日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。
被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸
をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ
ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1
は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。
しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが
でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの
であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット
ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン
ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある
ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ
プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最
長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】
(b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう
にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール
について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、
各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ
ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような
ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて
いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位
置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ
して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして
特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ
のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部
形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス
の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位
置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような
エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個
選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本
発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの
測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告
製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ
Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向
に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求
の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」
との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから
も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で
あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ
るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス
リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの
切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。
また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす
ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された
とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真
の赤破線で示されたとおりのものである。
前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の
非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される
ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため
には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ
る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ
ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう
なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に
おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜
部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き
により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3
参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、
弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、
それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」
が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の
「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、
「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当
する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部
に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部
によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ
ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ
り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」
の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品
3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの
に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、
被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に
ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央
部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時
において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、
原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に
限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな
い。
◆判決本文