2016.07. 5
平成28(ネ)10017 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日 知的財産高等裁判所 知的財産高等裁判所
第2,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
ところで,商品の基礎情報である価格等は変わる場合があるところ,顧客
の注文前に商品の基礎情報が更新された場合,Web−POSサーバ・システムが
有する情報は,更新された後の商品情報のみであるから,Web−POSサーバ・
システムは,顧客が注文した商品の価格等を把握することができない(乙20)。
また,Cookieを用いたWeb技術は,サーバ側で識別情報としてテキスト・
データをWebブラウザごとに割り当て,更に,そのテキスト・データをWebブ
ラウザの情報と対応付けて管理することにより,Webサーバ側において,HTT
Pリクエストの送信元を識別等するというものにとどまる(甲25)。よって,W
eb−POSサーバ・システムは,Cookie情報を受信しても,顧客が注文し
た商品の価格等を把握することはできない。
そして,前記(ア)のとおり,本件ECサイトの管理運営システム内のサーバは,
顧客が注文した商品の価格等を把握するために,顧客のコンピュータからリクエス
ト情報とともに受信したCookie情報をもとに,顧客のコンピュータに表示さ\nれた「レジ」画面情報の原本に当たる情報を同サーバから呼び出すという制御方法
を追加で採用することにより,顧客が注文した商品の価格等を把握するに至ってい
るものである。
(ウ) したがって,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する\n構成において,Web−POSサーバ・システムがCookie情報等は取得する\nものの,注文された商品に係る商品基礎情報を取得しないという本件ECサイトに
おける構成を採用した場合には,本件発明のように,Web−POSサーバ・シス\nテムは,注文時点における商品ごとの価格などが含まれた基礎情報をリアルタイム
に管理することができないというべきである。
エ 小括
よって,本件ECサイトの制御方法,すなわち,オーダ操作が行われた際に,W
eb−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される
情報に,注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに,Cookie情報等を含
めるという方法では,本件発明と同一の作用効果を奏することができず,本件発明
の目的を達成することはできない。
したがって,均等の第2要件の充足は,これを認めることができない。
・・・・
前記1(2)ウのとおり,控訴人は,本件発明は,引用文献1に記載された発明に
基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないとの拒絶理由通知に対して,本件意見書を提
出したものである。
そして,前記1(2)ウ及びエのとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文
献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないとい
う点との相違を明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報
等を含んだ商品ごとの情報である旨繰り返し説明したものである。
そうすると,控訴人は,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関\nする具体的な構成において,Web−POSサーバ・システムが取得する情報に,\n商品基礎情報を含めない構成については,本件発明の技術的範囲に属しないことを\n承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価す
ることができる。
そして,本件ECサイトの制御方法において,管理運営システムにあるサーバが
取得する情報には商品基礎情報は含まれていないから,同制御方法は,本件発明の
特許出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものということが
できる。
したがって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
ウ 控訴人の主張について
これに対し,控訴人は,本件意見書において,POS管理を実現できる複数の構\n成の中から意識的にある構成を選択したり,ある構\成を排除したりしたものではな
いと主張する。しかし,上記のとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を
明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報等を含んだ商品ご
との情報である旨繰り返し説明していたものである。そうすると,控訴人は,本件
意見書において,本件発明のうち,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御\n過程に関する具体的な構成については,Web−POSサーバ・システムが取得す\nる情報には必ず商品基礎情報を含めるという構成を,意識的に選択したことは明ら\nかであるといえ,控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第34145号
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2016.07. 5
平成28(ネ)10007 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
第1,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
前記イのとおり,控訴人は,本件特許の出願時,座席を連続して揺動させること
が可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するもの
について,旧請求項1においては,座席支持機構を特段限定せず,旧請求項2にお\nいては,座席支持機構をロッド2点支持方式に限定し,旧請求項3においては,座\n席支持機構を,座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能\な
スライド手段を設けたことを特徴とする」ものに限定していたものである。そして,
控訴人は,本件補正により,旧請求項1を,本件特許の特許請求の範囲から削除し,
その範囲を旧請求項2及び旧請求項3に限定したものである。
このように,控訴人は,本件補正において,座席を連続して揺動させることが可
能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するものにつ
いて,拒絶理由通知に対応して,座席支持機構を特段限定していない旧請求項1を\n削除し,座席支持機構にロッド2点支持方式を採用する旧請求項2(本件発明)及\nび座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能なスライド手段\nを設けたことを特徴とする」方式を採用する旧請求項3に限定したものである。そ
して,本件発明の出願時には既に,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児\n用の椅子等の座席支持機構として,コロと湾曲レールを利用した方式が存在するこ\nとは周知であり(乙3〜5),コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機
構は,上記のとおり削除された旧請求項1に係る座席支持機構\の範囲内に客観的に
含まれるものである。
したがって,控訴人は,コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機構に\nついても,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそ
のように解されるような行動をとったものと評価することができる。
よって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,本件特許の出願当時,動力機構としてソ\レノイドを用い,座席支持機
構としてコロと湾曲レールを利用するという各構\成を組み合わせた乳幼児用の椅子
等は存在せず,また,動力機構としてソ\レノイドを用いることから生じる課題も公
知ではなかったから,本件特許の特許請求の範囲に,座席支持機構としてコロと湾\n曲レールを利用する方式も含めることは容易ではなく,さらに,拒絶理由を回避す
るために,座席支持機構についてロッドを利用した方式に限定したものでもないと\n主張する。
しかし,控訴人が,本件補正において,ロッド2点支持方式等を除く方式に係る
座席支持機構を包括的に削除したとの事実の評価は,客観的に判断されるべきもの\nである。
そうすると,このような控訴人の本件補正時における具体的な認識や本件補正の
目的は,均等の第5要件の充足に関する結論を左右するものではない。
(4) まとめ
よって,均等のその余の要件の成否について検討するまでもなく,各被告製品は,
均等の第1要件及び第5要件を充足しないから,各被告製品が本件発明と均等なも
のとしてその技術的範囲に属するということはできない。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第25196号
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2016.05. 1
平成27(ネ)10127 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年4月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
均等の第5要件で侵害なしとした一審判断が維持されました。
前記(2)の認定事実によれば,第1手続補正前の時点では,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」については,「Web−POSサーバ・システム」で行われるのか,あるいは,「Web−POSクライアント装置」で行われるのかを含め,発明特定事項としては何ら規定されていなかったが,控訴人は,第1手続補正によって,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」について,「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後にした第2手続補正において,特許請求の範囲を本件請求項1の構\成要件F4のとおり補正し,この第2手続補正に基づく特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)について,特許査定を受けたものであるということができる。そして,第2手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web−POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web−POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web−POSサーバ・システム」で行われる構\成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web−POSクライアント装置」で行われる構\成に限定して特許査定を受けたものということができる。上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。\n
◆判決本文
◆一審はこちら。平成26(ワ)27277
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2016.03.26
平成27(ネ)10014 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁の大合議判決です。争点は製法特許についての均等主張です。知財高裁は、均等を認めた1審判決を維持しました。第5要件の特段の事情について、出願時に容易にきさいできたにもかかわらず記載しなかった場合に、原則として、第5要件には当たらないと判断しました。
この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,\n出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,\nしたがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとして\nも,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載し\nなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできな
い。
なぜなら,1)上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載さ
れた構成以外の構\成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質\n的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,
出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出
願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許
さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとす
ることとなる。また,2)出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示
した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきもので
あることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条
6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細
書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先
願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを
作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限ら
れた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲\nとこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される
場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者
は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特
許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載か
ら容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理
は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行
使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,
奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会
正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記
に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到す\nることができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外と
することは相当ではない。
(イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の
範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構\成中の異なる部分に代替する
ものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出
願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができる\nときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構\成による
発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しな\nかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記
載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,\n当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的\nにそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような
理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反し
て当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理\nに照らして許されないからである。
イ 控訴人らの主張について
(ア) 控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表\n現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの
信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記の
とおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であって
も,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者\nが容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁\n反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限
られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確で
あることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはな
り得ないから,控訴人らの主張は理由がない。
◆判決本文
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2016.03.14
平成27(ネ)10104 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審で均等侵害を主張しましたが、第1要件、第5要件を満たしていないとして、否定されました。
ア 均等侵害の第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成と相手方が製造等をする製品又は用いる方法との異なる部分が特許発明の本質的部分でないことであ\nる。そして,特許発明における本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部\n分であると解すべきである。
イ 本件各発明は,前記1(4)イのとおり,HMG−CoA還元酵素阻害剤として
高脂血症の治療に有用な,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題
とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコ
ントロールすることでその安定性が格段に向上すること及び結晶形態AないしCの
中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというもので
ある。
そうすると,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶
性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とす
る本件各発明において,特定の結晶形態をとることが,上記課題の特徴的な解決手
段であるといえる。
そして,本件各明細書には,結晶形態AないしCの3種類の結晶形態は,水分が
同等で結晶形態が異なる形態であり,結晶形態B及びCは,「いずれも結晶形態A
に特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在し
ないことから,結晶多形であることが明らかにされる。」(本件明細書1【001
4】,本件明細書2【0015】)とあるように,CuKα放射線を使用して測定
した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存在する3本のピークの回折角が存在
しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されているの
みで,結晶形態B及びCに係る回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図
を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切なく,他方で,結晶形態A
については,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折パターンとして,別
紙本件明細書1図表目録2記載のとおりの数値が記載され,同目録3記載の【図1】の記載があるのみで,それ以上の特定はされておらず,結晶形態Aに係る回折角に\nついて,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一
部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載も一切
存しない。
以上によれば,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各明細書において,本件各発明の課題の特徴的な解決\n手段である特定の結晶形態を,他の結晶形態,すなわち本件各発明の課題の解決手
段とはなり得ない結晶形態と画する唯一の構成として開示されたものであるということができる。\nしたがって,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各発明の課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核\nをなす特徴的部分であるというべきである。
ウ そうすると,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩
における15本のピークの回折角であるとする数値は,前記1(5)のとおり,原判決
別紙物件目録(1)記載のとおりであり,控訴人の特定する数値によったとしても,1
5本の全てが構成要件C・C’の回折角の数値と相違するのであるから,被控訴人製品は,本件各発明と課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的\n部分において相違していることになる。
以上によれば,被控訴人製品は,均等侵害の第1要件を充足しない。
(3) 均等侵害の第5要件について
ア 均等侵害の第5要件は,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が特許発
明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな
どの特段の事情がないことである。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通
知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相\n当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過においても,拒絶理由通知を受け,構\成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入する平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の
限定的減縮に相当するものであることを表明した。控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ\nーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された
結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対
して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本
件発明1の結晶を特定したというほかない。
そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に
含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す
ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし
いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係
る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願
当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15
本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。
以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明
の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると
解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明\nの特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。
したがって,被控訴人製品は,均等侵害の第5要件を充足しない。
◆判決本文
◆一審はこちらです。平成26(ワ)3344等
◆関連事件です。平成27(ネ)10108
◆この事件の一審はこちらです。平成26(ワ)688
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2016.02.25
平成27(ネ)10080 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年2月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
均等侵害も第5要件満たしていないとして、否定されました。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通
知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11\n月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相
当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過におい\nても,拒絶理由通知を受け,構成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入\nする平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の
限定的減縮に相当するものであることを表明した。\n控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ
ーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された
結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対
して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本
件発明1の結晶を特定したというほかない。
そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し, 特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に
含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す
ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし
いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係
る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願
当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15
本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。
以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明
の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると
解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一\n部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明
の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。
◆判決本文
◆平成27(行ケ)10081 こちらは、本件特許発明についての無効審判の取消訴訟です。この事件では、特許無効とした判断が取り消されていますが、上記事件ではイ号は非侵害と判断されています。
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