マネースクウェアVS外為オンライン事件は、控訴審でも、技術的範囲に属しないと判断されました。成行注文であるNo.97の買い注文またはNo.88に係る注文情報が、構成要件Eの「新たな一の価格の新たな前記第一注文情報」と均等であるとの主張も、置換容易性がないとして、否定されました。
前記前提事実からすると,被控訴人サービスは,買い注文から入った場
合は,取引開始後の最初の買い注文を成行注文とし,同注文と対をなす売り注文を
指値注文とし,同売りの指値注文が約定することをトリガとして新たな価格帯での
取引として,買いの成行注文に係る注文情報を生成させることとし,その後,同買
いの成行注文と対をなす売りの指値注文が約定することをトリガとして,更に新た
な価格帯での取引を行い,以降,これを繰り返すという構成を採用していることが\n認められる。
被控訴人サービスの上記構成を前提として,被控訴人サービスの構\成と本件発
明の構成とを比較すると,まず,本件発明においては,第一注文情報及び第二注文\n情報とも指値注文とする構成であるのに対し,被控訴人サービスにおいては,1)第
一注文情報のうち取引開始後最初の取引の第一注文情報と,相場価格の変動後の新
たな価格帯での最初の取引の第一注文情報のみを成行注文とする構成である点で異\nなり,この点で,被控訴人サービスは構成要件E2)を充足しないが,特定の事項を
トリガとして生成する成行注文においては,トリガとなる事項をどのように構成す\nるかの点もその内容となっているものと解されること,被控訴人サービスにおいて
は,2)相場変動後の新たな価格帯での最初の成行注文に係る注文情報の生成を,旧
価格帯における成行注文と対をなす指値注文の約定をトリガとして行わせる構成と\nしたことが,上記1)の構成と一体となって技術的な意義を有するものと解されるこ\nとから,上記1)及び2)の構成(以下「本件相違構\成」)を本件発明の構成との相違\n点として把握して検討するのが相当である。
この点,控訴人は,被控訴人サービスと本件発明とは,本件発明が「検出され
た前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定された値以上となった場合に」,新\nたな価格の「買いの指値注文」を設定するのに対し,被控訴人サービスは,「検出
された前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定された値以上となり,売りの指\n値注文が約定した場合に」,新たな価格の「買いの成行注文」を設定する点で相違
すると主張して均等侵害の主張をしているが,同主張は,被控訴人サービスにおい
ては変動後の価格帯で生成されるすべての買い注文が成行注文であるとして,本件
設定できることからすると,相場価格が指定価格となることをトリガとする構成が\n想到し易いものと考えられる。
また,前記1のとおり,本件発明は,同じ価格帯でイフダンオーダーを自動的
に繰り返すことのできる従来の発明の課題を解決したものであり,同じ価格帯での
イフダンオーダーを自動的に繰り返すことを前提としているところ,被控訴人サー
ビスのように本件相違構成を採用すると,新たな価格帯における取引を行わせるた\nめに必要な相場価格の変動幅は,取引開始時に設定された第二注文情報の指値注文
と取引開始時の相場価格の差額と一致することになり,その結果,同じ価格帯での
イフダンオーダーを継続させるためには,相場価格が変動した場合に,旧価格帯の
成行注文と対をなす売りの指値注文の約定をトリガとして,旧価格帯における指値
注文に係る注文情報群も生成させる構成を採用するなどの工夫をする必要が生じる\n(被控訴人サービスでは,同一の価格帯でのイフダンオーダーを継続させるために
は,No.113の売りの指値注文の約定をトリガとして,新たな価格帯の取引で
あるNo.97の買いの成行注文に係る注文情報を生成するだけでなく,旧価格帯
の取引であるNo.100及びNo.99の各注文に係る注文情報群をも生成させ
る必要がある。なお,本件発明においても,顧客が「予め設定された値」を第二注\n文情報の指値価格と第一注文情報の指値価格の差額以下の値と設定することを可能\nとするのであれば,同じ価格帯でのイフダンオーダーを継続させるためには,相場
価格が変動しても,旧価格帯での取引を継続させる構成としておく必要があるが,\n上記の設定ができないようにすれば,上記の構成とする必要はない。)。このよう\nな理由から,被控訴人サービスは,本件相違構成を採用するためには,相場価格が\n変動した場合に,旧価格帯の成行注文と対をなす指値注文の約定をトリガとして,
旧価格帯における指値注文に係る注文情報群も生成させる必要があり,この点を考
慮すると,本件発明に本件相違構成を適用するに当たっては,相応の検討が必要で\nあったというべきである。
以上のことに,本件全証拠によっても,被控訴人サービスが開始された時点に
おいて,本件相違構成を採用した金融商品取引に係るサービスが存在したことや,\n本件相違構成を開示した文献があったとは認められないことを併せ考慮すると,本\n件相違構成に係る置換をすることは当業者が容易に想到することができたとは認め\nられないというべきである。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)21346