2016.12.14
平成27(ワ)12415 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年12月2日 東京地方裁判所(40部)
医薬品特許における「解離シュウ酸」は「緩衝剤」には当たらないとして、イ号は、技術的範囲外と判断されました。
(1) 本件発明2における「緩衝剤」は,添加されたシュウ酸またはそのアルカ
リ金属塩をいい,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝
剤」には当たらないと解することが相当である。理由は以下のとおりである。
(2)ア 化学大事典2(乙13)によれば,「緩衝剤」とは,「緩衝液をつくる
ために用いられる試薬の総称」をいうものとされている。そして,広辞苑
第六版によれば,「試薬」とは「実験室などで使用する純度の高い化学物
質」であるところ,解離シュウ酸が「純度の高い化学物質」である「試薬」
に当たるとは考えがたいから,解離シュウ酸は一般的な意味で「緩衝剤」
とはいえないというべきである。
イ 次に,本件明細書2の段落【0022】には,「緩衝剤という用語は,
本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより
望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオD
ACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸
性または塩基性剤を意味する。」と記載されている。
上記記載において,「緩衝剤」は,「酸性または塩基性剤」であると定
義されているが,広辞苑第六版によれば,「剤」とは「各種の薬を調合す
ること。また,その薬。」を意味するから,「酸性または塩基性剤」は,
酸性または塩基性の各種の薬を調合した薬を意味すると考えることが自然
であるところ,解離シュウ酸は,「各種の薬を調合した薬」に当たるとは
いえない。
ウ そして,本件明細書2の段落【0013】後段ないし【0016】には,
オキサリプラチンが水性溶液中で分解してジアクオDACHプラチンを不
純物として生成することが記載されているが,オキサリプラチンが分解す
ると,次の式のとおり,シュウ酸イオンとジアクオDACHプラチンが生
じる。また,証拠(乙39)によれば,分解により生じたシュウ酸イオン
は,一部がプロトン化されてシュウ酸又はシュウ酸水素イオンになること
が認められる。
したがって,オキサリプラチンの分解によりシュウ酸イオン等が生じた
ということは,すなわちオキサリプラチン水溶液において不純物が生じた
ことを意味するから,仮にオキサリプラチンの分解により生じた解離シュ
ウ酸が「緩衝剤」に当たるとすると,緩衝剤が防止すべき分解により生じ
たものが緩衝剤に当たるということになってしまい,上記イの「望ましく
ない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプ
ラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得る」という緩衝剤の定
義と整合しない。
エ 前記3(2)のとおり,本件発明2は,乙14発明よりも不純物が有意に少
ない,より安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とす
るものである。
ところが,本件明細書2をみると,実施例18において生成される不純
物の量と比較して,シュウ酸を添加した実施例(ただし,実施例1及び8
を除く。なお,実施例1及び8は,後記(3)エのとおり,本件発明2の技術
的範囲に含まれる実施例ではない。)において生成される不純物の量は有
意に少ないことが示されている。ここで,実施例18は,豪州国特許出願
第29896/95号(1996年3月7日公開)に記載されている水性
オキサリプラチン組成物であるが,上記出願は,乙14発明に対応するも
のであるから,実施例18は乙14発明と実質的に同一であると推認され
る。
したがって,本件発明2は,乙14発明とは異なり,オキサリプラチン
溶液組成物に緩衝剤を添加したことによって,不純物が少なく,より安定
な溶液組成物を提供することができたことを特徴とする発明と考えるのが
自然である。
オ 本件明細書2には,実施例1ないし17については,シュウ酸が付加さ
れていることが明記されている。また,本件明細書2(段落【0039】,
【0041】〜【0045】,【0047】,【0064】)では,実施
例1ないし17について,添加されたシュウ酸のモル濃度が記載されてい
るが,解離シュウ酸を含むシュウ酸のモル濃度は記載されていない。
さらに,本件明細書2は,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリ
プラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載は
ない。
この点に関して原告は,構成要件2Gの数値範囲の下限(5×10−5M)\nが,本件明細書2記載の実施例1及び8で示された下限(1×10−5M)
よりも大きいことをもって,請求項1は解離シュウ酸を考慮したものであ
ると主張するが,本件明細書2には,1×10−5Mのシュウ酸を添加した
オキサリプラチン溶液中のシュウ酸イオン等のモル濃度がどの程度になる
かに係る記載は何ら存在しておらず,原告の上記主張は裏付けを欠く独自
の見解というほかない。
以上からすると,本件明細書2の記載においては,解離シュウ酸につい
ては全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるも
のであることを前提としているというべきである。
カ また,本件明細書2における実施例18(b)に関する記載をみると,「比
較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3
月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以
下のように調製した」(段落【0050】前段),「比較例18の安定性」
「実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で
1ヶ月間保存した。」(段落【0073】)といった記載がある。そして,
前記エのとおり,豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月
7日公開)は乙14発明と実質的に同一であるから,上記各記載を総合す
ると,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いられている部分
が多いものの,その実質は本件発明2の実施例ではなく,本件発明2と比
較するために,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩
衝剤が用いられていない従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製し
たものであると認めるのが相当である。
そうすると,本件明細書2において,緩衝剤を添加しない水性オキサリ
プラチン組成物に関する実施例18は,本件発明2の実施例ではなく,比
較例として記載されているというべきである。
キ さらに,証拠(乙64,65)によれば,本件特許2の出願人が,本件
特許2に対応する米国特許出願(乙64)について,米国特許庁に提出し
た意見書(乙65)において,「甲等の水溶液組成物(本願21頁に記載
されている甲等の組成物(比較例18)についての安定性データを参照)
において見出されるよりも有意に少ない量でこのような不純物を生成する
オキサリプラチンのより安定な溶液組成物が,オキサリプラチンの溶液組
成物に有効安定化量の緩衝剤を加えることにより得られることを,出願人
は予想外にも見出したのである。」などと記載し,緩衝剤が添加されるも\nのであること及び実施例18が比較例であることを前提とした主張をして
いたことが認められる。
また,証拠(甲36)によれば,本件特許に対応するブラジル特許出願
に関し,出願人が,ブラジル特許庁に提出した拒絶処分に対する不服申立\nてにおいて,「本願発明にあるシュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物
が発生しないということである。」と,緩衝剤を添加する旨の主張をして
いたことが認められる。
これらのことは,本件発明2においても,緩衝剤とは添加されたものに
限られると解されることの裏付けとなる事実であるというべきである。
◆判決本文
関連事件(同一特許、異被告)です。
◆平成27(ワ)28699等
◆平成27(ワ)29001
◆平成27(ワ)29158
同一特許の別訴事件で、1審(平成27(ワ)12416号)では技術的範囲内と判断されましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
◆平成28(ネ)10031
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2016.11.12
平成28(ワ)15355 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 民事訴訟 平成28年10月31日 東京地方裁判所
「緩衝剤」の文言について、技術的見地、明細書の記載、先行技術などから判断し、技術的範囲に属しないと判断されました。
a 以上のとおり,本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」
を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,
例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ない
ことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶
液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるも
のであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤の\nモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書
は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ
酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外
部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュ
ウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」と
いう用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1
における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得
ない。
すなわち,本件発明1は,専ら,オキサリプラチン水溶液に,緩衝剤として,シ
ュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)することにより,オキサリ
プラチン溶液中のシュウ酸濃度を人為的に増加させ,平衡に関係している物質の濃
度が増加すると,当該物質の濃度が減少する方向に平衡が移動するという原理(ル
シャトリエの原理)に従い,結果として,オキサリプラチン溶液中におけるジアク
オDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純
物の量を,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)しない場合よ
りも,減少させることを目した発明と把握するべきであり,そのように把握するこ
とにより,初めて,本件明細書の段落【0031】が「本発明の組成物は,オキサ
リプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明して
おり,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明
の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオ
DACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していることや,本件
明細書には,シュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを,構成要件1Gが規定する数値の\nモル濃度だけ,オキサリプラチン溶液に「添加」する実施例のみが開示されている
こと,さらには,本件明細書に開示された実施例において,解離シュウ酸の量を明
記していないことや,他の不純物の量から解離シュウ酸の量を推計することを示唆
する記載すらないことなどを整合的に説明できるのである。
また,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属
塩を添加(外部から付加)して得られたオキサリプラチン溶液組成物は,これを添
加しないオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも,ジアクオDACHプラ
チン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量が減少す
るから,客観的構成において異なる(すなわち,「物」として異なる。)ことにな\nるということもできる。
b 他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張す
るように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDAC
Hプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,
本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有
している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イ
オンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)
を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を
含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべ
きである。すなわち,本件優先日時点において,例えば,濃度が5mg/mLのオ
キサリプラチン水溶液が公知であった(乙1の1)。そして,当該水溶液中のオキ
サリプラチンが分解して解離シュウ酸が生成されることは,その生来的な性質であ
り(本件明細書の段落【0013】ないし同【0016】参照),シュウ酸が平衡
に関係している物質であることも同様であるところ,種々の条件下である程度の期
間保存された濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液中には,解離シュウ酸が
存在し,その量が,5x10−5M以上となることが多いことが,乙13の3試験,甲2
0試験(「5x10−5M」として,有効数字を1桁とする以上,「4.86x10−5M」又は
「4.94x10−5M」も,「5x10−5M」とみて差し支えない〔乙12参照〕。),乙3
2試験及び乙37試験の各結果から,さらには,本件特許権に係る原告デビオファ
ームの延長登録出願の願書(乙33)の記載から認められる(なお,上記認定は,
上記各試験が乙1の1実施例の追試として妥当であるか否かはともかく,少なくと
も,公知の組成物である濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液において,解
離シュウ酸のモル濃度が5x10−5M以上となることは,ごく通常のことであると認め
るのが相当であることを指摘したものである。)。そうすると,公知の組成物であ
るオキサリプラチン水溶液中に存在し,同水溶液の平衡に関係している物質である
シュウ酸イオン(解離シュウ酸)に,「平衡に関係している」という理由で「緩衝
剤」という名を付け,上記のとおり通常存在しうる程度のモル濃度を数値範囲とし
て規定したにとどまる発明は,公知の組成物と実質的に同一の物にすぎない新規性
を欠く発明か,少なくとも当業者にとって自明の事項を発明特定事項として加えた
にすぎない進歩性を欠く発明というほかはない。
c したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で
分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当で
ある。
◆判決本文
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2016.10.28
平成28(ネ)10042 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年10月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
島野工業vsAppleの控訴審で、1審判断(非侵害)が維持されました。均等侵害も否定されました。珍しく、無効主張については判断されていません。1審では、下記のように判断されています。
本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。)。
判決文の最後に、イ号と本件発明の対比図面が掲載されています。
証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告
製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えている
ものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接
触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球
状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触するこ
とによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されてい\nる。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,
コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている。
このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低
減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しな
いという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。\n加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボ
ールを使用する必要はない。
他方,本件発明においては,前記(2)のとおり,1)傾斜凹部を略円錐面形状とする
ことによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安
定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに
伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,2)さらに,傾斜凹部の中
心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプ
ランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢する
ことを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケ
ースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするも\nのである。
以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触
に関し,技術的意義を異にするものということができる。
(ウ) 控訴人の主張について
a 控訴人は,コマ状部材とプランジャーピンの材料である金属は,弾性変化す
るものであるから,両部材は,必ず面で接触し,点で接触することはあり得ない旨
主張する。
しかし,甲第52号証によれば,球と平面が接触する場合,理論的には,接触部
分は点であり,接触面積を持たないものの,実際には,接触部分が変形することに
よって接触面積を持ち,接触部の形状が円になり,このような接触は,「点接触」と
呼ばれる。前記(イ)において,被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピン
の大径部の傾斜凹部と1点のみで接触するというのも,上記点接触の趣旨であり,
控訴人主張に係る弾性変化した状態の接触を排除する趣旨ではない。
b 控訴人は,甲第4号証を根拠として,被告製品のコマ状部材は,コイルバネ
から押圧されてその弾性力を受け止めており,同弾性力がコマ状部材と本体ケース
との間の摩擦力よりも大きいときは,空滑りして傾かず,本体ケースに接触しない
旨主張する。
しかし,甲第4号証に掲載された被告製品の写真からは,コマ状部材が本体ケー
スにわずかでも接触しているか,全く接触していないかは,必ずしも明らかではな
い。また,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置がオフセットさ
れていることに鑑みると,通常,コマ状部材が本体ケースに接触しないという事態
が頻繁に生じることは考えにくく,そのような事態は,被告製品の通常の用法にお
いて想定されていないものと考えられる(乙54参照)。
c 控訴人は,プランジャーピンに流れる電流の総和は決まっているので,プラ
ンジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができれば,コイルバネに流
れる電流量を相対的に減じることができ,コイルバネの焼切れの防止にもつながる
旨を主張する。
しかし,上記主張のとおりであったとしても,本件明細書には,被告製品のよう
にプランジャーピンと本体ケースとの接触に加え,押付部材であるコマ状部材と本
体ケースとの接触により合計4つの電流経路を確保することによって被告製品の電
気抵抗を低減させるという技術的思想は,開示されていない。
d なお,控訴人は,乙第38号証に掲載された被告製品のプランジャーピンの
図においては,底部の形状が傾斜凹部をなしていないが,これは,正確なものでは
なく,甲第32号証の1・2が,被告製品の正確な設計図である旨主張する。しか
し,控訴人が指摘する乙第38号証の図面は,「マッシュルーム要素及びプランジャ
ーの形状を大まかに描写した断面図」(乙38)であり,甲第4号証及び乙第38号
証に掲載された被告製品の写真並びに控訴人が被告製品の正確な設計図である旨主
張する甲第32号証の1・2により,前記(イ)のとおり認定することができる。
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構\成の有無
前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左
右2箇所で接触して電流経路を確保している。
他方,前記(1)のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請
にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量
を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明
の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内\nに収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が
本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべ
きである。
したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。\nほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本
体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置
をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径
部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの
内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部\nの中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位
置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部
材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プラン
ジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大
径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部
材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ
状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないか
ら,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構\成中,「押圧」に該当
するものはない。
・・・
しかし,特許請求の範囲に記載された構成中,相手方が製造等をする製品又は用\nいる方法と異なる部分が存する場合において,均等侵害の成立が認められるために
は,上記異なる部分の全てについて均等の5要件が満たされることを要する。
前記2のとおり,本件特許請求の範囲に記載された構成と被告製品とは,1)構成\n要件Dの「押付部材」につき,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触
端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしなが
ら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決す
るための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されてい\nることが開示されており,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保
することは,開示されていないのに対し,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本
体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している点において異な
るほか,2)構成要件Dの「押圧」は,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾\n斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものであるのに対し,被告製品のコマ状部
材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中
心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではない点においても異なる。
控訴人は,これらの相違点のうち,構成要件Dの「押付部材」が球形であるのに\n対し,被告製品のコマ状部材が球形ではないという点についてのみ均等の5要件を
主張するにとどまるから,主張自体,失当である。
なお,前記2(4)のとおり,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピ
ンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。そして,前記
1のとおり,本件明細書には,従来技術として,金属製の本体ケースに設けられた
長穴にコイルバネを挿入した上でプランジャーピンを挿入し,本体ケースからプラ
ンジャーピンの先端部分のみが突出する位置を保持されるという接触端子において,
プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させ,プランジャーピンの本
体ケース内の端部が斜面となっていて,絶縁球がプランジャーピンを本体ケースの
長穴の内面に押し付けることができるようになっており,これによって,プランジ
ャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができるとの構成が開示されてい\nる(【0002】,【0004】,【0006】)。したがって,本件発明においては,前記2のとおり,1)プランジャーピンの大径部に,単なる斜面ではなく,略円錐面形
状の傾斜凹部を設け,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸
上に安定して位置させるよう「押圧」すること及び2)傾斜凹部の中心軸をプランジ
ャーピンの中心軸とオフセットさせることによって,コイルバネが,押付部材を介
して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に
付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンから本体ケース
へ確実に電流が流れるようにすることが,従来技術に見られない,特有の技術的思
想を構成する特徴的部分に当たるというべきである。\n前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違すること
が明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成26(ワ)20422
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2016.10.11
平成27(ワ)7147 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年9月15日 大阪地方裁判所
文言は被侵害、均等侵害も第1要件を充足していないとして否定されました。メーカではなく販売店が被告というのも興味深いです。
すなわち均等侵害が認められるためには,本件発明と被告方法の構成に異な\nる部分が存在する場合であっても,その部分が本件発明の本質的部分ではないこと
が要件となるところ,ここでいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明
の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成す\nる特徴的部分であると解すべきであり,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明
細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法36条4項,特許法
施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第\n116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許
請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴\n的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(知財高裁平成
28年3月25日特別部判決)。
・・・
本件発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,本件発明は,本件
特許の特許請求の範囲請求項1の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方
法として,「粉砕段階」,「加熱段階」を含む複数の動作段階を設定し,それら動
作段階の一部についてはその順序,時間,回数等を具体的に指定し,穀物の粉砕手
段及び加熱手段を一体化した組合せとすることにより,通常のおかゆの調理方法に
おいて時間を要していたふやかしの時間及び全体の調理時間の短縮を図り,また,
通常の調理方法においてはかきまぜの継続によって解消していたおかゆの焦げ付き
も防止するなど,より簡便,迅速に本来の風味を有するおかゆの調理ができるよう
にしたものであると認められる。
ところでおかゆの調理方法として,加熱や粉砕の動作を適宜組合せることは,周
知であるから(本件明細書の【0005】),本件特許の特許請求の範囲請求項1
の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方法である本件発明における本質
的部分とは,調理方法を決定するところの「粉砕段階」,「加熱段階」,「待機段
階」という一連の動作段階の設定,及び各動作段階において具体的に規定された粉
砕及び加熱の動作並びに待機の順序,各動作及び待機の時間,各動作及び待機の回
数等を一体化した組合せそのものにあると認められる。
(6) これに対し,被告方法は,既述のとおり,少なくとも,その第1及び第2の
粉砕段階において,本件発明の構成要件として規定された粉砕と待機とは異なる時\n間,回数の粉砕と待機がなされるものであるから,動作等の組合せにおいて,本件
発明の一体化した組合せとは異なっており,この相違部分は本件発明の本質的部分
に存するものといわなければならない,
したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足するとは認められない。
◆判決本文
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2016.10. 4
平成27(ネ)10016 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年9月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審で均等主張をしましたが、知財高裁は、第2要件を満たさないとして、均等でないと判断しました。
ア 前記2のとおり,1)本件発明1−1は,一次原反ロールから薬液が塗布され
た二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り
手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込まれ,同製造ライン上をシートが上
記各手段を経ながら間断なく流れるように構成された二次原反ロールの製造設備で\nあるプライマシンを備えているのに対し,2)被告設備は,一次原反ロールから薬液
が塗布された二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRから積層連続シー
トSを形成する積層手段であるシート合わせロール10,積層連続シートSをスリ
ットするスリット手段であるスリッター101及びスリットされた積層連続シート
Sを巻き取ってロール102とする巻取り手段である巻取り装置131から成る製
造ラインと,上記製造ラインとは別に設けられた薬液塗布手段であり,同製造ライ
ンから移送されたロール102から繰り出される積層連続シートSに薬液を塗布す
る薬液塗布装置11及び薬液が塗布された積層連続シートSを再度巻き取って二次
原反ロールRとする巻取り手段である巻取り装置132から成る製造ラインに分か
れている。
そこで,本件発明1−1において一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反
ロールを製造するプライマシンを,被告設備における上記2つの製造ラインと置き
換えても,本件発明1−1の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する
かについて検討する。
イ 前記1のとおり,本件発明1−1の課題は,薬液塗布工程をプライマシンや
マルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる,\n薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛かるという問題の発
生を回避し,同構成よりも低コストで薬液塗布を行うことができ,かつ,薬液塗布\nの有無を容易に切替え可能である製造設備を提供することであり,その解決手段は,\n一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液
塗布手段,スリット手段及び巻取り手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込
まれ,同製造ライン上をシートが上記各手段を経ながら間断なく流れるように構成\nされたプライマシンを備える構成とすることである。同構\成の採用によって,薬液
塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける場合
と比較して,その場合に起きる,薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設
備コストが掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることが
でき,また,薬液を塗布しない製品を製造する場合は,プライマシンから薬液塗布
手段を省略すれば足りるので,薬液塗布の有無を容易に切り替えることができると
いう効果を奏する。
ウ そして,被告設備は,前記アのとおり,一次原反ロールから薬液が塗布され
た二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRからロール102を形成する
製造ラインとは別に,薬液塗布装置11が設けられており,上記製造ラインから原
反(ロール102)を薬液塗布のために薬液塗布装置11に移送するというもので
ある。したがって,本件発明1−1において一次原反ロールから薬液が塗布された
二次原反ロールを製造するプライマシンを,被告設備における2つの製造ラインと
置き換えれば,少なくとも,本件発明1−1の目的のうち,薬液塗布工程をプライ
マシンやインターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる薬液塗布の\nために原反を移送する手間が掛かるという問題の発生を回避し,同構成よりも低コ\nストで薬液塗布を行うことができる製造設備を提供するという目的を達成すること
ができず,薬液塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは
別に設ける場合と比較して,その場合に起きる薬液塗布のために原反を移送する手
間が掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることができる
という効果を奏しなくなることは,明らかである。
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◆一審はこちら。平成24(ワ)6547
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2016.09. 8
平成26(ワ)25928 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年8月30日 東京地方裁判所
構成要件Gを満たさないと判断されました。均等侵害についても、第1要件を満たしていないとして、否定されました。
ウ さらに,本件特許の出願経過からも上記解釈は裏付けられる。すなわち,
原告は,本件特許の審査段階において,特許庁から平成15年1月21日
発送の拒絶理由通知(乙8)を受けたところ,そこには「…請求項1の記
載では本願発明の目的である通過すべき経由地点の設定中にすでにそれら
の経由地点のいずれかを通過してしまった場合でも,正しい経路誘導を行
うための構成である『設定指令が入力された時点での車両現在位置を探索\n開始地点として記憶し,この記憶された探索開始地点と,経路データが設
定され移動体の経路誘導が開始される時点での移動体の現在位置を比較す
る』点が明確に記載されていない。…よって,請求項1は,特許を受けよ
うとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではな\nい。」とされていた。原告は,上記拒絶理由通知に対応して,同年2月5
日受付の意見書(乙9)を提出し,そこにおいて「審査官殿のご指摘の通
り,本願発明における探索開始地点と経路誘導地点に関する上述の点が不
明瞭であると考えますので,『設定指令が入力され,経路の探索を開始す
る時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段』
と構成要件を加えることにより,探索開始地点が記憶されることを明確に\nするとともに,経路データ設定手段が『記憶した探索開始地点を基に経路
の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する』と補正して探索開
始地点と経路データの関係を明確にし,制御手段おける記憶された探索開
始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました。」(1頁下9行
〜2行)と記載し,併せて,同日受付の手続補正書(乙10)を提出して
上記記載に沿った補正を行い,探索開始地点と誘導開始地点とを比較する
ことを明確にしたものである。以上の出願経過も,構成要件Gに係る上記\n解釈を裏付けるものである。
(2) しかるところ,被告装置において,「探索開始地点」と「誘導開始地点」
を比較して両地点が異なるかどうかを判断しているものと認めるに足りる証
拠はない。
かえって,証拠(乙16の1)によれば,被告装置においては,1)経路誘
導の計算が行われ,これが終了すると,出発地点P0から目的地Pnまでの
経路を示す経路リンクのリストがメモリに保存され,2)他方で,上記1)の経
路誘導とは独立して,継続的に,車両の現在位置Cと地図データの地図リン
クとのマッチングが行われ,その際,車両の現在位置Cと,地図データのノ
ード間を結ぶ地図リンクとを比較することで,車両の現在位置Cと一致する
地図リンクを特定し,3)上記2)のマップマッチングで特定されたリンクが上
記1)の経路リンクの一つと直接対応すると,道路境界領域の処理は行われず,
その代わりに地図リンクと一致する経路リンクに基づいて誘導が行われ,他
方で,現在位置Cが,マップマッチングによって特定された経路リンクに載
っていない場合,所定の方法で絞り込んだ道路境界領域内のリンクと現在位
置とを比較してリンク上に載っているか否かの判定をするとの作業が行われ
ていることが認められる。
なお,乙16の1は,補助参加人の関連会社所属のエンジニアが作成した
宣誓書であるが,同記載内容は,被告装置の制御に関する他の証拠とも矛盾
がなく,これを特段疑う理由もないから,信用できるものといえる。
以上からすれば,被告装置では,探索開始地点と誘導開始地点とを比較し
て両地点が異なるか否かを判断するという作業は行われず,あくまで,車両
の現在位置が所定の経路リンク上に載っているか否かが判定されているにす
ぎないから,被告装置は本件発明の構成要件Gを充足しないものというべき\nである。
・・・・
このように,本件発明が,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始
地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来\n技術における問題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の
有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の
異同を判断することを定めており,この点は,従来技術にはみられない特有
の技術的思想を有する本件特許の特徴的部分であるといえる。
そして,本件明細書(甲2)において,上記「ずれ」を判断する方法とし
て,上記両地点を直接比較する方法以外の方法は何ら記載されておらず,そ
れ以外の方法が想定されていたとは認められない。
また,前記2(1)ウ認定の本件特許に係る出願経過からも,探索開始地点
と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断することが本件発明の本質
的部分であることは明らかである。
なお,原告自身も,本件発明においては「探索開始地点に関する情報」と
「誘導開始地点」とを比較する旨主張している(原告第9準備書面9頁参照)
ところ,上記「探索開始地点に関する情報」の中核は「探索開始地点」自体
であるから,原告の上記主張を前提としても,本件特許において,探索開始
地点と誘導開始地点との比較が本質的部分であるといえる。
以上からすれば,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同
を判断することが本件発明の本質的部分というべきであり,かつその比較方
法としては,両地点を直接比較することが当然に予定されているものであっ\nて,これに反する原告の主張は採用できない。
なお,原告は,従来技術において,経由予定地点を超えた地点となったこ\nとを判断する必要性すら認識されていなかった以上,この点に関する下位概
念的な具体的な手段まで本質的部分であるとはいえないとも主張する。しか
し,前述のとおり,本件発明において探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」
を問題とし,その有無を判断するために,上記両地点を比較することが必須
であり,この点が本件発明を特徴付けているといえるものであって,その比
較の具体的手段が単なる下位概念であるとはいえないから,原告の上記主張
も採用できない。
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2016.07. 7
平成27(ワ)6812 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月23日 東京地方裁判所
搾汁ジューサについて、均等侵害が認められました。興味深いのが損害額200万円がすべて代理人費用という点です。
上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が
解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の
効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が
網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁
が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と
するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において
防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余
地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円
筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかに\nより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明
の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について
前記イのとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム
の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水
円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また,
これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁
を効率的に排出することができる。
他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,\n被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案
内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を
汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のス\nクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され
て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置
されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ
ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路
の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒
を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し
たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作
用効果を奏するということができる。
以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果
を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。\nこれに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに
より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能と\nはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして
も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で
あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について
本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された
圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され
た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一
体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く
空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及
びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落
【0045】,【0052】,【0056】,【図3A】,【図3B】)。この
とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔
(底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出
路に流入する(段落【0072】),すなわち,底部リング(網ドラ
ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路
に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の
外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技
術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング
に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流
路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告
製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると,
本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ
ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え
るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって,
圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの
は容易であるというべきである。
これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件
発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採
用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で
あるということができる。
・・・
3 争点 (原告の損害額)について
前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す
るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得
たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ
に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ
ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論
せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告
が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから,
独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記
請求は理由がないことになる。
本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ
き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対
する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。
◆判決本文
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2016.07. 5
平成28(ネ)10017 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日 知的財産高等裁判所 知的財産高等裁判所
第2,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
ところで,商品の基礎情報である価格等は変わる場合があるところ,顧客
の注文前に商品の基礎情報が更新された場合,Web−POSサーバ・システムが
有する情報は,更新された後の商品情報のみであるから,Web−POSサーバ・
システムは,顧客が注文した商品の価格等を把握することができない(乙20)。
また,Cookieを用いたWeb技術は,サーバ側で識別情報としてテキスト・
データをWebブラウザごとに割り当て,更に,そのテキスト・データをWebブ
ラウザの情報と対応付けて管理することにより,Webサーバ側において,HTT
Pリクエストの送信元を識別等するというものにとどまる(甲25)。よって,W
eb−POSサーバ・システムは,Cookie情報を受信しても,顧客が注文し
た商品の価格等を把握することはできない。
そして,前記(ア)のとおり,本件ECサイトの管理運営システム内のサーバは,
顧客が注文した商品の価格等を把握するために,顧客のコンピュータからリクエス
ト情報とともに受信したCookie情報をもとに,顧客のコンピュータに表示さ\nれた「レジ」画面情報の原本に当たる情報を同サーバから呼び出すという制御方法
を追加で採用することにより,顧客が注文した商品の価格等を把握するに至ってい
るものである。
(ウ) したがって,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する\n構成において,Web−POSサーバ・システムがCookie情報等は取得する\nものの,注文された商品に係る商品基礎情報を取得しないという本件ECサイトに
おける構成を採用した場合には,本件発明のように,Web−POSサーバ・シス\nテムは,注文時点における商品ごとの価格などが含まれた基礎情報をリアルタイム
に管理することができないというべきである。
エ 小括
よって,本件ECサイトの制御方法,すなわち,オーダ操作が行われた際に,W
eb−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される
情報に,注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに,Cookie情報等を含
めるという方法では,本件発明と同一の作用効果を奏することができず,本件発明
の目的を達成することはできない。
したがって,均等の第2要件の充足は,これを認めることができない。
・・・・
前記1(2)ウのとおり,控訴人は,本件発明は,引用文献1に記載された発明に
基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないとの拒絶理由通知に対して,本件意見書を提
出したものである。
そして,前記1(2)ウ及びエのとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文
献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないとい
う点との相違を明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報
等を含んだ商品ごとの情報である旨繰り返し説明したものである。
そうすると,控訴人は,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関\nする具体的な構成において,Web−POSサーバ・システムが取得する情報に,\n商品基礎情報を含めない構成については,本件発明の技術的範囲に属しないことを\n承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価す
ることができる。
そして,本件ECサイトの制御方法において,管理運営システムにあるサーバが
取得する情報には商品基礎情報は含まれていないから,同制御方法は,本件発明の
特許出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものということが
できる。
したがって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
ウ 控訴人の主張について
これに対し,控訴人は,本件意見書において,POS管理を実現できる複数の構\n成の中から意識的にある構成を選択したり,ある構\成を排除したりしたものではな
いと主張する。しかし,上記のとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を
明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報等を含んだ商品ご
との情報である旨繰り返し説明していたものである。そうすると,控訴人は,本件
意見書において,本件発明のうち,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御\n過程に関する具体的な構成については,Web−POSサーバ・システムが取得す\nる情報には必ず商品基礎情報を含めるという構成を,意識的に選択したことは明ら\nかであるといえ,控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第34145号
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2016.07. 5
平成28(ネ)10007 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
第1,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
前記イのとおり,控訴人は,本件特許の出願時,座席を連続して揺動させること
が可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するもの
について,旧請求項1においては,座席支持機構を特段限定せず,旧請求項2にお\nいては,座席支持機構をロッド2点支持方式に限定し,旧請求項3においては,座\n席支持機構を,座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能\な
スライド手段を設けたことを特徴とする」ものに限定していたものである。そして,
控訴人は,本件補正により,旧請求項1を,本件特許の特許請求の範囲から削除し,
その範囲を旧請求項2及び旧請求項3に限定したものである。
このように,控訴人は,本件補正において,座席を連続して揺動させることが可
能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するものにつ
いて,拒絶理由通知に対応して,座席支持機構を特段限定していない旧請求項1を\n削除し,座席支持機構にロッド2点支持方式を採用する旧請求項2(本件発明)及\nび座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能なスライド手段\nを設けたことを特徴とする」方式を採用する旧請求項3に限定したものである。そ
して,本件発明の出願時には既に,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児\n用の椅子等の座席支持機構として,コロと湾曲レールを利用した方式が存在するこ\nとは周知であり(乙3〜5),コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機
構は,上記のとおり削除された旧請求項1に係る座席支持機構\の範囲内に客観的に
含まれるものである。
したがって,控訴人は,コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機構に\nついても,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそ
のように解されるような行動をとったものと評価することができる。
よって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,本件特許の出願当時,動力機構としてソ\レノイドを用い,座席支持機
構としてコロと湾曲レールを利用するという各構\成を組み合わせた乳幼児用の椅子
等は存在せず,また,動力機構としてソ\レノイドを用いることから生じる課題も公
知ではなかったから,本件特許の特許請求の範囲に,座席支持機構としてコロと湾\n曲レールを利用する方式も含めることは容易ではなく,さらに,拒絶理由を回避す
るために,座席支持機構についてロッドを利用した方式に限定したものでもないと\n主張する。
しかし,控訴人が,本件補正において,ロッド2点支持方式等を除く方式に係る
座席支持機構を包括的に削除したとの事実の評価は,客観的に判断されるべきもの\nである。
そうすると,このような控訴人の本件補正時における具体的な認識や本件補正の
目的は,均等の第5要件の充足に関する結論を左右するものではない。
(4) まとめ
よって,均等のその余の要件の成否について検討するまでもなく,各被告製品は,
均等の第1要件及び第5要件を充足しないから,各被告製品が本件発明と均等なも
のとしてその技術的範囲に属するということはできない。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第25196号
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2016.06.15
平成27(ワ)8704 特許権 民事訴訟 平成28年5月12日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。
「電子ショッピングシステム」の意義についても,本件明細書中に明確な定
義はないが,「ショッピング」が一般的な意味において売買を指すことは明らかで
あるし,加えて構成要件Fからすると,この電子ショッピングには,少なくとも「注\n文」と「受注」が起きることが必要であるし,また本件明細書の【0001】には,
【発明の属する技術分野】として「本発明は,例えばレコードショップ等が加盟す
るフランチャイズ制の電子ショッピングシステムに関し,インターネットを利用し
た電子商取引の技術分野に関する。」とあり,さらに【発明の効果】を記載した【0
042】に「受注データにしたがって当該会員に商品を引き渡すと共に代金を受領
することにより,自らホームページを所持しなくても,インターネットを利用した
商取引が可能となる。」とあることから,ここにいう「電子ショッピングシステム」\nとは,インターネットを利用してされる有償の商品の取引を指すものと解するのが
相当であり,その取引においては,「注文」と「受注」,すなわち売買契約締結に
向けて顧客からの具体的法律行為がなされ得ることが必要であると解される。
これに対し,原告は,電子ショッピングシステムの定義について,商品の広告,
受発注,設計,開発,決済などのあらゆる経済活動と捉えるもので,商品の宣伝で
あってもこれに含まれる旨主張するところ,確かに,本件明細書には,「電子ショ
ッピングシステム」でなす経済活動について,「電子商取引」(【0001】,【0
005】,【0038】,【0043】),「商取引」(【0013】,【004
2】)などとする記載があり,さらに証拠(甲19ないし21)によれば,「電子
商取引」の定義については上記原告主張に一部沿うものが認められる。
しかし,「宣伝」に触れる記載(甲19)は,取引ではなく,インターネット上
の商行為について触れるものであるし,「広告」を含む通商産業省の定義(甲20)
は,その当時の郵政省の定義とは異なることからすると,これは省庁の規制目的で
対象範囲の定義をしていると理解でき,直ちに一般的に通用する定義に結びつくも
のとはいえない。
そして,そもそも,ここでは本件発明の構成要件にいう「電子ショッピングシス\nテム」の定義を問題にしているのであるから,上記説示のとおり本件明細書の記載
を考慮して解すべきであって,したがって,「電子ショッピンング」に,少なくと
も原告の主張するような宣伝,広告までを含んで解することはできないというべき
である。
(イ) これを前提に被告システムにつき検討するに,被告システムは,前記認定の
とおり,顧客は各提携企業のホームページにおいて,講演会の講師を選択し,当該
講師の「講演を依頼する」タグを選択することにより現れる問合せ画面に名称,住
所,電話番号等の自らを特定する情報を記載し,さらに講演の希望内容を入力する
などして送信すると本部のサーバーがこれを受信し,それに伴って各提携企業サー
バーにeメールが送信されることで各提携企業が得る上記情報を基に,顧客を訪問
する,電話ないしメール等で連絡を取り合うなど営業活動をして,顧客の希望に沿
った講演会の内容・レベル・対象・講師・構成などを聴取し,顧客と契約できるよ\nう交渉を行うという方式である。
すなわち,被告システムの役割は,講演開催運営を取り扱う各提携企業に対し,
講演開催希望者がインターネットを使ってアクセスするホームページを設けて,そ
の潜在的需要を顕在化させ,もって各提携企業が営業活動をすべき講演開催希望者
の情報を得ることができるというところまでであり,その後の講演開催実現に至る
までの営業活動は,インターネット外,すなわち被告システム外の接触交渉が予定\nされているというものである。また,その機会における顧客が被告システムを利用
して「お問い合わせ(講演依頼)」をする行為は,漠然とした講演開催希望に基づ
くものであってもよく,したがって,これにより提携企業との間で講演開催に向け
ての交渉が開始されたとしても,それだけでは当事者間に法的な関係が直ちに生じ
たとはいえないから,被告システムは,それは最終的に締結されるだろう講演開催
委託契約に向けての各提携企業の営業活動の契機を与えるものにすぎないものとい
える。そして,このように見ると,被告システムでされている内容は,潜在的需要
者をインターネットでアクセスさせ,その潜在的な需要を顕在化させ,その情報を
もとに実際の営業活動に結びつけるという,一般的な広告宣伝の手法と何ら変わら
ないものといい得る。
なお,被告システム利用者の中には,希望講師のみならず講演会開催の日時,場
所とも確定して利用する者が含まれることはあり得るところ,その場合,そのよう
な「お問い合わせ(講演依頼)」によるアクセス行為は,商品購入の注文に極めて
似ているといえるが,その場合であっても,被告システムを介して,そのアクセス
を受けた各提携企業は,自らが講演する主体ではなく,また掲載講師のスケジュー
ルを管理している主体とも認められないから,直ちに承諾,すなわち「受注」する
ことができるわけではなく,その後,講師との関係を調整して,具体的講演開催に
向けて交渉を重ねる必要があるはずであって,したがって,利用者の 「お問い合わ
せ(講演依頼)」をいかに具体化しても,これを売買契約における「注文」に準じ
るものということができるわけではない。
したがって,被告システムは,構成要件Aにいう「電子ショッピングシステム」\nには相当しないというべきである。
◆判決本文
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2016.05.11
平成26(ワ)26079 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年4月27日 東京地方裁判所
特許権侵害ではないと判断されました。原告は日本および中国の大手通信会社を被告として、数件訴訟しています。特許も複数あるようです。
この点,原告は,情報処理技術分野における用語法などからすれば,「選択」
には全てを選択することが含まれると主張し,ユーザ端末が全部のサブバンドを選
択することもこれに該当する旨主張する。
しかし,仮に,本件各発明に関連する技術分野において「選択」との文言が上記
のように用いられることがあるとしても,加入者が全部のサブバンドの差分CQI
を報告する以外の選択肢がなく,常に全部のサブバンドの差分CQIを報告しなけ
ればならない状態についてまで,「選択」の語義に含まれると解するのは妥当でな
い。前記前提事実に記載のとおり,被告通信システム方法及び被告製品においては,
基地局により本件モードを選択している以上,加入者は,基地局からのパイロット
信号に対し,全てのサブバンドの差分CQIを報告する以外に選択の余地はないの
であるから,原告の上記解釈は採用することができない。
また,原告は,本件明細書の段落【0028】,【0040】,【0069】に
は,全部のクラスタが選択されることを包含する内容の記載があること,実質的に
も,全部のサブバンドを選択してフィードバックした方がかえってフィードバック
情報量を削減できるといえることなども主張するが,原告が掲げた本件明細書の上
記各段落の記載によっても,常に全部のクラスタについての情報を「選択」すると
いう実施形態は明示されていない。なお,本件明細書の段落【0028】には,
「フィードバック内の情報の順序を基地局が知っている限り,フィードバック内の
どのSINR値がどのクラスタに対応しているかを示すためにクラスタインデクス
が必要になることはない。」としか記載されていないから,仮に,この実施形態が
全部のクラスタについての情報をフィードバックする実施形態を含むとしても,こ
のようなフィードバックの形態と加入者による「選択」との関係が不明であり,少
なくとも,常に全部のクラスタについての情報を報告する態様を「加入者による選
択」の一形態として含むことについて,本件明細書に明確な記載はないものという
べきである。かえって,原告の主張する解釈1を採用すると,本件発明4の課題解
決のための一つの構成として規定された構\成要件4F,あるいは本件発明9の課題
解決のための一つの構成として規定された構\成要件9Eにおける「前記加入者が選
択した・・・クラスタのグループの中の・・・クラスタを・・・割り当てる」との
意義が失われるというべきで,上記の解釈1は妥当でないと言わざるを得ない。
◆判決本文
◆同じ特許での被告が異なる事件でも同様に判断されています。平成26(ワ)24183
◆同じ特許での被告が異なる事件でも同様に判断されています。平成26(ワ)34227
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2016.05. 1
平成27(ネ)10127 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年4月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
均等の第5要件で侵害なしとした一審判断が維持されました。
前記(2)の認定事実によれば,第1手続補正前の時点では,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」については,「Web−POSサーバ・システム」で行われるのか,あるいは,「Web−POSクライアント装置」で行われるのかを含め,発明特定事項としては何ら規定されていなかったが,控訴人は,第1手続補正によって,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」について,「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後にした第2手続補正において,特許請求の範囲を本件請求項1の構\成要件F4のとおり補正し,この第2手続補正に基づく特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)について,特許査定を受けたものであるということができる。そして,第2手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web−POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web−POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web−POSサーバ・システム」で行われる構\成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web−POSクライアント装置」で行われる構\成に限定して特許査定を受けたものということができる。上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。\n
◆判決本文
◆一審はこちら。平成26(ワ)27277
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2016.04.21
平成25(ワ)29520 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月30日 東京地方裁判所
クレームの用語「ICSネットワークアドレス」を技術的に分析して、該当しないと判断されました。
ウ 以上の本件明細書1の記載によれば,「ICSネットワークアドレス」とは,
コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つI
CS(統合情報通信システム)において,これを構成するアクセス制御装置,アク\nセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,
VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で
唯一の識別符号を指すものであり,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるア
ドレスは,ICSネットワークフレームを構成するネットワーク制御部に格納され,\n同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網
内を転送されるものを意味すると認められる。
エ しかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置
されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接
続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN
に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ
とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場
合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報
であって,被告システムにおいて「ICS論理端子」に該当しうる「PE−CEイ
ンターフェイス」に網内で唯一付された識別子であるとは認められない。
加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル
ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため
に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのである\nから,仮に,被告システムの「PE−CEインターフェイス」に網内で唯一付され
た識別子が存在しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の
値と一致するものとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,M
PLSフレームが各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信
側PEルータによって参照され,これによりパケットを出力すべきPE−CEイン
ターフェイスが特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部によっ
てPE−CEインターフェイスを特定するものであるから,VPN識別ラベル
(innerラベル)の値が,特定のPE−CEインターフェイスに網内で唯一付され
た識別子と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足り
る的確な証拠もない。
オ なお,原告は,網内転送ラベル(outerラベル)及びVPN識別ラベル
(innerラベル)の「2つのラベルに含まれる情報」や「ラベルの組合せ」をもっ
て,「ICSネットワークアドレス」に該当すると主張しているようにも思われる
ところ,確かに,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)及びV
PN識別ラベル(innerラベル)が付されたパケットは,最終的に所望のPE−C
Eインターフェイスを経由して特定のユーザに送信されることとなるが,上記のと
おり,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレスと
して独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)にお
いて,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線\nとの接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網
サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであり,
かつ,このうち,ICS論理端子に付されたアドレスは,ICSネットワークフレ
ームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されること\nにより,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味するの
であって,単に「所望のICS論理端子にICSユーザフレームを到達させるため
に同ICSユーザフレームに付される情報」一般を包括的に含む広範な概念を指す
ものとは認められないから,原告の主張は採用できない。
カ したがって,被告システムは,「ICSネットワークアドレス」を有しない
から,構成要件1−1A,同1−1B及び同1−2Aをいずれも充足しない。\n
◆判決本文
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2016.04.21
平成27(ネ)10126 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年4月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁も、物の発明ではないと判断し、控訴棄却しました。
これに対し,控訴人は,「手順・プロセス」が含まれていても,「構造\n・構成」に発明性を備えるものは「物の発明」であるところ,本件特許発明\nは,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構\造」によって,本件
明細書に記載された発明の作用効果を得ることを目的とする「物の発明」で
あって,テーブルを「設置し」と建築物等を「配置する」の前後関係は,技
術的には何ら価値がなく,本件特許発明の構成要件ではないなどと主張する。\n しかしながら,これらの控訴人の主張は,あくまでも,本件特許発明にお
ける「地盤強化工法」が構造ないし構\成を意味することを前提とするもので
あり,前記アのとおり,かかる「地盤強化工法」が工事の方法を指すと解さ
れる以上,控訴人の上記主張は,その前提において採用することができな
い。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成27(ワ)14339
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2016.04. 1
平成27(ネ)10107 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
第1要件により均等侵害否定されました。1審では、文言解釈により技術的範囲に属しない、また進歩性なしとして特許104条の3により権利行使不能と判断されていました。\n
これらの記載によれば,本件特許発明1の特徴となる技術的意義の一
つは,弾性腕の接触部についての有効嵌合長が短くなるという課題を解決するため
に(【0005】【0008】),複数の弾性腕が,いずれも,端子の基部から接触線
に沿って平行に延びるという解決手段を採用することによって(【0013】,【00
25】,【0042】),端子の基部から延びる弾性腕が接触線を跨ぐことで相手端子
と当接することを防ぎ,その結果,各弾性腕を長く形成することができ(【0013】),
そのため,有効嵌合長を大きく確保することができるという効果を奏する(【001
9】)ものであるから,弾性腕が,端子の基部から接触線に沿って平行に延びること
は,本件特許発明1の効果を奏するために必要となる,特徴的な構成であると認め\nられる。
これに対し,本件特許発明1において,弾性腕の間に設けられた中央壁15は,
実施例で言及されているだけであるから,本件特許発明1において発明特定事項と
なる必須の構成ではなく,また,本件特許1の明細書に従来技術に関する文献とし\nて掲げられた特開平8−236187号公報(甲19)に加え,特開2003−1
68505号公報(乙12),特開平6−76896号公報(乙15),バーグエレ
クトロニクスジャパン株式会社カタログ(乙19。平成10年1月ころ発行)から
も明らかなとおり,本件特許1の出願日及び本件特許2の原出願日である平成20
年8月5日当時において,コネクタでは,2つの端子の接触部側の間に,相手端子
を当接して停止させる効果をもたらす中央壁が必ず設けられるという技術常識は存
在しないから,当業者にとって,上記中央壁の設置が当然の構成ということもでき\nない。そして,中央壁が存在しない場合には,弾性腕の根元部分が接触線を跨ぐと,
有効嵌合長が短くなるし,仮に,中央壁を設ける場合であっても,弾性腕の根元部
分が中央壁よりも常に高い位置に設けられるとは限らないから,例えば,弾性腕の
最も根元の部分が,中央壁よりも低い位置から開始し,かつ,接触線に対して端子
溝側にある場合であっても,弾性腕が屈曲形状を有していて,中央壁よりも高い位
置で接触線を跨ぐときには,有効嵌合長が短くなることも想定され,したがって,
有効嵌合長の長さは,常に中央壁よりも高い弾性腕部分の長さになるわけではなく,
弾性腕の根元部分の位置や弾性腕の形状等にも左右される。本件特許1の明細書に
記載された従来技術としては,特開平8−236187号公報(甲19)では,相
手端子が当接する中央壁が存在しないコネクタが実施例として,特開2002−1
75847号公報(甲20)では,相手端子が当接する中央壁が設けられたコネク
タが実施例として開示されているから,これらの従来技術を踏まえた本件特許発明
1は,相手端子が当接する中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を長くすること
を確実にする効果を目指していた発明ということができる。
そうすると,本件特許発明1は,中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を大き
く確保することを課題とする発明である以上,当該効果を確実に実現するためには,
弾性腕の一部だけが接触線に対して一方の側に位置すれば足りるわけではなく,そ
の全体が接触線に対して一方の側に位置することが不可欠であり,複数の弾性腕全
体が接触線の一方の側にあるという発明特定事項は,本件特許発明1の本質的部分
といえる。
(エ) これに対し,被控訴人製品1,2のいずれにおいても,内側接触子2
3(「上位に位置する弾性腕」)の内側湾曲部23Aの根元部分は,直線(接触線)
Xを跨っているから,弾性腕が,接触線に対して一方の側に位置しているとはいえ
ない。
したがって,被控訴人製品は,本件特許発明1の本質的部分である構成要件1B\nと相違するから,均等の第1要件を充足しない。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成26(ワ)18842
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2016.03.30
平成26(ワ)20422 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月17日 東京地方裁判所
Appleと島野製作所の特許侵害訴訟です。島野の請求は棄却されました。理由は、イ号の「コマ」は本件発明にいう「押付部材」には該当しないというものです。裁判所は、明細書の記載および本件が分割出願であることも考慮しました。
本件発明の「押付部材」に対応する被告製品中の「コマ」は,別紙被告ポゴ
ピン断面図のとおり,球形ではなく,一部に球状の面を有するにとどまる。被
告が押付部材は球に限られるので被告製品は構成要件D2を充足しない旨主張\nするのに対し,原告は押付部材の一部(プランジャーピンの傾斜凹部に押圧さ
れる部分)が球状の面であれば足りる旨主張するので,以下,検討する。
(1) まず,特許請求の範囲の記載をみるに,本件発明は,コイルバネで付勢し
てプランジャーピンを突出させる接触端子に関するものであり(構成要件A\n〜C),コイルバネがプランジャーピンを直接押圧するのではなく,コイル
バネとプランジャーピンの間に「押付部材」が介在し,これがコイルバネか
ら付勢を受けて,その「球状面からなる球状部」がプランジャーピンの傾斜
凹部を押圧することに特徴がある(構成要件D1〜3)。\nこの「押付部材」という語は当該部材が果たす機能をそのまま記述したも\nのであるところ,その形状に関しては,プランジャーピンの傾斜凹部に押圧
される部分が「球状面からなる球状部」であるとされるのみであり,それ以
外の部分(コイルバネから付勢される部分,コイルバネ側とプランジャーピ
ン側の中間部分)の形状については特許請求の範囲に何ら記載がない。そう
すると,上記押圧される部分が球状に丸くなっていればそれ以外の部分はい
かなる形状でもよいと解する余地がある。他方,押付部材の形状は,上記機
能を果たし得るものに限定されると考えられる上,同機能\\を果たすものであ
ればいかなる形状の部材でも本件発明の技術的範囲に含まれるとすることは,
現に発明をして明細書に開示した範囲で保護を与えるという特許制度の趣旨
に反しかねない。そこで,特許請求の範囲に記載された「押付部材」の語の
意義を解釈するため,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載及び図
面を考慮することとする。
(2) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「押付部材」との語は一
切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイ
ルバネの間に介在する部材として開示されているのは「絶縁球」のみであり,
図面に示されたのも球のみである。
すなわち,本件発明は,背景技術として,コイルバネが直接プランジャー
ピンに触れるとコイルバネに電流が流れて焼き切れてしまうので,プランジ
ャーピンとコイルバネの間に絶縁球を介在させた接触端子が存在したことを
前提に(段落【0002】〜【0004】),比較的大きな電流を流し得る接
触端子を提供することを目的として(同【0008】),プランジャーピンの
大径部(コイルバネ側)の端部を切削して袋孔を形成し,その底部を円錐面
とするとともに,円錐の中心軸とプランジャーピンの中心軸をオフセットさ
せることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周
面に強く押し付け,確実に電流を流すことができるようにしたものである
(同【0009】,【0013】〜【0015】)。そして,実施例及び参考例
をみても,押付部材に相当する部材としては「絶縁球」のみが記載されてい
る(同【0024】〜【0030】,【0032】,【0036】,【0039】
〜【0042】,【図2】,【図4】,【図6】)。
以上のとおり,押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみで
あり,これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当た
らない。そうすると,本件明細書の記載を考慮すると,本件発明における押
付部材の形状は球に限られると解するのが相当である。
(3)さらに,本件特許の出願経過についてみるに,後掲の証拠及び弁論の全趣
旨によれば,1)本件特許は,特願2011−192407号を優先権の基礎
とする特願2011−271985号(原出願)から分割出願されたもので
あること(甲2),2)上記優先権の基礎とされた出願及び原出願は,いずれ
も名称を「接触端子」とする発明に関するものであり,特許請求の範囲,発
明の詳細な説明及び図面を通じ,プランジャーピンとコイルバネの間に介在
する部材として記載されているのは「絶縁球」のみであること(乙13,1
4),3)本件特許は平成25年4月19日に分割出願されたものであり,そ
の特許請求の範囲に,プランジャーピンとコイルバネの間に「押付部材」を
介在させる旨記載されたこと(乙15),4)原告は,同年10月11日,押
付部材に係る特許請求の範囲の記載を「少なくとも一部に球状面を有する押
付部材の球状部」と補正したこと(乙17),5)これに対し,同月25日,
特許法36条6項1号違反を理由1(発明の詳細な説明には押圧部材に絶縁
球を用いることが記載される一方,請求項1には絶縁性を有しない押圧部材
が記載されていること),同法29条1項3号及び2項の違反を理由2及び
3(原出願に「押付部材」として記載されていたのは「絶縁球」のみであり,
これを「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」とすることは適法な分
割出願でないので,請求項1記載の発明は原出願の公開特許公報により新規
性又は進歩性を欠くこと)とする拒絶理由通知が発せられたこと(乙4),
6)原告は,同年11月8日,上記4)の補正後の特許請求の範囲の記載を「押
付部材の球状面からなる球状部」と補正する旨の手続補正書と,絶縁性を有
しない押付部材でも本件発明の効果を奏するので,発明の詳細な説明に記載
されたものといえる旨の意見書を提出したこと(乙5,6),7)同月27日
に特許査定がされたこと(乙19),以上の事実が認められる。
上記事実関係によれば,本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球
状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるというこ
とができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本
件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有するこ
とが明らかである。)。
◆判決本文
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2016.03.26
平成27(ネ)10014 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁の大合議判決です。争点は製法特許についての均等主張です。知財高裁は、均等を認めた1審判決を維持しました。第5要件の特段の事情について、出願時に容易にきさいできたにもかかわらず記載しなかった場合に、原則として、第5要件には当たらないと判断しました。
この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,\n出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,\nしたがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとして\nも,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載し\nなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできな
い。
なぜなら,1)上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載さ
れた構成以外の構\成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質\n的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,
出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出
願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許
さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとす
ることとなる。また,2)出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示
した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきもので
あることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条
6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細
書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先
願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを
作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限ら
れた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲\nとこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される
場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者
は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特
許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載か
ら容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理
は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行
使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,
奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会
正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記
に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到す\nることができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外と
することは相当ではない。
(イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の
範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構\成中の異なる部分に代替する
ものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出
願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができる\nときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構\成による
発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しな\nかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記
載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,\n当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的\nにそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような
理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反し
て当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理\nに照らして許されないからである。
イ 控訴人らの主張について
(ア) 控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表\n現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの
信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記の
とおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であって
も,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者\nが容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁\n反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限
られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確で
あることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはな
り得ないから,控訴人らの主張は理由がない。
◆判決本文
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2016.03.14
平成27(ネ)10104 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審で均等侵害を主張しましたが、第1要件、第5要件を満たしていないとして、否定されました。
ア 均等侵害の第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成と相手方が製造等をする製品又は用いる方法との異なる部分が特許発明の本質的部分でないことであ\nる。そして,特許発明における本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部\n分であると解すべきである。
イ 本件各発明は,前記1(4)イのとおり,HMG−CoA還元酵素阻害剤として
高脂血症の治療に有用な,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題
とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコ
ントロールすることでその安定性が格段に向上すること及び結晶形態AないしCの
中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというもので
ある。
そうすると,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶
性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とす
る本件各発明において,特定の結晶形態をとることが,上記課題の特徴的な解決手
段であるといえる。
そして,本件各明細書には,結晶形態AないしCの3種類の結晶形態は,水分が
同等で結晶形態が異なる形態であり,結晶形態B及びCは,「いずれも結晶形態A
に特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在し
ないことから,結晶多形であることが明らかにされる。」(本件明細書1【001
4】,本件明細書2【0015】)とあるように,CuKα放射線を使用して測定
した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存在する3本のピークの回折角が存在
しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されているの
みで,結晶形態B及びCに係る回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図
を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切なく,他方で,結晶形態A
については,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折パターンとして,別
紙本件明細書1図表目録2記載のとおりの数値が記載され,同目録3記載の【図1】の記載があるのみで,それ以上の特定はされておらず,結晶形態Aに係る回折角に\nついて,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一
部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載も一切
存しない。
以上によれば,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各明細書において,本件各発明の課題の特徴的な解決\n手段である特定の結晶形態を,他の結晶形態,すなわち本件各発明の課題の解決手
段とはなり得ない結晶形態と画する唯一の構成として開示されたものであるということができる。\nしたがって,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各発明の課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核\nをなす特徴的部分であるというべきである。
ウ そうすると,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩
における15本のピークの回折角であるとする数値は,前記1(5)のとおり,原判決
別紙物件目録(1)記載のとおりであり,控訴人の特定する数値によったとしても,1
5本の全てが構成要件C・C’の回折角の数値と相違するのであるから,被控訴人製品は,本件各発明と課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的\n部分において相違していることになる。
以上によれば,被控訴人製品は,均等侵害の第1要件を充足しない。
(3) 均等侵害の第5要件について
ア 均等侵害の第5要件は,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が特許発
明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな
どの特段の事情がないことである。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通
知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相\n当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過においても,拒絶理由通知を受け,構\成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入する平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の
限定的減縮に相当するものであることを表明した。控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ\nーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された
結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対
して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本
件発明1の結晶を特定したというほかない。
そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に
含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す
ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし
いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係
る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願
当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15
本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。
以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明
の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると
解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明\nの特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。
したがって,被控訴人製品は,均等侵害の第5要件を充足しない。
◆判決本文
◆一審はこちらです。平成26(ワ)3344等
◆関連事件です。平成27(ネ)10108
◆この事件の一審はこちらです。平成26(ワ)688
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2016.03. 7
平成27(ワ)12748 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年2月23日 東京地方裁判所
特許権侵害ではないと判断されました。争点は「滑らかに当接して徐々に停止する」という文言でした。
構成要件1Iにつき,本件発明の特許請求の範囲には,「レッグレストフレーム……の当接部材」が「座席フレームの湾曲部」に「滑らかに当接」して「徐々に停止する」ものであると記載されている。この「滑らか」は,本件明細書(甲1)において定義づけられていないので,「すらすらと通るさま。つかえないさま。よどみないさま」(広辞苑〔第六版〕2103頁),「物事がよどみなく運ぶさま。すらすらと進むさま」(大辞林〔新装第二版〕1924頁)といった意味を有すると解される。また,「徐々に停止する」とは,「徐々に」が「停止」を修飾していることに照らすと,引き出されてきたレッグレストフレームの当接部材が座席フレームの湾曲部に当接すると直ちに停止するのではなく,当接した後も移動を続けつつも次第に減速して停止に至ることを意味すると解される。さらに,「座席フレームの湾曲部」が座席フレームの「開放する側の両端部」にあって「下方に鈍角状に折り曲げられた」構\造を有していること(構成要件1E。なお,構\成要件1B,1E及び1Fにいう「座部フレーム」は構成要件1Iにいう「座席フレーム」と同一の部材を指すと認める。)からすれば,レッグレストフレームの当接部材に対しては,引き出す方向に対する抵抗力が次第に大きくなる一方,下方に向かう力がかかっていくと考えられる。\n以上を総合考慮すると,「滑らかに当接して徐々に停止する」とは,引き出されてきたレッグレストフレームの当接部材が座席フレームの湾曲部に当接しても直ちに停止することなく更に引き出され続けるが,湾曲部との当接後は湾曲部から受ける力により次第に減速して,当接から多少なりとも間を置いて停止することを意味すると解される。
(2)この点につき,念のため本件明細書の記載及び本件特許の出願経過を見るに,本件明細書(甲1)においては,「発明を実施するための形態」欄において,円形当接部材が座部フレームの湾曲部の基端部に滑らかに当接すること,及び,鈍角状の上記湾曲部により徐々に停止していくので強く引き出しても衝撃がないことが記載されている(段落【0032】)。また,本件の特許出願について,引用文献(登録実用新案第3046819号公報。乙3)に基づき容易想到であるとする拒絶理由通知(乙2)に対し,原告は,特許請求の範囲(構成要件1I)に「滑らかに」を加える補正をした上,平成25年3月28日付け意見書(乙4)において,本件発明が本件明細書の上記記載のとおりの作用効果を奏するものであり,上記引用文献記載の考案は当接部が屈曲部の下側の曲線部にいきなり当接するもので,滑らかに当接し徐々に停止していくものでは全くないと述べている。\nそうすると,構成要件1Iは,レッグレストフレームを引き出した際に衝撃を感じることがないという効果を奏するために,当接部材が座席フレームの湾曲部に当接しても突然停止するのでなく,その後に次第に速度を落として停止することをいうものと解するのが相当であるから,前記(1)の解釈と合致するということができる。
(3) 以上を前提に被告製品が構成要件1Iを充足するかどうかについて検討するに,証拠(甲9,乙7の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,レッグレストフレームを前方に引き出していくと,同フレームに取り付けられた側面視略L字型のストッパー部材の上端ないし引き出し方向先端の角の部分が座席フレームの湾曲部に当接し,その直後にレッグレストフレームが,次第に減速するのではなく,ほぼ一瞬にして停止するものと認められる。\nしたがって,被告製品は,「滑らかに当接して徐々に停止する」ものでないから,構成要件1Iを充足しない。\n
◆判決本文
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2016.02.28
平成26(ワ)17390 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年2月16日 東京地方裁判所 棄却 東京地方裁判所
並行して無効審判で訂正請求がなされていますが、訂正とは異なる構成について、技術的範囲に属しいないと判断されました。\n
そこで,上記ウの解釈を前提に,被告製品1及び2が構成要件1Bの「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」を充足するかについてみる。・・ ローナル抗体はヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼと結合する。また,証拠(乙26,34)及び弁論の全趣旨によれば,このモノクローナル抗体(被告製品1につきIgG主抗体及びIgG副抗体,被告製品2につきIgM抗体)はSDS及び2ME(メルカプトエタノール)による変性処理並びに煮沸処理を経たカタラーゼを検出することが認められる。そして,これらの変性及び煮沸処理によってカタラーゼは完全に変性し,単量体となったものと考えられるから(本件明細書の段落【0116】参照),被告製品1及び2のモノクローナル抗体は変性剤で変性されたカタラーゼと結合するものであるということができる。
そうすると,被告製品1及び2のモノクローナル抗体は,ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼだけでなく,変性剤で変性されたカタラーゼとも結合するモノクローナル抗体であるから,構成要件1Bの「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」に当たらない。したがって,被告製品1及び2が構\成要件1Bを充足すると認めることはできない。
◆判決本文
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2016.02.25
平成27(ネ)10080 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年2月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
均等侵害も第5要件満たしていないとして、否定されました。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通
知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11\n月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相
当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過におい\nても,拒絶理由通知を受け,構成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入\nする平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の
限定的減縮に相当するものであることを表明した。\n控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ
ーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された
結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対
して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本
件発明1の結晶を特定したというほかない。
そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む
医薬組成物に関し, 特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの
結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に
含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す
ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし
いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係
る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願
当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15
本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。
以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明
の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると
解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一\n部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明
の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。
◆判決本文
◆平成27(行ケ)10081 こちらは、本件特許発明についての無効審判の取消訴訟です。この事件では、特許無効とした判断が取り消されていますが、上記事件ではイ号は非侵害と判断されています。
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2016.02.21
平成26(ワ)5210 損害賠償請求事件 民事訴訟 平成28年1月21日 大阪地方裁判所
均等侵害が認定されました。また、損害額について譲渡対象とならなかった分について、有償譲渡とは異なる料率が認定されました。
本件特許発明が,シートによって鼻全体を覆うことを想定していることは先に述
べたとおりである。しかし,本件明細書の記載によれば,従来のシートでも鼻の上
部に切り込みは設けられておらず(【0005】,図2),鼻の上部に当たる目頭付近
部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特
許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない
大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点
があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うこと
にあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配すると
したことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シ
ートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じる
ことなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。
これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配
することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に
固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さ
からやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本
件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではないとい
うべきである。
イ 置換可能性について
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,目頭の高さからやや下の
部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含
めた鼻全体に密着するものであると認められる。
そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用
効果を奏するものであると認められる。
ウ 置換容易性について
前記のとおり,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで
覆うことが実現されていたことからすると,切り込み線が配される台形状の領域の
上底の高さを,眼の付け根である目頭の高さよりも,目頭の1段分か2段分,下に
設けても本件特許発明と同一の作用効果を奏することは,当業者が,対象製品等の
製造等の時点において容易に想到することができたというべきである。
・・・・
(2) 被告製品の製造に関する実施料相当額
被告に納入されたパック用シート●●●●●●●●のうち,被告製品として譲渡
されたのは●●●●●●●●であり,その差である●●●●●●●●については,
納入されたが譲渡されなかったものである。しかし,被告製品のパック用シートが
特殊な形状をしていることからすると,被告は,シートの製造業者に発注して被告
製品用のパック用シートを製造させたと推認され,そうすると,被告は,パック用
シートの製造行為を行ったと評価すべきである。そして,パック用シートの製造も
本件特許発明の実施であり,侵害行為に当たるから,納入されたが譲渡されなかっ
た分も損害賠償の対象とするのが相当である。
もっとも,被告は,これらについては,その価値を市場に提供して利用したわけ
ではないことからすると,これを有償譲渡と同視し,前記の想定市場販売価格を基
礎として実施料相当額を算定するのは相当でない。そこで,これらシートについて
は,その製造自体の価値を示すものとして,その納入価格を基礎として実施料相当
額を算定するのが相当であり,証拠(乙12)によれば,シート1枚当たりの納入
価格は●●円であると認められる。この点について,原告は,これらについても想
定市場販売価格を基礎にして実施料相当額を算定すべきであると主張するが,前記
に照らして採用できない。
また,前記(1)エにおいて考慮した事情に照らせば,これらシートの納入価格には,
美容液の価値が考慮されていないから,被告製品用のシートを製造したが譲渡しな
かった場合の実施料率は,●●と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2016.02.21
平成26(ワ)25013 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年1月28日 東京地方裁判所
使用量を限定した治療薬について、用法用量がそのような投与量のものに限られると判断して、本件特許を侵害しないと認定しました。請求項1は以下の通りです。
成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられる(ただし,イソソ\ルビトールに対し1〜30質量%の多糖類を,併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする,イソソ\ルビトールを含有するメニエール病治療薬。
まず,特許請求の範囲の記載を見ると,本件発明は,所定量のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられること(構成要件A)を「特徴とする,イソ\ソルビトールを含有するメニエール病治療薬」の発明であり,メニエール病治療薬を用法用量により特定したものであるが,イソ\ソルビトールの投与量が構\成要件A所定の範囲に含まれるような用法があれば足りるのか(その範囲未満又は超過の投与量での用法があってもよいのか),用法用量がそのような投与量のものに限られるのか(それ以外の用法用量をも有する治療薬は本件発明の技術的範囲から除外されるのか)については,特許請求
の範囲に明示的に記載されていない。
上記アの本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来のイソソ\ルビトール製剤(これが被告製品1を指すことは明らかであり,その標準用量は1日当たりイソソ\ルビトール1.05〜1.4g/kg体重に相当する。甲3)の投与量が過大であり,そのために種々の問題が生じるところ,その投与量を構成要件Aに記載の0.15〜0.75g/kg体重という範囲にまで削減することによって上記の問題を解消したというものである。そうすると,本件発明の治療薬は,構\成要件A記載の範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与する用法を排除し,従来より少ない量を投与するように用いられる治療薬に限定されるということができる。換言すると,上記範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与するように用いられる治療薬は,「医師のさじ加減」個々の患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合には構成要件Aに記載された量で用いられ得るものであっても,本件発明の技術的範囲に属しないと解すべきである。このことは,上記?イのとおり,実施例又は参考例において,イソソ\ルビトールの投与量を時間的推移に着目して変動させたものが見当たらないことからも裏付けられると解される。
したがって,構成要件Aの「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソ\ソルビトールを経口投与されるように用いられる」とは,上記の用量を,患者の病態変化その他の個別の事情に着目した医師の判断による変動をしない段階,すなわち治療開始当初から,患者の個人差や病状の重篤度に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当である。\n
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2016.01.25
平成26(ワ)12198 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年12月24日 東京地方裁判所
こちらも、iPhone、iPadが侵害対象物の侵害訴訟です。Apple Japanが被告です。裁判所は、構成要件Cを充足しないと判断しました。興味深いのは、いずれも本社はアメリカ法人ですが、日本の子会社同士の訴訟です。米国にも対応特許があるようなですが、なぜ日本特許での侵害訴訟なのでしょうか?
このように,本件特許発明1において,加入者装置は,構成要件1Cで「候補サブキャリアのセット」の「選択」を行い,構\\成要件1Dで,上記「選択」した「候補サブキャリアのセット」に関して情報提供を基地局に行うものである。
一方,LTE規格の非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,N個のサブバンドで構成されている全帯域の「N個のサブバンド全部」について,サブバンド差分CQI値を報告することとされている(当事者間に争いがない。また,前記(2)のとおり,LTE規格の仕様書には,高次階層設定サブバンドフィードバックの欄に,ユーザ端末が,各サブバンドセットについて1つのサブバンドCQI値を報告しなければならない旨の記載がある。)。
イ 原告は,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されている旨主張するが(見解1),このように,LTE規格の上記モードにおいて,全てのサブバンドについて情報提供が義務付けられているとすれば,これは本件特許発明1の特徴である「選択したものについて情報提供を行う」との処理とは異なるものであって,構成要件1Cでいう「選択」や,それに引き続く構\\成要件1Dの「情報提供」があるとはいえない。
広辞苑第6版(乙3)によれば,「選択」とは,「えらぶこと。適当なものをえらびだすこと。良いものをとり,悪いものをすてること。」を意味するとされており,「選択」とは,何らかの基準を充たすものを選び出すことを意味すると解すべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には,「各加入者は(中略)性能の良い(中略)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。」と記載されており(甲4),これは実施例に関する記載ではあるが,各加入者が性能\\の良いものを選び出し,その選択したサブキャリアに関する情報を提供するという過程が記載されており,上記解釈を裏付けるものである。
また,選択を行う者が,何らかの基準に従って対象物につき選択を行った結果,全てが選ばれる場合も想定し得るが,上記のとおり,非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,常に全てのサブバンドについてのサブバンド差分CQI値を報告することとされており,このような場合には「選択」の余地はないというべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には「このフィードバックには,全てのサブキャリアについて又は一部のサブキャリアだけについてのチャネルと干渉の情報(中略)が含まれる」(段落【0010】)との記載があるが(甲4),これはあくまで,結果的に「全てのサブキャリア」が選択されることもあり得ることを前提とした記載というべきであって,常に「全てのサブキャリア」が選択されることを前提とした記載ではない。
原告は,情報処理技術分野においては,「全部の選択」等の用語の用い方はごく一般的であり,本件特許発明の「選択」の技術的意義については,単なる日本語の語義に基づくことは誤りであるとも主張する。しかし,本件特許の関連技術分野全てにおいて「選択」との文言が上記のように用いられることが通常であることを認めるに足りる証拠はないし,本件明細書においても,「選択」との文言の意義につき特段の説明はないから(甲4),原告の上記主張は採用できない。このほか,原告は,全サブバンドについてサブバンド差分CQIのフィードバックを行うことによって,情報量の低減効果があるとも主張するが,情報量の低減効果の有無と,サブバンドの「選択」の有無とは,直接関係がないことである。
ウ 以上のとおり,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件通信システム方法では,加入者装置(ユーザ端末)において本件特許発明1の規定する「選択」をしていないから,構成要件1Cを充足せず,更に,選択したものについて「情報提供」をしているともいえないから,構\\成要件1Dも充足しない。
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2016.01.25
平成26(ワ)371 債務不存在確認請求事件 特許権 平成27年12月25日 東京地方裁判所
iPhone、iPadのタッチパネル方式が侵害か争われました。損害賠償請求の不存在確認訴訟なので、Apple Japanが原告です。裁判所は、構成要件Cを充足しないと判断しました。
(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びにこれを引用する同請求項2,同請求項4及び同請求項6においては,本件各発明が,「位置検出手段により検出される複数の指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段」(構成要件C)を具備することを特徴とするタッチパネルシステムであることが規定されている。上記「複数の指示部位」には,当然,指示部位が2個である場合と指示部位が3個以上である場合の双方が含まれるところ,上記特許請求の範囲の記載の文理や,本件明細書において,入力検出面に3つの位置指示具が存在する場合に,当該3個所の位置(光量が0の領域)の中から最外端にある2個所の位置(光量が0の領域)を特定する実施例について説明がされていること(甲3の【0035】,【図7】)からすれば,当該タッチパネルシステムが具備するところの「距離算出手段」は,「位置検出手段により検出される指示部位が2個であれ3個以上であれ,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段」であると解される(換言すれば,「位置検出手段により検出される指示部位が2個である場合には,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出するが,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合には,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出するわけではない距離算出手段」はこれに当たらないと解される。)。なお,上記「最外端」という文言それ自体の意義については一義的でないようにも思われるが,本件明細書の【0035】,【0040】,【図7】,【図10】の記載及び弁論の全趣旨に照らせば,「最外端にある2個所」とは,「互いに最も離れた位置にある2個所」を指すものと解するのが相当である。\nそうすると,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合に,それら指示部位のうち最外端にある2個所(互いに最も離れた位置にある2個所)の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段を具備していなければ,当該タッチパネルシステムは,構成要件Cを充足しないというほかはない。
(2) これに対し,被告は,通常の用法である「2本指のピンチジェスチャ」(指示部位が2個である場合)においては,2つのタッチ位置が「複数の指示部位のうち最外端の2個所」にそのまま該当し,侵害となる以上,実用上特殊な場合である「3本指以上のピンチジェスチャ」(指示部位が3個以上である場合)を殊更取り上げることに意味はないなどと主張する。
しかしながら,前記(1)で説示したとおり,本件各発明の構成要件の充足性を判断するに当たっては,当該タッチパネルシステムが具備する距離算出手段がどのような距離算出手段であるのかが問われるのであって,被告の上記主張のように特定の使用態様(2本指のピンチジェスチャ)のみに着目することによって,「複数の指示部位」という文言が指すもののうちから「2個の指示部位」の場合のみを切り出し,その場合のみを基に侵害判断をすることは相当でない。そして,2本指のピンチジェスチャが通常の用法であるとしても,1)「複数の指示部位」という文言が「3個以上の指示部位」の場合をも含むことは当然である上,2)実際,頻度は少ないにせよ「3個以上の指示部位」が検出される場合があり得ること,3)被告自身,本件明細書(【0035】【図7】)において,3つの位置指示具が存在する場合について説明をしていることに照らすと,指示部位が3個以上である場合を取り上げることに意味がないなどということはできない。さらに,「最外端」の特定は,発明における動作原理にも関係することを考慮すると,被告の上記主張は到底採用することができない。
(3) 以上を前提として原告製品について検討すると,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合に,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段を原告製品が具備していることを示す証拠はない。
かえって,証拠(甲9,18,19)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品のタッチパネルに3本ないし5本の指で1本ずつタッチしてピンチ操作を行った場合,表示イメージの拡大縮小は,最外端にある2個所(互いに最も離れた位置にある2個所)の指の間の距離に基づいて実行されるものではなく,最初及び2番目にタッチされた2本の指に基づいて実行されることが認められる。
(4) そうすると,原告製品は,構成要件Cを充足しないというほかはない。\n
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2016.01.25
平成26(ワ)34145 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年1月14日 東京地方裁判所
CS関連発明について、「注文情報」に該当しないので非侵害と判断されました。被告がアスクルです。
本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の欄には,本件発明の実施形態が記載されているところ(段落【0027】〜【0134】,【図1】〜【図21】),この実施形態においては,「Web−POSクライアント装置」の表示画面に「明細フォーム」(カテゴリ,メーカコード,商品番号,商品名,単価,数量,金額といった注文商品明細が表\示されているもの。【図10】〜【図12】,【図17】〜【図21】。)が表示され,「オーダ・ボタン」のクリックに応答して,「Web−POSサーバ・システム」へ明細フォーム中のカテゴリ,メーカコード等の全フィールドを送信し,「Web−POSサーバ・システム」においてこの明細フォームを受信することとなっているところ(段落【0056】,【0111】〜【0125】,【0127】,【図12】),「オーダ・ボタン」のクリックにより「Web−POSサーバ・システム」が受信するのが「注文情報」であることから(構\成要件F4),上記明細フォームは「注文情報」に相当するので,「注文情報」には商品名,価格等の商品基礎情報が含まれている。また,本件明細書には本件発明の他の実施形態の説明も記載されているが(段落【0134】〜【0139】),いずれも「明細フォーム」を利用するものであり,「注文情報」に商品基礎情報を含まない構成についての記載は見当たらない。\nこれら本件明細書の記載を考慮して「注文情報」の意義を解釈すると,本件発明は,「Web−POSクライアント装置」の表示画面に明細フォームその他商品基礎情報を含む情報を表\示した上で,「オーダ・ボタン」のクリックに応答して,これらの情報を「Web−POSサーバ・システム」に送信するという構成を採用したものと認められる。したがって,「Web−POSクライアント装置」が送信して「Web−POSサーバ・システム」が受信する商品の注文に関する情報にカテゴリ,メーカコード,商品名,価格等の商品基礎情報が含まれていない場合には,構\成要件F4,G及びHの「注文情報」に当たらないと解するのが相当である。
ウ 「注文情報」を上記のように解釈することは,本件特許の出願経過における原告の説明とも一致する。すなわち,原告は,平成23年10月9日付け意見書(乙20)において,引用文献1(乙11)との相違点につき,1)引用文献1における注文情報は購入者ごとに生成される情報であって,この購入者ごとの注文情報は,商品識別情報等を含んだ商品ごとの情報である本件発明の「注文情報」とは異なる(乙20の11〜12頁),2)用文献1には,商品注文明細情報の生成及び表示過程に関する詳細な記載がなく,ユーザが注文した情報に売上管理等に必須となる商品識別情報及びこれに対応する商品基礎情報が含まれていないのに対し,本件発明では「注文情報」に商品識別情報とこれに対応する商品基礎情報が含まれている(同12〜13頁)と説明しており,これら1)及び2)の説明は上記の解釈と整合するということができる。
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2016.01. 6
平成26(ワ)23926 損害賠償 特許権 民事訴訟 平成27年12月11日 東京地方裁判所
ソニーのブルーレイレコーダのお出かけ転送機能\について、侵害か否かが争われました。裁判所は侵害なしと判断しました。
本件明細書等をみると,本件各発明が適用される第1実施形態を説明する図1には,記憶再生装置に当たる「DVDレコーダ1」に「USB I/F」が具備されているものと図示されており,これについて「USBインターフェイス40は,USBポート41を介して接続される外部の機器と各種信号をやり取りするためのインターフェイスである。」(段落【0045】)と説明されている。そして,図1の「DVDレコーダ1」には,上記「USBI/F」とは別に,「無線LANモデム」が図示されており,これについて,「無線LANモデム60は,外部のネットワーク網と接続するためのモデムであ」り,「DVDレコーダ1は,この無線LANモデム60を介してネットワーク網に接続されるとともに,FTPサーバー3(a),及び通信局3(b)を介して,DVDレコーダ4,携帯電話5,及びパーソナルコンピュータ6と通信可能\なように構成されて」おり(段落【0047】),「無線LANモデム60が通信インターフェイスに相当」する(段落【0076】)と説明されている。そして,本件明細書等の図1には,第3の記憶媒体が,\n「DVDレコーダ1」(記憶再生装置)に内蔵された「HDD21〜HDD23」である場合と,無線LANモデム及び外部ネットワークを介して接続される「FTPサーバー3(a)」である場合の両方が図示されているにもかかわらず,通信インターフェイスについては,ネットワーク網に接続する無線LANモデムのみが記載されていること,本件各発明においては,記憶再生装置から動画情報を送信する先の端末が「通信端末」と呼称されており,ネットワーク網を経由した通信機能を有した端末であることが示唆されていると考えられ,ネットワーク網を経由した通信を想定していることがうかがえること,本件明細書等を精査しても,USBインターフェイスが通信インターフェイスに当たる場合があることを示唆する記載がないことなどからすると,本件明細書等は,通信インターフェイスからUSBインターフェイスを除外していると解するのが相当である。したがって,本件各発明における「通信インターフェイス」には,「USBインターフェイス」は含まれないというべきである。
(3) 以上によれば,USBインターフェイスを有しているにすぎない被告製品(イ〜ホ)は,構成要件B1,C1,H1,G2及びH2を充足しない。\n6 争点(1)カ(均等侵害の成否)について
原告の主張する均等侵害は争点(1)エ及びオに関し文言侵害が認められない場合の予備的主張であるところ,前記3及び4のとおり,本件では,その他の構\成要件において文言非充足であるから,原告の主張する均等侵害は理由がない。
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