1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。
当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法
143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には
時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと
おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃
棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人
による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると
の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査
定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許
権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求
を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する
のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項
ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね
ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的
解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か
ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権
利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に
当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと
どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により
許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に
は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい
て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし
て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる
(本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、
乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要
件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、
同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ
主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の
「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載
されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な
争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一
応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁
論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者
に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ
り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不
調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、
消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで
の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控
訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の
主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準
備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手
続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと
いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の
追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を
問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3
公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな
いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求
項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件
をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、
既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対
抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの
点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を
受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を
行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること
は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、
当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい
う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え
難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減
縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な
る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は
されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと
につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな
るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求
原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず
ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が
許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー
ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理
には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら
かである。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和3(ワ)10032
特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。
そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき
は、均等侵害が成立し得るものと解される。
これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、
構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C
の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発
明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、
構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は
満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で
接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の
「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲
13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場
合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試
験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の
「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証
拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設
けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続
時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ
とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原
告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、
原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件
が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。
被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】
【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び
γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ
ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す
ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され
本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は
第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される
旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で
構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。
以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄
記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。
「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ
(広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ
うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け
られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5
と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線
5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ
うに形成されてもいない。
したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら
れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製
品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告
製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で
あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流
ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか
らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1
の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面
が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断
部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3
として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ
て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して
いた。」(【0004】)
「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装
型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの
内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この
外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ
レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する
ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという
作用効果が得られるものである。」(【0007】)
「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極
とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と
外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると
いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、
このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部
電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し
たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一
部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調
整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す
るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態
1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で
構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】)
「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が
得られるものである。」(【0036】)
【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー
ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて
は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して
いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで
きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー
スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され
た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を
配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって
溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体
の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を
奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13
がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記
載されている(同【0035】【図4】【図5】)。
以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の
金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し
た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内
に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま
る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば
らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある
いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必
要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低
コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1
発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端
に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤
を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間
に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば
らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立
を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部
21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易
になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。
そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも
生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である
ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶
断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して
いるといえる。
したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす
るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発
明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ
ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空
間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ
メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する
ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発
明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい
る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削
は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること
から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため
に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙
3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一
体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと
なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ
レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部
の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙
3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は
ない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害
する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、
当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均
等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発
明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく
各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当
であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ
ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、
同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す
ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範
囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その
後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上
の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで
の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付
けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。
このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技
術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を
終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本
件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい
ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ
とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追
加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。
◆判決本文
知財高裁(4部)も、1審と同じく均等侵害を否定しました(第1、第4要件不備)。
ア 均等の第1要件における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の
記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であり,\n上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題
及び解決手段(特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目
的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項\n参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見ら
れない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによっ\nて認定されるべきである。ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題とし
て記載されているところが,出願時(又は優先権主張日)の従来技術に照らして客
観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当\n該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定\nされるべきである。
イ 本件明細書によれば,本件発明は,従来技術では経路探索の終了時にいくつ
かの経由地を既に通過した場合であっても,最初に通過すべき経由予定地点を目標\n経由地点としてメッセージが出力されること(【0008】)を課題とし,このよ
うな事態を解決するために,通過すべき経由予定地点の設定中に既に経由予\定地点
のいずれかを通過した場合でも,正しい経路誘導を行えるようなナビゲーション装
置及び方法を提供することを目的とし(【0011】),具体的には,車両が動く
ことにより,探索開始地点と誘導開始地点のずれが生じ,車両が,設定された経路
上にあるものの,経由予定地点を超えた地点にある場合に,正しく次の経由予\定地
点を表示する方法を提供するものである(【0018】【0038】)。また,前\n記2(1)エ(ア)のとおり,本件特許出願当時において,ナビゲーション装置が,距離
センサー,方位センサー及びGPSなどを使って現在位置を検出し,それを電子地
図データに含まれるリンクに対してマップマッチングさせ,出発地点に最も近い
ノード又はリンクを始点とし,目的地に最も近いノード又はリンクを終点とし,ダ
イクストラ法等を用いて経路を探索し,得られた経路に基づいて,マップマッチン
グによって特定されたリンク上の現在地から目的地まで経路誘導するものであった
ことは,技術常識であったと認められる。
このように,本件発明は,上記技術常識に基づく経路誘導において,車両が動く
ことにより探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点\nを通過してしまうことを従来技術における課題とし,これを解決することを目的と
して,上記「ずれ」の有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比
較して両地点の異同を判断し,探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場合には,
誘導開始地点から誘導を開始することを定めており,この点は,従来技術には見ら
れない特有の技術的思想を有する本件発明の特徴的部分であるといえる。
したがって,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断する
構成を有しない被控訴人装置が本件発明と本質的部分を異にすることは明らかであ\nる。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成26(ワ)25928
2015.04. 8
第4要件を満たしていないとして均等侵害ではないと判断されました。
原告は,乙1発明は,役者やモデルのような舞台に上がる者を対象としたメイクアップの技術であるのに対し,乙4発明は,模型等を対象とした塗装技術であって,技術分野が全く異なること,また,乙1発明と乙4発明の解決課題が異なることから,乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがないと主張する。しかし,証拠(乙1)によれば,乙1文献の「問題点を解決するための手段」には,「本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を,手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。」との記載があり,この記載はまさに,塗料を噴霧して吹き付ける塗装技術を,化粧料を吹き付ける技術に応用することが可能であることを示唆するものであると認めることができる。したがって,上記記載に照らせば,化粧料の吹付けに関する乙1発明に塗装技術である乙4発明を適用する動機付けがあるというべきであり,これに反する上記原告の主張は採用することができない。\n
◆判決本文
2015.04. 8
第4要件を満たしていないとして均等侵害ではないと判断されました。
原告は,乙1発明は,役者やモデルのような舞台に上がる者を対象としたメイクアップの技術であるのに対し,乙4発明は,模型等を対象とした塗装技術であって,技術分野が全く異なること,また,乙1発明と乙4発明の解決課題が異なることから,乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがないと主張する。しかし,証拠(乙1)によれば,乙1文献の「問題点を解決するための手段」には,「本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を,手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。」との記載があり,この記載はまさに,塗料を噴霧して吹き付ける塗装技術を,化粧料を吹き付ける技術に応用することが可能であることを示唆するものであると認めることができる。したがって,上記記載に照らせば,化粧料の吹付けに関する乙1発明に塗装技術である乙4発明を適用する動機付けがあるというべきであり,これに反する上記原告の主張は採用することができない。\n
◆判決本文
均等の第4要件を満たさないとして、均等侵害が否定されました。
以上によれば,被告製品の各構成は,本件優先日において雨樋の技術分野でごく一般的であった構\成を単に組み合わせたにすぎないものであり,これらごく一般的で公知の構成を組み合わせることについて何らかの阻害要因等が存在したことを窺わせる主張立証も全くない。そうすると,被告製品について,当業者が公知技術から容易に推考できたものではないと認めることはできないから,被告製品について,本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできない。\n
◆判決本文
均等の第4要件を満たさないとして均等侵害が否定されました。
上記ウのとおり,乙27には,ヒトの肝癌組織片をヌードマウスで継代した肝癌腫瘍の継代2代目を,ヌードマウスの肝に移植したことで,右肺下葉に直径約2mmの球状の転移を認めた旨の記載があり(31頁右欄18行〜32頁右欄7行目),その上で,肝移植肝細胞癌が肺転移を惹起したことを明確に証明したものとする記載があるのであるから(33頁左欄11〜19行目),乙27には,ヒトの肝癌組織片を原発臓器であるヌードマウスの肝臓に同所移植することによって肺転移が生じるヌードマウス(モデル動物)を得られるとの知見が開示されているものと認められる。そして,1)乙14発明と乙27発明は,肝癌患者の肝臓から採取した肝腫瘍組織片をヌードマウスの皮下で継代移植して得られた腫瘍組織塊をヌードマウスに同所移植することによってモデル動物を作成するという同一の技術分野に属するものであり,その技術分野において,本件出願の優先権主張日当時,転移過程を再現できるヒトモデル動物を作製することは共通の技術課題とされていたこと,2)その技術課題に直接関するヌードマウスに肺転移が認められたとする部分について,乙14は乙27を参照文献として引用していることに照らすならば,乙14及び乙27に接した当業者であれば,乙14発明に乙27に記載された知見を適用して本訴マウスの構成とすることは,容易であるものと認められる。
キ 小括
以上のとおりであるから,本訴マウスは,本件出願の優先権主張日当時における公知技術から容易に推考できたものであり,均等の第4要件を満たさない。
◆判決本文
均等侵害も第4,第5要件を満足しないとして、否定されました。
控訴人は,拒絶査定不服審判の請求の理由として,「切削の対象が正方形または長方形の半導体ウェーハであること…が関連しあって,…独特の作用効果を奏するものである。仮に,切削対象が不定型なワークであるとすると,…」と記載し(乙8の17),その後,本件発明に係る特許出願は,特許査定された(乙8の19)。(ウ) 上記(ア)認定の本件明細書の記載に照らせば,控訴人は,被加工物すなわち切削対象物として半導体ウェーハの外,フェライト等が存在することを想起し,半導体ウェーハ以外の切削対象物を包含した上位概念により特許請求の範囲を記載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明の特許請求の範囲には,あえてこれを「半導体ウェーハ」に限定する記載をしたものということができる。また,上記(イ)認定の出願経緯に照らしても,控訴人は,圧電基板等の切削方法が開示されている引用発明1(乙9)との関係で,本件発明の切削対象物が「正方形または長方形の半導体ウェーハ」であることを相違点として強調し,しかも,切削対象物を半導体ウェーハに限定しない当初の請求項1を削除するなどして,本件発明においては意識的に「半導体ウェーハ」に限定したと評価することができる。このように,当業者であれば,当初から「半導体ウェーハ」以外の切削対象物を包含した上位概念により特許請求の範囲を記載することが容易にできたにもかかわらず,控訴人は,切削対象物を「半導体ウェーハ」に限定しこれのみを対象として特許出願し,切削対象物を半導体ウェーハに限定しない当初の請求項1を削除するなどしたものであるから,外形的には「半導体ウェーハ」以外の切削対象物を意識的に除外したものと解されてもやむを得ないものといわざるを得ない。(エ) そうすると,被控訴人方法は,均等侵害の要件のうち,少なくとも,前記5の要件を欠くことが明らかである。ウ均等侵害の要件4についてまた,仮に,被控訴人方法が「半導体ウェーハ」以外の本件発明の構成要件を充足するとすると,後記2(1)で判示するのと同様に,被控訴人方法も,引用発明1から容易に推考することができるというべきであるから,均等侵害の要件のうち,前記4の要件も欠くことに帰する
◆平成20(ネ)10068 特許権侵害差止控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年08月25日 知的財産高等裁判所
関連事件はこちらです
◆平成21(行ケ)10046