分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原
告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。
◆判決本文