用語が「損害額の推定の覆滅」と変更されてます。
前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1)イ(原判決
65頁6行目〜21行目)),本件訂正発明1の1及び1の2の従来技術には,基
礎杭等の造成にあたって地盤を掘削する掘削装置として一般に使用されるアースオ
ーガ装置では,オーガマシンの駆動時の回転反力を受支するために必ずリーダが必
要となるが,リーダの長さが長くなると,傾斜地での地盤掘削にあっては,クロー
ラクレーンの接地面とリーダの接地面との段差が大きい場合にリーダの長さを長く
とれず,掘削深さが制限されるという課題等があった。そこで,本件訂正発明1の
1及び1の2は,これらの課題を解決するために,掘削装置について,掘削すべき
地盤上の所定箇所に水平に設置し,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させる
が,当該固定ケーシングの回転を阻止するケーシング挿通孔を形成してなるケーシ
ング回り止め部材を備えるものとして,リーダではなく,ケーシング回り止め部材
によって回転駆動装置の回転反力を受支するものとした発明と認められる。
ここで,回転駆動装置の回転反力を受支するには,1)回転駆動装置の回転反力が
固定ケーシングによって受支されるとともに,2)固定ケーシングの回転反力がケー
シング回り止め部材によって受支されなくてはならない。そうすると,1)を具体的
に実現する「固定ケーシングが,掘削軸部材に套嵌されると共に,回転駆動装置の
機枠に一体的に垂下連結される」構成及び2)を具体的に実現する「ケーシング回り
止め部材が,掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の
横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され,固定ケーシングを上下方
向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシン
グ挿通孔を有する」構成により,ケーシング回り止め部材によってケーシング,ひ\nいては回転駆動装置の回転反力を受支するようにしたことが,従来技術には見られ
ない特有の技術的思想を有する本件訂正発明1の1の特徴的部分であり,その本質
的部分というべきである。
(ウ) したがって,固定ケーシングが回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結さ
れる構成を有しない被告装置1−3〜1−8は,本件訂正発明1の1と本質的部分\nを異にするものであり,第1要件を満たさない。
・・・
このことから,本件訂正発明1の1の「固定ケーシング5」は,「固定ケーシン
グ5が円筒状ケーシングからなるため,地盤への固定ケーシング5の打ち込み及び
引き抜きが容易となり」【0028】とも記載されているように,回転駆動装置1
の下部から垂下され,ケーシング回り止め部材7のケーシング挿通口8に挿入され,
掘削軸部材2及びダウンザホールハンマー4と共に地盤の掘削により地盤に打ち込
まれ,地盤を所定深度まで掘削したら,ダウンザホールハンマー4の作動を停止さ
せた後,昇降操作用ワイヤーWを巻取り操作して,掘削軸部材2及びダウンザホー
ルハンマー4と共に引き上げられることを前提としたものである。
そうすると,本件訂正発明1の1の掘削装置においては,掘削後に引き抜くこと
を前提にケーシングと回転駆動装置の機枠とを一体的に連結することによって,回
転駆動装置とケーシングを掘削後に引き抜く際に,地盤内でケーシングにかかる土
圧による抵抗に抗してこれを引き抜くことが可能になるものということができる。\nこれに対し,ケーシングと回転駆動装置との機枠とを一体的に連結するのでなく
着脱自在の構成にした場合,そもそも着脱自在の構\成はケーシングを掘削後に残置
させることができるという作用,効果を奏するものであるし,仮にこの構成でケー\nシングを引き上げるとすると,ケーシングと回転駆動装置の機枠との連結部の強度
が十分でないために,引き抜くことが不可能\ないし極めて困難となり,本件訂正発
明1の1の目的を達成することができない。
したがって,掘削後にケーシングを引き抜くことを前提とした本件訂正発明1の
1の掘削装置において,回転駆動装置にケーシングを着脱自在に連結する構成を採\n用すると,本件訂正発明1の1の目的を達成することが困難となり,同一の作用効
果を奏しなくなる。
そして,被告装置1−3〜1−8の構成につき,いずれも回転駆動装置の下部に\n連結された中空スリーブに設けられたスリット状の切り欠きとケーシング外周軸方
向に固設された角鉄とを係合させることにより,中空スリーブとケーシングとを着
脱自在に係合するものであるとする限りでは,当事者間に争いがない。
(イ) 以上によれば,被告装置1−3〜1−8は,第2要件を満たさない。
◆判決本文
1審判決はこちら。
◆平成25(ワ)10958
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◆平成29(行ケ)10193
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2018.06.25
平成29(ネ)10096 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
均等侵害が成立するかが争われました。出願人は、拒絶理由通知に対して、拒絶理由のない従属請求項に限定する補正をおこないました。知財高裁4部は、1審と同様に、均等の第1、第5要件から、均等成立を否定しました。
本質的部分について、上位概念化できるかについての判断基準について言及しています。
特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なか
った技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想
に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,\n特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,
従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきで\nある。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許
発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範
囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が\n何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の
実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定め
られることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記
載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。そして,従来
技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の
範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され,従来技術
と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許
請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところ
が,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載さ\nれていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許\n発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に
比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲が
より狭いものとなると解される。
・・・・
本件特許出願日以前に,キャラクター画像情報に対する課金方法として,携帯端
末自体を改めて販売する態様ではないもの,すなわち,毎月100円を支払うこと
により携帯電話機へ毎日異なるキャラクタ画面データを配信するiモード上での上
記サービス「いつでもキャラっぱ!」が公知であったこと(乙6),及びiモード
においてはコンテンツプロバイダー(情報提供者)がコンテンツの情報料をNTT
ドコモから携帯電話の通信料と合わせて課金し得るシステムが採用されていたこと
(乙9)が認められる。このことに鑑みれば,本件特許出願日において,「サービ
ス提供者にとっても,…キャラクター画像情報を更新するには,携帯端末自体を改
めて販売するしかない」ため「キャラクター画像情報により効率良く利益を得るの
は困難であった。」(本件明細書【0003】)との課題が未解決のままであった
とは認められない。
d しかるに,本件明細書には,乙6,8及び9記載の上記技術についての記載
はない。したがって,本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載さ
れているところは,本件特許出願日における従来技術に照らして客観的に見て不十分なものと認められる。\nそうすると,本件発明の本質的部分は,本件明細書の記載に加えて,乙6,8及
び9記載の前記技術も参酌して認定されるべきである。
(オ) そして,本件明細書の記載並びに乙6,8及び9記載の前記技術によれば,
キャラクター選択・変更等の態様に関する構成(前記1)並びに2)及び3)の組合せ)
について,本件明細書は,複数のパーツを組み合わせて気に入ったキャラクターを
創作決定すること(前記2)及び3))を携帯端末サービスシステムで提供する(前記
1))という発想自体を開示するにとどまり,このようなシステムの実装における未
解決の技術的困難性を具体的に指摘し,かつ,その困難性を克服するための具体的
手段を開示するものではないので,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は小さ
いというべきである。
キャラクターの選択等に対する課金に関する構成(前記2)及び3)並びに4)の組合
せ)についても,本件明細書は,複数のパーツを組み合わせて気に入ったキャラク
ターを創作決定し(前記2)及び3)),当該決定したキャラクターに応じた情報提供
料を通信料に加算する(前記4))という発想自体を開示するにとどまり,このよう
な課金方法の実装における未解決の技術的困難性を具体的に指摘し,かつ,その困
難性を克服するための具体的手段を開示するものではないので,従来技術に対する
本件発明の貢献の程度は小さいというべきである。
そうすると,本件発明の本質的部分については,特許請求の範囲の記載とほぼ同
義のものとして認定するのが相当である。
・・・・
前記認定の出願経過によれば,控訴人は,構成要件A〜C及びHからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)及び構\成要件A〜E及びHからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項2に係る発明)については,特許
を受けることを諦め,これらに代えて構成要件A〜Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に同2及び5を統合した発明,すなわち本件発明)に限定\nして,特許を受けたものということができる。
そうすると,控訴人は,構成要件F及びGの全部又は一部を備えない発明について,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したか,少なくとも外形的にその\nように解されるような行動をとったものと理解することができる。
したがって,均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきであり,均等の第
5要件を充足しない。
ウ 控訴人の主張について
この点につき,控訴人は,被告システムは「仮想モール」に相当する構成を有しているから,本件特許の出願経過を参酌したとしても,均等の成立を妨げる特段の\n事情があるとはいえない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の「仮想モール」は「ショップ」というカテゴ
リーを選択することによってアイテムを購入する仕組みを包含するものではなく,
また,本件明細書【0045】は本件発明の「仮想モール」を説明するものと見る
ことができない以上,当該段落が当初から残存していたという本件特許の出願経過
も,本件発明の「仮想モール」の技術的意義を左右するものではない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28年(ワ)第35182
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2018.05.23
平成29(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年5月21日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁でも、均等侵害が否定されました。
本件各発明の意義は,充填された液体に臭いが移ることがな
く,自立的に形状を維持でき,内部に空気を送り込むことなく,充填された液体の
ほぼ全量を排出可能なウォーターサーバー用ボトルを提供するという課題を達成す\nるために,本件各発明の構成を採用することにある。すなわち,本件各発明は,全\n体をPET樹脂によって形成することで,液体を充填した際でも自立的に形状を維
持でき,液体に臭いが移ることがないようにし,胴部に上下方向に伸縮自在な蛇腹
部を設けることで,潰れやすさを向上させ,さらに,蛇腹部と底部との間に裾絞り
部を形成することで,ボトルが大気圧で押し潰れていく際に,裾絞り部が蛇腹部の
方に引き込まれていき,蛇腹部の内部の容積を削減する機能を有するようにしたも\nのである。
このような,本件明細書に記載された,蛇腹部と底部との間に裾絞り部を形成す
ることの技術的意義に鑑みると,構成要件Hの「内部の液体の排出に伴って,前記\n裾絞り部がボトル内部に引き込まれること」とは,ウォーターサーバー用ボトル内
部の液体の排出に伴って,裾絞り部が蛇腹部の内部に引き込まれることを意味する
ものと解される。
また,かかる解釈は,本件各発明の実施の形態として本件明細書に記載されてい
る唯一の実施例において,内部の液体の排出に伴って【図4】(B),【図5】(A),
【図5】(B)と変化することが記載され,【図5】(B)において,裾絞り部が
蛇腹部の内部に引き込まれていることとも整合する。
ウ 以上のとおり,特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び本件発明1に
おける裾絞り部の技術的意義を総合すれば,構成要件Hの「内部の液体の排出に伴\nって,前記裾絞り部がボトル内部に引き込まれること」とは,ウォーターサーバー
用ボトル内部の液体の排出に伴って,裾絞り部が蛇腹部の内部に引き込まれること
を意味するものと解される。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,裾絞り部がボトル内部に引き込まれることの効果は,ボトル内の残水
を減らすことにあり,これを達するには,裾絞り部がボトル内部の方向に引き込ま
れれば足り,蛇腹内部に裾絞り部が引き込まれることまで要求されるものではない
から,構成要件Hの「裾絞り部がボトル内部に引き込まれる」とは,裾絞り部が蛇\n腹部の方向,つまり裾絞り部から見てボトル内部の方向に引き込まれることを意味
すると解される旨主張する。
しかし,前記イのとおり,蛇腹部と底部との間に裾絞り部を形成することの技術
的意義は,ボトルが大気圧で押し潰れていく際に,裾絞り部が蛇腹部の内部に引き
込まれていき,蛇腹部の内部の容積を削減する機能を有するようにしたことにある\nところ,単に裾絞り部がボトル内部の方向に引き込まれるというだけでは,本件明
細書に記載された本件各発明の上記効果を奏するものではなく,裾絞り部が蛇腹部
の内部まで引き込まれることによって,上記効果を奏するものである。
また,控訴人は,本件特許の出願時の請求項1を特許請求の範囲から削除し,出
願時の請求項2に構成要件Hを追加して請求項1とするなどの補正をした際に(乙\n6),審査官に対し,本件発明1は構成要件FないしHの構\成を備えることにより,
「ボトルが大気圧で押し潰れていく際,裾絞り部が蛇腹部の方に引き込まれていき,
蛇腹部の内部の容積を削減する機能があり(本件明細書【0020】),ボトル内\nの残水を減らす効果がある。」旨の意見を述べていたものであり(乙7),控訴人
の前記主張は,本件特許の出願経過における控訴人の主張とも異なるものである。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成28(ワ)7649
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