2022.08.12
令和1(ワ)21901 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月31日 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件発明は「〜表\示方法」であり、被告地図プログラムの配信が、特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するかの争点については無効理由ありとしたことで判断されていません。
原告らは、乙22文献には、「枠要素」に相当する構成や画像を「当\nてはめ」る構成の開示がないと主張する。\n
そこで検討するに、乙22文献には、1)Webクライアントの記憶
装置につき、「記憶装置2は、…表示装置3に地図を表\示するために
必要なデータ種別及びデータ領域を管理する管理テーブルとサーバー
4から送信されてきた地図データを格納するものである。」、「管理
テーブルは、データ種別管理テーブルとデータ領域管理テーブルから
なる。…データ領域管理テーブルは、データ領域のメッシュ番号とデ
ータ種別のレイヤー番号により記憶装置2に格納された地図データを
管理するものであり」(段落【0010】)という記載が認められ、
2)メッシュ番号につき、「図2に示すように地図データを表示する領\n域(メッシュ)が識別できるデータ領域のメッシュ番号」(段落【0
014】)、「メッシュ番号は、地図のデータの範囲を含む矩形領域
を任意の矩形サイズで分割した領域に振られる番号であり、例えば北
海道の地図データを作成する場合の、メッシュ番号の採番状況を示し
たのが図9である。」(段落【0026】)という記載が認められ、
3)表示領域につき、「Webクライアントからの地図データ要求では、\n図8に示すように…1データの表示領域(メッシュ番号)を指定する\n形式で、複数回の要求を行うことによって、必要範囲の地図データを
Webサーバーから取得する。」(段落【0024】)、「1データ
の表示領域の指定には、メッシュ・レイヤーインデックスファイルで\n管理するこのメッシュ番号を指定する。このことにより、表示領域を\n直ちに指示することが可能となる。座標単位は、任意に決定されるマ\nクロ座標であるが、原点位置(座標0,0)の緯度・経度とメッシュ
の矩形サイズ(距離)は地図データ作成時に指定するため、各メッシ
ュ原点(左下座標)の緯度・経度は計算により求められる。」(段落
【0026】)という記載が認められ、4)地図の表示につき、「地図\nデータを取得できたものから地図の描画処理を行うため、画面上の地
図表示領域には徐々に地図が表\示されていく」(段落【0032】)
という記載が認められる。
上記各記載に加えて、【図1】、【図2】、【図8】、【図9】、
【図11】の記載を併せ考慮すれば、表示領域は、原点位置が計算に\nより求められるものであること、Webクライアントは、地図データ
を表示するための矩形領域を識別するメッシュ番号の指定により、必\n要範囲の地図データをWebサーバーから取得し、表示領域を指示す\nること、取得された地図データは、メッシュ番号のある管理テーブル
とは別の場所で記憶され、描画処理により、地図が画面上の表示領域\nに表示されること、以上の内容が乙22文献により理解されるものと\n認められる。
そうすると、乙22文献における「表示領域」は、メッシュ分割し\nた地図データを指定してWebクライアントのディスプレイ表示の所\n定の位置に地図を表示させるためのものであるから、乙22文献には、\n本件各発明における画像を「当てはめ」る「枠要素」に相当する構成\nが開示されていると認めるのが相当である。
b これに対し、原告らは、乙22文献における「地図データ」は、数
値データ(ベクターデータ)であるから、これに基づき表示を行う場\n合に「当てはめ」を行う「領域」をビューアに設定する必要はないと
主張する。しかしながら、上記にいう必要性の問題は、構成が開示さ\nれているかどうかという問題とは、必ずしも同一の事柄ではなく、乙
22文献における「地図データ」がベクターデータであることは、上
記発明の認定を左右するものではない。
●(省略)●
のみならず、乙22文献の「地図データ」がベクターデータである
としても、これをいわゆるラスターデータに置き換えることは、技術
説明会における当事者双方の口頭議論の結果及び専門委員3名の各説
明内容を踏まえると、当時の技術常識に照らし、当業者が適宜になし
得る事項にすぎず実質的相違点に当たらず、又は明らかに容易に想到
することができるものといえる。そうすると、被告の主張はその趣旨
をいうものとして相当であり、原告らの主張は、結論において進歩性
の判断を左右するものとはいえない。
c 原告らは、乙22文献に地図データを「枠要素」に「当てはめ」て
表示する構\成の開示がないことを前提に、乙22文献には「表示でき\nる状態」の開示はないと主張するが、乙22文献には、画像を「当て
はめ」る「枠要素」に相当する構成の開示があることは、上記におい\nて説示したとおりであり、原告らの主張は、前提を欠く。
◆判決本文
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2022.04. 8
令和1(ワ)5620等 特許権侵害差止等請求事件、不正競争行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月24日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、キッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働するコンピュータについて、起動していない製品については、特101条の「その物の生産に用いる物」「その物の生産にのみ用いる物」ではないと判断されました。
イ 特許法101条1号について
間接侵害について検討するに、特許法101条1号の「その物の生産にのみ用い
る物」とは、抽象的ないし試験的な使用の可能性では足らず、社会通念上、経済的、\n商業的ないしは実用的観点からみて、特許発明に係る物の生産に使用する以外の他
の用途がないことをいうと解するのが相当である。
被告製品2)には、被告システムに使用される以外に、社会通念上、経済的、商業
的ないしは実用的であると認められる他の用途があるとはいえないから、被告製品
2)は「その物の生産にのみ用いる物」に該当する。
被告らは、被告製品には、本件仕様2)のみならず、本件仕様1)及び3)があること、
被告製品は蒸気タービン発電システムの計測器として使用されていること、被告製
品のメイン基板として使用されているコンピュータは汎用的な小型コンピュータで
あることから、拡張ボードと組み合わせることにより種々の用途に使用することが
できることを指摘して、被告製品には他の用途がある旨を主張する。
しかし、被告システムに使用され、本件特許権侵害が問題となるのは被告製品のうち本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働したものに限られるところ、前提事実(4)及び前記2
(1)のとおり、被告製品にインストールされている本件仕様1)〜3)に係るプログラ
ムに対してキッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働
することになるが、同作業は被告フィールドロジック以外の者が行うことができず、
いったん設定された仕様の変更も、被告フィールドロジックが特殊ツールを使って
同作業を行い、再設定済みの機器を現地に送付するほかないのである。
そうであれば、本件仕様2)が稼働していない被告製品(本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない製品も含む。)に関しては、被告システムに使用されるとはいえないから、「その物の生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)ないし「その物の生産に用いる物」(同条2号)に該当するとはいえない。
また、本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない被告製品について、顧客の要望に応じて被告フィールドロジックが本件仕様1)又は3)に係るプログラムを解放する可能性はあり、そのような態様での被告製品の使用が、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途でないとも認められない。\n
一方、本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働した被告製品2)については、前記のとおり、被告システムに使用されるものと認められるところ、被告製品2)の使用を続けながら、本件仕様1)又は3)に係るプログラムが稼働する使用を行うことはできないから、かかる使用を被告製品2)の他の用途ということはできないし、その他、被告らが指摘する用途は、いずれも被告製品2)の用途以外のものであるから、被告らの主張は採用できない。なお、被告らは、被告製品のうち本件仕様2)を稼働させた場合、太陽光発電システムのほかにも風力発電システム及び小水力発電システムにも使用される旨を主張するが、これを裏付ける証拠はなく、実用的な用途であるとは認められない。
ウ 前記イのとおり、本件仕様2)が稼働していない被告製品は、特許法101条
2号の「その物の生産に用いる物」に該当しない。また、本件仕様2)が稼働してい
る被告製品2)については、同号に基づく間接侵害の成否を検討するまでもなく、前
記イのとおり、同条1号に基づく間接侵害が成立するものと認められる。
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2021.04.22
平成30(ワ)3461 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原
告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。
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2019.02. 1
平成28(ワ)6494 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年12月18日 大阪地方裁判所
被告製品は,特許権者製の使用済み芯管と一体化すると、本件特許の構成要件を充足するので、「のみ要件」を満たすと判断しました。\n
イ 構成要件Aの「用いられ」の意味
前記アを前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を\n検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は,本件ロールペーパ等の「複
数の磁石」につき,そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき,
また,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固\n定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」と
の記載は,本件ロールペーパ等について,そのような態様で回転させられることを
特定するものと理解できるし,構成要件Cの「測長センサ」も,構\成要件Aの記載
によって特定されると理解できる。
そうすると,本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件\nBないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから\n画されるものと解されるから,一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬剤分包装
置に実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではない\nと解される。
被告らは,原告製使用済み芯管に,輪ゴムを介してロールペーパを巻いたプ
ラスチック筒部をセットした一体化製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するた\nめには,一体化製品に,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられる以外の用\n途が存在しないことが必要であると主張し,予備的に,仮にこれが認められないと\nしても,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用\n効果を奏するものであるから,現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いら\nれることが必要であると主張する。
しかしながら,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能\な構成を有し,そ\nの他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡され\nれば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを\n充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成
否を左右するものではない。
被告らは,本件発明の出願経過に照らし,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に\n一体化製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張
するが,原告が,手続補正の際に提出した意見書(乙25)において,本件発明は
構成要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べたものと解することはできない。\nさらに,被告らは,本件無効審判において,本件訂正後の発明に新規性が認めら
れるための構成が特定されたところ,その中には薬剤分包装置に関するものがある\nので,一体化製品が本件発明の技術的範囲に属するかの判断のために,どのような
薬剤分包装置に用いられているかを確認する必要があると主張するが,前記検討し
た構成要件Aと,構\成要件BないしDとの関係に照らし,採用できないといわざる
を得ない。
ウ まとめ
以上検討したところによれば,本件発明においては,構成要件Aの「用いられ」\nは,構成要件Aの記載によって構\成要件B以下の内容が特定されることを意味する
ものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要件を\n一体化製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され,\nこれ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬
剤分包装置以外には使用されないこと,あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤\n分包装置が存在することを,要件として定める趣旨と解することはできない。
(2)争点(1)イ(一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足す\nるか。)について
ア 被告らは,構成要件Aの「2つ折りされたシート」とは,ロールペーパを薬\n剤分包装置内で2つ折りにするシングルタイプのロールペーパの使用を前提として
おり,あらかじめ2つ折りにされたダブルタイプのロールペーパは含まれない旨を
主張する。
イ そこで,検討するに,本件明細書【0018】には,「分包部は,三角板4
で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後,ミシン目カッ
タを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシー
ルするように設けられている。」との記載があるが,本件明細書【0011】の記
載によれば,本件発明は,一定の張力を保ったままシートを分包部に供給すること
により,シートに耳ずれや裂傷が生じることなく薬剤を分包することを可能とする\nものであり,この技術的思想に関しては,給紙部から分包部に送られてくるシート
があらかじめ2つに折り畳まれたダブルタイプであっても,折り畳まれてい
ション現象が生じるため,)張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシ
ートの縁部が正確に重ならない,いわゆる耳ずれが生じ」るという問題は,シング
ルタイプのロールペーパを分包部において2つ折りにしてできた空隙に薬剤を投入
した後シートの両側縁部と幅方向に加熱融着する場合であっても,ダブルタイプの
ロールペーパを分包部において折り目を広げてその空隙に薬剤を投入した後同様に
加熱融着する場合であっても,同様に生じ得る。
さらに,原告は,本件特許につき拒絶理由通知(乙24)を受けて本件補正を行
っているが,本件明細書【0018】の記載に基づくものであり,元の記載がシン
グルタイプのロールペーパを分包部において折り畳むことのみを指すと解するのは
相当ではない(乙25)。
ウ 以上によれば,ダブルタイプのロールペーパを使用する一体化製品も,「2
つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するというべきである。
(3) 争点(1)全体についての判断
ア 被告らは,一体化製品につき,構成要件Aのうち,「測長センサ」,「シー\nトを送りローラで送り出す給紙部」,「上記支持軸と上記中空軸の固定支持板間で」,
「中空軸のずれを検出する」といった要件を充足しない旨を主張するが,原告製造
の特定の薬剤分包装置の構成についての主張であり,構\成要件Aと構成要件B以下\nとの関係を前述のとおり解する以上,意味のない主張といわざるを得ない。
イ 一体化製品は,前記第2の1(5)のとおりの構成を有するところ,被告らは,\n構成要件Aに関し,争点(1)ア及びイについて争うものの,構成要件B以下の充足性\nについては争うことを明らかにしておらず(当初,構成要件B及びDの充足を争っ\nたが,後に撤回した。),弁論の全趣旨によれば,一体化製品の構成aは本件発明\nの構成要件Bを,構\成bは構成要件Cを,構\成cは構成要件Dを充足すると認めら\nれ,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることが可\n能な構\成を有すると認められる。
ウ 以上によれば,一体化製品は,構成要件AないしEをすべて充足するから,\n本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
エ なお,原告は,被告日進が前訴において構成要件Aの充足性を争わなかった\nことから,本訴訟において構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反する旨を主\n張するが(争点(1)ウ),被告日進は,前訴とは異なる製品の関係で,構成要件Aの\n充足性を本訴訟で主張したと認められるから,この点を争うことが信義則に反する
とまではいえない。
3 争点(2)(特許権侵害が成立するか。)について
(1) 問題の所在
ア 前記2によれば,一体化製品を完成して譲渡すれば,その時点において特許
権侵害が成立することになるが,前記第2の1(4)及び(5)のとおり,被告らは,一体
化製品それ自体を生産,譲渡しておらず,プラスチック筒部の外周に薬剤分包用シ
ートを巻き回したロールペーパ,すなわち一体化製品のうち原告使用済み芯管のな
い物を被告製品として生産,譲渡し,これを入手した利用者が,輪ゴムを介してロ
ールペーパに原告製使用済み芯管を挿入し,これを一体化製品とした上で,薬剤分
包装置に使用している。
イ この点について,原告は,1)被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いる物
であるとして,特許法101条1号の間接侵害を主張するほか,2)被告らの行為は,
顧客との共同による特許権の直接侵害に当たること,3)被告らの行為は,顧客の特
許侵害に対する教唆又は幇助に当たることを主張するので,まず間接侵害の成否に
ついて検討する。
(2) 争点(2)ア(被告製品は,一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められる
か。)について
ア 被告製品の販売方法
証拠(甲4,5,21,36,文中掲記のもの)によれば,以下の事実が認めら
れる。
被告日進の販売するロールペーパの製品には,商品名の冒頭に「A」の付く
製品(被告製品。以下「Aタイプ」という。)と「B」の付く製品(以下「Bタイ
プ」という。)があり,両タイプは,それぞれ分包紙の材質として「グラシン」紙
又は「セロポリ」紙を選択できるようになっている。
被告日進が平成28年11月に公開していたウェブサイト(甲20)によれ
ば,Aタイプの分包紙の芯管内径は67mmであって,「外径65mm前後の分包機用
芯管に装着可能」とされ,Bタイプの分包紙の芯管内径は52mmであって,「外径
50mm前後の分包機用芯管に装着可能」とされた。\n薬剤分包用ロールペーパとして,外径65mm前後の芯管を製造しているのは
原告のみであり,外径50mm前後の芯管を製造しているのは株式会社タカゾノのみ
である(弁論の全趣旨)。
前記ウェブサイトの「よくある質問Q&A」の欄には,「Q.他社分包機に
装着するには特別な道具が必要ですか?」という質問に対し,「A.弊社分包紙は,
『使用済み分包機メーカー製芯管』を使用することによって,お客様ご使用の分包
機に装着することができます。つまり,『使用済み分包機メーカー製芯管』が1個
お手元にあれば繰り返し装着することができます。」との回答が記載されていた。
被告日進が平成28年1月頃にユーザである製剤薬局等に配布していた説明
資料(甲9)には,「使用済み分包機メーカー製芯管」に輪ゴム等を取り付け被告
日進が販売する分包紙製品に差し込むことにより,芯管の空回りを防止しながら被
告日進製以外の分包機において使用する方法がイメージ図や注意事項付きで詳細に
説明されている。
まとめ
以上によれば,被告日進が販売する分包紙のうちAタイプ(被告製品)は,原告
製使用済み芯管と一体化して原告製の薬剤分包装置に使用されることを前提として
生産され,原告製の薬剤分包装置を使用し,既に原告製使用済み芯管を保有してい
る者に対し,購入の案内がされたものと認められる。
イ 他の用途について
被告日進製の薬剤分包装置
前記被告日進のウェブサイト(甲20)には,「複数メーカー機に装着可能」と\nいう文言と共に,「分包紙は当社分包機の専用分包紙であり,各社分包機メーカー
及び貴社ご使用の分包機メーカーとは無関係で,承認を受けた製品ではありません。」
という記載があり,前記説明資料(甲9)にも同様の記載があることが認められる。
しかし,被告らの主張によっても,被告日進は,経済産業省により「平成25年
度補正中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」に選定され
た後,平成26年に被告日進製の薬剤分包装置について営業活動を開始し,平成2
7年にカタログを作成し,平成28年5月12日に1台,同年10月25日に1台
の被告日進製の薬剤分包装置を販売したことが認められるにとどまる(甲17,乙
1,11,36)。
他方,被告製品は平成26年12月から販売されており,原告代理人は,平成2
8年1月頃に,被告らに対し,本件特許権に基づき被告製品の製造販売の中止等を
求める警告書(甲10)を送付し,同年7月4日に本訴を提起したことが認められ
る。
前記時系列によれば,被告製品の販売が開始された当初,これを被告日進製
の薬剤分包装置に装着することはおよそ予定されておらず,むしろ,原告との紛争\nが顕在化した後に,わずか2台を製造販売したにとどまる。
エルク製分包装置(甲19,乙2,14〜16)
被告製品を,エルク製分包装置において使用されている芯管(外径約60mm。以
下「エルク製芯管」という。)に挿入してエルク製分包装置に装着し使用するため
には,被告製品の空回りを防止するために厚さ3.2mm程度のOリングを2個,エ
ルク製芯管に装着することが必要であり,さらに,被告製品の外径(約193mm)
が大きすぎるため,そのままではエルク製分包装置に正常に装着できず,使用開始
に当たって長さ330mの分包紙中約88ないし100m分を廃棄する必要がある
ことが認められる。
よって,被告製品をエルク製分包装置に装着して使用することは相当の困難と無
駄を伴い,経済的に合理性のある使用とはいえない。
ウエダ製分包装置(甲23,乙17,18)
ウエダ製分包機については,特定の顧客が,その支持軸を独自に製作した支持軸
に取り換えるという改造を施すことにより,被告製品を装着して使用していること
が認められる。
しかし,同顧客の保有するウエダ製分包機は20年以上前に販売が終了している
機種であり,ウエダ製分包機を保有する他のユーザが同様の改造を施して被告製品
を使用することは考えにくいし,改造を施さないウエダ製分包装置において,被告
製品を正常に装着して使用できると認めるべき証拠もない。
よって,被告製品をウエダ製分包装置に装着して使用することは,一般的な使用
方法ということはできない。
タカゾノ製分包装置(乙20,21)
株式会社タカゾノ製の薬剤分包装置において使用されている薬剤分包用ロールペ
ーパが,被告製品と同様の構成であることを認めるに足りる証拠はない。\n
まとめ
被告日進製の薬剤分包装置については,被告製品の販売が一定期間行われた後に,
わずか2台が製造,販売されたにとどまるものであるから,被告製品が使用された
としてもごくわずかといわざるを得ないし,被告以外の薬剤分包装置に被告製品を
使用することには困難が伴い,現実的ではないといわざるを得ないから,被告製品
については,原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は,実質的には存在しない
といわざるを得ない。
ウ 争点(2)アについての判断
前記ア及びイで検討したところによれば,被告製品は,原告製使用済み芯管と一
体化し,一体化製品として原告製薬剤分包装置に使用することを想定して生産,譲
渡され,これ以外の用途は実質的には存在しないというべきであるから,被告製品
は,一体化製品の生産にのみ用いるものと認めるのが相当である。
(3) 特許権侵害についての判断
被告らが被告製品を生産,譲渡した段階では,回転角度の検出に用いる磁石を配
置した原告製使用済み芯管はこれと共には存在せず,本件特許の構成要件の全部を\n充足するものではないが,前記(2)で検討した通り,被告製品は,原告製使用済み芯
管と一体化して,本件特許の構成要件を充足する状態で使用することが予\定されて
おり,他の用途が実質的に存在せず,一体化製品の生産にのみ用いられるものと認
められるのであるから,被告製品の生産,譲渡は,特許権の直接侵害に至る蓋然性
が極めて高いものとして特許法101条 1 号の間接侵害に当たり,本件特許権を侵
害するものとみなすべきものである。
◆判決本文
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2013.04.15
平成24(ネ)10092 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所
間接侵害(特許法101条1号)について、専用品であるとの1審認定が維持されました。また、被告の無効主張は、時期に後れた抗弁としての却下はせず、採用したものの、最終的には無効理由無しと判断しました。
第1審被告は,本件回転板が被告装置のために必須であるからといって,必ずしも本件発明を実施しないで使うことが使用形態として認められないというわけではなく,本件プレート板を使用しない形態が被告装置の経済的,商業的又は実用的な使用形態と認めることはできないとした原判決の認定は,事実を無視したものである,特許法101条1号は,他の用途がないことを要件とするものであって,「全く使用しないという使用形態」が要件となるわけではないし,本件プレート板を使用するか否かは,ユーザーの選択に委ねられているなどと主張する。しかしながら,特許法101条1号は,その物自体を利用して特許発明に係る物の生産にのみ用いる物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであるところ,同号が,特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を,「その物の生産にのみ用いる物」を生産,譲渡等する行為のみに限定したのは,そのような性質を有する物であれば,それが生産,譲渡等される場合には侵害行為を誘発する蓋然性が極めて高いことから,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという趣旨に基づくものであると考えられる。このような観点から考えれば,その物の生産に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。そうすると,本件回転板及び本件プレート板は,本件発明における「共回り防止装置」の専用部品であると認められる以上,これらにおいて,経済的,商業的又は実用的な他の用途は認め難く,したがって,本件回転板及び本件プレート板は,「その物の生産にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。したがって,被告装置が本件プレート板を用いないで使用することが可能であることは,本件回転板及び本件プレート板が被告装置の生産にのみ用いる物に該当するとの判断を左右するものではない。
・・・・
アの認定事実によれば,原審において,第1審被告は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属しないと考え,無効の抗弁を提出しなかったところ,その後,第1審被告の予想に反して損害論の審理が行われるに至ったため,無効の抗弁を提出しようとしたが,原審裁判所は時機に後れたものとしてこれを認めなかったものと認められる。ウ 第1審被告は,当審において無効の抗弁を提出し,無効理由として,1)特許法36条違反,2)乙38文献に記載された発明に基づく容易想到性,3)本件発明と乙3文献に記載された発明との同一性について主張するが,特許法36条違反については,本件明細書等の記載を速やかに検討すれば早期に主張が可能であったものといえること,乙3文献は,平成22年9月1日の原審第1回口頭弁論期日において書証として提出されており,また,乙38ないし40の各文献は,平成24年5月9日の原審第12回弁論準備手続期日において書証として提出されたものであること(なお,乙39文献は第1審被告の出願に係る公開特許公報である。)からすると,原審裁判所が時機に後れたものとして主張を許さなかった無効の抗弁を当審に至って提出することは,時機に後れたものというほかない。そして, 無効の抗弁の提出が時機に後れた理由は,本件発明の技術的範囲に属するか否かについて,自らの主張が正しいと信じていたというにすぎないというのであるから,第1審被告には重大な過失が認められるといわざるを得ない。しかしながら,当事者双方は無効の抗弁について主張立証の追加を求めず,当裁判所は,平成25年3月14日の当審第1回口頭弁論期日において,弁論を終結したものである以上,無効の抗弁の提出が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項)ものとは認められず,また,「審理を不当に遅延させることを目的として提出された」(特許法104条の3第2項)とまで認めることはできない。よって,第1審被告による無効の抗弁の提出は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として,これを却下することはできない。
◆判決本文
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2011.07. 4
平成22(ネ)10089 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成23年06月23日 知的財産高等裁判所
地裁では、技術的範囲に属しないと判断されましたが、知財高裁は差止、損害賠償を認めました。
間接侵害について
特許法101条4号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施する物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであるところ,同号が,特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を,「その方法の使用にのみ用いる物」を生産,譲渡等する行為のみに限定したのは,そのような性質を有する物であれば,それが生産,譲渡等される場合には侵害行為を誘発する蓋然性が極めて高いことから,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという趣旨に基づくものである。このような観点から考えれば,その方法の使用に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。被告装置1は,前記のとおり本件発明1に係る方法を使用する物であるところ,ノズル部材が1mm以下に下降できない状態で納品したという被控訴人の前記主張は,被告装置1においても,本件発明1を実施しない場合があるとの趣旨に善解することができる。しかしながら,同号の上記趣旨からすれば,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能\\は全く使用しないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。被告装置1において,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは,前記のとおりである。そうすると,仮に被控訴人がノズル部材が1mm以下に下降できない状態で納品していたとしても,例えば,ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け,そのストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど,本件発明1を実施しない機能\のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。
均等について
前記1の本件明細書の記載からすると,本件発明1は,その後に続く椀状に形成する工程や封着する工程との関連が強く,その後の椀状に形成する工程や封着する工程にとって重要な工程である外皮材の位置調整を,既に備わる封着用のシャッタで行う点,そして,別途の手段を設けることなく簡素な構成でこのような重要な工程を達成している点に,その特徴があるということができる。本件発明1においては,シャッタ片及び載置部材と,ノズル部材及び生地押え部材とが相対的に接近することは重要であるが,いずれの側を昇降させるかは技術的に重要であるとはいえない。よって,本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し,被告方法2がシャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させているという相違部分は,本件発明1の本質的部分とはいえない。エ 均等侵害の要件ii)についてノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに代えて,押し込み部材の下降はなく,シャッタ片及び載置部材を上昇させてノズル部材及び生地押え部材に接近させる被告方法2によっても,外皮材が所定位置に収まるように外皮材の位置調整を行うことができ,外皮材の形状のばらつきや位置ずれがあらかじめ修正され,より確実な成形処理を行うことが可能であり(【0008】【0013】),より安定的に外皮材を戴置し,確実に押え保持することができ(【0011】),装置構\成を極めて簡素化することができる(【0012】)といった本件発明1と同一の作用効果を奏することができる。本件発明1の構成要件1C及び1Dは,押え部材が外皮材を受け部材上に保持することができ,押し込み部材が,受け部材の開口部に内材を供給するため一定の深さに進入することにより,達することができるとするものである。そうすると,ノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させる構\成を,シャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させる構成に置き換えたとしても,同一の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものということができる。オ 均等侵害の要件iii)について本件発明1と被告方法2の上記構成の相違は,ノズル部材及び生地押え部材を載置部材上の生地に接近させるための動作に関して,単に,上方の部材を下降させるか,下方の部材を上昇させるかの違いにすぎない。したがって,被告方法2の上記構\成に想到することは,当業者にとって容易である。・・・以上のとおり,被告方法2は,本件発明1の構成要件1Cの構\成と均等なものである。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成21(ワ)1201平成22年11月25日東京地裁
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