CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件発明は「〜表\示方法」であり、被告地図プログラムの配信が、特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するかの争点については無効理由ありとしたことで判断されていません。
原告らは、乙22文献には、「枠要素」に相当する構成や画像を「当\nてはめ」る構成の開示がないと主張する。\n
そこで検討するに、乙22文献には、1)Webクライアントの記憶
装置につき、「記憶装置2は、…表示装置3に地図を表\示するために
必要なデータ種別及びデータ領域を管理する管理テーブルとサーバー
4から送信されてきた地図データを格納するものである。」、「管理
テーブルは、データ種別管理テーブルとデータ領域管理テーブルから
なる。…データ領域管理テーブルは、データ領域のメッシュ番号とデ
ータ種別のレイヤー番号により記憶装置2に格納された地図データを
管理するものであり」(段落【0010】)という記載が認められ、
2)メッシュ番号につき、「図2に示すように地図データを表示する領\n域(メッシュ)が識別できるデータ領域のメッシュ番号」(段落【0
014】)、「メッシュ番号は、地図のデータの範囲を含む矩形領域
を任意の矩形サイズで分割した領域に振られる番号であり、例えば北
海道の地図データを作成する場合の、メッシュ番号の採番状況を示し
たのが図9である。」(段落【0026】)という記載が認められ、
3)表示領域につき、「Webクライアントからの地図データ要求では、\n図8に示すように…1データの表示領域(メッシュ番号)を指定する\n形式で、複数回の要求を行うことによって、必要範囲の地図データを
Webサーバーから取得する。」(段落【0024】)、「1データ
の表示領域の指定には、メッシュ・レイヤーインデックスファイルで\n管理するこのメッシュ番号を指定する。このことにより、表示領域を\n直ちに指示することが可能となる。座標単位は、任意に決定されるマ\nクロ座標であるが、原点位置(座標0,0)の緯度・経度とメッシュ
の矩形サイズ(距離)は地図データ作成時に指定するため、各メッシ
ュ原点(左下座標)の緯度・経度は計算により求められる。」(段落
【0026】)という記載が認められ、4)地図の表示につき、「地図\nデータを取得できたものから地図の描画処理を行うため、画面上の地
図表示領域には徐々に地図が表\示されていく」(段落【0032】)
という記載が認められる。
上記各記載に加えて、【図1】、【図2】、【図8】、【図9】、
【図11】の記載を併せ考慮すれば、表示領域は、原点位置が計算に\nより求められるものであること、Webクライアントは、地図データ
を表示するための矩形領域を識別するメッシュ番号の指定により、必\n要範囲の地図データをWebサーバーから取得し、表示領域を指示す\nること、取得された地図データは、メッシュ番号のある管理テーブル
とは別の場所で記憶され、描画処理により、地図が画面上の表示領域\nに表示されること、以上の内容が乙22文献により理解されるものと\n認められる。
そうすると、乙22文献における「表示領域」は、メッシュ分割し\nた地図データを指定してWebクライアントのディスプレイ表示の所\n定の位置に地図を表示させるためのものであるから、乙22文献には、\n本件各発明における画像を「当てはめ」る「枠要素」に相当する構成\nが開示されていると認めるのが相当である。
b これに対し、原告らは、乙22文献における「地図データ」は、数
値データ(ベクターデータ)であるから、これに基づき表示を行う場\n合に「当てはめ」を行う「領域」をビューアに設定する必要はないと
主張する。しかしながら、上記にいう必要性の問題は、構成が開示さ\nれているかどうかという問題とは、必ずしも同一の事柄ではなく、乙
22文献における「地図データ」がベクターデータであることは、上
記発明の認定を左右するものではない。
●(省略)●
のみならず、乙22文献の「地図データ」がベクターデータである
としても、これをいわゆるラスターデータに置き換えることは、技術
説明会における当事者双方の口頭議論の結果及び専門委員3名の各説
明内容を踏まえると、当時の技術常識に照らし、当業者が適宜になし
得る事項にすぎず実質的相違点に当たらず、又は明らかに容易に想到
することができるものといえる。そうすると、被告の主張はその趣旨
をいうものとして相当であり、原告らの主張は、結論において進歩性
の判断を左右するものとはいえない。
c 原告らは、乙22文献に地図データを「枠要素」に「当てはめ」て
表示する構\成の開示がないことを前提に、乙22文献には「表示でき\nる状態」の開示はないと主張するが、乙22文献には、画像を「当て
はめ」る「枠要素」に相当する構成の開示があることは、上記におい\nて説示したとおりであり、原告らの主張は、前提を欠く。
◆判決本文
2022.04. 8
CS関連発明について、キッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働するコンピュータについて、起動していない製品については、特101条の「その物の生産に用いる物」「その物の生産にのみ用いる物」ではないと判断されました。
イ 特許法101条1号について
間接侵害について検討するに、特許法101条1号の「その物の生産にのみ用い
る物」とは、抽象的ないし試験的な使用の可能性では足らず、社会通念上、経済的、\n商業的ないしは実用的観点からみて、特許発明に係る物の生産に使用する以外の他
の用途がないことをいうと解するのが相当である。
被告製品2)には、被告システムに使用される以外に、社会通念上、経済的、商業
的ないしは実用的であると認められる他の用途があるとはいえないから、被告製品
2)は「その物の生産にのみ用いる物」に該当する。
被告らは、被告製品には、本件仕様2)のみならず、本件仕様1)及び3)があること、
被告製品は蒸気タービン発電システムの計測器として使用されていること、被告製
品のメイン基板として使用されているコンピュータは汎用的な小型コンピュータで
あることから、拡張ボードと組み合わせることにより種々の用途に使用することが
できることを指摘して、被告製品には他の用途がある旨を主張する。
しかし、被告システムに使用され、本件特許権侵害が問題となるのは被告製品のうち本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働したものに限られるところ、前提事実(4)及び前記2
(1)のとおり、被告製品にインストールされている本件仕様1)〜3)に係るプログラ
ムに対してキッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働
することになるが、同作業は被告フィールドロジック以外の者が行うことができず、
いったん設定された仕様の変更も、被告フィールドロジックが特殊ツールを使って
同作業を行い、再設定済みの機器を現地に送付するほかないのである。
そうであれば、本件仕様2)が稼働していない被告製品(本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない製品も含む。)に関しては、被告システムに使用されるとはいえないから、「その物の生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)ないし「その物の生産に用いる物」(同条2号)に該当するとはいえない。
また、本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない被告製品について、顧客の要望に応じて被告フィールドロジックが本件仕様1)又は3)に係るプログラムを解放する可能性はあり、そのような態様での被告製品の使用が、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途でないとも認められない。\n
一方、本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働した被告製品2)については、前記のとおり、被告システムに使用されるものと認められるところ、被告製品2)の使用を続けながら、本件仕様1)又は3)に係るプログラムが稼働する使用を行うことはできないから、かかる使用を被告製品2)の他の用途ということはできないし、その他、被告らが指摘する用途は、いずれも被告製品2)の用途以外のものであるから、被告らの主張は採用できない。なお、被告らは、被告製品のうち本件仕様2)を稼働させた場合、太陽光発電システムのほかにも風力発電システム及び小水力発電システムにも使用される旨を主張するが、これを裏付ける証拠はなく、実用的な用途であるとは認められない。
ウ 前記イのとおり、本件仕様2)が稼働していない被告製品は、特許法101条
2号の「その物の生産に用いる物」に該当しない。また、本件仕様2)が稼働してい
る被告製品2)については、同号に基づく間接侵害の成否を検討するまでもなく、前
記イのとおり、同条1号に基づく間接侵害が成立するものと認められる。
◆判決本文