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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

技術的範囲

令和3(ネ)10058  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 遠隔監視システムについて、均等侵害が第1要件を満たさないと判断した1審の判断が維持されました。

なお,事案に鑑み,念のため,被告製品の均等論の第1要件の充足につい て判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事 項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入 者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知るこ とは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を\nすることができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構\成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監 視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設 の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されること により,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することが できるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなる コンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末で\nも顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,さらに,カメラ\nの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」 に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備 え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるよう にしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発 生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにした ことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。 このような技術的意義に鑑みると,本件発明1の本質的部分は,1)何れの 場所においても顧客が携帯し得るものとして,監視装置からの異常検出によ って監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」 とし,2)「携帯端末」に伝達する画像は,略中央部分の画像領域から構成さ\nれ,3)携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し,その領 域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより,4)表示装置が小\nさい携帯端末でも,顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,\nさらに,携帯端末からの遠隔操作命令により,顧客が参照したい領域を特定 して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。 すなわち,単にセンサの情報伝達の宛先を警備会社の中央コンピュータから 施設の所有者等の携帯端末に切り替えたことのみに重きがあるわけではなく, 何れの場所においても顧客にとって携帯が容易で,操作等が迅速かつ簡便で あるためには表示装置が小さい端末とならざるを得ない面があるところ,そ\nうであっても,外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認するこ とが十分に可能\な構成を有することが本件発明1の本質的部分であるという\nべきである。なお,本件発明2及び3は本件発明1(請求項1)の従属項で あり,また,本件発明5は,本件発明1の遠隔監視方法の発明を監視制御サ ーバに関する発明としたものであるから,これらの発明の本質的部分もこれ に同様である。
これに対し,被告製品は,監視装置からの異常検出によって監視装置によ り撮影された画像データを伝達する端末は,携帯電話のような表示装置が小\nさい端末ではなく,また,端末からの遠隔操作命令により受理された画像の うち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠 隔操作命令を受理し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含ま ないため,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握すること ができ,表示装置が小さい「携帯端末」でも顧客は十\分に認識可能な画像を\n表示することができ,顧客が参照したい領域を特定して「携帯端末」に提示\nすることができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部 からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという本 件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。 したがって,被告製品は, 本件各発明の本質的部分を備えているものと認 めることはできず,被告製品の相違部分は,本件各発明の本質的部分でない ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件各発 明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)21597

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令和3(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。

「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを 意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微 量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相 当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に 収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔 室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材 によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可 能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨 によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう かが問題となり得る。 しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の 外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少 なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の 樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離 という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。 そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される 空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は, 必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】 は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様 の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発 明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か を決定する不可欠の要素ではないと解される。 それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控 訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要 件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通 時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。 そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容 器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての 技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は, それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2) アと同様に解するのが相当である。 そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては, 「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論 の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」 中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収 容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微 量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹 脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。

◆判決本文

1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。

◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨 認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤 に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく 保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏 症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填 し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金 属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという 技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい う効果を奏するようにしたものであるというべきである。 そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要 件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。 この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通 可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0 024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元 素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする 記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また, 後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している 室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。 したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他, 本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見 当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると, 及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を 覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し ないと認められる。 そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の 空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと, 同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n

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平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。

 本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた 第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前 記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ れている。 これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と 第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が 「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立 状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基 台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板 11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること, これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって 基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載 されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲 83)。 さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり, 「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動 便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。 加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと 把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」 とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが 規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等 並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」 に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立 した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主 張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお りである。 このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見 られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角 に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。 次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に 相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に 延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで 基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T 字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第 2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず, 本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1 −1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1 7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については, 前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は, いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって, 本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は 認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10) 事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検 討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24 台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注 して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。 その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井 づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として 「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ (同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である 平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1- 3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら かには争わないから,これを認める。 上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E, 本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜 C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1− 17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10 〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明 1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。 さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート) 製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には 電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製 品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明) は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため, 403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき, LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測 定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万 5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率 が95%であることが示されている。 また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下 「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED 照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環 境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与 えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。 (以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平 成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218), カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全 ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは, 新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。 また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2 99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318, 弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を 継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず, 著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全 光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。 そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1 月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29 7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合 う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。 したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の 構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1 −18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が 認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED 素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製 品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。 しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変 化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全 光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上 に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED 素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x 値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換 に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ きものとまではいえない。 その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及 び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日 の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。 したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並 びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す る。 また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性 により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき, 照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる ものといえる。 そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記 通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被 告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17 及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1 71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上 記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも 同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙 170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1 4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には, いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2 4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至 ったものと認められる。 これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮 に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回 るとは考えがたいことなどを主張する。 しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発 明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について, LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告 測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検 証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。 そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う 前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20 の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから, 法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件 訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本 件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定 値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。 この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間 が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗 剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。 もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万 時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2) につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特 性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配 光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端 部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し, 配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また, クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場 合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1) (乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ 製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな い(乙370)。 これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値 と概ね等しいものと見られる。 したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係 る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく 先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使 し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7 〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係 る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由 があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の 成立が認められない。 以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵 害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ も理由がない。

◆判決本文

◆添付1

◆添付2

◆添付3

◆添付4

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令和3(ネ)10029  特許侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月13日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。

 足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。 これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。 そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠 償請求権を有する。

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令和1(ワ)23407  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月10日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。「調整」の文言を解釈して、被告製品1,2は技術的範囲に属しないと判断されました。

 本件発明の技術的意義や本件発明における調整手段の位置付けについて みると,従来の吊張り装置としては,略円弧状の天井部に沿って設けら れたウインチワイヤーと吊り上げワイヤーとを連結する連結体が,天頂 部との距離に応じてウインチワイヤーに沿って移動するよう構成されて\nいる装置が考えられたが,複数の停止体の設置等の調整作業を天井側で 行わなければならず費用がかかり煩雑である等の問題点があった(段落 【0006】【0008】)ところ,本件発明は,略円弧状の屋内の天 井部に沿ってウインチワイヤーを設け,吊り上げワイヤーを一端側でウ インチワイヤーに連結しその他端側に吊張体を設けるなどの構成をとる\nとともに,天頂部,又は天頂部に最も近接している基準となる吊り上げ ワイヤーのウインチワイヤーとの取付位置と,任意の吊り上げワイヤー のウインチワイヤーとの取付位置との「高さ方向の距離に対応した長さ」 (構成要件C),すなわち,取付位置の高さの差の長さ(以下「本件差\n分」という。)に基づく吊り上げワイヤー等の長さの変更,すなわち調 整を,ネット等の吊張体若しくは吊り上げワイヤーの下端(床面)側又 はその両方に調整手段を設け,あらかじめ行うことにより,上記問題点 を解決するものである(段落【0010】【0025】【0026】 【0045】。前記1(2))。
また,「調整」とは,「1)調子の悪いものに手を加えてととのえること。 2)ある基準に合わせてととのえること。過不足なくすること。3)釣り合 いのとれた状態にすること。折り合いをつけること。」(大辞林第4版) などとされる。 上記のとおりの本件発明の技術的意義,調整手段の意義や,「調整」の 一般的意味からすると,本件発明に係る吊張り装置において吊張体を過 不足なく適切に吊り張りするためには,本件差分が認識された上で,本 件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあら かじめ変更する必要があり,本件発明の「調整手段」は,そのためのも のであって,本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー 等の長さをあらかじめ変更する構成であり,その調整を行うことにより,\n吊張体を過不足なく適切に吊り張りするための手段であると理解するこ とができる。 本件明細書の具体的な実施例についてみても,ネット吊張り装置におい て,天頂部の吊り上げワイヤー(9b)の取付位置と,他の吊り上げワ イヤー(9a)の取付位置との「距離に対応した長さ」であるL1等の長 さ(L)が認識された上で,一対の筒状体(15)を吊り上げワイヤー に挿通し,その一対(2個)の筒状体の間の距離を「距離に対応した長 さ」(L 本件差分)とすることによって,調整を行う調整手段が記載 されており(段落【0036】【0037】【図1】【図4】【図5】 等)ここでは,ネット体を過不足なく適切に吊り張りするため,吊り上 げワイヤーに挿通する一対の筒状体が設けられ,その筒状体の間の距離 を認識された差(L 本件差分)と同じにすることができることが記載 されており,本件差分(L)を基準としてこれに合うように筒状体の間 の距離の長さをあらかじめ変更する構成が調整手段として記載されてい\nる。以上のとおり,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を\n過不足なく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準として これに合うように長さをあらかじめ変更するための手段であると解され る。
なお,吊張体の吊張り装置は,複数の部材を組み合わせて構成され,そ\nこには当然に連結部材や係止部材が含まれ,それらの連結部材や係止部 材において,何らかの長さの変更を行うことができる場合もあり得る。 しかし,本件発明の「調整手段」等の技術的意義は,上記のとおりのも のであり,吊張り装置に何らかの長さ変更を行う構成があったとしても,\n本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあ らかじめ変更するための手段であると認められないものは,本件発明の 「調整手段」とはいえないと解される。仮に,本件発明において,単に 長さを変更する手段のみをもって調整手段に該当すると解するとすれば, 吊張体の施工やメンテナンスに際して吊り上げワイヤー等の長さを変更 するに当たり,他の手段によって,本件差分を基準としてこれに合うよ うにしなければならないことになるが,そのような作業を床面側のみで 行うことが可能であることは本件明細書の記載等によっても明らかでは\nなく,このような構成によっては本件発明の課題を解決することができ\nない。ここで,本件明細書には,吊り上げワイヤーにネット体への係止 体を設けることで,又は,ネット体に吊り上げワイヤーの係止体を設け ることで,吊り上げワイヤーの長さの調整を行うこともできることが記 載されている(段落【0058】)。これまで述べてきたところから, そのような係止体が,認識された本件差分を基準としてこれに合うよう に吊り上げワイヤー等の長さをあらかじめ変更するための手段といえる 場合には,本件発明の「調整手段」といえ,上記記載はその趣旨のもの と理解することができる。それに対し,そのような手段とはいえず,通 常の係止体としての構成,機能\を超える構成,機能\等を有しないものは, これまで述べたところに照らせば,本件発明と関係なく用いられている 係止体であり,本件発明の「調整手段」が有する効果を奏するものでは なく,本件発明の「調整手段」に該当するとは認められない。 他方,被告らは,本件発明の「調整手段」が筒状体など本件明細書に記 載された具体的な実施例に限られる趣旨の主張もするが,本件発明の技 術的範囲が上記の範囲に限定される理由はなく,前記のとおり,本件差 分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあらかじ め変更する構成を備えたものであれば,本件発明の「調整手段」といえ\nる。
・・・・
(3) 被告製品1が本件発明の技術的範囲に属するかについて
原告は,被告製品1において,各吊り上げワイヤーと各バトンを連結する シャックル,リングキャッチ,チェーン(以下,これらを「本件連結材」と いう。)が本件発明の調整手段であると主張する。 ここで,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を過不足な\nく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準としてこれに合うよ うに長さをあらかじめ変更するための手段である(前記(1)イ)。 本件連結材は,ワイヤーとバトンを連結する際に通常用いられる連結材と 認められるところ,それは,単に連結のために通常用いられる複数の構成部\n品から成っているものにすぎず,認識された本件差分を基準としてこれに合 うように長さをあらかじめ変更する構成を有するものであるとは認められず,\nそのような調整作業をするための手段とはいえない。 また,被告製品1において,もともと各吊り上げワイヤーのウインチワイ ヤーへの連結位置から連結材の下端までの長さはほぼ同程度であり(前記(2) イ),天頂部に最も近接した吊り上げワイヤーが取り付けられたバトンが床 面に到達した状態においては,他の各吊り上げワイヤーはたわんだ状態とな るのであって(同エ),本件連結材によって吊り上げワイヤー等の長さの変 更は行っていない(同ウ)。本件連結材による長さの変更が想定されている ことを認めるに足りる証拠もなく,本件連結材は,そもそも長さの変更を行 うための手段ではないともいえる。 したがって,被告製品1の連結材は,構成要件Cの調整手段には該当しな\nい。 以上から,被告製品1は,構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲\nに属しない。

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平成30(ワ)21900  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  東京地方裁判所

東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。

(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29 年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略 ●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略 ●円の経費を要した。 したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消 費税込み)と認めるのが相当である。 イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得 られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10 8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において, 平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。) は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は 約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約 33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2 0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20% の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大 きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整 紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ る。 上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる 空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自 の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原 告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め られる。 したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主 張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商 品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円 (●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。 法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において 侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略● に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その 他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料 (平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した ことが認められる。 そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売 することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの は相当でない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気 を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発 させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け, 一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成 される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。 しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整 する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は, 一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを 求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解 決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記 開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に 位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技 術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが できる周知慣用の技術が存在したものである。 以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義 は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。 なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独 自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風 力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異 なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排 出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。 また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000 8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。 さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ ていたのかは明らかではない。 そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出 口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大 きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選 択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。 また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば, 被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし 42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと 認められる。 さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば, 平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機 能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の 大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が 掲載されていることが認められる。 そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に 高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権 を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被 告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように, 2段階調整型空調服を製造販売している。 また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部 分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。 一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告 及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し ていることが認められる。 そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその 他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者 の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法 102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認 めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購 入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の 代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。 しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の 上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販 売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品 の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。 しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは 拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると, 原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸 引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品 を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。 しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原 告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が 被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す ることはできない。 また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4 6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる ことはなかったということはできない。 したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (3) 小括 ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから, 被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額 は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1 −0.5))と認められる。 イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6 0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

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平成30(ワ)38504  特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日  東京地方裁判所

 薬の特許について、明細書に記載されていたが酸付加塩の具体的態様がクレームアップされていなかったことは均等の第5要件の「特段の事情」に該当すると判断されました。

 これらの記載によれば,本件発明の目的は,各種の痒みを伴う疾患にお ける痒みの治療のために止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体 作動薬を有効成分とする止痒剤を提供することにあるところ,本件明細書 には,まさしくその有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本 件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付 加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその 薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化 合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩, 硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出 願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物 を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効\n成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それに\nもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。 そして,本件発明につき,出願人たる原告の主観的意図いかんにかかわらず, 第三者たる当業者の立場から客観的にその内容を把握できる徴表である本件\n明細書においては,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩という構成\nは,まさしく,各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療のために止痒作用 が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬を有効成分とする止痒剤を提 供するという本件発明の目的を達成する構成として,当該目的と関連する文\n脈において,特許請求の範囲に記載された本件化合物と並んで,明示的,具 体的に記載されているものである。
これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬 理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することが\nできたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものである といえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された\n構成(本件化合物を有効成分とする構\成)を代替すると認識しながらあえて 特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべき\nである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラ フィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と 本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構\成)とが均等な ものといえない特段の事情が存するというべきである。

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令和2(ワ)2956 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  大阪地方裁判所

 均等侵害も第1要件を満たさないとして特許権侵害とはならないと判断されました。

 本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば,本件各 発明の本質的部分については,以下のとおりと認められる。 すなわち,従来,硬貨の表面に描かれた模様は,硬貨を製造するプレス機に設置\nされるプレス金型に予め彫り込まれ,硬貨をプレス及び打ち抜きする際,硬貨の表\ 面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ,プレス金型に対して硬貨の表\面 に浮き出る部分は,平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし,平面彫刻機の ように厚み方向のみ切削する切削工具では,切削した部分及び切削を行わなかった 部分は平面仕上げであり,金属の地肌のままの色合いであるため,放電加工機で不 規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり,切削した部分を 細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし,また,立体彫刻機で人物や動物等立体的 な図形を彫り込み,得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表\現して,硬貨 の装飾効果を高めていた。しかし,これらの方法によっても,図形等の部分を除い た硬貨の地模様に対応する部分は,平面仕上げ,鏡面仕上げ,ナシ地仕上げのいず れかであり変化に乏しく,また,メダル遊戯機で使用される硬貨は,コスト等の兼 ね合いがあり,高価な金属の使用が難しく,表面の輝きが鈍いものが多いという課\n題があった。本件各発明は,こうした課題に対し,硬貨の表面の地模様に立体彫り\nによる変化を起こし,硬貨の輝きを増し,硬貨の装飾価値等を高めることを目的と するものである。具体的には,本件発明1は,切削深さを任意に変えられる同時三 軸制御 NC フライス機を,硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるので\nはなく,金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金\n部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し,硬貨の装飾価値を 高めるものである。本件発明2は,本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き 出すことに加え,同じく同時三軸制御 NC フライス機により地模様以外の模様に対 応する部分をV溝状に切削することで,当該模様部分の表面積の増加等により硬貨\nの表面の輝きを増加させ,硬貨の装飾価値等を高めるものである。\n以上を踏まえると,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,少なくとも 「金型の厚み方向へ切削可能な」切削工具「を用い,金型に対して一定のパターン\nで切削深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を移動\nさせ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き,これを金型表面全体に繰り返\nすことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること」は,従来技術には見ら れない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であ るといえる。さらに,本件発明2においては,これに加え,上記工具「により硬貨 の表面に浮き出る文字,図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること」も,\n特徴的部分すなわち本質的部分ということができる。
(3) 前記のとおり,本件各発明における「金型」(構成要件B,C,E及びF)は\nプレス金型を意味し,また,被告製造方法の構成については当事者間に争いがある\nものの,被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つ の工程を含むこと,被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様\nに対応する部分を切削加工により作製することは,当事者間に争いがない。これを 踏まえると,本件各発明においては,プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具\nを用い,プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと,水平面に対するプレス 金型の切削角度と,を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返\nし模様からなる地模様を形成し,本件発明2においては,これに加えて,上記工具 により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削して\nプレス金型を得るのに対し,被告製造方法においては,被告機械を用いて原金型の 表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し,こう\nして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被 告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると,被告製造方法は, 本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。 したがって,本件各発明と被告製造方法の相違部分は,本件各発明の本質的部分 に当たる。
(4) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件各発明の本質的部分は,金型に対して一定のパター ンで切削の深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を\n移動させ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと,地模様以外の模様 に対応する部分をV溝状に切削することであり,原金型とプレス金型の2つの金型 を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき,そ の構成を特定しなくても,本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが\n当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると,金型につき 原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは,本件各発明の本質的部分に係る相違 部分というべきである。 したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。

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平成30(ワ)8708  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月13日  大阪地方裁判所

本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部 の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹 状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。 前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平 面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接 部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し, かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成 されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態 が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係 にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当 接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間 が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件 発明のせぎり部にはあたらないというべきである。

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平成31(ワ)2675  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月18日  東京地方裁判所

 吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。

 以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要 者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹 矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購 入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は 令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理 由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に 向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹 矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告 製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として 令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合 で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

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平成30(ワ)19441  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月28日  東京地方裁判所

 被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n

 本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機 構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。 原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ バー穴が「排出部」であると主張する。 原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3 −2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2, 2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1, 被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1− 2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型 ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃 焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。 ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう, 側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された 空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前 記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察 できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には, 作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受 けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動 部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側 のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証 拠はない。 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ) そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影 響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも, ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に 上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最 終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の 一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却 に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ, 被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器, ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部, ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認 めるに足りない。

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平成31(ワ)3273  差止請求権不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月25日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について大阪地裁26部は均等侵害を認めました。問題となった構成は「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」です。この構\成は審査段階で補正で追加されたものです。私の記憶ではCS関連発明でかつ補正した要件について均等を認めたのは初事例と思います。

 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分\nを削除しつつ,組画の表示を構\成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構\成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の\nは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない\nなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手\n段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す\nる関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当\n初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段\nが第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,\nその表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方\n法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外\nしているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表\示する構成を一般的\nに除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する\n画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ\nの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの\n(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を 選択する構成を意識的に除外する旨を表\示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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平成29(ワ)10716  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和3年2月18日  大阪地方裁判所

 特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。

 消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財 産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金 を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察 される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。 適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%) によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費 税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵 害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを 他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡 等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害 が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行 為時であると解される。 そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特 許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要 するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止 並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等 が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である 本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終 的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施 主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施 することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。 しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の 選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の 効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得 ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手 摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側 部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得 るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取 り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客 誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって はこれを考慮に入れるべきである。 もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場 は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る (乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等 による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。 他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり, それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減 という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4 2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の 新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要 する例は,規模的にかなり少ないと推察される。 さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計 できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法 をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要 がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。 加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス 板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減 に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について 証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について 証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について 証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他 原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。

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令和1(ネ)10074  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月10日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n

 前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において, 同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」 (広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する 広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。 乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共 通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・ クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の 効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効 力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため, 乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ− ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受 信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト (広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア (イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ) b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置 情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し ないようにすればよいことは,明らかである。 したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。 そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻 った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同 じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ −ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到 することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一 致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し, 可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回 数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限 するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事 由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。 しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日) には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件 特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は, 広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致 する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して 広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0 017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた 位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の 繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存 在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広 告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が 排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制 限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事 由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。

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1審はこちら。

◆平成30(ワ)7123

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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令和1(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。

 イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について 控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の 内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも のとはいえないと主張する。 しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特 定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ, 本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側 (煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の 10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸 より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突 についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日 に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の 装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出 し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複 雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙 突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明 の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業 やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき であるから,控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)9909

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令和2(ネ)10036  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。

(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の 範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施 例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記 券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前 記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席 のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段 によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」 が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券 情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情 報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理 地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計 された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される 指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該 作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善 の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」 の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従 来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座 席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定 席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載 があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負 担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに 基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通 信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指 摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発 明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取 られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力 して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前 記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上 記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線 の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】 〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載 されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として, 「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され, 通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管 理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機 で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場 合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情 報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席 の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明 の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」 は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」 が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の 「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は, 控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が, 上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告 各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から 一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴 人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示 するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1 は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)31428

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令和2(ネ)10003  特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。

  特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は, 携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望 する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって, RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を 受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結 果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面 ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを 解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件 訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解 除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に 「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手 段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという 比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は, 画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を 介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許 可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御 手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて 検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく, 公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない ことなどからも明らかである。 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合 には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行 うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが 可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解 除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札 機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可 能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを 解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保 護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目 的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該 情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを 提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130 とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合 であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理 できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起 点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作 状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」 というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後, 何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス 許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続 してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので あり,この点においても違いが存するものというべきである。 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため, 被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被 告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする 必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異 なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許 可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除 制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使 用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。 しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲 覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで 被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。 被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック 解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は 限定的なものにとどまる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)39914

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