JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。
(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の
範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施
例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記
券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前
記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席
のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段
によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」
が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ
る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。
また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券
情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情
報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理
地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計
された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される
指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該
作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善
の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する
「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき
ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。
本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」
の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従
来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座
席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定
席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載
があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン
ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負
担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。
そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と
して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに
基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通
信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす
るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指
摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発
明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取
られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力
して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前
記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ
れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上
記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線
の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】
〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載
されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として,
「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,
通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ
ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。
これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管
理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機
で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場
合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に
するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ
ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情
報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席
の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明
の技術的意義があると認められる。
このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」
は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本
件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」
が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の
「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す
ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は,
控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が,
上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには
ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告
各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ
ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から
一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴
人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示
するとおりである。
本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1
は,均等の第1要件を充足しない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)31428