1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。
「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを
意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ
とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも
のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微
量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって
は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相
当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に
収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す
るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な
どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔
室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材
によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい
うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに
おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可
能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨
によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう
かが問題となり得る。
しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T
の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の
外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少
なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の
樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離
という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。
そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される
空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され
る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き
な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を
どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は,
必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ
いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】
は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ
いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様
の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい
し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発
明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か
を決定する不可欠の要素ではないと解される。
それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも
のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ
ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控
訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ
のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要
件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通
時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。
そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること
は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと
おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め
られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る
かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容
器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての
技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は,
それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2)
アと同様に解するのが相当である。
そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては,
「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論
の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」
中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア
ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収
容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ
て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微
量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹
脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。
◆判決本文
1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。
◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨
認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤
に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく
保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと
から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏
症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填
し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金
属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという
技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい
う効果を奏するようにしたものであるというべきである。
そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある
ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要
件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。
この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし
て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通
可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0
024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に
ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元
素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする
記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の
ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また,
後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している
室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。
したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他,
本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見
当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると,
及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を
覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい
て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し
ないと認められる。
そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の
空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,
同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n
分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原
告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。
◆判決本文