技術的範囲に属しない、均等侵害も第2要件を満たさないと判断されました。
原告は、上記認定に係る本件明細書【0050】につき、「一般的に用
いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄
くすることができる」との一文は、「支柱」を主語とする記載であるから、
本件各発明は、短手方向の幅を薄くする必要がない場合には、円管又は角
筒管の支柱を排除するものではなく、「回動板状部材」には、角筒管も含
まれる旨主張する。
そこで検討するに、本件明細書【0050】には、「以上説明した仮設
防護柵1の効果を説明する。回動板4は板であり、短手方向に厚さを有し、
回動板4が定着板3,3の間に配置され、2つの回動軸により回動可能な\n構成であるので、ガードレール6と回動板4を倒した状態で、基礎架台2\nの上方に形成されたウェブ部22の短手方向の幅に収容することができ
る。ガードレール6と回動板4を起立した状態で、ボルト、ナットにより、
定着板3により回動板4を固定できる。一般的に用いられる円管又は角筒
管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。
仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去作
業の効率化を図ることができる。道路路肩、歩車道境界のみならず、上り
車線・下り車線を分離するためにも使用することができる。」と記載され
ている。
上記記載によれば、「一般的に用いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、
必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。」との一文は、板
である「回動板4」について説明する文脈に続くものであり、その直後に、
「仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去
作業の効率化を図ることができる。」という本件各発明の効果が記載され
ていることを踏まえても、上記一文の主語は、「回動板4」であると解するのが相当である。
仮に、原告の主張のように、「(円管又は角筒管を含む)支柱」を主語
にした場合には、本件各発明の効果を奏し得ない構成をも含むことになる\nから、本件明細書【0050】の効果に係る上記記載に矛盾する上、本件
各発明の課題を解決できない構成を含むことになるため、本件各発明の課\n題解決手段に照らし、相当であるとはいえない。そうすると、原告の主張
は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。
原告は、本件明細書【0032】に「回動板4の形状は矩形に限定され
ず、楕円、小判等の縦長形状等、適宜の形状を取り得る。」との記載があ
るほか、【0060】に「回動板4は中実板に限らず、中空板等、板から
構成される部材であれば、他の形態でもよい。」との記載があることから\nすると、中空の四角形に構成された角筒状の回動部材107も、上記「回\n動板状部材」に含まれる旨主張する。
しかしながら、原告引用に係る本件明細書【0032】には、かえって、
「回動板4は正面形状が矩形状で所定の厚さの存する薄板であり」と記載されていることからすると、上記明細書の記載は、「薄板」とはいえない
角筒状の回動部材107を含む趣旨ではないことは、明らかであるから、
原告主張は、その前提を欠く。また、【0060】についても、「中実板
に限らず、中空板等、板から構成される部材」という記載であるから、文\n字どおり、「中実板」、「中空板」その他の「板」の形状からなる部材を
意味するものと解するのが相当であり、前記認定に係る課題解決手段に照
らしても、上記記載は、「板」とはいえない角筒管を含む趣旨ではないこ
とは、明らかである。そうすると、原告の主張は、本件各発明の課題解決
手段を正解するものといえない。
その他に、原告は、技術説明会においても、本件各発明の課題は、基礎
架台の短手方向の厚みを薄くするというものではなく、基礎架台に起伏す
る部材が基礎架台に収納できるようにして設置・撤去の作業効率を上げる
ものである旨主張するものの、本件各発明の課題は、本件明細書【000
7】等の記載を参酌すれば、文字どおり、仮設用防護柵の起伏する部材の
幅を小さくすることであって、基礎架台の短手方向の厚みを薄くすること
にある。そうすると、その他の原告の主張を含め、原告の主張は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、被告製品は、本件各発明にいう「回動板状部材」(構成\n要件1Dないし1G及び2Dないし2H)を充足するものとはいえない。
(2) 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品の角筒状の回動部材107が、本件各発明の「回動板
状部材」を充足しないとしても、被告製品の角筒状の回動部材107は、本件
各発明の「回動板状部材」と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主
張する。
しかしながら、本件各発明の課題解決手段は、回動部材を板状にすることに
よって、基礎架台(H形鋼)の短手方向の厚みを薄くするものであることは、
上記において繰り返し説示したとおりである。そうすると、本件各発明の「回
動板状部材」は、本件各発明の課題解決手段そのものであるから、本件各発明
の本質的な部分ではないということはできず、また、これを、被告製品の角筒
状の回動部材107に置き換えると、本件各発明の課題を解決することはでき
ず、本件各発明と同一の作用効果を奏するものとはいえないことは、前記説示
に照らし、明らかである。
そうすると、被告製品は、本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と\n均等なものとはいえない。
◆判決本文
特許権侵害について、構成要件を充足しない、均等についても第1、第2要件を満たさないとして、非侵害認定されました。
上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮\nすることを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート
からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ
トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ
ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され
たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ\nさせ、そこで捕捉するようにするというものである。
そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた
上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表\n裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混
ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件\n発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着
力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、\n多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構\成材料の数も減らす
ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書\n的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散
を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当\nである。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ
ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が
零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる
構造であるとは認められない。\n
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ
ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること\nができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通
気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構\成要件を充足
することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。\n
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する
ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力
を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために\n袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。\nそうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の
不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、\n本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを
置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも\n認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、
原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争
点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方
法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも
のとは認められないから、採用しない。
◆判決本文
1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。
当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法
143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には
時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと
おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃
棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人
による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると
の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査
定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許
権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求
を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する
のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項
ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね
ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的
解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か
ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権
利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に
当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと
どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により
許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に
は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい
て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし
て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる
(本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、
乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要
件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、
同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ
主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の
「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載
されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な
争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一
応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁
論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者
に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ
り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不
調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、
消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで
の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控
訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の
主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準
備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手
続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと
いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の
追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を
問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3
公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな
いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求
項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件
をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、
既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対
抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの
点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を
受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を
行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること
は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、
当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい
う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え
難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減
縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な
る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は
されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと
につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな
るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求
原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず
ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が
許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー
ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理
には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら
かである。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和3(ワ)10032