2024.12.11
令和6(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月29日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
控訴審で、均等主張も追加しましたが、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害については第1要件、第2要件具備しないと判断されました。
これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記
2(2)のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため
庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい
るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、\n95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点
検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる
と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決
められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ
り(段落【0006】)、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課
題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、
本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、「庇板の開\n放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A\n3)、「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド
面となっている縦板部」(構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への\n突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造\nの複雑化を招かないものとした(段落【0014】)。さらに、前縁板の一
部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、「縦板部の下部内面に\nは、全幅にわたる凹部が形成され」(構成要件C1)、「凹部は開口部分の上\n部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」
(構成要件C2)、「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ\n突出して」(構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側\nに開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が
付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ\nて(段落【0014】)、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい
える。
以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題\nを解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁\n板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない\nしC3の構成を備えていることにあると認められるから、構\成要件B2は本件発明の本質的部分であると認められる。
そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、\n補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)の説示及び前記2
のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに
なる。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、
均等の第1要件を満たさない。
控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ
る構成が本件発明の本質的部分であり、構\成要件B2の被控訴人製品と異
なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本
件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ
とができない。
◆判決本文
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2024.12.11
令和6(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月29日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
均等主張も追加しましたが、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断されました。
これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記
2(2)のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため
庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい
るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、\n95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点
検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる
と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決
められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ
り(段落【0006】)、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課
題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、
本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、「庇板の開\n放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A\n3)、「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド
面となっている縦板部」(構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への\n突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造\nの複雑化を招かないものとした(段落【0014】)。さらに、前縁板の一
部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、「縦板部の下部内面に\nは、全幅にわたる凹部が形成され」(構成要件C1)、「凹部は開口部分の上\n部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」
(構成要件C2)、「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ\n突出して」(構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側\nに開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が
付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ\nて(段落【0014】)、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい
える。
以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題\nを解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁\n板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない\nしC3の構成を備えていることにあると認められるから、構\成要件B2は本件発明の本質的部分であると認められる。
そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、\n補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)の説示及び前記2
のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに
なる。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、
均等の第1要件を満たさない。
控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ
る構成が本件発明の本質的部分であり、構\成要件B2の被控訴人製品と異
なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本
件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ
とができない。
◆判決本文
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2024.11.19
令和5(ワ)70393 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しない、均等侵害も第2要件を満たさないと判断されました。
原告は、上記認定に係る本件明細書【0050】につき、「一般的に用
いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄
くすることができる」との一文は、「支柱」を主語とする記載であるから、
本件各発明は、短手方向の幅を薄くする必要がない場合には、円管又は角
筒管の支柱を排除するものではなく、「回動板状部材」には、角筒管も含
まれる旨主張する。
そこで検討するに、本件明細書【0050】には、「以上説明した仮設
防護柵1の効果を説明する。回動板4は板であり、短手方向に厚さを有し、
回動板4が定着板3,3の間に配置され、2つの回動軸により回動可能な\n構成であるので、ガードレール6と回動板4を倒した状態で、基礎架台2\nの上方に形成されたウェブ部22の短手方向の幅に収容することができ
る。ガードレール6と回動板4を起立した状態で、ボルト、ナットにより、
定着板3により回動板4を固定できる。一般的に用いられる円管又は角筒
管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。
仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去作
業の効率化を図ることができる。道路路肩、歩車道境界のみならず、上り
車線・下り車線を分離するためにも使用することができる。」と記載され
ている。
上記記載によれば、「一般的に用いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、
必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。」との一文は、板
である「回動板4」について説明する文脈に続くものであり、その直後に、
「仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去
作業の効率化を図ることができる。」という本件各発明の効果が記載され
ていることを踏まえても、上記一文の主語は、「回動板4」であると解するのが相当である。
仮に、原告の主張のように、「(円管又は角筒管を含む)支柱」を主語
にした場合には、本件各発明の効果を奏し得ない構成をも含むことになる\nから、本件明細書【0050】の効果に係る上記記載に矛盾する上、本件
各発明の課題を解決できない構成を含むことになるため、本件各発明の課\n題解決手段に照らし、相当であるとはいえない。そうすると、原告の主張
は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。
原告は、本件明細書【0032】に「回動板4の形状は矩形に限定され
ず、楕円、小判等の縦長形状等、適宜の形状を取り得る。」との記載があ
るほか、【0060】に「回動板4は中実板に限らず、中空板等、板から
構成される部材であれば、他の形態でもよい。」との記載があることから\nすると、中空の四角形に構成された角筒状の回動部材107も、上記「回\n動板状部材」に含まれる旨主張する。
しかしながら、原告引用に係る本件明細書【0032】には、かえって、
「回動板4は正面形状が矩形状で所定の厚さの存する薄板であり」と記載されていることからすると、上記明細書の記載は、「薄板」とはいえない
角筒状の回動部材107を含む趣旨ではないことは、明らかであるから、
原告主張は、その前提を欠く。また、【0060】についても、「中実板
に限らず、中空板等、板から構成される部材」という記載であるから、文\n字どおり、「中実板」、「中空板」その他の「板」の形状からなる部材を
意味するものと解するのが相当であり、前記認定に係る課題解決手段に照
らしても、上記記載は、「板」とはいえない角筒管を含む趣旨ではないこ
とは、明らかである。そうすると、原告の主張は、本件各発明の課題解決
手段を正解するものといえない。
その他に、原告は、技術説明会においても、本件各発明の課題は、基礎
架台の短手方向の厚みを薄くするというものではなく、基礎架台に起伏す
る部材が基礎架台に収納できるようにして設置・撤去の作業効率を上げる
ものである旨主張するものの、本件各発明の課題は、本件明細書【000
7】等の記載を参酌すれば、文字どおり、仮設用防護柵の起伏する部材の
幅を小さくすることであって、基礎架台の短手方向の厚みを薄くすること
にある。そうすると、その他の原告の主張を含め、原告の主張は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、被告製品は、本件各発明にいう「回動板状部材」(構成\n要件1Dないし1G及び2Dないし2H)を充足するものとはいえない。
(2) 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品の角筒状の回動部材107が、本件各発明の「回動板
状部材」を充足しないとしても、被告製品の角筒状の回動部材107は、本件
各発明の「回動板状部材」と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主
張する。
しかしながら、本件各発明の課題解決手段は、回動部材を板状にすることに
よって、基礎架台(H形鋼)の短手方向の厚みを薄くするものであることは、
上記において繰り返し説示したとおりである。そうすると、本件各発明の「回
動板状部材」は、本件各発明の課題解決手段そのものであるから、本件各発明
の本質的な部分ではないということはできず、また、これを、被告製品の角筒
状の回動部材107に置き換えると、本件各発明の課題を解決することはでき
ず、本件各発明と同一の作用効果を奏するものとはいえないことは、前記説示
に照らし、明らかである。
そうすると、被告製品は、本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と\n均等なものとはいえない。
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2024.11.18
令和4(ワ)11025等 特許権侵害差止等請求本訴事件、不当利得返還請求反訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月21日 大阪地方裁判所
特許権侵害について、構成要件を充足しない、均等についても第1、第2要件を満たさないとして、非侵害認定されました。
上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮\nすることを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート
からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ
トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ
ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され
たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ\nさせ、そこで捕捉するようにするというものである。
そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた
上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表\n裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混
ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件\n発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着
力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、\n多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構\成材料の数も減らす
ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書\n的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散
を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当\nである。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ
ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が
零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる
構造であるとは認められない。\n
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ
ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること\nができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通
気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構\成要件を充足
することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。\n
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する
ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力
を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために\n袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。\nそうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の
不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、\n本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを
置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも\n認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、
原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争
点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方
法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも
のとは認められないから、採用しない。
◆判決本文
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2024.10.28
令和4(ワ)70058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月18日 東京地方裁判所
特許権及び意匠権侵害事件です。原告は均等主張をしましたが、東京地裁は、本質的要件(第1要件)の判断において、明細書に公知文献を考慮して、特徴部分を認定するとともに、被告装置はかかる本質部分を満たさないとして、均等侵害を否定しました。意匠権についても非類似と判断しました。
(ウ) 前記(イ)によれば、本件特許の出願時において、グラップルバケット装
置において、グラップルした木材が長尺である場合、所定以上の長さを
有する木材をチェーンソー等の切断装置を用いて作業員が所定の長さに\n切断しなければならないとの課題については、甲27文献において開示
された従来技術によって解決することが可能であったから、本件明細書\nにおいて従来技術が解決できなかった課題として記載されているところ
は、出願時の従来技術に照らして客観的に不十分であると認められる。\nそうすると、本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分を認定するに当たり、甲27文献に記載されている技術
的事項も参酌することが許されるというべきである。
(エ) 前記(ウ)において検討したところによれば、本件特許の出願前に、甲2
7文献において、一方の側部に把持部、他方の側部に切断装置が装着さ
れているバケットを備えた枝切り走行装置が開示されていたと認められ
るから、本件発明と従来技術との相違は、当該切断装置の構成に係る部\n分にすぎず、グラップルした被グラップル材を切断できるようにしたグ
ラップルバケット装置であること自体ではないと認められる。そうする
と、従来技術と比較して本件発明の貢献の程度が大きいと評価すること
はできないから、本件発明の本質的部分については、これを上位概念化
したものとして認定することはできず、特許請求の範囲の記載とほぼ同
義のものとして認定されるというべきである。
したがって、前記(ア)及び(イ)に照らし、本件発明における従来技術に
見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、グラップル装置\nに設けられた切断装置について、バケットの側壁の外側あるいは内側の
一方側に位置してバケットの開口縁から離れた位置からバケットの側壁
に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁
側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの側壁に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの開口基端部に枢支された切断刃と、上記切断刃の回動基部に連結して上記切断刃を回動させる油圧シリンダとからなり、切断刃の切刃を、切断刃の回動中心と油圧シ
リンダの連結点を結ぶ線に対して切断刃の切断方向側にずれた位置に設
けるとともに、この切刃の切断方向への回動方向に対して後方へ円弧状
に反らせたとの構成、すなわち構\成要件C及びDに係る構成を採用する\nことによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾き
角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効
果を発揮できるようにしたことと認めるのが相当である。
イ 前記2のとおり、被告製品は構成要件D2を充足するとは認められない\nところ、前記アのとおり、本件発明の構成要件C及びDに係る構\成を採用
することによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾
き角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効
果を発揮できるようにしたことが本件発明の本質的部分であるから、被告
製品が本件発明の本質的部分を備えているとは認められず、本件発明と被
告製品とが異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとはいえない。
したがって、被告製品は第1要件を充足しない。
◆判決本文
以下に、イ号図面などがあります。
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2024.09.16
令和5(ネ)10101 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年6月18日 知的財産高等裁判所 (原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)24476
本人訴訟です。1審の非侵害が維持されました。控訴審では、均等主張もしましたが、第1要件を満たさないと判断されました。
オ 上記ウ及びエによれば、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題
として記載されている従来技術(特許文献1)は、出願時の従来技術に照
らして客観的に不十分であるから、乙3に記載されている技術的事項を参\n酌することが許されるというべきである。
そうすると、本件発明は、上記課題を解決するために「覚醒度合生体情
報取得部で取得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて前記三つの
発光手段の発光量の総和を略一定にしたままそれぞれの発光手段の発光
量比を変化させるための調節部」との構成を採用したものであるが、他方、\n乙3には、上記エのとおり、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人の覚醒
度合に関する生体情報に応じて複数(二つ)の発光手段の発光量の総和を
一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比を変化させるための調節
部」が開示されており、その相違は「三つの発光手段の発光量の総和」か
「複数(二つ)の発光手段の発光量の総和」かの差でしかない。
したがって、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいとはい
えず、本件発明の本質的部分は、特許請求の範囲に近接したものとなると
いうべきであり、具体的には、本件特許の課題を解決するために採用され
た構成が構\成要件C/Dであることから、「覚醒度合生体情報取得部で取
得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の
発光量比を変化させるための調節部」を有していることが本件発明の本質
的部分であると解するのが相当である。
これに対し、本件各照明装置は、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人
の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光
手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比
を変化させるための調節部」を有していないから、本件発明と本件各照明
装置とは本質的な部分において異なっているというべきである。
カ 上記アないしオによれば、本件各照明装置が本件発明の本質的部分を備
えているとはいえず、均等の第1要件を満たさない。
キ 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明は、ヒト(人)の覚醒度
合に応じて照度を略一定にしつつ色温度を変化させる点がその本質的部
分であると主張する。
しかし、上記オに説示したとおり、特許発明の貢献の程度は従来技術と
比較して大きいとはいえないから、控訴人が主張するようにこれを上位概
念化することはできないというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはできない。また、仮に、控訴人の主張するとおり、人の覚醒度合に応じて照度を略
一定にしつつ色温度を変化させる点が本件発明の本質的部分であると解
したとしても、本件各照明装置は、人の覚醒度合に応じて照度を略一定に
しつつ色温度を変化させる構成を有していないから、均等の第1要件を満\nたさないとの結論を左右しない。
すなわち、本件マットレス(1)は、当該マットレスを使用する人の睡眠の
状態を計測する機能を備えており、本件発明の構\成要件B(「人の覚醒度合
に関する生体情報を取得する覚醒度合生体情報取得部と、」)を充足するも
のであり、本件マットレス連携アプリは、本件マットレス(1)を使用した人
の睡眠深度、睡眠スコア、睡眠効率、寝つき時間、中途覚醒回数、目覚め
の状態及び深い睡眠を表示する機能\を備えているが(原判決第2の2(6)ア
及びウ、同(7))、本件各照明装置は、本件マットレス(1)等により取得された
人の覚醒度合に関する生体情報に応じて照度を略一定にしつつ発光手段
の発光量比又は色・温度を変化させる機能を有していない。\n
本件各照明装置の使用者が、任意に本件各照明装置の発光手段の色・温
度を変化させる操作をすることが可能であるとしても、そのことをもって、\n本件各照明装置が人の覚醒度合に応じて照度を略一定にしつつ発光手段
の発光量比又は色・温度を変化させる構成を有していることにはならない。\nしたがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ク 以上によれば、本件各照明装置は、均等の第1要件を充足しないから、
その余の要件について判断するまでもなく、本件発明と均等なものとして、
その技術的範囲に属するということはできない。
◆判決本文
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2024.08.27
令和4(ワ)22517 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年8月21日 東京地方裁判所
日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。
被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸
をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ
ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1
は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。
しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが
でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの
であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット
ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン
ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある
ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ
プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最
長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】
(b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう
にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール
について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、
各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ
ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような
ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて
いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位
置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ
して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして
特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ
のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部
形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス
の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位
置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような
エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個
選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本
発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの
測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告
製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ
Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向
に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求
の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」
との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから
も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で
あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ
るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス
リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの
切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。
また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす
ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された
とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真
の赤破線で示されたとおりのものである。
前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の
非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される
ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため
には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ
る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ
ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう
なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に
おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜
部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き
により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3
参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、
弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、
それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」
が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の
「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、
「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当
する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部
に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部
によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ
ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ
り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」
の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品
3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの
に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、
被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に
ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央
部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時
において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、
原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に
限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな
い。
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2024.06.16
令和4(ワ)2058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。
(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額
被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品
を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円
(税込)である。(争いなし)
被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実
施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する
限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅
事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得
た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける
ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱
包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし)
原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、
同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ
優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強
い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分
実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。
確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密
性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え
ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹
脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること
が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で
あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の
容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴
と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ
イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に
おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。
そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相
当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂
正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱
性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、
被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ
は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ
り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。
また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品
は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型
がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。
これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点
検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製
品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同
じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ
ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検
口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、
操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や
訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と
までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各
製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙
第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは
否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、
これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、
通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ
いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証
拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。
以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合
品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度
で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告
の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が
「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り
は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。
この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者
が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の
売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推
定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、
特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による
実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される
ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令
和4年10月20日特別部判決参照)。
本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一
つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに
足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する
ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推
定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による
原告の損害であると認められる。
また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用
171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。
したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。
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2024.05.26
令和5(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審と同じく、「包装容器」の発明について、被告製品は技術的範囲に属さないと判断されました。控訴審では、均等侵害の主張が追加されましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないと判断されました。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部
に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら
れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例
えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型
の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ
うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と
して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自
立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載
置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ
とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体
的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥
行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと
にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した
状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、
被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す
る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ
までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで
きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、
上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。
したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立
片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」
と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。
しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる
から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの
というべきである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)2049
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2024.05. 1
令和5(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で文言侵害不成立と判断されましたので、控訴審で均等侵害の主張を追加しましたが、第1要件を満たさないと判断されました。
(4) 当審における控訴人による均等侵害の主張に対する判断
ア 控訴人は、仮に被控訴人製品が、本件各発明に文言上はその技術的範囲に
属しないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を
主張する。
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い\nる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、
1)同部分が特許発明の本質的部分ではなく、2)同部分を対象製品等における
ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果
を奏するものであって、3)上記のように置き換えることに、当該発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり、4)対象製品等
が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同
出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、5)対象製品等が特許発明の
特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる
などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する\nのが相当である。
そして、上記1)の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない
特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求\nの範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効
果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ\nとによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1
0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28
年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号
359頁参照)。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部
に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら
れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例
えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型
の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ
うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と
して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自
立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載
置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ
とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体
的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥
行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと
にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した
状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、
被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す
る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ
までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで
きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、
上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。
したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立
片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」
と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。
しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる
から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの
というべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和4(ワ)2049
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2024.03.24
令和5(ネ)10071 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月21日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。
当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法
143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には
時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと
おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃
棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人
による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると
の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査
定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許
権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求
を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する
のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項
ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね
ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的
解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か
ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権
利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に
当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと
どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により
許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に
は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい
て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし
て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる
(本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、
乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要
件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、
同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ
主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の
「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載
されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な
争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一
応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁
論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者
に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ
り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不
調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、
消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで
の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控
訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の
主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準
備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手
続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと
いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の
追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を
問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3
公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな
いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求
項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件
をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、
既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対
抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの
点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を
受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を
行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること
は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、
当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい
う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え
難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減
縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な
る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は
されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと
につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな
るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求
原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず
ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が
許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー
ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理
には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら
かである。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和3(ワ)10032
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2024.03.23
令和4(ワ)9521 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月26日 大阪地方裁判所
熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。
該当特許はこちらです。
◆特許4974971
ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該
組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光
子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。
アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が
公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に
よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル
樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU
VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11
0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡
及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を
奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン
骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以
上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト
の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物
を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する
ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その
発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、
その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す
べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が
あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。
オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、
本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品
及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、
均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技
術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関
する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証
拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との
関係は何ら明らかにされていない。
◆判決本文
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