2019.02. 1
論点はいろいろありますが、主観的間接侵害における多用途品に対して差止請求が認められました。
(4) 被告表示器A,被告製品3の製造,販売等の行為についての直接侵害の成否
ア 被告表示器Aはプログラマブル表\示器であり,被告製品3はそれらにイ
ンストールするソフトウェアであり,前提事実(前記第2の2(4)エ)のとおり,被
告表示器Aは被告製品3のソ\フトウェアがなければ作動せず,被告製品3のソフトウェアは被告表\示器においてのみ有効に機能する関係にあると認められるから,ユ\nーザがそれらの一方のみを使用することはないといえる。このため,原告は,1)被
告表示器Aと被告製品3は,その販売形態にかかわらず,実質的には常にセット販売されていると評価すべきものであり(セット販売理論),また,2)被告製品3のソフトウェアはユーザの下で必ず被告表\示器にインストールされるのであるから,ユーザは被告の道具としてインストールを行うにすぎない(道具理論)として,被告
表示器Aと被告製品3の各製造,販売等は,同一機会でされるものであるか否かを問わず,被告製品3のOSがインストールされた被告表\示器Aの製造,販売等と同視すべきであると主張する。
イ 被告表示器A,被告製品3は,それらが個別に販売される場合はもとより,同一の機会に販売される場合であっても,被告製品3の基本機能\OS及び拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能\等部分のインストールがいまだされ
ない状態であるから,それらは直接侵害品(実施品)としての構成を備えるに至っておらず,それを備えるにはユーザによるインストール行為が必要である。\nこのような場合,確かに,ユーザの行為により物の発明に係る特許権の直接侵害
品(すなわち実施品)が完成する場合であっても,そのための全ての構成部材を製造,販売する行為が,直接侵害行為と同視すべき場合があることは否定できない。\nしかし,構成部材を製造,販売する行為を直接侵害行為(すなわち実施品の製造,販売行為)と同視するということは,ユーザが構\成部材から実施品を完成させる行為をもって構成部材の製造,販売とは別個の生産行為と評価せず,構\成部材の製造,
販売による因果の流れとして,構成部材の製造,販売行為の中に実質的に包含されているものと評価するということであるから,そのように評価し得るためには,製\n造,販売された構成部材が,それだけでは特許権の直接侵害品(実施品)として完成してはいないものの,ユーザが当然に予\定された行為をしてそれを組み合わせる
などすれば,必ず発明の技術的範囲に属する直接侵害品が完成するものである必要
があると解するのが相当である。換言すれば,ユーザの行為次第によって直接侵害
品が完成するかどうかが左右されるような場合には,構成部材の製造,販売に包含され尽くされない選択行為をユーザが行っているのであるから,構\成部材を製造,販売した者が間接侵害の責任を負うことはあっても,直接侵害の責任を負うことは
ないと解すべきである。
ウ このような観点から本件の事実関係について検討すると,前記(2)キ(イ)
で認定した事実によれば,被告表示器Aにおいて回路モニタ機能\等を使用するため
には,ユーザが,被告製品3をインストールしたパソコンで,動作設定を「回路モニタ」とする拡張機能\スイッチが配置されたプロジェクトデータを作成する必要があり,拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ等部分が転送対象として自動的に選択されるのも,ユーザが上記のようなプロジェクトデータを作成した場合の\nみであると認められる。これを換言すれば,そもそもユーザによって上記のような
プロジェクトデータが作成されず,したがってこれが被告表示器Aにインストールされない場合には,ユーザが敢えて拡張/オプション機能\OSのうちの回路モニタ等部分を転送対象として選択しない限り,被告表示器Aに回路モニタ機能\等が備わることはないのである。
また,被告製品1−2については一部の機種では,そもそも回路モニタ機能等を使用できない。また,回路モニタ機能\等が使用可能な機種についても,これを使用\nするためにはオプション機能ボードを購入して設置する必要がある。そして,そもそもこれはオプションの部材であるから,ユーザがこれを購入して設置することが\n当然に予定されていると認めることはできないし,乙17及び18によれば,回路モニタ機能\等に対応している被告製品1−2を購入した者のうち,オプション機能\nボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められる(原告は,乙17及び1
8は裏付け証拠がないから信用性を欠く旨主張するが,記載内容は一定の具体性を持っており,その内容が不合理であることをうかがわせる事情も認められず,かえ
って,オプション機能ボードがまさにオプション品であることからすると,相当程度の者が購入しないというのは合理的であるから,具体的な割合はともかく,少な\nくともオプション機能ボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められるという限度ではその信用性を認めるのが相当である。)。\nなお,被告製品1−1では,回路モニタ機能等が標準装備されているが,前記(2)
ア(オ)での認定のとおり,被告製品1−1は他の点でも被告製品1−2にない機能を有しており,特にラダー編集機能\は,甲5のカタログでも回路モニタ機能等と並ん\nで強調されているものであることからすると,被告製品1−1を購入する者が須く
回路モニタ機能等を使用することを当然の前提としてこれを購入するとまで認めることは困難である。そして,これらの事情は,被告表\示器2Aについても妥当すると考えられる。
以上のことを踏まえると,被告が販売した被告表示器Aや被告製品3だけでは,直ちに本件発明1の直接侵害品(実施品)が完成するわけではないし,ユーザが被\n告表示器Aを被告製のPLCに接続した上で,被告製品3の拡張/オプション機能\
OSのうちの回路モニタ機能等部分をインストールすることが必ず予\定された行為
であると認めることもできない。したがって,ユーザの行為によって直接侵害品が
完成するかどうかが左右されるような場合に該当するといわざるを得ない。
エ 以上に対し原告は,被告が被告製品1や2等のカタログにおいて,回路
モニタ機能等を強調していることや,被告表\示器Aが他の被告製品と比べて高額で
あること等からすると,本件発明1を全く実施しないという使用態様が被告表示器Aと被告製品3のユーザの下で経済的,商業的又は実用的な使用形態としてあると\nは認められないと主張している。
しかし,前記ウで述べた事情からすると,カタログで強調されているからといっ
て,ユーザが必ず回路モニタ機能等を使用するとまで認めることはできない。原告は,他の回路モニタ機能\等を使用できない被告製品(被告製品1−3等)との価格差も指摘するが,当該他の機種では回路モニタ機能等を使用することはできないものの,前記認定の被告表\示器Aと他の機種との画面サイズや機能の違いを踏まえる\nと,被告表示器Aを購入する者が回路モニタ機能\等を使用することを当然の前提としてこれを購入するものであるとまで認めることもできない。
なお,原告は,他社が回路モニタ機能等を使用できない廉価な製品を販売していること(甲23,24)を指摘しているが,それと被告表\示器Aや被告製品3とでは回路モニタ機能等以外の機能\が異なっており,またハード面での差異や購入後の
サポートの内容も異なっていること(甲5,23,乙17)などを踏まえると,原
告のこの指摘によって上記事情が基礎付けられるともいえない。
以上より,本件発明1を全く実施しないという使用態様が,被告表示器Aと被告製品3の経済的,商業的又は実用的な使用形態でないと認めることはできないから,\n原告の上記主張は採用できない。なお,原告は東京地裁平成13年10月31日判
決を引用しているが,本件と事案を異にするから,本件には妥当しないというべき
である。
オ 以上より,直接侵害の成立は認められない。したがって,仮に被告表示器Aと被告製品3の販売行為を実質的にセット販売と評価し得るとしても,その販\n売行為をもって本件特許権1の直接侵害行為と評価することはできない。
(5) 以上より,被告による被告表示器Aと被告製品3の製造,販売等の行為は本件特許権1の直接侵害行為に該当しない。\n
カ 主観的要件について
(ア) 特許法101条2号においては,「発明が特許発明であること」(主観
的要件1))及び発明に係る特許権の直接侵害品の生産に用いる「物がその発明の実
施に用いられること」(主観的要件2))を知りながら,その生産,譲渡等をすること
が間接侵害の成立要件として規定されている。
(イ) 主観的要件1)について
a 被告は,本件発明1(本件特許1に係る発明)の存在を知った時期
は,本件第1特許の特許請求の範囲を本件発明1に係る構成要件のように訂正することを認めるとの審決(甲20)がされたことを知った平成28年11月16日で\nあると主張している。
そこで,まず,特許発明について特許請求の範囲の訂正があった場合には,訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に主観的要件1)を満たすことになるのか,
それとも,訂正前の特許請求の範囲に係る発明を知っていれば,特許請求の範囲が
訂正された後の発明との関係でも,主観的要件1)を満たすことになるのかを検討す
る。
特許法101条2号が主観的要件1)を間接侵害の要件とした趣旨は,同号の対象
品は適法な用途にも使用することができる物であることから,部品等の販売業者に
対して,部品等の供給先で行われる他人の実施内容についてまで,特許権が存在す
るか否かの注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を害するとの点にある。
他方,特許請求の範囲等の訂正は,特許請求の範囲の減縮や誤記等の訂正等を目的
とするものに限られ(特許法126条1項),特許請求の範囲等の訂正は,願書に
(最初に)添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にお
いてしなければならず(同条5項),かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変
更するものであってはならないとされている(同条6項)。そして,特許請求の範囲
等の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における特許請求の範囲
により特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条)。
以上のように,特許請求の範囲の訂正が認められる場合が上記のように限定され
ていることを踏まえると,訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば,
特許請求の範囲が訂正された後の特許発明との関係でも,主観的要件1)を満たすこ
とになると解するのが相当である。このように解しても,特許法101条2号が主
観的要件1)を求めた趣旨に反するわけではないし,第三者にとって不意打ちとなる
こともないからである。
なお,本件第1特許の特許請求の範囲の訂正も誤記の訂正及び特許請求の範囲の
減縮を目的とするもので,その他の訂正の要件も満たしており(甲19の1ないし
20),被告製品3は本件発明1の技術的範囲に属する以上,上記訂正前の本件発明
1の技術的範囲にも属することは明らかである。
b 本件では,被告は訂正前の本件発明1の存在を知っていたことを自認しているものの,その時期は原告からの警告書を受領した平成25年4月2日で
あると主張している。これに対し,原告は被告が訂正前の本件発明1の存在をその
登録時の平成17年7月22日から知っていたと主張していることから,以下,被
告が平成25年4月2日よりも前に訂正前の本件発明1の存在を知っていたかを検
討する。
(a) 証拠(甲1,5,34,乙1ないし3,19,20)及び弁論の
全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・
確かに,上記(a)の4)と5)の事実だけを見れば,原告の主張は理解し得ないわけで
はないが,表示されたラダー回路の接点・コイルの指定による検索機能\\\自体は,被
告自身が平成8年12月以降,販売している「MELSEC QnA」という汎用シーケンサにおいて採用されていたのであり,GOT900で初めて採用された機
能とは認められない。そして,GOT900では,「MELSEC QnA」とは異なり,タッチパネル
によって接点・コイルを指定するものとされており,これは変更点であり,訂正前
の本件発明1との共通点ではあるが,このような変更がされたのは,そもそもの操
作方法が「MELSEC QnA」ではキーボードであったのに対し,GOT90
0ではタッチパネルが採用されていたためとみることも可能である。したがって,上記事実から,被告が本件第1特許の出願を知っていたことが推認されるとまでい\nうことはできない。
そして,GOT1000でワンタッチ回路ジャンプ機能が採用されたのは,GOT900においてタッチパネル上で接点・コイルを指定して検索する機能\能\\が採用さ\nれていたことの延長線上にあるものと見ることも決して不合理ではない。
以上のような事実関係に照らせば,被告が本件第1特許の登録時に訂正前の本件
発明1の存在を知っていたとまで推認することはできない。そして,平成25年4
月2日にされた原告から被告への警告書の送付以外に,被告が訂正前の本件発明1
の存在を認識し得たことをうかがわせる事情は認められない。
なお,原告は,被告と原告はトヨタからの受注を獲得すべくしのぎを削っていた
こと(甲32)や,原告や被告が他社との契約において,納入品の製作・納入に当
たり,第三者の特許権等を侵害しないよう,万全の注意を払うべき旨が明記されて
いること(甲41)を指摘しているが,これらは一般的な事項にすぎず,上記具体
的な事実関係に照らせば,被告が訂正前の本件発明1を知っていたことを推認させ
る事実になるとはいえない。
したがって,被告が平成25年4月2日より前に訂正前の本件発明1の存在を知
っていたと認めることはできない。
c 以上より,被告が訂正前の本件発明1の存在を知ったのは平成25年4月2日であると認められる。
(ウ) 主観的要件2)について
a 被告は,被告製品3には本件発明1を実施しない実用的他用途が存
在しており,また基本的に販売代理店に対して被告製品3を販売しているにすぎな
いから,被告製品3がユーザの下で本件発明1の実施に用いられることを知らない
と主張している。
b まず,どのような場合に主観的要件2)を満たすものと考えるべきか,
すなわち,適法な用途にも使用することができる物の生産,譲渡等が特許「発明の
実施に用いられることを知りながら」したといえるのはどのような場合かについて
検討する。
そもそも,特許法101条2号の間接侵害は,適法な用途にも使用することがで
きる物(多用途品)の生産,譲渡等を間接侵害と位置付けたものであるが,その成
立要件として,主観的要件2)を必要としたのは,対象品(部品等)が適法な用途に使用されるか,特許権を侵害する用途ないし態様で使用されるかは,個々の使用者
(ユーザ)の判断に委ねられていることから,当該物の生産,譲渡等をしようとす
る者にその点についてまで注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を著し
く欠くおそれがあることから,いたずらに間接侵害が成立する範囲が拡大しないよ
うに配慮する趣旨と解される。
このような趣旨に照らせば,単に当該部品等が特許権を侵害する用途ないし態様
で使用される一般的可能性があり,ある部品等の生産,譲渡等をした者において,そのような一般的可能\性があることを認識,認容していただけで,主観的要件2)を
満たすと解するのでは,主観的要件2)によって多用途品の取引の安全に配慮するこ
ととした趣旨を軽視することになり相当でなく,これを満たすためには,一般的可
能性を超えて,当該部品等の譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあり,そのことを当該部品等の生産,譲渡等をした者において認識,認\n容していることを要すると解するべきである。
他方,主観的要件2)について,部品等の生産,譲渡等をする者において,当該部
品等の個々の生産,譲渡等の行為の際に,当該部品等が個々の譲渡先等で現実に特
許発明の実施に用いられることの認識を必要とすると解するのでは,当該部品等の
譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあることを認識,
認容している場合でも,個別の譲渡先等の用途を現実に認識していない限り特許権
の効力が及ばないこととなり,直接侵害につながる蓋然性の高い予備的行為に特許権の効力を及ぼすとの特許法101条2号のそもそもの趣旨に沿わないと解される。\n以上を勘案すると,主観的要件2)が認められるためには,当該部品等の性質,その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外的
とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に
存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容している
ことを要し,またそれで足りると解するのが相当であり,このように解することは,
「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」との文言に照らしても
不合理な解釈ではない。
ア 本件の間接侵害への特許法102条1項の適用の可否
上記認定事実のとおり,本件では,被告製品3はプログラム(ソフトウェア)\nであるのに対し,原告の製品は表示器(ハードウェア)に予\めプログラム(ソフト\nウェア)がインストールされた完成品であるという相違がある。このことも踏まえ,
被告は,間接侵害には特許法102条1項は適用されないと主張している。
特許法102条1項本文は,侵害者が「侵害の行為を組成した物」を「譲渡した
・・数量」に,特許権者等が「その侵害行為がなければ販売することができた物」の
「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を,特許権者等が受けた損害の額と
することができる旨を定める。この規定は,侵害行為がなければ特許権者等が利益
を得たであろうという関係があり,そのために特許権者等に損害が発生したと認め
られることを前提に,特許権者等の損害額の立証負担を軽減する趣旨に基づくもの
であるが,そこに定める損害額の算定方法からすると,これにより算定される損害
の額は,特許権者等の「その侵害行為がなければ販売することができた物」の逸失
販売利益に係る損害の額であることを前提にしており,さらに,侵害者の「侵害の
行為を組成した物」の譲渡行為と特許権者等の「その侵害行為がなければ販売する
ことができた物」の販売行為とが同一の市場において競合する関係にあることも前
提としているものと解される。
他方,物の発明に係る間接侵害が対象とするのは,実施品の「生産に用いる物」
の譲渡等であり,実施品を構成する部品だけでなく,実施品を生産するための道具\nや原料等の譲渡等もこれに含まれるから,必ずしも侵害者の間接侵害品の譲渡行為と特許権者等の製品(部品等のこともあれば完成品のこともある)の販売行為とが
同一の市場において競合するとは限らない。そして,本件のように間接侵害品が部
品であり,特許権者等が販売する物が完成品である場合には,前者は部品市場,後
者は完成品市場を対象とするものであるから,両者の譲渡・販売行為が同一の市場
において競合するわけではない。しかし,この場合も,間接侵害品たる部品を用い
て生産された直接侵害品たる実施品と,特許権者等が販売する完成品とは同一の完
成品市場の利益をめぐって競合しており,いずれにも同じ機能を担う部品が包含さ\nれている。そうすると,完成品市場における部品相当部分の市場利益に関する限り
では,間接侵害品たる部品の譲渡行為は,それを用いた完成品の生産行為又は譲渡
行為を介して,特許権者等の完成品に包含される部品相当部分の販売行為と競合す
る関係にあるといえるから,その限りにおいて本件のような間接侵害行為にも特許
法102条1項を適用する素地がある。
したがって,本件では,以上の考え方に基づき各要件の解釈をすることを前提に,特許法102条1項の適用を肯定するのが相当である。
イ 「侵害の行為がなければ販売することができた物」について
(ア) この要件に該当する「物」について,原告は,プログラム(ソフトウ\nェア)を表示器(ハードウェア)にインストールした原告の製品全体であると主張\nするのに対し,被告は,原告がハードウェアとソフトウェアを別個に販売していな\nいことから,原告の製品はソフトウェアである被告製品3と競合関係にないとして,\n原告の製品が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たらないと主
張している。
しかし,前記アで述べたところからすると,本件のような間接侵害の場合の「侵
害の行為がなければ販売することができた物」とは,特許権者等が販売する完成品
のうちの,侵害者の間接侵害品相当部分をいうものと解するのが相当である。
(イ) これを本件についてみると,原告の製品では回路モニタ機能や「追い\nかけモニタ機能」及び「ズームアップ検索機能\」が使用可能で,これは被告製品3\nで使用可能な回路モニタ機能\やワンタッチ回路ジャンプ機能(本件発明1の構\成要
件1E及び1Fの構成を充足する機能\)と同様の機能であって,これが原告の製品\nに予めインストールされているプログラム(ソ\フトウェア)による機能であること\nは明らかである。したがって,原告の製品と被告製品3を用いた完成品とは,その
ようなソフトウェアが格納又はインストールされているという点で共通していると\nいうことができるから,原告の製品は,被告製品3を用いた完成品と市場で競合する物であるということができる。
そうすると,本件での「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,
原告の製品全体のうちの,被告製品3に対応するプログラム(ソフトウェア)部分\nである。
ウ 「譲渡数量」(侵害者が譲渡したその侵害の行為を組成した物の数量)に
ついて
本件では被告による被告製品3の生産,譲渡等の行為について間接侵害の成
立が認められるから,被告製品3が「その侵害の行為を組成した物」に該当する。
なお,原告は被告表示器Aもこれに含まれると主張して,原告の製品(完成品)\nの単位利益に乗じるものとして被告表示器Aの販売数を問題としているが,被告表\
示器Aの製造,販売について間接侵害が成立しないことは,前記3(1)及び(2)エ(ア)
で判示したとおりであり,そうである以上,特許法102条1項の適用に当たって,
被告表示器Aが「その侵害の行為を組成した物」に該当することはないというべき\nである。
そして,原告は,被告製品3を「その侵害の行為を組成した物」とする場合の予\n備的な主張として,被告製品3の販売数を譲渡数量としているところ,平成25年
4月1日から平成29年12月末までの被告製品3の販売数は,合計●(省略)●
台である(前記(2)ウ)。
被告が本件発明1(本件特許1)の存在を知ったのは平成25年4月2日であり,
同日以降の被告製品3の譲渡等について間接侵害が成立することから,上記認定の販売数から同月1日の販売数を控除する必要がある。本件の主張立証から同日の販
売数は明らかでないから,同月の販売数(●(省略)●台)を4月の日数である3
0で除した●(省略)●台(1台未満は四捨五入)を同月1日の販売数と認めるほ
かない。したがって,同月2日から平成29年12月末までの被告製品3の販売数
は,合計●(省略)●台と認められる。
なお,被告は,間接侵害が成立するのは主観的要件を具備して行った被告製品3
の生産,譲渡等のみであり,その立証がされていないと主張しているが,被告の行
為が間接侵害の主観的要件を具備していることは,前記3(2)カで判示したとおりで
ある。
エ 侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益
額について
(ア) 原告の製品全体の平成25年度の1台当たりの限界利益額が●(省略)
●円であることは,当事者間に争いがなく(前記(2)イ),その他の年度についても同様と推認されるところ,上記イで認定したとおり,「侵害の行為がなければ販売す
ることができた物」に当たるのは原告の製品のうちのプログラム(ソフトウェア)\n部分であるから,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額をもって「単位\n数量当たりの利益額」に当たるとみるべきことになる。
(イ) この点に関し,被告は,自らの製品のカタログ(甲5)記載の表示器\n(被告製品1−1)とソフトウェア(被告製品3−1)の参考標準価格を参考にし\nて,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額を算出すべき旨主張している。\nこれに対し,原告は被告が被告表示器の価格を高く設定し,ソ\フトウェアである被
告製品3の価格を低く設定するビジネスモデルをとっているから,被告の価格設定
を参考とすべきではなく,本件発明1の価値の高さに鑑み,ソフトウェア部分の寄\n与度は9割を下らないと主張する趣旨と解される。
被告製品1−1の参考標準価格は22万円から53万円,被告製品1−2の参考
標準価格は22万円から43万円であるのに対し,被告製品3−1の参考標準価格
は,単体ライセンス品で●(省略)●万円,200ライセンスまで登録可能なサイ\nトライセンス品で4万円である(前記2(2)ア(カ),(キ)参照)。このように,サイト
ライセンス品と単体ライセンス品との価格差がわずかであり,被告表示器のような\n生産設備に用いる装置の場合,通常は複数台が購入され,その場合にはサイトライ
センス品が購入されると考えられることからすると,通常の場合には,被告表示器\n1台当たりに必要なソフトウェア費用が極めて安価になり,原告が指摘するようなソ\フトウェアで利益を上げないビジネスモデルが存在している可能性もある。その\nため,サイトライセンス価格や実際の被告表示器1台当たりのソ\フトウェア費用
(被告の主張によっても平成26年における被告表示器Aの販売台数は被告製品3\nの販売枚数の約60倍であるから被告主張のとおり単価は500円となる。)を参考
として,被告表示器の参考標準価格と比較する場合には,ソ\フトウェアの価値が不
当に低く算定されることになり,相当でないと考えられる。しかし,単体ライセン
ス品の参考標準価格を用いる場合には,被告表示器1台のみを購入する場合が想定\nされるから,この場合にはソフトウェアによる採算も軽視されないはずであるし,\n単体ライセンス品の参考標準価格は●(省略)●万円であるから,被告表示器のよ\nうなハードウェアと被告製品3のようなソフトウェアに要する一般的な原価の差も\n考えると,ハードウェアとソフトウェアの価値が相応に反映されていると考えられ\nる。
他方,原告は,原告の製品における本件発明1の寄与度が9割を下らないと主張
するが,前記1の認定・判示によれば,従来技術を参酌して導かれる本件発明1の
特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定して入力要素を検索す\nるに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にすぎないから,製品全
体に対するその寄与度は9割を大きく下回ると考えられる。
以上からすると,本件で原告の製品の利益におけるソフトウェア部分の利益を算\n定するには,被告表示器1Aと被告製品3−1の参考標準価格を参考にして原告の\n製品におけるソフトウェア部分の限界利益額を算定するほかないというべきである。\nこれを参考にして被告表示器1Aと被告製品3−1の合計額に占める被告製品3\n−1の価格割合を算定すると,被告表示器1A(ただし,被告製品1−2のうちそ\nもそも回路モニタ機能等を使用できない機種及び生産を終了した機種は除く。)のカ\nタログ記載の参考標準価格は,平均すると●(省略)●円(税抜)であり(甲5),
被告製品3−1の通常の単体ライセンス品の参考標準価格は●(省略)●万円であ
る(税抜)から,被告製品3−1の価格の全体に占める割合は,●(省略)●%(0.1%未満四捨五入)と認められる。
なお,被告は被告製品1−1の参考標準価格の平均値をもとに算定しているが,
被告製品3−1がインストールされて回路モニタ機能等が使用され得る被告製品に\nは被告製品1−2も含まれるから,被告製品1−2の参考標準価格も参考にすべき
である。また,被告は1枚の被告製品3が約60台の被告表示器Aにインストール\nされていることを前提に,被告製品3の価格を500円として算定しているが,そ
のような場合の価格が被告製品3の価値を反映したものであるのかについては前記
のとおり問題があるから,被告製品3−1の通常の単体ライセンス品の参考標準価
格である●(省略)●万円をもって同製品の価格であると認めるのが相当である。
(ウ) 以上より,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額(1台当\nたりの金額)は,上記(ア)記載の金額に●(省略)●%を乗じた4118円と認めら
れる。
オ 「販売することができないとする事情」の有無
(ア) まず,被告は被告製品3と原告の製品とが競合することはないから,
原告の譲渡数量の全部について,原告が販売することができない事情が存在すると
主張しているが,この主張に理由がないことは,前記アで認定・判示したとおりで
ある。
(イ) 次に,被告は,被告製品3を購入した者の全てが回路モニタ機能を使\n用しているわけではないとか,回路モニタ機能を使用するのにオプション機能\ボー
ドの設置が必要な被告製品1−2を購入した者のうちオプション機能ボードを購入\nしたのは約4分の1にとどまり,実際に回路モニタ機能等を使用していないユーザ\nはさらに多く存在すると主張する。
特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は,特許権を侵害しない用途な
いし態様で使用することができるものである。そして,そのような部品等の譲渡は,譲渡先での使用用途ないし態様のいかんを問わず間接侵害行為を構成するが,実際\nに譲渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には,譲渡先
の顧客は当該特許発明の価値に吸引されて当該部品等を購入したわけではないから,
間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与しておらず,そのような譲渡先については,
間接侵害行為がなければ特許権者の製品が販売できたとはいえないことになる。し
たがって,特許権者等の損害額の算定に当たっては,そのような事情は,特許法1
02条1項ただし書の事由を構成すると解するのが相当である。\nこれを本件についてみると,先に2(4)イ(イ)で述べたとおり,乙17及び18に
よれば,回路モニタ機能等に対応している被告製品1−2を購入した者のうち,オ\nプション機能ボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められ,被告製品1\n−1や被告表示器2Aのユーザが須く回路モニタ機能\等を目的にこれらを選ぶとま
で認めることは困難である。このように譲渡先が回路モニタ機能等を利用しない場\n合があることは,特許法102条1項ただし書の事由として考慮すべきであるが,
その程度が明らかでないから,その考慮は極めて限定的になし得るにとどまるとい
うべきである。
(ウ) 次に,被告は,1)原告がPLC用表示器の市場において意味のあるシ\nェアを有していないこと,2)原告の製品のソフトウェアに占める本件発明1の貢献\n度(寄与度)は高くても0.1%を上回ることはないこと,3)原告が宣伝広告活動において「追いかけモニタ機能」や「ズームアップ検索機能\」を重視していなかっ
たことを指摘している。
a 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事
情」は,侵害行為がなければ特許権者等の製品を侵害品と同じ数量だけ販売できた
との相当因果関係を阻害する事情を対象とするものである。
b そして,被告の主張1)について,前記(2)エ認定の事実によれば,プ
ログラマブル表示器について,原告のシェア(販売数量)と被告のシェア(販売数\n量)との間には,非常に大きな差異があったと認められるところ,シェアの格差に
は,製品の魅力以外にも,営業力やブランド力等の差異も多分に影響するものであ
るから,原告と被告のシェアに大きな格差があるという事情は,このような営業力
やブランド力等の差異という観点から,「販売することができないとする事情」を基
礎付ける1つの事情にはなるといえる。
c また,原告のシェアが小さいという上記の被告の主張1)は,被告以
外の他社の同種製品(競合品)が市場に多数存在しているから,被告製品3が販売
されなかったとしても,被告の製品が吸収した需要は他社の競合品が吸収し,原告
の製品の売上増加にはつながらないとの趣旨を含み,また,同様に上記の被告の主
張2)は,本件発明1の価値が低いから,被告製品3が販売されなかったとしても原
告の製品の売上増加にはつながらないとの趣旨と解される。
この点については,一般に侵害者の侵害品は特許発明の作用効果を奏するものと
して顧客吸引力を有する製品であるから,それと同等の機能ないし効果を奏するも\nのでなければ,特許発明の実施品に対抗して需要を吸収し得る競合品として重視す
ることができない。しかし,前記1の認定・判示によれば,従来技術を参酌して導
かれる本件発明1の特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定し\nて入力要素を検索するに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にす
ぎない。また,前記1で認定したとおり,従来製品として,モニタ上に表示される\n異常種類のうち特定のものをタッチして指定すると,その指定された異常種類に対
応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路が表示され,さらにそのラダー回路\nの接点をタッチしてコイルを検索することができ,1回前に検索されたラダー図と
前回路の検索もできる構成を備える製品(乙11のもの)や,同様の製品において\n異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデ
バイス名又はデバイス番号を入力して行う製品(被告のGOT900)も存在して
いた。そうすると,本件発明1に係る機能をすべて使用することができる製品が被\n告の製品以外に存在していなかったとしても,上記のような製品は存在しており,
そのような製品でも,異常現象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の
異常原因を特定したり,原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していった
りすること自体は可能であり,それほど複雑な操作を要するものではないと認められるから,原告の製品とほぼ同様の機能\を備えたものであるといえる。
また,原告の製品が,上記の本件発明1の特徴的技術手段を備えるか否かも必ず
しも明らかでない。
したがって,本件では,競合品の存在により,被告製品3が販売されなかったと
きに原告の製品が同じだけ販売されたとの相当因果関係は,かなり大きな程度で阻
害されると認めるのが相当である。
d また,上記被告の主張3)は,原告の製品において本件発明1の機能\nは重要なものではないから,被告製品3が販売されなくとも,需要者が原告の本件
発明1の機能に惹かれて原告の製品を購入することがないとの趣旨と解される。\nしかし,原告は,カタログに甲26の図を掲載することに加え,各製品の主な特
徴の1つとして,「異常発生時,画面操作のみで問題箇所まで追いかけることができ
る」ということを記載していたのであるから,実際に重要な機能として位置付けら\nれており,そして,これらの機能を顧客に対してアピールしていたと認められ,こ\nの点については被告の上記主張は採用できない。
(エ) 以上のことを踏まえると,本件では,被告製品3が販売されなかった
ときに原告の製品が同じだけ販売されたとの相当因果関係は,かなり大きな程度で
阻害されると認められる。
しかし,本件における被告製品3の譲渡数量は,前記のとおり●(省略)●枚で
あるが,被告によれば,平成26年の被告表示器Aの販売台数は被告製品3の約6\n0倍であるというのであるから,少なくとも被告製品3は1枚当たり約60台の被
告表示器Aにインストールされたといえる。これに対し,原告の製品は,表\示器に
ソフトウェアがインストールされた完成品であり,前記エで認定したそのソ\フトウ
ェア相当部分の単位利益の額は,表示器1台のソ\フトウェア相当部分の利益額であ
り,その販売数量も表示器の販売数量と同じになるべきものである。そうすると,\n本件において,「販売することができないとする事情」として,侵害行為がなければ
特許権者等の製品を侵害品と同じ数量だけ販売できたとの相当因果関係を阻害する
事情の程度を判断するに当たっては,このような数量ベースの差を考慮すべきであ
り,原告の製品のソフトウェア部分の数量ベースから見ると,いわば被告製品3の\n販売数量が実質的には約60倍ある関係にあることになるから,そのことを踏まえ
て,被告製品3の販売行為がなければ原告の製品のソフトウェア部分を被告製品3\nの販売数量と同じ数量だけ販売できたとの相当因果関係がどの程度阻害されるかを
検討すべきである。
そして,このような考慮に基づく場合には,前記(イ)及び(ウ)で述べた諸事情を考
慮するとしても,本件において,被告製品3の譲渡数量●(省略)●枚の全部又は
一部を「販売することができないとする事情」があるとは認められない。
カ 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
上記ウないしオの判断を踏まえると,特許法102条1項に基づく原告の損
害額は,次のとおり,●(省略)●円と認められる。
(計算式) ●(省略)●台×4118円=●(省略)●円
(4) 原告の特許法102条2項に基づく主張について
ア 特許法102条2項は,侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許
権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ,この規定の趣旨は先に同条1
項について述べたのと同様であると解される。したがって,先に同条1項について
述べたのと同様の考え方の下に,本件において同条2項の適用を肯定するのが相当
である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
(ア) これについて,原告は,被告による被告表示器Aの販売利益も含めて\n特許法102条2項の損害推定が働くと解すべきと主張している。
しかし,特許法102条2項は「その者(注:侵害者)がその侵害の行為により
利益を受けているときは,その利益の額」を特許権者等が受けた損害の額と推定す
ると規定しているところ,本件で原告の本件特許権1の侵害が認められたのは,被
告による被告製品3の生産,譲渡等であり,被告表示器Aの製造,販売については\n間接侵害の成立は否定されたから,被告による被告表示器Aの販売利益が上記「利\n益の額」に含まれないことは明らかである。これに反する原告の主張は条文の文言
に照らして採用できない。
(イ) 原告は被告製品3について,販売数や平均売価,限界利益率を推計し
て主張しているが,これらを認めるに足りる証拠がないことは,前記(2)ウで判示し
たとおりである。そこで,被告の利益額は,被告が開示した販売額(売上額)及び
限界利益率をもとに算定するほかない。
a 被告製品3の売上額
前記(2)ウで認定した別紙「被告製品3の販売数量・販売額」記載の販売
額等をもとに,被告が本件発明1(本件特許1)の存在を知った平成25年4月2
日から平成29年12月末までの売上額(販売額)を認定すると,次のとおり,●
(省略)●円と認められる(平成25年4月1日の販売数を●(省略)●枚とみる
ことにつき,前記(3)ウ参照)。
(計算式) ●(省略)●円−●(省略)●円(平成25年4月1日から同年9
月末までの販売数)×●(省略)●(同年4月2日から同年9月末までの販売数)
÷●(省略)●(同年4月1日の販売数を含んだもの)=●(省略)●円(計算過
程で生ずる1円未満の端数は四捨五入)
b 被告の限界利益率
前記(2)ウで認定した被告の限界利益率は,●(省略)●%である(別紙
「被告の変動費の内訳,加重平均値及び限界利益率」の(3)参照)。
c 被告の利益額
上記a及びbによれば,●(省略)●円と認められる。なお,これによ
れば,被告製品3の1枚当たりの利益額は,●(省略)●円である(計算式:●
(省略)●円÷●(省略)●台=●(省略)●円)。これは,前記原告の製品のソフ\nトウェア部分の単位利益額の約●(省略)●倍である。
ウ 推定覆滅事由について
(ア) 原告は被告製品3につき本件発明1の寄与度を50%と主張している
のに対し,被告はこれを1万分の1と主張するとともに,被告製品3の特徴的技術
手段の顧客への訴求力が極めて低いとか,本件発明1の技術的・商業的な価値は高
くないなどと主張している。
ここで考えるべき寄与度は,製品の顧客吸引力上の寄与度であるから,被告が主
張するようなデータ量などという物理的な側面に着目することは相当でないが,先
に特許法102条1項ただし書について述べたところ((3)オ(ウ)b,c)と同様,
本件発明1の特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定して入力\n要素を検索するに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にすぎず,
異常発生時のラダー回路の検索機能を備えた競合品も存在していたことに加え,被\n告製品3は回路モニタ機能等以外の様々な機能\を使用可能とするプログラム(描画\nソフトを含む。)が格納されていることからすると,被告製品3における本件発明1の寄与度は相当程度に低いということはできる。\nしかし,そうであるとしても,原告が原告の製品のソフトウェア部分をどの程度\n販売することができたかについては,先に特許法102条1項について述べたとこ
ろ(前記(3)オ(エ))と同様,被告製品3と原告の製品のソフトウェア部分とでは,\n数量ベースが異なり,被告製品3の販売数量が,原告の製品のソフトウェア部分の\n数量ベースから見ると実質的には約60倍ある関係にあることを踏まえる必要があ
る。
(イ) 他方,単位数量当たりの限界利益の額の差も推定覆滅に影響するとこ
ろ,その点については,被告製品3が原告の製品のソフトウェア部分の約●(省略)\n●倍大きいこと(逆にいえば,原告の製品のソフトウェア相当部分が被告製品3の\n約●(省略)●%にとどまること)も考慮する必要がある。
(ウ) 以上の事情を踏まえると,推定覆滅率は●(省略)●%と認めるのが
相当である。
(エ) 以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円と認められる。ただし,前記(3)で認定した同条1項に基づく原告の
損害額(●(省略)●円)の方が高いことから,その額を認容することとする。
(計算式) ●(省略)●円×●(省略)●=●(省略)●円
(5) 弁護士費用
原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判所に顕著
な事実),被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,430万円と
認めるのが相当である。
(6) 以上より,原告の損害額は合計4702万8368円と認められる。
9 争点7(本件特許権1又は3の間接侵害を理由とする被告製品3及び4の生
産,譲渡等の差止め及び廃棄を命じることの可否)
(1) 被告による被告製品3の製造,販売及び同製品に係るコンピュータ・プロ
グラムの使用許諾について,本件特許権1の間接侵害(特許法101条2号)が成
立するから,被告製品3(被告製品3に係るソフトウェアを記録した媒体と解され\nる。)の生産,譲渡及び同製品に係るコンピュータ・プログラムの使用許諾について
の差止めを認容すべきである。
また,被告製品3の製品は本件特許権1の侵害の行為を組成した物に当たり,ま
た被告は現在に至るまで被告製品3を生産,譲渡等していることに照らせば,同製
品が同特許権を侵害する用途として使用されるおそれがあるから,その侵害の予防\nのために同製品の廃棄を命じる必要性・相当性が認められる。
(2) なお,被告は,被告製品3には適法な用途があるから,その生産,譲渡等
を全面的に差し止め,廃棄を命じるのは過剰である旨主張する。
しかし,被告製品3に適用な用途があるとしても,被告製品3が本件発明1の特
徴的技術手段を担う不可欠品であり,その譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋
然性が高い状況が現実にあり,そのことを被告において認識,認容していると認め
られる以上,その生産,譲渡等を全面的に差し止め,その廃棄を命じるのが,多用途品であっても侵害につながる蓋然性の高い行為に特許権の効力を及ぼすこととし
た特許法101条2号の趣旨に沿うものというべきであるし,そのように解しても,
被告は,被告製品3から本件発明1の技術的特徴手段を除去する設計変更をすれば
間接侵害を免れるのであるから,被告製品3の生産,譲渡等の差止め命令及び廃棄
命令が過剰な差止め・廃棄命令であるとは解されない(なお,被告製品3にこのよ
うな設計変更をした場合でも,製品名が変わらない場合には,差止判決の対象外と
するために請求異議訴訟を経ることが必要になるが,そのような起訴責任を転換す
る負担を被告が負うことはやむを得ないというべきである。)。
◆判決本文