特許権侵害訴訟にて、均等侵害を主張しましたが、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)が否定されました。\n
事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、\n傾斜部5)が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと
もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許\n請求の範囲に記載された構成とは異なる。\n原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材
の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決
めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部5)へと置き換えても、被告製品
が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな
い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限
られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明
の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機\n能の信頼性の高い笠木下換気構\造体を提供することにもあると認められる(前記
(1)ア(ア)b(a)〜(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被
告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口6)及び傾斜部5)と第1水平部2)との
隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構\成要件
Cにおける「換気部材」を傾斜部5)に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換\n気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵)
入を防止し、通気機能及び防水機能\の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると\nいう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏
するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅
速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入
するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾
斜部5)に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通
気性能と防水性能\を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮
蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る\nことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽
板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到\nし得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜
部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位
置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内
に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能\性がある。その
ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創\n意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記
置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵
害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間
接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範\n囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。
◆判決本文
均等主張についても、第1、第5要件を満たさないとして非侵害と認定されました。
前記2(2)ア認定のとおり、本件発明は、非力な者であっても、危険な野生動物が
生息している場所において、簡単かつ確実に屠殺できるようにすることを解決すべ
き課題とし「(【0008】ないし「【0012】)、このような課題を解決するため、竿体を伸縮自在に構成することで、対象動物との距離を調整できるようにし、例え\nば、猛禽類に対しては距離を長く取ったり、安全性を確保できる場合には距離を短
く取って確実に電極を動物の体に接触させたりすることができるという効果が得ら
れるというものである。
一方、証拠(甲2、乙18)によれば、本件特許の出願時点で、野生動物を殺処
分する手段として、麻酔ガス等を用いることや電気スタナーを用いることなどが知
られていたことが認められる。これらの手段は、動物を殺害することはできるが、
即効性に欠けたり、即効性があっても動物に近づく必要があることから危険を伴っ
たりするものであった。
そうすると、本件発明は、従来技術である電流を用いた屠殺手段を踏まえ、簡単
かつ安全確実な屠殺手段を提供するものであり、本件発明の構成中の本質的部分は、\nこのような屠殺手段を提供する竿体の伸縮構造(構\成要件Aの「伸縮自在の所定長
さの竿体」)、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い構造(構\成要
件F)、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる通電コードの並列構\n造(構成要件G)に認められるものというべきである。\n
イ 前記2で検討したとおり、被告製品は、少なくとも、構成要件Aの「伸縮自\n在の所定長さの竿体」の部分、構成要件F及びGを充足しないのであるから、本件\n発明の構成中、被告製品と異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとの均等侵\n害の第1要件は認められない。
(2) 第5要件について
ア 証拠(乙8ないし17)によれば、本件特許の出願経緯について、以下の事
実が認められる。
・・・
イ 以上の審査経緯に鑑みれば、原告は、当初、竿体の伸縮構造については固定\n長の竿体も含むものとし、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い状
態の構成については携行可能\であるとするのみで背負い構造に限られないものと\nし、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる並列構造については双方\nの手でそれぞれ把持することが明示的に記載されていないものとし、土中の接地電
極と同電位とする回路構造については土中を閉回路に含まない回路構\造も含むもの
として、特許請求の範囲を記載していたが、進歩性欠如及び明確性要件違反を指摘
されたことから、拒絶査定を回避するため、現在の特許請求の範囲の請求項1の記
載のとおりに限定したのであり、限定により除外された部分は、いずれも本件特許
の特許請求の範囲から意識的に除外したものであることが認められる。
そうすると、被告製品と本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点
は、いずれも原告が意識的に除外した部分に該当するから、均等侵害に関するその
余の原告の主張を前提としても、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特
許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときと
の第5要件を満たさないというべきである。
◆判決本文