技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害も否定されました。
前記1(2)で述べたとおり,本件明細書の記載によれば,従来技術には,
気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,過飽和の状態を安定に維持して外
部に提供することが難しく,ウォーターサーバー等へ容易に取付けること
ができないという課題があった。本件発明1は,このような課題を解決す
るために,水に水素を溶解させる気体溶解装置において,水素水を循環さ
せるとともに,水素水にかかる圧力を調整することにより,水素を飽和状
態で水素水に溶解させ,その状態を安定的に維持し,水素水から水素を離
脱させずに外部に提供することを目的とするものである。
本件発明1では,水素を飽和状態で水に溶解させ,その状態を安定的に
維持するために,加圧型気体溶解手段で生成された水素水を循環させて,
加圧型気体溶解手段に繰り返し導いて水素を溶解させることとし,「前記
溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を加圧型気体溶解
手段に送出し加圧送水して循環させ」る(構成要件F)という構\成を採用
している。また,気体溶解装置において,気体が飽和状態で溶解した状態
を安定的に維持し,水素水から水素を離脱させずに外部に提供するために
は,水素を溶解させた状態の水素水が気体溶解装置の外部に排出されるま
での間に,水素水にかかる圧力の調整ができなくなることを避ける必要が
ある。このため,本件発明1では「前記溶存槽及び前記取出口を接続する
管状路」(構成要件E)という構\成を採用し,水素を溶解させた水素水が
導かれる溶存槽と水素水を気体溶解装置外に吐出する取出口との間を管
状路で直接接続し,水素水にかかる圧力の調整ができなくなることを避け
ているものと解される。
以上のような本件発明1の課題,解決方法及びその効果に照らすと,生
成した水素水を循環させるという構成のほか,管状路が溶存槽と取出口を\n直接接続するという構成も,本件発明1の本質的部分,すなわち従来技術\nに見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分に該当するというべ\nきである。
被告製品は,管状路が溶存槽と取出口を接続するという構成を採用して\nいないことは前記4のとおりであるから,被告製品の構成は,本件発明1\nと本質的部分において相違するものと認められる。
イ これに対し,原告は,本件発明1の本質的部分は,生成された水素水が
大気圧に急峻に戻るのを防ぐため,管状路を加圧状態から大気圧状態まで
の圧力変動があり得る構成と構\成の間に接続することであり,被告製品で
は,冷水タンクにおいて水素水にかかる圧力が大気圧となるから,カーボ
ンフィルタと冷水タンクを細管で接続する構成は本件発明1と本質的部分\nにおいて相違しない旨主張する。
しかし,被告製品のように,溶存槽から取出口までの間に水素水にかか
る圧力が大気圧となる構成を設けた場合には,被告製品の取出口から水素\n水が取り出される前に,生成された水素水に対する圧力の調整ができなく
なって水素が離脱し得ることになってしまい,「水素水から水素を離脱させ
ずに外部に提供する」という効果を奏することができない。したがって,
本件発明1において,溶存槽と大気圧状態までの圧力変動があり得る構成\nの間に管状路を接続することが本質的部分であると解することはできず,
原告の主張は採用することができない。
エ したがって,被告製品は,均等侵害の第一要件を満たさない。
第二要件及び第三要件
ア 原告は,第二要件につき,被告製品と本件発明1とは,管状路を通して
徐々に生成した水素水を大気圧に降圧することにより,水素濃度を維持す
る点が共通するから,「管状路に当たる細管が,カーボンフィルタの出口と
気体溶解装置内に設けられた冷水タンクの入口を接続する」という被告製
品の構成を,管状路が溶存槽と取出口を接続するという本件発明1の構\成
に置換することができると主張する。
しかし,前記 で判示したとおり,被告製品の上記構成では,装置の内\n部において水素水にかかる圧力の調整ができなくなり,「水素水から水素を
離脱させずに外部に提供する」という効果を奏することができず,被告製
品の構成と本件発明1の構\成は作用効果が同一であるとはいえない。した
がって,被告製品は,均等侵害の第二要件も満たさない。
イ 原告は,第三要件につき,取出口の前に冷水タンクを設け,この冷水タ
ンクに管状路を接続することは容易であると主張する。しかし,取出口の
前に大気圧となる冷水タンクを設けることは,「水素水から水素を離脱させ
ずに外部に提供する」という本件発明1の課題解決原理に反するものであ
るから,当業者としては,本件発明1に被告製品の上記構成を採用するこ\nとの動機付けを欠くものといえる。したがって,被告製品は,均等侵害の
第三要件も満たさない。
以上で述べたとおり,「管状路に当たる細管が,カーボンフィルタの出口と
気体溶解装置内に設けられた冷水タンクの入口を接続する」という被告製品
の構成は,均等侵害の第一要件,第二要件及び第三要件を満たさないから,\n被告製品の上記構成が本件発明1の構\成要件Eと均等であるとは認められ
ない。
◆判決本文
2017.03. 7
CS関連発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁は、均等侵害も第1、第2、第3要件を満たさない、分割要件違反、および一部のクレームについてサポート要件違反があるとして請求棄却しました。
特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の
記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的\n部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づ
いて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発
明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定さ\nれるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野に
おける従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれ
ば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に
明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されて
いるところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合\nには,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の
従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定さ\nれるべきである。
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的
部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発
明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,こ
れを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではない
と判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,その\nことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである
(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第100
14号)特別部判決参照)。
イ 原告は,本件発明1の本質的部分は「一の注文手続で,同一種類の金
融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行うこと」及び
「その注文と約定を繰り返すようにしたこと」にとどまると主張する。
この点,確かに,本件明細書等1には,本件発明1の課題として,
「本発明は・・・システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うこと
なく指値注文による取引を効率的かつ円滑に行うことができる金融商品
取引管理方法を提供することを課題としている。」(段落【0006】)
との記載がある。この記載に,「請求項1・・・に記載の発明によれば,
・・・一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格
にわたって一度に注文できる。」(段落【0017】),「請求項1・
・・に記載の発明によれば,・・・約定した第一注文と同じ第一注文価
格における第一注文の約定と,約定した第二注文と同じ前記第二注文価
格における前記第二注文の約定とを繰り返し行わせるように設定するこ
とにより,第一注文と第二注文とが約定した後も,当該約定した注文情
報群による指値注文のイフダンオーダーを繰り返し行うことが可能にな\nる。」(段落【0018】)との各記載も併せれば,原告の主張する
「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたっ
て一度に注文を行うこと」及び「その注文と約定を繰り返すようにした
こと」との部分が本件発明1の本質的部分,すなわち従来技術に見られ
ない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるように見えなくもな\nい。
しかし,本件発明1に係る特許(本件特許1)の出願時の従来技術に
照らせば,本件明細書等1に本件発明1の課題として記載された「シス
テムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく指値注文による取
引を効率的かつ円滑に行うことができる金融商品取引管理方法を提供す
ること」(段落【0006】)は,本件発明1の課題の上位概念を記載
したものにすぎず,客観的に見てなお不十分であるといわざるを得ない。\n以下,詳述する。
以上の各記載に,上記エのとおり,引用文献1には既に「一の注文手
続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文
を行う」という技術が開示されていたことも併せれば,本件発明1は,
単に一の注文手続で複数の価格にわたって一度に注文を行うだけではな
く,「請求項1・・・の発明」による「売買注文申込情報」,すなわち,\n「金融商品の種類」(構成要件1B−1),「注文価格ごとの注文金額」\n(構成要件1B−2),「注文価格」(構\成要件1B−3),「利幅」
(構成要件1B−4)及び「値幅」(構\成要件1B−5)を示す各情報
に基づいて,同一種類の金融商品を複数の価格について指値注文する注
文情報からなる注文情報群を生成することにより,金融商品を売買する
際,一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格に
わたって一度に注文できるという点にその本質的部分があるというべき
である。
カ これを被告サービス1についてみると,被告サービス1では「利幅」
(構成要件1B−4)及び「値幅」(構\成要件1B−5)を示す情報が
入力されないのであるから,本件発明1と被告サービス1の相違点が特
許発明の本質的部分ではないということはできない。
したがって,被告サービス1については,均等の要件のうち第1要件
を満たさない。
(4) 第2要件(置換可能性)について
次に,均等の第2要件について検討する。
原告は,本件発明1の課題は「専門的な知識がなく,必ずしも正確に相場
変動を予測することができなくても,また,常に相場に付ききりとならなく\nても,FX取引により所望の利益を得ること」にある旨主張している。
しかし,仮に本件発明1の課題が原告の主張するところにあるとしても,
本件発明1と被告サービス1とは,課題解決原理が全く異なる。
すなわち,本件発明1では,顧客に利幅(構成要件1B−4)及び値幅\n(構成要件1B−5)をはじめとして全ての注文を直接的かつ一義的に導き\n出すに足りる情報を入力させた上,これにより,買いの指値注文及び売りの
指値注文からなる注文のペアを複数生成させ,この複数の注文のペアからな
る注文を行うことで,上記課題を解決している。
一方,被告サービス1では,顧客が3)「参考期間」を選択しさえすれば,
4)「想定変動幅」を提案し,専門的な知識が必要である利幅(構成要件1B\n−4)及び値幅(構成要件1B−5)を顧客に入力させることなく,複数の\n注文のペアからなる注文を行うことで,上記課題を解決している。すなわち,
被告サービス1では,顧客に全ての注文を直接的かつ一義的に決定させるの
ではなく,顧客には専門的な知識が必要とされる情報を入力させないまま,
注文を行わせるものである。
このように,本件発明1と被告サービス1は,金融商品の相場変動を正確
に予測することができなくてもFX取引による所望の利益を得るという課題\nを,顧客に利幅(構成要件1B−4)及び値幅(構\成要件1B−5)という
専門的な知識が必要である情報を入力させることで解決するか(本件発明
1),それともこれらの情報を入力させないまま解決するか(被告サービス
1)という課題解決原理の違いがあり,そのため作用効果も異なってくるも
のといわざるを得ない。
したがって,均等の第2要件に関する原告の主張は理由がない。
(5) 第3要件(容易想到性)について
さらに,均等の第3要件について検討する。
ア 原告は,甲15公報及び甲17公報並びに他の証券会社の提供した
「クイック仕掛け(買いゲリラ100pips)」という機能に照らせば,値幅\nを直接入力せずに他の情報を入力してこれらの情報から値幅を算出して
決定するという構成や,あらかじめ設定された値を用いるという構\成は,
被告サービス1の提供開始時において既に公知の構成であったと主張す\nるので,以下検討する。
イ まず,甲15公報の「要約」欄には,以下の記載がある。
・「注文情報生成部は,取り引きの上限価格と,取り引きの下限価格と,
同時に生成される注文情報群の数とを取得し,取得された値に基づいて,
第一注文どうしの価格差が一定となり,第二注文どうしの価格差が一定
となり,かつ,同一の注文情報群に属する第一注文と第二注文との価格
差が一定となるように,第一注文及び第二注文の価格をそれぞれ演算す
る。」
また,甲17公報には,以下の記載がある。
・「前記表示手段における上側の接触位置に対応して表\示された前記価
格情報に基づいて上限価格を設定すると共に前記表示手段における下側\nの接触位置に対応して表示された前記価格情報に基づいて下限価格とを\n設定させると共に,前記注文発注手段に対し,前記上限価格と前記下限
価格との間に形成された前記発注価格帯において前記注文情報を発注さ
せることを特徴とする金融商品取引システム。」(【請求項1】)
・「前記注文発注手段は,前記任意の発注条件として,前記金融商品の
注文個数情報を備え,前記発注価格帯において,前記注文個数情報に基
づく複数の前記注文情報を,それぞれの価格差が均等な指値注文を発注
するように生成することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記
載の金融商品取引システム。」(【請求項7】)
・「ポジション・ペアの数は,第一形態注文入力画面33(図8)で注文個
数入力欄(図示せず)に入力された注文個数情報の数値,又は,発注価
格帯の数値を値幅入力欄(図示せず)に入力された数値で割った値のう
ちの整数値と同じ個数に等しく設定される。」(段落【0082】)
ウ 上記各記載を踏まえ,原告は,甲15公報にはトラップを仕掛ける範
囲(「取引の上限価格」と「取引の下限価格」)と,トラップの本数
(「同時に生成される注文情報群の数」)を入力し,これらの情報に基
づいて値幅及び利幅(「第一注文どうしの価格差」及び「同一の注文情
報群に属する第一注文価格と第二注文価格との差」)を一定となるよう
に演算して決定する構成が開示されており,また,甲17公報にも,ト\nラップを仕掛ける範囲(タッチパネルの上下の接触位置に対応する「発
注価格帯」)と,トラップの本数(「注文個数情報」)を入力し,これ
らの情報に基づいて,値幅が均等となるように演算して決定する構成が\n開示されていると主張する。
しかし,被告サービス1においては,そもそも注文情報群の数(原告
の主張する「トラップの本数」)を顧客が入力する構成とはなっていな\nい。すなわち,原告の主張によっても,被告サービス1では,顧客は6)
「対象資産(円)」欄に金額を入力するのみであり,被告サーバにおい
てその額の証拠金で生成可能な数の注文情報群を生成するというのであ\nる。
加えて,前述のとおり,本件発明1(構成要件1B)と被告サービス\n1の相違点は,本件発明1では構成要件1B−4(利幅を示す情報)及\nび構成要件1B−5(値幅を示す情報)を入力するのに対し,被告サー\nビス1では2)「注文種類」ないし6)「対象資産(円)」の五つの情報を
入力する点にあるところ,甲15公報及び甲17公報にはこれらの五つ
の情報の入力については何ら開示されていない。
エ さらに,他の証券会社の提供した「クイック仕掛け(買いゲリラ
100pips)」という機能についてみても,原告によれば,同機能\では利幅
及び値幅はあらかじめ設定されていて,顧客が入力するものではないと
いうのである。そうすると,利幅(構成要件1B−4)及び値幅(構\成
要件1B−5)が顧客の入力に係る本件発明1に対し,利幅(構成要件\n1B−4)及び値幅(構成要件1B−5)があらかじめ設定されている\n「クイック仕掛け(買いゲリラ100pips)」の技術を適用する基礎がそも
そも存在しないものといわざるを得ない。
オ 以上によれば,本件発明1の構成を被告サービス1のものに置換する\nことについて,当業者が被告サービス1の開始時点において容易に想到
することができたとはいえない。
したがって,均等の第3要件に関する原告の主張は理由がない。
・・・・
原出願である本件特許2に係る本件明細書等2の段落【0005】ないし
【0008】の記載によると,本件特許2は,従来技術の課題として,取引
開始直後の注文が成行注文のイフダンオーダーをすることができなかったこ
と及びイフダンオーダーを繰り返し行えなかったことを技術課題として設定
している。
この課題を解決する手段として,本件明細書等2では,取引開始直後に約
定する成行注文の約定価格を基準として,注文情報群を生成し,これに基づ
いて,決済注文である指値注文及び逆指値注文を行い,当該指値注文が約定
すると,新たな注文情報群を生成させ,これに基づいて,先行する成行注文
の約定価格と同一の価格の指値注文を行い,当該指値注文が約定すると,当
該新たな注文情報群に基づいて,当該指値注文の決済注文であって,先行す
る決済注文である指値注文及び逆指値注文と同一の価格の指値注文及び逆指
値注文を行うことが開示されている。
すなわち,本件明細書等2の段落【0044】では,「・・・成行リピー
トイフダンでは,一回目のイフダンでは,第一注文で買い注文または売り注
文の一方を成行で行ったのち,第二注文で買い注文または売り注文の他方を
指値で行う。・・・この第二注文の約定の後,指値の第一注文(このときの
指値価格は一回目の成行注文での約定価格とする)と指値の第二注文とから
なるイフダンが,複数回繰り返される。」とされ,段落【0062】では
「ここで,本実施形態の第一注文は,一回目は成行注文で行われるが,二回
目以降は指値注文で行われる。このため,約定情報生成部14は,当該成行
注文の約定価格を,二回目以降の第一注文の指値価格に設定する。」とされ
た上,【図7】においても,2回目以降の指値の第一注文の価格を1回目の
成行注文の約定価格とする旨の記載がある。そして,証拠(乙11,13)
及び弁論の全趣旨によれば,これらの段落【0044】及び【0062】並
びに【図7】は,出願当初の明細書等から補正がされていないものと認めら
れる。
(4) そこで,構成要件3F−2の「前記指値注文」の構\成と,本件明細書等2
の記載とを比較すると,本件明細書等2には2回目以降の指値の第一注文の
価格を1回目の成行注文の約定価格とすることしか開示されておらず,2回
目以降の指値の第一注文の価格を任意の価格にできるといった記載はない。
また,2回目以降の指値の第一注文の価格をどのような価格にするのか,言
い換えると,1回目の成行注文の約定価格以外のどのような価格に設定する
のか,そのための方法等は一切開示されていない。
そうすると,本件明細書等2の出願当初及び分割直前の明細書等には,そ
の技術課題及び課題を解決するための手段からみて,2回目以降の指値の第
一注文の価格を任意の価格に設定できることが形式的にも実質的にも記載さ
れていないものといわざるを得ない。
したがって,本件発明3の構成要件3F−2は,分割出願の出願日が原出\n
願の出願日へ遡及するための要件である,上記1)及び2)の要件のいずれも満
たさないから,本件発明3に係る特許出願には特許法44条2項の適用がな
く,分割要件違反となるものというべきである。
(5) 原告の主張に対する判断
この点に関して原告は,本件発明2及び3の技術思想は「顧客が煩雑な注
文手続を行うことなく複数のイフダンオーダーを繰り返し行うことができて,
システムを利用する顧客の利便性を高めると共にイフダンオーダーを行う際
に顧客が被るリスクを低減させることができる。」ことにあり,2回目以降
の第一注文の指値価格をどのようなものにするのかは,上記技術思想とは直
接の関係がないため,当業者において適宜選択・決定すれば足りる事項であ
ると主張する。
しかし,上記(3)において引用したところからすれば,本件発明2の技術
思想は,先行する成行注文の約定価格と同一の価格の指値注文を行うところ
にもあるということになる。そうすると,本件明細書等2に対し,システム
が2回目以降の指値の第一注文の指値価格を決定するという構成を追加する\nことは,新たな技術的事項を導入するものというべきであるから,原告の上
記主張はその前提を欠き,採用することができない。
(6) 以上によれば,本件発明3に係る特許出願の出願日は,原出願の出願日ま
で遡及せず,現実の出願日である平成26年11月13日となるところ,本
件発明2に係る特許出願の出願公開の公開日は平成25年7月11日である
から(甲4の2),本件発明3の新規性は,本件発明3を下位概念化した本
件発明2によって,否定されることになる。
したがって,本件発明3に係る特許は,特許法29条1項3号に違反して
されたものであるから,同法123条1項2号によって特許無効審判により
無効にされるべきものである。
・・・・
(1) 特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,
明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の
趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定
められたものである。
したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,
発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されているこ\nとが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に
記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,
発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明に
おける課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な
技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべ
きものと解される。
(2) これを本件についてみるに,原告の主張によれば,構成要件3F−2の\n「前記指値注文」とは,その価格については何の限定もなく,任意の指値価
格をその指値価格とする指値注文ということになる(前記10(3))。しかる
に,前記10(3)で引用した本件明細書等2の段落【0044】及び【006
2】並びに【図7】は,本件明細書等3の段落【0042】及び【0060】
並びに【図7】に相当するところ,これらの段落等にも,その技術課題及び
課題を解決するための手段からみて,2回目以降の指値の第一注文の価格を
任意の価格に設定できることが形式的にも実質的にも記載されているとはい
えない。
そうすると,当業者において,本件発明3の解決手段その他当業者が当該
発明を理解するために必要な技術的事項が,本件明細書等3の発明の詳細な
説明に記載されているものと認めることはできない。
(3) したがって,本件発明3は特許法36条6項1号に規定するサポート要件
を満たしていないことになるから,本件発明3に係る特許は同法123条1
項4号によって特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文