2020.08.17
平成30(ワ)31428 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月30日 東京地方裁判所
JR東海に対する侵害事件です。原告は「座席管理システム」(3995133号)の均等侵害を主張しましたが、第1要件、第2要件を満たさないとして、否定されました。
(3)ア
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請
求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する\n特徴的部分であり,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明
の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲
の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部\n分が何であるかを確定することによって認定される(知的財産高等裁判所平
成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)。
ここで,本件明細書をみると,従来の技術においては,券情報と発券情報
の2つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送していたため情報量が2倍に
なり通信回線の負担が2倍になっていた。本件発明は,このような従来の技
術と異なり,「ホストコンピュータ」において,券情報と発券情報という2つ
の情報に基づいて1つの座席表示情報を作成するものであり,それによって,\n端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担が軽減されるとい
う効果を奏するものである(【0002】〜【0007】,【0020】)。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らせば,本件発明に
おいて,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であ\nる本質的部分は,「ホストコンピュータ」が券情報と発券情報との2つの情
報に基づいて1つの「座席表示情報」を作成する作成手段を有し,そのよう\nにして作成された「座席表示情報」が「ホストコンピュータ」から端末機に\n伝送される点にあるといえる。
被告システムにおいては,券情報と発券情報との2つの情報に基づいて1
つの情報が作成されるサーバーはなく,したがって,それらの2つの情報に
基づいて作成された1つの情報を端末機に伝送するサーバーもない。そうす
ると,本件発明の本質的部分において,本件発明の構成と被告システムの構\
成は異なる。したがって,被告システムが均等侵害の第1要件を充足するこ
とはない。
また,被告システムは,端末機に対して券情報と発券情報という2つの情
報に基づいて作成された1つの情報が伝送されるものではないから,券情報
と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回線の負
担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するものではない。したがって,
本件発明と同一の作用効果を奏するものではなく,第2要件を満たさない。
イ 原告は,第1要件について,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成\nと被告システムの構成の異なる部分は,サーバーと通信回線の個数に関する\n相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない旨主張す
る。
しかし,上記アのとおり,券情報と発券情報とに基づく情報が作成され,
そのようにして作成された情報が伝送されるサーバーがあることは,均等侵
害の第1要件にいう本件発明の本質的部分であるといえ,被告システムは,
その本質的部分において,本件発明と異なる。
また,原告は,本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示され\nる各指定座席の利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車
掌が目視で確認できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に
座っている乗客に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるよ
うにしたものであり,これにより車内改札の省略化を図るというものであり,
被告システムの作用効果と同じである旨主張する。
しかし,前記3(1)のとおり,本件明細書の記載に照らせば,従来技術と比較した本件発明の効果は,券情報と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回
線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するところにある。したが
って,被告システムが本件発明と同じ作用効果を有するとはいえない。
(4)上記(3)のとおり,被告システムは,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要
件を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明\nの技術的範囲に属するものであるということはできない。
◆判決本文
本件特許の訂正審判についての審決取消訴訟事件です。
◆平成28(行ケ)10069
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2020.08.14
平成30(ワ)4851 特許権侵害差止等請求事件 特許権 令和2年5月28日 大阪地方裁判所
一部のイ号は、記載不備の拒絶に対する補正が均等の第5要件を満たさないとされましたが、一部のイ号は間接侵害が認定されました。
本件拒絶理由通知記載の拒絶理由は明確性要件違反であり,具体的には,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記載につき,「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」こと,「「第2油路」が具体的に想定できない」こと及び「「流量調整弁」が具体的に想定できない」ことが挙げられている。換言すれば,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載となっていることによって新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由は指摘されていないことから,本件第2補正は,こうした無効理由を回避するためにされたものではない。また,明確性要件違反の指摘においても,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載であるが故に不明確とされているわけでもない。
もっとも,上記拒絶理由のうち「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」とは,より具体的には,油圧シリンダの具体的な規定がなく,その油室の数が不明であり,そのために,第1油路,第2油路及び流量調整弁の機能ないし役割が不明であるといった問題点を指摘するものである。これは,当業者にとって,クランプ装置のタイプを含む装置の前提的な構\成の不明確さを指摘する趣旨のものと理解されると思われる。
(オ) 原告は,本件第2補正の際に提出した意見書(乙2の2)で,請求項1
に係る補正につき,本件拒絶理由通知での審査官の指摘に対して,「補正後の請求項
1では,「前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダ」と規定し
ております。…補正後の請求項1に係る本願発明において,「第1油路」及び「第2
油路」や,両流路の接続部にある「流量調整弁」が,何のために在って何をしてい
るのかという点については明確であると思料いたします。よって,ご指摘の記載不
備は解消し得たものと思料致します。」との補足説明をしている。
(カ) 以上の事情を踏まえて本件第1補正から本件第2補正に至る経緯を見る
と,客観的,外形的には,原告は,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記
載によれば,その構成はスイングクランプとリンククランプいずれのタイプのクラ\nンプ装置も含むものであることを認識しながら,本件拒絶理由通知を受けて行った
本件第2補正により,敢えて補正後の特許請求の範囲にリンククランプのタイプの
クランプ装置を含むものとして記載しなかった旨を表示したものと理解される。\nそうである以上,本件においては,本件第2補正においてリンククランプのタイ
プのクランプ装置が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特
段の事情が存する。
したがって,被告製品群4〜6は,本件発明との関係で,均等の第5要件を充足
しない。この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
ウ 原告の予備的主張について\n
原告は,予備的主張として,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載\nの「クランプ用の油圧シリンダ」は「アンクランプ用の油圧シリンダ」(本件第2補
正後の特許請求の範囲請求項3)を含まないとの理解を前提として,本件第2補正
後の特許請求の範囲請求項3は補正前の特許請求の範囲に含まれないものを手続補
正により追加したものであり,請求項3については意識的に除外されたものとはい
えないなどと主張する。
しかし,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載のクランプ装置は,「クラ
ンプ本体に進退可能に装着された出力ロッド」及び「出力ロッドを駆動するクラン\nプ用の油圧シリンダ」等を備えることは記載されているものの,「出力ロッド」が退
入側・進出側いずれに駆動することによってワークをクランプするものであるかを
うかがわせる記載はない(なお,この時点での請求項2〜4にも,クランプのタイ
プに関係する記載はない。)。このことと,従来技術としてはスイングクランプ及び
リンククランプの両タイプが挙げられていることに鑑みれば,本件特許に係る明細
書においては出願当初よりリンククランプのタイプのクランプ装置も除外されてい
ないといえることを併せ考えると,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1は,
スイングクランプのみならずリンククランプのタイプのクランプ装置をも含むもの
と理解される。本件第2補正後の特許請求の範囲請求項1において「クランプ用の
油圧シリンダ」とし,請求項3において「アンクランプ用の油圧シリンダ」とされ
たのは,本件拒絶理由通知を受けた対応として,クランプ装置の構成をより具体的\nに特定したことに伴うものと理解することができるから,本件第2補正の前後で
「クランプ用の油圧シリンダ」を異なる意味に解することはなお合理的である。
したがって,原告の予備的主張はその前提を欠くから,これを採用することはで\nきない。
エ 小括
以上より,均等侵害として,被告製品群4及び6は本件発明1の技術的範囲
に属するとはいえず,また,被告製品群5は本件発明3の技術的範囲に属するとは
いえない。そうである以上,被告らによる被告製品群4〜6の製造,販売等は,本
件特許権を侵害するものとはいえない。
したがって,被告製品群4〜6に係る原告の被告らに対する製造等の差止請求,
廃棄請求及び損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(被告製品群7及び8の製造,販売等に係る間接侵害の成否)につい
て
(1) 前記(第2の2(4)オ)のとおり,被告製品群7及び8は,被告製品群1〜
3のクランプに取り付けて使用される場合にクランプ装置の生産に用いるものであ
る。また,特許法101条2号の趣旨によれば,「発明による課題の解決に不可欠なも
の」とは,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決
されるような部品等,換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,
当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特
有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が,これに該当するものと解される。\n本件発明において,作動油の流量の微調整を容易かつ確実に可能とすることなど\nの課題を解決する直接的な手段となるものは,相対移動可能な弁体部を有する弁部\n材をその構成に含む「流量調整弁」である。このため,「流量調整弁」は,本件発明\nが新たに開示する特徴的技術手段における特徴的な部品等ということができる。被
告製品群7及び8(スピードコントロールバルブ)は,この「流量調整弁」に相当
するものであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101
条2号)に該当する。
これに対し,被告らは,被告製品群1及び3が本件発明1の構成要件1K及び1Xを
充足せず,被告製品群2が本件発明3の構成要件3K及び3Xを充足しないことから,
被告製品群7及び8は本件発明の課題の解決に不可欠なものではないと主張する。
しかし,前記1のとおり,被告製品群1〜3は本件発明の上記各構成要件を充足す\nる。そうである以上,この点に関する被告らの主張はその前提を欠き,採用できな
い。
(2) 被告らが,本件発明が特許発明であることを知っていたことについては,当
事者間に争いがない。
また,被告らは,被告製品群7を被告製品群1及び3の,被告製品群8を被告製
品群2のアクセサリとしてそれぞれ製造,販売していること(甲6,10,11,
乙9,10)に鑑みると,被告製品群7及び8が本件発明の実施品である被告製品
群1〜3に用いられることを知っていたことが認められる。
なお,被告製品群7及び8は,スイングクランプのほか,リンククランプ,リフ
トシリンダ,ワークサポートにも使用可能なものである(甲6,10,乙4,5,\n9,10)。
しかし,特許法101条2号の趣旨に鑑みれば,発明に係る特許権の侵害品「の
生産に用いる物…がその発明の実施に用いられること」とは,当該部品等の性質,
その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外
的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現
に存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容してい
ることを要し,またそれで足りると解される。
本件においては,後記6のとおり,被告製品群7及び8に属する製品がスイング
クランプと組み合わせて販売される割合が大きいことに鑑みると,これを購入等す
る者のうち例外的とはいえない範囲の者が被告製品群7及び8を特許権侵害に利用
する蓋然性が高い状況が現に存在するとともに,被告らはそのことを認識,認容し
ていたものといえる。そうである以上,上記事情は本件における間接侵害の成立を
妨げるものではない。
これに対し,被告らは,被告製品群7が本件発明1の実施に,被告製品群8が本
件発明3の実施にそれぞれ用いられることを認識していないなどと主張する。しか
し,被告らは,当然に被告製品群1〜3の構成を認識していると考えられるところ,\n被告製品群1〜3が本件特許権侵害を構成する以上,被告製品群7及び8について\nも,本件発明の実施に用いられるものであることを知っていたといえる。この点に
関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括
以上より,被告らが被告製品群7及び8を製造,販売する行為は,本件特許権
の間接侵害(特許法101条2号)を構成する。\n
◆判決本文
関連の審決取消事件です。
◆平成29(行ケ)10076
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2020.08.14
令和1(ネ)10059 特許権 民事訴訟 令和2年3月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害を否定しました。知財高裁(3部)も同様の判断です。ただ、本質的部分について、引用発明と対比して判断しています。
「ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発
明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備
えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと解される。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特
許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲
の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何\nであるかを確定することによって認定されるべきである。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているとこ
ろが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明細書に記載され\nていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。\n
イ 本件特許出願の審査において,特許庁は,本件各発明は,平成15年 8 月
22日に公開された特開2003−234608号公報(甲30。以下「引用文献
1」という。)等の文献に基づき,当業者が容易に発明し得た旨の拒絶理由通知書
を送付した(乙6)ことから,引用文献1に記載された技術について検討する。
・・・
まず,引用発明1と比較して,本件発明1の本質的部分を検討する。
(ア) 本件発明1の内容は,前記1(2)で判示したとおりであり,その技術
的思想を構成する部分は,仮固定用ホルダの構\成を,可撓性樹脂で成形し,前記給
電用筒状部の外壁面に沿って下方に延びる複数のメインアーム部と,同メインアー
ム部に対して下端部にて繋がったサブアーム部とを有し,同サブアーム部の下端部
は,同サブアーム部が外側に拡がるための支点となり,同サブアーム部の上端部は
前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,かつ同係止爪
は上端に向かって肉厚が増加しているものとし,同構成を採用することにより,ア\nンテナ挿入時には,メインアーム部及びサブアーム部の両部材が内側に動くため,
より小さい挿入力で取付孔への挿入が可能となり,また,抜け方向に荷重が加わっ\nたときは,車体パネルの内側面に係止爪の上端が当接し,サブアーム部が外側に拡
がるため,抜け力を増大させることができ,仮固定用ホルダの挿入力は小さいまま
で,抜け力を大きくすることを可能としたことである。\n一方,本件特許の出願前に公開された引用文献1に記載された引用発明1の内容
は,前記イ(イ)で判示したとおり,固定板付き基板ブラケット9の構成を,円筒状\n突出部の外周面に沿って下方に伸びる複数の側板4を有し,側板4にコ字状の切溝
4eを設け,切溝4eに囲まれた矩形状のバネ片4aの上端が側板4から外側に向
かって離れるものとしたものであり,このうち,側板4は本件発明1のメインアー
ム部に,バネ片4aは本件発明1のサブアーム部にそれぞれ相当するものであり,
アンテナの挿入時には,側板4及びバネ片4aが内側に撓み,抜け方向に荷重が加
わったときは,ルーフパネル20にバネ片4aの上端部が当接し,バネ片4aが外
側に撓んで仮止めすることになると認められる。
(イ) そこで,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分を検討すると,引用発明1は,抜け方向に荷重が加わった\nときに,サブアーム部に相当するバネ片4a全体が撓むため,十分な抜け力を確保\nできなかったことから,本件発明1は,仮固定用ホルダを可撓性樹脂で成形し,サ
ブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとするこ
とにより,抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部の下端部を回転の支点
として,サブアーム部が外側に拡がるようにし,同下端部でサブアーム部の回転を
受け止めることにより,抜け力を増加させたものと認められる。そして,本件発明
1が,サブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるもの
としたのは,上記のとおりサブアーム部の強度を増すためであると認められる。
以上からすると,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分とは,可撓性樹脂で成形されたサブアーム部の上端部は上端\nに向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとし,これにより,抜け方向に荷重
が加わったときに,サブアーム部は,下端部を支点として回転するように外側に拡
がり,下端部において,サブアーム部の上記回転を受け止めて,抜けを防止すると
いう部分であると認められる。そして,この部分が本件発明1の本質的部分に当た
ることになる。
(ウ) 控訴人は,本件発明6の本質的部分は,「アンテナに抜け方向の荷重
が加わった際に,下端部を支点とした外向きの回転力がサブアーム部に発生するこ
とにより,サブアーム部が内側に向かって変位することが防止されるため,サブ
アーム部に設けられた係止爪が車体パネルから外れて抜けてしまう(すっぽ抜ける)
ことがない」という構成にあると主張する。\nしかし,控訴人が主張する上記の構成は,引用発明1にも見られるから,同構\成
が本件発明1や本件発明6の本質的部分ということはできない。
エ 次に,被控訴人製品が,前記ウで認定した本件発明1の本質的部分を共
通に備えているかについて検討する。
被控訴人製品においては,サブアーム部は,可撓性樹脂で成形されており,車体
パネルに係止するための爪部を備えるが,同爪部は,サブアーム部の中間付近に位
置している(乙1,2,13)ため,その上部のサブアーム部であるフック部が,
抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部がその下端部を支点として外側に
拡がることを阻止し,そのため,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として
外側に拡がることはなく,したがって,同下端部で,サブアーム部の回転を受け止
めることによって抜け力を増大させるものではない。
そうすると,被控訴人製品は,本件発明1の本質的部分を備えているとは認めら
れない。
オ 控訴人は,被控訴人製品において,抜け方向の荷重が加わると,サブ
アーム部の下端部を支点とした外向きの回転力が発生することにより,サブアーム
部に設けられた爪部が内向きに変位して車体パネルから外れるという事象が防止さ
れているから,被控訴人製品は,本件発明6の本質的部分を備えていると主張する。
しかし,前記エのとおり,被控訴人製品においては,抜け方向の荷重が加わり,
サブアーム部が外側に拡がろうとしても,同動きはフック部によって阻止されるた
め,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として外側に拡がることはないから,
被控訴人製品は,本件発明1や本件発明6の本質的部分を備えておらず,控訴人の
上記主張は理由がない。
カ したがって,本件発明1と被控訴人製品との前記の相違点は,本件発明
の本質的部分ではないということはできないから,被控訴人製品は,均等の第1要
件を充足しない。」
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)13400
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2020.07.13
令和1(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁でも本質的要件(第1要件)が欠落しているので、均等侵害は否定されました。
当裁判所も,電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の
電子メールアドレスに分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従
って,電子メールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従
って電子メールの送信制御を行うとの構成は,本件発明1における本質的部分に該当し,同様に,複数の送信先が設定された電子メールから電子メール\nアドレス単位で個別メールを生成することは,本件発明2における本質的部
分に該当するところ,被告装置はドメインごとに分割するものであるため,
かかる構成を有さず,均等の第1要件を充足しないと判断する。その理由は,後記(2)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判
断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の3及び6(原判決72
頁20行目から74頁25行目まで,77頁25行目から78頁13行目)
記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 控訴人は,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が,
個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決
をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位
でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を
個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定
及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制御を行うこ
とが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分であると主張する。\nしかし,本件明細書等1には,「特許文献1に記載の技術においては,
送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断
することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メール
に対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ\nととなる。」(段落【0004】),「本発明は上述の問題点に鑑みなさ
れたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電\n子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落
【0005】)と記載されている。
「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味するこ
とは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は,
誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば,その他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消し\nされることとなることを課題として認識し,その課題に鑑みて,電子メ
ールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく
電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とするものと解さ
れる。
このように,本件明細書等1には,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされてしま\nうという従来技術である特許文献1の課題に対し,電子メールアドレス
に応じた電子メールの送出制御を行うことによって課題を解決しようと
することが記載されているのであるから,そのために必須の構成である電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割\nする構成が,本件発明1の本質的部分に含まれないとはいえない。
イ 控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術では,本来保留される必要の
ない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留さ
れてしまうことであって,それに比べれば,ドメインに応じた送出制御
を行った場合であっても,少なくとも一部の電子メールアドレスに対す
る電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じ
た電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出さ
せる」効果を得ることができる旨主張する。
しかし,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが\n保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】(1))とは,
本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレ
ス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するの
が自然である。
また,前記アのとおり,「効率よく電子メールを送出させる」ことは,
電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされ
るものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制
御によれば,保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送
信は全てなされるのであるから,本件発明の効果も同様と解すべきであ
って,保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電
子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることで
は足りないというべきである。
ウ 控訴人は,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載
された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定
し,当該課題から直接的に本質的部分を認定することは,均等侵害の成
否の場面において,文言侵害が否定されることを理由に,均等侵害の成
立が直ちに否定され,均等侵害がその機能を果たさない結果となることから,かかる結果が著しく妥当性を欠く旨主張する。\nしかし,本質的部分の認定は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基
づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許
発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(大合議判決)。よって,本件明細書等1の記載に基\nづいて,本件発明1が,従来技術である特許文献1のどのような点を課
題として把握し,どのような解決手段を提示し,どのような効果をもた
らすものなのかを把握することは,当然なされるべきことであるから,
控訴人の主張は理由がない。
エ 被告装置は,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレ
スごとに分割するという,本件発明1の本質的部分に含まれる構成を有していないから,均等の第1要件を充足しない。\n
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)44181
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2020.03.25
平成30(ワ)18573 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月4日 東京地方裁判所
第1要件、第5要件を満たさないとして均等も否定されました。
3 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は,本件無線ユニットの信号伝送方法が,構成要件1Cにおける「2〜\n3cmの距離」との構成を充足しないとしても,この相違点は本件各発明に係\nる方法と均等なものということができるので,均等侵害が成立すると主張する
ので,以下検討する。
(1) 第1要件(非本質的部分)について
ア 前記判示のとおり,本件各発明は,埋設した測定装置と地表の測定装置\nを接続する信号線等のケーブルが長くなると,誘導電圧の影響によって測
定結果が乱れ,また,落雷によって生じる高い誘導電圧によって埋設した
測定装置の電子回路が故障するなどの課題を解決するため,測定装置近傍
に2〜3cmの距離でカップリングさせたアンテナを設け,電波を介して
同軸ケーブルで信号を伝送する構成を採ることにより,上記課題の解決を\n図るものであると認められる。
そして,カップリングさせたアンテナの距離については,その距離が大
きくなりすぎると十分な電界強度が確保できず,信号の伝送に支障が生じ\nる可能性がある一方(本件明細書等の【発明の実施の形態】),その距離\nが小さくなりすぎると,落雷に伴う誘導電圧から測定装置内部の電子回路
を保護する能力が低下することから,上記課題の解決が困難になるものと\n考えられる。本件各発明において,カップリングさせたアンテナ間の距離
を「2〜3cm」としたのは,この距離が相反する上記の要請をいずれも
満たすからであると解するのが相当である。
このことは,前記前提事実(5)記載のとおり,カップリングの距離を
2〜3cmとすることによる臨界的意義は認められないから,当業者
が行う単なる設計事項にすぎないとした平成17年2月2日付け拒絶
理由通知書(乙15の4)に対し,原告が,同年3月16日付け意見書
(乙15の6)において,「ボアホール内で使用する歪計や傾斜計は,
直径約10cm程度で,気密性が高い空域に収納しなければなりませ
ん.…多数の回路を収容する必要があり,アンテナ部分の空域は小さく
することが望まれます.しかし,測定装置を小さくする目的で,アンテ
ナ部分をあまり密結合構造にすると,本来の目的である落雷に伴う誘\n導電圧から,測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下します.こ\nれらの相反する条件を参酌し,2〜3cm離すことが最も適した距離
であるといたしました.」と説明していることからも明らかである。
以上の事実によれば,カップリングされたアンテナ間の距離は,上記の
相反する2つの要請を調和させ,本件各発明の効果を奏する上で本質的な
部分というべきである。
イ これに対し,原告は,本件明細書等の段落【発明の実施の形態】に「カ
ップリングの距離を短くすれば電界強度はより大きくなって,信号の伝送
距離を長くできる」との記載があり,これはカップリングの距離を2〜3
cmよりも短くすることを示唆しているから,上記相違点は,本件各発明
の本質的部分に当たらないと主張する。
しかし,原告の指摘する上記記載は,カップリングしたアンテナ間の距
離を2〜3cmまで短くすることの技術的意義を説明する記載にすぎず,
本件各発明において,上記距離を2cmより更に短くすると,平成17年
3月16日付け意見書(乙15の6)にも記載されているとおり,落雷に
伴う誘導電圧から測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下するので\nあるから,本件明細書等の上記記載が,上記距離を2cmより更に短くす
ることを示唆しているということはできない。
ウ したがって,本件無線ユニットの信号伝送方法は,均等の第1要件を充
足しない。
・・・
(2) 第5要件について
前記前提事実(5)記載のとおり,原告は,平成16年11月11日付け手続
補正書(乙15の2)により,「2〜3cmの距離で」との構成を付加し,\nその理由について,平成17年3月16日付け意見書において,「ボアホー
ル内で使用する歪計や傾斜計は,直径約10cm程度で,気密性が高い空域
に収納しなければなりません.…多数の回路を収容する必要があり,アンテ
ナ部分の空域は小さくすることが望まれます.しかし,測定装置を小さくす
る目的で,アンテナ部分をあまり密結合構造にすると,本来の目的である落\n雷に伴う誘導電圧から,測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下しま\nす.これらの相反する条件を参酌し,2〜3cm離すことが最も適した距離
であるといたしました.」と説明していることによれば,原告が,カップリ
ングさせたアンテナ間の距離を2〜3cmに限定し,それ以外の距離を意識
的に除外したものというべきである。
したがって,本件無線ユニットの信号伝送方法は,均等の第5要件を充足
しない。
◆判決本文
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2020.03. 9
令和1(ネ)10042 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。
該当特許の公報は以下です。
◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。
3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」
に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第
1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に,
構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと
認められる。
しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について
も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件
明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債
や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計
算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」)
を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう
にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\
成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに
より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一
目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す
ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0
005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技
術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分
は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録
・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資
産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら
れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という
形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)
の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整
備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘
定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ
れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将
来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採
用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民
の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ
とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと
にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及
び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・
記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま
た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確
にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか
を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ
とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは
できない。
したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質
的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計
算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少
(C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその
貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち
税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の
金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3)
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支
計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ
ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負
担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。
しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相
当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る
発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発
明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい
うことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも
のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する
上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置
(C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行
上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され
たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額,
すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発
明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支
尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので
はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて
おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本
質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政
コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて
計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定
(行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される
行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ
ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社
会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益
外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損
益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの
意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移
転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出)
であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に
おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な
ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付
にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ
るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)10130
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2020.01.24
平成30(ワ)13400 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 東京地方裁判所
文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害が否定されました。
原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を
利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し
ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて
いると主張する。
しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ
いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方,
抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強
くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす
るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の
段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発
明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。
そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と,
メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が
サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向
かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔
への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が
加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を
可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003
6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設
けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め
られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0.
3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪
部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。
そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙
5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し,
被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ
り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。
また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告
製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用
いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり,
フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい
ことが認められる。
前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め
られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は,
本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ
の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの
と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは
ないということができる。
なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に
メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部
からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか
がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル
(1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば
らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概
ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること
に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう
ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題
をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓
んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ
ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす
ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。
そうすると,本件発明1と被告製品はその課題解決のための特徴的な構\n成において相違し,本件発明1と被告製品との相違点は,この課題解決に
必要な構成に関するものであるから,同相違点は本件発明1の本質的部分\nに関するものであるということができる。
オ したがって,本件発明1と被告製品の相違点は,本件発明1の本質的部
分に関するものではないということはできないので,被告製品は第1要件
を充足しない。
◆判決本文
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